悪鬼滅殺(2)◆ZbV3TMNKJw
―――水の呼吸、漆の型『雫波紋突き』
炭治郎の疾い突きが佐藤の左肩を穿つ。
痛む己の肩を無視し、右手で炭治郎の顔面を掴もうとする。
痛む己の肩を無視し、右手で炭治郎の顔面を掴もうとする。
炭治郎はそれを頭突きで迎撃。佐藤の右手はグシャリと骨が折れ、鮮血が噴き出した。
「うおおおおお!」
刺さった刀に力を込めて切り上げ、佐藤の肩口を切り飛ばす。
肩が裂け、骨と半分ほどの肉で繋がる佐藤の腕は、だらりと垂れさがった。
肩が裂け、骨と半分ほどの肉で繋がる佐藤の腕は、だらりと垂れさがった。
(よし。これであいつの戦力は...!)
微かに安堵した炭治郎の顔は、すぐに歪められることになる。
佐藤が蹴りを放ち、炭治郎を遠ざけた瞬間。
佐藤が蹴りを放ち、炭治郎を遠ざけた瞬間。
パアンッ。
佐藤は一寸の間もなくガトリングで己の頭部を破壊した。
「ッ...!」
「狙いが外れたかな?」
「狙いが外れたかな?」
蘇生するなり笑顔で投げかける佐藤に、炭治郎は歯を噛み締める。
佐藤の再生能力が、鬼や雅のソレではなく、死んでから発動するのを、雅とのやり取りで明と共に認識していた。
その為、まずは佐藤を殺さず無力化し、それから禁止エリアに運ぶ、というのが明が授けた策だった。
だが、こうも容易く自殺されては策に至ることすらできない。
佐藤の再生能力が、鬼や雅のソレではなく、死んでから発動するのを、雅とのやり取りで明と共に認識していた。
その為、まずは佐藤を殺さず無力化し、それから禁止エリアに運ぶ、というのが明が授けた策だった。
だが、こうも容易く自殺されては策に至ることすらできない。
(初めてだ、敵を斬っちゃいけない戦いなんて)
鬼狩りの戦いは如何に相手を素早く息の根を止めるかの勝負だ。
鬼は人間よりも身体能力が高く体力もある。ジリジリと粘られ続ければ、先に潰れるのは人間だ。
その為、最適な効率で鬼の首を斬る力が求められる。
鬼は人間よりも身体能力が高く体力もある。ジリジリと粘られ続ければ、先に潰れるのは人間だ。
その為、最適な効率で鬼の首を斬る力が求められる。
佐藤の場合はその逆。殺せばすべて戻ってしまう為、殺さず制する技量が必要となる。
しかも、相手は鬼ほどの耐久力が無く、ライダーのような装甲もない、あくまでも人間。
下手にヒノカミ神楽から為る大技を放てば、それだけでショック死する可能性も高い。
加えて、いまのやり取りで佐藤の自殺も防がなければならないという事実も判明した。
しかも、相手は鬼ほどの耐久力が無く、ライダーのような装甲もない、あくまでも人間。
下手にヒノカミ神楽から為る大技を放てば、それだけでショック死する可能性も高い。
加えて、いまのやり取りで佐藤の自殺も防がなければならないという事実も判明した。
ならば手加減して戦えばいいのか、という話でもない。
「えっ、わあっ!?」
炭治郎の踏み込みが浅くなった隙を突き、炭治郎の袖と襟を掴み投げ飛ばす。
不格好な体勢で着地した炭治郎に向けられる、ガトリングの銃身。
咄嗟に地面を蹴り、降り注ぐ弾丸の雨を躱す。
一旦、物陰に身を潜め、呼吸を整える。
不格好な体勢で着地した炭治郎に向けられる、ガトリングの銃身。
咄嗟に地面を蹴り、降り注ぐ弾丸の雨を躱す。
一旦、物陰に身を潜め、呼吸を整える。
(くそっ、ちょっと隙を見せればこれだ...!厄介どころじゃない!)
対人においての戦闘スキルは間違いなく佐藤に分がある。
加えてあのガトリング銃。
格闘術に遠距離戦、そのどちらにおいても炭治郎が勝っているものはない。
だが、炭治郎にできるのは、接近しての剣術だけだ。
加えてあのガトリング銃。
格闘術に遠距離戦、そのどちらにおいても炭治郎が勝っているものはない。
だが、炭治郎にできるのは、接近しての剣術だけだ。
(せめてあの銃だけでもどうにかできれば...!)
ガトリング銃さえ破壊できれば佐藤の戦力は半減する。
そうすれば、万が一自分が倒れようとも明が繋いでくれるはずだ。
そうすれば、万が一自分が倒れようとも明が繋いでくれるはずだ。
☆
ボンッ。ボンッ。ボボンッ。
明が剣を振るうたびに爆発が起こり、辺りを煙に包んでいく。
「ハッ、そんな派手な技、今までよくもまあ隠してきたものだ」
「お前を殺すためならなんだってやってやるさ」
「お前を殺すためならなんだってやってやるさ」
斬撃だけでは雅への効果が薄いのは明も理解している。
その為、隠し玉としてこの爆発の機能を隠してきたのだが、しかし、先ほど雅と佐藤を分断する為に披露してしまったため、明は惜しみなく爆発機能を使用していた。
その為、隠し玉としてこの爆発の機能を隠してきたのだが、しかし、先ほど雅と佐藤を分断する為に披露してしまったため、明は惜しみなく爆発機能を使用していた。
「だが明よ。私をどう殺すつもりだ?まさかこの程度の爆発で私が死ぬと思っているのではあるまいな」
それは明も理解している。
この爆発はあくまでも斬撃の付加であり、錯乱・追加ダメージは期待できるものの、使用者への負担が無い程度に威力が抑えられている。
よしんぼこの爆発が直撃したとて、それで雅の再生能力を上回れるとは到底思えない。
爆発による首輪の誘爆も、首輪の無い雅には期待できない。
この爆発はあくまでも斬撃の付加であり、錯乱・追加ダメージは期待できるものの、使用者への負担が無い程度に威力が抑えられている。
よしんぼこの爆発が直撃したとて、それで雅の再生能力を上回れるとは到底思えない。
爆発による首輪の誘爆も、首輪の無い雅には期待できない。
(だが気が付いているか?雅、お前の位置が徐々に死に向かっていることに)
明の狙いは、雅を禁止エリアに侵入させること。如何に体内に首輪があるとしても、禁止エリアに侵入すれば爆発するのは同じはずだ。
無論、雅も馬鹿ではないためただ誘導しただけでは気づかれてしまう。
その為のこの爆発だ。
これで視界を制限し、爆音で周囲から拾える音すらもあやふやにし、自分の場所を不明瞭にする。
そしていざ迫った時に、雅を切り刻み、禁止エリアに放り込む。それが明の狙いだった。
無論、雅も馬鹿ではないためただ誘導しただけでは気づかれてしまう。
その為のこの爆発だ。
これで視界を制限し、爆音で周囲から拾える音すらもあやふやにし、自分の場所を不明瞭にする。
そしていざ迫った時に、雅を切り刻み、禁止エリアに放り込む。それが明の狙いだった。
(お前の位置はお前自身よりも俺の方が理解している。このまま押し込んでいけば―――)
「どうした明。なにか企んでいるのか?」
「どうした明。なにか企んでいるのか?」
図星を突かれ、ドキリ、と明の心臓が跳ねる。
その隙を突かれ、雅の前蹴りが明の腹部を捉え吹き飛ばした。
その隙を突かれ、雅の前蹴りが明の腹部を捉え吹き飛ばした。
「がはッ!」
肺の空気を絞り出されるほどの威力のソレにうめきをあげつつも、ふんばり転倒を抑え後退に留める。
「ハッ。まあなにを企んでいようが私には通用せんがな」
(バレてはいなかったか...)
(バレてはいなかったか...)
ホッ、と内心で安堵し、チラ、と炭治郎たちの方へと視線を向ける。
やはりというべきか、状況は芳しくなさそうだ。
無理もない。相手を殺せないという縛りがある上でのガトリング銃に格闘術。それを乗り越えたうえでようやく王手だ。
やはりというべきか、状況は芳しくなさそうだ。
無理もない。相手を殺せないという縛りがある上でのガトリング銃に格闘術。それを乗り越えたうえでようやく王手だ。
雅を巻き込んで三ツ巴にすべきだったかと考えるも否定する。
雅と佐藤が手を組んでいない現状は明たちにとっても幸いだった。この二人が手を組めば明たちに勝ち目はない。
だが、雅の場合は相手の意思に関係なく己の配下における術がある。
吸血鬼感染と相手の脳波を操り意思を操作するサイコジャック。
この二つを使われ佐藤が雅の配下になるのが最悪のパターンだ。それだけは避けねばならなかった。
雅と佐藤が手を組んでいない現状は明たちにとっても幸いだった。この二人が手を組めば明たちに勝ち目はない。
だが、雅の場合は相手の意思に関係なく己の配下における術がある。
吸血鬼感染と相手の脳波を操り意思を操作するサイコジャック。
この二つを使われ佐藤が雅の配下になるのが最悪のパターンだ。それだけは避けねばならなかった。
(待ってろ炭治郎、上杉。俺の方はもうすぐだ。もし生きていられたら必ずそっちに向かう。それまで粘ってくれ)
「......」
「......」
明の視線を見ていた雅はブーメランを扇のように構え口元を隠す。
「...やはりだ。明、お前はいま、昔のような顔をしている」
「なに?」
「かつて私が教えてやった絶望を忘れたか?それとも、この地で失った仲間がお前を過去に引き戻したか?」
「なに?」
「かつて私が教えてやった絶望を忘れたか?それとも、この地で失った仲間がお前を過去に引き戻したか?」
かつて雅に植え付けられた絶望。それは、友を殺し、肉親を殺し、友を殺され、師を殺され。
亮介や大勢の島の仲間たちを失い、それでもなお雅の本土出航を止められなかった敗北の記憶。
それ以来、明はなるべく人を寄せ付けないように振舞っていた。
守るべきものを増やすのを恐れ、また失うのを恐れ。独りで雅を殺し片をつけようと躍起になっていた。
亮介や大勢の島の仲間たちを失い、それでもなお雅の本土出航を止められなかった敗北の記憶。
それ以来、明はなるべく人を寄せ付けないように振舞っていた。
守るべきものを増やすのを恐れ、また失うのを恐れ。独りで雅を殺し片をつけようと躍起になっていた。
「ほざくな、雅。お前に教えられたことなどなにもない」
だが、明の周りには多くの人が集まってきた。
自分を恐れながらも死ぬなと懇願してくれた男がいた。
吸血鬼を恐れながらも、子供の為に強くなりたいと立ち上がり、勇敢に戦い抜いた最高の父親がいた。
その子供は、明を特別視せず、友達になると言ってくれた。
自分よりも圧倒的に非力ながらも、お前ひとりに押し付けてたまるかと隣に立ってくれた男がいた。
縋りつくだけでなく、共に戦い抜き、また会おうと約束を交わした者たちがいた。
吸血鬼に嬲られ亡者と化しても息子を想い続けた母親がいた。
吸血鬼を恐れながらも、子供の為に強くなりたいと立ち上がり、勇敢に戦い抜いた最高の父親がいた。
その子供は、明を特別視せず、友達になると言ってくれた。
自分よりも圧倒的に非力ながらも、お前ひとりに押し付けてたまるかと隣に立ってくれた男がいた。
縋りつくだけでなく、共に戦い抜き、また会おうと約束を交わした者たちがいた。
吸血鬼に嬲られ亡者と化しても息子を想い続けた母親がいた。
「俺を支えてくれるのは俺個人の復讐心だけじゃない。俺は色んな奴らの想いに支えられてきた」
生意気な口をききながらも明を助け、いつの間にか友達になっていた強い少年がいた。
粗暴ながらも性根は優しく、共に肩を並べる大男がいた。
粗暴ながらも性根は優しく、共に肩を並べる大男がいた。
「俺がお前を殺す理由は変わらないんだよ、雅」
気に入らないが己の弱さを見せつけてくる過負荷、この状況においても他者への思いやりを忘れぬ青年、そして、自分と同じく鬼を殺す為に戦う少年。
結局、どこにいっても明は独りになんてなれやしなかった。
だから。
「俺と関わってくれたあいつらの想いに報いる為に、俺はお前を殺したいんだ」
「くだらん。実にくだらないよ明」
「くだらん。実にくだらないよ明」
そう語る明を、雅は無情に吐き捨てる。
雅は集団の王であり、手下には比較的寛容ではあるが、そこに彼が信頼をおくことはない。
いくら自分が慕われようとも、見込みがあった上で吸血鬼化させた者であっても、その喪失に悲しむことも憤ることもない。
彼にとって部下など遊びの駒でしかないからだ。
だから、そんなものを大切にしようとする明の考えは、雅にとっては本当に「くだらない」ものなのだ。
雅は集団の王であり、手下には比較的寛容ではあるが、そこに彼が信頼をおくことはない。
いくら自分が慕われようとも、見込みがあった上で吸血鬼化させた者であっても、その喪失に悲しむことも憤ることもない。
彼にとって部下など遊びの駒でしかないからだ。
だから、そんなものを大切にしようとする明の考えは、雅にとっては本当に「くだらない」ものなのだ。
「まあ、お前が私を楽しませてくれるのならどうでもいいことだがな...フンッ」
言うが早いか、雅はブーメランを明めがけて投擲する。
無論、いくら高速とはいえ正面から飛来するそれをやすやすと食らう明ではない。
無論、いくら高速とはいえ正面から飛来するそれをやすやすと食らう明ではない。
「ハッ!」
気合一徹、刀を振り下ろしブーメランを弾き返す。
バフッ
「!!?」
同時に、ブーメランから砂があふれ、明の目を潰す。
砂袋だ。先ほど、構えた際にさり気なく即席の砂袋を着けていたのだ。
砂袋だ。先ほど、構えた際にさり気なく即席の砂袋を着けていたのだ。
「テメェ雅、ふざけやがって!」
明は激昂しつつも、耳を済ませることに集中する。
目を拭っている暇はない。まず間違いなく雅は追撃を仕掛けてくる。
その予感は当たっていて。
目を拭っている暇はない。まず間違いなく雅は追撃を仕掛けてくる。
その予感は当たっていて。
―――ヒュゥゥ
(来たっ!)
風を切る音を頼りに、明は再び投擲されたブーメランを察知し、身を屈めて躱す。
本来ならばはじき落としたいところだが、目が見えない以上、正確に刃を合わせるのは難しい為、躱すのを余儀なくされた。
本来ならばはじき落としたいところだが、目が見えない以上、正確に刃を合わせるのは難しい為、躱すのを余儀なくされた。
(よしっ、躱せた!)
だが、油断は禁物だ。ブーメランは旋回して戻ってくる。いまここで、気配頼りに雅に斬りかかればその追撃を受けてしまう。
―――ヒュゥゥ
(来るっ!)
背後から迫るブーメランを再び躱す明。
それを見た雅は、嗤った。
それを見た雅は、嗤った。
☆
「佐藤!今からその銃を破壊する!」
炭治郎が物陰から姿を現し、声を張り上げる。
姿を現す前に囮でも使うだろうと考えていた佐藤は虚を突かれ、思考に一瞬空白が生まれた。
炭治郎がそのような思惑があったわけではなく、ただ、彼が嘘をつけず不意打ちができない性格であるが故に生まれた偶然だ。
その隙が、佐藤の照準をわずかにズラし、炭治郎が呼吸を整える時間を生んだ。
姿を現す前に囮でも使うだろうと考えていた佐藤は虚を突かれ、思考に一瞬空白が生まれた。
炭治郎がそのような思惑があったわけではなく、ただ、彼が嘘をつけず不意打ちができない性格であるが故に生まれた偶然だ。
その隙が、佐藤の照準をわずかにズラし、炭治郎が呼吸を整える時間を生んだ。
炭治郎とて無策で出てきた訳ではない。
彼が選んだ手段は、弾丸が放たれるよりも早く距離を詰めること。
その脳内に浮かび上がるのは、己の知る中で最速の剣士。
彼が選んだ手段は、弾丸が放たれるよりも早く距離を詰めること。
その脳内に浮かび上がるのは、己の知る中で最速の剣士。
(善逸、俺に力を貸してくれ!!)
――シ、ィ、ィ、ィ
雷のような音が喉から漏れる。
かつて、上弦の肆・半天狗に対して使ったように、雷の呼吸・壱の型『霹靂一閃』で飛び込むつもりだ。
無論、にわか仕込みであり、本来の使い手である善逸ほどの速度では飛び込めない。
だが、それでも佐藤の『構えて』『狙い』『引き金を引く』までの動作を終えるまでに距離を詰めるには十分だ。
かつて、上弦の肆・半天狗に対して使ったように、雷の呼吸・壱の型『霹靂一閃』で飛び込むつもりだ。
無論、にわか仕込みであり、本来の使い手である善逸ほどの速度では飛び込めない。
だが、それでも佐藤の『構えて』『狙い』『引き金を引く』までの動作を終えるまでに距離を詰めるには十分だ。
―――ヒノカミ神楽。
距離を詰めて終わりではない。そこから放たれるは、炭治郎の持つ最大火力の技。
―――円舞一閃。
上弦の鬼の首さえ斬って見せたその技に耐えきれるものはそうはいない。
佐藤が盾のようにかざしたガトリング銃は、僅かに拮抗した後、佐藤の手から離れると共に真っ二つに切り裂かれた。
佐藤が盾のようにかざしたガトリング銃は、僅かに拮抗した後、佐藤の手から離れると共に真っ二つに切り裂かれた。
同時に、炭治郎の肺が圧迫されるかのように締め付けられる。
ヒノカミ神楽と雷の呼吸の合わせ技という無茶の代償だ。
戦闘可能な時間はもはやほとんどない。
それでも終わりは許されない。まだ銃を斬っただけだ。
ヒノカミ神楽と雷の呼吸の合わせ技という無茶の代償だ。
戦闘可能な時間はもはやほとんどない。
それでも終わりは許されない。まだ銃を斬っただけだ。
(このまま攻め立てる...!)
ガトリング銃から佐藤へと視線を移す炭治郎。
その視界に入るのは、ナイフを握りしめた佐藤。
その視界に入るのは、ナイフを握りしめた佐藤。
「―――ッ!」
ガトリング銃に対してのナイフ。
比較すればかなりちっぽけな武器に思えるだろう。
だが、この局面においては、素手だった佐藤が炭治郎を一撃で殺せる武器の存在が戦局を左右してしまう。
比較すればかなりちっぽけな武器に思えるだろう。
だが、この局面においては、素手だった佐藤が炭治郎を一撃で殺せる武器の存在が戦局を左右してしまう。
疑いをかけるべきだった。風太郎がつけられた傷の中に、なぜ切り傷があったのか。
その存在を失念していたのは、佐藤が一切ナイフを取り出そうともしなかったからだ。
迫る刀はガトリングで受け、吸血鬼にも素手で立ち向かい。
そんな、ナイフを取り出すべきであろう場面で存在すら匂わせないことで、炭治郎の思考にガトリング以外の武器はないと植え付けた。
その存在を失念していたのは、佐藤が一切ナイフを取り出そうともしなかったからだ。
迫る刀はガトリングで受け、吸血鬼にも素手で立ち向かい。
そんな、ナイフを取り出すべきであろう場面で存在すら匂わせないことで、炭治郎の思考にガトリング以外の武器はないと植え付けた。
迫るナイフの刃。
炭治郎はまだ動かせる頭部に賭け、その石頭をもってナイフの軌道をズラそうとする。
―――ドッ
背中に走る灼熱の感覚と共に、佐藤のナイフは炭治郎の右目を突きさした。
「えっ」
その言葉を漏らしたのは、目を刺された炭治郎ではなく、予想に反して炭治郎の目を見事に突き刺した佐藤。
炭治郎が前のめりに倒れ、露わになる背中に刺さったブーメラン。
炭治郎が前のめりに倒れ、露わになる背中に刺さったブーメラン。
なぜこんなものが彼の背に。それを理解し、顔を上げた彼の視界に広がるのは、白のツララが立ち並んだ、赤と黒の入り混じった洞窟。そして。
ガブッ。
バリバリ。ボリボリボリ。
☆
雅の気配が遠ざかった。
ブーメランが迫る気配もなく、これを好機と捉えた明は目を拭い視界を晴らす。
だが、眼前に奴はおらず。
ブーメランが迫る気配もなく、これを好機と捉えた明は目を拭い視界を晴らす。
だが、眼前に奴はおらず。
(どこだ。どこだ雅!?)
キョロキョロ、と辺りを見回し、見つけた。
ブーメランを背中に突き立てられ、血だまりに沈む炭治郎。
ブーメランを背中に突き立てられ、血だまりに沈む炭治郎。
その傍で、大口を開けて佐藤を身体ごとをかみ砕いていく雅の姿を。
「ハッ。亜人だったか。悪くない味だ」
肉片の一つも余すことなく食した雅は、ご満悦な表情で感想を漏らした。
「て...テメェ、雅...!」
明の手がわなわなと震えだす。
なぜ雅があんな小細工を仕掛けたのかを理解する。
明の目を潰すことで炭治郎たちへの干渉を防ぎ、確実に二人を殺すためだったのだ。
なぜ雅があんな小細工を仕掛けたのかを理解する。
明の目を潰すことで炭治郎たちへの干渉を防ぎ、確実に二人を殺すためだったのだ。
怒りと悲しみの入り混じる明の表情を見て、雅は愉悦に顔を歪ませる。
雅は好戦的ではあるが、戦闘狂ではない。
強力な獲物の存在を喜ぶのは、そんな強者が絶望する顔を見る為であり、戦闘などはその趣味の一環でしかない。
故に、正々堂々とした勝負など眼中になく。敵への嫌がらせの為には手段を択ばず。
嘘をつけず不意をつけない正直な少年には不意打ちで応え。戦闘の刺激でしか満たされぬ者には戦闘すらなく敗北を与え。
仲間との繋がりを重んじる者ならば眼前で仲間を傷つけ応える。
それが雅という男の性。吸血鬼の王たる証だ。
強力な獲物の存在を喜ぶのは、そんな強者が絶望する顔を見る為であり、戦闘などはその趣味の一環でしかない。
故に、正々堂々とした勝負など眼中になく。敵への嫌がらせの為には手段を択ばず。
嘘をつけず不意をつけない正直な少年には不意打ちで応え。戦闘の刺激でしか満たされぬ者には戦闘すらなく敗北を与え。
仲間との繋がりを重んじる者ならば眼前で仲間を傷つけ応える。
それが雅という男の性。吸血鬼の王たる証だ。
「そうだ明。その顔が見たかった。希望があると信じ、それを絶望に塗り替えられたその顔...たまらなく愛おしいぞ、明!」
腹部に手を当て、明を指さしケラケラと嗤い声をあげる。
「あまりにも哀れで腹がよじれそうだ!!」
ボコォ。
雅の腹から、腕が突き出した。
「なっ、は、ハガアアアアァァァ!?」
驚く間もなく、雅の身体から四肢が飛び出し、最後には頭部すら砕け散る。
まるで昆虫の脱皮のように。
雅の身体を破壊しながら、佐藤は血と臓物に塗れた身体でこの世に再臨した。
雅の身体を破壊しながら、佐藤は血と臓物に塗れた身体でこの世に再臨した。
「木材破砕機で身体を潰したことはあるけど、さすがに丸ごと食べられたのは初めての体験だったなぁ」
雅が佐藤を食ったと思ったら、その佐藤は雅の身体を食い破って復活した。
如何に彼岸島で奇天烈な体験を多くしてきた明ですら、頭がどうにかなりそうだった。
如何に彼岸島で奇天烈な体験を多くしてきた明ですら、頭がどうにかなりそうだった。
「......」
血だまりに沈む炭治郎を見下ろしながら、佐藤はぼやく。
「う~ん、これはリベンジ成功と言っていいのかな?彼が邪魔しなかったらどうなってたかわからないし」
数秒だけ炭治郎を見つめるも、すぐに切り替え明へと振り返る。
「とりあえずコンティニューの続きといこうかな、最後のお侍さん」
「くっ...!」
「くっ...!」
明は迎え撃つ為に刀を構えるも、その心内には絶望が芽生えつつあった。
この世に完全な生物などいない。雅ですら、501ワクチンという弱点があるし、流石に肉体がなくなれば再生できるとは思えない。
だがこいつはなんだ。
切り刻まれても、頭を失っても、全身を焼かれても、身体ごと喰われても蘇る。
どうすればこんな化け物を倒せる。どうすれば、自分はこいつに勝てる。
この世に完全な生物などいない。雅ですら、501ワクチンという弱点があるし、流石に肉体がなくなれば再生できるとは思えない。
だがこいつはなんだ。
切り刻まれても、頭を失っても、全身を焼かれても、身体ごと喰われても蘇る。
どうすればこんな化け物を倒せる。どうすれば、自分はこいつに勝てる。
「さあ、今度こそ勝たせてもらうよ」
「いいや終わりだ。貴様はここで死ぬ」
―――ガクリ。
佐藤の膝が崩れ落ち、身体が震え始める。
「あれぇ?」
佐藤もまた、己の異変を自覚する。
再生は完璧だ。怪我はひとつもなく、疲労もほとんどない。
だというのに、寒気がする。全身が震えて力が入らない。
再生は完璧だ。怪我はひとつもなく、疲労もほとんどない。
だというのに、寒気がする。全身が震えて力が入らない。
「お前の再生能力は死んでから始まるのだろう?」
頭上から言葉が投げかけられたかと思えば、シャッ、と一筋の閃が走り、佐藤の首と胴体が泣き別れる。
ゴロリ、と地面に転がる佐藤の生首。
その首を持ち上げるのは、内臓も血も零れ落ちながらも、身体の原型だけは戻りつつある雅。
ゴロリ、と地面に転がる佐藤の生首。
その首を持ち上げるのは、内臓も血も零れ落ちながらも、身体の原型だけは戻りつつある雅。
「私の血に感染したものは一度仮死状態になってから吸血鬼となる。いまのお前はその経過の中にあるのだよ」
「なるほどね」
「さすがの私も先ほどのは死ぬと思ったぞ...さらばだ、亜人よ」
「なるほどね」
「さすがの私も先ほどのは死ぬと思ったぞ...さらばだ、亜人よ」
生首から手を離し、雅は佐藤の生首をサッカーボールのように彼方へと蹴り飛ばした。
☆
『警告します』
首輪からそんな音が佐藤の耳に届く。
「ああ、今度はダメみたいだね」
全てを悟った佐藤は虚空に向けてそう呟いた。
彼は一度死に、身体は既に再生を終えていた。にも関わらず、再び力が抜け、こうして痙攣と共に倒れ伏している。
亜人は、蘇生する際に身体に有害なものを分解し無害にすることができる。その為、完全に吸血鬼化する前に、身体の中の雅の血は分解されていた。
そう。身体の中にあるものは、だ。未だ、佐藤の顔に付着していた血や臓物の痕は対象外である。
亜人は、蘇生する際に身体に有害なものを分解し無害にすることができる。その為、完全に吸血鬼化する前に、身体の中の雅の血は分解されていた。
そう。身体の中にあるものは、だ。未だ、佐藤の顔に付着していた血や臓物の痕は対象外である。
首を蹴り飛ばされ、蘇生し、禁止エリアから離れる前に、雅の血は再び佐藤の身体を蝕んだのだ。
「まだ残ってた身体じゃなくてこっちが再生するのは意外だったなぁ」
亜人は、部位に限らず残った面積が広い場所から再生する特性がある。
その為、本来ならばこちらの頭部ではなく、再生するのは雅のもとにある身体の方だ。
だが、再生したのはこちらの首。すなわち、首輪の着いている部位だ。
BBがどうやってそんな調整をしたかはわからないが、参加者である証が首輪だと考えればまあそうだろうなと思うしかなかった。
その為、本来ならばこちらの頭部ではなく、再生するのは雅のもとにある身体の方だ。
だが、再生したのはこちらの首。すなわち、首輪の着いている部位だ。
BBがどうやってそんな調整をしたかはわからないが、参加者である証が首輪だと考えればまあそうだろうなと思うしかなかった。
「やめとくべきだったかな」
思えば、自分の飽きっぽい性分の割にはよくもまあそのままリベンジに迎えたものだ。
侍相手は飽きていたはずだ。
普段ならリベンジなど後回しにして、他の参加者たちと目いっぱい遊んでからにしたはずだ。
だが、なんの気まぐれか、IBMが使えず、ロクな装備もないまま舞い戻ってしまった。
普段の自分からすれば、少々不思議な行動だ。
侍相手は飽きていたはずだ。
普段ならリベンジなど後回しにして、他の参加者たちと目いっぱい遊んでからにしたはずだ。
だが、なんの気まぐれか、IBMが使えず、ロクな装備もないまま舞い戻ってしまった。
普段の自分からすれば、少々不思議な行動だ。
「後悔とかはないんだけどね」
佐藤には感情というものがない。
勝敗にも頓着なく、死と隣り合わせのスリルだけが彼に生きている実感を与えてきた。
だから、老衰なんかで死ぬよりも、最期まで戦い抜けたのは彼にとっても幸運なことだ。
勝敗にも頓着なく、死と隣り合わせのスリルだけが彼に生きている実感を与えてきた。
だから、老衰なんかで死ぬよりも、最期まで戦い抜けたのは彼にとっても幸運なことだ。
「ただ」
最期に浮かぶのは、この会場でただ一人の、兼ねてからの宿敵(あそびあいて)ではなく。自分を殺した雅でもなく。
自分が手を出すまでもなく崩れ落ちた炭治郎。
あと一歩で勝利できたはずの、最後の勝負。
自分が手を出すまでもなく崩れ落ちた炭治郎。
あと一歩で勝利できたはずの、最後の勝負。
彼は知らない。彼も、戦った炭治郎達も、誰も知らない。
佐藤がすぐにリベンジに戻ったのは、球磨川禊が最期に遺した脚本作り(ブックメイカー)の影響があったことを。
その植え付けられた過負荷は、お節介にも彼に『悔しい』という感情を付加していたことを。
佐藤がすぐにリベンジに戻ったのは、球磨川禊が最期に遺した脚本作り(ブックメイカー)の影響があったことを。
その植え付けられた過負荷は、お節介にも彼に『悔しい』という感情を付加していたことを。
「やっぱり勝ちたかったかな」
その過負荷の言葉を最後に、誰にも知られることなく、佐藤の首輪は爆発した。
☆
「さてと」
くるり、と振り返る雅の視線の先には、日輪刀を振りかぶり駆けてくる明。
その明目掛けて、雅は足元の炭治郎を蹴り飛ばしぶつけた。
その明目掛けて、雅は足元の炭治郎を蹴り飛ばしぶつけた。
「ぐあっ!」
「見どころのある小僧ではあったが、そうなってはもうお終いだな」
「見どころのある小僧ではあったが、そうなってはもうお終いだな」
投げかけられる炭治郎への侮辱を噛み潰し、雅を睨みつつも、明は風太郎たちを隠している物陰へと炭治郎を運ぶ。
「あ、明さ...ッ!」
運び込まれた炭治郎を見て、風太郎は絶句する。
「ぁ...ああ...!」
「上杉、炭治郎を頼む。右目のナイフは下手に抜くな、失血死するかもしれん」
「上杉、炭治郎を頼む。右目のナイフは下手に抜くな、失血死するかもしれん」
明の言葉を受け、風太郎は慌てて炭治郎の鼓動を確認する。
微かだが、まだ動いている。だが、このままではもうじき...
微かだが、まだ動いている。だが、このままではもうじき...
(俺が諦めてどうする!戦ってない、俺が!)
痛む身体にムチ打ち、風太郎は明から渡された炭治郎のデイバックを頼りに、炭治郎の応急処置に努める。
(すまない、炭治郎。これは俺のミスだ。俺が無理やりにでも雅に攻撃していれば...!)
内心で炭治郎へと謝罪しながら、明は雅のもとへと向かう。
これ以上、犠牲を出さぬように。今まで傷つけてきた者たちへ罪を清算させるために。
これ以上、犠牲を出さぬように。今まで傷つけてきた者たちへ罪を清算させるために。
「雅...!」
佐藤の残骸を食していた雅は、血に濡れた口を歪ませ、ニィ、と笑った。
☆
(くそっ、止まれ...止まれ!)
風太郎は、とにかく血の流れ続ける目の治療を施そうとしていた。
だが、刺さったナイフを抜けば炭治郎は最低でも失明、最悪そのまま死んでしまう可能性が高い。
いくら包帯があったところで、それだけではもうどうしようもない。
だが、刺さったナイフを抜けば炭治郎は最低でも失明、最悪そのまま死んでしまう可能性が高い。
いくら包帯があったところで、それだけではもうどうしようもない。
ドラグレッダーは現界可能時間の為に、既に鏡の中に退避してしまったし、頼れるものは己の知識といまある道具だけ。
絶望に苛まれる風太郎に、更なる追い打ちがかけられる。
絶望に苛まれる風太郎に、更なる追い打ちがかけられる。
ひょこり、と向かい角から身を乗り出した影がひとつ。
結晶ノ御子。破壊されたものとは別の、新たな御子が到着したのだ。
結晶ノ御子。破壊されたものとは別の、新たな御子が到着したのだ。
「―――!」
御子が攻撃の体勢に入る前に、風太郎は炭治郎を庇うように、デイバックと共に被さり盾になる。
皮膚から伝わる冷気に、風太郎は自分はもうすぐ死ぬのだと理解する。
皮膚から伝わる冷気に、風太郎は自分はもうすぐ死ぬのだと理解する。
(悪いみんな...俺は、結局なにも...)
迫る死への恐怖に、思わず炭治郎を抱きしめる腕に力が入る。
瞬間。
「―――えっ」
風太郎の身体は宙を舞っていた。投げ飛ばされたのだと気が付いたのは、炭治郎が振り払ったかのように右腕を掲げていたからだ。
声をかける間もなく、炭治郎は立ち上がり、迫る冷気に構わず、結晶ノ御子へと駆けだした。
声をかける間もなく、炭治郎は立ち上がり、迫る冷気に構わず、結晶ノ御子へと駆けだした。
―――『血鬼術 散り蓮華』
放たれる氷の雨に、しかし炭治郎は怯まない。皮膚が避けようが灰を凍らそうが、変わらぬ速度で突き進む。
グシャリ。
技を放った直後の御子は回避行動に移る間もなく、炭治郎の拳を受け、地に叩きつけられた。
ガンッ。ガンッ。ガンッ。
かける言葉もなく、風太郎は御子へと拳を振り下ろし続ける炭治郎を見つめることしかできなかった。
ガパリ、と炭治郎の口が開き、御子へと食らいつく。
まるで飢えた獣が久方ぶりの肉に食らいつくかのように、獰猛に、凶暴に。
まるで飢えた獣が久方ぶりの肉に食らいつくかのように、獰猛に、凶暴に。
ハァ ハァ
ドキドキと風太郎の心臓が高鳴る。
(なんで俺はこんなに不安になってる?あいつは助けてくれたんだぞ?)
本来ならば炭治郎が動けるようになったことに喜ぶべきはずなのに、風太郎は何故だか言葉を発することすらできなかった。
ハァ ハァ
御子を破壊し終え、右目からナイフを抜いた炭治郎が立ち上がる。
炭治郎。無事でよかった。助けてくれてありがとう。右目は大丈夫なのか。そんな言葉をかけたいのに、喉でつっかえるように詰まってしまう。
炭治郎。無事でよかった。助けてくれてありがとう。右目は大丈夫なのか。そんな言葉をかけたいのに、喉でつっかえるように詰まってしまう。
振り向いてまた笑ってくれ。振り向くな。お前が無事だったのを喜ばせてくれ。知りたくない。
矛盾する思いが、風太郎の鼓動をますます高鳴らせ、呼吸すらままならないほどに心臓を締め付ける。
ハァ ハァ
「っ...た...」
絞り出した声はあまりにも弱弱しいものだった。
ゆらり、と炭治郎が振り返る。
「炭治郎...?」
ハー ハー
言葉の代わりに返すその呼吸。
風太郎を見据える左の眼窩は赤く、口元からのぞかせる牙は、鋭く変貌していた。
風太郎を見据える左の眼窩は赤く、口元からのぞかせる牙は、鋭く変貌していた。
| 前話 | お名前 | 次話 |
| 悪鬼滅殺(1) | 雅 | 悪鬼滅殺(3) |
| 佐藤 | ||
| 竈門炭治郎 | ||
| 宮本明 | ||
| 上杉風太郎 | ||
| 童磨 |