鬼が嗤う ◆5A9Zb3fLQo
「夏の時といい、けったいな企画ばあっかり考えるもんやねぇ」
モニュメントが特徴的な駅前広場で異形の少女が嘆息しながら呟いた。
肩を肌蹴る様に着崩した着物をはじめ月光に生える白い肌を惜しげもなく晒した煽情的な格好は、幼さの残る少女の顔とミスマッチした妖艶さを放っている。
だが、人目につく出で立ちよりも目につくのは額部分から生える一対の角だろう。それが彼女が人ならざる魔性の存在であることを、何よりも如実に証明していた。
肩を肌蹴る様に着崩した着物をはじめ月光に生える白い肌を惜しげもなく晒した煽情的な格好は、幼さの残る少女の顔とミスマッチした妖艶さを放っている。
だが、人目につく出で立ちよりも目につくのは額部分から生える一対の角だろう。それが彼女が人ならざる魔性の存在であることを、何よりも如実に証明していた。
大江山を統べる鬼。
アサシンのサーヴァント。
日の本にその名を轟かす大化生。
アサシンのサーヴァント。
日の本にその名を轟かす大化生。
その名を、酒呑童子。
カルデアのサーヴァントとして召喚されていた筈の彼女であったが、気づけば見知らぬ街に呼び出され、殺し合いを強制される事態へと陥ってしまっていた。
溜息と共に出た気怠げな呟きからは焦燥や危機感といった感情を察することは出来ない。
呆れと面倒くささの混じった表情は、殺し合いに呼び出された今の状況にそぐわぬものだ。というのも、この催し物の主催が顔見知りの可能性がある事が大きいだろう。
溜息と共に出た気怠げな呟きからは焦燥や危機感といった感情を察することは出来ない。
呆れと面倒くささの混じった表情は、殺し合いに呼び出された今の状況にそぐわぬものだ。というのも、この催し物の主催が顔見知りの可能性がある事が大きいだろう。
BB。いつの間にか彼女のいるカルデアにて召喚されていた出自不明のサーヴァント。
夏に異世界の邪神と同調しハワイを舞台に騒動を巻き起こしたことは酒呑童子の記憶にも新しい。
知己である茨木童子が巻き込まれていたこともあって、彼女らのマスターである藤丸立香からことの顛末は一通り聞かされていた。
その時のトラブルの張本人がまたもこの様な騒動を起こした。巻き込まれた身からすれば気勢が殺がれるのも無理はない話だろう。
夏に異世界の邪神と同調しハワイを舞台に騒動を巻き起こしたことは酒呑童子の記憶にも新しい。
知己である茨木童子が巻き込まれていたこともあって、彼女らのマスターである藤丸立香からことの顛末は一通り聞かされていた。
その時のトラブルの張本人がまたもこの様な騒動を起こした。巻き込まれた身からすれば気勢が殺がれるのも無理はない話だろう。
「余所の神さんがまぁだ憑いてたのか、それともカルデアのとは別の霊基のBBはんなのか、なんにしてもエラい迷惑やねぇ。折角小僧と酒でも呑もか思てたんにその酒まで取り上げるなんて無粋にも程があるわ」
不満げに口を尖らせながら、彼女の右手がいつも瓢箪を腰に提げていた場所に触れる。
酒呑童子の宝具にして死因である神鞭鬼毒酒は今彼女の手元に存在しない。愛用の刀剣もである。
こちらへの強制転移の際、首輪をつけられるついでに没収されたのであろう。それもまた、彼女のモチベーションの低下に拍車をかけていた。
そうして溜息をもう一つ吐くと、その首がぐるんと物陰の方へと向けられた。
酒呑童子の宝具にして死因である神鞭鬼毒酒は今彼女の手元に存在しない。愛用の刀剣もである。
こちらへの強制転移の際、首輪をつけられるついでに没収されたのであろう。それもまた、彼女のモチベーションの低下に拍車をかけていた。
そうして溜息をもう一つ吐くと、その首がぐるんと物陰の方へと向けられた。
「なあ、あんたはんかて迷惑やと思わへん?」
喜色に満ちた視線が物陰に浮かんだ人影へと向けられる。
ステレオタイプな不良といった様相の少年が異形の少女に向かってゆっくりと歩いてくる。
ステレオタイプな不良といった様相の少年が異形の少女に向かってゆっくりと歩いてくる。
「なにアンタ、角なんか生えてるけど何かのコスプレ?」
「”こすぷれ”……、ああ黒髭の旦那がなんやら言いはってた当世風の仮装のことやったやろか。生憎とそんなんちゃうよ」
「ふーん」
「”こすぷれ”……、ああ黒髭の旦那がなんやら言いはってた当世風の仮装のことやったやろか。生憎とそんなんちゃうよ」
「ふーん」
少年が歩きながら世間話でもするような調子で酒呑童子の容姿の特異性、二本の角について尋ねる。もっとも角が無かったとしても現代社会の一般的なセンスからすれば特殊と呼べる服装からして、彼が尋ねたように何らかのコスプレと取られても仕方のないものであったが。
酒呑童子の返事にどうでも良さそうな反応を見せながら男は一歩一歩確実に酒呑童子へと近づいていく。その表情に油断はない。
少年の名は村山良樹。SWORDの”O”、鬼邪高校の番長を務める男。
その憮然とした表情からは、彼が今どういう感情を持っているのか伺い知ることは出来ない。
少女と少年が向かい合う。身長は村山の方が上、酒呑童子が彼を見上げる形だ。
酒呑童子の返事にどうでも良さそうな反応を見せながら男は一歩一歩確実に酒呑童子へと近づいていく。その表情に油断はない。
少年の名は村山良樹。SWORDの”O”、鬼邪高校の番長を務める男。
その憮然とした表情からは、彼が今どういう感情を持っているのか伺い知ることは出来ない。
少女と少年が向かい合う。身長は村山の方が上、酒呑童子が彼を見上げる形だ。
「で、さっきの声の女のこと知ってんの?」
「知っとるとも言えるし、知らんとも言えるなぁ」
「知っとるとも言えるし、知らんとも言えるなぁ」
挨拶すらない不躾な質問。その内容からして、先ほどの酒呑童子の独り言の内容が耳に入っていたのだろう。
村山の視点であれば、ともすれば殺し合いを命じた人物に加担している可能性がある人間だ。その言葉尻や態度には攻撃的な色が見え隠れしている。
対して酒呑童子は、その失礼とも言える態度に激することなく、そして威圧的な態度に臆することもなく、口元に人差し指を軽く当てながら意味深長な笑みを浮かべて応えた。村山の眉間に微かに皺が寄る。
村山の視点であれば、ともすれば殺し合いを命じた人物に加担している可能性がある人間だ。その言葉尻や態度には攻撃的な色が見え隠れしている。
対して酒呑童子は、その失礼とも言える態度に激することなく、そして威圧的な態度に臆することもなく、口元に人差し指を軽く当てながら意味深長な笑みを浮かべて応えた。村山の眉間に微かに皺が寄る。
だが、言い方はどうあれ酒呑童子の返事は真実である。
サーヴァントとはあくまでかつて存在した英雄・反英雄の影法師。召喚される時と場所が異なるのであれば同じ名・同じ肉体・同じ意識を持っていたとしてもそれは別の存在である。
彼女らに殺し合いを命じたBBがカルデアのBBであるという保証はどこにもないのだ。
故に”知っているとも言えれば知らないとも言える”という返答をしたのだが、無論のこと魔術師でもない村山にとって煙に撒くような虚言としか取れない内容である。
もっとも、酒呑童子本人に目の前の人間をおちょくろうという意志があったことも一つの事実ではあるのだが。
サーヴァントとはあくまでかつて存在した英雄・反英雄の影法師。召喚される時と場所が異なるのであれば同じ名・同じ肉体・同じ意識を持っていたとしてもそれは別の存在である。
彼女らに殺し合いを命じたBBがカルデアのBBであるという保証はどこにもないのだ。
故に”知っているとも言えれば知らないとも言える”という返答をしたのだが、無論のこと魔術師でもない村山にとって煙に撒くような虚言としか取れない内容である。
もっとも、酒呑童子本人に目の前の人間をおちょくろうという意志があったことも一つの事実ではあるのだが。
「嘗めてんのか?」
「ああん、そんな怖ぁい顔せんの。イケメンのお顔が台無しやわぁ」
「ああん、そんな怖ぁい顔せんの。イケメンのお顔が台無しやわぁ」
声にドスを利かせ、村山が酒呑童子を睨みつけた。
人を食ったような酒呑童子の態度は、ただでさえ殺し合いなどという場に勝手に拉致されて不機嫌になっていた彼の神経を逆撫でしていく。
気の弱い人間であればすくみ上るだろうが、相手は人を脅かし戦かせることを本領とする鬼の首魁である。ケラケラと笑いながらその視線を、見下ろす村山の視線に合わせた。
重なる視線が周囲に不穏な気配を生じさせていく。
人を食ったような酒呑童子の態度は、ただでさえ殺し合いなどという場に勝手に拉致されて不機嫌になっていた彼の神経を逆撫でしていく。
気の弱い人間であればすくみ上るだろうが、相手は人を脅かし戦かせることを本領とする鬼の首魁である。ケラケラと笑いながらその視線を、見下ろす村山の視線に合わせた。
重なる視線が周囲に不穏な気配を生じさせていく。
「あんたはん、ええ目しとりはりますなぁ。小僧とも旦那はんとも違うて、ギィラギラした光が綺麗やわぁ」
「だから嘗めてんのか、って聞いてんだけど?」
「せやねぇ、嘗めてるつもりはないんやけど、舐めてみたくはあるかなぁ」
「は? 何言って――!」
「だから嘗めてんのか、って聞いてんだけど?」
「せやねぇ、嘗めてるつもりはないんやけど、舐めてみたくはあるかなぁ」
「は? 何言って――!」
恫喝めいた質問にも答えず勝手に話を始める酒呑童子に、村山の元々短かった堪忍袋の緒が切れかけようとしたその時。不意に彼の背を悪寒が走りに抜けた。
数々の修羅場を潜り抜けた第六感に従うように、瞬時に後ずさる彼の視界を肌色の風が吹き抜けた。
先ほどまで彼の顔があった場所、正確に言えば目のあった位置を酒呑童子の右手が薙いだのだ。
数々の修羅場を潜り抜けた第六感に従うように、瞬時に後ずさる彼の視界を肌色の風が吹き抜けた。
先ほどまで彼の顔があった場所、正確に言えば目のあった位置を酒呑童子の右手が薙いだのだ。
「テメェ……!」
「よう避けたなぁ。あんたはんの目、道中に舐める飴玉代わりにしよかと思ったんやけども。フフ、お上手お上手」
「よう避けたなぁ。あんたはんの目、道中に舐める飴玉代わりにしよかと思ったんやけども。フフ、お上手お上手」
振るった右腕をヒラヒラとさせながら剣呑な笑みを浮かべる酒呑童子に対し、村山が拳を構えた。
得体のしれない怖気を感じ彼の頬を冷たい汗が一筋垂れる。
ここまでは目の前の少女が敵か味方かも分からない不審人物といった認識であったが、今や完全に村山にとって彼女は敵だ。
得体のしれない怖気を感じ彼の頬を冷たい汗が一筋垂れる。
ここまでは目の前の少女が敵か味方かも分からない不審人物といった認識であったが、今や完全に村山にとって彼女は敵だ。
「逃げてもええよ? 鬼ごっこも嫌いやないし」
「……ラアッ!」
「……ラアッ!」
拳を固めた村山が距離を詰め、酒呑童子に殴りかかる。
彼女の挑発染みた物言いに触発されたという訳ではない。
守勢に入る、逃げに回れば活路はないと判断しての行動だ。
酒呑童子の整った顔に目がけ振りかぶった拳を迷いなく、そして勢いよく振り下ろす。
引き絞った弓矢の如き鋭さで放たれたパンチだが、それは彼女の顔に到達する前に左手に受け止められた。
彼女の挑発染みた物言いに触発されたという訳ではない。
守勢に入る、逃げに回れば活路はないと判断しての行動だ。
酒呑童子の整った顔に目がけ振りかぶった拳を迷いなく、そして勢いよく振り下ろす。
引き絞った弓矢の如き鋭さで放たれたパンチだが、それは彼女の顔に到達する前に左手に受け止められた。
「怖い怖い、女性の顔殴ろうやなんて、こらお仕置きが必要やねぇ」
クスクスと笑う酒呑童子の姿に危ういものを感じ村山は打ち放った拳を引き離そうとするが、まるで瞬間接着剤で貼りつけられでもしたかのように拳が彼女の左手から離れない。
このままでは不味い。焦燥が村山の心を支配する。
蹴り飛ばしてでも強引に手を剥がそうとした、その瞬間。村山の視界が反転し、背中に強い衝撃が走った。
肺の空気を強制的に吐き出させられ、村山がゲホッとせき込む。
揺れる視界に映ったのは、自分の拳を握った状態で腕を降ろした酒呑童子、そして真上に見える夜空と月。
視界に映る光景で、握られた拳を支点に自身の体が振り回され地面に叩きつけられたのだと認識した。
そしてその瞬間に彼の視界は再び瞬転し、再びその身に衝撃が襲い掛かる。
衝撃。衝撃。衝撃。衝撃。
その身を何度も叩きつけられる激痛の中、村山良樹は自分が対峙した存在が人の理の範疇外にある化け物であることをようやく理解することが出来たのだった。
このままでは不味い。焦燥が村山の心を支配する。
蹴り飛ばしてでも強引に手を剥がそうとした、その瞬間。村山の視界が反転し、背中に強い衝撃が走った。
肺の空気を強制的に吐き出させられ、村山がゲホッとせき込む。
揺れる視界に映ったのは、自分の拳を握った状態で腕を降ろした酒呑童子、そして真上に見える夜空と月。
視界に映る光景で、握られた拳を支点に自身の体が振り回され地面に叩きつけられたのだと認識した。
そしてその瞬間に彼の視界は再び瞬転し、再びその身に衝撃が襲い掛かる。
衝撃。衝撃。衝撃。衝撃。
その身を何度も叩きつけられる激痛の中、村山良樹は自分が対峙した存在が人の理の範疇外にある化け物であることをようやく理解することが出来たのだった。
「ほいっ、ほいっ、ほいっと」
軽い調子の掛け声に連動して酒呑童子が左腕を振り回す度に大の男が何度も地面に叩きつけられていく。
恐るべきは鬼の膂力。その細腕のどこにその様な力があるのか。
圧倒的な暴力に晒された村山はさながら癇癪を起した子供に振り回されるぬいぐるみといったところだ。もっとも飛び出すの綿ではなく赤い液体であるのだが。
そうして何度か村山を地面に打ちすえた末にようやく酒呑が村山の拳を離した。
地面に転がる村山の衣服は所々破け、そしていたるところから青痣を除かせている。
恐るべきは鬼の膂力。その細腕のどこにその様な力があるのか。
圧倒的な暴力に晒された村山はさながら癇癪を起した子供に振り回されるぬいぐるみといったところだ。もっとも飛び出すの綿ではなく赤い液体であるのだが。
そうして何度か村山を地面に打ちすえた末にようやく酒呑が村山の拳を離した。
地面に転がる村山の衣服は所々破け、そしていたるところから青痣を除かせている。
「いかんなぁ、やり過ぎてしもたやろか。旦那はんに叱られてまうかねぇ」
興が乗り過ぎた己に反省しているかのような口ぶりであるが、嬉々とした表情が示す通りに無論口だけの反省である
ピクリとも動かず仰向けに倒れる村山。
その痛ましい姿を気にも留めず彼をこの様な姿にした主は本来彼にしようとしていた行為。即ち目玉をくり貫こうとして屈み込んだ。
鋭い爪の生えた右手が村山の右目へと伸びる。その爪が瞼を貫き眼窩から目玉を抉り出されるのはもはや時間の問題だと思われた。
そこで一つの番狂わせが起こる。
不意に、気絶し閉じられていたと思われていた村山の両目がカッと見開かれたのだ。
ピクリとも動かず仰向けに倒れる村山。
その痛ましい姿を気にも留めず彼をこの様な姿にした主は本来彼にしようとしていた行為。即ち目玉をくり貫こうとして屈み込んだ。
鋭い爪の生えた右手が村山の右目へと伸びる。その爪が瞼を貫き眼窩から目玉を抉り出されるのはもはや時間の問題だと思われた。
そこで一つの番狂わせが起こる。
不意に、気絶し閉じられていたと思われていた村山の両目がカッと見開かれたのだ。
「っ!?」
既に勝負は決していたと思っていた酒呑童子はその不意打ちじみた反応に気を取られ対応できなくなる。
時間にして数秒にも満たない一瞬。だが、その一瞬の隙を狙いすましていたかのように横合いからの衝撃が酒呑童子を襲う。
先ほどまでだらんと力なく垂れていた村山の右腕がしなるように動き、小気味のいい音と共に酒呑童子の左顔面に吸い込まれたのだ。
鬼の体勢がぐらりと揺らぐ。
倒れるまでは行かない。それでも確実に、人間からの一撃を受けその体勢は揺らいだのだ。
鋭い視線が自身の頬を殴りつけた相手へと向けられる。
再び男と女の視線が重なった。
時間にして数秒にも満たない一瞬。だが、その一瞬の隙を狙いすましていたかのように横合いからの衝撃が酒呑童子を襲う。
先ほどまでだらんと力なく垂れていた村山の右腕がしなるように動き、小気味のいい音と共に酒呑童子の左顔面に吸い込まれたのだ。
鬼の体勢がぐらりと揺らぐ。
倒れるまでは行かない。それでも確実に、人間からの一撃を受けその体勢は揺らいだのだ。
鋭い視線が自身の頬を殴りつけた相手へと向けられる。
再び男と女の視線が重なった。
「やられっぱなし、ってのは、性にあわねえんだよな」
予想外の一撃を受け、呆気に取られた酒呑童子を見て、満足そうに村山が笑う。
何度も人外の膂力で叩きつけられてもなお一撃を繰り出せる程の化け物染みた頑健さ。
鬼邪高校の不良達による100発の攻撃を受けきり、あまつさえその全員を返り討ちにした村山の打ち立てた伝説など、当然ながら酒呑童子は知る由もない。
酒呑童子が殺す気で村山を攻撃していなかったというのはあるだろう。
しかしその上であっても村山のもつ出鱈目なまでのタフネスと精神力がなければ起こしえなかった奇跡である。
何度も人外の膂力で叩きつけられてもなお一撃を繰り出せる程の化け物染みた頑健さ。
鬼邪高校の不良達による100発の攻撃を受けきり、あまつさえその全員を返り討ちにした村山の打ち立てた伝説など、当然ながら酒呑童子は知る由もない。
酒呑童子が殺す気で村山を攻撃していなかったというのはあるだろう。
しかしその上であっても村山のもつ出鱈目なまでのタフネスと精神力がなければ起こしえなかった奇跡である。
「さあ、ケジメ、つけ、よ……」
だが、奇跡はそこで打ち止めだった。
村山の意識が急激に闇に呑まれていき、一撃を入れた右腕が力なく地に落ちる。
人並み外れたタフネスであっても一撃を入れるだけで限界だったのだ。
気力だけで持たせていた肉体は、ようやく一撃を入れられた事による達成感で緊張の糸が切れたかの様に力を失っていく。
村山の意識が急激に闇に呑まれていき、一撃を入れた右腕が力なく地に落ちる。
人並み外れたタフネスであっても一撃を入れるだけで限界だったのだ。
気力だけで持たせていた肉体は、ようやく一撃を入れられた事による達成感で緊張の糸が切れたかの様に力を失っていく。
“まだだ、これからが本番だ。”
そんな思考も空しく、村山の視界は閉じられた。
「もう、いけずな小僧やねぇ」
今度こそ完全に気を失った村山を見て、酒呑童子が呟く。
左頬に指を添える。ジンジンとした殴られた感覚。
鬼でありながら年端もいかぬ少年にいっぱい食らわされたという事実。
これが彼女の友である茨木童子であれば屈辱と怒りに燃え暴れ狂っていただろう。
だが、酒呑童子は。
容の整った鬼の顔に半月が浮かぶ。
左頬に指を添える。ジンジンとした殴られた感覚。
鬼でありながら年端もいかぬ少年にいっぱい食らわされたという事実。
これが彼女の友である茨木童子であれば屈辱と怒りに燃え暴れ狂っていただろう。
だが、酒呑童子は。
容の整った鬼の顔に半月が浮かぶ。
「人をその気にさせといて勝手に寝てまうなんて、これじゃあ生殺しやわ」
嗤っていた。
楽しげに、愛しげに、酒呑童子は嗤っていた。
その笑みは妖艶で、無邪気で、そして凄惨だ。
ツゥっと細い指が気絶した村山の頬を撫でる。
楽しげに、愛しげに、酒呑童子は嗤っていた。
その笑みは妖艶で、無邪気で、そして凄惨だ。
ツゥっと細い指が気絶した村山の頬を撫でる。
「興が乗ってきたところやったんよ? ウチどうやってこの昂りを沈めればええと思うてはるん?」
村山が答えない。
酒呑童子は構わない。
もとより、返答を期待しての問いかけではないのだから。
酒呑童子は構わない。
もとより、返答を期待しての問いかけではないのだから。
「まだ、息はあるようやけど、せやねえ。腕の一本、目ぇの一個取ったくらいじゃ死なへんよねぇ? あかんやろか?」
村山の顔を覗き込みながら酒呑が語り掛ける。
同時に、彼女の右腕が伸びるのは村山の左腕。
剣呑な物言いを実行するつもりなのだ。
そうすれば、村山は恐らく死ぬだろう。
それは彼女のマスターである藤丸立香が良しとしない行いだろう。
それでも、酒呑童子は止まらない、止まれない。そうであるが故に、彼女は”鬼”という存在であるのだから。
村山の腕を握った右腕に力を込めようとする。
同時に、彼女の右腕が伸びるのは村山の左腕。
剣呑な物言いを実行するつもりなのだ。
そうすれば、村山は恐らく死ぬだろう。
それは彼女のマスターである藤丸立香が良しとしない行いだろう。
それでも、酒呑童子は止まらない、止まれない。そうであるが故に、彼女は”鬼”という存在であるのだから。
村山の腕を握った右腕に力を込めようとする。
が、村山の左腕が潰されることはなかった。
一発の銃声が成り響き、酒呑童子の近くの地面を舗装していいたアスファルトがはじけ飛ぶ。
酒呑童子は右腕に込めていた力を抜き、視線だけを銃声の響いた方向へと向ける。
その先にいたのは、銃を構えた緊張した面持ちの桃色髪をした少女の姿だった。
一発の銃声が成り響き、酒呑童子の近くの地面を舗装していいたアスファルトがはじけ飛ぶ。
酒呑童子は右腕に込めていた力を抜き、視線だけを銃声の響いた方向へと向ける。
その先にいたのは、銃を構えた緊張した面持ちの桃色髪をした少女の姿だった。
「先に宣言しておきますが、これは他のサーヴァントが使用していた銃器です。貴方にも効果はありますのでおかしな真似はしないでください」
「同じカルデアの仲間なのに酷いなぁマシュはん。ウチ泣いてまいそうやわ」
「同じカルデアの仲間なのに酷いなぁマシュはん。ウチ泣いてまいそうやわ」
村山の腕を離しながらも悪びれぬ調子で応える酒呑童子の態度に、マシュ・キリエライトの表情は厳しくなる。
僅かに、彼女の銃、トンプソン・コンテンダーを握る手に力が入る。
僅かに、彼女の銃、トンプソン・コンテンダーを握る手に力が入る。
「あなたは、カルデアの酒呑童子さんなんですね」
「そうやよ? 旦那はんのこともあんたはんのこともよぉく知っとる、カルデアの酒呑童子さんや」
「なら何故、そのようなことをしているんです! 納得のいく説明を求めます!」
「そうやよ? 旦那はんのこともあんたはんのこともよぉく知っとる、カルデアの酒呑童子さんや」
「なら何故、そのようなことをしているんです! 納得のいく説明を求めます!」
激昂した調子でマシュが酒呑を問い詰める。
よもやカルデアに所属する仲間がサーヴァントでもなさそうな一般人を痛めつけているなどという状況は彼女にとって信じられないことであり、許せぬことだったのだろう。
酒呑童子を見る目が一層険しくなる。
よもやカルデアに所属する仲間がサーヴァントでもなさそうな一般人を痛めつけているなどという状況は彼女にとって信じられないことであり、許せぬことだったのだろう。
酒呑童子を見る目が一層険しくなる。
「納得のいく説明ぃ言われてもなぁ。売り言葉に買い言葉で後は……興が乗ってしもたってところかなぁ」
「なっ……!? それだけでそこの方をそこまで痛めつけたんですか!」
「それだけって、それでそこまで出来るのがウチら鬼やないの」
「なっ……!? それだけでそこの方をそこまで痛めつけたんですか!」
「それだけって、それでそこまで出来るのがウチら鬼やないの」
酒呑からの返事に目を向くマシュに対し、酒呑童子が意地の悪い笑顔を浮かべる。
マシュとて酒呑童子、引いては鬼と呼ばれる種族の危険性と不安定さは金時を初めとした鬼の存在を知る仲間から何度も聞かされてきた。
しかし、それが実際にどのような危うさであるかを実感したのは今回が初めてである。
人理修復に協力してくらたからといってその存在が必ずしも善性のものである訳がない。そんな当たり前のことをここにおいてマシュは改めて痛感していた。
どうすれば、酒呑童子の凶行を止められるか、倒れた少年を助けられるか。
本来であれば持っている盾もなく、支給されたアサシンのエミヤが所持していた銃を片手にマシュは答えの見えない思考の渦に呑まれていく。
マシュとて酒呑童子、引いては鬼と呼ばれる種族の危険性と不安定さは金時を初めとした鬼の存在を知る仲間から何度も聞かされてきた。
しかし、それが実際にどのような危うさであるかを実感したのは今回が初めてである。
人理修復に協力してくらたからといってその存在が必ずしも善性のものである訳がない。そんな当たり前のことをここにおいてマシュは改めて痛感していた。
どうすれば、酒呑童子の凶行を止められるか、倒れた少年を助けられるか。
本来であれば持っている盾もなく、支給されたアサシンのエミヤが所持していた銃を片手にマシュは答えの見えない思考の渦に呑まれていく。
「まあええわ、あんたはんのお陰でええ感じに興も殺がれてしもたし、この辺にしとこかな」
そんな思考の海に沈みかけていたマシュを引き上げたのは事態の張本人たる酒呑童子であった。
銃を構えたマシュなど気にも留めずに立ち上がり、パンパンと脛についた汚れを払い、いずこかへと向かう為に踵を返す。
銃を構えたマシュなど気にも留めずに立ち上がり、パンパンと脛についた汚れを払い、いずこかへと向かう為に踵を返す。
「待ってください!まだ話は……!」
「お説教は勘弁やわぁ。追ってきてもええけどそしたらそこの小僧はボロボロの状態でここに置いてけぼりやねぇ、どうするん?」
「お説教は勘弁やわぁ。追ってきてもええけどそしたらそこの小僧はボロボロの状態でここに置いてけぼりやねぇ、どうするん?」
慌ててて引き留めようとするマシュに対し、首だけで振り返り二つの選択肢を投げかける酒呑童子。
マシュの眉間に皺が寄る。
酒呑童子を追わなければまた騒動が起きるかもしれない、だからといってこの殺し合いの場でボロボロになった人間を見捨てることが出来るのか。
答えは否だ。これまでの旅で培った人間性は彼女に非情な決断をとらせる事を拒否させる。
マシュの眉間に皺が寄る。
酒呑童子を追わなければまた騒動が起きるかもしれない、だからといってこの殺し合いの場でボロボロになった人間を見捨てることが出来るのか。
答えは否だ。これまでの旅で培った人間性は彼女に非情な決断をとらせる事を拒否させる。
「ふふ、旦那はんと同じでええ子ちゃんやもんねぇ。せやろねぇ」
苦渋に満ちた表情で銃を降ろしたマシュに対し、酒呑はにんまりとした笑みを浮かべる。
カルデアで共に戦う仲間である以上、この状況で彼女がそういう行動を取らざるをえないことなど、熟知しているのだ。
カルデアで共に戦う仲間である以上、この状況で彼女がそういう行動を取らざるをえないことなど、熟知しているのだ。
「あ、そうそう。そこの小僧が目ぇ覚ましたら“強くなったらまたおいで” って伝えておいてな。ほな、あんじょうよろしゅう」
それだけを伝えると、酒呑童子は駅前広場のビル群の影に消えていく。
数秒もしない内に酒呑童子の姿は見えなくなる。残ったのは力なく項垂れるマシュと傷だらけの姿で横たわる村山の二人だけだ。
銃を腰のホルスターに納め、マシュが村山へと近づき脈拍を取る。
打撲が酷いが息はある、これならば支給品にあった救急箱の薬品や包帯で治療が可能かもしれない。
傷だらけの村山を背負いあげ、周囲を見回す。
何にしろどこか身を休められるところでなければ治療も整理もままならない。
数秒もしない内に酒呑童子の姿は見えなくなる。残ったのは力なく項垂れるマシュと傷だらけの姿で横たわる村山の二人だけだ。
銃を腰のホルスターに納め、マシュが村山へと近づき脈拍を取る。
打撲が酷いが息はある、これならば支給品にあった救急箱の薬品や包帯で治療が可能かもしれない。
傷だらけの村山を背負いあげ、周囲を見回す。
何にしろどこか身を休められるところでなければ治療も整理もままならない。
何故、BBがこんなことをしでかしたのか。
そもそもBBはカルデアのBB本人か。
殺し合いを脱出する方法はあるのか。
酒呑童子をどうすれば止められるのか。
そもそもBBはカルデアのBB本人か。
殺し合いを脱出する方法はあるのか。
酒呑童子をどうすれば止められるのか。
藤丸立香は果たして無事でいるのか。
何も、何も彼女は分からない
どうしてと悩むことしか、どうかと祈ることしか今の彼女にできることはない。
その背中は人理の守護者と形容するにはあまりにも小さく、頼りなく見えた。
どうしてと悩むことしか、どうかと祈ることしか今の彼女にできることはない。
その背中は人理の守護者と形容するにはあまりにも小さく、頼りなく見えた。
【F-2/1日目・深夜】
【村山良樹@HiGH&LOW】
[状態]:全身打撲、気絶
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1~3
[思考・状況]
基本方針:未定。
1:気絶中
2:ケジメはつける
[備考]
※参戦時期、未定。後続に任せます
[状態]:全身打撲、気絶
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1~3
[思考・状況]
基本方針:未定。
1:気絶中
2:ケジメはつける
[備考]
※参戦時期、未定。後続に任せます
【マシュ・キリエライト@Fate/Grand Order】
[状態]:健康
[道具]:基本支給品一式、トンプソン・コンテンダー@Fate/Grand Order、救急箱@現実、ランダム支給品0~1、22口径ロングライフル弾(29/30発)
[思考・状況]
基本方針:未定。
1:少年(村山)を治療する
2:酒呑童子を止めたい
3:先輩(藤丸立香)と合流したい
[備考]
※未定。少なくとも酒呑童子およびBBと面識あり
※円卓が没収されているため、宝具が使用できません。
[状態]:健康
[道具]:基本支給品一式、トンプソン・コンテンダー@Fate/Grand Order、救急箱@現実、ランダム支給品0~1、22口径ロングライフル弾(29/30発)
[思考・状況]
基本方針:未定。
1:少年(村山)を治療する
2:酒呑童子を止めたい
3:先輩(藤丸立香)と合流したい
[備考]
※未定。少なくとも酒呑童子およびBBと面識あり
※円卓が没収されているため、宝具が使用できません。
鼻歌交じりにビルがそびえる路地裏を酒呑童子が歩く。
「面白い小僧と会えたんは幸先がええわぁ、ああいう子が仰山いてはるんなら、旦那はんには悪いけども祭に乗るんも悪ないわなぁ。鬼は鬼らしゅう楽しんでみよか」
脳裏に浮かぶのは先ほど彼女が痛めつけた村山良樹のこと。
彼が加えた窮鼠が猫を噛んだ様な一撃は鮮烈に彼女の記憶に残った。
鬼が人に一撃を食らわされたというのも勿論ではあるが、何よりもその時の村山の表情が強く記憶に焼き付いていた。
彼が加えた窮鼠が猫を噛んだ様な一撃は鮮烈に彼女の記憶に残った。
鬼が人に一撃を食らわされたというのも勿論ではあるが、何よりもその時の村山の表情が強く記憶に焼き付いていた。
“ケジメをつけよう”と掠れた声で呟いた時の、村山の表情。
口許からは血を垂らし、地面に叩き続けられてボロボロの状態であったのにも関わらず、村山良樹は笑っていた。
口許からは血を垂らし、地面に叩き続けられてボロボロの状態であったのにも関わらず、村山良樹は笑っていた。
牙を向き。
目を光らせ。
楽しそうに。
鬼の様に。
目を光らせ。
楽しそうに。
鬼の様に。
確かに、村山良樹は嗤っていたのだ。
【F-2/1日目・深夜】
【酒呑童子@Fate/Grand Order】
[状態]:健康、左頬に打撲
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1~3
[思考・状況]
基本方針:楽しめそうなら鬼は鬼らしく楽しむ
1:小僧(村山)と会って強くなってたら再戦する
[備考]
※2018年の水着イベント以降、カルデア召喚済
※神鞭鬼毒酒が没収されているため、第一宝具が使用できません
[状態]:健康、左頬に打撲
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1~3
[思考・状況]
基本方針:楽しめそうなら鬼は鬼らしく楽しむ
1:小僧(村山)と会って強くなってたら再戦する
[備考]
※2018年の水着イベント以降、カルデア召喚済
※神鞭鬼毒酒が没収されているため、第一宝具が使用できません
【支給品紹介】
【トンプソン・コンテンダー@Fate/Grand Order】
マシュ・キリエライトに支給。
アサシンのエミヤが宝具時などに使用しているもの
起源弾は入っていない。
マシュ・キリエライトに支給。
アサシンのエミヤが宝具時などに使用しているもの
起源弾は入っていない。
【救急箱@現実】
マシュ・キリエライトに支給。
包帯を初め市販の医療薬品詰め合わせ。
マシュ・キリエライトに支給。
包帯を初め市販の医療薬品詰め合わせ。
| 前話 | お名前 | 次話 |
| Debut | 酒呑童子 | 上田次郎のどんと来い、鬼退治 |
| Debut | 村山良樹 | 慕う者たち |
| Debut | マシュ・キリエライト |