月と太陽 ◆MCsmYVWHxQ
───何が何だか分からない。それが、五つ子姉妹の三女である中野三玖が最初に零した台詞だった。
今、自分は悪い夢でも見ているのだろうか?
彼女がそんなホラー映画の主人公のテンプレートのような思考に陥ってしまうのはしかし、まこと詮無きことであった。
何から何までが突然過ぎる、突飛過ぎる。前置きも、伏線も、フラグも、何もない。
ふと目を覚ました瞬間には、三玖は見知らぬ山の只中に放り出されていた。地図に依れば此処は那田蜘蛛山と呼称されているらしかったが、そんなことはこの際どうでもいい。
では何が重要なのかと言えば、言わずもがな件の『BBチャンネル』についてであろう。より正確に言うならば、あの巫山戯ているとしか思えない放送の中で告知された、『バトルロワイアル』について、か。
彼女がそんなホラー映画の主人公のテンプレートのような思考に陥ってしまうのはしかし、まこと詮無きことであった。
何から何までが突然過ぎる、突飛過ぎる。前置きも、伏線も、フラグも、何もない。
ふと目を覚ました瞬間には、三玖は見知らぬ山の只中に放り出されていた。地図に依れば此処は那田蜘蛛山と呼称されているらしかったが、そんなことはこの際どうでもいい。
では何が重要なのかと言えば、言わずもがな件の『BBチャンネル』についてであろう。より正確に言うならば、あの巫山戯ているとしか思えない放送の中で告知された、『バトルロワイアル』について、か。
「殺し合い……」
意外にも、言葉に出してみても現実感は湧いてこなかった。
端的に言って荒唐無稽、それに尽きる。そもそもバトルロワイアルという単語だって、あのBBなる少女が口にするよりも遥か以前からこの世に存在していた筈だ。
三玖はその単語が社会に知れ渡り、多くのジャンルに影響を与えるに至った大元の文学作品に目を通したことはなかったが、それでもその概要くらいは知っている。だが、改めて語る必要はないだろう。その本の内容は、あの放送にてBBが語ったものと殆ど同一のそれであるのだから。
即ち、殺し合う。最後の一人になるまで殺し合い、生き残りを選定する。
生存者たちの首には爆弾付きの首輪を結び付けることで反乱を抑制し、常に恐怖という枷で縛り、疑心暗鬼と混乱を招いて殺人の誘発を狙う……こんな思考をすること自体不謹慎に過ぎるが、実によく出来た趣向だ。
こと人の弱さを暴走させて惨事を引き起こそうと思うなら、これ以上のやり口はまず存在すまい。
端的に言って荒唐無稽、それに尽きる。そもそもバトルロワイアルという単語だって、あのBBなる少女が口にするよりも遥か以前からこの世に存在していた筈だ。
三玖はその単語が社会に知れ渡り、多くのジャンルに影響を与えるに至った大元の文学作品に目を通したことはなかったが、それでもその概要くらいは知っている。だが、改めて語る必要はないだろう。その本の内容は、あの放送にてBBが語ったものと殆ど同一のそれであるのだから。
即ち、殺し合う。最後の一人になるまで殺し合い、生き残りを選定する。
生存者たちの首には爆弾付きの首輪を結び付けることで反乱を抑制し、常に恐怖という枷で縛り、疑心暗鬼と混乱を招いて殺人の誘発を狙う……こんな思考をすること自体不謹慎に過ぎるが、実によく出来た趣向だ。
こと人の弱さを暴走させて惨事を引き起こそうと思うなら、これ以上のやり口はまず存在すまい。
そして今。中野三玖という何ら変哲のない少女を載せて、確たる現実のものとして『バトルロワイアル』という箱舟が航行している。
三玖は頭がくらくらする思いだった。何だこれは、どうなっている。なんで自分が───いや。
三玖は頭がくらくらする思いだった。何だこれは、どうなっている。なんで自分が───いや。
「なんで"私達"が、こんなことに───」
そう。三玖はあの放送が終わるや否や、すぐにBBによって配布されていた参加者名簿に目を通した。
双子として生まれた兄弟姉妹は、理屈では説明することの出来ない奇妙なつながりを持っているとよく言われる。
その真偽は兎も角として、その時三玖が目には見えない何かに突き動かされていたのは確かだった。
猛烈に、嫌な予感がしたのだ。更に言うなら名簿を取り出そうとしているその時点で、三玖はその予感が恐らく当たっているだろうことについても確信していた。
それについては、根拠もある。何故なら自分達は、この世に生まれて産声をあげてからというもの、ずっと五人一緒だったから。何をするにも五人で一人。その"いつも通り"が崩れ始めたのは、ほんのつい最近のことで……
双子として生まれた兄弟姉妹は、理屈では説明することの出来ない奇妙なつながりを持っているとよく言われる。
その真偽は兎も角として、その時三玖が目には見えない何かに突き動かされていたのは確かだった。
猛烈に、嫌な予感がしたのだ。更に言うなら名簿を取り出そうとしているその時点で、三玖はその予感が恐らく当たっているだろうことについても確信していた。
それについては、根拠もある。何故なら自分達は、この世に生まれて産声をあげてからというもの、ずっと五人一緒だったから。何をするにも五人で一人。その"いつも通り"が崩れ始めたのは、ほんのつい最近のことで……
「……、……っ」
故に当たり前のように、名簿には三玖と同じ『中野』の姓を持つ四人の少女の名前が記されていた。
中野一花。中野二乃。中野四葉。中野五月。そして自分こと、中野三玖。これにて、中野家五姉妹勢揃い。
生まれてからずっと一つ屋根の下で暮らしてきた姉妹が皆揃って、たった一人しか生き延びることの許されない地獄の船に乗せられている。
その事実も三玖にとっては十分にショッキングなものだったが、しかし一方で、予想通りであったことは否めない。自分が居るなら他の四人も居るだろうと、そう確信していたことは否定出来ない。
にも関わらず、何故彼女は息を呑んだのか。『やっぱり』と神妙な顔で独りごちるのではなく、戦慄したように顔を青褪めさせて。心の臓まで凍り付いたとばかりに唇を震わせているのか。
中野一花。中野二乃。中野四葉。中野五月。そして自分こと、中野三玖。これにて、中野家五姉妹勢揃い。
生まれてからずっと一つ屋根の下で暮らしてきた姉妹が皆揃って、たった一人しか生き延びることの許されない地獄の船に乗せられている。
その事実も三玖にとっては十分にショッキングなものだったが、しかし一方で、予想通りであったことは否めない。自分が居るなら他の四人も居るだろうと、そう確信していたことは否定出来ない。
にも関わらず、何故彼女は息を呑んだのか。『やっぱり』と神妙な顔で独りごちるのではなく、戦慄したように顔を青褪めさせて。心の臓まで凍り付いたとばかりに唇を震わせているのか。
その答えは───姉妹五人と一緒に名簿に載せられていた、とある特別な名前の存在だ。
「フータロー……」
中野家五姉妹は、いつも一緒だった。
ずっとそうあるものだと皆心の何処かでそう思っていたし、三玖だってその例外ではない。
けれど。今は、少しだけ事情が違う。五人の姉妹の傍にはいつもどこかに、彼が居る。
上杉風太郎。その名前を呼ぶ三玖の声は震えていた。何よりも直視したくない現実を目の当たりにして、肺腑に至るまで凍え切る思いだった。
ずっとそうあるものだと皆心の何処かでそう思っていたし、三玖だってその例外ではない。
けれど。今は、少しだけ事情が違う。五人の姉妹の傍にはいつもどこかに、彼が居る。
上杉風太郎。その名前を呼ぶ三玖の声は震えていた。何よりも直視したくない現実を目の当たりにして、肺腑に至るまで凍え切る思いだった。
───『恋』。口数少なく、人付き合いのあまり得意ではない三玖にとって、その感情は生まれて初めてのものだった。
中野三玖は上杉風太郎に恋をしている。その想いは未だ伝えられていないし、事をうまく進められているとも言い難い。
自分が奥手過ぎることも、それが言い訳にならないことも頭では分かっている。だけど少しずつ頑張って行こうと決めて、いつもと少し変わった毎日を過ごしていく……筈だった。でも。世界は、三玖の知らないところで刻々と変化を続けていたのだ。
『恋』も。そして、もっと大きくて抗いようのない『運命』も。そのことを三玖はこの短い時間で二度、立て続けに思い知らされた。一度目が信頼していた姉との断絶で。二度目が、このバトルロワイアル。
そして今。三玖は、もはや逃れることの出来ないような『運命』のうねりの中に、抱いた『恋』と共に放り込まれている。
中野三玖は上杉風太郎に恋をしている。その想いは未だ伝えられていないし、事をうまく進められているとも言い難い。
自分が奥手過ぎることも、それが言い訳にならないことも頭では分かっている。だけど少しずつ頑張って行こうと決めて、いつもと少し変わった毎日を過ごしていく……筈だった。でも。世界は、三玖の知らないところで刻々と変化を続けていたのだ。
『恋』も。そして、もっと大きくて抗いようのない『運命』も。そのことを三玖はこの短い時間で二度、立て続けに思い知らされた。一度目が信頼していた姉との断絶で。二度目が、このバトルロワイアル。
そして今。三玖は、もはや逃れることの出来ないような『運命』のうねりの中に、抱いた『恋』と共に放り込まれている。
「フータロー……っ」
空は墨で塗り付けたような漆黒と鉛色の雲に覆われ、星の灯りすら確認することは出来ない。
曇天の夜空はさも出口のないこの袋小路を暗喩しているようで、三玖は山の切り立った丘の上に体育座りの姿勢で座り込みながら、じっとそれを見上げることしか出来ずにいた。
曇天の夜空はさも出口のないこの袋小路を暗喩しているようで、三玖は山の切り立った丘の上に体育座りの姿勢で座り込みながら、じっとそれを見上げることしか出来ずにいた。
嫌だ───嫌だ。死にたくないし、死なせたくないし、なくしたくない。私は、何も失いたくない。
或いはこの考えが、そもそも甘えなのだろう。何かを勝ち取ろうと思うなら、何かを蹴落とさなければならない。
自分の歩調に合わせてなんて生温いことを言っている時点で、何かを失う敗者になることは必定なのだ。
それでも、三玖にこの状況で一歩を踏み出すことは出来なかった。恐怖と絶望と、それらを凌駕するほどの混乱。数多の感情でごちゃごちゃになったその心は、ともすれば彼女の見上げる曇天の空よりも昏く淀んでいる。
或いはこの考えが、そもそも甘えなのだろう。何かを勝ち取ろうと思うなら、何かを蹴落とさなければならない。
自分の歩調に合わせてなんて生温いことを言っている時点で、何かを失う敗者になることは必定なのだ。
それでも、三玖にこの状況で一歩を踏み出すことは出来なかった。恐怖と絶望と、それらを凌駕するほどの混乱。数多の感情でごちゃごちゃになったその心は、ともすれば彼女の見上げる曇天の空よりも昏く淀んでいる。
と、そんな時だった。
取り敢えず夜が明けるまではじっとしているのが堅実だろうと考えていた三玖の耳朶を、見知らぬ少女の声が叩いたのは。
取り敢えず夜が明けるまではじっとしているのが堅実だろうと考えていた三玖の耳朶を、見知らぬ少女の声が叩いたのは。
「───あれ、そこに誰か居るの!?」
びくん、と心臓が跳ねる。比喩でも何でもなく、そのまま勢いよく口から飛び出してしまうのではないかと思った。
「だ、誰……?」なんて間抜けな質問を口にしながら恐る恐る振り返った先で三玖が見たのは、恐らく同年代であろう、白を基調とした衣服に身を包んだ少女であった。
髪の色は奇しくも三玖や姉妹達の髪色に近い橙系。色としては四女・四葉のものに近いだろうか。あれをもう少し濃くした具合の色合いだ。
「だ、誰……?」なんて間抜けな質問を口にしながら恐る恐る振り返った先で三玖が見たのは、恐らく同年代であろう、白を基調とした衣服に身を包んだ少女であった。
髪の色は奇しくも三玖や姉妹達の髪色に近い橙系。色としては四女・四葉のものに近いだろうか。あれをもう少し濃くした具合の色合いだ。
「えっと、この『バトルロワイアル』の参加者です。……って、今更当たり前か。あはは……」
明らかに怯え切っている様子の三玖に対し、少女はそう言ってぽりぽりと頭を掻いた。
一見すると何気ないごく普通の言動でしかないが、そこからはなるだけ刺激しないようにしてあげよう、という心遣いが感じ取れる。
そんな彼女の首にはやはり、三玖のものと同じ『首輪』が装着されていた。バトルロワイアルの参加者という自己紹介に偽りはないようだ。もっともそれはよくよく考えれば、相手を安心させる理由としては全く成立していないのだったが───それはさておき。
一見すると何気ないごく普通の言動でしかないが、そこからはなるだけ刺激しないようにしてあげよう、という心遣いが感じ取れる。
そんな彼女の首にはやはり、三玖のものと同じ『首輪』が装着されていた。バトルロワイアルの参加者という自己紹介に偽りはないようだ。もっともそれはよくよく考えれば、相手を安心させる理由としては全く成立していないのだったが───それはさておき。
「大丈夫、私はこの殺し合いには乗ってないよ。むしろその逆で、どうにかしてこれを止めてやろうって思ってる」
少女はそんなことを口にして一歩を踏み出し、一度頷いて微笑んでみせた。
その表情に怯えや動揺の色合いは全く見られず、既にこの極限状況に適応を果たしているように見える。
殺し合いを、止める? どうやって。爆弾入りの首輪なんてものまで繋がれているのに、何をどうしたらそんな発想に───疑問符をその脳内で躍らせる三玖に対して、少女は微笑んだまま右手を差し伸べた。
その表情に怯えや動揺の色合いは全く見られず、既にこの極限状況に適応を果たしているように見える。
殺し合いを、止める? どうやって。爆弾入りの首輪なんてものまで繋がれているのに、何をどうしたらそんな発想に───疑問符をその脳内で躍らせる三玖に対して、少女は微笑んだまま右手を差し伸べた。
「私は、『藤丸立香』。あなたは?」
その手付きが、表情が、あまりにも怖れとは無縁の堂々としたものであったから。
三玖もおずおずと手を差し出して彼女……立香のそれを掴み、口を開いていた。
三玖もおずおずと手を差し出して彼女……立香のそれを掴み、口を開いていた。
「三玖……中野、三玖」
◆◆
「地図にルールブック……こんな手の混んだことしといて、こういうところはアナログなんだ」
驚いたのは、立香がこの状況に何ら動揺していないことだった。
誤解を恐れず言うならば、まるで"こんなことには慣れている"と言わんばかりの面持ちなのだ。
各参加者に配布された道具の諸々を三玖と共に検分し、上記のような緊張感の欠片もない台詞までこぼしてみせる。
だから思わず、三玖は彼女に対してこう問うた。
誤解を恐れず言うならば、まるで"こんなことには慣れている"と言わんばかりの面持ちなのだ。
各参加者に配布された道具の諸々を三玖と共に検分し、上記のような緊張感の欠片もない台詞までこぼしてみせる。
だから思わず、三玖は彼女に対してこう問うた。
「立香は……こういう状況、もしかして初めてじゃないの?」
口にしてみて、我ながらおかしな質問だったなと自戒する。
こういう状況に慣れている人間など、それこそフィクションの世界以外には実在を許され得まい。一生に一度の経験としても最悪の一言で形容出来る範疇を過ぎてしまうそれだというのに。
だが、三玖のそんな考えとは裏腹に。立香は少し考えるような素振りを見せた後、「まあ、ね」と苦笑しながら頷いた。
こういう状況に慣れている人間など、それこそフィクションの世界以外には実在を許され得まい。一生に一度の経験としても最悪の一言で形容出来る範疇を過ぎてしまうそれだというのに。
だが、三玖のそんな考えとは裏腹に。立香は少し考えるような素振りを見せた後、「まあ、ね」と苦笑しながら頷いた。
「詳しく話すととてつもなく長くなっちゃうんだけど───わたし、ここ二年くらいで色々あってね。
こういう突拍子もないような状況には、ちょっとだけ……うん。ほんのちょっとだけ慣れてるんです」
こういう突拍子もないような状況には、ちょっとだけ……うん。ほんのちょっとだけ慣れてるんです」
一体どんな"色々"を経験すれば、この状況でそんな台詞を口に出来るようになるのかは三玖には皆目見当も付かなかったが、取り敢えず彼女が常人ではないらしいという彼女の見立ては的中していたようだった。
あまりに彼女の手際と段取りがいい為に、ほとんど口を挟む余地もなく頷きばかりを返す羽目となる三玖。
そんな状況とは打って変わって、彼女が自ら言葉を発して伝えねばならない状況が回ってきたのは、立香の手が無数の人名を記した一枚の紙へと伸びてからのことだった。
あまりに彼女の手際と段取りがいい為に、ほとんど口を挟む余地もなく頷きばかりを返す羽目となる三玖。
そんな状況とは打って変わって、彼女が自ら言葉を発して伝えねばならない状況が回ってきたのは、立香の手が無数の人名を記した一枚の紙へと伸びてからのことだった。
「そうだ。三玖は、その……知り合いとか、呼ばれてた?」
「……うん。姉妹と───友達が」
「そっか……それは、きついね」
「……うん。姉妹と───友達が」
「そっか……それは、きついね」
一瞬、"彼"についてはどう呼称したものか迷ったが、結局これが一番正しいだろうという結論へ至った。
友達。そう、今は多分こう呼ぶのが正しい。これからどうなるかは、まだ分からない。
そんなことを考えている場合ではないというのに、頭の中へと垂れ込めてくる鉛のような暗雲。それからなんとか目を背けながら、三玖は名簿に記された五つの名前を次々に示していく。
すると、やはりというべきかなんというべきか。立香の目が驚きに少しだけ見開かれた。
友達。そう、今は多分こう呼ぶのが正しい。これからどうなるかは、まだ分からない。
そんなことを考えている場合ではないというのに、頭の中へと垂れ込めてくる鉛のような暗雲。それからなんとか目を背けながら、三玖は名簿に記された五つの名前を次々に示していく。
すると、やはりというべきかなんというべきか。立香の目が驚きに少しだけ見開かれた。
「えっ……もしかしてだけど、五つ子!? すご……って、ごめんごめん。今はそんなこと言ってる場合じゃなかったね」
「ううん、大丈夫……やっぱり珍しいよね、五つ子なんて」
「少なくともわたしは初めて見たかな。五人も姉妹が居たら、賑やかそうでいいね」
「ううん、大丈夫……やっぱり珍しいよね、五つ子なんて」
「少なくともわたしは初めて見たかな。五人も姉妹が居たら、賑やかそうでいいね」
……おそらく、立香としては何気なく口にした言葉だったのだろう。
実際、それはごくごく普通の台詞だ。五つ子の一人なんて奇矯な人物が目の前に居たなら、口にする言葉としては大分テンプレートめいている。
実際、それはごくごく普通の台詞だ。五つ子の一人なんて奇矯な人物が目の前に居たなら、口にする言葉としては大分テンプレートめいている。
そうだ。確かに、中野家はいつだって賑やかだった。
そしてこれからもそうあるべきだと、三玖は思っている。
───けれど。今は彼女たちの顔を思い浮かべると、早く会いたいと思うのと同時に、棘が刺さるような痛みをも感じてしまうのだ。
修学旅行。楽しいものに始まり、楽しいものに終わるとばかり思っていた。けれど三玖にはそこで人よりも頑張らなければいけない理由があって、でもその頑張りは三玖の凡そ予期せぬ形で吹き飛ばされて。
そうして、そんな出来事と向き合う間もなく三玖はこの場に呼び出されている。あのBBなる、悪魔のような少女によって。
そしてこれからもそうあるべきだと、三玖は思っている。
───けれど。今は彼女たちの顔を思い浮かべると、早く会いたいと思うのと同時に、棘が刺さるような痛みをも感じてしまうのだ。
修学旅行。楽しいものに始まり、楽しいものに終わるとばかり思っていた。けれど三玖にはそこで人よりも頑張らなければいけない理由があって、でもその頑張りは三玖の凡そ予期せぬ形で吹き飛ばされて。
そうして、そんな出来事と向き合う間もなく三玖はこの場に呼び出されている。あのBBなる、悪魔のような少女によって。
「……三玖?」
「っ」
「っ」
まずい、と三玖は呼びかけられてようやくハッとする。
どうやら、頭の中の考えが顔に出てしまっていたらしい。更に言うなら、沈黙という形でも外部へ出力してしまっていた。沈黙に勝る弁はなし、とはよく言ったものである。
機嫌を損ねたと思われただろうか。慌てて「ごめん、なんでもないよ」と取り繕うと、幸い立香は「そっか」と笑みを見せてくれた。
そしてそのまま、彼女はおもむろに口を開き───話し始める。
どうやら、頭の中の考えが顔に出てしまっていたらしい。更に言うなら、沈黙という形でも外部へ出力してしまっていた。沈黙に勝る弁はなし、とはよく言ったものである。
機嫌を損ねたと思われただろうか。慌てて「ごめん、なんでもないよ」と取り繕うと、幸い立香は「そっか」と笑みを見せてくれた。
そしてそのまま、彼女はおもむろに口を開き───話し始める。
「───実はさ。わたしね、BB……この『バトルロワイアル』を仕組んだ子と面識があるの」
「え……?」
「え……?」
藪から棒にこんなことを言われて、驚くなという方が無理な話だろう。
BB。この殺し合いを主催し、運営している諸悪の根源たる悪魔のような女。
現に彼女の所為で既に最低でもひとりの少女の命が奪われており、これからもきっと、犠牲者の数は増え続ける。そんな悪鬼羅刹と並べ称しても何ら差し支えないだろう女と、あろうことか旧知の仲にあると、立香は宣ったのだ。
BB。この殺し合いを主催し、運営している諸悪の根源たる悪魔のような女。
現に彼女の所為で既に最低でもひとりの少女の命が奪われており、これからもきっと、犠牲者の数は増え続ける。そんな悪鬼羅刹と並べ称しても何ら差し支えないだろう女と、あろうことか旧知の仲にあると、立香は宣ったのだ。
「友達……ってのはちょっと違うかな。けど、わたし達は確かに同じ目的のために戦ってた。少なくとも、わたしはそのつもりだったんだけど」
けれどそんな悪逆無道の魔女について語る立香の顔は、困ったような笑顔を浮かべていた。
何をおちゃらけているんだ、とは思わない。彼女自身、未だそのことに分別が付いていないのだろうと三玖は思った。
何に対して、なのかは定かではないが、とにかく藤丸立香という少女はあのBBと協力関係……仲間と言ってもいい間柄にあって。なのにも関わらずその信頼は裏切られ、仇となって返ってきた。自分以外の六十九の命を載せた箱舟が、在りし日の思い出の腐乱死体。
何をおちゃらけているんだ、とは思わない。彼女自身、未だそのことに分別が付いていないのだろうと三玖は思った。
何に対して、なのかは定かではないが、とにかく藤丸立香という少女はあのBBと協力関係……仲間と言ってもいい間柄にあって。なのにも関わらずその信頼は裏切られ、仇となって返ってきた。自分以外の六十九の命を載せた箱舟が、在りし日の思い出の腐乱死体。
「……立香は、BBに会いたいの?」
その言葉は半ば反射的に口をついて出たものだった。
あまり人の心の機微には聡くない三玖でも分かるくらい、彼女の表情や態度から、その願望は滲み出ていた。
それに対し、彼女はやはり困ったような顔のまま頷きをひとつ返す。
あまり人の心の機微には聡くない三玖でも分かるくらい、彼女の表情や態度から、その願望は滲み出ていた。
それに対し、彼女はやはり困ったような顔のまま頷きをひとつ返す。
「BBはまあ、ぶっちゃけて言うとこういうことを笑いながら仕出かすタイプだったんだけどね」
───三玖は知る由もないことだが、立香の頭の中には既に幾つかの可能性が浮かび上がっている。大きく分ければ、ざっと三つほどだ。
立香もよく知る"カルデアのBB"が自ら望んでこの悪夢めいた催しを企てたのか。
それとも立香と関わったことのない、或いは関わる前の時間軸からやって来たBBであるのか。
はたまた、月の全能者であるBBでさえも上回る権能を持った"何者か"が、あの上級AIを傀儡として利用しているのか。
その正確なところは、正直なところ自分の頭ではまず解き明かせないだろうと諦めていた。
けれど、諦めるのはあくまでも"理解する"ことだけだ。それ以外のことは何ひとつ、譲った覚えはない。
立香もよく知る"カルデアのBB"が自ら望んでこの悪夢めいた催しを企てたのか。
それとも立香と関わったことのない、或いは関わる前の時間軸からやって来たBBであるのか。
はたまた、月の全能者であるBBでさえも上回る権能を持った"何者か"が、あの上級AIを傀儡として利用しているのか。
その正確なところは、正直なところ自分の頭ではまず解き明かせないだろうと諦めていた。
けれど、諦めるのはあくまでも"理解する"ことだけだ。それ以外のことは何ひとつ、譲った覚えはない。
「それでも、やっぱり素直には割り切れない。
だからわたしは、会いに行くつもり。
彼女が何を考えてこんなことをしたのか、させられているのか。
まずはこの『バトルロワイアル』をどうにかした後で、強引にでも乗り込んでやろうかなって」
だからわたしは、会いに行くつもり。
彼女が何を考えてこんなことをしたのか、させられているのか。
まずはこの『バトルロワイアル』をどうにかした後で、強引にでも乗り込んでやろうかなって」
端的に言うとこの女は、こういう人間である。
その行動原理は基本的に不合理で、理性ではなく感情で動くタイプ。
殺し合いはどうにかする。でも、BBのことも投げ出すつもりはない。
それはもしかすると自分の知らない別な彼女かもしれないけれど───それでも。
一度主(マスター)となったからには、無関係だと投げ出すなんて出来っこないから。
その行動原理は基本的に不合理で、理性ではなく感情で動くタイプ。
殺し合いはどうにかする。でも、BBのことも投げ出すつもりはない。
それはもしかすると自分の知らない別な彼女かもしれないけれど───それでも。
一度主(マスター)となったからには、無関係だと投げ出すなんて出来っこないから。
「……いきなり変なこと言ってごめんね。でも、一緒に行動するなら最初に言っとかなくちゃって思って」
一歩間違えれば、主催者の肩を持つ気なのかと逆上されてもおかしくないような文言。
それを面と向かって告白してくる誠実さといい、何から何まで、彼女は同年代の少女とは思えなかった。
明るい橙色と、暗い橙色。
正反対だ。明るくて、前向きで、行動力があって───まるで鏡に写したように、三玖とは似つかない娘だった。
それを面と向かって告白してくる誠実さといい、何から何まで、彼女は同年代の少女とは思えなかった。
明るい橙色と、暗い橙色。
正反対だ。明るくて、前向きで、行動力があって───まるで鏡に写したように、三玖とは似つかない娘だった。
だから、だろうか。その姿があまりに眩しくて、三玖は意味もなく質問を投げ掛けてしまう。
まるで照りつける太陽の光をカーテンで遮ろうとするように。
なんて浅ましいことだろうと自分でも思うが、少しでも彼女の弱いところが見たくて。
まるで照りつける太陽の光をカーテンで遮ろうとするように。
なんて浅ましいことだろうと自分でも思うが、少しでも彼女の弱いところが見たくて。
「……怖くは───ないの?
だって、その───友達とか、家族とか。死んじゃうかもしれないのに」
「怖いよ。怖いけど」
だって、その───友達とか、家族とか。死んじゃうかもしれないのに」
「怖いよ。怖いけど」
けれど、ああ。
どこまでも、この少女はただただ眩しくて───
どこまでも、この少女はただただ眩しくて───
「でも、何もしない方がもっと怖いんだ。
全部を助けるなんてわたしにはきっと出来ないけど……せめて手を伸ばして死ぬ気で頑張るくらいは、出来る筈だから」
全部を助けるなんてわたしにはきっと出来ないけど……せめて手を伸ばして死ぬ気で頑張るくらいは、出来る筈だから」
今の三玖にはその輝きが、あまりにも痛かった。
何かを得るために手を伸ばして、死ぬ気で頑張って。
そうして駆け抜けることの出来る彼女のことが───あまりにも、羨ましかった。
何かを得るために手を伸ばして、死ぬ気で頑張って。
そうして駆け抜けることの出来る彼女のことが───あまりにも、羨ましかった。
◆◆
きっと彼女は、何かに悩んでいるんだろう。
少なくとも藤丸立香の目には、中野三玖という少女はそう写った。
少なくとも藤丸立香の目には、中野三玖という少女はそう写った。
姉妹の話になった時もそうだし、全体的にどことなく、彼女からはただの恐怖以外の感情が伝わってきた。
別に立香は心理カウンセラーではない。これはただの経験。これまで、多くのサーヴァント達と関わって旅をしてきた経験から判断しているだけに過ぎない。
その生涯を以って人類史の礎石となった影法師───サーヴァント。
立香はこれまで、あまりにも多くの英霊を自分の剣として従えてきた。その手腕たるや、他ならぬ英霊自身の口からも人類史上最もサーヴァントに詳しい人間だと称された程。
それだけの数を従えていれば当然、問題やら確執やら、そういうものに向き合う場面も多くなってくるわけで。
必然、他人の感情の機微にはちょっとばかし敏感になる。その敏感に育った感性が、三玖に悩みの色を見た。
別に立香は心理カウンセラーではない。これはただの経験。これまで、多くのサーヴァント達と関わって旅をしてきた経験から判断しているだけに過ぎない。
その生涯を以って人類史の礎石となった影法師───サーヴァント。
立香はこれまで、あまりにも多くの英霊を自分の剣として従えてきた。その手腕たるや、他ならぬ英霊自身の口からも人類史上最もサーヴァントに詳しい人間だと称された程。
それだけの数を従えていれば当然、問題やら確執やら、そういうものに向き合う場面も多くなってくるわけで。
必然、他人の感情の機微にはちょっとばかし敏感になる。その敏感に育った感性が、三玖に悩みの色を見た。
けれど、会ったばかりの相手のデリケートな部分にそうズケズケと踏み入っていくほど立香は無神経ではない。
今はあくまで、ただ認識しただけ。出来ればどうにかしてあげたいと思うが、この手の事柄は急いだってロクなことにならないことも経験上分かっている。───今はとりあえず、彼女を守ることに専念しよう。立香は、そう思った。
今はあくまで、ただ認識しただけ。出来ればどうにかしてあげたいと思うが、この手の事柄は急いだってロクなことにならないことも経験上分かっている。───今はとりあえず、彼女を守ることに専念しよう。立香は、そう思った。
(……兎にも角にも、まずは他の戦える誰かと合流しないと。
おんぶにだっこになるつもりはないけど、わたしじゃ三玖をどこまで守れるか分からない)
おんぶにだっこになるつもりはないけど、わたしじゃ三玖をどこまで守れるか分からない)
魔術師としての立香は、はっきり言って平凡以下だ。
ちょっとした強化の魔術ですら使えない。唯一のアドバンテージといえば、今着用している魔術礼装くらいのものだ。
こと戦闘においては、遥か離れたカルデアに待機させている英霊達の影を呼び出して交戦したりは一応出来る。だがそれも、とてもではないが歴戦の英霊達と切った張った出来るような代物ではない。
だからこそ立香たちふたりに必要なものはシンプルに力だった。自分だけでは対応出来る状況に限界がある。そうなればあっさり殺されてしまうかもしれないし、三玖を取り零してしまうかもしれない。
ちょっとした強化の魔術ですら使えない。唯一のアドバンテージといえば、今着用している魔術礼装くらいのものだ。
こと戦闘においては、遥か離れたカルデアに待機させている英霊達の影を呼び出して交戦したりは一応出来る。だがそれも、とてもではないが歴戦の英霊達と切った張った出来るような代物ではない。
だからこそ立香たちふたりに必要なものはシンプルに力だった。自分だけでは対応出来る状況に限界がある。そうなればあっさり殺されてしまうかもしれないし、三玖を取り零してしまうかもしれない。
……考えれば考えるほど大変な状況だ。
さっきは偉そうなことを言ったけれど、やっぱり怖いものは怖い。
肺腑は張り付くように痛いし、胸の鼓動も煩いくらいだ。
死と隣り合わせなんて状況、確かにこれまで何度となく経験してきたが───"慣れている"から、まったく"平気"というわけではないのだ。
藤丸立香は世界を救った実績の持ち主でこそあれど、決して雄々しく煌めく英雄などではないのだから。
さっきは偉そうなことを言ったけれど、やっぱり怖いものは怖い。
肺腑は張り付くように痛いし、胸の鼓動も煩いくらいだ。
死と隣り合わせなんて状況、確かにこれまで何度となく経験してきたが───"慣れている"から、まったく"平気"というわけではないのだ。
藤丸立香は世界を救った実績の持ち主でこそあれど、決して雄々しく煌めく英雄などではないのだから。
それでも、守るべき者/ものがあるから諦めることは出来ない。
震えを押し殺して立ち上がろう、拳から血を垂らしてでも握り締めよう。
そうすることしか、自分には出来ないのだから。
震えを押し殺して立ち上がろう、拳から血を垂らしてでも握り締めよう。
そうすることしか、自分には出来ないのだから。
「あ。そういえば、わたしの知ってる人達のことを教えてなかったね。
えぇと、マシュ・キリエライトでしょ、宮本武蔵ちゃんでしょ。後は頼光さんに酒呑童子、清姫にエドモ───」
えぇと、マシュ・キリエライトでしょ、宮本武蔵ちゃんでしょ。後は頼光さんに酒呑童子、清姫にエドモ───」
………………この後、隣の少女から不審者を見るような目で見られたのは、無論言うまでもない。
【E-4/那田蜘蛛山/1日目・深夜】
【藤丸立香(女主人公)@Fate/Grand Order】
[状態]:健康
[道具]:基本支給品一式、魔術礼装・カルデア@Fate/Grand Order、ランダム支給品1~2
[思考・状況]
基本方針:殺し合いを止める。いつも通り、出来る限り最善の結末を目指す。
1:自分だけでは力不足なので、サーヴァントか頼れそうな人と合流したい
2:三玖を守る。サーヴァントのみんなのことはどう説明したものかな……!?
3:BBと話がしたい
[備考]
※参戦時期はノウム・カルデア発足後です。
※原作通り英霊の影を呼び出して戦わせることが可能ですが、面子などについては後続の書き手さんにお任せします。
[状態]:健康
[道具]:基本支給品一式、魔術礼装・カルデア@Fate/Grand Order、ランダム支給品1~2
[思考・状況]
基本方針:殺し合いを止める。いつも通り、出来る限り最善の結末を目指す。
1:自分だけでは力不足なので、サーヴァントか頼れそうな人と合流したい
2:三玖を守る。サーヴァントのみんなのことはどう説明したものかな……!?
3:BBと話がしたい
[備考]
※参戦時期はノウム・カルデア発足後です。
※原作通り英霊の影を呼び出して戦わせることが可能ですが、面子などについては後続の書き手さんにお任せします。
【中野三玖@五等分の花嫁】
[状態]:健康、精神的疲労
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1~3
[思考・状況]
基本方針:死にたくないし、殺したくもない。
1:立香への劣等感。自己嫌悪。
2:フータローたちとは───
3:この子は何を言ってるんだろう……
[備考]
※参戦時期は修学旅行中です。
[状態]:健康、精神的疲労
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1~3
[思考・状況]
基本方針:死にたくないし、殺したくもない。
1:立香への劣等感。自己嫌悪。
2:フータローたちとは───
3:この子は何を言ってるんだろう……
[備考]
※参戦時期は修学旅行中です。
| 前話 | お名前 | 次話 |
| Debut | 藤丸立香 | センチメンタルクライシス |
| Debut | 中野三玖 |