Alive A life~Revolution~ ◆0zvBiGoI0k
◆
意識が視界ごと地面に落下していく。
痛みはない。あらゆる感覚は速やかに機能を停止していく。
何も臭わない。何も聞こえない。
落ちていくというより、全てから解放されていく気がした。
痛みはない。あらゆる感覚は速やかに機能を停止していく。
何も臭わない。何も聞こえない。
落ちていくというより、全てから解放されていく気がした。
悔いはある。
残していくもの、果たしきれなかった無念の数は計り知れない。多くの人を悲しませてしまうだろう。
けれど。
悔いはあるけれども、恥はなかった。
やるだけの事はやった。受け継がれるものがあった。
肺が潰れるまで呼吸して、骨肉が裂けるまで走り続けた。その終着地がここならば、恥に思う事はない。
徒に引き伸ばす事もなく、安心して託して逝けた。
残していくもの、果たしきれなかった無念の数は計り知れない。多くの人を悲しませてしまうだろう。
けれど。
悔いはあるけれども、恥はなかった。
やるだけの事はやった。受け継がれるものがあった。
肺が潰れるまで呼吸して、骨肉が裂けるまで走り続けた。その終着地がここならば、恥に思う事はない。
徒に引き伸ばす事もなく、安心して託して逝けた。
全てを手放して瞼を閉じる寸前、鏡面に映る色に目が引かれた。
大地に横たわった赤い躰の龍。鱗は罅割れ息も絶え絶えといった様子。
その正しい呼称も終ぞ知る事がなく、色褪せた視界では録に思い出せなかったが、死にかけた脳裏には、ある名前が走馬灯めいて流れた。
大地に横たわった赤い躰の龍。鱗は罅割れ息も絶え絶えといった様子。
その正しい呼称も終ぞ知る事がなく、色褪せた視界では録に思い出せなかったが、死にかけた脳裏には、ある名前が走馬灯めいて流れた。
「ヒノ カミ 様」
家系に伝わる奉納の舞。
捧げるは火の神。
数百年絶やさずに継承されてきた、ある剣士との約束の儀。
竜神の威容を初めて見た時からその存在を想起させていた。そのものでないとしつつも、ずっと面影を感じていた。
捧げるは火の神。
数百年絶やさずに継承されてきた、ある剣士との約束の儀。
竜神の威容を初めて見た時からその存在を想起させていた。そのものでないとしつつも、ずっと面影を感じていた。
「 捧げ ます」
死に瀕した神に祈りを捧げる。
どうか届いて欲しい。そして叶うのなら、もう一度立ち上がって欲しい。力を貸して欲しい。
首だけではもう舞を見せられない。供物となるものは己自身。汚れた鬼の血など欲しくはないかもしれないが、それでも、願う。
どうか届いて欲しい。そして叶うのなら、もう一度立ち上がって欲しい。力を貸して欲しい。
首だけではもう舞を見せられない。供物となるものは己自身。汚れた鬼の血など欲しくはないかもしれないが、それでも、願う。
この身が向かうのはきっと地獄だけど。
家族と同じ場所には行けないだろうけど。
顎に噛み砕かれ、魂を永遠に焼かれ続けても構わない。それだけの苦行を以て祈願する。
家族と同じ場所には行けないだろうけど。
顎に噛み砕かれ、魂を永遠に焼かれ続けても構わない。それだけの苦行を以て祈願する。
この先、数知れない鬼と戦う人達が、勝利を得られますように。
苦難に立たされる人達が、少しでも無事で生き延びられますように。
そして。
ただひとり残されて生きていくしかない妹が。
どうか幸せになりますように。
ただひとり残されて生きていくしかない妹が。
どうか幸せになりますように。
◆
命の脈が決壊する音。
硬い皮膚の奥から烈なる炎が噴き荒れる。
それは真実血潮でなく、熱く燃える炎であった。
硬い皮膚の奥から烈なる炎が噴き荒れる。
それは真実血潮でなく、熱く燃える炎であった。
『─────────────!?』
滅殺に腹を括った明と悠も、正気を失った鬼も、傍観していた一花も、驚愕は全員に等しい感情だった。
わけても俯瞰の位置から一部始終を目撃していた一花はより一層の混乱だ。
割れた鏡の中から突如として龍が飛び出したかと思えば、炭治郎の首と体を飲み込んで斬り結ぶ三人の間に割って入り、刀と爪を諸共に受けていた。
わけても俯瞰の位置から一部始終を目撃していた一花はより一層の混乱だ。
割れた鏡の中から突如として龍が飛び出したかと思えば、炭治郎の首と体を飲み込んで斬り結ぶ三人の間に割って入り、刀と爪を諸共に受けていた。
「ア”……ッァ、アアアアア」
鬼は蜷局(とぐろ)を巻いた中心に閉じ込められていた。
激しくもがいて胴を貫通した腕が抜けずにいる。手当り次第に爪を立て肉を引き千切っても龍は抵抗しない。
その光景は獲物を締め付ける捕食者ではなく、子を護る親が我が身を揺り籠にしているのに似ていた。
激しくもがいて胴を貫通した腕が抜けずにいる。手当り次第に爪を立て肉を引き千切っても龍は抵抗しない。
その光景は獲物を締め付ける捕食者ではなく、子を護る親が我が身を揺り籠にしているのに似ていた。
『GUOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!』
高らかに龍が吼える。
死に際の断末魔ではない、誇りある、天に昇っていく荘厳さがあった。
炎上する龍体。開いた顎のみならず罅割れ裂けた各所からも漏出し、やがて全身に燃え広がっていく。
死に際の断末魔ではない、誇りある、天に昇っていく荘厳さがあった。
炎上する龍体。開いた顎のみならず罅割れ裂けた各所からも漏出し、やがて全身に燃え広がっていく。
「何だ……!?」
「禰豆子ちゃん……っ!」
「禰豆子ちゃん……っ!」
猛火は勢いを増しついに龍の全長が炎そのものと化して、中心にいる鬼を包み隠した。球状に変じて逃げ場を塞ぐ。
誰もが、黙したまま燃えるさまを眺めた。火葬の最中のある静謐な空気が漂う。
充満する熱気に目を開けていられず、思わず一花は手を前に広げて顔にかかる熱を凌ぐ。
そうして隠れた視界の内で、見えるはずのない、幻を見た。
誰もが、黙したまま燃えるさまを眺めた。火葬の最中のある静謐な空気が漂う。
充満する熱気に目を開けていられず、思わず一花は手を前に広げて顔にかかる熱を凌ぐ。
そうして隠れた視界の内で、見えるはずのない、幻を見た。
「─────────────え」
指でこすり、萎んでしまいそうになりながらよく目を凝らす。
炎の中で、動くものがある。猛火の中心に立ち尽くしながら、未だ原型を保っている。
獣、魚、虫、樹、木、菌類に至るあらゆる生命体にとって炎は死をもたらすというのに、鬼は健在だ。
身を包む炎など意に介さずに存在してる。これでも倒すには至らないというのか。
武器を構え直す明を、先んじて異変を察知した悠が手で制した。
炎の中で、動くものがある。猛火の中心に立ち尽くしながら、未だ原型を保っている。
獣、魚、虫、樹、木、菌類に至るあらゆる生命体にとって炎は死をもたらすというのに、鬼は健在だ。
身を包む炎など意に介さずに存在してる。これでも倒すには至らないというのか。
武器を構え直す明を、先んじて異変を察知した悠が手で制した。
「待ってください、何かが……おかしい」
火の勢いが弱まってるためか、徐々に輪郭を浮かび上がらせる。
現れたのは鬼には変化があった。鬼女と呼ぶ他ない形相は薄らいでいる。身の丈も童女の姿に戻っている。
呆然と佇み、瞳を閉じて奔流のままに身を任せている。劫火は鬼を支配し、衝き動かしていた狂気だけを焼き払っているというのか。
現れたのは鬼には変化があった。鬼女と呼ぶ他ない形相は薄らいでいる。身の丈も童女の姿に戻っている。
呆然と佇み、瞳を閉じて奔流のままに身を任せている。劫火は鬼を支配し、衝き動かしていた狂気だけを焼き払っているというのか。
「炎が……吸いこまれていく……?」
不死鳥は自ら炎に見を焚べて死に、灰の中から蘇る。
炎は鬼を滅ぼそうとはしなかった。死と新生の機会を与え、そして今は鬼を取り囲まず、鬼が炎の核となってその身に取り込んでいっている。
炎は鬼を滅ぼそうとはしなかった。死と新生の機会を与え、そして今は鬼を取り囲まず、鬼が炎の核となってその身に取り込んでいっている。
「炭治郎」
明は見た。幻を。ありえぬ妄想を。
巻き込まれ吸収されていく炎が、たまたまそのように形に見えた。きっとただそれだけの話。
そう弁えた上で、明はその光景に目を奪われ落涙する。
妹を暖かく、愛おしく抱きしめる兄。
そんな優しい幻想を、振り払いたくなかった。
巻き込まれ吸収されていく炎が、たまたまそのように形に見えた。きっとただそれだけの話。
そう弁えた上で、明はその光景に目を奪われ落涙する。
妹を暖かく、愛おしく抱きしめる兄。
そんな優しい幻想を、振り払いたくなかった。
昇天が終わる。
地獄に通じていそうな程の炎も熱もなくなって、何もかもかき消えた。
残ったのは、焦げ跡すらない鮮やかな着物を纏った、童の影がひとつ。
地獄に通じていそうな程の炎も熱もなくなって、何もかもかき消えた。
残ったのは、焦げ跡すらない鮮やかな着物を纏った、童の影がひとつ。
「禰豆子ちゃん……」
ドライバーを外し、変身を解いた悠が歩み寄る。
刺激しないよう警戒を解き、一抹の不安を滲ませて。
刺激しないよう警戒を解き、一抹の不安を滲ませて。
「う……」
意識が目覚める。目を開けた少女は屈んで自分を窺う悠を見て。
「おは、よう。はるか」
無邪気に、朗らかに、唇を綻ばせた。
「戻ってる……!よかった……本当に……」
「よかった。うん、よかった、ねぇ」
「よかった。うん、よかった、ねぇ」
肩を抱いて安堵と喜びに打ち震える。そんな悠を見て、禰豆子は労うように頭に手を優しく置いた。
それを見た漸く明も深く息を吐いて腰を下ろす。どっと疲れが表に出た。腹に溜まった鉛を吐き出した、晴れ晴れとした心地だった。
それがこの戦いの、終焉だった。
それを見た漸く明も深く息を吐いて腰を下ろす。どっと疲れが表に出た。腹に溜まった鉛を吐き出した、晴れ晴れとした心地だった。
それがこの戦いの、終焉だった。
「そっか。ずっと妹を探してたんだもんね。
寂しがらないように、迎えに来てあげたんだ」
寂しがらないように、迎えに来てあげたんだ」
少し離れたところから一花は一件落着の様子を見届ける。
危険は去ったし、二人とも危ない人という誤解は解けてるが、各々で近寄り難い事情がある。まだまだ距離を取っておきたかった。
危険は去ったし、二人とも危ない人という誤解は解けてるが、各々で近寄り難い事情がある。まだまだ距離を取っておきたかった。
「偉いなあタンジロー君は。頑張ったんだね。さすが長男だ」
あの時見たものが何だったのか。一花はあまり深く考えないでいた。考えようとするのを止めた。
陽炎が作った幻覚とか、目の錯覚とか、こっちの都合のいい妄想とか、色々並び立てられたところで理解できる気がしない。
これはただ、信じたいだけだ。最初に出会って、触れ合って、話し合った思い出。
先に生まれた兄が、後に生まれた妹を助けにやって来る。そんな希望が叶うのに足る人なのだと。
陽炎が作った幻覚とか、目の錯覚とか、こっちの都合のいい妄想とか、色々並び立てられたところで理解できる気がしない。
これはただ、信じたいだけだ。最初に出会って、触れ合って、話し合った思い出。
先に生まれた兄が、後に生まれた妹を助けにやって来る。そんな希望が叶うのに足る人なのだと。
「ほーんと、なんもできてないや、私」
今度は、比較的前向きな自虐だった。湿っぽい空気にあてられたからかもしれない。
ああいう風にできるのは、とても格好がよく、勇気が要る事。
立ち位置を見失いそうになると嘘で塗り固めてしまう身には、あの綺麗なあり方は目が眩んでしまう。
ああいう風にできるのは、とても格好がよく、勇気が要る事。
立ち位置を見失いそうになると嘘で塗り固めてしまう身には、あの綺麗なあり方は目が眩んでしまう。
隣で横たわる風太郎に視線を落とす。傷らだけで放置してるせいか、顔色が悪い。
あれだけの大騒ぎだったというのに、まだ目が覚めていないのは心配だ。
すぐに手当した方がいいのだろうが、当ては不思議な力を持つ立香だけ。すぐに運びたいが一花だけでは到底不可能。
あれだけの大騒ぎだったというのに、まだ目が覚めていないのは心配だ。
すぐに手当した方がいいのだろうが、当ては不思議な力を持つ立香だけ。すぐに運びたいが一花だけでは到底不可能。
「ちゃんとお願いすれば手伝ってくれる……かなあ。でも禰豆子ちゃんやおじさんの方はともかく緑の人は……ううーん……」
しこりになってる黒々とした憤りは自覚してるが、本人でもないのにぶつけるのも気が引ける。
アマゾン、とかいうのも一花はほとんど知らない。ヘンに冷静になってしまっただけに非常に複雑だ。
二乃ならば、とりあえず言いたいことだけは言いそうだが。
アマゾン、とかいうのも一花はほとんど知らない。ヘンに冷静になってしまっただけに非常に複雑だ。
二乃ならば、とりあえず言いたいことだけは言いそうだが。
「……?なんだろ、この耳鳴り」
頭に残る感じに響いてきた音に耳を塞ぐ。前に頭をぶつけた後遺症だろうか。
目の前に落ちて散らばったガラス片を通して、無数の自分と目が合わさる。
そういえば。鏡について、何か大事な事を言われていた気がする。
例えば、モンスターが鏡から出てくる時、ガラスを引っ掻くみたいな音がする、とか。
目の前に落ちて散らばったガラス片を通して、無数の自分と目が合わさる。
そういえば。鏡について、何か大事な事を言われていた気がする。
例えば、モンスターが鏡から出てくる時、ガラスを引っ掻くみたいな音がする、とか。
漠然とした焦りから懐からカードデッキを取り出す。
突きの時点でこうなっていたのか、地面に落ちた衝撃でか、表面の紋章は砕けていた。
突きの時点でこうなっていたのか、地面に落ちた衝撃でか、表面の紋章は砕けていた。
狼狽した隙を狩りの好機と定めたのか。意識のない無防備の風太郎の首を狙って、ガラスに映った鏡面の中から細長い何かが飛び出した。
「だめっ!」
咄嗟に前に差し出した腕に管が幾重にも巻き付く。
鞭にも見えるそれは生物の器官、粘り気のある舌だった。
引き剥がす事も、引っ張る力に逆らう事もできず巻き取られていく。
ガラスの中には、緑色の怪物がいた。カメレオンめいた目でこちらを睨めつけていた。
先程の禰豆子と同じだと、知識もないのに本能で分からせられた。
餌として食べれる事の可否でしか見ていない、捕食者の目だと。
鞭にも見えるそれは生物の器官、粘り気のある舌だった。
引き剥がす事も、引っ張る力に逆らう事もできず巻き取られていく。
ガラスの中には、緑色の怪物がいた。カメレオンめいた目でこちらを睨めつけていた。
先程の禰豆子と同じだと、知識もないのに本能で分からせられた。
餌として食べれる事の可否でしか見ていない、捕食者の目だと。
「フータ────」
足で踏ん張り切れずにガラスに飛び込んでいく。ぶつかっても肌を刺したりせず、沼に落ちるように飲み込まれていく。
名を呼んで気づいてもらおうとした。
手を伸ばして引っ張ってもらおうとした。
そのどちらも、空振りに終わる。
誰の手も掴めずに、中野一花はこの世界から消失した。
名を呼んで気づいてもらおうとした。
手を伸ばして引っ張ってもらおうとした。
そのどちらも、空振りに終わる。
誰の手も掴めずに、中野一花はこの世界から消失した。
◇
『────渡して言うのもなんだけどさ。やっぱり、これはあまり使ってほしくないんだ』
『ライダーになるってのはさ、簡単じゃないんだ。いやなるだけなら楽だし、俺だって偶然たまたまでなっちゃったんだけど。
あそこで拾わなければ、ライダーになろうなんて思わなかったし』
あそこで拾わなければ、ライダーになろうなんて思わなかったし』
『ライダーは願いを叶える為に戦う。自分が譲れないもの、守りたいものを守りたいから戦いを選んだ。
そりゃあ中には遊び半分のとかあったけど、大切な人を救うとか、生きたいとか、絶対悪いとは言い切れないものもいっぱいあった。
俺も、最後にはちゃんと言える願いを持てた』
そりゃあ中には遊び半分のとかあったけど、大切な人を救うとか、生きたいとか、絶対悪いとは言い切れないものもいっぱいあった。
俺も、最後にはちゃんと言える願いを持てた』
『すげー悪い奴がいたし、いい奴だっていたよ。けどそんな、いいとか悪いとか関係なくみんな戦って、みんな死んじゃうんだ。
あ、浅倉と北岡さんはどうなったか知らないんだけど……俺先に死んじゃったから。
えっと、つまり、何が言いたいっていうとさ……』
あ、浅倉と北岡さんはどうなったか知らないんだけど……俺先に死んじゃったから。
えっと、つまり、何が言いたいっていうとさ……』
『戦うって、めちゃくちゃ辛いんだ。
殴られたら痛いし、殴ってもやっぱりどっかが痛くなる。
自分がすげえ嫌な思いをしたり、他人にさせたりするかもしれない。
そういうのをぐっと堪えて戦うには、はっきりさせとかなきゃいけないんだ。自分が信じるものを……ってやつをさ』
殴られたら痛いし、殴ってもやっぱりどっかが痛くなる。
自分がすげえ嫌な思いをしたり、他人にさせたりするかもしれない。
そういうのをぐっと堪えて戦うには、はっきりさせとかなきゃいけないんだ。自分が信じるものを……ってやつをさ』
『もちろん俺達はみんなを絶対守るし、戦わせたりしない。それが俺の戦う理由だから。
でもほんとに、ほんとにどうしようもなくなって、これを使うしかないってなったら、ちょっとでも考えてほしいんだ。
そうしないで、理由もないまま戦ったら絶対後悔するって……俺は思うからさ』
でもほんとに、ほんとにどうしようもなくなって、これを使うしかないってなったら、ちょっとでも考えてほしいんだ。
そうしないで、理由もないまま戦ったら絶対後悔するって……俺は思うからさ』
「城戸さんの、言う通りだったなぁ……」
昏く淀んだ空を見上げる。
見える景色は変わらないが、さっきとは異なる場所にいる。魚が陸に上がったような息苦しさがあった。
見える景色は変わらないが、さっきとは異なる場所にいる。魚が陸に上がったような息苦しさがあった。
人の気配がない。命の手触りがない。道路標識の文字が逆さまになって書かれてる。
よそから保存した画像をそっくり反転させただけの、まさに鏡写しの世界だ。
『鏡の中の世界』ミラーワールド。
名前のファンタジックさとは裏腹に、景観は現実の町並みと変わりがない。家やマンションが建ち並び、人工物に溢れてる。
ただひとつの差異は、遠くの方で見える透明な影くらいか。
隣の山に並ぶ大きさの、数十メートルは超える光の巨人。
ミラーワールドに迷い込んだ一花にも気づけない存在感の無さと、異様さを孕み、矛盾だらけのまま景色に溶けていく。
よそから保存した画像をそっくり反転させただけの、まさに鏡写しの世界だ。
『鏡の中の世界』ミラーワールド。
名前のファンタジックさとは裏腹に、景観は現実の町並みと変わりがない。家やマンションが建ち並び、人工物に溢れてる。
ただひとつの差異は、遠くの方で見える透明な影くらいか。
隣の山に並ぶ大きさの、数十メートルは超える光の巨人。
ミラーワールドに迷い込んだ一花にも気づけない存在感の無さと、異様さを孕み、矛盾だらけのまま景色に溶けていく。
「さむ……」
震える肩を掻き抱く。気温は高くも低くもないのに猛烈に寒気がした。
人が生きられない環境に、生存本能がアラートを鳴らしている。
その証拠に───体中から細かな粒子がばら撒かれる。
ミラーワールドに落ちた人間に訪れる末路。一粒一粒が自分であった欠片であり、数分もかからずに分解していく。
人が生きられない環境に、生存本能がアラートを鳴らしている。
その証拠に───体中から細かな粒子がばら撒かれる。
ミラーワールドに落ちた人間に訪れる末路。一粒一粒が自分であった欠片であり、数分もかからずに分解していく。
窓に掌を置いて前に押してみる。どれだけ力を入れても先に進まず、思わず叩いても、指先すら沈まない。
外の世界との扉が開いたりはせず、ただ無機質に自分自身の顔を映し出してる。
外の世界との扉が開いたりはせず、ただ無機質に自分自身の顔を映し出してる。
やがて無駄と悟って、窓を背にしてもたれかかって、ズルズルと腰を下ろした。
ミラーワールドに入った人間はライダー以外に出ていけない。
真司から受けたかどうか曖昧な説明がまざまざと浮かんだ。
ミラーワールドに入った人間はライダー以外に出ていけない。
真司から受けたかどうか曖昧な説明がまざまざと浮かんだ。
「消えちゃうんだ、私」
刻一刻と存在を削がれ続けても、痛みはなかった。
けれど、『無くなっていく』恐怖だけは抑えようがない。心の底から震えが止まらない。
けれど、『無くなっていく』恐怖だけは抑えようがない。心の底から震えが止まらない。
「五月ちゃんもこんなだったのかな……怖かっただろうな」
腕の中で事切れた妹の最期。
見ているだけでも死にそうだったのが、こうして我が身で追体験する事になって、あの時の五月の無念さを理解する。
見ているだけでも死にそうだったのが、こうして我が身で追体験する事になって、あの時の五月の無念さを理解する。
「でも───いいよね、これで。フータロー君は助けられんだし。
二乃と三玖には怒られちゃうけど、フータロー君を見つけたんだからこれでおあいこってことで」
二乃と三玖には怒られちゃうけど、フータロー君を見つけたんだからこれでおあいこってことで」
明らかな虚勢を、誰に見せるでもなく張る。
ここに来ても強がれる理由は、たったひとつだけ希望を残せたから。
五つ子全員の家庭教師。今や誰にとってもかけがえのなくなった人が無事でいる。
ちゃんと守り抜けたという未来を糧に、どうにか取り乱すのを抑え込んでいた。
ここに来ても強がれる理由は、たったひとつだけ希望を残せたから。
五つ子全員の家庭教師。今や誰にとってもかけがえのなくなった人が無事でいる。
ちゃんと守り抜けたという未来を糧に、どうにか取り乱すのを抑え込んでいた。
「戦える人も集まったんだから、三人が集まればきっと大丈夫だよね。フータロー君なら上手く慰めてくれるよね。
むしろこれから私がいなくなっちゃうっていうのに、頑張ってくれなきゃ困るし」
むしろこれから私がいなくなっちゃうっていうのに、頑張ってくれなきゃ困るし」
姉らしく。
誇らしく。
終わりはいつもと変わりない軽口で。
学校の帰りに別れの挨拶をする気分で最期を迎え入れる。
そういう心構えをしてれば、先に逝った二人の待つ天国に行けるのではと期待して。
誇らしく。
終わりはいつもと変わりない軽口で。
学校の帰りに別れの挨拶をする気分で最期を迎え入れる。
そういう心構えをしてれば、先に逝った二人の待つ天国に行けるのではと期待して。
「そう─────私が、いなくても──────────」
、割れる。
「……やだ」
溢れる。
「いやだよ」
零れる。
「死にたく、ないよ」
関節の軋みより小さな音が、空洞に反響し重なり合う。
体の内側から食い破られる。
仕掛けられた爆弾が起動する。
胸の奥底の、一番深い暗闇で弾けた火花が、瞬く間に全身に燃え広がった。
体の内側から食い破られる。
仕掛けられた爆弾が起動する。
胸の奥底の、一番深い暗闇で弾けた火花が、瞬く間に全身に燃え広がった。
「消えたくなんかないよ。離れ離れになんかなりたくないよ。誰にも取られたくないよ。
これから、やりたいこといっぱいあるのに。伝えられなかったことがいっぱいあるのに……っ!
わたし、まだなんにもできてない。頑張ったのに、本気の気持ちなのに、嘘のままで終わっていいわけないよ……!
ぁ─────ぁ、ぁぁああああああああ──────────────!
やだ、やだやだよ……っ!こわいよ、さびしいよ、助けてよ……っ!」
これから、やりたいこといっぱいあるのに。伝えられなかったことがいっぱいあるのに……っ!
わたし、まだなんにもできてない。頑張ったのに、本気の気持ちなのに、嘘のままで終わっていいわけないよ……!
ぁ─────ぁ、ぁぁああああああああ──────────────!
やだ、やだやだよ……っ!こわいよ、さびしいよ、助けてよ……っ!」
託す。残す。信じる。見守る。応援する。
全部嘘だ。
どれもこれも浅ましい自己弁護だ。
風太郎を、好きな人をこんなにも求めている。欲しいと思ってる。
彼の視線も思いも行動も独占しなければ気が済まない。
なのに何も言えず、気づいてももらえずに消えるなんて耐えられない。
告白する勇気がないまま隠していた想いが無駄だったと、諦められるはずがなかった。
全部嘘だ。
どれもこれも浅ましい自己弁護だ。
風太郎を、好きな人をこんなにも求めている。欲しいと思ってる。
彼の視線も思いも行動も独占しなければ気が済まない。
なのに何も言えず、気づいてももらえずに消えるなんて耐えられない。
告白する勇気がないまま隠していた想いが無駄だったと、諦められるはずがなかった。
失いたくないもの。
嘘にしたくないもの。
諦められないものを抱えて沈む事に怯え、少女は泣き喚く。
涙を止めるすべは、どこにもなかった。幼い子どものように泣きじゃくる事だけが、最後に許された自由だ。
嘘にしたくないもの。
諦められないものを抱えて沈む事に怯え、少女は泣き喚く。
涙を止めるすべは、どこにもなかった。幼い子どものように泣きじゃくる事だけが、最後に許された自由だ。
涙は希望を起こさない。本音は条理を覆さない。
奇跡は積み重ねる行為が必要だ。
例外には選ばれるだけの資格が要る。
中野一花にはどちらもない。少ない瑕疵はあれど邪悪さは微塵もない、普通の善良な彼女にはそれだけの因果がない。
奇跡は積み重ねる行為が必要だ。
例外には選ばれるだけの資格が要る。
中野一花にはどちらもない。少ない瑕疵はあれど邪悪さは微塵もない、普通の善良な彼女にはそれだけの因果がない。
生まれる命の存在しない境界。
現実と切り離されたこの場所で、彼女が何を思い、何を残そうと聞く者はいない。目にする者はいない。
だから全てを吐露しても構わない。
もう隠す必要はない。嘘をつかなくていい。耐えなくていい。弱い自分を許してそのまま晒してもいい。
現実と切り離されたこの場所で、彼女が何を思い、何を残そうと聞く者はいない。目にする者はいない。
だから全てを吐露しても構わない。
もう隠す必要はない。嘘をつかなくていい。耐えなくていい。弱い自分を許してそのまま晒してもいい。
「私の気持ち を、選んでほしいよぉ………………!」
そうして、言葉は途切れた。
他愛のない嘘のように。
魂なんて淡い幻想は痕跡すら見当たらず。そこにいた証など一辺も残らない。
恋も、思いも、ここにはもう、なにもない。
他愛のない嘘のように。
魂なんて淡い幻想は痕跡すら見当たらず。そこにいた証など一辺も残らない。
恋も、思いも、ここにはもう、なにもない。
◇
ぼんやりと意識を起こしかけてまず思ったのは、目を開けるのが少し怖いな、ということだ。
あれからどうなったか。
炭治郎、明さんは無事なのか。
そして自分の体は果たしてちゃんと動いてくれるか。
記憶してる限りでも散々な有様だ。余波やらに戦いに巻き込まれて原型を留めてなかったりしてたら目も当てられない。
こうして思考していても、体の自由はまったく利かない。意識だけが飛んでるみたいだ。
あまり想像したくないが、これはあれか。走馬灯、というやつなのか。
炭治郎、明さんは無事なのか。
そして自分の体は果たしてちゃんと動いてくれるか。
記憶してる限りでも散々な有様だ。余波やらに戦いに巻き込まれて原型を留めてなかったりしてたら目も当てられない。
こうして思考していても、体の自由はまったく利かない。意識だけが飛んでるみたいだ。
あまり想像したくないが、これはあれか。走馬灯、というやつなのか。
『いつまで寝てるんだい上杉くん。早く起きないとこの話、もう終わっちゃうぜ?』
『主人公がバトル中に眠っていいのは』『起きる前にパワーアップイベントを挟む時だけだってのに』
『主人公がバトル中に眠っていいのは』『起きる前にパワーアップイベントを挟む時だけだってのに』
で、なんで出てくるのがお前なんだろうか。
走馬灯っていうのはあれだろ。命の危機に対してどうにか逃れようと記憶を辿るやつだろ。もうちょい人選なかったのか。
走馬灯っていうのはあれだろ。命の危機に対してどうにか逃れようと記憶を辿るやつだろ。もうちょい人選なかったのか。
『ふーん』『じゃあ寝てる時に起こしてくれる人で誰が思い浮かんだ?』
…………………………。
『過負荷 相手に無言で黙っちゃうとか赤点レベルに致命的だよ上杉くん』『なんせ弱みが丸見えだ』
『そりゃ好きな子が死んじゃって頑張る気力もないよね』『頑張りようがないし、魅せる死に様がない』
『残った負けヒロインレースには興味無しってわけだ』『かわいそー』
『僕が生きてる間に出会ってたら、その子達とは仲良くなれた気がするよ』
『そりゃ好きな子が死んじゃって頑張る気力もないよね』『頑張りようがないし、魅せる死に様がない』
『残った負けヒロインレースには興味無しってわけだ』『かわいそー』
『僕が生きてる間に出会ってたら、その子達とは仲良くなれた気がするよ』
……お前ってやつは、本当に人を煽るのが上手いよな。
『僕はマイナスだからね』『プラスな人を貶すのが好きだし、腐ってる奴に世話をかけるのも好きなのさ』
ああそうかい。
本当に言いたくないが、走馬灯にお前が出てきたのは正しかったよ。
顔を見るのも嫌な奴で、一緒の空気を吸いたくもなくて、起きるしかないからさ。
本当に言いたくないが、走馬灯にお前が出てきたのは正しかったよ。
顔を見るのも嫌な奴で、一緒の空気を吸いたくもなくて、起きるしかないからさ。
『あっそ』『それじゃあとっとと起きな主人公』
『女の子の涙を止めるのは、主人公の第一条件だ』
『僕は女の子のパンツさえ見られればいい派だけど』
『君はどうやら、エンディングまで見ないと満足できないみたいだ』
『女の子の涙を止めるのは、主人公の第一条件だ』
『僕は女の子のパンツさえ見られればいい派だけど』
『君はどうやら、エンディングまで見ないと満足できないみたいだ』
『フラグで詰みそうになったら、いつでも僕に会いに来な』
『マイナスに頼る思考回路に相応しい、台無し エンドに導いてあげるよ』
『マイナスに頼る思考回路に相応しい、
◆
「お前ってさ。意外とよく泣くよな」
どこか、懐かしい感じがした。
幼い頃の母との記憶なのか。寝ていたうちにいつの間にかされていた名残なのか。
一度目と違って、今度はしっかりと意識があった。堪能する気持ちはこれっぽっちもないが。
幼い頃の母との記憶なのか。寝ていたうちにいつの間にかされていた名残なのか。
一度目と違って、今度はしっかりと意識があった。堪能する気持ちはこれっぽっちもないが。
「……違うもん。フータロー君にキズモノにされたのが悔しいだけだもん」
「意味がわからん。どこからどう見ても俺のほうが傷だらけだろ」
「私の心が痛いんだよ」
「意味がわからん。どこからどう見ても俺のほうが傷だらけだろ」
「私の心が痛いんだよ」
目線がどこか非難がましい。お門違いとわかっていても、そうせざるを得ないのが乙女心だ。
突然現れた風太郎に手を取られた事も。
引かれるまま鏡の中を通過してミラーワールドを抜け出せた事も。
問題はそんなところではなかった。今の一花の心情はそれどころではなかった。
突然現れた風太郎に手を取られた事も。
引かれるまま鏡の中を通過してミラーワールドを抜け出せた事も。
問題はそんなところではなかった。今の一花の心情はそれどころではなかった。
全部聞かれていた。
全部だ。
嘘だと言って欲しかった。
嘘じゃなかった。
いつからいたのか、どこまで聞こえたのかと問い質したわけじゃない。
よく聞こえなかったとシラを通すかもしれないが、確かめる勇気もない。
さっきまで蝕んでいた死の恐怖をそっくり忘れてしまいそうになるだけの羞恥で、またしても顔から火が出そうだ。
全部だ。
嘘だと言って欲しかった。
嘘じゃなかった。
いつからいたのか、どこまで聞こえたのかと問い質したわけじゃない。
よく聞こえなかったとシラを通すかもしれないが、確かめる勇気もない。
さっきまで蝕んでいた死の恐怖をそっくり忘れてしまいそうになるだけの羞恥で、またしても顔から火が出そうだ。
「俺だってそっちも傷だらけだよ。同じくらい……だなんて比べるものじゃねえな」
「悲しいって、思ってくれるんだ」
「当たり前だろ」
「トモダチだから?それとも、別の意味で?」
「……お前さ」
「あはは、冗談だよ。でもこれくらいは言わしてよ。でないと気持ちがぐちゃぐちゃになっちゃってほんとに泣いちゃいそうだからさ」
「悲しいって、思ってくれるんだ」
「当たり前だろ」
「トモダチだから?それとも、別の意味で?」
「……お前さ」
「あはは、冗談だよ。でもこれくらいは言わしてよ。でないと気持ちがぐちゃぐちゃになっちゃってほんとに泣いちゃいそうだからさ」
泊りがけの勉強会ぐらいでしか使った経験のない低反発枕を思わせる質感に瞼を落としそうになる。
泣き腫らした顔と、血糊のついた顔。
膝を枕にして風太郎と一花は向き合っていた。
泣き腫らした顔と、血糊のついた顔。
膝を枕にして風太郎と一花は向き合っていた。
「……まあ、感謝されるほど役にも立ってねえけどな。
お前を引っ張り出してくれたのも、カメレオンみたいなのを倒したのも全部あの子のおかげだ。
自分の身すら守れちゃいない。できないままにこんなズタボロだ」
お前を引っ張り出してくれたのも、カメレオンみたいなのを倒したのも全部あの子のおかげだ。
自分の身すら守れちゃいない。できないままにこんなズタボロだ」
少し遠くで、明と悠と戯れてる禰豆子を見る。
彼女が今、いったいどういう状態なのかを知る者は誰もいない。
だがミラーワールドに入り、一花の居場所を特定して、途中邪魔をしたモンスターを焼き払ったのは変わらぬ事実だ。
風太郎は何も救出に寄与していない。した事と言えば、わざわざ禰豆子に頼んで一花の元に向かっただけ。
まるで意味がない行為だ。そして禰豆子には負担にすらならなかった。
眠ってる間に発破をかけられたせい浮ついて、つまらない意地を張っただけだ。
彼女が今、いったいどういう状態なのかを知る者は誰もいない。
だがミラーワールドに入り、一花の居場所を特定して、途中邪魔をしたモンスターを焼き払ったのは変わらぬ事実だ。
風太郎は何も救出に寄与していない。した事と言えば、わざわざ禰豆子に頼んで一花の元に向かっただけ。
まるで意味がない行為だ。そして禰豆子には負担にすらならなかった。
眠ってる間に発破をかけられたせい浮ついて、つまらない意地を張っただけだ。
「そんなことない。そんなこと、ないよ」
黒髪に手を落として、優しく愛おしげに撫で上げる。
他の誰かだったら、すぐに握り返せないかもしれなかった。
いや違う。彼の手でなくては嫌だった。
消えかけた手を握って、ここにいる事を確かめさせてくれたのは、他でもない風太郎だった。
必要もないのに、身を押して自分を見つけてくれた事が、涙が出るほどに嬉しいから。
他の誰かだったら、すぐに握り返せないかもしれなかった。
いや違う。彼の手でなくては嫌だった。
消えかけた手を握って、ここにいる事を確かめさせてくれたのは、他でもない風太郎だった。
必要もないのに、身を押して自分を見つけてくれた事が、涙が出るほどに嬉しいから。
「二乃と三玖にも会ってあげてよ。ぜったい喜ぶから。そうしたらみんな、きっともっと頑張れるよ。
私達には、君が必要なんだよ」
私達には、君が必要なんだよ」
いま会ったらもみくちゃにされて大変な目に合うだろうなあ。
という所感を飲み込んで風太郎は身を預けた。
血は足りなくて朦朧とするし、至るところが斬れたり裂けたりで、正直起きてるのも億劫だ。
でも頭に触れる感触だけは、やけに安心できて、心地が良かった。
という所感を飲み込んで風太郎は身を預けた。
血は足りなくて朦朧とするし、至るところが斬れたり裂けたりで、正直起きてるのも億劫だ。
でも頭に触れる感触だけは、やけに安心できて、心地が良かった。
「そうか。鮫島に会ったのか」
とにもかくにも、腹を満たす事が最優先事項だった。
手を油まみれにしながら揚げ鳥を齧る。生きるには食べるしかなかった。
血も肉も作るには元手が要る。飛んだ腕が生えてきたりはしないし、本物そっくりに精巧な義手も作られたりはしない。
だから体力の回復に一番手っ取り早い方法にありつく。自力で生み出す分では足りないエネルギーを外から補充する。
手を油まみれにしながら揚げ鳥を齧る。生きるには食べるしかなかった。
血も肉も作るには元手が要る。飛んだ腕が生えてきたりはしないし、本物そっくりに精巧な義手も作られたりはしない。
だから体力の回復に一番手っ取り早い方法にありつく。自力で生み出す分では足りないエネルギーを外から補充する。
「はい。助けるのは、間に合いませんでしたが」
明の倍の量を細身の体で平らげる悠は、本当に体の穴が塞がっていった。
「いや、感謝するよ。伝えてくれただけでもな」
悠も、禰豆子と同じく人ではない。アマゾンという吸血鬼とはまた違う存在。
細かい説明はまだだが、少なくとも悠個人については明は一定に心を許していた。
人食いになってしまった禰豆子をここまで匿い、守護していた。今はその点の信で十分だと。
細かい説明はまだだが、少なくとも悠個人については明は一定に心を許していた。
人食いになってしまった禰豆子をここまで匿い、守護していた。今はその点の信で十分だと。
「俺は上に行って仲間を探す。お前もついてくるか」
揚げ鳥をがっつきながら明は今後の方針を訪ねた。
「いえ、僕は……」
言い淀む悠には懸念があった。変身した悠を見た一花の脅えの中にある影を鋭敏に嗅ぎ捉えていた。
恐らく、彼女は千翼に会っている。先に会った仁とも会ってる証言から。近くにいる可能性は高い。
溶原性細胞のオリジナルを生かしておく危険性と、仁に殺させるわけにはいかないという焦り。
幸いに上杉という少年はバイクを持っていた。単独で走らせれば見つけられる目はある。
恐らく、彼女は千翼に会っている。先に会った仁とも会ってる証言から。近くにいる可能性は高い。
溶原性細胞のオリジナルを生かしておく危険性と、仁に殺させるわけにはいかないという焦り。
幸いに上杉という少年はバイクを持っていた。単独で走らせれば見つけられる目はある。
「はるか」
裾を緩く引かれて、忘我から立ち戻る。
たどたどしくも、人の言葉で語りかけてくる禰豆子には食人衝動に耐える仕草は見られなかった。
たどたどしくも、人の言葉で語りかけてくる禰豆子には食人衝動に耐える仕草は見られなかった。
「だめ、だよ。いっしょ、に、いよう」
王刀の口枷を外しているのに、苦悶する兆候はない。辛うじて抑えていた時とは雲泥の違いだ。
これが元の、人を食べる前の禰豆子の素の姿なのだろう。
これが元の、人を食べる前の禰豆子の素の姿なのだろう。
ずっと一緒にいる。
それだけを願っていたのに、食欲を堪え切れず仲間を手にかけてしまい、袂を分かつしかなかったアマゾンがいた。
それだけを願っていたのに、食欲を堪え切れず仲間を手にかけてしまい、袂を分かつしかなかったアマゾンがいた。
「……彼らを送り届けるまでは一緒にいます。僕が背負わなければ全員を運べないようですから」
おいしかったと、後悔よりも勝ってしまった味覚に、マモルは苦しんでいた。
今の禰豆子はかつてのマモルであり、その先を乗り越えられたマモルだった。
結局、あの龍がいったいどう作用して禰豆子を鎮めたのかは分からずじまいだ。
龍の特性だからこそ可能だったという、条件の要素を満たした化学反応だったのか。
家族の絆、なんて文言でしか説明のつかない一握りの奇跡だったのか。
今の禰豆子はかつてのマモルであり、その先を乗り越えられたマモルだった。
結局、あの龍がいったいどう作用して禰豆子を鎮めたのかは分からずじまいだ。
龍の特性だからこそ可能だったという、条件の要素を満たした化学反応だったのか。
家族の絆、なんて文言でしか説明のつかない一握りの奇跡だったのか。
もし後者であるならば。
優しい救いであると同時に、とても残酷な事だ。
喜ぶ禰豆子に手を握られながら、そう悠は思った。
優しい救いであると同時に、とても残酷な事だ。
喜ぶ禰豆子に手を握られながら、そう悠は思った。
◆
戻れない道を進んだのだと、固く心に留め置いておく。
受け入れた炎は禁じられる荒業であり、不可逆の変化だ。
衝動を枯らす為に、人に戻すのではなく、鬼の先の領域へと昇ってしまった。
この体が、母が産み落としてくれたありのままの姿に戻ることは、もう決してないのだろう。
ひどい親不孝者だ。兄の願いが叶う日も、来なくなってしまった。
衝動を枯らす為に、人に戻すのではなく、鬼の先の領域へと昇ってしまった。
この体が、母が産み落としてくれたありのままの姿に戻ることは、もう決してないのだろう。
ひどい親不孝者だ。兄の願いが叶う日も、来なくなってしまった。
人にはなれず、鬼にも堕ち切る事もできずに、自分は生き続けてしまっている。
奪った命が返ってくるわけもなく、贖罪からは逃げられない。
待っているのは恐ろしく惨たらしい死で、落ち行く先は地獄しかない。
奪った命が返ってくるわけもなく、贖罪からは逃げられない。
待っているのは恐ろしく惨たらしい死で、落ち行く先は地獄しかない。
けど────────────
【禰豆子】
「お兄ちゃん」
劫火に包まれながら聞いた、涙が出るような優しい音。
謝罪だった。
感謝だった。
応援だった。
祝福だった。
意志があって、願いがあった。
恨み言の一つもなく。
伝えたかった言葉を余すところなく聞き終えた。
謝罪だった。
感謝だった。
応援だった。
祝福だった。
意志があって、願いがあった。
恨み言の一つもなく。
伝えたかった言葉を余すところなく聞き終えた。
「私は、最後まで生きるよ」
前へ、前へ。
受け継ぐ物語をもう一度。
進む事を止めずに歩き出す。
受け継ぐ物語をもう一度。
進む事を止めずに歩き出す。
【D-6/1日目・昼】
【宮本明@彼岸島 48日後…】
[状態]:ダメージ(絶大)、疲労(絶大)、精神的疲労(大)、胸元に斬傷、義手破損、出血(大)、火傷(小)、脳髄にダメージ(大)
[装備]:菊一文字@衛府の七忍、螺子×n@めだかボックス
[道具]:基本支給品一式、不明支給品0~2、沖田の首輪
[思考・状況]
基本方針:無惨を殺す。
1:悪鬼滅殺。
2:禰豆子を保護する。鬼殺隊の面子や炭治郎がこの会場で出会った者たちを探す。
[備考]
※少なくとも西山殺害後より参戦です。
[状態]:ダメージ(絶大)、疲労(絶大)、精神的疲労(大)、胸元に斬傷、義手破損、出血(大)、火傷(小)、脳髄にダメージ(大)
[装備]:菊一文字@衛府の七忍、螺子×n@めだかボックス
[道具]:基本支給品一式、不明支給品0~2、沖田の首輪
[思考・状況]
基本方針:無惨を殺す。
1:悪鬼滅殺。
2:禰豆子を保護する。鬼殺隊の面子や炭治郎がこの会場で出会った者たちを探す。
[備考]
※少なくとも西山殺害後より参戦です。
【上杉風太郎@五等分の花嫁】
[状態]:疲労(絶大)、出血(大、止血済み)、全身に切り傷。左手の全ての指骨折。左耳断裂。喉にダメージ(声を張れない程度)。両脚のアキレス腱断裂(移動が不可能ではない程度)
[装備]:制服
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0~1 球磨川の首輪、
[思考・状況]
基本方針:殺し合いからの脱出、生還を目指すが、具体的にどうするのかはわからん。
1:二乃、三玖との合流。
2:……。
[備考]
※修学旅行中(少なくとも79話ラスト以降)からの参戦。
[状態]:疲労(絶大)、出血(大、止血済み)、全身に切り傷。左手の全ての指骨折。左耳断裂。喉にダメージ(声を張れない程度)。両脚のアキレス腱断裂(移動が不可能ではない程度)
[装備]:制服
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0~1 球磨川の首輪、
[思考・状況]
基本方針:殺し合いからの脱出、生還を目指すが、具体的にどうするのかはわからん。
1:二乃、三玖との合流。
2:……。
[備考]
※修学旅行中(少なくとも79話ラスト以降)からの参戦。
【中野一花@五等分の花嫁】
[状態]:ダメージ(中)、頭部強打、顔面に切り傷(いずれも治癒)、悲しみ、自己嫌悪
[装備]:制服
[道具]:基本支給品一式、三玖の変装セット@五等分の花嫁、マンジュウでわかるFGO@Fate/Grand Order 、五月の髪飾り、不明支給品0~3
[思考・状況]
基本方針:好きな人を───
1.風太郎を連れて二乃たちと合流する。運ぶのは他の人達に手伝って欲しい
2.沖田達と合流しつつ北上して資料を集める
[備考]
※三年の新学期(69話)以降から参戦です。
[状態]:ダメージ(中)、頭部強打、顔面に切り傷(いずれも治癒)、悲しみ、自己嫌悪
[装備]:制服
[道具]:基本支給品一式、三玖の変装セット@五等分の花嫁、マンジュウでわかるFGO@Fate/Grand Order 、五月の髪飾り、不明支給品0~3
[思考・状況]
基本方針:好きな人を───
1.風太郎を連れて二乃たちと合流する。運ぶのは他の人達に手伝って欲しい
2.沖田達と合流しつつ北上して資料を集める
[備考]
※三年の新学期(69話)以降から参戦です。
【水澤悠@仮面ライダーアマゾンズ】
[状態]:ダメージ(大)、食事により回復中
[装備]:悠のアマゾンズドライバー@仮面ライダーアマゾンズ、悠のネオアマゾンズドライバー@仮面ライダーアマゾンズ
[道具]:基本支給品一式×2、CBR400R@現実、揚げ鶏(手羽先)@亜人
[思考・状況]
基本方針:狩るべきものを狩り、守りたいものを守る
1:人を喰う、あるいは殺したモノを狩る
2:仁より先に千翼、イユ、クラゲアマゾンを殺す
3:禰豆子が人として生きようとする限り、隣に立ち続ける
4:雨宮広斗を探す
5:いずれ雨宮雅貴と合流する
[備考]
※雨宮雅貴と情報を交換し、数時間後に落ち会う約束をしました。場所と時間は後続の方にお任せします。
※時期は2期12話より前
[状態]:ダメージ(大)、食事により回復中
[装備]:悠のアマゾンズドライバー@仮面ライダーアマゾンズ、悠のネオアマゾンズドライバー@仮面ライダーアマゾンズ
[道具]:基本支給品一式×2、CBR400R@現実、揚げ鶏(手羽先)@亜人
[思考・状況]
基本方針:狩るべきものを狩り、守りたいものを守る
1:人を喰う、あるいは殺したモノを狩る
2:仁より先に千翼、イユ、クラゲアマゾンを殺す
3:禰豆子が人として生きようとする限り、隣に立ち続ける
4:雨宮広斗を探す
5:いずれ雨宮雅貴と合流する
[備考]
※雨宮雅貴と情報を交換し、数時間後に落ち会う約束をしました。場所と時間は後続の方にお任せします。
※時期は2期12話より前
【竈門禰豆子@鬼滅の刃】
[状態]:健康、鬼、ドラグレッダーと融合
[装備]:王刀・鋸(小分けにして束ねて口枷にしてある)@刀語
[道具]:なし
[思考・状況]
基本方針:最後まで生きる
1:人を守り、助ける
[備考]
※人肉を食いました。
※王刀の効果で一時的に食人衝動が抑え込まれています→理由は不明ながら、現在はほぼ消失しています。
※太陽を克服しました。
※ドラグレッダーと融合したことで未知の変化が起きています。
食べたという形なのか、取り込んだのか、その逆なのか、具体的な経過は不明です。
※ミラーワールドへの侵入が可能になりました。
[状態]:健康、鬼、ドラグレッダーと融合
[装備]:王刀・鋸(小分けにして束ねて口枷にしてある)@刀語
[道具]:なし
[思考・状況]
基本方針:最後まで生きる
1:人を守り、助ける
[備考]
※人肉を食いました。
※王刀の効果で一時的に食人衝動が抑え込まれています→理由は不明ながら、現在はほぼ消失しています。
※太陽を克服しました。
※ドラグレッダーと融合したことで未知の変化が起きています。
食べたという形なのか、取り込んだのか、その逆なのか、具体的な経過は不明です。
※ミラーワールドへの侵入が可能になりました。
【悠のネオアマゾンズドライバー@仮面ライダーアマゾンズ】
クラゲアマゾンに支給。
悠のアマゾンズドライバーとは別物で、アマゾンオメガの強化形態であるニューオメガに変身できる。
強さの割に戦績がぱっとしないとは言っていけない。
クラゲアマゾンに支給。
悠のアマゾンズドライバーとは別物で、アマゾンオメガの強化形態であるニューオメガに変身できる。
強さの割に戦績がぱっとしないとは言っていけない。
【揚げ鶏@亜人】
宮本明に支給。
「手料理おとどけネット」のパックに詰まった手羽先。
人間の手首など入ってない安心設計。
宮本明に支給。
「手料理おとどけネット」のパックに詰まった手羽先。
人間の手首など入ってない安心設計。
※宇髄天元の日輪刀(先端欠け)@鬼滅の刃、宗像形の鉄製ブーメラン@めだかボックス、雅の支給品一式、佐藤の支給品(基本支給品一式×2、秋山蓮のリュックサック、折れた日本刀@現実、手鏡、ランダム支給品0~2(沖田)、ナイフ )
は誰かが回収したり、しなかったりしてます。
は誰かが回収したり、しなかったりしてます。
| 前話 | お名前 | 次話 |
| この無常の世界は護り斬れなかったものばかりさ | 宮本明 | []] |
| 上杉風太郎 | ||
| 中野一花 | ||
| 水澤悠 | ||
| 竈門禰豆子 |