鬼神爆走紅蓮隊・轟 ◆0zvBiGoI0k
◇
音が聞こえる。
ただ一人が音を束ね、階を振り分け。大小、高低、重軽、多種多様な音を発し、ただ一人で協奏している。
ただ一人が音を束ね、階を振り分け。大小、高低、重軽、多種多様な音を発し、ただ一人で協奏している。
それは歌だ。
声に宿るのは哀切に、瞋恚。奏でる者の心火と愛が多重に響き、交わり、旋律が紡がれる。
それこそは校歌斉唱。戦う者が己を奮い立たせる為、背負い携えるテーマソング。
声に宿るのは哀切に、瞋恚。奏でる者の心火と愛が多重に響き、交わり、旋律が紡がれる。
それこそは校歌斉唱。戦う者が己を奮い立たせる為、背負い携えるテーマソング。
此度の主題(テーマ)は即ち、鬼殺。尊き花を無惨に散らすを防がんとす、千年続いた同胞の歌。
血を流す少女の歌。
鬼を討つ戦歌を、黒髪めだかは絶唱していた。
血を流す少女の歌。
鬼を討つ戦歌を、黒髪めだかは絶唱していた。
日之影空洞が一時的に取得した光速移動のスキル、鬼神モードによる強化で可能となった『光化静翔(テーマソング) めだかスタイル』の真価。
教会地下の狭い中での疾走は範囲を床一面といわず壁に天井まで広がり、堂内を足の踏み場もないほど埋め尽くす。
比喩とは違う、本当に残像の分身は実像と全く変わりない質量を伴って、縦横無尽に暴れ回る。
教会地下の狭い中での疾走は範囲を床一面といわず壁に天井まで広がり、堂内を足の踏み場もないほど埋め尽くす。
比喩とは違う、本当に残像の分身は実像と全く変わりない質量を伴って、縦横無尽に暴れ回る。
「くだらぬ真似を……」
無数不停止のめだかによって包囲され、動きを物理的に封印されながらも無惨は冷ややかな顔を崩さない。
鬼神モードの影響下でも余裕のない決死の形相のめだかとは対象的だ。
どれだけ加速が乗った威力で吶喊しても、無惨の体は完全に破壊することは出来ない。鬼の再生力はこの程度で突破されはしない。
砕くだけでは足りぬ。
裂かれた程度では届かぬ。
頂点の座は未だ健在。猿真似の紛い物如きに、この超身体が遅れを取るなどあり得ない。
鬼神モードの影響下でも余裕のない決死の形相のめだかとは対象的だ。
どれだけ加速が乗った威力で吶喊しても、無惨の体は完全に破壊することは出来ない。鬼の再生力はこの程度で突破されはしない。
砕くだけでは足りぬ。
裂かれた程度では届かぬ。
頂点の座は未だ健在。猿真似の紛い物如きに、この超身体が遅れを取るなどあり得ない。
こんなものは分かり切った結果だ。
不老であり不滅である己が最後に勝つのは自明の理だ。
無惨が「くだらぬ真似」と毒づいたのはこの無意味な撹乱に対してではなく、別にある。
不老であり不滅である己が最後に勝つのは自明の理だ。
無惨が「くだらぬ真似」と毒づいたのはこの無意味な撹乱に対してではなく、別にある。
めだかが跳ね回る砲弾となって地下空間につけた夥しい亀裂は、石壁の耐久限界をとっくに超過している。。
累の糸で補修しなければすぐにでも大量の瓦礫が雪崩込み、満遍なく太陽の光が入ってくるだろう。
どんな攻撃もたちどころに再生する無惨に残った、唯一の弱点。
真に倒そうとするなら、特効となる太陽の下に引きずり下ろす他に無い。
外から壊すだけでは逃げられる。目の前でやろうとすれば阻止される。
その諸問題を解消する為の、新たなる黒神ファントムであった。
累の糸で補修しなければすぐにでも大量の瓦礫が雪崩込み、満遍なく太陽の光が入ってくるだろう。
どんな攻撃もたちどころに再生する無惨に残った、唯一の弱点。
真に倒そうとするなら、特効となる太陽の下に引きずり下ろす他に無い。
外から壊すだけでは逃げられる。目の前でやろうとすれば阻止される。
その諸問題を解消する為の、新たなる黒神ファントムであった。
取り入れたのは箱庭学園風紀委員長、雲仙冥利がめだか戦で使用した対人兵器「超躍弾(スーパーボール)」。
室内を異常に跳ね回り、人体に穴を空けるほどの弾性を、鬼神モード下の肉体に適用。
人間大の質量に、異常(アブノーマル)な域の剛性と柔軟性を獲得させる。
鬼の体は強度だけではなく、斯様な応用法にも対応できる。
接触時の跳ね返り、方向転換に伴う減速(マイナス)を極限までなくす事で永続的な跳弾を可能とした。
直線軌道で一発技だった黒髪ファントムの新たなバリエーション。いうなれば、黒神タイフーンとでも呼称されよう。
室内を異常に跳ね回り、人体に穴を空けるほどの弾性を、鬼神モード下の肉体に適用。
人間大の質量に、異常(アブノーマル)な域の剛性と柔軟性を獲得させる。
鬼の体は強度だけではなく、斯様な応用法にも対応できる。
接触時の跳ね返り、方向転換に伴う減速(マイナス)を極限までなくす事で永続的な跳弾を可能とした。
直線軌道で一発技だった黒髪ファントムの新たなバリエーション。いうなれば、黒神タイフーンとでも呼称されよう。
……本来の黒神ファントムは、真っ直ぐにしか進めない。
『光化静翔』を取り入れて完成した『黒神ファントム・ちゃんとした版』は、速度をそのままに、体にかかる負担を回数制限付きで克服したもの。
黒神ファントムの軌道に曲線が加えられるのは、これよりも先の未来。
ある古代の英雄の残響との戦いの佳境で、生と死の境に至った末に編み出される最終スタイルだ。
黒神タイフーンは負担は従来から変わらずに無理矢理方向転換する、継ぎ接ぎだらけの『負』完全版とでもいうべき形だ。
再生力に任せて、ピンボールのように壁にぶつかっては跳ね返り続ける。
今のめだかを表すような、歪な系統(ツリー)を進めてしまった果ての結実。
『光化静翔』を取り入れて完成した『黒神ファントム・ちゃんとした版』は、速度をそのままに、体にかかる負担を回数制限付きで克服したもの。
黒神ファントムの軌道に曲線が加えられるのは、これよりも先の未来。
ある古代の英雄の残響との戦いの佳境で、生と死の境に至った末に編み出される最終スタイルだ。
黒神タイフーンは負担は従来から変わらずに無理矢理方向転換する、継ぎ接ぎだらけの『負』完全版とでもいうべき形だ。
再生力に任せて、ピンボールのように壁にぶつかっては跳ね返り続ける。
今のめだかを表すような、歪な系統(ツリー)を進めてしまった果ての結実。
肌と肌が触れるすれ違いざまに、無惨の体の一部が千切れ飛ぶ。
めだか一人の全身で形成された無惨包囲網には、今や気圧の急激な開きで乱気流が発生している。
迂闊に踏み込めば生じた衝撃波に手足を巻き取られ、五体を四散させる羽目になる。
それさえも無惨には取るに足らない損害だが万が一、万が一にも首輪が衝撃で誤作動しないかという用心もある。
それというのも、全ては首輪の耐久試験をする前にめだかに割って入られた事にある。
先に累でどれだけの衝撃なら爆発しないかを検証できていれば手を煩わせもしなかったというのに。忌々しい憤慨が蓄積されていく。
めだか一人の全身で形成された無惨包囲網には、今や気圧の急激な開きで乱気流が発生している。
迂闊に踏み込めば生じた衝撃波に手足を巻き取られ、五体を四散させる羽目になる。
それさえも無惨には取るに足らない損害だが万が一、万が一にも首輪が衝撃で誤作動しないかという用心もある。
それというのも、全ては首輪の耐久試験をする前にめだかに割って入られた事にある。
先に累でどれだけの衝撃なら爆発しないかを検証できていれば手を煩わせもしなかったというのに。忌々しい憤慨が蓄積されていく。
また体が削がれる。
先程よりも、範囲が体の中心に寄っていた。
少しずつ、狙いが芯を捉えるようになってきている。
風圧が及ばないいわば台風の目に位置している無惨に対し、時折こうしてめだかから体当たりを食らわせてくる。
むしろ速度・重さからして、こちらの突進の方こそが本命としているようですらある。
不思議な事ではあるまい。
黒神めだかを知る者達ならば当たり前だと口を揃えてそう言うだろう。
真っ向勝負こそがめだかの土俵。堂々と立ち向かい、朗々と勝利する。王道に咲く大花なのだから。
先程よりも、範囲が体の中心に寄っていた。
少しずつ、狙いが芯を捉えるようになってきている。
風圧が及ばないいわば台風の目に位置している無惨に対し、時折こうしてめだかから体当たりを食らわせてくる。
むしろ速度・重さからして、こちらの突進の方こそが本命としているようですらある。
不思議な事ではあるまい。
黒神めだかを知る者達ならば当たり前だと口を揃えてそう言うだろう。
真っ向勝負こそがめだかの土俵。堂々と立ち向かい、朗々と勝利する。王道に咲く大花なのだから。
無惨がくだらないと評したのはそこだ。
物理的に逃げ道を塞ぎ、天井の補修に累を操作する事に意識を割かせて、めだかのみに集中できなくさせ、一定の時間無惨を足止めしている。
それでよしとすればいいものを、この女はあくまでも自分の手で自分を殴り倒すのに固執している。
この期に及んで、自分を更生させてやる腹づもりでいる。直接この手で殴ってやらねば気が済まないと抜かしている。
まだ戦闘不能になってないから、一撃ももらってないから、戦えていると思い上がっている。
一体どの口でそんな駄法螺を吹くのか。
勝つ気でいるのか。勝てると思ってるのか。
いつまでもこんなにわか柵で、そんな体で、封じ込め切れると。
物理的に逃げ道を塞ぎ、天井の補修に累を操作する事に意識を割かせて、めだかのみに集中できなくさせ、一定の時間無惨を足止めしている。
それでよしとすればいいものを、この女はあくまでも自分の手で自分を殴り倒すのに固執している。
この期に及んで、自分を更生させてやる腹づもりでいる。直接この手で殴ってやらねば気が済まないと抜かしている。
まだ戦闘不能になってないから、一撃ももらってないから、戦えていると思い上がっている。
一体どの口でそんな駄法螺を吹くのか。
勝つ気でいるのか。勝てると思ってるのか。
いつまでもこんなにわか柵で、そんな体で、封じ込め切れると。
「……っっ!?」
絶えず疾走していためだかの膝が、唐突にがくんと力を失う。
意に沿わぬ身体の痙攣で急速にスピードが落ち、乱気流は瞬く間に消失して、墜落する飛行機のように不時着した。
意に沿わぬ身体の痙攣で急速にスピードが落ち、乱気流は瞬く間に消失して、墜落する飛行機のように不時着した。
「ぐっ……!?、ア、ァアアアアアアアア───────!!」
急停止しためだかの顔に、隠しようのない苦痛の色が描かれる。
絶叫しながら胸を両腕で抱き、身悶えしながら両膝を地面に着けた。場所が場所だけに、祈りを捧げ懺悔するのに近い動作だ。
……浮かび上がっているのは表情ばかりではない。
十人の内十人、更に飛び入りで二十人がすれ違いに振り替えざるを得ない、自信に満ち溢れたの麗貌が醜女(しこめ)も同然に腫れ上がっている。
それも複数。全身の至る部位に点々と。
表皮が盛り上がって肥大化し、体内に拳大の蟲でも潜ってるのではないかと想像してしまうほど、おぞましい肉腫が出来ていた。
絶叫しながら胸を両腕で抱き、身悶えしながら両膝を地面に着けた。場所が場所だけに、祈りを捧げ懺悔するのに近い動作だ。
……浮かび上がっているのは表情ばかりではない。
十人の内十人、更に飛び入りで二十人がすれ違いに振り替えざるを得ない、自信に満ち溢れたの麗貌が醜女(しこめ)も同然に腫れ上がっている。
それも複数。全身の至る部位に点々と。
表皮が盛り上がって肥大化し、体内に拳大の蟲でも潜ってるのではないかと想像してしまうほど、おぞましい肉腫が出来ていた。
「散らばった肉片まで掻き集めるまでして、そんなにも私の細胞が欲しいか。卑しい女め。
ならば好きなだけくれてやる。だが鬼になどしてはやらない。そのまま醜く溶けて、苦しみの内に死に絶えるがいい」
ならば好きなだけくれてやる。だが鬼になどしてはやらない。そのまま醜く溶けて、苦しみの内に死に絶えるがいい」
無惨には見えていた。
めだかが移動しながら、飛び散った無惨の血や触手を積極的にめざとく回収していたのを。
観察だけでは飽き足らず、変化の原型としている無惨の細胞を接種することでより完成度を高めようとしていたのを。
めだかが移動しながら、飛び散った無惨の血や触手を積極的にめざとく回収していたのを。
観察だけでは飽き足らず、変化の原型としている無惨の細胞を接種することでより完成度を高めようとしていたのを。
人間を鬼化させる血は攻撃にも転用できる。
変化に耐えきれない量の血を一度に過剰投与すれば、細胞が崩壊しそのまま鬼になる事なく死に至る。
血を同時に与える斬撃は一度でも喰らえばたちどころに致命的となってしまう。
更に今回は意図して血を空中に散布しておいた。風に乗った血は気流に乗って、内部にいるめだかに否が応でも降りかかる。
結果。めだかは常人の致死量の数百倍に至る血液をその身に浴びてしまっていた。
変化に耐えきれない量の血を一度に過剰投与すれば、細胞が崩壊しそのまま鬼になる事なく死に至る。
血を同時に与える斬撃は一度でも喰らえばたちどころに致命的となってしまう。
更に今回は意図して血を空中に散布しておいた。風に乗った血は気流に乗って、内部にいるめだかに否が応でも降りかかる。
結果。めだかは常人の致死量の数百倍に至る血液をその身に浴びてしまっていた。
「……っ! ~~~~~~っっっ!!!」
今めだかの体内では絶え間ない細胞破壊と再生がループしている。
鬼神モードの再生力と『完成』の異常性があれば、毒にも適応し切りより完成された異常性を獲得するだろう。
だがそれは一瞬ではない。再生と適応を並行して行うにはどうしても時を要する。
呼吸を使う剣士が鬼になるには数日単位の時間を要する。ましてや完全に殺す気での注入だ。
生きて肉体が原型を保っていること事態が異常にも等しい奇跡であり、戦闘の最中で急速に成長する、などという悠長な暇は与えられるはずもない。
鬼神モードの再生力と『完成』の異常性があれば、毒にも適応し切りより完成された異常性を獲得するだろう。
だがそれは一瞬ではない。再生と適応を並行して行うにはどうしても時を要する。
呼吸を使う剣士が鬼になるには数日単位の時間を要する。ましてや完全に殺す気での注入だ。
生きて肉体が原型を保っていること事態が異常にも等しい奇跡であり、戦闘の最中で急速に成長する、などという悠長な暇は与えられるはずもない。
ここから直接首を狩るなり、更に血を与えて再生する以上の細胞の破壊を促すなり、無惨には如何様にもできる。
何となればここで首輪の実験を再開する手もあるが……無惨はどれも選ばない。新しい鬼の教本として実験台にしようとすら、考えない。
することはただ、摂理を正すだけ。
あってはならぬものを、ないものに。
ただ一刻も早くこの異物を消し去ってしまいたくて仕方がなくて、速やかに断頭の鎌が落とされる。
立ち上がる為膝に力を入れようとするが、痙攣する足がもつれて倒れ込む。
間に合わない『完成』を待たず、首を捻ってでも避けようともがくめだかの聴覚が……壁の崩落以外の音を拾った。
何となればここで首輪の実験を再開する手もあるが……無惨はどれも選ばない。新しい鬼の教本として実験台にしようとすら、考えない。
することはただ、摂理を正すだけ。
あってはならぬものを、ないものに。
ただ一刻も早くこの異物を消し去ってしまいたくて仕方がなくて、速やかに断頭の鎌が落とされる。
立ち上がる為膝に力を入れようとするが、痙攣する足がもつれて倒れ込む。
間に合わない『完成』を待たず、首を捻ってでも避けようともがくめだかの聴覚が……壁の崩落以外の音を拾った。
「──────、────────────」
ぱん、ぱんと。
殺気吹く戦地で似つかわしくない、軽薄な音が鳴った。
拍手のような乾いた音。今も地響きが続く地下室でなお明瞭に、死合の最中にあった二人の耳に聞こえてきた。
殺気吹く戦地で似つかわしくない、軽薄な音が鳴った。
拍手のような乾いた音。今も地響きが続く地下室でなお明瞭に、死合の最中にあった二人の耳に聞こえてきた。
「鬼ーさん、こーちら、手ーの鳴る、方ーへ」
拍手に次いで、暗がりから呼び声がした。
年若い男の声だ。
拍手に合わせて投げかけられる声に、無惨は鎌を振り下ろす腕を止め、首を曲げて闇に立つ影を注視する。
鬼の超感覚は、光源がない場所にいる姿形をすぐさま捉える。
年若い男の声だ。
拍手に合わせて投げかけられる声に、無惨は鎌を振り下ろす腕を止め、首を曲げて闇に立つ影を注視する。
鬼の超感覚は、光源がない場所にいる姿形をすぐさま捉える。
捉えた、途端。
無惨の背中に凄まじい衝撃が走ったと同時に、胸から細い腕が骨肉を突き破って生えた。
無惨の背中に凄まじい衝撃が走ったと同時に、胸から細い腕が骨肉を突き破って生えた。
「はい。ごちそうさん。まぁた旦那はんの中、貫いちゃったわあ」
その声を聞くのは、無惨にとって二度目だった。肉を奪われる屈辱を受けたのも二度目だった。
聞こえたのは、風雅と淫靡が混じり合った女の声。
鈴を転がすような音色で、吐息に酒気を帯びた少女の声。
大江山の鬼の真の大将────酒天童子。
聞こえたのは、風雅と淫靡が混じり合った女の声。
鈴を転がすような音色で、吐息に酒気を帯びた少女の声。
大江山の鬼の真の大将────酒天童子。
「はぁ───熱くて、熱くて、融かされそうなぐらいに熱ぅい血やねぇ。ああもう、そないにうちのこと離さんように絡みついて。昂ぶるわぁ、ほんに嵌っちゃいそうやわ、うち」
貫いた指に握られていたのは、体内に収まっていた心臓だ。
外に排出されても力強く脈動し、断たれた血管を伸ばして元の位置に戻ろうとしている。
赤い艶めかしい血を断ち切れた動脈から噴き上げて、それ自体が一個の生物のようにのたうっている。
貫いた腕に縋りついて喰らおうと肌に激しく食い込んでいく管をあっさりと引き抜くと、未だ復帰しない無惨の首根っこを掴んで、力いっぱいに放り投げた。
外に排出されても力強く脈動し、断たれた血管を伸ばして元の位置に戻ろうとしている。
赤い艶めかしい血を断ち切れた動脈から噴き上げて、それ自体が一個の生物のようにのたうっている。
貫いた腕に縋りついて喰らおうと肌に激しく食い込んでいく管をあっさりと引き抜くと、未だ復帰しない無惨の首根っこを掴んで、力いっぱいに放り投げた。
「うわ、マジで引っかかってるよ。あいつひょっとしてバカなの?」
「まぁええやないの。うちも一応、気配遮断いうのを使っとったし。仕方ないんちゃう?」
「まぁええやないの。うちも一応、気配遮断いうのを使っとったし。仕方ないんちゃう?」
都合幾度目かの吹き飛ばされて壁に埋め込まれた無惨を眺めて、村山良樹が影から表に出る。
表といっても光の差さない地下室では明暗の区別はつかないが、ここでは前に出るという行為に意味がある。
物陰で縮こまっているのは性に合わない。隠れっぱなしでいるのは我慢ならない。
要はそういう、意気込みの問題だ。
表といっても光の差さない地下室では明暗の区別はつかないが、ここでは前に出るという行為に意味がある。
物陰で縮こまっているのは性に合わない。隠れっぱなしでいるのは我慢ならない。
要はそういう、意気込みの問題だ。
「じゃ、俺はあっち行くから。そっちは好きにやってなよ」
「ほいほい、行っといで。んー、ここはお日さまも出てなくて涼しいさかい、"生もの"も腐らんな。
ふふ、ふふふふふ。これなら、さっきみたくあっさりぱくりとせんでもじっくり愛でられそうやね。
どっくん、どっくん。心臓だけでもこないに脈打って。外見もぷるぷるで寒天みたいに……って、おん?」
「ほいほい、行っといで。んー、ここはお日さまも出てなくて涼しいさかい、"生もの"も腐らんな。
ふふ、ふふふふふ。これなら、さっきみたくあっさりぱくりとせんでもじっくり愛でられそうやね。
どっくん、どっくん。心臓だけでもこないに脈打って。外見もぷるぷるで寒天みたいに……って、おん?」
後ろに歩いていく村山を尻目に、爛々とした目で心臓を見つめていた酒呑童子が弄んでいた手を止める。
興味の視線は、己の傍で悩ましげに悶えている、満身創痍の少女に向いた。
興味の視線は、己の傍で悩ましげに悶えている、満身創痍の少女に向いた。
「……なんやなんや。旦那はんにもう一人ご同類の匂いがしてたと思っとったけど、また奇特なもんがおるんやな」
膝を折り、しげしげとめだかを『観察』する。
しゃがんでいても突き出てた胸をぺちぺちと軽くはたく。
しゃがんでいても突き出てた胸をぺちぺちと軽くはたく。
「ああ臭う、臭う。乳臭いわぁ。産まれての赤ちゃんかいな。あっちこっちふらふら生き迷って、まるで夜道におっかさんとはぐれて、わんわん泣く童子(わらし)みたい。
あの牛乳女より乳臭いなんて、よっぽどやねえ。ま、あれほど歳いってないぶん可愛げもあるけどな」
「う……?」
「はい、おはようさん」
あの牛乳女より乳臭いなんて、よっぽどやねえ。ま、あれほど歳いってないぶん可愛げもあるけどな」
「う……?」
「はい、おはようさん」
半覚醒の心ここにあらずで顔を上げためだかの眼に入ったのは、にまにまと微笑んでる鬼ではなくて───その手に収まってる赤い肉塊。
「ぁ────────────ああぁ………………」
震わせる心音に、剥き出しの肉感に、溜まっていく血の一条。
目の前の酒吞も、戦っていた無惨も忘れて、宝石のような輝きに視線を釘付けにされる。
それ以外に何も目に入らない。好きないろをして、欲しいかたちで、おいしそうなものだからと、忘我のまま手を伸ばす。
目の前の酒吞も、戦っていた無惨も忘れて、宝石のような輝きに視線を釘付けにされる。
それ以外に何も目に入らない。好きないろをして、欲しいかたちで、おいしそうなものだからと、忘我のまま手を伸ばす。
「だめ」
心臓に心奪われ盲になっていた両目に、二本の指が一辺の躊躇なく深く突き入れられた。
「ぃっ!? あああああああああああああああっ!?」
「ああ、ごめんごめん。痛かった?。そやろねぇ。目玉両方とも潰れてしもうたもんねぇ。
でも、あんたはんもいけないんやで? ひとのもん勝手に食べようとするなんて、人でも鬼でも、おイタがあるのは当然ちゃう?」
「ぅ、うぅぅぅぅぅぅぅぅぅ………………!」
「ああ、もう、よしよし。泣かんの泣かんの。別にあげないなんて言うとらんやろ?
気持ちは分かるで? こないな珍味(うましもの)、うちかていつまでも見せびらかしてたら我慢できんもんねぇ」
「ああ、ごめんごめん。痛かった?。そやろねぇ。目玉両方とも潰れてしもうたもんねぇ。
でも、あんたはんもいけないんやで? ひとのもん勝手に食べようとするなんて、人でも鬼でも、おイタがあるのは当然ちゃう?」
「ぅ、うぅぅぅぅぅぅぅぅぅ………………!」
「ああ、もう、よしよし。泣かんの泣かんの。別にあげないなんて言うとらんやろ?
気持ちは分かるで? こないな珍味(うましもの)、うちかていつまでも見せびらかしてたら我慢できんもんねぇ」
灼熱の刺激と、流し込まれた魔力で盲目から回復しないめだかの鼻先に、ぶよぶよとした感触のものが押し付けられる。
触れる距離からする芳醇な匂いにまたも我を失いかけたところで再び鬼が呼び止めた。
触れる距離からする芳醇な匂いにまたも我を失いかけたところで再び鬼が呼び止めた。
「待て」
……度重なる傷と急激な再生の循環の影響で一時的に幼体化していためだかの思考が、耳元でした声に染め上げられる。
血液の塊がつけられてる事すら忘れるほどの、濃くて近過ぎる死の香りに。
血液の塊がつけられてる事すら忘れるほどの、濃くて近過ぎる死の香りに。
「待て、やで。
うちがいい言うまで、口つけるのはお預け。わかる?
出来なかったらまた目玉ほじくり貫くからな? これももうあげへん。わかった?」
うちがいい言うまで、口つけるのはお預け。わかる?
出来なかったらまた目玉ほじくり貫くからな? これももうあげへん。わかった?」
眼球をくり抜かれたことで動物的な本能が食欲を上回ったのか。堪えつつも大人しく跪く。
両手と両膝を地面につけた姿勢。土下座か、飼い主の許しが出るまで餌を待つ犬かどちらかだ。
両手と両膝を地面につけた姿勢。土下座か、飼い主の許しが出るまで餌を待つ犬かどちらかだ。
「待て」
涎が顎に垂れて糸を引く。
まだ許しは出ていない。
まだ許しは出ていない。
「待て」
体が痙攣して制動できない。
前に乗り出そうとするのをぎりぎりで抑止する。
前に乗り出そうとするのをぎりぎりで抑止する。
「まーて」
もう限界だ。胃は捩れて血液がささくれだったように痒くて、一秒だって我慢ができない。
早く。早く。歯の根が合わずガチガチと鳴り恐怖が欲を飲み込んで、どうなっても構わないから食べたいと嗚咽する。
早く。早く。歯の根が合わずガチガチと鳴り恐怖が欲を飲み込んで、どうなっても構わないから食べたいと嗚咽する。
「はい、ええよ」
"は"の一音が聞こえたところで、張っていた緊張の意図がぶつりと切れていた。
一も二もなく顎から飛びついてかぶりつく。口元が汚れるのも構わずに歓喜を咀嚼する。
目尻から溢れるのは味への耽溺による涙なのか、それとも逆流した血か。
一も二もなく顎から飛びついてかぶりつく。口元が汚れるのも構わずに歓喜を咀嚼する。
目尻から溢れるのは味への耽溺による涙なのか、それとも逆流した血か。
「よく我慢できたねぇ。えらい、えらい。たぁんと喰らいや。
おいしい? おいしい? そうよかったねぇ。ふふ」
おいしい? おいしい? そうよかったねぇ。ふふ」
礼儀も尊厳も打ち捨ててかっ食らうめだかの頭を撫でながら、鬼は笑っていた。
ここまでの遣り取りの中で、終始、ずっと笑っていた。
けらけらと愉しげに笑うのではなく、愛おしく、微笑の類で見つめながら。
……片手の指で少女からくり貫いた両目を舌で転がしながら。心臓を抜き出して被った鮮血で着物を着飾って。
母の慈愛と呼ぶには、刺激が強すぎる光景だった。
ここまでの遣り取りの中で、終始、ずっと笑っていた。
けらけらと愉しげに笑うのではなく、愛おしく、微笑の類で見つめながら。
……片手の指で少女からくり貫いた両目を舌で転がしながら。心臓を抜き出して被った鮮血で着物を着飾って。
母の慈愛と呼ぶには、刺激が強すぎる光景だった。
「む……」
心臓という血の凝縮を食らった事が『完成』を補強するのに繋がったのか、今度こそめだかが意識を取り戻す。
損傷はまだ循環(ループ)から抜け出せない、半死人だが。
損傷はまだ循環(ループ)から抜け出せない、半死人だが。
「やっと目、醒めた? じゃあ改めて、おはようさん」
「ああ、おはようございます……またも鬼、か。動物に避けられ人にも嫌われたのにこうも縁があるなんてな。
ところで両目が一度潰されたかと思うほど痛いのだが、何か知らないか?」
「ああそれ、やったのうちやわ。うち」
「……なるほど。それが鬼流の挨拶なのか。常ならば指摘していたが郷に入っては郷に従えというしな……いやけどやっぱ引くなその礼儀」
「愛殺? ああ挨拶ね。そうそう、鬼と話するんならこれぐらい、軽うい前戯。今のうちに慣れときや」
「ああ、ともかく今後の交流に活かすとしよう」
「ああ、おはようございます……またも鬼、か。動物に避けられ人にも嫌われたのにこうも縁があるなんてな。
ところで両目が一度潰されたかと思うほど痛いのだが、何か知らないか?」
「ああそれ、やったのうちやわ。うち」
「……なるほど。それが鬼流の挨拶なのか。常ならば指摘していたが郷に入っては郷に従えというしな……いやけどやっぱ引くなその礼儀」
「愛殺? ああ挨拶ね。そうそう、鬼と話するんならこれぐらい、軽うい前戯。今のうちに慣れときや」
「ああ、ともかく今後の交流に活かすとしよう」
風雅さも技量もない、殺意と殺傷力だけで磨かれた刃が宙を切り、和やかな二人の会話を断つ。
「おっと」
頸めがけて振るわれた爪をかわした酒吞は、触手の繋がれた先を見る。
無言で足を踏み鳴らし、従える背の触手が鎌首をもたげる鬼の祖。
最早言葉をかわす気もないのか、無惨は何も発さない。
その瞳の色は澱んでいた。赤い眼の底にはもう目の前の生き物に何の期待も感情もない。
それは諦観の念だった。
会話が成り立たない相手ではないと見做す、虫と同等に扱う放棄だ。
こいつはもう死ぬから。この手で殺すから。何を言っても無駄だから。
ただ殺すのみだという、完全な相互の断絶。
無言で足を踏み鳴らし、従える背の触手が鎌首をもたげる鬼の祖。
最早言葉をかわす気もないのか、無惨は何も発さない。
その瞳の色は澱んでいた。赤い眼の底にはもう目の前の生き物に何の期待も感情もない。
それは諦観の念だった。
会話が成り立たない相手ではないと見做す、虫と同等に扱う放棄だ。
こいつはもう死ぬから。この手で殺すから。何を言っても無駄だから。
ただ殺すのみだという、完全な相互の断絶。
「そう、そう。それや。やぁっと、遊んでくれる気になった?
焦らし上手な旦那はんのせいで、うち、もう収まりがつかへんのやから。このまま放ってかれたらどうしてくれるのって気が気でなかったんやで?」
焦らし上手な旦那はんのせいで、うち、もう収まりがつかへんのやから。このまま放ってかれたらどうしてくれるのって気が気でなかったんやで?」
鬼が、少女に向けていた今までとは違う趣の形で笑う。
けらけらと、爪から垂れ落ちるほど濡れた指の血を舐め取りながら、笑う。
けらけらと、爪から垂れ落ちるほど濡れた指の血を舐め取りながら、笑う。
「だめ」
すぐ後ろで立ち上がろうとするめだかを、人差し指の爪を立てて制止した。
「気遣いは嬉しいが、私はまだ戦えるさ。このまま動かず回復に努める方が、むしろ私はとっては耐え難い、不可避のダメージだ」
「そう言うてもなぁ。別にあんたはんが生き死にのどっち行こうとどうでもいいんやけど……今みたいのしか見せられん言うならやめとき。
あないな、人にも鬼にもどっちつかずな舞、見てても華がなくて魅せられんし、見てられんわ」
「新米の無作法なのは分かってる、しかし……」
「"せんぱい"の言うことはちゃんと聞いとき? なんてな、あはっ」
「……っ」
「そう言うてもなぁ。別にあんたはんが生き死にのどっち行こうとどうでもいいんやけど……今みたいのしか見せられん言うならやめとき。
あないな、人にも鬼にもどっちつかずな舞、見てても華がなくて魅せられんし、見てられんわ」
「新米の無作法なのは分かってる、しかし……」
「"せんぱい"の言うことはちゃんと聞いとき? なんてな、あはっ」
「……っ」
自分がやりたいと聞き分けなく我が儘を言う子供を諌めるみたいに眉間を指でつつかれただけで、後ろに傾き尻餅をついてしまう。
意志は折れずとも肉体の方は、体幹を支えられないほどグチャグチャにされたままだ。
座り込むめだかを背にして、単騎で無惨と対峙する。
意志は折れずとも肉体の方は、体幹を支えられないほどグチャグチャにされたままだ。
座り込むめだかを背にして、単騎で無惨と対峙する。
「ええなぁ、鬼舞辻はんの殺気。こっちを見てるようで、ちぃとも見とらん。
敵と見るでもなし、餌と見るでもなし。ただの紙屏風、邪魔な雑木でも見とるみたいな目。
うちはそういうの、華がなくて好きやないけど……、鬼らしいといえば、それもらしいもんねぇ」
敵と見るでもなし、餌と見るでもなし。ただの紙屏風、邪魔な雑木でも見とるみたいな目。
うちはそういうの、華がなくて好きやないけど……、鬼らしいといえば、それもらしいもんねぇ」
云って、どこからともなく取り出した瓢箪の紐を解いた。
酒吞の身の丈の腰程もある器に、たっぷりと詰まっている液体を、持ち上げて口に含む。
豪快な一気呑みでありながら、雅さは些かも失せない仕草で。
二度三度と喉を大きく鳴らして、鬼酒を呷る。
口を離して、唇を舐める鬼の顔に帯びるのは酒気ではなく───神気。
『神便鬼毒酒』────大江山に棲まう大化性を討伐すべく、源氏の棟梁・源頼光率いる四天王が神仙から賜りし毒酒。
人理に刻まれし英霊が保有する超越の神秘・宝具が一つ。
その概要を知る者は此処にはいない。
如何なる由来があり、如何なる効能を持ち、その酒を呑んだ鬼が如何なる結果を孕むか、語れる者は此処にはいない。
だが結果として。飲み干した酒吞童子からは矮躯に収まりきらぬ桁の神気が迸り、暗き牢獄を妖しく照らしていた。
酒吞の身の丈の腰程もある器に、たっぷりと詰まっている液体を、持ち上げて口に含む。
豪快な一気呑みでありながら、雅さは些かも失せない仕草で。
二度三度と喉を大きく鳴らして、鬼酒を呷る。
口を離して、唇を舐める鬼の顔に帯びるのは酒気ではなく───神気。
『神便鬼毒酒』────大江山に棲まう大化性を討伐すべく、源氏の棟梁・源頼光率いる四天王が神仙から賜りし毒酒。
人理に刻まれし英霊が保有する超越の神秘・宝具が一つ。
その概要を知る者は此処にはいない。
如何なる由来があり、如何なる効能を持ち、その酒を呑んだ鬼が如何なる結果を孕むか、語れる者は此処にはいない。
だが結果として。飲み干した酒吞童子からは矮躯に収まりきらぬ桁の神気が迸り、暗き牢獄を妖しく照らしていた。
ひたひたと足を進める。それだけで大地が激しく揺れた。軋みを上げた。
酒をしこたま呑んだ宴会の帰り道の延長の足取りで、無惨に歩を進める。さも突いてみよ、切りつけてみよと言わんばかりに隙だらけで、好きにしてと。
酒をしこたま呑んだ宴会の帰り道の延長の足取りで、無惨に歩を進める。さも突いてみよ、切りつけてみよと言わんばかりに隙だらけで、好きにしてと。
左様。鬼は無惨を好いている。
好きだらけではちきれんばかりに思っている。
その貌の美さを。その肉の味の佳さを。その性根の醜(よ)さを。この上なく好んでいる。
好いた者の臓腑をかき混ぜ、骨をしゃぶり、散々たる肉塊に変えてしまいたくて仕方がない。
そこに矛盾はない。それこそが鬼と人の違い。あらゆる意思と思いが殺意に行き着く反転衝動。
好きだらけではちきれんばかりに思っている。
その貌の美さを。その肉の味の佳さを。その性根の醜(よ)さを。この上なく好んでいる。
好いた者の臓腑をかき混ぜ、骨をしゃぶり、散々たる肉塊に変えてしまいたくて仕方がない。
そこに矛盾はない。それこそが鬼と人の違い。あらゆる意思と思いが殺意に行き着く反転衝動。
「さ、始めよか。めいっぱい、楽しませてな?
日が暮れるまで。お互い足腰が立たないなるまで。どっちがどっちの肉か分からなくなるくらい、グチャグチャにかき混ぜるまで。
生まれが違おうが、成り立ちが違おうが、鬼いうんはそういうもの。殺し、犯し、奪うもの」
日が暮れるまで。お互い足腰が立たないなるまで。どっちがどっちの肉か分からなくなるくらい、グチャグチャにかき混ぜるまで。
生まれが違おうが、成り立ちが違おうが、鬼いうんはそういうもの。殺し、犯し、奪うもの」
だから、彼女は今もこうして愛する(ころす)のだ。
「『九頭竜鏖殺』─────────あんじょうよろしゅう」
鬼が跳んだ。
たんっと、地面を蹴り。見た目通りにふわりと、軽やかそうで。
だが。その先の通り道に生まれたのは、『暴』に尽きた。暴威にして暴虐と言うしかなかった。
たんっと、地面を蹴り。見た目通りにふわりと、軽やかそうで。
だが。その先の通り道に生まれたのは、『暴』に尽きた。暴威にして暴虐と言うしかなかった。
対応は、間に合っていた。
めだかのような小細工もなしに直進する酒呑を無惨の感覚は捉え、正確に爪で迎撃する。
だが止まらない。被弾を意に介さず鬼は道をぶれずに突き進む。
傷はつくのだ。裂けた肌からは血が溢れて肉がこそげ落ちてエーテルで構成された仮初の体に傷が刻まれる。
サーヴァント、人理の記録に刻まれた悪鬼英霊の写し影をも無惨は打ち据えられる。
霊体に作用しない攻撃手段は通用しない、通常の法則を制限されていても、これは恐るべき所業。
千年に及ぶ殺戮と暗躍は伝説の一端に伍するものだと証明したのだ。
それでも鬼は止まらない。勢いが削がれない。
裂けるのは外皮のみ。斬撃が肉を越え骨の芯まで届きはしない。
めだかのような小細工もなしに直進する酒呑を無惨の感覚は捉え、正確に爪で迎撃する。
だが止まらない。被弾を意に介さず鬼は道をぶれずに突き進む。
傷はつくのだ。裂けた肌からは血が溢れて肉がこそげ落ちてエーテルで構成された仮初の体に傷が刻まれる。
サーヴァント、人理の記録に刻まれた悪鬼英霊の写し影をも無惨は打ち据えられる。
霊体に作用しない攻撃手段は通用しない、通常の法則を制限されていても、これは恐るべき所業。
千年に及ぶ殺戮と暗躍は伝説の一端に伍するものだと証明したのだ。
それでも鬼は止まらない。勢いが削がれない。
裂けるのは外皮のみ。斬撃が肉を越え骨の芯まで届きはしない。
「はい、拳(けん)・拳(けん)・破(ぱ)、拳・拳・破っと!」
衝突と激震。互いの爪がひしゃげ折れ、潰れ落ちる。
無惨は次の触手を、酒呑は次の手足を繰り出して再現を繰り返す。
技量の冴えも、培った経験の賜物もない、単調なる暴力の応酬。
相克する爪と爪で、先に崩れたのは酒吞童子。爪に繋がった腕が派手に潮を吹く。
矢継ぎ早に、同規模の爪の群れが、棘皮動物の捕食めいた光景を見せつけ、酒呑に絡みついて姿を呑み込む。
内部では管部の各所から生えた口の牙が一斉に噛み付いている。
逃げ場と動きを縫い止めたまま腕を振り上げ、捕縛した獲物を巻き付けた管ごと両断した。
無惨は次の触手を、酒呑は次の手足を繰り出して再現を繰り返す。
技量の冴えも、培った経験の賜物もない、単調なる暴力の応酬。
相克する爪と爪で、先に崩れたのは酒吞童子。爪に繋がった腕が派手に潮を吹く。
矢継ぎ早に、同規模の爪の群れが、棘皮動物の捕食めいた光景を見せつけ、酒呑に絡みついて姿を呑み込む。
内部では管部の各所から生えた口の牙が一斉に噛み付いている。
逃げ場と動きを縫い止めたまま腕を振り上げ、捕縛した獲物を巻き付けた管ごと両断した。
「あはははははははははははははははははははははははははははは!!」
なのに狂笑は鳴り止まない。
縛鎖から解かれたのをこれ幸いと穴から飛び出て再び挑んでくる。
縛鎖から解かれたのをこれ幸いと穴から飛び出て再び挑んでくる。
「せっかくいい体やのに、背中の尾っぽびゅんびゅんさせるだけって……他に何かあるやろ? ここまで来て出し惜しみせんといて?」
確かに刃は通っているのに。血を流しているのに。臆した気をまるで見せない。
喜悦。悦楽。表情には愉しみだけだ。
喜悦。悦楽。表情には愉しみだけだ。
触れた全てを例外なく壊し散り飛ばしてきた無惨の攻撃。
鬼狩りの剣士が何人いようが誰一人逃れられない。上弦の鬼が何体向かおうが耐えられない。
それがこの小娘には通じない。尽くをかわし切るのでも、再生力で張り合うでもなく、単純に肉体の頑強さで張り合ってる。
殴り合い。
虚弱な人間の頃も強靭な鬼の頃も、そんなものはこの方体験した事もない。
千年の生で、この島でさえも起き得なかった初めての状況が無惨に襲い来る。
鬼狩りの剣士が何人いようが誰一人逃れられない。上弦の鬼が何体向かおうが耐えられない。
それがこの小娘には通じない。尽くをかわし切るのでも、再生力で張り合うでもなく、単純に肉体の頑強さで張り合ってる。
殴り合い。
虚弱な人間の頃も強靭な鬼の頃も、そんなものはこの方体験した事もない。
千年の生で、この島でさえも起き得なかった初めての状況が無惨に襲い来る。
どれだけ攻撃を受けてもすぐに再生する無惨。
攻撃を受けても倒れない酒吞。
長期戦になれば、圧倒的な生命力を保有する無惨の方に天秤が傾くのは自明の理。
だが短期戦であれば、こうして拮抗する。めだかとの戦いがそうであったように。
そしてこの場合、無惨にとって時間が長引くのは決して有利に運ぶだけではない。
目の前の敵に気を揉んでいる中で、もしまた邪魔もの集まって来ようものなら。それが無惨を追い回す鬼狩りであったなら。
形勢が、徐々に変わりつつある。
攻撃を受けても倒れない酒吞。
長期戦になれば、圧倒的な生命力を保有する無惨の方に天秤が傾くのは自明の理。
だが短期戦であれば、こうして拮抗する。めだかとの戦いがそうであったように。
そしてこの場合、無惨にとって時間が長引くのは決して有利に運ぶだけではない。
目の前の敵に気を揉んでいる中で、もしまた邪魔もの集まって来ようものなら。それが無惨を追い回す鬼狩りであったなら。
形勢が、徐々に変わりつつある。
『ぞわり』と、無惨の背筋を見えない手が撫ぜた。
『それ』は千年の時の中で常に感じていた感覚によく似ていたがどこか未知のものがあった。
『それ』は千年の時の中で常に感じていた感覚によく似ていたがどこか未知のものがあった。
“もういい。もう付き合ってられない。“
無惨は戦士ではない。
王族や剣士のような命より勝る誇りというもの、生き様を重視する事もしない。
鬼に成る女も、鬼そのものの小娘も、殺したところで太陽克服の近道どころか時間の無駄でしかない。
路傍の石がひとりでに足元に転がって挫きにかかるようなものだ。知性ある生物は石にいつまでも拘泥したりはしない。
王族や剣士のような命より勝る誇りというもの、生き様を重視する事もしない。
鬼に成る女も、鬼そのものの小娘も、殺したところで太陽克服の近道どころか時間の無駄でしかない。
路傍の石がひとりでに足元に転がって挫きにかかるようなものだ。知性ある生物は石にいつまでも拘泥したりはしない。
既に無惨の思惑は如何にこの場を脱して安全を確保するかに向いていた。向こうとしていた。
それを途切れさせたのは、天蓋が落ちてくる断末魔の音だ。
それを途切れさせたのは、天蓋が落ちてくる断末魔の音だ。
これはどういうことだ。
なぜ、天井を支える糸がひとりでに切れていく。
血を与えて強化した糸が瓦礫を抑えられないほど脆弱なわけがない。現に今までは問題なく維持できていた。
であれば力が弱まってるのは強化が足りないのではなく、力を吐き出す本体に問題があるという事になる。
自分の意思ひとつで自由に操れるはずの駒が、命令に反する行動を取っているという事に。
なぜ、天井を支える糸がひとりでに切れていく。
血を与えて強化した糸が瓦礫を抑えられないほど脆弱なわけがない。現に今までは問題なく維持できていた。
であれば力が弱まってるのは強化が足りないのではなく、力を吐き出す本体に問題があるという事になる。
自分の意思ひとつで自由に操れるはずの駒が、命令に反する行動を取っているという事に。
「何をしている!! 累!!」
◆
| 前話 | お名前 | 次話 |
| 鬼神爆走紅蓮隊・愛 | 累 | 鬼神爆走紅蓮隊・凛 |
| 神居クロオ | ||
| 今之川権三 | ||
| 黒神めだか | ||
| 村山良樹 | ||
| 鬼舞辻無惨 |