「アボカド」の語源は「睾丸」ではない?: ナワトル語関連資料をざっと見てみた
ひとりTwiFULL勉強会
2012. 06. 29 @Mitchara
2013. 09. 27 追補
ネットを見ていると時折でくわす、
「アボカドの語源はナワトル語で『睾丸』」というトリビア。
英米圏やスペイン語圏だと辞書にも載っていたりして、本国メキシコでもわりと有名な説です。
つい最近まで、
日本語版Wikipediaにも載っていたりしました。
私自身(※1)、数ヶ月くらい前までは「ふーんそうかー、酒の席のネタに使えるなー」くらいに思っていたのですが、この説ってはたして本当なんでしょうか?
この説の出どころは、おそらく16世紀の宣教師 Alonso de Molina の古典ナワトル語辞書 (Molina 1571)(※2)です。この辞書で「アボカド」にあたるナワトル語の単語を引くと、スペイン語で「よく知られた果物、または睾丸」と語釈がついているのです。
この辞書は16世紀後半、つまり古典ナワトル語期のまっただなかに編纂されたもので、編者の宣教師Molinaはナワトル語とスペイン語のバイリンガルであり、優れたナワトル語学者でもありました。つまりこの辞書自体は当時としては最高度といっていいほど信頼度の高い資料です。しかし、この資料には、「アボカド」と「睾丸」のどちらが原義なのかは書いてありません。つまり、古典ナワトル語でこの言葉に2つの意味があったことは確実なのですが、どちらが原義でどちらが派生義なのかは、当時最高レベルの資料をもってしても自明ではないのです。結論からいうと、どうも「睾丸」のほうが派生義(隠喩)で、果実名のほうが原義と考えたほうがいいように思います。この点に触れた研究もすでにありますが (E. Hernández 1996: 36)、ひとまずは文献をざっくり見てみましょう。
【用語・記法上の注意】
以下で「古典ナワトル語」「現代ナワトル語○○方言」という言葉が出てきますが、これらはすべてよく似た別の言語と考えてかまいません(※3)。日本語のお国言葉(方言)を想像してみてください。日本語の諸方言は、いうまでもなく同じ言語の分派ですが、よく似た微妙に異なる言語の集まりでもあり、語彙も活用も地域によって大きく違います。同じ日本語でも、互いに相手の言っていることがわからない場合もあります。「古典ナワトル語」と「現代ナワトル語○○方言」も同じです。かなり離れた方言の話者でも意思疎通はできますが、言語学者の目からすれば活用も文法もかなり違う、少しずつ違った言語の集まりです。
また、機種依存文字の使用を避けるため、ナワトル語の長音は "aa" "ii" のように文字を重ねて表記します。「アー」「イー」のように日本語の長音のように読んで差し支えありません。
【借用の系譜】
さて、ご存じのとおり、アボカドは中米原産の植物で、スペインによるメキシコ征服(16世紀初頭)以降にスペイン経由でヨーロッパに紹介されました。日本語の「アボカド」はおそらく英語のavocadoを経由した形と思われます。英語の語源を調べるなら、まず『オックスフォード英語辞典』(OED) で調べるのが定石ですので、まずそこから調べてみましょう。AvocadoをOEDで引いてみると、初出は1697年で、avogatoという綴りで出てきます。語源説明をみると、スペイン語のaguacate(アグァカーテ)がなまったもので、スペイン語のavocado(アボカード)「弁護士」(現代の綴りではabogado)との混同で生じた形とあります(※4)。アボカドの和名は「ワニナシ」(鰐梨)ですが、この起源と思われるalligator pearという形も、どうやらaguacateもしくはavocadoがなまって再解釈された形のようです(果皮の質感からの連想も働いたのでしょうか)。
ちなみに、日本語では一応「アボガド」ではなく「アボカド」という語形が正式ということになっていますが、英語でも歴史的にはavogato, abbogadoなどいろいろな形が出てきて、語形がいまいち安定しません。もともと民間語源というか語彙的混同が起源ですし、そのもとになったavocadoという形も今のスペイン語ではabogadoに変わっています。あまり関係ありませんが、ナワトル語には有声子音と無声子音の区別がないので、ナワトル語ではkもgも同じ音(同じ音素の異音)です。
ともあれ、avocadoとなまる前のaguacateもしくはahuacateという形は、スペイン語圏では「アボカド」を指すいちばん普通の言い方で、今でも広く使われています。メキシコを旅行して市場でアボカドがほしいと思ったら、aguacateといえば売ってもらえます。
さて、スペイン語の歴史上、aguacate / ahuacateに対応する形は、古くは Benavente (1869 [1542]: 522) にabacatlという形で見えます(もっと古い用例もあるかもしれません)。これは確かにナワトル語aahuacatl(アーワカトル)「アボカド・睾丸」からの借用形と考えてよいでしょう(※5)。後者の形は、古典語・現代語を問わず、たいていのナワトル語辞書に出ています。なお、huaという綴りは借用語の [wa] の音を表すスペイン語圏の伝統的な綴りです(スペイン語には本来 /w/ という子音がないので、書くときは二重母音uaで代用します)。
さて、ようやくナワトル語のaahuacatlまでたどりつきました。いよいよaahuacatlの原義に迫りましょう。
【古典ナワトル語におけるaahuacatl】
先ほど書いたように、古典ナワトル語時代の辞書である Molina (1571) には「アボカド」と「睾丸」の両義が併記されているだけで、どちらが古い意味なのかわかりません。というわけで、ほかの文献でこの語がどう使われているのかを見てみることにしましょう。
まず、古典ナワトル語におけるaahuacatlの使われ方をみてみると、この語は基本的には果実名として使われていることがわかります。たとえば、ナワトル語・スペイン語対訳で書かれた有名な民族誌である 『フィレンツェ絵文書』 (Sahagún 1950–1982) を見てみると、数ヶ所に出てくるaahuacatlはすべて果実名で、「睾丸」の意味で使われた例はありません。
Aahuacatlが果実の「アボカド」の意味で頻繁に使われたのに対し、古典ナワトル語で「睾丸」を指す単語としてはaatetl(アーテトル、原義は「水の石」)のほうが普通だったようです。たとえば:
- Molina (1571) のスペイン語–ナワトル語部を引くと、compañón o cojón(「睾丸」)、turma de animal(「動物の睾丸」)の訳語にはaatetlのみがあてられており、aahuacatlは出てきません。
- 『フィレンツェ絵文書』第10書に身体部位関連の語彙を集めた部分があり(第27章)、「精巣」の意味でcuitlapanaatetl「後ろのaatetl」という語が出てきますが (Sahagún 1950–1982: X, 130)、aahuacatlは出てきません。
- 18世紀の植物誌にcoyootl iiaateuh「コヨーテの睾丸」(iiaateuhはaatetlの三人称単数所有形)という植物名が出てきます (F. Hernández 1790: II, 70)。こっちは正真正銘、「睾丸」が原義の植物名ですね。オオイヌノフグリみたいな。
つまり、古典ナワトル語では、
aahuacatlは果実名「アボカド」の意味で使われることが多く、身体部位「睾丸」をさす語としては
aatetlのほうが普通の語だった可能性が高いといえます(※6)。ただし、「睾丸」のほうの意味が Molina (1571) に載っているのも確かですし、
Diccionario histórico de le lengua españolaを見ると、メキシコやホンジュラスのスペイン語では
aguacateを「睾丸」の意味で使うこともあるようです。
【現代ナワトル語諸方言におけるaahuacatl】
ナワトル語のほかの方言をみてみましょう。
ナワトル語には古典ナワトル語以外にいくつもの方言があり、その多くは現代に伝わっています。各方言の辞書でaahuacatlにあたる語をみると、ほとんどが「アボカド」の意味で使われています(辞書が別義を書き洩らしている可能性ももちろんあります)。古い時代のことはわかりませんが、少なくとも現代ではaahuacatlは果実名として使われていることが多いということだけはわかります。
ナワトル語のすべての方言の先祖にあたる記録の残っていない古いナワトル語を「ナワ祖語」 (Proto-Nahuan) と呼びますが、諸方言にaahuacatlと対応する形がみられることから、このナワ祖語にも*aawa-(ka-)「アボカド」 という語形があったと推測されます (Campbell & Langacker 1978, Dakin 1982)。Aahuacatlの語尾の-tlというのは名詞に規則的に現れる独立形接尾辞とよばれるもので、ほとんどの名詞につくので、語源にはひとまず関係がありません。
【Aahuacatlはナワトル語にとっても借用語?】
次に、同じ語族のほかの言語を見てみましょう。
ナワトル語はユート・アステカ語族 (Uto-Aztecan) という語族(※7)に属しており、同じユート・アステカ語族のほかの先住民語にaahuacatlと同系の単語があれば、それが「アボカド」の原義を知る手がかりになります。……が、残念ながら、調べたかぎりユート・アステカ語族のほかの言語にaahuacatlと同系の単語は見つかりません。つまり、aahuacatlという語は、ナワ祖語には存在したと推測できても、そのさらに先祖であるユート・アステカ祖語から存在したと考える強い根拠は今のところありません。
実は、ナワトル語を話す人々 (Nahuas) はメソアメリカに比較的最近移住してきた集団で、彼らがメソアメリカに定住したとき、そこではすでに、マヤ語族 (Mayan) やトトナコ・テペワ語族 (Totonac-Tepehua)、オト・マンゲ語族 (Oto-Manguean)、ミヘ・ソケ語族 (Mixe-Zoquean) など、多くの別系統の言語が話されていました。移住したてのナワトル語集団は、それら周辺言語から様々な語彙を吸収し、自分たちの言語の一部にしてきたのです。したがって、ナワトル語の語彙(特に動植物名、農耕関係語彙など)には他言語からの借用語が多くみられます。メソアメリカ先住民語語彙研究の大家 Terrence Kaufman は、aahuacatlをナワトル語本来の語彙ではなく隣のトトナコ語からの借用語と考えているようです(※8)。
メキシコの一部(プエブラ州など)には、pagua (パグァ)もしくはpahua (パワ)と呼ばれるアボカドに似た果物の一種があり(同じワニナシ属)、伝統料理には欠かせない食材になっているようです。ナワ語歴史言語学者の Karen Dakin は、このpahuaとアボカドaahuacatlがダブレット(※9)ではないかと指摘しています (Dakin 1982, 1990)。ちなみに、古典ナワトル語にもpahuatl「果物」という単語があります。Kaufmanは、このpahuatlはトトナコ語からの借用であると明記しています (Kaufman 2001 [1991])。
トトナコ語のいくつかの方言の辞書にあたったところ、アボカド自体はkukatax, kukata, kukaLi:'t, kukatáxなどの語形で呼ばれる一方、パグァはLpux, Lpau, Lpaux, Lpawといった形で呼ばれています (Aschmann 1962, Aschmann & Aschmann 1973, Reid & Bishop 1974, Beck 2011)。Kaufman (2001) [1991] がpahuatl「果物」の起源としているのもLpawという形です。このLpawがナワトル語のpahua(tl)やaahuacatlの借用元になったのかもしれません。なお、ここで [L] で書いた音は国際音声記号では [ɬ] であり、[l] に似た無声摩擦音です。
ナワ諸語の歴史において、古い語頭の**pは音変化により消失したことが知られています(ナワ祖語のさらに前、Pre-Proto-Nahuan)。つまり、この変化以前に他言語から借用された語が語頭に**pをもっていた場合、その**pは音変化の影響を受けて規則的に消滅しているということです。したがって、次のようなシナリオを考えると、aahuacatl と pahua(tl) のダブレットは自然に説明できます。
- 近隣の言語(トトナカ語?)から**paw(a)という語が借用される (<Lpaw?)
- ナワ祖語にいたる音変化により**pawaが*aawaに変化 (>aahuacatl)(※10)
- 変化の後で再度近隣の言語から*paw(a)が借用される (pahua(-tl)) (<Lpaw?)
- ここでナワ語諸方言が分岐
- p-をもつ語形とp-をもたない(a-で始まる)語形が共存する(古典ナワトル語~現在)
Āhuacatlに現れる-ca(/ka/) という接辞は、ナワトル語で広くみられる名詞派生接辞で、意味はよくわかっていませんが、生物名をはじめ多くの語にみられます。Ilhuitl「日」とilhuicatl「空」、metl「竜舌蘭」とmecatl「縄、ひも」などのペアでは後者にこの-caが含まれるのではないかとも言われています。*aawa-という形に後から-kaが付加された可能性は十分にあります。
このシナリオが正しいという確証があるわけではありませんが、ひとまずナワトル語のaahuacatl自体が他言語からの借用語である可能性はそれなりにありそうです。そして、もしpahuaとaahuacatlが本当に同源だとすれば、āhuacatlのもとになった単語は果実名として借用された可能性が高いといえます。
【結論】
ここまでの話をまとめると、(i) 基本的にはaahuacatlについては果実名としての用例・記述が多く残っており、(ii) この語が借用語だとすれば果実名として借用された可能性が高い、ということです。いかんせん文献が残っていないので100パーセント確実とはいえませんが、いまのところaahuacatlの原義は「睾丸」ではなく「アボカド」のほうだと考えたほうがよさそうです。
考えてみれば、これは当然といえば当然かもしれません。一般論として、果物の名前と生殖器の名前に同じ語が使われていれば、前者がもとの用法で後者が隠喩的拡張だと考えるのが自然だからです。性や排泄にかかわる語というのは通文化的に口に出すのがはばかられるもの(タブー語)なので、当たりさわりのない言葉で言いかえられることはよくあります。たとえばスペイン語では睾丸をhuevo(卵)と呼びますが、もちろんこれは隠喩です。この意味でも、やはりaahuacatlの原義は「睾丸」ではなく「アボカド」である公算が高そうです。
あくまで想像ですが、語源に関する記事を書いていた誰かが Molina (1571) か Siméon (1885) あたりの辞書を引いて「睾丸」とあるのを見つけて早とちりしたか、それとも本人としては「aguacateの語源になった語には「睾丸」の意味がある」と書いたところが、読者によって伝言ゲーム式に拡大解釈されて件のトリビアになったか、そのどっちかじゃないかな、という気がします。
というわけで、世の男性諸兄におかれては、今後クックパッドで「アボカドをすりつぶして塩を加えます」なんてレシピを読んでも痛そうに股間を押さえる必要はなくなったわけですが、ここまで人口に膾炙し辞書にまで載ってしまった「アボカドの語源は『睾丸』」説が巷から消える日はくるのでしょうか。
実はメキシコというのは語源説が大好きな国で、とくに「○○はナワトル語起源」というのはメキシコ人の好んで語るところです。中には本当に正しいものもあれば、「Nicaraguaはナワトル語起源」のように一瞬信じてしまいそうなものもあり、「mesa(テーブル)はナワトル語起源」のように下手なジョークとしか思えないものもあります。ナワトル語学者もあまりそういう話に目くじらを立てたりはしないどころか、人によってはむしろメキシコの風物として楽しんでいる節さえあります。
そんな風土と資料の少なさ、それにネタの面白さもあいまって、「アボカドの起源は睾丸」説が囁かれなくなるにはまだ時間がかかりそうです(トリビアの寿命を決めるのは正しさではなく面白さです)。ある意味いかにもメキシコらしい俗説ですし、消えてしまうのがなんとなく惜しい気さえします。
【おまけ: aahuatl「オーク」との関係は?】
ここで気になるのは、aahuatl「オーク、どんぐり」との関連です。
実は、先日 Twitter でaahuacatlの語源に言及した際、「ひょっとしてaahuatl「オーク、どんぐり」と関係あるんじゃないの」みたいなことを言ってしまいました。アボカドはクスノキ科の常緑高木で、ブナ科のオークの仲間には葉の形や枝ぶりがアボカドによく似たものがあります。先ほど触れたように、派生接辞-caは生物名などによく現れる形で、語形だけで見ると、aahuatlからaahuacatlという形が作られることは十分に考えられます(たとえば「オークに生るもの」という意味で)。
しかし、調べてみると、私のこの説は残念ながら旗色が悪そうです(申しわけありません)。Dakin (1990) は、すでに絶滅したチワワ州のトゥバル語 (Tubar) という言語にamoá-t「オーク」という形があることから、aahuatlという形に対してユートアステカ祖語**awa-「オーク」を再建しています(※11)。したがって、aahuatl「オーク」とāhuacatl「アボカド」を同源と考えることは、これまで見てきた説と二重に矛盾します。まず、もし Kaufman–Dakin の説が正しければ、aahuacatlの古形は**pawa-、aahuatlの古形は**awa-であり、そもそも語頭子音の有無が違います。次に、もしaahuacatlがナワ語とその他のユート・アステカ諸語が枝分かれした後に入った借用語だとすれば、同系語がトゥバル語に現れるはずはありません。
というわけで、aahuacatlの語源をaahuatl「オーク、どんぐり」に求めるのはどうも難しそうです。ごめんなさい。いけると思ったんだけどなあ。
注
- この記事の著者はナワトル語源学者でもなければユート・アステカ比較言語学者でもなく、ナワトル語文法を研究している一大学院生にすぎません。したがって「専門家の意見」には程遠いことをご承知おきください。また、お気づきの点がありましたらご指摘ください。
- 日本語でいえば『日葡辞書』にあたる重要文献で、ナワトル語語彙研究でまず参照される基本資料。マドリード・コンプルテンセ大学のサイトで全文閲覧できます。アボカドの語義については19世紀の Siméon (1885) の辞書も同様の記述をしていますが、これも Molina の辞書を参考にしたものと考えられます。
- ナワトル語は様々な方言に分かれており、異なる方言同士は通じないこともあるといわれています。「古典ナワトル語」というのは植民地時代初期(16~17世紀)に現メキシコシティ周辺で話されていたナワトル語の一方言をさす通称で、メキシコ・スペイン語に借用された語の多くは古典ナワトル語かそれに近い方言に由来します(よく誤解されますが、現代ナワトル語のすべての方言の先祖というわけではありません)。
- 英語のavocadoのもとになったスペイン語のabogado/avocado「弁護士」という形が、当のスペインやメキシコで「アボカド」の意味で使われたかどうかはわかりません。スペイン語の古い用例が網羅してあるDiccionario histórico de le lengua españolaなどの辞書を引いても「弁護士」の用例しか出てきません。フランス語やイタリア語でも似た形で入っていることから考えて、英語に輸入されてからの変化というわけではなさそうですが…。
- Hua[wa] がguaになるのもtlがteになるのもナワトル語からスペイン語への借用に際して頻繁に起こる変化です。このようなナワトル語起源のスペイン語語彙のことを、メキシコではaztequismo(アステキスモ)またはnahuatlismo(ナワトリスモ)と呼びます。メキシコは独特のスペイン語語彙 (mexicanismo) を使うことで知られますが、mexicanismoの多くはaztequismoです。
- Aatetl「水の石」は、古典ナワトル語では「睾丸」を指す一般的な言い回しだったと考えられますが、ほかの方言でも同様だったかどうかはわかりません。すでに出ている現代ナワトル語諸方言の辞書や語彙集には、「睾丸」にあたる語が収録されていないものも多いためです。プエブラ州 Zacapoaxtla 方言の語彙集 (Key & Key 1973) にはaatetlに対応するātetという形が単に「川にある石ころ」という意味で出てくることから、この方言ではaatetlにあたる語を「睾丸」の意味で使うことはなかったのかもしれません。また、ベラクルス州の地峡ナワト語 (Wolgemuth et al. 2000) では、「睾丸」の訳語としてahuagáyōl(「アボカドの種」?)という形も出てきます。現代語諸方言では、スペイン語の影響もあってかtecciztli(「卵」)という形が現れることもあるらしく、このあたりはもっと調べる必要がありそうです。
- 「語族」 language family とは、同系の(=ひとつの祖語から枝分かれした)言語のグループです。
- 1989年の American Anthropological Association での学会発表での発言とのことですが、現在内容は確認できません。トトナカ語族はメキシコ国内に分布する語族で、ナワトル語とは系統関係がないと考えられています。
- 「ダブレット」 doublet とは、同じ言語の中にある同語源のペアです。たとえば英語のshirtとskirt、chaseとcatchなど。
- **pawa> *aawaの変化については Dakin (1982: 76) 参照。
- トゥバル語はユート・アステカ語族の中でもナワトル語と同じ南部語派に属するので、もしこの再建が正しくても南ユート・アステカ祖語までしか遡れないのではという気がします。また、なぜ祖語の形**awa-の短母音がナワトル語で長母音に変わったのかも、Dakin (1990) では説明されていません。
引用資料
- Aschmann, Herman P. 1962. Vocabulario totonaco de la sierra. México: Instituto Lingüístico de Verano. (http://bit.ly/LWif4G)
- Aschmann, Herman P. and Eliza, Dawson de Aschmann. Diccionario totonaco de Papantla, Veracruz. México: Instituto Lingüístico de Verano. (http://bit.ly/LWigFK)
- Beck, David. 2011. Upper Necaxa Totonac Dictionary. Berlin: Walter de Gruyter.
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- Campbell, Lyle, and Ronald W. Langacker. 1978. Proto-Aztecan Vowels: Part I–III. International Journal of American Linguistics 44, 85–102; 197–210; 262–279.
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- Hernández, Esther Hernández. 1996. Vocabulario en lengua castellana y mexicana de Fray Alonso de Molina. Madrid: Consejo Superior de Investigaciones Científicas.
- Hernández, Francsco. 1790. Historia plantarum Novae Hispaniae. Madrid: Typographia Ibarrae Heredum. (http://bit.ly/MwenF6)
- Kaufman, Terrence. 2001 [1991]. The history of the Nawa language group from the earliest time to the sixteenth century: some initial results. Project for the Documentation of the Languages of Mesoamerica. (http://bit.ly/P4AH71)
- Key, Harold, and Mary Richie de Key. 1973. Vocabulario mejicano de la Sierra de Zacapoaxtla, Puebla. México: Instituto Lingüístico de Verano.
- Molina, Fray Alonso de. Vocabulario en lengua castellana y mexicana, y mexicana y castellana. México: Antonio de Spinosa. (http://bit.ly/LHU6KG)
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- Wolgemuth, Joseph C., et al. 2000. Diccionario náhuatl de los municipios Mecayapan y Tatahuicapan de Juárez, Veracruz. México: Instituto Lingüístico de Verano. (http://bit.ly/MY53qS)
最終更新:2014年03月05日 01:24