このSSは裏講師であるバイアが裏講師になるための面談SSです
実際に行われたRPを元に作成しています!
少しだけあれな表現があるのでご注意ください

──幕間──
彼女は知っている、他者を完全には理解することなどできないことを
故に彼女は他者のあり方を肯定する

彼女は知っている、人は協力しなければ生きていけないということを
故に彼女は愛をもって他者と接する

彼女は知っている、死者は決して蘇るということはないということを
故に彼女は生きる者の思いを優先する

彼女は知っている、目的は他者の目的とぶつかることがあるいうことを
故に彼女は─────他者の命を奪うことに何も感じない


六年前のその日、私は時計塔の入り口が見える場所である人を待っていた
その人の顔も名前も知らない
しかし、星は私に告げた

私が欲しいものはこの日のこの時間帯に時計塔に出入りする白髪の黒人の男と交渉することで手にはいるであろうということを

世界は広しというけれど、このロンドンで白髪の黒人の男というのは否が応でも目立つ
目的の人を見つけ、笑顔で声をかけるのにそうかからなかった

「人手不足でお困りではないでしょうか?」
人手不足、というのは推測だったが、ある程度の自信はあった
交渉というからには、私からも何かを提供しなければならない
私が提供できるものは
  • 功績
  • 人手
の三つしか持っていなかった
相手から若干疲れた様子を感じたので、多分間違っていないだろうと思う

相手はまるでただの通りすがりのように言葉を返す
「……こんにちは。そうだね、時計塔は慢性的な人手不足だ。講師の募集ならこの廊下を上がって右手の窓口だよ」
もしかしたら間違えたのではないかと少しだけ不安になったけれど、まだ確定したわけではない
「こんにちは。正規の手続きを踏めるならそうしますけれど、そうもいかない事情がありまして」
もう少し話を続けてみようと思った

すると男が返した言葉は待ち望んだものだった
「なるほど、……じゃあ、僕が案内しよう。こう見えてもある程度は顔が効いてね。付いて来てもらえるかな?」
ただ、上手くいきすぎてこのまま話を聞いてもらえずに法政科に差し出されるという可能性が頭をよぎる

命が惜しい訳ではない
ただ、話を聞いてもらえれば最終的に命を差し出すことになったとしても、彼は今差し出すよりも得をするだろう

そう考えたので、私はあくまで笑みを崩さないまま言葉を紡いだ
「ありがとうございます。ただ、法政科に通報したり、殺害したりというのを考えていらっしゃるようでしたら私の話を聞いた後にしていただいても?」
「損はさせませんわ。それに必要でしたら、真実を語ることを『自己強制証明』(セルフギアス・スクロール)で誓っても構いません」
すると、男は困った様子で言葉を返した
「……困ったな、君を害する意思なんてないよ」
「少なくとも“僕には”ね」
「然し、此処では出来ない話というのもあるだろう?誰にも聞かれない様な場所に移動してから、しっかりと聞こう」

━━━なら、大丈夫だろう
根拠はなかったけれど、そう思ったのでぺこりとお辞儀をし付いていくことにした
「ええ、ではそれでよろしくお願いします」

彼は埃を被った廊下を進み、暗い階段を降り、右に曲がり……と、次第に閑散とした場所へ進んでいく。
そして、暫く歩いた後、唐突に足を止める。
「……此処なら問題ないだろう」
彼が何の変哲も無い壁に手を触れると、魔術式が起動し、扉が現れた。
「どうぞ、入って」

誘導にしたがって部屋に入り、椅子に座ることを促されたので座る
私が座った様子を確認すると男は話を切り出した
「……さて、と。それじゃあ先ず何故此処に来たのか。そして何故僕の事を知っているのか……教えてもらえるかな」
「一応は隠蔽にも気を遣っていたハズだ。見た所、まだ若い様だが……何処で知った?」

何も知らなかったというのが正解なのだがずいぶんと警戒されているようなので、こう答えることにした
「早とちりと交渉の札を先に見せるのはダメですよ?」
「結論から言うと今知りました。私は占星術であなたが人手不足で困っているから交渉しろと出たので、交渉しにきたのですから」

正確には違うが、こちらの方が相手の警戒心もとける……と思う
それを聞くと彼は疲れはてた様子で言葉を返した
「……そうか、なら、……もう帰ってくれ。じきに此処も消える、再起不可ってヤツさ」
「申し出は有難いが、そもそも出自を知らない者を雇える様な場所ではないからね」
…………このまま交渉を進めれば、有利に終わることはできるだろう
━━━━━けれど、弱ってる人の弱味をつくというのはよくないと思う
なので、交渉という体をとることをやめることにした
「大分お疲れのようですね」
「分かりました、なら私も交渉の札をすべて開けます」
「魔術協会から指名手配されていたテロリストのアーノルド・レイに娘がいたのはご存じですか?」
まずはこの話をする必要がある
交渉をするにせよ、その体をとらないにせよ私について話さなくてはならない

「ああ、知っているよ。それが?」
彼の返事を聞くと、自らの腕にある魔術刻印を見せながら言葉を続ける
「私がその娘です」
そして、持ってきた手提げ鞄を漁る
中から防腐処理の施された二つの生首と一冊の魔道書を見つけ出してテーブルの上におく
「あ、これ父と母の首です。それと、なくなるのでしたらどういつ活動していたのかお聞きしても?」
お土産を渡すときと同じような雰囲気で、顔を知らなかったら困ると思い一応説明を付け足す

少しの沈黙の後、彼は尋ねた
「………………」
「……どうして、と聞くのは野暮かな」
少しだけびっくりした
どちらのことを聞いているのか分からないが、理由を尋ねられるとは思っていなかった
小首をかしげて聞いてみることにした
「どちらのことを指し示しているのでしょうか?」
「お尋ねする理由ですか?父と母を殺した理由ですか?」
「それとも、その両方ですか?」
彼は私の疑問を解消する
「両方だね、そもそも彼等はある程度腕の立つ魔術師だったハズだ。……君が殺したのか?」


……殺し方は聞かれるかもしれないと思っていたけれど、殺す動機を聞かれるとは思っていなかった
「ええ、私が殺しました。寝ているときにサクッと。どんな人であれ人である以上は休息を必要としますし、実の娘に殺されるとは思っていなかったでしょうから簡単でした」
一人殺したところで一人起きてしまったので、抵抗にはあったが手の内を知り尽くしていたため簡単であったのは確かだ
「どうして殺したかですか。彼らが魔術使いで私は魔術師であったからでしょうか?でも、聖堂教会や魔術協会に殺されるよりも実の娘のために死ねるならそっちの方が幸せだと私は思います」
人は死に方を選べない、なら身内のために死ねた方が幸せだと私は思う
「お聞きする理由は私が払えるべき対価を払ってまで存続させる価値があるかというのを見極めたいのです」
一連のことをごく普通に答える
嬉々とすることでもなく、悲しむものでもなく当然のことなのだから

彼は暫し思考し、言葉を返した
「…………」
「……分かった」
「じゃあ整理しよう。君は僕達の仕事を手伝ってくれる、そういう意図で此処に来たんだね?」
私にも欲しいものがあったので、結果的にそういうことになるだろう
「そうなります。ただ霊地を少々間借りしたいので、魔術教会への在籍を取り計らってもらえると助かります」
後、出したのはいいが説明のタイミングを逃してたので魔道書の方の説明もしておくことにした
「札を全て見せるといいましたからこちらの説明も」
分かりやすいようにテーブルの中央に持ってくる
「テロのために拠点の確保と使える魔術の選択肢を広げるために父と母が殺した魔術師の家から奪い溜め込んでいた魔道書の内の一冊です」
「本来は全てもってきたかったのですが、量が量ですので…。場所に関しては話が纏まったらお教えします」
「死体の現場もそのままにしてありますので、殺したことをお疑いでしたらそちらの確認もその時にどうぞ」

自らの手札を全て晒したので、後は彼の反応を待つだけだった

「君が軽い気持ちで此処に来ていないのは理解出来た」
「……偉そうに言ってる僕だけど、実は組織内の立場は別に高くなくてね。上に判断を仰ごう」
「だから今日は一旦、御開きとしよう」
こうして、また時計塔の入り口まで案内された
私は別れの言葉と共に連絡先を告げる
「分かりました、こちらが私の下宿先です」
「携帯はGPSで特定されるということで買っていただけませんのでしたので、ここにご連絡いただければと思います」
宿の住所と部屋番の書かれたメモを渡す
「ありがとう」
「では追って連絡するよ」
彼の別れの言葉を聞くと私はその場を後にした


後日、私の宿に届いたのは一通に手紙。
そこに書かれていたのは裏講師のメンバーとして歓迎する旨と、それから暫く使用する事になるコードネーム……「バイア」だった。

特別ゲスト オスカーさん(邪神ちゃん)
個別に長いRPに付き合っていただきありがとうございました!

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最終更新:2018年05月18日 23:30