―1984年12月15日夜 伊豆諸島・大黒島
「こちら"はるな"、ヘリによる避難民の収容作業完了!」
「こちら"ひえい"!同じく作業完了!"はるな"とともに海域を離脱します!」
辺りは暗闇に包まれていたが、彼女たちの去る大黒島は紅く輝いていた。
この一週間ほど前から大黒島は噴火の兆候があり、各行政機関を跨いで大黒島住民の避難活動を行う計画が立てられていた。
そしてそれは現実となり、海上保安庁、消防庁、自衛隊が即座に派遣された。
海上自衛隊からは輸送艦艇のみならず、ヘリコプター運用が可能な護衛艦までもが動員されていた。
このあたし、"ゆた"も、例外ではなかった。
人員輸送用プラットフォームを牽引しながらこの場に来ていたあたしは、おそらく最後の避難民を載せたヘリを待つ。
「"イーグレット"より"ゆた"、貴艦を視認した。着艦許可を願う!」
「"ゆた"より"イーグレット"、貴機の着艦を許可」
海上自衛隊KV-107哨戒ヘリコプター、コールサイン"イーグレット"の着艦を許可する。
タンデムローターの双発ヘリで、あたしのヘリ甲板ではギリギリの大きさだけど、あちらも哨戒機材を下ろし一人でも多く避難民を載せられるように無理をしている。
一人でも多く救うため、四の五の言ってる暇なんて無い。
「こちら"ひえい"!同じく作業完了!"はるな"とともに海域を離脱します!」
辺りは暗闇に包まれていたが、彼女たちの去る大黒島は紅く輝いていた。
この一週間ほど前から大黒島は噴火の兆候があり、各行政機関を跨いで大黒島住民の避難活動を行う計画が立てられていた。
そしてそれは現実となり、海上保安庁、消防庁、自衛隊が即座に派遣された。
海上自衛隊からは輸送艦艇のみならず、ヘリコプター運用が可能な護衛艦までもが動員されていた。
このあたし、"ゆた"も、例外ではなかった。
人員輸送用プラットフォームを牽引しながらこの場に来ていたあたしは、おそらく最後の避難民を載せたヘリを待つ。
「"イーグレット"より"ゆた"、貴艦を視認した。着艦許可を願う!」
「"ゆた"より"イーグレット"、貴機の着艦を許可」
海上自衛隊KV-107哨戒ヘリコプター、コールサイン"イーグレット"の着艦を許可する。
タンデムローターの双発ヘリで、あたしのヘリ甲板ではギリギリの大きさだけど、あちらも哨戒機材を下ろし一人でも多く避難民を載せられるように無理をしている。
一人でも多く救うため、四の五の言ってる暇なんて無い。
「収容作業完了、"ひょうりん"先輩はどうですか!」
「こちらも完了したわ」
「ではあたし達も離脱を……」
「待って。周辺の海域に大規模な電磁場の変動を観測。変動の中心は……大黒島」
ひょうりん先輩の言葉に慌ててあたしはモニタ映像を訓練支援艦"あづま"が飛ばしていた"チャカⅡ改"無人偵察機からの映像に切り替える。
信じられないものが写っていた。噴煙でよくわからないけど、"何か"が、真っ赤な火口の中で青白く光っている。
その光が爆発するように見えた瞬間、映像は途切れた。一瞬遅れて、爆音が耳に届く。
振り向けば。消えかかった青白い光条と、炎上して墜落していくチャカⅡ改の残骸が見えた。
「何、何が……どういうこと……」
「……ゆた、速射砲とミサイルの残弾を確認して」
「えっ!?」
「戦闘になるわ」
「い、意味わかんないんですけど!」
「否が応でもわかるようになるわ……ほら、動き始めた」
ずしん、と地響きがこちらにまで聞こえてくる。
火口から現れた"それ"は、山が動いているかのような、信じられない巨体だった。
巨体の割に動きが速い。こちらに向かってくる。これは、放っていたら、追いつかれる…!
「こちらも完了したわ」
「ではあたし達も離脱を……」
「待って。周辺の海域に大規模な電磁場の変動を観測。変動の中心は……大黒島」
ひょうりん先輩の言葉に慌ててあたしはモニタ映像を訓練支援艦"あづま"が飛ばしていた"チャカⅡ改"無人偵察機からの映像に切り替える。
信じられないものが写っていた。噴煙でよくわからないけど、"何か"が、真っ赤な火口の中で青白く光っている。
その光が爆発するように見えた瞬間、映像は途切れた。一瞬遅れて、爆音が耳に届く。
振り向けば。消えかかった青白い光条と、炎上して墜落していくチャカⅡ改の残骸が見えた。
「何、何が……どういうこと……」
「……ゆた、速射砲とミサイルの残弾を確認して」
「えっ!?」
「戦闘になるわ」
「い、意味わかんないんですけど!」
「否が応でもわかるようになるわ……ほら、動き始めた」
ずしん、と地響きがこちらにまで聞こえてくる。
火口から現れた"それ"は、山が動いているかのような、信じられない巨体だった。
巨体の割に動きが速い。こちらに向かってくる。これは、放っていたら、追いつかれる…!
「攻撃許可、下りたわ。準備はいい?」
「初めての"実戦"が、まさか、こんな……ことって……」
震える手で操作桿を握り、後部速射砲を目標へ向ける。
「撃ちぃ方ぁ始め!」
ひょうりん先輩の号令でトリガーを引き絞る。
2隻分の76mm速射砲弾が次々と吸い込まれていく。
……当たっている、当たっているはずなのに。
気にも留めない様子で、あたし達を追跡している。
「まるで手応えがない。射撃やめ、ハープーンを使う」
「了解……!」
こんなことは想定していなかったから先輩とあたしとで一発づつしか積んでない。
あまりにも心許ない。怖い。
「目標補足。発射!」
「発射!」
祈る気持ちでミサイルの軌跡を見守る。
命中。爆炎。咆哮。
「やったか!?」
「ゆた、それを言っちゃうと」
煙が晴れ、姿を現したそれには、傷一つついていない。
「……ね?」
「嘘でしょ……?」
「寧ろ怒らせてしまったみたいね」
再びけたたましい咆哮。睨みつけられている気がする。
そして、"それ"の背面が、ジリジリと音を立てながら青白く発光し始めた。
「再び電磁場の変動!ゆた、アレが来るわよ!緊急回避!」
「はい!!」
バウ・スラスターにより急旋回、回避行動。
眼の前を青白い光線が掠める。艦首は避けきれず、被弾。
爆発はせず、舳先は最初からなかったかのように"蒸発"してしまっていた。
「こ、こんなものまともに食らったら……!」
「ゆた。最後の希望よ。貴艦の……レーザー砲を使いなさい。他に手は無いわ」
「……了解。レーザー、照射シーケンスを開始」
艦首側に装備されたレーザー砲塔を目標へ指向する。
「目標補足。EPFCG起動、第一、第二キャパシタ接続」
あたしのレーザー砲システムは瞬時に1200万kwの電力を生み出す発電機、それを蓄電するキャパシタ、そしてレーザー砲本体で構成されている。
べらぼうな電力を消費するから、2回しか照射できない。
普段は弾道弾を迎撃する訓練をしているし、こんなデカブツを外す気はしない、しないんだけど。
そんなことより、これがもし効かなかったら、という心配のほうが大きかった。
「第一キャパシタ開放、照射!」
空気を切り裂くような音と共に黄色い光線がまっすぐ伸びる。
照射時間は一瞬。効果確認なんてしてる場合じゃない。
「第二キャパシタ開放、照射!」
再び照射。命中。咆哮。効いているのか?わからない。
「効果、認めず」
こちらを睨みつける、"それ"の双眸。あの、ジリジリという音が聞こえてくる。背中側の、背鰭とでも形容すべき突起が、放電し発光する様子が見える。
あー、あたしもこれで終わりか。目を閉じて覚悟したそのとき。
瞼を貫いたのは、青白い光条ではなく、何かが爆発した光。
「初めての"実戦"が、まさか、こんな……ことって……」
震える手で操作桿を握り、後部速射砲を目標へ向ける。
「撃ちぃ方ぁ始め!」
ひょうりん先輩の号令でトリガーを引き絞る。
2隻分の76mm速射砲弾が次々と吸い込まれていく。
……当たっている、当たっているはずなのに。
気にも留めない様子で、あたし達を追跡している。
「まるで手応えがない。射撃やめ、ハープーンを使う」
「了解……!」
こんなことは想定していなかったから先輩とあたしとで一発づつしか積んでない。
あまりにも心許ない。怖い。
「目標補足。発射!」
「発射!」
祈る気持ちでミサイルの軌跡を見守る。
命中。爆炎。咆哮。
「やったか!?」
「ゆた、それを言っちゃうと」
煙が晴れ、姿を現したそれには、傷一つついていない。
「……ね?」
「嘘でしょ……?」
「寧ろ怒らせてしまったみたいね」
再びけたたましい咆哮。睨みつけられている気がする。
そして、"それ"の背面が、ジリジリと音を立てながら青白く発光し始めた。
「再び電磁場の変動!ゆた、アレが来るわよ!緊急回避!」
「はい!!」
バウ・スラスターにより急旋回、回避行動。
眼の前を青白い光線が掠める。艦首は避けきれず、被弾。
爆発はせず、舳先は最初からなかったかのように"蒸発"してしまっていた。
「こ、こんなものまともに食らったら……!」
「ゆた。最後の希望よ。貴艦の……レーザー砲を使いなさい。他に手は無いわ」
「……了解。レーザー、照射シーケンスを開始」
艦首側に装備されたレーザー砲塔を目標へ指向する。
「目標補足。EPFCG起動、第一、第二キャパシタ接続」
あたしのレーザー砲システムは瞬時に1200万kwの電力を生み出す発電機、それを蓄電するキャパシタ、そしてレーザー砲本体で構成されている。
べらぼうな電力を消費するから、2回しか照射できない。
普段は弾道弾を迎撃する訓練をしているし、こんなデカブツを外す気はしない、しないんだけど。
そんなことより、これがもし効かなかったら、という心配のほうが大きかった。
「第一キャパシタ開放、照射!」
空気を切り裂くような音と共に黄色い光線がまっすぐ伸びる。
照射時間は一瞬。効果確認なんてしてる場合じゃない。
「第二キャパシタ開放、照射!」
再び照射。命中。咆哮。効いているのか?わからない。
「効果、認めず」
こちらを睨みつける、"それ"の双眸。あの、ジリジリという音が聞こえてくる。背中側の、背鰭とでも形容すべき突起が、放電し発光する様子が見える。
あー、あたしもこれで終わりか。目を閉じて覚悟したそのとき。
瞼を貫いたのは、青白い光条ではなく、何かが爆発した光。
「――我々は第零遊撃部隊。これより貴艦隊を援護します!速やかに当海域を脱出されたし!」
突然入ってきた通信。今加えられた攻撃の主なの?
"それ"は向きを変え、あたし達から離れていく。
「……久しいわね」
先輩がボソッとつぶやく。
「えっ?」
「いいえ、なんでもない。お言葉に甘えて、さっさと離脱するのが吉よ」
「そう……ですね!了解!」
.....
....
...
..
.
基地へ帰還して早々、あたし達を出迎えたのは、何やら黒尽くめの制服を着たやつらだった。どうやら上層部の連中らしい。
あたしや先輩、他の救助にあたった艦船、航空機のパイロットに避難民まで一人一人、今回見たものについて他言無用であると密室で誓約書を書かされたんだ。
衝撃的な出来事だった。けど、それ以上に、あたしが"あれ"に対して無力だったことがショックだった。
護国の盾になるんだって。あたしはそのために日々訓練を重ねていたのに。
先輩には、そもそも想定されてないから仕方ない、あなたの仕事じゃない、気にするなって言われたけど。
突然入ってきた通信。今加えられた攻撃の主なの?
"それ"は向きを変え、あたし達から離れていく。
「……久しいわね」
先輩がボソッとつぶやく。
「えっ?」
「いいえ、なんでもない。お言葉に甘えて、さっさと離脱するのが吉よ」
「そう……ですね!了解!」
.....
....
...
..
.
基地へ帰還して早々、あたし達を出迎えたのは、何やら黒尽くめの制服を着たやつらだった。どうやら上層部の連中らしい。
あたしや先輩、他の救助にあたった艦船、航空機のパイロットに避難民まで一人一人、今回見たものについて他言無用であると密室で誓約書を書かされたんだ。
衝撃的な出来事だった。けど、それ以上に、あたしが"あれ"に対して無力だったことがショックだった。
護国の盾になるんだって。あたしはそのために日々訓練を重ねていたのに。
先輩には、そもそも想定されてないから仕方ない、あなたの仕事じゃない、気にするなって言われたけど。
「こんにちは~っと」
「よォ、デカい方のゆたじゃねェか。最近よく来るな、どうした?」
「べーつに。それより今日も居る?」
「小さい方か?」
「姉貴ー、お客さん」
「あの、オーナー、その呼び方はちょっと……。」
「じゃーどーすんだよ、どっちもゆたなんだからしゃーねーだろぃ」
「ふふ、今日も賑やかでいいね。さ、座って座って。あ、お茶と点心セット2人分お願い」
「まいどー。姉貴は座ってていいからな」
横浜で見つけた中華屋、麒麟。
ここにはあたしと同じ名前の可愛い給仕さんが居る。
とっても聞き上手で、楽しくって。塞ぎ込んでいた気分も吹き飛んじゃう。
この楽しい場所を守らなきゃ、って。立ち直ることができる、このお店が大好き。
……ここに初めて来たときの話は、また、今度。
(おわり)
「よォ、デカい方のゆたじゃねェか。最近よく来るな、どうした?」
「べーつに。それより今日も居る?」
「小さい方か?」
「姉貴ー、お客さん」
「あの、オーナー、その呼び方はちょっと……。」
「じゃーどーすんだよ、どっちもゆたなんだからしゃーねーだろぃ」
「ふふ、今日も賑やかでいいね。さ、座って座って。あ、お茶と点心セット2人分お願い」
「まいどー。姉貴は座ってていいからな」
横浜で見つけた中華屋、麒麟。
ここにはあたしと同じ名前の可愛い給仕さんが居る。
とっても聞き上手で、楽しくって。塞ぎ込んでいた気分も吹き飛んじゃう。
この楽しい場所を守らなきゃ、って。立ち直ることができる、このお店が大好き。
……ここに初めて来たときの話は、また、今度。
(おわり)