―20XX年8月6日、呉
「あきしお、案内ありがとねー!すっごく良かったよ!」
「いえいえーあの頃のこと色々お話できて良かったですよ、また機会があればどうぞ!」
"ゆた"と"雨打"は、海上自衛隊広報館へ来ていた。
"てつのくじら館"の異名のあるこの施設は、退役した潜水艦"あきしお"が館長を務めていた。
展示物の閲覧だけでなく、実際に活動していた潜水艦本人から話を聞けるというのがこの施設の目玉であった。
とはいえ、流石に機密までは話さない。公開できる範囲のことに限られる。
「雨打、どうだったよー?」
「ええ、その……色々と新鮮だった」
元雨氷型駆逐艦"雨打"は、"ゆた"に、自分の過去のことは打ち明けられていなかった。
流石に元護衛艦、実は気づいているのを黙ってくれているだけかもしれないし、知らないなら余計なことを言うべきではない、と思ってここまで来てしまった。
気づけば半世紀も見えてくる二人の付き合い。歳も食わないので流石に普通の人間でないことはバレていると思うが、やはりそれも口に出そうとは思わなかった。
「じゃ、このまま大和ミュージアムも」
「あ、その、えっと!てっ提案……良いかしら!?」
大和ミュージアムには雨打自身の展示もあると聞いていた雨打。慌てて引き留める。
いくらなんでも自分の蝋人形、あるいは模型を目の前にしたら過去の話題になるのは避けられない。
そんな流れで打ち明けることになる、というのは雨打は嫌がった。
「ん?行きたいところがあるの?」
「ええ……。その、広島市まで」
「いえいえーあの頃のこと色々お話できて良かったですよ、また機会があればどうぞ!」
"ゆた"と"雨打"は、海上自衛隊広報館へ来ていた。
"てつのくじら館"の異名のあるこの施設は、退役した潜水艦"あきしお"が館長を務めていた。
展示物の閲覧だけでなく、実際に活動していた潜水艦本人から話を聞けるというのがこの施設の目玉であった。
とはいえ、流石に機密までは話さない。公開できる範囲のことに限られる。
「雨打、どうだったよー?」
「ええ、その……色々と新鮮だった」
元雨氷型駆逐艦"雨打"は、"ゆた"に、自分の過去のことは打ち明けられていなかった。
流石に元護衛艦、実は気づいているのを黙ってくれているだけかもしれないし、知らないなら余計なことを言うべきではない、と思ってここまで来てしまった。
気づけば半世紀も見えてくる二人の付き合い。歳も食わないので流石に普通の人間でないことはバレていると思うが、やはりそれも口に出そうとは思わなかった。
「じゃ、このまま大和ミュージアムも」
「あ、その、えっと!てっ提案……良いかしら!?」
大和ミュージアムには雨打自身の展示もあると聞いていた雨打。慌てて引き留める。
いくらなんでも自分の蝋人形、あるいは模型を目の前にしたら過去の話題になるのは避けられない。
そんな流れで打ち明けることになる、というのは雨打は嫌がった。
「ん?行きたいところがあるの?」
「ええ……。その、広島市まで」
ゆたの運転する車に揺られる雨打。ピカピカのスポーツカーだ。Zとか言うんだったっけ。元艦船の海自OBってそんなにお給金いいのかな。
そんな思考に身を任せていると、不意にある建物が視界に入り、雨打はビクッとした。
「原爆……ドームね」
「そー。記念式典はとっくに終わってるから、公園は空いてると思うよ」
ゆたは公園近くの市営駐車場へ停めると、雨打の手を引いて歩き出す。
「なんというか……思ったより緑の多い普通の公園ね」
「遊歩道なんかもあるしねー」
様々な祈念碑があるなか、二人は原爆死没者慰霊碑を訪れた。
その向こうの平和の池には、変わらず平和の灯が灯っている。
「『安らかに眠って下さい 過ちは繰返しませぬから』……」
雨打は手を合わせ、思いを巡らせる。
過ちは繰り返しませんから。
ここの過ちとは、核兵器による災禍や、それを内包する戦争を指すはずだ。
しかし、雨打にとっては、少し違う意味に見えた。
あの夜、私が"過ち"を犯さねば、あのときの広島はこんな目に遭わずに済んだはずだった。
ヴォーパルによって再生された、日本に戻ったあと、新聞、ラジオ、テレビで、この日のことが報せられるたびに、思い悩んだ。
しかし一方で、碑文に込められた想いとは違うという認識もあった。私が兵器だったから、こんな思考になってしまうのか?頭の中は堂々巡りだった。
そんな思考に身を任せていると、不意にある建物が視界に入り、雨打はビクッとした。
「原爆……ドームね」
「そー。記念式典はとっくに終わってるから、公園は空いてると思うよ」
ゆたは公園近くの市営駐車場へ停めると、雨打の手を引いて歩き出す。
「なんというか……思ったより緑の多い普通の公園ね」
「遊歩道なんかもあるしねー」
様々な祈念碑があるなか、二人は原爆死没者慰霊碑を訪れた。
その向こうの平和の池には、変わらず平和の灯が灯っている。
「『安らかに眠って下さい 過ちは繰返しませぬから』……」
雨打は手を合わせ、思いを巡らせる。
過ちは繰り返しませんから。
ここの過ちとは、核兵器による災禍や、それを内包する戦争を指すはずだ。
しかし、雨打にとっては、少し違う意味に見えた。
あの夜、私が"過ち"を犯さねば、あのときの広島はこんな目に遭わずに済んだはずだった。
ヴォーパルによって再生された、日本に戻ったあと、新聞、ラジオ、テレビで、この日のことが報せられるたびに、思い悩んだ。
しかし一方で、碑文に込められた想いとは違うという認識もあった。私が兵器だったから、こんな思考になってしまうのか?頭の中は堂々巡りだった。
そんな雨打の思考を、ゆたの声が止めた。
「あれ、"うるま"じゃん?来てたの?」
「ゆたさんこそ、わざわざこんなところまで?それに、その子は」
「あっとね。海自資料館に一緒に行ったついで。あたしと同じ名前の雨打っていうんだ。横浜の中華屋で働いてる子でさー」
「は、はじめまして……」
「はじめまして雨打さん。お会いできて光栄です」
「うるまはね、今海自が就役へ向けて調整中の最新鋭の大型護衛艦なんだ。ま、あたしの後輩ってコト」
雨打はうるまを見てて気になることがあった。
「あの……失礼ですけど、うるま……さんって、その身体は……」
「ああ。私は全身義体ですよ。生体パーツはほとんどありません」
「んっとねー、日本の艦船じゃ珍しいかな?一応元人間なんだけど」
「神経系の一部だけなんですよね。なので、私元々自分がどんな人間だったかとか、全然覚えてなくって」
「……悪いこと、訊いちゃったかしら」
「いえいえ!そんなとんでもないですよ。この身体のおかげで新型護衛艦の素体に抜擢されたので、コンプレックスに思ってるとかは全然ありません。それより……」
うるまは雨打を見て尋ねる。
「祈念碑を見て、何か思い悩んでる様子でしたけど。どうかしましたか?」
「……いえ、大丈夫」
「なら良いんですけどね。『過ちは繰返しませぬから』……ですか」
雨打はほんの一瞬、うるまが真顔になったことを見逃さなかった。義体の光学センサーだからというだけでは説明できないような、冷たい目をしていた。
「あ、お二人は資料館は入ったことありますか?私、解説しながらご案内できますよ」
「おっマジで?お願いしていい?雨打、行こ行こ!」
「う、うん……」
モニュメントの前から少女たちは立ち去り、平和の灯だけが静かに燃えていた。
(おわり)
「あれ、"うるま"じゃん?来てたの?」
「ゆたさんこそ、わざわざこんなところまで?それに、その子は」
「あっとね。海自資料館に一緒に行ったついで。あたしと同じ名前の雨打っていうんだ。横浜の中華屋で働いてる子でさー」
「は、はじめまして……」
「はじめまして雨打さん。お会いできて光栄です」
「うるまはね、今海自が就役へ向けて調整中の最新鋭の大型護衛艦なんだ。ま、あたしの後輩ってコト」
雨打はうるまを見てて気になることがあった。
「あの……失礼ですけど、うるま……さんって、その身体は……」
「ああ。私は全身義体ですよ。生体パーツはほとんどありません」
「んっとねー、日本の艦船じゃ珍しいかな?一応元人間なんだけど」
「神経系の一部だけなんですよね。なので、私元々自分がどんな人間だったかとか、全然覚えてなくって」
「……悪いこと、訊いちゃったかしら」
「いえいえ!そんなとんでもないですよ。この身体のおかげで新型護衛艦の素体に抜擢されたので、コンプレックスに思ってるとかは全然ありません。それより……」
うるまは雨打を見て尋ねる。
「祈念碑を見て、何か思い悩んでる様子でしたけど。どうかしましたか?」
「……いえ、大丈夫」
「なら良いんですけどね。『過ちは繰返しませぬから』……ですか」
雨打はほんの一瞬、うるまが真顔になったことを見逃さなかった。義体の光学センサーだからというだけでは説明できないような、冷たい目をしていた。
「あ、お二人は資料館は入ったことありますか?私、解説しながらご案内できますよ」
「おっマジで?お願いしていい?雨打、行こ行こ!」
「う、うん……」
モニュメントの前から少女たちは立ち去り、平和の灯だけが静かに燃えていた。
(おわり)