―1945年8月5日夕方
「毒雨、ちょっとお話。いつものとこ」
「へぇ~い……」
俺はまた雨打の姉貴の説教を聞かされるらしい。
帰ってきて姉貴に見つかるとすぐコレだ。見つからないように帰ってるつもりなんだけどなぁ。
渋々、宿舎に設置してある百葉箱のところへ行く。これが『いつものとこ』だ。
姉貴は普段メガネなんか掛けてないんだが、俺に説教するときはいつも掛けている。
なんとなくキツい目付きがマシになってる気がするんだが、だからどうってことはない。
口煩い姉貴の一人には違いねえ。
「待ってたわよ」
「待ってくれなくていいんだけどなぁ」
「私は約束は守るし、嘘もつかないの」
「へいへい」
いつもの応酬だ。実際、姉貴はクソ真面目もいいとこだ。
こんなんで姉貴は人生(艦生?)楽しいんだろうかね?
「今日は何したの?」
「エェと……誰のか知らん魚雷の命中報告を俺のもんってことにした」
「それだけ?まだあるの知ってるのよ」
「知ってんなら訊くんじゃねえよ」
「あなたの口から聞きたいの。正しい情報をね」
また始まった。雨打の姉貴の情報リテラシー講座だ。
「良いこと?私達は軍艦なの。いろんな艦が居て、それぞれの能力を最大限に活かすには正しい情報が必要なの」
「ああ。」
「例えば私は防空の任務。敵機の航路情報を事前に収集して予測する。これは本部の仕事」
「そうだな」
「実際の当日の索敵は地上の電探や哨戒艦、あと牡丹雪の仕事」
「ああ、あいつな」
「そして導き出された最適な射点に私は誘導されて、初めて敵機を落とす準備ができるの。わかる?」
「知ってるよ。姉貴に何度も聞かされてる」
「何度も話してるものね」
「じゃあもういいだろ?」
「私は毒雨がわかってくれるまで何度でもこの話をするわ」
あぁ、もううんざりだ。ずっと思ってたことを言ってやる。
「でもよ姉貴。姉貴が落としたのってせいぜい十機と少しなんだろ?」
「っ!」
姉貴が今まで見たことないような顔をする。怒りと悲しみが混じったような。
だけど俺は構わず続ける。
「航空隊のヤツらのほうがもっと落としてるし、それ必要か?」
「毒雨」
「なんだよ」
姉貴は一呼吸置くと、また口を開いた。
「一機だって、たくさんの爆弾を積んでる。一機落とすだけでも、帝国臣民が何万人かだって救えるかもしれない」
馬鹿なこと言ってら。敵は数百機もの編隊でやってくるって話じゃねえか。
「姉貴、それは自信過剰ってモンだよ。大袈裟なんだよ、大袈裟」
「私はッ!……そのくらいの覚悟でやってるってだけ」
「フン」
「だから……」
はぁ、またかよ。一通り話すと姉貴はいつもこうやって抱きついてきやがる。
姉貴は自分がどんな身体してんのか自覚ねぇのか?ま、姉貴だから何の感情も無いけどよ。
「……あなたも、いつか、いつかでいいから」
あれ。ちょっと言い過ぎたかな。涙声じゃん、姉貴。
「いつかでいいから、他人と、自分自身に正直になってほしいの」
「わーったわーった、わかったから放してくれよ」
ふぅ、いつもと様子が違ったから焦ったぜ。
「それじゃ毒雨、反省文を原稿用紙2枚以上で書いてきて持ってくること」
「うっす」
なんとかいつも通りに終わらせられたみたいだ。
俺は逃げ帰るようにして宿舎へ戻った。
「へぇ~い……」
俺はまた雨打の姉貴の説教を聞かされるらしい。
帰ってきて姉貴に見つかるとすぐコレだ。見つからないように帰ってるつもりなんだけどなぁ。
渋々、宿舎に設置してある百葉箱のところへ行く。これが『いつものとこ』だ。
姉貴は普段メガネなんか掛けてないんだが、俺に説教するときはいつも掛けている。
なんとなくキツい目付きがマシになってる気がするんだが、だからどうってことはない。
口煩い姉貴の一人には違いねえ。
「待ってたわよ」
「待ってくれなくていいんだけどなぁ」
「私は約束は守るし、嘘もつかないの」
「へいへい」
いつもの応酬だ。実際、姉貴はクソ真面目もいいとこだ。
こんなんで姉貴は人生(艦生?)楽しいんだろうかね?
「今日は何したの?」
「エェと……誰のか知らん魚雷の命中報告を俺のもんってことにした」
「それだけ?まだあるの知ってるのよ」
「知ってんなら訊くんじゃねえよ」
「あなたの口から聞きたいの。正しい情報をね」
また始まった。雨打の姉貴の情報リテラシー講座だ。
「良いこと?私達は軍艦なの。いろんな艦が居て、それぞれの能力を最大限に活かすには正しい情報が必要なの」
「ああ。」
「例えば私は防空の任務。敵機の航路情報を事前に収集して予測する。これは本部の仕事」
「そうだな」
「実際の当日の索敵は地上の電探や哨戒艦、あと牡丹雪の仕事」
「ああ、あいつな」
「そして導き出された最適な射点に私は誘導されて、初めて敵機を落とす準備ができるの。わかる?」
「知ってるよ。姉貴に何度も聞かされてる」
「何度も話してるものね」
「じゃあもういいだろ?」
「私は毒雨がわかってくれるまで何度でもこの話をするわ」
あぁ、もううんざりだ。ずっと思ってたことを言ってやる。
「でもよ姉貴。姉貴が落としたのってせいぜい十機と少しなんだろ?」
「っ!」
姉貴が今まで見たことないような顔をする。怒りと悲しみが混じったような。
だけど俺は構わず続ける。
「航空隊のヤツらのほうがもっと落としてるし、それ必要か?」
「毒雨」
「なんだよ」
姉貴は一呼吸置くと、また口を開いた。
「一機だって、たくさんの爆弾を積んでる。一機落とすだけでも、帝国臣民が何万人かだって救えるかもしれない」
馬鹿なこと言ってら。敵は数百機もの編隊でやってくるって話じゃねえか。
「姉貴、それは自信過剰ってモンだよ。大袈裟なんだよ、大袈裟」
「私はッ!……そのくらいの覚悟でやってるってだけ」
「フン」
「だから……」
はぁ、またかよ。一通り話すと姉貴はいつもこうやって抱きついてきやがる。
姉貴は自分がどんな身体してんのか自覚ねぇのか?ま、姉貴だから何の感情も無いけどよ。
「……あなたも、いつか、いつかでいいから」
あれ。ちょっと言い過ぎたかな。涙声じゃん、姉貴。
「いつかでいいから、他人と、自分自身に正直になってほしいの」
「わーったわーった、わかったから放してくれよ」
ふぅ、いつもと様子が違ったから焦ったぜ。
「それじゃ毒雨、反省文を原稿用紙2枚以上で書いてきて持ってくること」
「うっす」
なんとかいつも通りに終わらせられたみたいだ。
俺は逃げ帰るようにして宿舎へ戻った。
―1945年8月6日昼
俺が港に帰ってくると、妙にざわついていた。
聞き耳を立てれば広島が壊滅だのと唐突な言葉が聞こえてくる。
なんだなんだ?昨日までそんな話はなかっただろ?
「毒雨、帰ってたのか」
うちの指揮官だ。どうせ報告に行くつもりだったんだけど、声をかけられるとは。
俺、なんかしたっけ?
「今すぐ部屋までついて来てくれ、お前にもこのことは伝えなければならない」
何かただ事ではなさそうな雰囲気だ。
部屋に入るや否や、指揮官は振り向き言った。
「雨打が沈んだ。そして、広島に新型爆弾が落とされた」
……は?
「状況は目下調査中だが、敵は単機侵入により爆撃を実施、一発で広島市を壊滅させたということだ」
……理解が追いつかない。そんなことあるもんか。
「はっはーん、わかった、これは俺への仕返しだろう、なぁ指揮官さんよ」
「は?」
「俺がいままでずーっとおたくらを混乱させてきたから、やりかえしてやろうって魂胆だろう」
「何を言っている」
「だがそうは行かねえぜ、俺はもう気付いちまったからな」
一瞬、沈黙が流れる。
「……そうか、毒雨。受け入れられないんだな」
「いやだからさ、これ全部嘘なんだろ?なぁ姉貴?どうせ隠れてンだろ?」
「雨打は沈んだのだ。牡丹雪が確認した」
「えっ……マジ……」
俺は血の気が引いていくのを感じた。
「どのようにやられたのか不明だが、おそらく潜伏していた飛行艇か何かだろう」
「嘘だろ……」
「本当のことだ。広島の状況については調査が進み次第伝える。場合によっては貴艦も救援に向かう必要があるだろう。」
何もわからなかった。こんなことが起こってしまうのか。
「あー……毒雨、自室で別命あるまで待機しておいてくれ。これでこの話は終わりだ」
気付いたときには俺は机に向かっていた。
机の上にはひたすら『ごめんなさい』と書かれた原稿用紙があった。
ごめんな姉貴、もう、反省文出せねえや。
(おわり)
聞き耳を立てれば広島が壊滅だのと唐突な言葉が聞こえてくる。
なんだなんだ?昨日までそんな話はなかっただろ?
「毒雨、帰ってたのか」
うちの指揮官だ。どうせ報告に行くつもりだったんだけど、声をかけられるとは。
俺、なんかしたっけ?
「今すぐ部屋までついて来てくれ、お前にもこのことは伝えなければならない」
何かただ事ではなさそうな雰囲気だ。
部屋に入るや否や、指揮官は振り向き言った。
「雨打が沈んだ。そして、広島に新型爆弾が落とされた」
……は?
「状況は目下調査中だが、敵は単機侵入により爆撃を実施、一発で広島市を壊滅させたということだ」
……理解が追いつかない。そんなことあるもんか。
「はっはーん、わかった、これは俺への仕返しだろう、なぁ指揮官さんよ」
「は?」
「俺がいままでずーっとおたくらを混乱させてきたから、やりかえしてやろうって魂胆だろう」
「何を言っている」
「だがそうは行かねえぜ、俺はもう気付いちまったからな」
一瞬、沈黙が流れる。
「……そうか、毒雨。受け入れられないんだな」
「いやだからさ、これ全部嘘なんだろ?なぁ姉貴?どうせ隠れてンだろ?」
「雨打は沈んだのだ。牡丹雪が確認した」
「えっ……マジ……」
俺は血の気が引いていくのを感じた。
「どのようにやられたのか不明だが、おそらく潜伏していた飛行艇か何かだろう」
「嘘だろ……」
「本当のことだ。広島の状況については調査が進み次第伝える。場合によっては貴艦も救援に向かう必要があるだろう。」
何もわからなかった。こんなことが起こってしまうのか。
「あー……毒雨、自室で別命あるまで待機しておいてくれ。これでこの話は終わりだ」
気付いたときには俺は机に向かっていた。
机の上にはひたすら『ごめんなさい』と書かれた原稿用紙があった。
ごめんな姉貴、もう、反省文出せねえや。
(おわり)