―1945年4月
「……おかしい。哨戒艦から定時連絡が来ない」
「えっ?」
本土防空のため、指定された海域へ向かっていた二隻の駆逐艦。
レーダーピケット艦の牡丹雪と重高射砲艦の雨打だ。
彼らに定期的に回ってくる任務だった。
しかし、この日の海はいつもと違った。
「まさかやられたってことは……無いでしょうね」
「一隻だけならそうかもしれない。しかし……」
牡丹雪は狐面の下によくわからない汗をかいていた。
周辺海域に展開しているはずの哨戒艦、すべてと連絡が取れないのだ。
こんなことは初めての経験だった。
「えっ?」
本土防空のため、指定された海域へ向かっていた二隻の駆逐艦。
レーダーピケット艦の牡丹雪と重高射砲艦の雨打だ。
彼らに定期的に回ってくる任務だった。
しかし、この日の海はいつもと違った。
「まさかやられたってことは……無いでしょうね」
「一隻だけならそうかもしれない。しかし……」
牡丹雪は狐面の下によくわからない汗をかいていた。
周辺海域に展開しているはずの哨戒艦、すべてと連絡が取れないのだ。
こんなことは初めての経験だった。
「ねぇ、じゃあ本部はどうなのよ」
「……ダメだ。通じない。何故だ」
無線が全く通じない。
「無線が使えないとしたら、私達も、離れないほうが良いかもしれないわね」
「想定外だ。通信回復まで待とう」
牡丹雪は各種装備の吐き出す周辺状況をいつも以上に注視していた。
しかし、すべて沈黙していた。
異常なのだ。ノイズさえ乗らない。
静かな、静かな海。新月の夜、光もほとんどない。
二人は深淵の闇に呑まれていた。
波音さえ静まり返る暗さ。宙に浮いたような感覚さえ覚える。
そこへ突然、空を切り裂くような音がこちらを目掛けて飛んできた。
「……ダメだ。通じない。何故だ」
無線が全く通じない。
「無線が使えないとしたら、私達も、離れないほうが良いかもしれないわね」
「想定外だ。通信回復まで待とう」
牡丹雪は各種装備の吐き出す周辺状況をいつも以上に注視していた。
しかし、すべて沈黙していた。
異常なのだ。ノイズさえ乗らない。
静かな、静かな海。新月の夜、光もほとんどない。
二人は深淵の闇に呑まれていた。
波音さえ静まり返る暗さ。宙に浮いたような感覚さえ覚える。
そこへ突然、空を切り裂くような音がこちらを目掛けて飛んできた。
二人の両脇に水柱が立つ。
「敵襲!?」
「馬鹿な、初弾で至近弾だと!?」
そこそこに高い水柱。8インチクラスの砲弾が飛んできたことが経験からわかる。
牡丹雪の電探は相変わらず沈黙し、音探も雨打の推進音さえ捉えられていない。
「どうなっている……!」
「牡丹雪、少し、少し離れましょう。お互い見える程度に」
「了解した」
8インチ砲ということは重巡以上の相手だ。
駆逐艦…それも普通ではない二隻でどうにかなる相手だろうか。
一旦離れると、牡丹雪は己の耳を凝らす。
二射目が来るはずだ。それで方向はわかる。
「回避行動を常に取り続けるんだ」
「ええ…」
そうこうしているうちに再び飛んでくる。
聞こえた!
牡丹雪は発砲音と着弾の時間差をおおまかに計算し方位を割り出し、雨打に伝えた。
「とりあえず魚雷を一斉に放つ」
「わかったわ!」
二人合わせて6射線、当たれば儲けものだが牽制以上の意味は持たない。
少ないありったけの魚雷を放った。
しばらく待っても当たった様子はなかった。
敵も砲撃を諦めたのか、次弾は飛んでこなかった。
しかし、また別の飛翔音が聞こえてくる。
"何か"が二人の上空を掠めた。
「今の何!?」
「噴進弾か!?」
過ぎ去った方向を見ても水柱は立っていない。
それどころか、そちらからまた音がする。
「違う……噴進<ジェット>機だ!」
「敵襲!?」
「馬鹿な、初弾で至近弾だと!?」
そこそこに高い水柱。8インチクラスの砲弾が飛んできたことが経験からわかる。
牡丹雪の電探は相変わらず沈黙し、音探も雨打の推進音さえ捉えられていない。
「どうなっている……!」
「牡丹雪、少し、少し離れましょう。お互い見える程度に」
「了解した」
8インチ砲ということは重巡以上の相手だ。
駆逐艦…それも普通ではない二隻でどうにかなる相手だろうか。
一旦離れると、牡丹雪は己の耳を凝らす。
二射目が来るはずだ。それで方向はわかる。
「回避行動を常に取り続けるんだ」
「ええ…」
そうこうしているうちに再び飛んでくる。
聞こえた!
牡丹雪は発砲音と着弾の時間差をおおまかに計算し方位を割り出し、雨打に伝えた。
「とりあえず魚雷を一斉に放つ」
「わかったわ!」
二人合わせて6射線、当たれば儲けものだが牽制以上の意味は持たない。
少ないありったけの魚雷を放った。
しばらく待っても当たった様子はなかった。
敵も砲撃を諦めたのか、次弾は飛んでこなかった。
しかし、また別の飛翔音が聞こえてくる。
"何か"が二人の上空を掠めた。
「今の何!?」
「噴進弾か!?」
過ぎ去った方向を見ても水柱は立っていない。
それどころか、そちらからまた音がする。
「違う……噴進<ジェット>機だ!」
グロスター・ミーティア。
英国製の噴進機だ。二年前に初飛行し、配備も進んでいる。
牡丹雪はそれを知識として持っていたが。
「だが、アレはこんなところまで飛んでこれるはずはない」
「じゃあ空母でも居るっていうの?」
「それも違うはずだ……艦上機タイプは存在しない……」
「なんなのよ、もう!」
反転してくるミーティア。
「落とすしか無いようだな」
二人は長10cm砲の狙いを定める。幸い、ミーティアはそれほど高速な機体ではない。
「てっ!」
炸裂音。空中で砲弾は爆発し、破片を撒き散らす。
破片の中へ突っ込んだ機体はバラバラになり、燃え落ちた。
「やったわ!」
その瞬間、真っ暗闇に包まれていた周囲に星明かりが帰ってくる。
電探、音探、通信機にノイズが流れ出す。
「さっきのが原因だったのか……?」
戸惑いながらも牡丹雪は周囲の状況を確認すべく、各種機器を注視する。
「電探に大型艦の反応あり。無線も回復した。今から諸元を送る」
「諸元ったって牡丹雪、魚雷は撃ちきったわよ!」
「魚雷じゃない。高射砲で撃ってくれ」
「へっ……!?」
「その砲なら可能だ」
「……上等だわ!やってやるわよ!」
英国製の噴進機だ。二年前に初飛行し、配備も進んでいる。
牡丹雪はそれを知識として持っていたが。
「だが、アレはこんなところまで飛んでこれるはずはない」
「じゃあ空母でも居るっていうの?」
「それも違うはずだ……艦上機タイプは存在しない……」
「なんなのよ、もう!」
反転してくるミーティア。
「落とすしか無いようだな」
二人は長10cm砲の狙いを定める。幸い、ミーティアはそれほど高速な機体ではない。
「てっ!」
炸裂音。空中で砲弾は爆発し、破片を撒き散らす。
破片の中へ突っ込んだ機体はバラバラになり、燃え落ちた。
「やったわ!」
その瞬間、真っ暗闇に包まれていた周囲に星明かりが帰ってくる。
電探、音探、通信機にノイズが流れ出す。
「さっきのが原因だったのか……?」
戸惑いながらも牡丹雪は周囲の状況を確認すべく、各種機器を注視する。
「電探に大型艦の反応あり。無線も回復した。今から諸元を送る」
「諸元ったって牡丹雪、魚雷は撃ちきったわよ!」
「魚雷じゃない。高射砲で撃ってくれ」
「へっ……!?」
「その砲なら可能だ」
「……上等だわ!やってやるわよ!」
雨打は24cm重高射砲を旋回させる。普段は上に向けて撃っている砲である。
対艦戦闘で使用するなど初めてのことだ。
星明かりがあるとはいえ、敵艦の姿は見えそうにない。
牡丹雪の送った諸元通りに撃つほかなかった。
「頼むから…当たって!」
大きく畝る海面。水面スレスレを飛ぶ砲弾。命中、爆発。
「初弾命中、敵艦は爆発炎上中」
「うっそぉ……すごい、ありがとう、牡丹雪!」
「まだ油断するな」
回避行動を取りつつ、敵艦との距離を縮めていく二人。
反撃してくる様子はない。
ついに煙と炎の元にたどり着く。
「これは……何だ?」
燃えているのは、何やら紫色で半透明のゼリーのような物体。
あまりにも奇妙だ。
「気味悪いわね」
「こんなものは初めて見る」
「見たことあったらびっくりするわよ」
「どう報告する」
「見たまま報告したら正気を疑われるわ」
「撃たれたのだから交戦記録だけ報告する」
「それが良いわ」
移動中に敵襲を受けた場合、迎撃任務を中止することになっている。
「…帰りましょうか」
「そうしよう」
帰路につこうと反転した二人の後ろで、"それ"は静かに震えていた。
(おわり)
対艦戦闘で使用するなど初めてのことだ。
星明かりがあるとはいえ、敵艦の姿は見えそうにない。
牡丹雪の送った諸元通りに撃つほかなかった。
「頼むから…当たって!」
大きく畝る海面。水面スレスレを飛ぶ砲弾。命中、爆発。
「初弾命中、敵艦は爆発炎上中」
「うっそぉ……すごい、ありがとう、牡丹雪!」
「まだ油断するな」
回避行動を取りつつ、敵艦との距離を縮めていく二人。
反撃してくる様子はない。
ついに煙と炎の元にたどり着く。
「これは……何だ?」
燃えているのは、何やら紫色で半透明のゼリーのような物体。
あまりにも奇妙だ。
「気味悪いわね」
「こんなものは初めて見る」
「見たことあったらびっくりするわよ」
「どう報告する」
「見たまま報告したら正気を疑われるわ」
「撃たれたのだから交戦記録だけ報告する」
「それが良いわ」
移動中に敵襲を受けた場合、迎撃任務を中止することになっている。
「…帰りましょうか」
「そうしよう」
帰路につこうと反転した二人の後ろで、"それ"は静かに震えていた。
(おわり)