―1948年夏 夕暮れ 日本近海
「えー聞こえますかー聞こえますかーこちら駆逐艦"雨雪"でーす。そろそろ哨戒終了時刻なので帰りまーす」
雨氷型駆逐艦45番艦"雨雪"は任務を終え、帰路につこうとしていた。
しかし、無線の相手はそれを許さなかった。
「こちら掃海母艦"礼文"、雨雪さん、待ってください。近隣の哨戒艦から未確認艦艇の高速接近報告があります。ちょうど貴艦のところへ向かっているようです」
「本当ですか?それなら迎撃を任せてください!」
「了解しました。付近に陸軍の夜見丸も居るようなので、念のためそちらにも支援を要請してみます」
「承知しました!」
雨雪は艤装を持つ手にぐっと力が入るのを感じた。
彼女は雨氷型の中でも性能向上型だった。
各種武装の強化のみならず生存性の向上も図られている。
「それにしても、高速ってどのくらいなんだろう……?」
雨氷型は40ノット超を出せる艦が多く、彼女もまた例外ではなかった。
それを超える艦といえば、独偵察巡洋艦イエナや仏対潜駆逐艦ル・フォリィ級が知られていたが、ドイツは既に降伏していたし、後者は遠く離れた海域を活動域としていた。
そうすると、未知の艦艇ということになる。
「ちょっとワクワクしますね……ふふっ」
雨氷型駆逐艦45番艦"雨雪"は任務を終え、帰路につこうとしていた。
しかし、無線の相手はそれを許さなかった。
「こちら掃海母艦"礼文"、雨雪さん、待ってください。近隣の哨戒艦から未確認艦艇の高速接近報告があります。ちょうど貴艦のところへ向かっているようです」
「本当ですか?それなら迎撃を任せてください!」
「了解しました。付近に陸軍の夜見丸も居るようなので、念のためそちらにも支援を要請してみます」
「承知しました!」
雨雪は艤装を持つ手にぐっと力が入るのを感じた。
彼女は雨氷型の中でも性能向上型だった。
各種武装の強化のみならず生存性の向上も図られている。
「それにしても、高速ってどのくらいなんだろう……?」
雨氷型は40ノット超を出せる艦が多く、彼女もまた例外ではなかった。
それを超える艦といえば、独偵察巡洋艦イエナや仏対潜駆逐艦ル・フォリィ級が知られていたが、ドイツは既に降伏していたし、後者は遠く離れた海域を活動域としていた。
そうすると、未知の艦艇ということになる。
「ちょっとワクワクしますね……ふふっ」
雨雪が周囲を警戒していると、電探に感があった。と同時に、何か絶叫する声が聞こえてくる。
「ダアアアアアアアッ!貴様がミゾレとかいう駆逐艦かァーッ!」
「げぇ!最初から私が標的なんですか!?」
声の主は80ノットを越えようかというあり得ない速度で突っ込んでくる。まるで航空機だ。
とっさに回避行動を取る雨雪。
「なんなんですかあなたはっ!?」
「おとなしくアタシに捕まりやがれェーッ!!」
「いやーっ!?この人ぜんぜん話聞いてなーい!うさぎちゃんお願いっ!」
雨雪は敵艦の予想航路に噴進弾をばらまく。
数発が命中するが、傷一つ付いている様子がない。
「そんなモンでこのアタシが沈むと思ったかミゾレ!」
敵艦は衝角のついたハルバードのような武器を振り上げる。
「聞いてないし効いてないよーどうしよーっ!?」
逃げ続ける雨雪。相手の機動性の高さのあまり、主砲や魚雷はまともに照準がつけられそうにない。
ひたすら噴進弾をばらまき続けるが、とうとう全弾撃ち尽くしてしまった。
「うさぎちゃん弾切れ!?機関砲に切り替え!」
雨雪を取り巻くリングが発光し機関砲がぐるりと旋回、敵艦を指向し、発砲。
無数の曳光弾が吸い込まれていくがやはり効いてる様子はない。
「わははーだよね効かないよねー!こうなったら!」
雨雪は急制動をかけて振り向き、艦首槍を構える。
「やっとやる気になったかミゾレ!いいぞ!」
「なんなんですかも~っ!」
「いいだろう、教えてやる、アタシはバンダースナッチ、水雷衝角艦だ!」
「今!?」
バンダースナッチはハルバードを振り下ろす。
雨雪はとっさに艦首槍で受ける。
「何、アンタを殺すつもりはない。ただついてきてくれればいいんだが、どうなんだ?」
「残念ですが、丁重に、お断り、させて、いただき、ますっ!」
ハルバードを弾き返し、艦首槍を構え直す。即座に主砲を照準し、射撃する。
しかし、目にもとまらぬ速さでハルバードを翻し、防がれてしまった。
「アタシはそんなにヤワじゃないんだ。諦めが悪いぞミゾレ!」
再び振り上げられるハルバード。ガードする雨雪。
「く……諦めるわけにはいかないんです……帰らなきゃいけないので……!」
こうなったら、と雨雪は艦首槍をぐるりと回し、魚雷発射管の方をバンダースナッチの顔面に叩きつけた。
72cm魚雷4発分の大爆発。吹き飛ばされる雨雪。
「あいったたた………死ぬかと思った………まーだ生きてる……こんなに艤装壊したら怒られるなぁ」
「ダアアアアアアアッ!貴様がミゾレとかいう駆逐艦かァーッ!」
「げぇ!最初から私が標的なんですか!?」
声の主は80ノットを越えようかというあり得ない速度で突っ込んでくる。まるで航空機だ。
とっさに回避行動を取る雨雪。
「なんなんですかあなたはっ!?」
「おとなしくアタシに捕まりやがれェーッ!!」
「いやーっ!?この人ぜんぜん話聞いてなーい!うさぎちゃんお願いっ!」
雨雪は敵艦の予想航路に噴進弾をばらまく。
数発が命中するが、傷一つ付いている様子がない。
「そんなモンでこのアタシが沈むと思ったかミゾレ!」
敵艦は衝角のついたハルバードのような武器を振り上げる。
「聞いてないし効いてないよーどうしよーっ!?」
逃げ続ける雨雪。相手の機動性の高さのあまり、主砲や魚雷はまともに照準がつけられそうにない。
ひたすら噴進弾をばらまき続けるが、とうとう全弾撃ち尽くしてしまった。
「うさぎちゃん弾切れ!?機関砲に切り替え!」
雨雪を取り巻くリングが発光し機関砲がぐるりと旋回、敵艦を指向し、発砲。
無数の曳光弾が吸い込まれていくがやはり効いてる様子はない。
「わははーだよね効かないよねー!こうなったら!」
雨雪は急制動をかけて振り向き、艦首槍を構える。
「やっとやる気になったかミゾレ!いいぞ!」
「なんなんですかも~っ!」
「いいだろう、教えてやる、アタシはバンダースナッチ、水雷衝角艦だ!」
「今!?」
バンダースナッチはハルバードを振り下ろす。
雨雪はとっさに艦首槍で受ける。
「何、アンタを殺すつもりはない。ただついてきてくれればいいんだが、どうなんだ?」
「残念ですが、丁重に、お断り、させて、いただき、ますっ!」
ハルバードを弾き返し、艦首槍を構え直す。即座に主砲を照準し、射撃する。
しかし、目にもとまらぬ速さでハルバードを翻し、防がれてしまった。
「アタシはそんなにヤワじゃないんだ。諦めが悪いぞミゾレ!」
再び振り上げられるハルバード。ガードする雨雪。
「く……諦めるわけにはいかないんです……帰らなきゃいけないので……!」
こうなったら、と雨雪は艦首槍をぐるりと回し、魚雷発射管の方をバンダースナッチの顔面に叩きつけた。
72cm魚雷4発分の大爆発。吹き飛ばされる雨雪。
「あいったたた………死ぬかと思った………まーだ生きてる……こんなに艤装壊したら怒られるなぁ」
「アタシは平気だぞ?」
「ヒィッ!?」
煙の中から悠々と迫るバンダースナッチ。雨雪の首元にハルバードを突き付ける。
「ゲームオーバーだ、ミゾレ。おとなしくついてこい、さもなくば……」
一巻の終わりだと雨雪は思い、目を閉じた。その時。
「ヒィッ!?」
煙の中から悠々と迫るバンダースナッチ。雨雪の首元にハルバードを突き付ける。
「ゲームオーバーだ、ミゾレ。おとなしくついてこい、さもなくば……」
一巻の終わりだと雨雪は思い、目を閉じた。その時。
「ゲームオーバーなるんは貴様じゃこのクソボケが。周りくらいちゃんと見ときや?」
声が聞こえた。目を開くと、カーキの服装に身を包んだ小柄な少女がバンダースナッチの口内にライフルを突っ込んでいる。
「よ……夜見丸さん!」
「遅くなってごめんなぁみぞれちゃん、今からこのクソボケを処分したるけん……外装がなんぼ頑丈でも中からなら死ぬやろ」
「クソッ……!」
「わーわー待ってください、目の前でスプラッタはちょっと。あと気になることもあるので……」
「わかった。武器を下ろしたら解放しちゃる。はよせえよ」
バンダースナッチは大人しくハルバードを下ろした。
「ほんまにそれだけか?」
「これだけだ」
「ほーん?ウチが調べてやる」
夜見丸が服に手を掛ける。
「なっ!?」
「服の下に隠し持っとるかもしれんしなぁ?」
「バカなことを!」
「黙っとれ」
夜見丸はテキパキと服を脱がしていく。
「これ脱がしたら沈んでしまうからこれだけは堪忍したるわ」
バンダースナッチは靴を残して剥かれてしまった。
「ほんまにこれだけだったねぇ」
夜見丸はハルバードを手に取りしげしげと眺める。
「これ一本で突撃なんて大したもんやないの。それにええカラダしとるのう?ん?」
「クソ、クソ、クソ……」
「夜見丸さん、これはちょっとマズいんじゃ」
「これがコイツの軍事行動の最中ならマズいかもしれんねぇ?」
「はい?」
「コイツはみぞれちゃんだけを狙ってたよねぇ。駆逐艦一隻だけが目的の作戦なんて妙やない?」
「あー……ええ、それが気になってたんです」
「せやろ?なぁ、貴様の目的は何や?きちんと吐くんやったら見逃してやらんこともない」
バンダースナッチはしばらく目を逸らしていたが、夜見丸がライフルを向けると口を開いた。
「ミゾレの…魂だ」
「あ?結局沈めるんが目的やったんか?」
「違う!ああ、どう説明すりゃいいンだよこんなの」
「私の魂に用事ってどういうことですか?」
「アンタのっていうか……アンタの中にある1つに用事があるんだ。これは英海軍の作戦じゃない、個人的な用事だ」
「何をわけのわからんことを……貴様英海軍だったんか」
「ひとつ、ですか……」
声が聞こえた。目を開くと、カーキの服装に身を包んだ小柄な少女がバンダースナッチの口内にライフルを突っ込んでいる。
「よ……夜見丸さん!」
「遅くなってごめんなぁみぞれちゃん、今からこのクソボケを処分したるけん……外装がなんぼ頑丈でも中からなら死ぬやろ」
「クソッ……!」
「わーわー待ってください、目の前でスプラッタはちょっと。あと気になることもあるので……」
「わかった。武器を下ろしたら解放しちゃる。はよせえよ」
バンダースナッチは大人しくハルバードを下ろした。
「ほんまにそれだけか?」
「これだけだ」
「ほーん?ウチが調べてやる」
夜見丸が服に手を掛ける。
「なっ!?」
「服の下に隠し持っとるかもしれんしなぁ?」
「バカなことを!」
「黙っとれ」
夜見丸はテキパキと服を脱がしていく。
「これ脱がしたら沈んでしまうからこれだけは堪忍したるわ」
バンダースナッチは靴を残して剥かれてしまった。
「ほんまにこれだけだったねぇ」
夜見丸はハルバードを手に取りしげしげと眺める。
「これ一本で突撃なんて大したもんやないの。それにええカラダしとるのう?ん?」
「クソ、クソ、クソ……」
「夜見丸さん、これはちょっとマズいんじゃ」
「これがコイツの軍事行動の最中ならマズいかもしれんねぇ?」
「はい?」
「コイツはみぞれちゃんだけを狙ってたよねぇ。駆逐艦一隻だけが目的の作戦なんて妙やない?」
「あー……ええ、それが気になってたんです」
「せやろ?なぁ、貴様の目的は何や?きちんと吐くんやったら見逃してやらんこともない」
バンダースナッチはしばらく目を逸らしていたが、夜見丸がライフルを向けると口を開いた。
「ミゾレの…魂だ」
「あ?結局沈めるんが目的やったんか?」
「違う!ああ、どう説明すりゃいいンだよこんなの」
「私の魂に用事ってどういうことですか?」
「アンタのっていうか……アンタの中にある1つに用事があるんだ。これは英海軍の作戦じゃない、個人的な用事だ」
「何をわけのわからんことを……貴様英海軍だったんか」
「ひとつ、ですか……」
雨雪には自覚があった。彼女の中にはそれまでの雨氷型駆逐艦の魂の分魂がいくらかづつ降ろされていたのだ。
「どうして私の秘密を知ってるのかわかりませんけど……"誰"に、用事があるんですか?」
「ユタ、とかいうやつだ……いや、アタシはそいつのことは知らない、ただ指示されてるだけだからな」
「私を連れて行って、雨打お姉ちゃんの魂をどうするつもりだったの?」
「それは……言えない」
「みぞれちゃんこいつ撃ってええか?」
「待ってください……雨打お姉ちゃんの魂だけだったら……」
雨雪は髪を結んでいる薄汚れたリボンに手をかけ、解き、差し出す。
「これには、雨打お姉ちゃんの血も染み込んでいます。本当に雨打お姉ちゃんの魂に用事があるのなら、これでも足りるはずです」
そしてもう一言、付け加える。
「用事が済んだら、ちゃんと返してください。これ以上汚すことも、綺麗にすることも許しませんよ。それが条件です」
「……ミゾレ、貴様はアイツの同類か何かなのか?」
「アイツ?」
「……いやいい、バカバカしい質問だった。条件は呑む、返却日時と場所も指定する。それでいいか?」
「わかりました。大切にしてください。絶対ですよ」
雨雪はバンダースナッチにリボンを手渡す。
「夜見丸さん、着せてあげてください。武器も返してあげましょう」
「ええの?そのリボン大事なもんやないん?」
渋々と服を着せていく夜見丸。
「この人を信じます。嘘をついたらそのときは……」
雨雪は夜見丸の方を振り返る。
「そのときは、遠慮なく頭をブチ抜いてあげてください」
「はぁい。みぞれちゃんのお願いやったら仕方ないね……貴様、みぞれちゃんの温情に感謝せえよ?せやったら、いつどこで返してもらうかやけど……」
夜見丸とバンダースナッチは予定日時を擦り合わせ、交渉を終える。
「感謝する……約束は必ず守る」
「おおきに」
手を振る夜見丸と雨雪。バンダースナッチはそそくさと水平線の向こうへと消えた。
「ほな…ウチらも帰りましょか」
「そうしましょう……って、あーっ!」
雨雪は波間に浮かぶ艤装の残骸に気付いて大破させてしまったことを思い出す。
「夜見丸さんどうしよー!?絶対怒られるってこれ!」
「あーねぇ、うーん、ウチも一緒に怒られてあげるけん、がんばろう?」
「うぇーんどうしてーっ!もう白兵戦なんて懲り懲りだよーっ!」
(おわり)
「どうして私の秘密を知ってるのかわかりませんけど……"誰"に、用事があるんですか?」
「ユタ、とかいうやつだ……いや、アタシはそいつのことは知らない、ただ指示されてるだけだからな」
「私を連れて行って、雨打お姉ちゃんの魂をどうするつもりだったの?」
「それは……言えない」
「みぞれちゃんこいつ撃ってええか?」
「待ってください……雨打お姉ちゃんの魂だけだったら……」
雨雪は髪を結んでいる薄汚れたリボンに手をかけ、解き、差し出す。
「これには、雨打お姉ちゃんの血も染み込んでいます。本当に雨打お姉ちゃんの魂に用事があるのなら、これでも足りるはずです」
そしてもう一言、付け加える。
「用事が済んだら、ちゃんと返してください。これ以上汚すことも、綺麗にすることも許しませんよ。それが条件です」
「……ミゾレ、貴様はアイツの同類か何かなのか?」
「アイツ?」
「……いやいい、バカバカしい質問だった。条件は呑む、返却日時と場所も指定する。それでいいか?」
「わかりました。大切にしてください。絶対ですよ」
雨雪はバンダースナッチにリボンを手渡す。
「夜見丸さん、着せてあげてください。武器も返してあげましょう」
「ええの?そのリボン大事なもんやないん?」
渋々と服を着せていく夜見丸。
「この人を信じます。嘘をついたらそのときは……」
雨雪は夜見丸の方を振り返る。
「そのときは、遠慮なく頭をブチ抜いてあげてください」
「はぁい。みぞれちゃんのお願いやったら仕方ないね……貴様、みぞれちゃんの温情に感謝せえよ?せやったら、いつどこで返してもらうかやけど……」
夜見丸とバンダースナッチは予定日時を擦り合わせ、交渉を終える。
「感謝する……約束は必ず守る」
「おおきに」
手を振る夜見丸と雨雪。バンダースナッチはそそくさと水平線の向こうへと消えた。
「ほな…ウチらも帰りましょか」
「そうしましょう……って、あーっ!」
雨雪は波間に浮かぶ艤装の残骸に気付いて大破させてしまったことを思い出す。
「夜見丸さんどうしよー!?絶対怒られるってこれ!」
「あーねぇ、うーん、ウチも一緒に怒られてあげるけん、がんばろう?」
「うぇーんどうしてーっ!もう白兵戦なんて懲り懲りだよーっ!」
(おわり)