―198X年 横須賀
「お客様はお揃いですか?……お揃いのようですので、出発いたします!」
ある日、私のもとに届いた一通の手紙。
それは、遥か地球の裏側、日本の港町、ヨコスカのツアー旅行の招待状だった。
私は日系人だったけれど、小さい頃や両親の記憶も覚えていなかった。
だから日本という国は遠く離れた東の果ての、かつて大きな戦争に負けた国……そんな認識。
でも、それでも何か縁を感じて……というよりは、単にせっかくの招待を無駄にしたくなかっただけ。
いい機会だし休暇を貰って、異国情緒を感じてみるのもいいよねって、そんな感じ。
そうして着いた日本は……なんだか、懐かしさを感じた。私に流れる日本の血のせいかな?
空港に降り立った私たちはバスに乗り換え、ヨコスカへと向かった。
窓の外に流れる風景も初めて見るはずなのに、見たことがある気がする。そんなはずないのに。
ある日、私のもとに届いた一通の手紙。
それは、遥か地球の裏側、日本の港町、ヨコスカのツアー旅行の招待状だった。
私は日系人だったけれど、小さい頃や両親の記憶も覚えていなかった。
だから日本という国は遠く離れた東の果ての、かつて大きな戦争に負けた国……そんな認識。
でも、それでも何か縁を感じて……というよりは、単にせっかくの招待を無駄にしたくなかっただけ。
いい機会だし休暇を貰って、異国情緒を感じてみるのもいいよねって、そんな感じ。
そうして着いた日本は……なんだか、懐かしさを感じた。私に流れる日本の血のせいかな?
空港に降り立った私たちはバスに乗り換え、ヨコスカへと向かった。
窓の外に流れる風景も初めて見るはずなのに、見たことがある気がする。そんなはずないのに。
「はい、こちらが三笠記念館でございます。こちらの施設、終戦直後は大変荒廃しておりましたが―」
アメリカ海軍、そして海上自衛隊の施設に隣接する博物館のような施設だ。
旧日本海軍の戦艦三笠の歴史を称え、旧日本海軍、そして海上自衛隊の歴史に触れることができる。
中には当時使用されていた艤装や、軍属の艦船の生活空間を模した展示などがある。
これも初めて見るはずなのに、どこか既視感があった。でも、普通の人の暮らしと大して変わらないといえばそうかもしれない。
ここは、そんなふうに艦船の生活の啓蒙をする場所でもあるみたい。
交流を持たない人はとことん交流がないし、偏見を持つ人も少なくないらしい。こういった場所は必要なんだろう。
「この先は細かい模型が展示してありますが、お手を触れないようお気を付けください―」
第一次世界大戦から第二次世界大戦にかけての艦船の1/12模型がずらりと並んでいる。
大半は日本海軍だけど、少しアメリカやイギリスなどの日本以外の艦船模型もある。
私は、なぜかドイツの艦船模型のところで足を止めてしまった。
ビスマルク級戦艦、モルトケ級戦艦、アドミラル・ヒッパー級重巡、グローサー・クルフュルスト級重巡……。
………変なの、私ったらいつのまに艦船オタクになってしまったんだろう?
私にはこんなものに縁なんて無いのに。どうしてか気になってしまう。
記念館から出る前に、売店に置いていた軍艦の模型カタログなんか買ってしまった。
どうしちゃったんだろう、私。
アメリカ海軍、そして海上自衛隊の施設に隣接する博物館のような施設だ。
旧日本海軍の戦艦三笠の歴史を称え、旧日本海軍、そして海上自衛隊の歴史に触れることができる。
中には当時使用されていた艤装や、軍属の艦船の生活空間を模した展示などがある。
これも初めて見るはずなのに、どこか既視感があった。でも、普通の人の暮らしと大して変わらないといえばそうかもしれない。
ここは、そんなふうに艦船の生活の啓蒙をする場所でもあるみたい。
交流を持たない人はとことん交流がないし、偏見を持つ人も少なくないらしい。こういった場所は必要なんだろう。
「この先は細かい模型が展示してありますが、お手を触れないようお気を付けください―」
第一次世界大戦から第二次世界大戦にかけての艦船の1/12模型がずらりと並んでいる。
大半は日本海軍だけど、少しアメリカやイギリスなどの日本以外の艦船模型もある。
私は、なぜかドイツの艦船模型のところで足を止めてしまった。
ビスマルク級戦艦、モルトケ級戦艦、アドミラル・ヒッパー級重巡、グローサー・クルフュルスト級重巡……。
………変なの、私ったらいつのまに艦船オタクになってしまったんだろう?
私にはこんなものに縁なんて無いのに。どうしてか気になってしまう。
記念館から出る前に、売店に置いていた軍艦の模型カタログなんか買ってしまった。
どうしちゃったんだろう、私。
「―本日はお疲れ様でした。今日はこちらで一泊になりますので、ごゆっくりお休みくださいませ」
記念館のあとは三笠公園周辺の散策、夜は横浜中華街でショッピングと食べ歩き。
ちょっと時間が足りないくらい、色々と見て回ることが出来て満足できた。
そして、今来ている宿は氷川丸マリンタワー。
ここは、かつて客船、そして第二次世界大戦中は日本海軍の特設病院船として活動していた船、氷川丸の客室を利用しているホテルだ。
チェックイン前には船である氷川丸さん本人のご挨拶もあった。何故か、私と目が合った瞬間、少し驚いていたように見えたけど……気のせいよね。
ベッドに寝っ転がった私は、無意識に三笠で買った模型カタログに手が伸びる。
パラパラと捲り、ドイツの軍艦のページで止める。
記念館で模型の実物見たじゃない。なんでわざわざ本で見直すのよ。
そんなことを考えながらも目が離せない。
写真と名前の書いてあるページを捲ると、模型についての解説のあるページになる。
模型としての特徴だけでなく、モデルとなった艦船の簡単な歴史も書かれている。
"―は、独海軍最大の潜水母艦ウンシュトルトの護衛として―"
この一文が目に入った時、すごく心臓がドキドキしてしまった。
潜水母艦ウンシュトルト。この船の解説は無いのだろうか?
ページを捲っていくけれど、その名前を見つけられないままドイツのページは終わってしまった。
どうやら模型として発売されていないらしい。
最後の方には民間船のページ。軍艦に比べてあまり人気がないのか、おまけのようなページ数だ。
まぁいっか、と思いながら眺めていると、私の目は再び釘付けになってしまった。
"客船 しおん丸"…………。
理由がよくわからないまま、私はゴクリと喉を鳴らした。
ページを捲る。もちろん解説が載っている。
"悲劇の豪華客船、しおん丸のモデルだ。この船は初就航先であったドイツで―"
そこまで読んだ時だった。コンコンとドアを叩く音がした。
「失礼いたします、館内消灯時刻前に、お客様のご様子をお伺いに参りました」
ガイドさんの声だ。
記念館のあとは三笠公園周辺の散策、夜は横浜中華街でショッピングと食べ歩き。
ちょっと時間が足りないくらい、色々と見て回ることが出来て満足できた。
そして、今来ている宿は氷川丸マリンタワー。
ここは、かつて客船、そして第二次世界大戦中は日本海軍の特設病院船として活動していた船、氷川丸の客室を利用しているホテルだ。
チェックイン前には船である氷川丸さん本人のご挨拶もあった。何故か、私と目が合った瞬間、少し驚いていたように見えたけど……気のせいよね。
ベッドに寝っ転がった私は、無意識に三笠で買った模型カタログに手が伸びる。
パラパラと捲り、ドイツの軍艦のページで止める。
記念館で模型の実物見たじゃない。なんでわざわざ本で見直すのよ。
そんなことを考えながらも目が離せない。
写真と名前の書いてあるページを捲ると、模型についての解説のあるページになる。
模型としての特徴だけでなく、モデルとなった艦船の簡単な歴史も書かれている。
"―は、独海軍最大の潜水母艦ウンシュトルトの護衛として―"
この一文が目に入った時、すごく心臓がドキドキしてしまった。
潜水母艦ウンシュトルト。この船の解説は無いのだろうか?
ページを捲っていくけれど、その名前を見つけられないままドイツのページは終わってしまった。
どうやら模型として発売されていないらしい。
最後の方には民間船のページ。軍艦に比べてあまり人気がないのか、おまけのようなページ数だ。
まぁいっか、と思いながら眺めていると、私の目は再び釘付けになってしまった。
"客船 しおん丸"…………。
理由がよくわからないまま、私はゴクリと喉を鳴らした。
ページを捲る。もちろん解説が載っている。
"悲劇の豪華客船、しおん丸のモデルだ。この船は初就航先であったドイツで―"
そこまで読んだ時だった。コンコンとドアを叩く音がした。
「失礼いたします、館内消灯時刻前に、お客様のご様子をお伺いに参りました」
ガイドさんの声だ。
扉を開け、ガイドさんの対応をする。
「……お客様、大丈夫ですか?少しお顔が赤いように見えますけれど」
言われてみれば、変な汗をかいているし、少し暑い気がしてしまう。
「いえ、ちょっと、お土産で今日を振り返ったら興奮しちゃって、あはは……」
「お土産、ですか?」
ガイドさんはチラッと部屋の奥の方を見ると、ベッドの上にあるカタログに気付いた様子だった。
「なるほど。お客様は、ご興味がおありなのですね。ご自身のことに」
「へっ?」
「少し、お手の方、失礼します」
私の手を突然握るガイドさん。
あれっ、この人の手、少し冷たい?そんな事を感じたのもつかの間。
ザーッと、記憶の濁流が、頭の中に流れ込んできた。
豪華絢爛な進水式、就航式典、初めての出港、ドイツでのこと。
「あっ、あっ、あっ……」
「最初はお辛いかもしれませんが、少し我慢してくださいね……」
客船として長く綺麗に伸ばしていた髪をばっさり切られ、印を身体に刻まれ、私はドイツ海軍潜水母艦になった。
モルトケさん、カールくん、グローサーちゃん、ヴィルヘルムくん……Uボートちゃんたち……。
「はぁ……あっ……」
見開いた目から涙が溢れ続ける。
「頑張って……」
ドイツが降伏して、私はモルトケさんとは別々の場所で別々の軍に接収されることになってしまった。
私の目の前で、接収にやってきた連合軍の艦船が、元は日本軍だったらしい艦船の暴走で滅茶苦茶にされるのを見た。
私はまた遠くの、日本ではない場所に連れて行かれた。
3年後、私は解体処分になった。日本はまだ戦争を続けていた。帰れる見込みは無かった。
そう、私はそこで全部諦めて、この記憶を消すことを選んだんだった。
もうモルトケさんに会うことも叶わないし、日本にだって帰れない。こんな辛いことは忘れてしまおう。
「うっ……ひぐ……ひっ……」
「もう少し、もう少しです……」
泣きじゃくる私をガイドさんが抱き締めてくれる。
私の護衛をしてくれたみんなの顔が、Uボートちゃんたちの顔が走馬灯のように流れながら、私の意識は深く沈んでいった。
「……お客様、大丈夫ですか?少しお顔が赤いように見えますけれど」
言われてみれば、変な汗をかいているし、少し暑い気がしてしまう。
「いえ、ちょっと、お土産で今日を振り返ったら興奮しちゃって、あはは……」
「お土産、ですか?」
ガイドさんはチラッと部屋の奥の方を見ると、ベッドの上にあるカタログに気付いた様子だった。
「なるほど。お客様は、ご興味がおありなのですね。ご自身のことに」
「へっ?」
「少し、お手の方、失礼します」
私の手を突然握るガイドさん。
あれっ、この人の手、少し冷たい?そんな事を感じたのもつかの間。
ザーッと、記憶の濁流が、頭の中に流れ込んできた。
豪華絢爛な進水式、就航式典、初めての出港、ドイツでのこと。
「あっ、あっ、あっ……」
「最初はお辛いかもしれませんが、少し我慢してくださいね……」
客船として長く綺麗に伸ばしていた髪をばっさり切られ、印を身体に刻まれ、私はドイツ海軍潜水母艦になった。
モルトケさん、カールくん、グローサーちゃん、ヴィルヘルムくん……Uボートちゃんたち……。
「はぁ……あっ……」
見開いた目から涙が溢れ続ける。
「頑張って……」
ドイツが降伏して、私はモルトケさんとは別々の場所で別々の軍に接収されることになってしまった。
私の目の前で、接収にやってきた連合軍の艦船が、元は日本軍だったらしい艦船の暴走で滅茶苦茶にされるのを見た。
私はまた遠くの、日本ではない場所に連れて行かれた。
3年後、私は解体処分になった。日本はまだ戦争を続けていた。帰れる見込みは無かった。
そう、私はそこで全部諦めて、この記憶を消すことを選んだんだった。
もうモルトケさんに会うことも叶わないし、日本にだって帰れない。こんな辛いことは忘れてしまおう。
「うっ……ひぐ……ひっ……」
「もう少し、もう少しです……」
泣きじゃくる私をガイドさんが抱き締めてくれる。
私の護衛をしてくれたみんなの顔が、Uボートちゃんたちの顔が走馬灯のように流れながら、私の意識は深く沈んでいった。
ノックの音がした。
「お客様、おはようございます。そろそろ出発の時間でございます」
船窓から日差しが差し込む。とても気持ちのいい朝。
私はとてもすっきりと目覚めることができた。昨日の旅程ではしゃぎ過ぎたかな?
まぁいっか、今日も思いっきり楽しもっと!
「お客様、おはようございます。そろそろ出発の時間でございます」
船窓から日差しが差し込む。とても気持ちのいい朝。
私はとてもすっきりと目覚めることができた。昨日の旅程ではしゃぎ過ぎたかな?
まぁいっか、今日も思いっきり楽しもっと!
「……うまくやってくれたみたいね、感謝するわ」
「いえいえ。それに、私も満足できましたし」
「さぞ美味しかったでしょうねぇ」
「いけませんか?」
「結構なことよ。お願いしたことをお願いしたとおりにやってくれたんだから」
「えへへ……」
「これできっと彼女も、この先もう少しだけ前向きに生きていけるはずだわ」
「どうして直接会わないんですか?」
「私が会ったって仕方ないもの……それにしてもあなたも、まさかこんなところでバスガイドなんて」
「意外ですか?」
「ええ、とっても。ベルちゃんから聞いた時ひっくり返ったもの」
「相変わらず表現がおばちゃんですよね」
「私はあの頃からおばちゃんよ、ふふ。あなたはすっかり変わっちゃったけど」
「貴方達と違って、私は変化を続けますよ。これまでも、これからも」
「そうみたいね。変わらない、変えられない艦たちを……今後もお願いできるできるかしら?」
「もちろん。喜んでお受けします。私はヴォーパル、ジャバウォックを狩る剣ですから」
(おわり)
「いえいえ。それに、私も満足できましたし」
「さぞ美味しかったでしょうねぇ」
「いけませんか?」
「結構なことよ。お願いしたことをお願いしたとおりにやってくれたんだから」
「えへへ……」
「これできっと彼女も、この先もう少しだけ前向きに生きていけるはずだわ」
「どうして直接会わないんですか?」
「私が会ったって仕方ないもの……それにしてもあなたも、まさかこんなところでバスガイドなんて」
「意外ですか?」
「ええ、とっても。ベルちゃんから聞いた時ひっくり返ったもの」
「相変わらず表現がおばちゃんですよね」
「私はあの頃からおばちゃんよ、ふふ。あなたはすっかり変わっちゃったけど」
「貴方達と違って、私は変化を続けますよ。これまでも、これからも」
「そうみたいね。変わらない、変えられない艦たちを……今後もお願いできるできるかしら?」
「もちろん。喜んでお受けします。私はヴォーパル、ジャバウォックを狩る剣ですから」
(おわり)