―1943年 某海域
「これより敵艦隊を切り崩しにかかる。氷輪、雨香、氷塊、霧氷、細氷は散開、捜索しつつ遊撃戦闘を開始」
「わかったわ」
「了解」
「任せな」
「おっす」
「俺はやるぜ」
巡洋戦艦"夢見"を旗艦とした水雷戦隊が米海軍の展開海域に突入する。
この夜はこの隊だけでなく、雨竜型軽巡を旗艦とした隊も突入していた。
目的は米海軍に包囲され島嶼部に取り残された陸戦部隊救出の緒をつかむことだった。
散開後、電探で敵艦隊を捕捉し、夢見は液体ロケットを点火し増速する。
続いて31cm砲から照明弾を発射し、敵艦隊を照らす。
「……見えた」
片手をクルクルと回すと、魚雷が装備されたユニットが動き出し、五連装四基20発の魚雷が扇状に射出される。
「さて、お立会い」
その瞬間、夜闇に火柱が立つ。数隻に命中し、炎上している様子がうかがえる。
「輸送船撃沈確実1、大破炎上2……護衛はどこ?」
「こちら氷輪、敵駆逐艦隊と交戦中。今霧氷、細氷が合流しています」
「了解。こちらは敵輸送船団を捕捉、交戦中……そうね、そちらは任せてここで殲滅するわ」
炎上する海面に残存輸送船が照らされている。
夢見は31cm砲を旋回させ、砲口を彼らに向ける。
「悪夢へようこそ。おやすみなさい、永遠に」
………
……
…
.
「ふあぁ……またあの夢……」
近所の高校に通う女子高生"夢美"は、ここ最近ずっと同じ夢を見ていた。
同じ夢、というか、同じ世界の夢、と言うべきか。
自分が日本海軍の巡洋戦艦として生まれ、学び、戦場に身を投じる夢。
夢と言っても、とても現実感があって、感覚もはっきりとしているような。
夢に出てくる人には知っている人も居た。
「行ってきまーす」
そんな夢を見ても、肉体的な疲労感があるわけではないのを不思議に思っていた。
普通ならぐったりしそうなものだが、一応ぐっすり眠れているようだ。
「ちーっす」
「あ、おはよー」
「もーにん」
「って言ってもさ、また夢に出てきたからさっき会ったばっかりな気がするんだよね」
「またかよウケる」
「でしょー?」
「俺のこと好き過ぎか?」
「はぁ?そんなんじゃないし」
「マジ草」
「んーでもやっぱり夢の中でも変わらない感じ、そのまま」
「ヘェー、なんなんだろね」
「わかんない」
二人はしばらく歩いていると、ある人物を見つける。
「あっ、しおん先輩と例の転入生だ」
視線の先にはひとつ上の先輩と最近ドイツから留学してきたという転入生の姿があった。
何やら猫のような生き物を指差して話しているようだ。
「なんかいい感じじゃん」
「入ってすぐから仲いいよね」
「運命ってヤツ?」
「もーそうやってすぐ茶化す」
「夢美はそう思わないワケ?」
「……実は思う。すごくお似合いだと思う、先輩たち」
「っしょ?」
「ぐぬぬ」
夢美は考えていた。
必ずしも夢の中の人はみんな知っている人物という訳では無い。
でも、もしかしたら夢の中にも実はみんな居て、まだ知り合ってない、出会ってないだけなら……。
もし、夢の中で知り合いが"敵"として出てきた時、私は武器を向けられるだろうか、と。
今のところはそんなことは無かったものの、"もし"を考えて、夢の中では少し冷徹に振る舞っていた。
慣れておかないと、いざというとき、撃てない気がするから。
「わかったわ」
「了解」
「任せな」
「おっす」
「俺はやるぜ」
巡洋戦艦"夢見"を旗艦とした水雷戦隊が米海軍の展開海域に突入する。
この夜はこの隊だけでなく、雨竜型軽巡を旗艦とした隊も突入していた。
目的は米海軍に包囲され島嶼部に取り残された陸戦部隊救出の緒をつかむことだった。
散開後、電探で敵艦隊を捕捉し、夢見は液体ロケットを点火し増速する。
続いて31cm砲から照明弾を発射し、敵艦隊を照らす。
「……見えた」
片手をクルクルと回すと、魚雷が装備されたユニットが動き出し、五連装四基20発の魚雷が扇状に射出される。
「さて、お立会い」
その瞬間、夜闇に火柱が立つ。数隻に命中し、炎上している様子がうかがえる。
「輸送船撃沈確実1、大破炎上2……護衛はどこ?」
「こちら氷輪、敵駆逐艦隊と交戦中。今霧氷、細氷が合流しています」
「了解。こちらは敵輸送船団を捕捉、交戦中……そうね、そちらは任せてここで殲滅するわ」
炎上する海面に残存輸送船が照らされている。
夢見は31cm砲を旋回させ、砲口を彼らに向ける。
「悪夢へようこそ。おやすみなさい、永遠に」
………
……
…
.
「ふあぁ……またあの夢……」
近所の高校に通う女子高生"夢美"は、ここ最近ずっと同じ夢を見ていた。
同じ夢、というか、同じ世界の夢、と言うべきか。
自分が日本海軍の巡洋戦艦として生まれ、学び、戦場に身を投じる夢。
夢と言っても、とても現実感があって、感覚もはっきりとしているような。
夢に出てくる人には知っている人も居た。
「行ってきまーす」
そんな夢を見ても、肉体的な疲労感があるわけではないのを不思議に思っていた。
普通ならぐったりしそうなものだが、一応ぐっすり眠れているようだ。
「ちーっす」
「あ、おはよー」
「もーにん」
「って言ってもさ、また夢に出てきたからさっき会ったばっかりな気がするんだよね」
「またかよウケる」
「でしょー?」
「俺のこと好き過ぎか?」
「はぁ?そんなんじゃないし」
「マジ草」
「んーでもやっぱり夢の中でも変わらない感じ、そのまま」
「ヘェー、なんなんだろね」
「わかんない」
二人はしばらく歩いていると、ある人物を見つける。
「あっ、しおん先輩と例の転入生だ」
視線の先にはひとつ上の先輩と最近ドイツから留学してきたという転入生の姿があった。
何やら猫のような生き物を指差して話しているようだ。
「なんかいい感じじゃん」
「入ってすぐから仲いいよね」
「運命ってヤツ?」
「もーそうやってすぐ茶化す」
「夢美はそう思わないワケ?」
「……実は思う。すごくお似合いだと思う、先輩たち」
「っしょ?」
「ぐぬぬ」
夢美は考えていた。
必ずしも夢の中の人はみんな知っている人物という訳では無い。
でも、もしかしたら夢の中にも実はみんな居て、まだ知り合ってない、出会ってないだけなら……。
もし、夢の中で知り合いが"敵"として出てきた時、私は武器を向けられるだろうか、と。
今のところはそんなことは無かったものの、"もし"を考えて、夢の中では少し冷徹に振る舞っていた。
慣れておかないと、いざというとき、撃てない気がするから。
ベル先生の英語の授業で、少し引っかかる話が出てきた。
「The Butterfly Dream.皆さん、どこかで耳にしたことがあるタイトルだと思います。日本語で何かわかる人?」
何人かの手がサッと挙がる。
「はい友多<ゆた>さん早かったわね、どうぞ」
「胡蝶の夢、ですよね」
「ありがとう、正解よ。それじゃ、このタイトルを慣用句として使った時の意味は判る?」
「せんせー、英語教師やめて国語教師始めるんすか?」
「いいえ、きちんと英語の授業よ」
夢美は手を挙げてみる。
「はい夢美さん」
「夢か現実かはっきりわからない、ということです」
「ええ、そうね。もう一つ、思い出せるかしら?」
「もう一つ……ですか?」
「若い子にはちょっと難しかったかしら。うんとね、人生は儚いって意味もあるのよ」
先生は黒板に英文を書き出す。
「Life is but a span.人生は短い時間に過ぎない。転じて、人生は儚いという意味。だから、この英文は胡蝶の夢という訳し方ができるわ」
そしてもう一文。
「spanをdreamに置き換えて、Life is but a dream.人生は夢にすぎない。これも、胡蝶の夢と訳せるわね」
「The Butterfly Dream.皆さん、どこかで耳にしたことがあるタイトルだと思います。日本語で何かわかる人?」
何人かの手がサッと挙がる。
「はい友多<ゆた>さん早かったわね、どうぞ」
「胡蝶の夢、ですよね」
「ありがとう、正解よ。それじゃ、このタイトルを慣用句として使った時の意味は判る?」
「せんせー、英語教師やめて国語教師始めるんすか?」
「いいえ、きちんと英語の授業よ」
夢美は手を挙げてみる。
「はい夢美さん」
「夢か現実かはっきりわからない、ということです」
「ええ、そうね。もう一つ、思い出せるかしら?」
「もう一つ……ですか?」
「若い子にはちょっと難しかったかしら。うんとね、人生は儚いって意味もあるのよ」
先生は黒板に英文を書き出す。
「Life is but a span.人生は短い時間に過ぎない。転じて、人生は儚いという意味。だから、この英文は胡蝶の夢という訳し方ができるわ」
そしてもう一文。
「spanをdreamに置き換えて、Life is but a dream.人生は夢にすぎない。これも、胡蝶の夢と訳せるわね」
下校中、夢美は考え込んでいた。
もし、こちらが夢であったら?この楽しい学校生活も、全部、戦う艦船の見ている夢なら。
こちらの私が先に存在していて、あちらの夢を見るようになったというのも、錯覚だとしたら。
大きな川に架かる橋に差し掛かって、立ち止まる。もしここから飛び降りたら、覚めてしまうのだろうか。
「おーい、何難しい顔してんの」
「えっあっいや……ってかいつの間に居たの!?」
「何いってんの?ずっと一緒に歩いてんじゃん。同じ方向っしょ」
「う、うん……ごめん」
「最近らしくないぜ?」
「んー…」
「やっぱ夢のせい?」
「そう、かも」
「心配すんなって。俺の居る方が現実だかんな」
「どっちにも居るんだってば!」
「そうだったわ、わりぃ」
「もー。……でもありがと。ちょっと落ち着いたかも。じゃ、この辺で」
「へへ。明日も元気に顔だしてくれよ。じゃーな」
二人は別れ、それぞれの家に帰っていく。
日は沈みまた昇り、夢は、続いていく。
(おわり)
もし、こちらが夢であったら?この楽しい学校生活も、全部、戦う艦船の見ている夢なら。
こちらの私が先に存在していて、あちらの夢を見るようになったというのも、錯覚だとしたら。
大きな川に架かる橋に差し掛かって、立ち止まる。もしここから飛び降りたら、覚めてしまうのだろうか。
「おーい、何難しい顔してんの」
「えっあっいや……ってかいつの間に居たの!?」
「何いってんの?ずっと一緒に歩いてんじゃん。同じ方向っしょ」
「う、うん……ごめん」
「最近らしくないぜ?」
「んー…」
「やっぱ夢のせい?」
「そう、かも」
「心配すんなって。俺の居る方が現実だかんな」
「どっちにも居るんだってば!」
「そうだったわ、わりぃ」
「もー。……でもありがと。ちょっと落ち着いたかも。じゃ、この辺で」
「へへ。明日も元気に顔だしてくれよ。じゃーな」
二人は別れ、それぞれの家に帰っていく。
日は沈みまた昇り、夢は、続いていく。
(おわり)