私はそもそも、オカルトやら、宗教やら、疑似科学を信じるようなことはない。でまかせに嘘に飲まれて、現実を見れなくなったり奇行を行ったりなんてことになったら笑い事では済まないからである。しっかりした人間と言うのは唯物論の上に成り立つ科学を信仰して、それでもって現実をしっかりと見つめるべきであると、考えている。考えていたはずだった。ただ、パフェ・パフィエに入った時から考えを変えられてしまったと言わざるを得ないだろう。
『魔法使い』やら『ソルシエール』という言葉を聞いて、国家同士が必死でそれに関して向き合っている様子を考えれば特に私のようなごく普通の女子中学生がCIAにスカウトされたり、日本の武力部隊に勧誘され加入されたりなど、そんな話は一笑にふされるべき、といったことを考えながらも自分が何故この不思議な人々と共に『魔獣』と呼ばれる謎の人型の存在と戦うのかと疑問になっていたわけだが、それは直ぐに解消された。魔獣は町を破壊して、人を殺す。そう聞いたから、私たち能力がある者が前線で戦うことになったのであろう。そう自分に言い聞かせていた。だか、もっと重要な点に私は目を向けていなかった。
『魔獣』は何処から来て、何故町を破壊し、何故人々を恐怖の底に陥れるのか。『魔法使い』は何故生まれ、何故能力が使えるようになり、何故魔獣と同時に出現したのか。どんなに考えても理性的な答えは出てこない。会う人々は口々にこう言った。
『天罰』である。と、簡単に何も考えないかのように、しかし、そうとしか結論を出せないのは、『魔獣』という存在も、『魔法使い』という存在も科学的に検証できていないからだ。ロシアでは魔獣との戦いで死亡した魔法使いの体を司法解剖する際に忌々しきFSBが携わり、情報を要求したらしいが、結局のところ一般の人間と体の組成に違いは無かったらしい。西側でもレイヴァー某がこの任務に携わった初期にソルシエールが何故その超能力を使えるのかについては研究を始めてみたものの、現在に至って全くそのメカニズムが解明されていなかった。死んだ魔獣については、その体は死亡後に全く消えてなくなってしまい、各国の機関は研究や調査のしようが無かった。
というわけで、和葉も自分なりに死んで行く『魔獣』や同時に出現した『魔法使い』について考えてみたがやはり関連があるのかどうか如何わしいところがあった。自分も何故能力が使えるのか良く分かっていなかった。ブランコの扱ぎ方が最初分からないけど、出来るようになれば下手に扱ぐのが分からなくなるように、どうすれば能力が使えなくなり、どうすれば能力が使えるようになるのかというのは正直はっきりとは言えなかった。これは感覚によるものが大きい。
だが、『魔獣』の一方は少しばかり感じることがあった。何故彼らは人型であり、訳の分からない言語を喋るのか。彼らが最初に発見されたのはロシアの山奥と言う。我々も知らないうちにホモ・サピエンスと同程度に成長した別人類が文化を作り、言語を発展させ、衣服を着て、超能力を使って、旧人類を絶滅させる……。
どう考えてもヴァル・ヴェルデで制作されるB級アクション映画並の設定にしかならないようだった。まあ、ああいう映画の臭い台詞回しは、あれはあれで作品の味になっているし、凄く燃えたりするので良いのだが、まあ、それは脱線事項である。
まあ、ともかくここで言いたい事は、『魔獣』と『魔法使い』が一体何なのか、『能力』とは何なのか。それは今だ分かっていないということである。そんなことは今はまだ、知らなくて良い。そう和葉は思っていた。ただ、彼女に言われた事はさらに混乱を増すことになってしまった。
「あなたは騙されているのよ。レイヴァーに。」
彼女は同じクラスのプリア・ドゥ・ヴェフィサイティエ・プヴェリア。フランスから留学して来たらしく、クラスでは話題の華であった。
「ど、どういうこと?ていうか、レイヴァーを何故……。」
本当に分からなかった。プリアがいきなり自分を教室に呼び出して、言った言葉は「あなた、パフェ・パフィエに加入しているの?」であった。
ソルシエールの存在も魔獣の存在も一般には隠されている。なので、そういわれた瞬間はとても驚きを覚えた。次にこの言葉を言ってきたため、混乱は最高潮になっていた。
「私は別の世界から来たの、『魔法使い』も『魔獣』も皆、レイヴァーに騙されているだけ。私は無益な戦いを終わらせるためにこの世界で、レイヴァーとその仲間たちを探していた。」
「で、でも、そんな非科学的なこと信じられない……。」
和葉は困惑していた。何を良いはじめたと思えば、やはりこういうことである。ただレイヴァーの存在や私たちの存在をしっていただけその現実感は少しずつ近づいてくるようであった。
「非科学的だから信じられないと思う?でも、真実よ。」
プリアは手を出して、氷をその上に作り出す。まるで『魔法使い』のように。
「まさか、ヴェフィサイティエさんも?」
「いや、これは生来の能力。」
生来の能力とは。レイヴァーの言うところ、『魔法使い』の能力は生まれた時から決定しているとのことであった。
「今地球に居るソルシエールはそもそもレイヴァーが地球上に散布した薬物によって人体が一時強化されているようなもので、それがあなた達が言っているガンセリアの霧のことで、あれに触れて適合者になった人間は無事能力者になれる、まあ不適合だと不適合反応を起こして死んでしまうこともあるけど、魔獣は全てレイヴァーが計画的に召還しているうちの世界のラーデミン使いと呼ばれる能力者人種。レイヴァーが彼らを殺しているのはラーデミンのコアを使って不死技術を実現するためなのよ。」
「えっ……と……。」
混乱が最高潮になっている。レイヴァーが魔獣を召還した?不死技術程度のために?しかし、こんな情報を知っているプリアは誰なのだろう。何故こんなことを知っているのだろうか。
「ヴェフィサイティエさんはなんでこんなことを知っているんですか?」
「私は向こうの世界の
特別警察と呼ばれる警察機関の職員でね。ずっと、レイヴァー・ドゥ・ヴェフィサイティエ・レーヴェハイトを追ってたの。彼が無実のラーデミン使い達をこんなことのために殺していることは倫理的に人道的にダメに決まっているでしょう?」
プリアが冷酷に事実のように押し付ける。だが、まだ信じられない。自分たちは町のため、人のために闘っていた。
「証明してください。」
「え?」
プリアが和葉を疑問に満ちた目で見る。
「あなたが、異世界からきたと言うのなら私を異世界に連れて行って見せてくださいよ。」
「ああ、そう言うこと。」
プリアは、納得したように言う。和葉としてはあしらう程度のつもりで言ったつもりがプリアが本気で受け取ったのがとても不可思議であった。
「もしかして、行ける……とか?」
「もちろん、目を瞑っててよね。」
と言いながら、プリアは和葉の目元に手を当てる。和葉は慌てて、手を弾こうとするが強力に後ろに引かれながら、高速移動する感触と共に瞑目して、恐怖感を覚えていた。
やがて、その引力が収まると、和葉はその目を開いた。
そこには見たことも無い街が広がっていた。しかし、一見見ると地球とはそれ程変わらない。ただしかし、そこに居る人間は銀髪蒼目の欧米人系と黒髪の東洋人系やら黒人のような風貌をした人と言った感じで非常に多くの人種が居るように見られた。しかしながら一番驚いたのは、言語が魔獣の喋っていたそれと同じであったということだ。しばらく道路の真ん中で呆けていて倒れていた和葉に銀髪蒼目の15歳程の青年が話しかける。
「大丈夫かい?」
魔獣の言語で話しかけられるのかと思ったら、日本語であっさり話しかけられたためにさっぱり酔いのようなものはさめてしまった。
「プリア君……何処にいったんだろうね。君、八ヶ崎さんだね?」
「え、ああ。はい……。」
やけに上手く日本語を話すくせに銀髪蒼目という風貌であることに、実は和葉はロシアのFSBに捕らえられて夢を見せられて、油断を狙っているのではないかなどと思ったが、最高に非現実的だったためにその考えは直ぐに捨てた。
「ええと、プリアさんを知っているようですけど。あなたは一体?」
すると、青年はしゃがんで和葉の顔の前に顔を据えた。
「俺は、プリア君と同じ特別警察雑務部のレシェールだ。
レシェール・ラヴュール。」
そう言って、ラヴュールは和葉に手を差し伸べる。和葉は「ありがとうございます」と小声で言ってその手を取った。
「済まないね、こちらの人間の身勝手で地球全土で何人人が死んだとことか。」
「いえ、ラヴュールさんのせいじゃないですし……」
名前を呼ぶと「え?君やけに積極的だね。こっちの名前の並び順はそっちと同じなのに。」と無知を弄ってきた。
広い通りの端を真っ直ぐ歩いていっていた、休日なのか人通りが多く。楽しそうに揃って歩く家族を見ると心が痛んだ。父親も母親も共働きという上に成り立つ家族関係とは碌なものではなかった。
「そういえば、やっぱりプリアさんが言っていたことって真実なんですかね。ここは一体どこなんですか。」
「ん?ここ?」
ラヴュールが首を傾げる。
「ここのことが知りたいんです。折角ですし、じゃないとこの問題は終わらない気がするんです。」
と、曖昧には言ってみたものの、実際には好奇心が言動を突き動かしていた。
「とりあえず、暑いし、そこのカフェにでも行くかな。」
そういって指したカフェは寂れているかのような雰囲気を出していた。
"Salarua, kytyversti."
入店直後にラヴュールはそう言った。魔獣語を喋るのだから、魔獣と同じような人間であるとは考えたくは無かった。
"Salarua, lavyrlictorsti. Ci es coen?"
カウンターのマスターらしき店員がラヴュールに笑いながら、そう声をかける。ラヴュールが"lirs, mi es FF ja do."と返すと"Ja n?"とニヤニヤしていた。
「ごめんね?」
とラヴュールが言ったが、一体何の話かさっぱりだった和葉には何故謝ったのか良く理解できなかった。
「それで、何から知りたいのかな。」
ラヴュールが言う。
ラヴュールの前にはコーヒー、和葉の前にはなにやら良く分からないホットミルク様の飲み物が置かれていた。ラヴュール曰く、これは
リウスニータと呼ばれる国民的飲料であるらしいが、独特の野草っぽい匂いが強くて口を付けられずに居た。
「何故『魔獣』が出現したのか、『魔法使い』は何故生まれたかです。」
そう聞くとラヴュールは表情を硬くして話し始めた。
「プリア君が言ったように、レイヴァー・ドゥ・ヴェフィサイティエ・レーヴェハイトは自らの目的のためにこちらに居る能力者人種ケートニアーのうちのラーデミン使いを殺すことを始めた。ただ、いま八ヶ崎さんが居るここ、
ユエスレオネ連邦やその関係国で殺しているのでは直ぐにばれてしまう。だから、君たちが居る地球にそれらを呼び出して殺すことを始めた。レイヴァーは言ってなかったかい?『魔獣』のコアがどうたらとか。それを集めることによって、彼は不死技術を完成させようとした。それのために君たちは一時的にケートニアーになれる
ウェールフープ可能化剤と呼ばれる薬剤を浴びさせられ能力者になった。それが、」
「それがガンセリアの霧というわけですね。」
和葉はラヴュールの言葉を先読みして言う。ラヴュールはコーヒーを一飲みして話を続ける。
「そういうわけ。僕たちは君たちに協力をしてもらいたいんだ。」
ラヴュールがそう言うと、店に少女が入ってきた。プリアだった。
「あ、ラヴュール先輩。何処に行っていたんですか?探しましたよ。」
「プリア君……。」
ラヴュールはため息をついてプリアを座らせた。
「というわけで、僕達はレイヴァーを倒そうとしているわけだが。」
プリアはラヴュールの傍に座っていた。なにやら雰囲気が私と会っていた時とは違っていたが、和葉は特に気にしないことにした。
「倒すって……。逮捕とかしないんですか。」
レイヴァーは『魔法使い』、まあこちらでいうケートニアーでは無かったはず。普通に逮捕してはいけないのだろうか?
「そもそも僕たち特別警察に対応を任されている時点で、そんな軟弱者という訳には無かったんだ。こちらも出来れば逮捕するが、そうにも行かなければこちらで死亡者が出る前に殺す。」
「レイヴァーさんは……その、ケートニアーなんですか?」
ラヴュールはまたコーヒーを一飲みする。
「戸籍上はそうなっているし、そもそもそちらで発生しているガンセリアを説明できるのは彼の能力だけなんだ。ともかく、公安は他世界にまつわる話についてはあまり手を出したがらない様相でね。特別警察も手を出すなと言われている。」
「それでは、特別警察がレイヴァーを逮捕する事は出来ないじゃないですか。」
プリアが何も知らないかのようにラヴュールに問いかける。お前も特別警察じゃなかったのか。
「連邦内部の機関でも勢力争いがあるのさ。xelkenなどの勢力に圧力をかけるつづために他世界の存在を隠し続け、レイヴァーの悪徳への反抗を圧殺する
国家公安警察に対して、国家公安警察に職務が被って、活躍できず予算が削減されるために公安を嫌う世間のステレオタイプ不正義の味方特別警察の同士討ち。さあて、一体どっちが正しいのかは分からなくなってくるね。」
どうやらこの世界の今私が居る国は内部での勢力争いが酷いらしい。外から見てもそんな様子はさっぱり、見られなかったが。
「だから、今俺たちは二つの命令に縛られている。『他世界に手を出すな』と『公安に好き勝手させるな』だ。俺たちはこの二点をクリアしなくてはならないんだ。俺自身は連邦やら公安やら特別警察やらの抗争に巻き込まれるのも御免だし、命令には背けない。これ以上背いてどこかに飛ばされたり、再教育されたりなんて笑い事にもならない。」
プリアは少し寂しそうな目でラヴュールを見つめる。過去に何かあったのだろう。そもそも雑務部という名前が体を現しているようであった。
「だけど、それで人々を救えないというのも酷い話だ。何せ、俺は人を助けるために特別警察に就職したんだからな。」
「では、どうするんですか。特別警察とやらも、公安とやらも動かないなら軍でも動かすんですか?」
ラヴュールは少しばかり笑って話に戻る。
「軍は出てこないよ。異世界での事件がそもそもこちらの主権の範囲内なのかどうか怪しいところなのに軍まで出てきたらただの侵略行為じゃないかい?」
そう言われてみればそうだった。
「じゃあ、誰が倒すんですか?この国では他に警察が居たりするんですか?」
「そこで、君が呼び出されたんだよ。」
は?
和葉にはラヴュールが言っていることが理解できていなかった。この国の警察が、軍が、対応できないからこそ和葉が呼び出されるということを繋げ切れない。
「君たちがレイヴァーを倒すんだ。君たちが望むならレイヴァーをそのまま逮捕しよう。しかし、殺したいなら殺せば良い。それで地球における魔獣の問題は解消されるわけだし、そっちまでこちらの主権を及ばせたことがばれたら処分必死だからね。」
「で、でも……。」
魔獣を殺せ、と言われれば何処にでも行っただろう。だが、今回は人を殺せと言うことだ。自然災害同様の魔獣を殺すのと、被害者であった人を殺すのであったら感情が違って当然だった。
「まあ、ゆっくり決めると良い。ただ、その間に地球で魔獣と呼ばれている被害者が被害者を生み出し、その被害者をも被害者同士で殺しあっていることを忘れるな。」
そういって、レシェールは喫茶店を出て行こうとしたがマスターに呼び止められていた。
"Lexerlesti,harmue mol arterletine n."
"arte'eles puli'a's."
その言葉にプリアは"E es yst nutineser......"と言っていた。
私はどうすればいいんだろうか。
和葉は実際に悩んでいた。レイヴァーが悪党だとして、多数の消えていく人間たちの命と等価に天秤にかけて良い話だろうか。レイヴァーは、人々を殺して行ったという表面だけ見ればそれはただの悪人に過ぎない。
しかし、レイヴァー自身は不死技術の研究のためにそれを使っていた。勝手な私見だけれども、レイヴァーは自分だけのために不死技術を使うような輩ではないと思っている。
殺してしまえばそこで全て終わる。そう考えるのは簡単な解に過ぎない。
更正の余地はある。いや、和葉はそうあって欲しいと考えていた。
そうでないにしても、そうしてしまわないと何かが狂ってしまうと思ったからだった。
「考えは纏まった?」
プリアが言った。追加で注文したレモネードらしき飲料のストローを回している。からころと氷が心地よい音を出す。
長い間和葉は考えることに没頭していたらしい。プリアの顔は少し疲れている様子であった。
「ええ、とりあえずは。直ぐにでも地球に戻りたいです。」
「そうだね、じゃあ行こうか。」
和葉は今度は信頼してプリアの手を取ることが出来た。決心がついたからだった。
レイヴァーにはまず聞きたいことがあった。
不死技術を使って、何をするのか。それがレイヴァーの研究の目的であり、断罪するかの基準となる。不意打ちをされても和葉は死なない、何故なら『魔法使い』もといテクタニアーは傷を付けられてもただでは死なない。ならば、訊かないで対峙するより、聞いて対峙した方が良かった。
レイヴァーは近くの相模川の河川敷に呼び出していた。これだけの大事を成すような人間ならとてもじゃないが戦闘を始めた時に周りへの被害が尋常ではなくなるだろう。パフェ・パフィエのメンバーを呼び出していないのも和葉なりに配慮があった。彼女等に事の顛末を話してもファンタジー小説の読みすぎだので片付けられてしまうからだ。
「レイヴァー、レイヴァー・ドゥ・ヴェフィサイティエ・レーヴェハイト、こんばんは。」
レイヴァーのフルネームを告げて挨拶を行なう。今まで変わらなかったレイヴァーの顔が少し不快みを帯びていた。
「こんな時間に呼び出して、なんのようだい。良い子は寝る時間だよ。」
言葉尻に焦りのようなものを感じた。こいつの前にいてはいけないという雰囲気をだして、逃げ出そうと試みているようだった。
「レイヴァー、あなたの目的は全て分かっていますよ。『ガンセリア』も、『魔獣』もあなたの研究、不死技術のために使われたスケープゴートに過ぎない。」
レイヴァーは少し笑った。
「誰から聞いたんだい……?」
「あなたを追っている人たちです。特別警察、と言えば分かるでしょう?」
気がついたときにはレイヴァーは仰け反って大笑いしていた。こんな状態で、何を思ったのかそれとも狂ったのか。和葉には分からなかった。
「それで、私は聞きたいんです。何のために不死技術を作り上げるんですか。」
レイヴァーが笑うのを止めて、和葉を睨みつけた。
「何のためだって?まあ少しずつ話してやるよ。」
口調も表情も変貌していた。今まで対していたレイヴァーとは全く違う雰囲気でたたずんでいた。
「俺は、もともと
デュインのヴェフィス人州パニャル出身だ。あのデュインではDAPEと呼ばれる戦争があった。xelken.alesというバカどもが俺の町を蹂躙した。対抗するものは皆殺しにして、奴等の思い通りの人間を仕立て上げるために様々な悪事をやってきた。俺の父親も、母親もxelkenとの戦闘の矢面に立たされて死んだ。」
レイヴァーは顔をしかめ、目を細める。
「戦争にはさまざまな意思が介在する。戦闘する国家、外国の介入に軍、特別警察、メンツと未来だ。xelkenらが
古理語を俺らに定着させたいって事にたいして連邦がそれを悪とみなして闘う。そんな単純な構図じゃなくてあの戦争はもっと複雑な様相を見せていた。終戦後、俺はあの世界ファイクレオネの争いを調べてきた。どの戦いも、どの戦いも現代に近づけば近づくほど複雑で醜い人間の意志が介在してきたんだ。」
話を一旦止めて息を整えたレイヴァーは再び和葉を睨む。
「その後で俺はこの世にある反戦団体に入った。争いには必ず醜い意図が介在するようになってしまったから争うこと自体を止めれば意図の介在が醜い争いを起こすことがなくなると思ったからだ。だが、反戦組織にさえ細かな意図が介在してありすぎた。単純にいえば『陰謀』と『平和ボケのバカども』集団しかなかったから。」
「それが、無実の人を連続殺人していくのと何の関係があるんですか!」
無関係と思われる話に耐え切れず和葉はレイヴァーに叫んでしまう。
「そのとき出会ったのが『ユーバリ』だよ。」
「ゆう……ばり……?」
まるで日本語の名前のような響きだった。確か兄の友達に夕張悠里という友達が居たような気がしないでもないが特に関係ないと思った和葉は直ぐにその連想を忘れた。
「ユーバリは俺に真理を見せた。こんなに意図が張り巡らされた不穏な世界を正常化するにはその策略を生むこの世界をリセットすれば良いと、そのための第一段階として、世界全体での選民が行なわれる。第二段階として選民の不死化、第三段階として継続的な選民の分離が行なわれる。」
和葉は気付いてしまった。レイヴァーの裏に居る人間たちによる狂った陰謀が自分の後ろから近づいている。
「それのために、人々を殺したんですか。良心に堪えたでしょうね。」
「いや?」
レイヴァーは和葉の発言をきっぱりと否定する。
「むしろ、量としては紛争で死んでいく人間たちよりもよっぽど少ない。これからのファイクレオネの人間社会のために死ぬ事は栄誉だし、元から私は低レベルな技術屋の地球人なんかに生死に興味は無い。もっとも滅びない程度にやっていたから手加減はしていたけどね。」
「……。魔獣の出現に対する死傷者数の合計は知っているでしょうね。」
「ああ、全世界合計で三千万人だっけ?ソルシエール戦死者は12名と聞いている。」
さらさらと死傷者数を読み上げるレイヴァーに和葉は耐え切れなかった。
「この世界で一番の死傷者を誇る戦争の死傷者の数は5000万から8000万人とされています。魔獣事変に関する死傷者はそれに追いつく勢いです。世界戦争レベルのことをやっておいて、何が人類のためですか。貴方は完全に我々にとっては悪に過ぎない。レイヴァー、私はあなたをここで」
そこまで言いきった瞬間右腕の辺りに鈍い痛みを覚えた。その後に響いた発砲音らしき音と薬莢の金属音で何が起こったのかようやく分かった、レイヴァーは和葉に向けて発砲をしたのだ。
衝撃を受けよろけながらも、なんとか立つ。撃たれた右腕の出血量は尋常ではない。
「忘れたわけじゃないでしょう。これくらいで、『魔法使い』は死なないって。」
「そうだな、『魔法使い』は“魔獣戦では”死なない。」
「は?」
和葉はレイヴァーが言っていることが理解できず。思わずそう言っていた。
「特別警察か誰かから聞いただろう?魔獣をこっちに召還させているのは俺だって。」
「それと何の関係が」
もう三発の銃弾が撃ち込まれる。体勢を維持できずに後ろに倒れてしまう。レイヴァーが歩き寄る足音が聞こえる。
「魔法使いもガンセリアも俺が出したことを知っているなら、分かるだろ。“魔法使いの生死も俺に制御できる。”とすれば。」
「な、何を。」
レイヴァーが最後の一発を心臓に打ち込む。
「セッティングの能力はウェールフープ可能化剤にも適用される。お前等がケートニアーでないならば、非能力者も同然だからな。」
しまった、レイヴァーが魔法使いを生み出していたことをすっかり頭の中から失念していた。待て、待て、私はここで死ぬのか。人類の存亡を賭けたといっても過言ではない戦いに敗れて
『そう簡単には、私たちも死ねないのよ。』
周囲の空気を切り裂く発砲音と衝撃音、その正体は。
「日本ソルシエール部隊パフェ・パフィエ、賀茂凛到着したわ。」
「か、賀茂さん……何故……。」
賀茂は破壊した地面を覗き込む。
「済まないけど、私はレイヴァーのことを追いかけていた。信用しないで裏切り者か調べていた。その結果がこれだった。」
賀茂は微かに悲しんでいるかの表情を見せた。
「皮肉なものね。正義かと思って闘っていたのに独り善がりの馬鹿に協力していたなんて……うっ」
賀茂は強く咳き込んだ。口を手で押さえるとその指と指の間から鮮血らしきものが滴った。吐血していたた。倒れた賀茂の元に駆け寄る。何故か和葉の身体はもう既に回復しきっていた。
「賀茂さん!」
「私は……選ばれた民……人類を守るために……この身を……この身を奉げた……」
「どうして!?どうして回復が……!」
ソルシエール特有の回復に伴う意識消失が無い。このまま逝ってしまいそうで恐怖で自分が何を言ってるかさえ良く分かっていなかった。
「私は……主に祝福され……うっ……和葉……。」
「……。」
「ドラグミロヴァに……ごめんね……って……言い……て……」
賀茂から生気が失われた。しなやかな腕には、力はもう篭っていなかった。
「な、何で、賀茂さん!死なないでよ!ねえ!うぅ……。何で、『魔法使い』は死なないはずなのに!」
「そう、死なない。俺が攻撃したわけでもない。」
和葉はその声を聞いて驚いた背後に居たのは死んだはずのレイヴァー、しかし和葉の感情には驚きよりも怒りが先行していた。
「レイヴァー、貴様ァ!」
「おっと。」
和葉が一瞬で放った火炎の攻撃を軽く避ける。
「俺は何もやってないさ、銃も撃ってないし攻撃もしてない。」
「じゃあ何故賀茂さんは死ななければならなかった!答えろこのクソ外道が!」
「ガンセリアはウェールフープ可能化剤で出来ていることを知っているな?ウェールフープ可能化剤には適合、不適合があって不適合だった賀茂は不適合反応で少しずつ、ウェールフーポに体内が耐え切れず内蔵を冒していったんだろう。ガンのように。」
「貴様、そんな危険なものを世界中に!」
「まあ、ソルシエール死者は不適合者だろうな。賀茂は今ケートニアーとして無理をしすぎてそのまま死んだ。それだけだ。」
和葉はレイヴァーを絶対に許せなかった。何故なら自分に深く関わる人間も、世界中の人間も殺すからだ。こんな奴は早く世界から排除――殺害――しなくてはならない。私が、私がこれで終わらせるんだ。
「ここで死ね!」
炎の柱を大量に立ててレイヴァーに向ける。レイヴァーは逃げる事が不可能なはずだったがその顔は笑っていた。
「お生憎様俺はケートニアーなんでね。」
炎柱に飲み込まれる前にレイヴァーは消え去った。
火柱は消え、暗闇の中には朽ちた人間と和葉のみが残っていた。
最終更新:2016年03月01日 18:06