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「帝国、周辺国に宣戦布告!」
現在、街はこのニュースで持ちきりだった。
エンドラム達は机の上に新聞を広げて話し合っていた。
ミシディシ「話を聞いたところ、最近出来たばかりの国のようだ。
もともとは貧しくかなり荒れた小国の集まりだったようだが、
現皇帝がまとめあげて帝国を名乗るようになったらしい」
「ふーん」と気だるそうな返事をするドラスティーナに対し、ミシディシは話を続けた。
ミシディシ「現皇帝が統治するようになってからは、国は豊かになり治安も安定していたようだ。
それで重要なのはここからだ。現皇帝は不在で、今の皇帝は代理らしい。
………どう思う?」
セレン「怪しいわね」
エンドラム「行ってみる価値はありそうですね」
そうと決まればと、エンドラム達は席を立ち出発した。
一方その頃、帝国のニュースは
ヨネア達の耳にも入っていた。
ヨネア「次の目的地は……って、ちょっとどこ行くのよ!?」
男「悪いが少し用事ができた」
そう言うや否や男は飛び立った。
ヨネア「ちょっと何なのよ、もう」
ヨネアもしぶしぶ男について行った。
帝国軍の布陣は早く、
エンドラム達が到着する頃には今にも戦争が始まりそうな雰囲気であった。
帝国軍の最初の標的は魔法都市スェレマであった。
この都市は地下の古代遺跡などの貴重な文化財を多く有する都市であった。
その価値からこの都市は永世中立の立場をとっており、
ここを攻撃することは周辺国全てを敵に回すのと等しい行為だった。
事実、防衛軍は周辺各国の混成軍となっていた。
エンドラム達はその防衛軍の中に傭兵として紛れ込んでいた。
ミシディシ「いいか、敵の総大将である皇帝代理に接近するのが目的だ。
無益な殺生はできるだけするんじゃないぞ」
ドラスティーナ「何度も言われなくてもわかってるわよ」
防衛軍の中には
ホルス達の姿もあった。
このような事態は初めてであったが、この都市を守ることも騎士団の任務と判断された。
帝国軍と防衛軍の戦闘が始まった。
はじめは互角かと思われたが、ホルス達が帝国軍を蹴散らし押し返しはじめた。
帝国兵「なんだあれは、化け物か!?」
ホルスが剣を一閃するたびに帝国兵の集団が吹き飛んでいた。
ホルスの戦闘スタイルは遺跡荒らしの男との戦いのあと大きく変化した。
常に大きくタメを作るような構え。
瞬間的な火力と速さを重視した戦闘スタイルであった。
変化があったのはホルスだけではなかった。
オルジンの戦闘スタイルも全く別物になっていた。
速さと隙の少なさを重視した構え。
突き等のモーションの小さい技を中心に、敵の攻撃の起点そのものを潰す立ち回りであった。
ホルスとオルジンはこれまで似たような戦闘スタイルであったが、
あの男との戦いのあと二人は全く違う道を歩むようになった。
両者共あの男を意識した結果の変化であり、道は違えど目標は同じであった。
ホルス達は敵総大将に向かって猛進した。
そんなホルス達にある部隊が合流した。
セレン「オルジン!」
オルジン「セレン!?どうしてここに!?」
セレン「話はあとで!私達をあの総大将のところまで連れて行って!」
ホルス達は敵の隊列を突破し、総大将の前まで辿り着いた。
ミシディシ「ヴァオー!」
ミシディシの呼びかけに対し、竜は目で答えた。
ミシディシ「やはり操られている!なんとかして総大将の動きを止めてくれ!」
エンドラム「後方は自分達が抑えます!」
それを聞いたホルス達は敵総大将に突撃した。
ホルス達と敵総大将は激しくぶつかりあった。
結果ホルス達が押し勝ち、総大将を追い詰めた。
追い詰められた敵総大将が構えを変えた。
明らかに必殺の構えであり、これから放たれる技が切り札であることは誰の目にも明らかだった。
それに対しホルスもホーリースラッシュの構えをとった。
これを見た敵総大将は小細工無用とばかりに、ホルスに突撃した。
敵総大将&ホルス「うおおおおお!」
爆音と閃光の後、倒れていたのは敵総大将だった。
敵総大将に外傷は無く、傍には折れた総大将の剣が落ちていた。
ホルスはホーリースラッシュを空に向けて放っていた。
放たれた閃光は敵総大将の武器を破壊し、天高く昇っていた。
ホルスが空に放ったホーリースラッシュの威力は帝国軍を沈黙させていた。
しかしそれでも敵総大将はあきらめず、折れた剣を持って立ち上がった。
そんな敵総大将の前に一人の男が立ちふさがった。
「そこまでだ。この勝負、少年の勝ちだ」
ホルス達(……!!)
立ちふさがった男はあの遺跡荒らしだった。
敵総大将「何者だ!邪魔をするな!」
言われた男は深くかぶっていたフードを脱いだ。
男が顔を晒すと同時に、帝国軍にざわめきが起こった。
帝国兵「……皇帝陛下?」
帝国兵「皇帝陛下だ!間違いない!」
帝国兵「皇帝陛下のご帰還だ!!」
ざわめきはあっという間に大歓声になった。
ホルス達「???」
ヨネア(嘘っ………、皇帝って……)
ミシディシ(今だ!)
この事態をチャンスと見たミシディシが敵総大将に接近した。
ミシディシ「失礼!」
ミシディシは敵総大将を押さえ込み、ヴァオーに解呪させた。
………
それからはあっという間だった。
敵総大将は我に返り、皇帝が軍を速やかに撤退させた。
戦場はさきほどまでの戦いがまるで無かったかのように静まり返っていた。
皇帝が帝国の首都に帰還し、国民の前で演説を行っていた。
演説する皇帝の隣にはホルス達の姿もあった。
ホルス達は皇帝に
「話がしたければついてこい」と言われ、
この帝国に客人として招かれていた。
皇帝の演説は以下のような内容だった。
自分はこの数年世界を見て回った。
しかしこの世界は見えざる脅威に晒されており、危機が迫っている。
人間どうしで争っている場合ではない。我々はこの脅威に立ち向かわなければならない。
ヨネア(時々適当なことを喋っているわね……)
皇帝「しかし民よ、安心して欲しい。我々には心強い見方がいる。
この者達がその危機に立ち向かおうとしている勇者達だ」
ホルス達の動揺は民衆の大歓声に消されていた。
演説が終わり、ホルス達と皇帝は客間に集まっていた。
皇帝「さあ、何でも聞くが良い」
ナシュカ「わけもわからずにこのように担ぎ上げられるのは好きではありませんね。
詳しい説明をしていただきましょうか」
皇帝「まずはこの女の話を聞くといい」
話を振られたヨネアはあの悲しい未来について説明した。
ナシュカ「にわかには信じられませんね」
ドラスティーナ「あなたが未来のヨネア…。
そう言われれば似ているわね」
皇帝「信じられぬのも当然だ。だがこの世界に強力な魔物が潜伏しているのは本当だ。
あれだけでも十分な脅威になりえる」
そう言ったあと、今度は皇帝が言葉を返した。
皇帝「では今度はこちらから質問しても良いかな?
臣下の様子がおかしかったのだが、あれについて何か知っているのか?」
臣下とはあの総大将のことだろう。
セレン「それについては私が説明いたします」
セレンは
キオスドールという悪魔のことと、自身も体験した凶悪な魅了魔法について説明した。
皇帝「それは厄介だな…。危険すぎる、捨ててはおけぬな」
皇帝は少し考えたあと、
皇帝「その悪魔の捜索はこちらで手配する。
周辺各国の代表者への説明も私がやろう」
セレン「本当ですか!ありがとうございます」
セレンと皇帝の話が終わったところでヨネアが口を出した。
ヨネア「話は纏まったのかしら?
それじゃあ早速魔物退治と遺跡荒らしの旅を再開しましょう」
皇帝「すまんが俺は一緒に行けん」
ヨネア「え?」
皇帝「後に現れるかもしれないその怪物に備えて、軍を整えておこうと思う。
説得できるかわからないが、周辺国の代表者にも声をかけるつもりだ」
ヨネア「それはちょっと困るんだけど…。
一人では正直厳しい。」
皇帝「そこでそなた達に協力して欲しいのだ。」
そう言って皇帝はホルス達のほうを見た。
エピローグ
ホルス達はお互いの目を見合った。皆協力してもいいと目が語っていた。
少し間を置いたあと、オルジンが口を開いた。
オルジン「魔物退治は協力してもいいのですが、一つ条件をつけさせて欲しい。
古代遺産の処置については我々騎士団に一任していただきたい」
ヨネアは少し迷った。できれば破壊しておきたいのだが、
残り時間からして全ての遺跡を破壊するのは無理だと思われた。
それなら残りの時間を全て魔物退治だけに注ぐのも悪くないかと判断した。
ヨネア「それでいいわ」
ここに新たなチームが誕生した。
ホルス達は魔物の潜伏地を目指して空を飛んでいた。
飛べない者達はセレンとミシディシの竜に乗っていた。
どう見ても定員オーバーに見えるが。
先頭を行くヨネアは後ろの騒がしさに心地よさを覚えていた。
こんな穏やかな気持ちになったのは久しぶりな気がする。
ヨネアの行動によって未来は確実に変わりつつあった。
これからの彼らの戦いに幸運の女神の祝福があることを祈ろう。
つづく
- 群雄割拠いいな -- 名無しさん (2023-12-12 18:16:29)
最終更新:2023年12月12日 18:16