1◆


 月海原学園は、完全な廃墟と化していた。


 オーヴァンがこのエリアに辿り着いたのはたった一度だけ。エージェント・スミス達の弱点を探る為、学園に集まったプレイヤーの襲撃を図った時のみだった。
 学園、の名前に相応しく、現実世界でよく見られる教育施設を再現したような外見で、生徒と思われるNPCも何人か見られた。そしてGMの打倒を図っていた多くのプレイヤーは、スミスの餌食となることなく抗い続けた。
 その内の一人、スカーレット・レインはこの手で屠り、そしてエージェント・スミスの排除に成功している。激闘が繰り広げられた学園は、まるで災害に見舞われたかのように瓦礫の山となってしまった。
 大量にいたプレイヤーやNPCは一人残らず消え、至る所から黒煙が立ち上っている。最早、この地には何の意味も持たず、そしてこの崩壊によってデスゲームの終わりは更に近付くだろう……そんな感想しか、オーヴァンは抱かない。


 そして今、災厄を引き起こした張本人であろうフォルテと、オーヴァンは対峙していた。


「これも、君の仕業なのかな?」
「何故、わざわざそれを聞く」
「いや、君の力を素直に評価しているんだ。まさかこの学園を消し炭にするなんて、君は本当に強くなったようだな……認めよう」
「何だと……ッ!?」

 オーヴァンが称賛した途端、フォルテの面持ちが憤怒に染まる。
 その左手はバリバリと音を鳴らし、暗黒色のエネルギーとなって姿を変えた。恐らく、彼は戦いを仕掛けようとしているはずだ。

「キサマ……人間どもはどこにやった」
「何の話だ」
「キリトも、ハセヲとやらも……俺を前に尻尾を巻いて逃げ出した。蟻一匹も、俺は潰せていない」
「それは妙な話だな。俺は遠目から学園を見ていたが、誰かが外に逃亡する様子は無かった。君ともあろうものが、わざわざ見過ごすとは思えないが……」
「何かを知っているなら今すぐ言え! でなければ、ここでキサマとの決着を付ける……」

 フォルテの視線は明らかな殺意で染まっている。
 彼はこちらが何か脱走の手引きをしたと勘違いをしているのだ。その口ぶりから考えて、学園内にいたはずの全てのプレイヤー及びNPCは姿を消している。GMからも捕捉されていないはずだ。

「すまないが、俺は何も知らない。確かに一度だけこの学園に訪れたことがあるが、ここに集まっていたプレイヤーとは敵対関係にあった。
 その後は、君がキリトやアスナの二人と繰り広げた戦いを見届けて、そしてシノンというプレイヤーを屠っただけ。彼らと同盟を組む機会など、俺にはなかったよ」
「どうだかな。口では何とでも言える……例えお前が何と言おうと、俺は人間どもを破壊し尽すまで止まるつもりなどない。
 さあ、キサマはどうする? 俺と決着を付けるか、それとも奴らの居所を吐くか……さったと選べ!」

 数刻前のオーヴァンのように、フォルテは問いかけてくる。大きな違いは、問う側が激しい怒りで燃え上がらせていることだ。
 最早、フォルテはこちらの言い分を聞くつもりなどないのだろう。例え何を言ったとしても、頑なに拒むはずだ。
 恐らく、ハセヲの仲間にはハッキング技術に長けたプレイヤーが含まれていて、何らかの手段で目を誤魔化しているのだろう。5分程度の時間で大人数が同時に撤退するなど、困難を極める。
 学園のデータを探れば、どこかに抜け穴が見つけられるはず。そう、フォルテに説明しようとした時だった。

「――――その勝負、一旦私が預かろう」

 フォルテの背後より男の声が響く。
 振り向くと、あのエージェント・スミスに不意打ちを仕掛けた聖職者の男・言峰神父が悠然と姿を現していた。何の前触れもなく、初めからその場にいたかのように。

「何だ、キサマは!?」
「初めまして、と言うべきかな? 私のことは言峰神父と呼んでくれたまえ。
 この月海原学園で購買部の店主をやっていたが、ここまで派手に破壊されてはしばらくは営業停止となるだろうな……何とも残念だ」
「何処から出てきた?」
「ふむ? 私はずっと学園にいたさ……だが偶然にも君と遭遇するよりも前に、君が追撃を諦めたのだ。だから私は、こうして君の前に現れた」
「とぼけるな! 人間どもはどこにいる!?」
「残念ながら私に他プレイヤーの居所を教える権限は持っていない。言わないのではなく、言えないのだよ」
「そうか……ならば、用はない!」

 余裕綽々と言った態度に腹を立てたのか、フォルテは貯め込んだエネルギーを神父に目がけて解放する。
 炸裂し、耳を劈くほどの爆音によって周囲の瓦礫が吹き飛んでいく。大量の粉塵が舞い上がって、言峰神父の姿は見えなくなった。彼はこうして、これまで何人ものプレイヤーを破壊したのだろう。
 だが、フォルテの表情は微塵も変わらない。煙は風に流された瞬間、言峰神父の姿が自然に晒されていった。傷はおろか、衣服には埃一つたりとも付いていない。

「キサマ……何をした」
「私は何もしていないさ。
 プレイヤーの中には、君のように闘争心溢れるプレイヤーが何人も混ざっている。それ自体は大いに歓迎だが、それでは私達の役割は果たしきれない。
 故に、システムで守られるようになっているのだよ。反面、私達もプレイヤーにダメージを与えることは不可能だが」

 何事もなかったかのように、言峰神父は愉悦の笑みで語る。
 ギリ、と音を立てながらフォルテは歯を食いしばる中、オーヴァンは一歩前に出た。

「君がこうして姿を現したということは、俺達に特別な用事があるんじゃないのか?
 アイテムの購買ではなく、もっと重要な役割が君には与えられているはずだ」

 オーヴァンは問いかける。
 学園の施設が徹底的に破壊されて購買部も使用不可能となった今、わざわざ自分達の前に姿を現す道理はない。だが、こうして出現したからには、何か意図があるはずだ。
 その推測を肯定するかのように、言峰神父は口元を三日月形に歪めた。

「ご名答。流石は察しが良いようだな。
 その通り。プレイヤーナンバー021、オーヴァン。そしてプレイヤーナンバー046、フォルテ。私は君達を迎えに来たのだよ。GMからの指示によって」
「迎えに来た、だと?」
「ああ。GMは君達の戦歴を高く評価しているのだよ!
 君達が破壊したプレイヤーの数は全体の五分の一を超えて、何よりも単体の実力もトップクラスに値する!
 そんな君達の働きに報いる為に、報酬を用意したのだ! 君達が求める真実……それが与えられる」

 両腕を高らかに掲げながら、言峰神父は大きく宣言する。まるで、AIDAに精神を支配されたことで自己顕示欲が異様に増幅した榊のように。
 しかしあの男のように自身に酔っている訳ではなく、むしろこちらを祝福しているようだった。それはただのプラフか、あるいはこの男の本心なのかを伺うことはできない。
 だが、重要なことはこの男が口にした"真実"というワードだった。

「言峰神父……フォルテはまだしも、俺はメンテナンスの後に大した働きはしていない。それなのに、その報酬は些か大きすぎるのではないか?」
「それは私よりも、GMに尋ねてくれ。私はただ、君達の案内を任されただけだ。オーヴァン、そしてフォルテの両名が学園に辿り着いた時、GMへの扉を開くという役目を」
「どうして、俺達なんだ? まるで俺達がこの段階まで生き残ることを、知っていたみたいじゃないか」
「その理由は君も知っているのではないか? 『運命の預言者』と巡り合い、そして引き渡したのは君自身のはずだったが」
「……そういうことか」

 言峰神父の答えに頷く。
 茅場明彦との出会いを果たしたあの小屋には、預言者を自称する老婆・オラクルがいた。そして、フィドヘルの碑文に選ばれたワイズワンのアバターを榊に差し出している。
 GMは始めからこの結果を“測定”していた。オラクルとフィドヘルの予知能力が一つになった結果、誰がどのタイミングで脱落するかなど容易く読み取れるのだろう。
 その上でデスゲームを継続させている。万が一、プレイヤーが反旗を企てようとも、その未来を“測定”すればいくらでも対策は立てられる。これではまるで出来レースだった。

「コトミネ、と言ったな。キサマ、俺達にそこまでベラベラと話して……何を考えている?」
「言ったはずだぞ、私はただ案内人の役割を担っているだけだと。君が信じないのは勝手だが、私としてはさっさと役割を果たしたい。
 そして、君が私と共に来れば、望む決着を付けられるかもしれないぞ?」
「……ロックマンのことか?」
「さて、そこまでは私も知らない。ただ、君がオーヴァンと共に来れば、宿敵と再び巡り会える……私に伝えられるのは、それだけだ」

 言峰神父の厳かな言葉には、確固たる説得力を醸し出していた。
 自分達二人を前にしても微塵も揺らがない胆力と、GMによって与えられた不死のシステム。その二つがある限り、如何なる抵抗も意味を成さないと、フォルテは悟ったはずだ。事実、獰猛な獣の如く殺意は既に揺らいでいる。
 答えは決まっていた。



     2◆◆



 言峰神父の導きによって辿り着いたのは、月の優しい光によって白銀色に煌く教会だった。
 カトリックの教会堂をモチーフに作られているようだが、案内人である聖職者は人間的な徳を重んじているようには見えない。知ってこそいるが、腹の底ではむしろ嘲笑っているようにも、あの愉悦の笑みからは感じられた。
 尤も、オーヴァンにとっては些細な事だ。噴水から響き渡る柔らかい音に、三人の足音が重苦しく混ざりこむ。そこに一欠けらの感情もなかった。

「着いたぞ。この扉の向こうで、彼らは待っている」

 そう言いながら扉の前で足を止めた直後、言峰神父はこちらに振り向いてくる。相も変わらず、こちらの全てを見透かしているような笑顔が張り付いていた。

「一つだけいいかな? オーヴァン、フォルテ」

 扉に触れるより先に、問いかけられる。

「この先に行けば、君達はもう戻れないかもしれないぞ?
 何かやり残したことがあるのなら最後の機会だが、大丈夫かな?」
「御託は言い、さっさとドアを開けろ」
「俺達の答えは、君はとっくに知っているんじゃないのか?」

 その答えに満足したのか、言峰神父は扉を掴んだ。それが、先程敵対していた者達の間で繰り広げられたとあるやり取りと似ていたのだが、二人は知らない。

「そうだったな。いや、これは失礼した。
 では行こうか――君達が求めていた"真実の行方"……GM達が待つ、知識の蛇へ!」

 その宣言と共に、教会の扉が大きく開かれた。


[A-3→?-?/教会→知識の蛇/一日目・夜中]


【フォルテAS・レボリューション@ロックマンエグゼ3(?)】
[ステータス]:HP???%、MP???%(HP及びMP閲覧不可)、PP100%、激しい憤怒、救世主の力獲得、[AIDA]<????>及び碑文を取り込んだ
[装備]:ジ・インフィニティ@アクセル・ワールド、{ゆらめきの虹鱗鎧、ゆらめきの虹鱗}@.hack//G.U.、空気撃ち/二の太刀@Fate/EXTRA、魔剣・マクスウェル@.hack//G.U.
[アイテム]:{ダッシュコンドル、フルカスタム}@ロックマンエグゼ3、完治の水×3、黄泉返りの薬@.hack//G.U×2、SG550(残弾24/30)@ソードアート・オンライン、第?相の碑文@.hack//、{マガジン×4、ロープ}@現実、不明支給品0~4個(内0~2個が武器以外)、参加者名簿、基本支給品一式×2
[ポイント]:1120ポイント/7kill(+2)
[思考・状況]
基本:全てを破壊する。生身の人間がいるならそちらを優先して破壊する。
0:コトミネやオーヴァンと共にGMの元に向かう。
1:すべてをデリートする。
2:このデスゲームで新たな“力”を手に入れる。
3:シルバー・クロウの使ったアビリティ(心意技)に強い興味。
4:キリトに対する強い怒り。
5:ゲームに勝ち残り、最後にはオーヴァンやロックマン達を破壊する。
6:蒼炎のカイトのデータドレインを奪い取る。
[備考]
※参戦時期はプロトに取り込まれる前。
※参加者名簿を手に入れたのでロックマンがこの世界にいることを知りました。
※フォルテのオーラは、何らかの方法で解除された場合、30分後に再発生します。
※参戦時期はプロトに取り込まれる前。
※参加者名簿を手に入れたのでロックマンがこの世界にいることを知りました。
※フォルテのオーラは、何らかの方法で解除された場合、30分後に再発生します。
※ゲットアビリティプログラムにより、以下のアビリティを獲得しました。
剣士(ブレイドユーザー)のジョブ設定及び『翼』による飛行能力(バルムンク)、
『成長』または『進化の可能性』(レン)、デュエルアバターの能力(アッシュ・ローラー)、
“ソード”と“シールド”(ブルース)、超感覚及び未来予測(ピンク)、
各種モンスターの経験値、バトルチップ【ダークネスオーラ】、アリーナでのモンスターのアビリティ
ガッツパンチ(ガッツマン) 、救世主の力(ネオ)、AIDA<????>、第?相の碑文
※バトルチップ【ダークネスオーラ】を吸収したことで、フォルテのオーラがダークネスオーラに強化されました。
※未来予測は使用し過ぎると、その情報処理によりラグが発生し、頭痛(ノイズ)などの負荷が発生します。
※ネオの持つ救世主の力を奪い、その状態でAIDA<????>及び第?相の碑文を取り込んだ為、フォルテASへの変革を起こしました。
※碑文はまだ覚醒していません。


【オーヴァン@.hack//G.U.】
[ステータス]:HP100%、SP60%、PP60%
[装備]:銃剣・白浪@.hack//G.U.
[アイテム]:DG-Y(8/8発)@.hack//G.U.、{邪眼剣、スパークブレイド、妖精のオーブ×2、ウイルスコア(T)}@.hack//、基本支給品一式
[ポイント]:1500ポイント/5kill(+0)
[思考]
基本:“真実”を知る。
0:言峰神父やフォルテと共にGMの元に向かう。
1:利用できるものは全て利用する。
2:トワイスと<Glunwald>の反旗、そしてフォルテを警戒。
3:リコリスの調査はGM側からの信用を得てから。
4:ゲームを進めるが、必要以上にリスクを背負うつもりはない。
5;いずれコサック博士とフォルテの"真実"も知る。
[備考]
※Vol.3にて、ハセヲとの決戦(2回目)直前からの参戦です。
※サチからSAOに関する情報を得ました。
※榊の背後に、自分と同等かそれ以上の力を持つ黒幕がいると考えています。
※ただしAIDAが関わっている場合は、裏に居るのは人間ではなくAIDAそのものだと考えています。
※ウイルスの存在そのものを疑っています。
※榊の語る“真実”――ゲーム崩壊の可能性について知りました。
※このデスゲームにクビアが関わっているのではないかと考えていますが、確信はありません。
※GM達は一枚岩でなく、それぞれの目的を持って行動していると考えています。
※デスゲームの根幹にはモルガナが存在し、またスケィス以外の『八相』及びAIDAがモンスターエリアにも潜んでいるかもしれないと推測しています。
※榊からコサック博士とフォルテの過去、及びロックマンの現状について聞きました。ただしコサック博士の話に関しては虚偽が混じっていると考えています。



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131:対主催生徒会活動日誌・20ページ目(反撃編) 時系列順に読む 133:Last Recode(前編)
130:ライバル―Gamer’s High― フォルテAS 134:黒衣の復讐者
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最終更新:2018年02月03日 12:40