11◇◆
―――銀色の双翼が黒衣の妖精を追い越し、復讐の死神へと迫る。
ことスピードにおいて、シルバー・クロウに勝るものはこの場には存在しない。
故にシルバー・クロウが先行し、キリトがその後に続く形になるのは当然の結果だ。
だがそんな事は、実際にシルバー・クロウと戦ったフォルテが一番承知している。
故にシルバー・クロウの突撃に合わせる様に大鎌を振りかぶり、
「――――ッ!」
目前で行われた急制動に、行動の選択を誤る。
シルバー・クロウは大鎌の攻撃範囲に入る直前、ほぼ九十度近い角度で右折した。
そしてそのままフォルテを中心に旋回し、双銃の引き金を引きく。
左右四発ずつ、計八発の弾丸は、高速移動の最中でありながら狙い違わずフォルテを捉える。
「チィ……ッ!」
対するフォルテの行動は、上昇による回避。
放たれた弾丸を防ぎきれないと判断してのことだ。
だがそこに、狙いすましたようにキリトが待ち受ける。
「ハァ―――!」
「グゥ………!」
魔剣の一撃を、大鎌の柄で受け止める。
完全に制空権を抑えられ、行動を縫われる。
そこに、
「てやぁぁあああッ!」
金属装甲の一撃が叩き込まれる。
「ッ………!」
再度叩き込まれるシルバー・クロウの回し蹴り。
キリトに行動を制されたフォルテはまたも大きく蹴り飛ばされ、同時にシルバー・クロウの必殺技ゲージがチャージされる。
それこそが二人の作戦。戦いを繋げるための、最初の一手だった。
シルバー・クロウが飛行するには、必殺技ゲージを消費する必要がある。
だがその残りが少なければ、この空中戦でまともに戦う事は出来ない。
それゆえの一手、その為の一撃だった。
「残りは?」
「二割ほど」
キリトの簡潔な質問に、シルバー・クロウも短く答える。
同時に双銃の空薬莢を排出し、弾薬が自動装填されたことを確認したところで、ふとある事に気が付いた。
先程に今と同じ回し蹴りを喰らわした時、必殺技ゲージの増加量は一割程度だった。
そしてフォルテに一撃を加える直前、必殺技ゲージの残りは五分を切っていた。
しかし現在は二割ほど。残り五分、多く必殺技ゲージが増加している。
――その理由にはすぐに思い至った。それがこの双銃のもつ効果なのだ。
【DG-Y】固有アビリティ――〈神速の弾丸〉。
このアビリティの効果は、スキルトリガー再使用時間を短縮するというものだ。
そしてその効果はこのデスゲームにおいて、スキル使用後の硬直時間や必殺技ゲージのチャージ速度さえ短縮させる。
これにより【DG-Y】はアーツの高速運用に特化した、まさに神速の名に相応しい武器となっているのだ。
(なるほど。僕の方が使いこなせる、ね)
まさしくその通りだった。
飛行アビリティを要とするシルバー・クロウにとって、必殺技ゲージの高速チャージは常よりの課題だ。
それがこの武器を装備するだけで、チャージ量が単純に一.五倍にまで増加するのだ。相性が悪いはずがない。
加えて双銃という遠隔武器。これはFPSを得意としてきたシルバー・クロウにとって、頼もしいことこの上なかった。
ギュッ、と双銃のグリップを握り締める。
シルバー・クロウの向ける視線の先では、フォルテが既に体勢を立て直している。
アイツの飛行限界はどれくらいか。なんて考えを、頭を振って追い出す。
飛行限界なんて来ない。それが来る前に、決着を付ける……!
「行くぞ!」
シルバー・クロウが合図の代わりに声を上げ、銀翼を振動させ急加速する。
その進路は、最初から横へ。同時に双銃の引き金を引き、フォルテへと向け全弾発射する。
双銃の装弾数は四×四の計八発。通常で考えれば、容易く打ち尽くせる余裕のある弾数ではない。だが。
弾丸を撃ち尽くすと同時に空薬莢を排出。すると再び、弾薬が自動装填される。
そう。この双銃には、装填弾数は八発だけでも、リロード回数に限りはない。
一度に撃てる弾丸が八発というだけの、実質無限の弾丸を持つ銃器なのだ。
それを意識する間もなく、シルバー・クロウはフォルテへと向けて加速する。
―――対するフォルテは先程の経験から、大鎌を旋回させて盾にし、放たれた弾丸を防ぐ。
銃弾に対応出来る反応速度も、弾道を予測できる眼も持たないフォルテには、弾丸を一発一発弾くことはできない。それゆえの防御法だ。
だが当然全てを防ぐことは出来ず、弾丸のいくつかが体を掠めていく。
それを気に留める事なく、フォルテは旋回を止めた大鎌を振り抜く。
「ハァ――ッ!」
「グゥ……ッ!」
凶刃の先には、シルバー・クロウの銃撃に追従したキリトの魔剣。
それを持ち主ごと渾身の力で弾き飛ばし、もう一振り。魔力放出を用いて牽制する。
そこから更にもう一振りし、今度は突進してきたシルバー・クロウを迎撃する。
大鎌と双銃の刃が、火花を散らして凌ぎを削る。
だがそれも一瞬。力で勝るフォルテが、キリトと同様にシルバー・クロウを弾き飛ばす。
そもそも呑気に鍔迫り合いを演じている余裕は、フォルテにはない。
そうしている間に、魔剣の一撃で魔力斬撃を打ち消したキリトが、剣を構えて突撃してくる。
「ッ……!」
舌打ちをする暇もない。
シルバー・クロウが上下逆さまになってフォルテの頭上を飛翔し、双銃による銃撃を行ってくる。
キリトが辿り着くまでの間、フォルテの行動を縫い止めるためにだ。
それをフォルテは先ほどと同じく大鎌を旋回させて防ぐが、柄から伝わる衝撃に食らうと危険と判断して飛び退く。
今の銃撃は間違いなく、先程の物よりも威力が高かった。
その理由を考える間もなく、追い縋ってきたキリトの魔剣を大鎌で迎撃する。
――双銃の威力が変わった事は、その衝撃音からシルバー・クロウも察していた。
フォルテが弾丸を弾いた時、明らかに遠距離の時よりも、近距離の時の方が強く、激しい音を立てていた。
……つまりこの武器は、銃器でありながら、距離による威力の減衰が大きいという事なのだ。
となると、双銃の力を真に発揮するには、近接距離での格闘射撃が有効となる。つまりはガン=カタだ。
そんなある種矛盾した性能に、親友の事を思い出して内心で苦笑する。
だがその感傷は後回しだ。
戦いは続いている。キリトはまだ戦っている。今は先に、眼前の敵を撃破する。
双銃をリロードし、銀翼を振るわせてフォルテへと向けて飛翔する。
「ウオリャアァァ―――ッッ!!」
シルバー・クロウは双銃を持ったままの右腕を、フォルテへと向けて振り抜く。
「ハアッ、オオオ―――ッッ!!」
力任せにキリトを弾き飛ばしたフォルテが、大鎌でシルバー・クロウを迎え撃つ。
双銃の月刃と大鎌の凶刃が激突し、火花を散らす。
例え力で及ばなくとも、飛行による加速を受けた一撃は、一瞬だけフォルテの一撃と拮抗する。
――その一瞬の間に、シルバー・クロウは大鎌と鍔競り合ったまま、右の双銃の引き金を引いた。
「ッ!」
銃声とともに放たれた弾丸を、フォルテは咄嗟に首を捻って回避する。
弾丸がフォルテの頬を掠める。咄嗟の回避により、大鎌を押し込む力が緩む。
その瞬間を狙ってもう一撃、左の双銃を大鎌へと叩き込む。
力の抜けた瞬間を打たれた大鎌は容易く弾き飛ばされ、その奥にあるフォルテの体を曝け出す。
互いの距離は一メートル弱。それを一瞬で詰め、右の双銃で殴りかかる。
無暗に防げば銃弾の飛来する一撃。それをフォルテは、左腕で内から外へと打ち払う事で防御する。
同時に銃声が響くが、放たれた弾丸はフォルテに当たることなく、虚空を穿つ。
そこで止まらず、左の双銃でもう一撃。即座に翻った左手の掌底で弾かれ、銃声が空しく響く。
「オオオオ!!」
「チィィイッ!」
銀翼で姿勢を制御し、左右の双銃、両の脚を次々にフォルテへと叩き込む。
クロスレンジにおいて、長得物である槍やフォルテの使う大鎌などは、その長さが災いしほとんど役に立たない。
その不利の中、フォルテはシルバー・クロウのラッシュを、同じく黒翼で姿勢を制御し、左腕と両脚で辛うじて捌いていく。
双銃を用いた格闘戦において厄介なのは、拳打と共に放たれる銃弾だ。
なぜなら下手な防御では、防いだ瞬間に銃弾に打ち抜かれ、無暗に距離を取ればそのまま銃撃に移行されるからだ。
故にフォルテは至近距離のまま、一先ず攻撃を捨て防御に専念する。
計四度、銃声が響く。内、フォルテに当たった弾丸は一発もない。
双銃の刃や蹴撃などが掠めたが、その程度ならダメージの内に入らない。
だがやはり、左腕と脚のみではシルバー・クロウのラッシュを防ぎ切る事は出来ず、
「そこだッ!」
「グッ……!」
遂に防御を潜り抜けた左の双銃が、フォルテの脇腹に叩き込まれる。
同時に響く銃声。放たれた弾丸が、フォルテの体を貫く。
だがフォルテは痛みを堪え、シューティングバスターを乱射した。
放たれた光弾を、シルバー・クロウは咄嗟に銀翼を振動させ回避する。
「セア―――ッ!」
そこに入れ替わる様に、キリトがフォルテの懐へと飛び込んでくる。
そうはさせまいと、フォルテは渾身の力で大鎌を振り抜き迎撃する。
キリトはその一撃を受け流して掻い潜り、懐に潜り込んで魔剣を薙ぎ払う。
だがその一閃をフォルテは上へと飛び上がって回避し、シューティングバスターから光弾を乱射する。
光弾を回り込むように回避しながら、キリトも上昇してフォルテへと攻め入る。
シルバー・クロウの銀翼と違い、ALOの妖精の翅は肩甲骨の動きを基にして動かしている。
故に近接戦闘では剣の動きと翅は干渉し、高速飛行を保ったままの戦闘は出来ない。
しかし近接戦闘にも例外が一つだけある。即ち、ソードスキルだ。
ソードスキルは一度発動すれば、システムアシストが強制的にその動きを再現させる。
それはたとえ高速飛行中だろうと、天地が逆になっていようと変わらない。故に。
「ハアッ――!」
フォルテへと向け、ライトエフェクトを纏った魔剣を大上段に斬り下ろす。
その一撃は大鎌で迎撃されるが、そのまま懐へと攻め込み、上下斬りを素早く繰り出す。
これも引き戻された大鎌の柄で防がれるが、懐に潜り込んだことにより、これ以上大鎌による防御はできない。
最後に放たれる突き気味の斬り降ろしが、フォルテの胴体を捉える。
――ソードスキル〈バーチカル、スクエア〉。
剣の放つ青白い残光が、正方形を描く垂直切りの四連撃は、しかし。
「舐めるなァ!」
槍の様に突き出された大鎌によって、止めの一撃が届く事なく終了した。
大鎌の頭が、鈍い音を立ててキリトの胴体にめり込む。刃の部分ではないため、斬撃ダメージは発生しない。
しかし、フォルテの強靭な筋力で放たれた打突は、キリトのHPを残り三割半にまで削り飛ばす。
―――だが、これこそがキリトの待ち望んだ最大のチャンスだった。
「ッ!」
息を詰らせながらも笑みを浮かべたキリトに、フォルテの背筋に戦慄が奔った。
しかし、逃げるには既に遅い。
大鎌の柄をキリトの左手がしかと掴み、フォルテを強引に引き寄せる。
同時に右手の剣が空へと投げ放たれ、キリトは体ごとするりとフォルテの懐に潜り込む。
―――剣士が剣を投げ捨てる。
卓越したキリトの剣技を散々味わったが故に、その予想外の行動にフォルテはほんの刹那、対処が遅れる。
密着する様な超至近距離。
フォルテは咄嗟に後退しようとするが、それより速くフォルテの胸に触れたキリトの右掌がライトエフェクトを纏う。
直後、掌を当てられた胸を巨大な衝撃が襲い、その体を真後ろへ弾き飛ばす。
同時に大きな前ジャンプの動作で、キリトはフォルテへと追いすがる。
二人は再び接近する。距離は丁度、剣を振るうに適した間合い。
そのまま大きく振りかぶられた右手に、先程空へと投げた剣が掴まれる。
「ッ………!」
放たれる体術・剣術複合ソードスキル〈メテオフォール〉。
炎の色に包まれた魔剣が、フォルテへと一直線に斬り下ろされる。
回避は不可能。翼を羽ばたかせて飛ぶ黒翼に、それほどの機動力はない。
防御も不可能。左腕では盾にならず、右手に持つ大鎌は引き戻すには遅すぎる。
迎撃は間に合わない。シューティングバスターを撃つより先に、ヤツの一撃が到達する。
キリトの一撃が直撃する。魔剣がフォルテの体を切り裂く。
肩から胸へかけて巨大な衝撃が襲い、フォルテは爆発めいたライトエフェクトとともにひとたまりもなく弾き飛ばされた。
―――だが“彼ら”の攻撃は、これで終わったわけではない。
フォルテの弾き飛ばされた先には、既にシルバー・クロウが先行していた。
お互いの距離は十メートル以上離れているが、その程度は有って無い様な距離だ。
シルバー・クロウはフォルテへと向かって高速飛翔しながら、両腕を体の前でがしっとクロスさせる。
直後迫り上がった装甲に首回りが堅固に固定され、金属フィンの付け根から純白の光が放たれ銀翼をより輝かせる。
みょんみょんみょんというやや冴えない効果音とともに鏡面バイザーも白い輝きを帯び、遂には白銀の閃光となって空を駆ける。
「グッ、ォオオオオ――――ッッ!!!」
それに気付いたフォルテは黒翼を限界まで開き、急制動を掛け振り返る。その左手には、高密度のエネルギーが集束している。
それがフォルテの必殺技である事に、シルバー・クロウはすぐに察しがついた。しかし今更止まれないし、この好機を逃すこともできない。
「アース………ブレイカァァァ――――――ッッ!!!」
お互いの距離が五メートルを切る。
その瞬間、シルバー・クロウへと向けて破壊の力が放たれる。
迎撃はできない。自身の肉体を使った技では、エネルギー攻撃を相殺できない。
――――そもそも、そんな必要もない。
エネルギー攻撃が放たれる直前、金属フィンを僅かに振動させ、ほんの一メートル軌道修正する。
たったそれだけで、放たれたエネルギーはシルバー・クロウの下方を掠め、遥か虚空へと抜けていく。
そうして互いの距離が一メートルを切った瞬間、上半身を大きく仰け反らせると同時に両腕を一杯に開き、フォルテの顔を睨みながら技名を発声する。
「“フライング………ヘッド・バァァァ――――――ット”!!!」
彗星の如き光の軌跡を残しながら、光り輝く鏡面バイザーが、光の速度でフォルテへと向けて突進する。
もはや頭突きというレベルではなく、全身を使った体当たりによる〈急降下重攻撃(ダイブアタック)〉といった方が相応しい一撃。
フォルテはその一撃を、渾身の力を込め大鎌の柄で防ぐ。――が、彗星の一撃は大鎌による防御を容易く弾き飛ばす。
フォルテの顔に、驚愕の表情が浮かぶ。コンマ一秒後、その顔面に、白銀の閃光とともに鏡面バイザーが叩きつけられた。
「ッッッ…………、ガッ――――ァ………ッッ!!!!!!」
激しい衝撃が大気を揺るがし、フォルテの体は再び大きく弾き飛ばされる。
頭部に強烈な痛打を受けたフォルテは、その瞬間、あらゆる思考を停止させられる。
だがそれも一瞬。湧き上がる怒りと、その胸の内に宿る復讐の炎が、フォルテの意識を強制的に覚醒させる。
しかしこの時点で、すでに勝敗は決していると言ってよかった。
キリトの〈メテオフォール〉、シルバー・クロウの〈ヘッド・バット〉。その両方の直撃を受けたフォルテのHPは、まず六割以上は吹き飛ばされているだろう。
ましてや〈ヘッド・バット〉にいたっては、〈急降下重攻撃〉にも等しい加速を受けた一撃だ。当然その分ダメージも増加している。
だと言うのに、いまだ全損していないフォルテの耐久値は、それこそ恐るべきものだろう。
……だがそこに、システムが更なる追撃を実行する。
シルバー・クロウの視界に、更なる必殺技の引き金が表示される。
【DG-Y】の二つ目の、いや、全ての双銃系武器が持つアビリティが発動する。
―――ダブルトリガー〈JUDGEMENT〉。
プレイヤースキルや心意技(インカーネイトスキル)では発動しない、システムに設定された物理攻撃系スキル使用時にのみ許される、追撃専用アーツ。
このスキルの利点/欠点は、発動すると武器が双銃へと強制的に換装される事にある。
双銃のアビリティ効果を常に得られる代わりに、双銃での戦いをほぼ強制させられるのだ。
されどFPSを得意とし、格闘戦を基本とするシルバー・クロウにとって、その欠点は意味がなく―――
その二つ目の引き金を、シルバー・クロウは躊躇いなく引き絞る。
双銃の銃口がフォルテをターゲットする。
銃声が三度響く。左右二発ずつ、系四発の弾丸が放たれる。
フォルテは咄嗟に体を捻り回避行動を取るが、受けたダメージに行動が遅れる。
その結果、体への直撃は避けたが、黒翼の片方へと弾丸が命中した。
「グ…………ッ!」
翼に穴を穿たれた事で姿勢制御が出来なくなり、フォルテは大きくバランスを崩す。
……そこに、最後の一撃が放たれる。遥か上空から、黒衣の剣士が稲妻の如く降下してくる。
重範囲攻撃系ソードスキル〈ライトニング・フォール〉。
剣を地面に突き刺せば周囲に電撃を走らせるこのスキルは、単体へと突き立てれば、結果として雷撃の全てをその単体へと浴びせる事が出来る。
無論。通常なら地上であれ空中であれ、そんな隙を敵が見せてくれるわけがなく、容易く回避される使用方法だ。
しかし今、翼を傷付けられたこの瞬間に限れば、フォルテにこの一撃を回避する余裕はない――――!
「これで、止めだァァ――――ッ!!」
雷光の一閃を、フォルテへと向けて突きたてる。
それをフォルテは、大鎌の一撃で迎撃する。……否、この一撃は時間稼ぎだ。
フォルテはその左手に、再びエネルギーを集束している。
そしてその一秒の後に、重力加速を受けた魔剣に大鎌は弾かれ、
「キリトォォォオオ…………ッッ!!」
フォルテの叫びとともに、破壊の力が解き放たれた。
狙いは魔剣の切っ先。火剣と同様に、この魔剣も破壊するつもりなのか。
だが、一体どれほどの耐久値を持つのか。雷光を纏う魔剣はフォルテの一撃と拮抗し、
「うおわっ………!?」
直後、爆発したエネルギーの奔流に、空へと吹き飛ばされた。
即座に体勢を立て直し、フォルテの方へと目を向ける。
そこには大きな爆煙と、そこから遠くへと吹き飛ばされた、一つの人影。
人影はネットスラムに立ち並ぶ廃ビルの影へと落ち、姿はもうどこにも見えない。
「やった……のか……?」
いつの間にか傍に跳んで来たシルバー・クロウが、そう確信を得ない言葉を口にする。
「いや。多分、やれてない……」
最後の瞬間の手応えを思い出し、キリトはそう推測する。
あの瞬間、強い衝撃こそ受けたが、フォルテの体を貫いた感触はなかった。
………だが、フォルテを探し出して戦いを続ける気力は、さすがに残っていなかった。
「さすがに……限界だな………」
そう口にして、キリトの体がふらふらと揺れ始める。
それと同時に、背中の翅から、燐光がだんだんと消え始めていた。
『滞空制限』――かつてALOに存在したシステムが、このデスゲームでも設定されているのだ。
………だが、キリトの体がふらついているのは、それだけが理由ではない。
この戦いで蓄積された疲労が、遂に限界を越えたのだ。
「悪い、シルバー・クロウ………後は頼んだ」
「へ? ちょ、キリト!?」
言うや否や、その体が地面に落下し始めた。
シルバー・クロウは慌てて腕を掴み、肩を貸す形でキリトを支える。
声を掛けるが反応はない。見ればキリトは、完全に気を失っていた。
「えっと……とりあえず、ここを離れよう」
その様子を見たシルバー・クロウは、そう口にして必殺技ゲージを確かめる。
残りゲージは一割半といったところだが、ネットスラムを出るには十分だろう。
「………………」
キリトの横顔を見る。
彼には訊きたい事や、謝りたい事が幾つもあった。
キリト自身の事。最初の対戦の時の事。自分が間に合わなかった事。その他にもいろいろ。
けど今の状況では、そんな余裕はないだろう。
フォルテとの戦いはこの上なく激しいものだった。もしネットスラムに人がいれば、間違いなく目立っていたはずだ。
それがデスゲームを打破しようとする人ならいいが、もし乗った人物だった場合、連戦は免れないだろう。
だが今の自分達に、もう戦う余力は残っていない。
HPは五割を切り、心意技の行使に精神は疲弊し、キリトは深く眠っている。
もしこの状態で戦闘になれば、高い確率で大きな犠牲を払う事になるだろう。
それだけは何としても、避けなければならない。
それに考える事は、他にもある。
頭に浮かべるのは、キリトから譲られた強化外装【サフラン・アーマー】の事だ。
分類としてはボディアーマーになるらしく、同じものがあと四つもあるらしい。
また呪われたアイテムらしいが、装備しても防御力が少し上がるだけ。
だがシルバー・クロウにとってこの強化外装は、全く違う意味を持っていた。
一人のバーストリンカーを思い出す。
名をサフラン・ブロッサム。“災禍の鎧”の誕生の根幹となった少女だ。
同じ“サフラン”の名を持つこの強化外装は、彼女と何か関係があるのだろうか。
だが、いくら考えても答えはでない。頭を振って、一先ず考える事を止めにする。
今は先に休める場所を探そうと、地図の内容を思い出す。
ネットスラムの近くには確か、ショップとやらが近かったはずだ。
まずはそこに寄って、それから梅郷中学に向かう事にする。
やるべきことは沢山ある。
今度こそフォルテを倒す事もだが、このデスゲームを脱出する方法も探さなければならない。
このデスゲームには黒雪姫先輩だって参加させられているのだから、彼女も探さなければいけない。
少し忘れそうになっていたが、赤いローブの少女から受けた、【noitnetni.cyl】を探すクエストだってある。
だがとにかく、一歩ずつでも前に進もう。
シルバー・クロウはそう決意すると、キリトを支え直し、銀翼を羽ばたかせてネットスラムを後にした。
――――戦いは終わった。
その結果は黒の剣士と白銀の鴉の勝利となった。
だがしかし、理不尽な殺し合いははまだ始まったばかり。
物語の主人公であった彼らが、これからも生き残れるかは、まだ誰にも分からない――――
【A-9/ウラインターネット/1日目・黎明】
【シルバー・クロウ@アクセル・ワールド】
[ステータス]:HP40%、Sゲージ10%、疲労(中)/デュエルアバター
[装備]:DG-Y(8/8発)@.hack//G.U.、サフラン・アーマー@アクセル・ワールド
[アイテム]:基本支給品一式、付近をマッピングしたメモ、{マグナム2[B]、バリアブルソード[B]、ムラマサブレード[M]}@ロックマンエグゼ3
[思考・状況]
基本:デスゲームから脱出する。
1:一先ず近くにあるショップへ向かい、それから梅郷中学校に向かう。
2:キリトが目を覚ましたら、まず間に合わなかったことを謝る。
3:黒雪姫先輩や、デスゲームから脱出する方法を探す。
4:次にフォルテと遭遇したら、今度こそ必ず倒す。
5:上記のついでに、【noitnetni.cyl】を探す。
6:サフラン・アーマーの事が気に掛かる。
[クエスト]
・【noitnetni.cyl】を探して、赤いローブの少女に届ける。
[備考]
※参戦時期は、アクア・カレントのネガ・ネビュラス復帰後です。
【キリト@ソードアート・オンライン】
[ステータス]:HP45%、MP95%(+50)、疲労(極大)、気絶/ALOアバター
[装備]:虚空ノ幻@.hack//G.U.、蒸気式征闘衣@.hack//G.U.、小悪魔のベルト@Fate/EXTRA
[アイテム]:基本支給品一式、不明支給品0~1個(水系武器なし)
[思考・状況]
基本:絶対に生き残る。デスゲームには乗らない。
0:――――――――。
1:ジローを探し、レンの事を伝える。
2:次にフォルテと遭遇したら、今度こそ必ず倒す。
3:レンさん………俺は………………。
[備考]
※参戦時期は、《アンダーワールド》で目覚める直前です。
※使用アバターに応じてスキル・アビリティ等の使用が制限されています。使用するためには該当アバターへ変更してください。
・SAOアバター>ソードスキル(無属性)及びユニークスキル《二刀流》が使用可能。
・ALOアバター>ソードスキル(有属性)及び魔法スキル、妖精の翅による飛行能力が使用可能。
・GGOアバター>《着弾予測円(バレット・サークル)》及び《弾道予測線(バレット・ライン)》が視認可能。
※MPはALOアバターの時のみ表示されます(装備による上昇分を除く)。またMPの消費及び回復効果も、表示されている状態でのみ有効です。
[全体の備考]
※1エリアのサイズは約250~300m四方です。
注)これはあくまでキリトの予測したエリアサイズです。
※一定以上の距離からは、遠近エフェクトが通常より強く掛けられている可能性があります。
※SPとMPには互換性があります(SP使用スキルをMP消費で使用できる。MP上昇効果でSPが上昇するなど)。
※SAO出典の参加者達のALOアバター(妖精)には『滞空制限』が掛けられています。
※《心意技(インカーネイトスキル)》は制限により、使用すると精神力を疲労します
またシステムに大きく反する心意ほど、疲労度も比例して大きくなります。
【DG-Y@.hack//G.U.】
痛みの森のフェイズボーナスで入手できる、銃身に半月状の刃の備えられた双銃。
距離によるダメージの減衰が大きく、初期装弾数は4×2発だが、無制限にリロードが可能なため実質無限。
双銃の中では最も攻撃力が低いが、あるアビリティを持つ装飾品と併用する事で神速の名に相応しい力を発揮できる。
・ダブルトリガー:アーツ(物理攻撃系スキル)使用時、ダブルトリガーが発動可能になる(このスキルは、双銃を装備していれば具現化していなくても発動する)
ダブルトリガーを発動すると、メイン武器が双銃へと換装され、双銃系アーツ〈JUDGEMENT〉が発動する
※ダブルトリガーが発動可能なスキルは、システムに設定されたものに限定されます。
なおバトルチップはアイテム扱いとし、プログラムアドバンス発動時にのみ発動できます。
・神速の弾丸:スキルトリガー再使用待機時間が短縮される
このロワではスキル使用後の硬直時間や、スキルゲージ等のチャージ速度なども該当する
【虚空ノ幻@.hack//G.U.】
蒼天のバルムンクが使用する、曲刀の様な形状の禍々しい刀剣。
・通常攻撃ヒット時に、ダメージ値の50%を自分のHPとして吸収する
【蒸気式征闘衣@.hack//G.U.】
物理・魔法防御力だけでなく、物理・魔法攻撃力も上昇させる軽鎧。
固有アビリティの〈第七感〉によりSP消費を相殺している為、実質SP消費無しで〈SPイーター〉の効果を発揮出来ている。
・第七感:SPが徐々に回復する(SPリカバリーよりも若干回復量が大きい)
・SPイーター:SPを徐々に消費する代わりに、全パラメータをアップする
【サフラン・アーマー@アクセル・ワールド】
《ファイブ・スターズ》と呼ばれる、《七の神器(セブン・アークス)》とは別の伝説の強化外装の一つ。ボディアーマーに該当する
呪いのアイテムとされているが、装備しても防御力が少し上がるだけ。ただし、残る四つを集めた際の効果は不明。
【小悪魔のベルト@Fate/EXTRA】
鋲がたくさんついてるちょっとワルなベルト。
・boost_mp(50); :MPが50上昇
・vanish_add(b); :対象の有利な特殊効果を1つ解除/消費MP 10
12◇◆◆
ネットスラムからウラインターネットへと出る。
風景はがらりと変わり、夕暮の空からノイズの奔った、自分のよく見知った空間となる。
そこを歩きながらフォルテは、先程の戦いを思い返していた。
キリトという名の人間と、シルバー・クロウとの戦い。
彼らは総合力において、個々では自分には敵わない。
接近戦ではキリトの方が上だ。だがヤツにはオーラが破れない。
シルバー・クロウはオーラを無視できる。だが実力が及ばない。
しかしこの二人が手を組んだ時、その力はこちらを圧倒するものとなった。
あのAIが残したアイテムによってオーラは解除されていたが、恐らくヤツ等は、それがなくても自分と対等な勝負を繰り広げただろう。
だとすれば、その力……“絆”の力を超える力を手に入れる事が、今後の課題となるだろう。
オーラの復活に普段より時間が掛かっている事は疑問だが、早急に解決する事でもない。
もともと閾値を超える様な威力の攻撃を出す強者との戦いでは、一時的な盾にしかならない。
それくらいならば、オーラの閾値を強化する方がまだ役に立つ。……そう、例えばあのダークネスオーラの様に。
それにシルバー・クロウの使った、オーラを無視し、ヒートブレードを容易く破壊した攻撃も気になる。
【死ヲ刻ム影】ならあの攻撃を受けられるが、逆にいえば、それでしか受けられないと言う事だ。
つまりは、もしこの大鎌が支給されていなければ、ヤツ一人に破壊されていた可能性もあるのだ。
ならばその対抗策としての最上案は、自身もあのアビリティを獲得することか。
即ちヤツの同類を探し、無理矢理にでも情報を聞き出す。あるいはそのデータを吸収する事だ。
とは言っても、この大鎌のような例もある。あの攻撃に対抗できるアビリティは他にもあるだろう。それを手に入れるのも、また良しだ。
つまるところ、結局は新たな“力”を手に入れるという結論に集約されるのだ。
そう。やはりやる事は変わらない。
ネットの全てを破壊する。その為の力を手に入れる。より強くなる。それだけだ。
それだけが、『フォルテ』という名を与えられた己の、唯一の存在意義なのだ。
ならば、こんなところで立ち止まっている余裕はない。
メニューを開き、己のHPを確認する。
……残り五割弱。想定よりは、少し多いか。
HPがこれだけ残っているのは、おそらく鎧の効果によって、ダメージが軽減されたからだろう。
これならば、相手にもよるが、オーラがなくてもあと一度は問題なく戦闘可能だ。
とは言っても、やはり万全を期すために、回復手段は探しておいた方が良いだろう。
そして回復アイテムを探すのなら、ショップをチェックするのが手っ取り早い。
現在位置からネットスラムを挟んだ反対側に一件あるのは覚えている
……だが、態々ネットスラムへ戻るのは面倒だった。
少し考えて、アメリカエリア経由で、アリーナに向かう事にする。
そうすれば道中で、二件のショップに寄れることになるし、闘技場というからには、戦いに関する何かがあるのだろう。
そうして目的地も定まったところで、ウラインターネットの奥へと進もうとして、
その時ふと、あの人間の事を思い出した。
たかがAIに、あれ程までの感情移入をする剣士。
ヤツの言動は、ある男を思い出させる。
それがこの上なく苛立つ。
だから、
「キリト……キサマは必ず、破壊する」
復讐の炎を滾らせ、そう口にする。
そうして今度こそ、ウラインターネットの奥へと脚を進めた。
――――ここで一つ、ある話をしよう。
想い叶う事なく凶手に散った、一人の少女の話を。
少女の名前は、レン。より正確には『レンちゃんver.1.00』。
浅井蓮というエンジニアの卵が作り出した人工知能(Artificial Intelligence)――AIだ。
オカルトテクノロジーという超常の技術によって作り出された彼女は、しかし、他のAIと何も変わらなかった。
それどころかAIとしての反応はツナミネットのものに劣るという、何のためにオカルトテクノロジーを用いたのかわからない様な不出来具合だ。
それも当然。ver.1.00という数字が示す様に、彼女は一度もアップデートされていない。
つまりは何の飾り付けもされていない、完全な(原型)アーキタイプなのだ。無垢な赤子、と言い換えてもいいだろう。
そんな彼女には一つだけ、はっきりしている事があった。
その制作過程において、製作者である浅井蓮の遺伝情報を組み込まれていることだ。
そう。フォルテの宿命のライバル、
ロックマンと同じように。
人間の遺伝子を基に作られたロックマンの最たる能力は、『成長』または『進化の可能性』だ。
彼は戦いの経験や、彼を支えるオペレーターとの絆だけで、限界を超えてどこまでも成長していく。
それこそ他者の能力を奪うことで無限に強くなっていくフォルテを、幾度も倒してみせる程に。
そのロックマンと同じ未知を持つ少女を、フォルテは喰らった。
ゲットアビリティプログラムはその身体(データ)を蹂躙し、少女の持つ可能性を喰らい尽くした。
少女のアバターがあそこまで崩壊したのは、そのためだ。ほとんど何も持っていなかったが故に、何もかもが奪われたのだ。
フォルテは少女を、何の能力も持たない、と蔑視した。
しかし、何も無いのは当然だ。可能性はあくまで可能性、始まりは常に『ゼロ』なのだから。
自身も気付かぬ内にその『ゼロ』を手に入れたフォルテが、これからどう強くなっていくのか。それは誰にも、わからない――――。
【B-10/ウラインターネット/1日目・黎明】
【フォルテ@ロックマンエグゼ3】
[ステータス]:HP45%、MP40/70、オーラ消失
[装備]:{死ヲ刻ム影、ゆらめきの虹鱗鎧、ゆらめきの虹鱗}@.hack//G.U.、空気撃ち/二の太刀@Fate/EXTRA
[アイテム]:基本支給品一式、不明支給品0~1個
[思考・状況]
基本:全てを破壊する。生身の人間がいるならそちらを優先して破壊する。
1:アメリカエリア経由でアリーナへ向かう。
2:1の道中でショップをチェックし、HPを回復する手段を探す。
3:このデスゲームで新たな“力”を手に入れる。
4:シルバー・クロウの使ったアビリティ(心意技)に強い興味。
5:キリトに対する強い苛立ち。
[備考]
※参戦時期はプロトに取り込まれる前。
※バルムンクのデータを吸収したことにより、以下のアビリティを獲得しました。
・剣士(ブレイドユーザー)のジョブ設定 ・『翼』による飛行能力
※レンのデータを吸収したことにより、『成長』または『進化の可能性』を獲得しました。
※オーラはしばらくすると復活します。
【死ヲ刻ム影@.hack//G.U.】
憑神「
スケィス2nd」の使用する大鎌とよく似た、黒き月魄の大鎌。
第一相の碑文使いのロストウェポン。条件を満たせば、パワーアップする(条件の詳細は不明)。
・砕魂ノ凶手:通常攻撃ヒット時に、与えたダメージの25%をHPに、5%をSPに吸収する
【ゆらめきの虹鱗鎧@.hack//G.U.】
アビス・クエストの最終ボス「神喰らいのザワン」から入手可能な重鎧。
R:1のザワン・シンは「攻略不可能」とまで評されたモンスターだが、バルムンクとオルカの二人によって討伐された。
しかしR:2のザワン・シンには、一戦目、二戦目共にそれほどの凶悪さはない。
・虹色の加護:全ての攻撃のダメージを25%軽減する
【ゆらめきの虹鱗@.hack//G.U.】
アビス・クエストのボス「ザワン・シン」から入手可能な装飾品。
バルムンクの“蒼天”、オルカの“蒼海”、二人を指す“フィアナの末裔”という称号は、二人がザワン・シンを討伐した事で送られたもの。
なおバルムンクの羽根は、ザワン・シンを討伐した際のMVP報酬。
・虹色の幸運:獲得GPとアイテムドロップ率がそれぞれ25%アップする
なおドロップ率は、相手を倒した際にドロップするアイテムが、アイテムストレージに直接移動する確率とする
【空気撃ち/二の太刀@Fate/EXTRA】
フィールドスキル・魔力放出Bが使用可能となる礼装。
中距離に魔力の弾丸を放ち、命中した相手を二手分スタンさせられる。
・boost_mp(70); :MPが70上昇
・release_mgi(b); :魔力攻撃で2手スタン/消費MP15
最終更新:2014年01月12日 11:31