入り組んだ道を大柄の黒人がゆっくりと足を進める。黒コートに身を包んだ彼は、周りの闇に溶け込むようであった。
幾何学的なパネルで構成された薄暗い迷宮。上空に広がるのも広がる空とは呼べない歪な空間。
そのいずれもこの世のものとは思えない。およそ現実離れした空間。
だが、彼はこの空間の存在にはさほど驚きも戸惑いも感じていなかった。
(マトリックスの中……それも通常の空間ではないな)
彼――モーフィアスは思考を巡らせる。
突如として拉致され、殺し合いを強制された。この突然の出来事をどう解釈すべきか。
先ずこの異常な空間はマトリックスである。そのことは恐らく疑いようがない。
現実――機械との戦争が日夜繰り広げられる世界――にこのような場があると思えない以上、それは明らかなことだ。
このような異常な空間も、マトリックス内でならばありうる。アーキテクトへの到る道の途中にあった延々とドアの続く空間のように、機械側が限定的にこのような空間を作り上げることは可能だろう。
では、あの榊という男は一体何者だ。
機械側のエージェントに類するものか、あるいはメロビンジアンの手のものか。または全く別のエグザイルか。
サカキ……音から判断するに日系人のようだが、その思惑は図れなかった。
(ネオ)
モーフィアスは仲間の――自分の信じる救世主のことを考えた。
ネオ。彼はマトリックスで目覚め、救世主として覚醒して以来、確かな活躍をしてきた。
オラクルの預言を信じるならば、彼は戦争を終結へと導く真の救世主である。
だが、今の彼は意識を失っている。
アーキテクトへと至った彼が、そこで何を見ているのかは知らない。が、現実での彼はマトリックス内での意識をロストし、眠り続けている。
その彼を救うべく、同じネブカドネザル号の仲間であるトリニティ、オラクルの側近であるセラフと共に行動をしていた。
が、その最中で彼はここに呼ばれた。これらのことは何か関係があるのだろうか。
不意に音した。
そして、白い幻影が躍り出た。
「……!」
突然の攻撃だったが、モーフィアスは落ち着いて対処する。長年マトリックス内で戦ってきた経験が身体に染みつき、もはや呼吸するかのように臨戦態勢に入る。
アイテム欄から既に確認していた武器を取り出し、構え、敵の初撃を受け止める。
甲高い金属音が響いた瞬間、モーフィアスは敵を見た。
「お前は」
白い髪、色白の肌、真っ白なスーツ。見覚えのある姿だった。
記憶を探り、敵がメロビンジアンの配下にいた者であることを思い出す。
この敵は倒した筈だ。となると、何らかの方法でプログラムを修復したか。
初撃に失敗した敵は一度下がり、再び武器――大鎌を構える。白ずくめの彼だったが、それだけは黒かった。
対するモーフィアスも袖から双剣を覗かせ、構える。
剣の名は『最後の裏切り』――あまり縁起のいい名前ではないが、剣自体は中々のものだということは分かっていた。
鎌と双剣が再び交差する。振るわれる鎌を時には避け、時には剣で受け止めることでモーフィアスは防御する。
ナイフの扱いはプログラムで脳にダウンロードしてある。それに自らの経験から独自アレンジを加えることでより巧みな扱いを可能にする。
一方、敵は少々戦いにくそうであった。原因は武器の種類だとモーフィアスは当たりを付ける。
何せ鎌だ。一般的とは言い難く、向こうとしても扱いづらいであろう。
その隙を突き、モーフィアスは敵に迫った。刃を潜り抜け、敵に対し刃を一閃。
避けられた。が。コートの生地が僅かに切れている。相当ギリギリのところだったようだ。
距離を取った敵に対し、モーフィアスは「Hey」と挑発ように呼びかけた。
敵は白い無表情を崩さなかったが、その裏に僅からながら苛立ちが隠れているのをモーフィアスは見抜いた。
今度はこちらから仕掛ける。
剣を構え、敵へ真直ぐに向かっていく。
が、その途中で足を止めた。背後に気配を感じたからだ。
白い拳が迫っていた。剣を交差し、それを受け止め、一先ず二人の敵から距離を取る。
もう一人の敵もまた白かった。コート、髪、肌、そのどれもが白く、先の男の瓜二つの容姿だ。
その隣に、鎌を構えた敵が幽鬼のように移動した。二人並んだその姿は全く同一のものであり、双子という言葉が似合う。
そう、この敵は確かにこのような性質を持っていた。それを知っていたが故にモーフィアスは回避に成功した。
メロビンジアンがどのような思惑を持って近くに置いていたかは知らないが、白い二対の暗殺者というのがこのエグザイルの特徴だった。
「…………」
沈黙がそこに流れる。剣を、鎌を、拳を、それぞれが構え、緊迫した空気が流れた。
勝てるか。モーフィアスは警戒を怠ることなく、冷静に思考を回す。
今の自分は一人だ。以前こいつらと戦った時は、キーメイカーを守る必要があった。しかし今は自由に動くことができる。
それはプラス要因だが、同時に今は味方も居ない。楽な状況とは思えなかった。
が、それは向こうも同じだったようだ。彼らはその身体を影のように薄めていき、その場を離れた。
逃げた。理由としてはモーフィアスの戦闘能力、そして面倒な武器か。何にせよ、ここは退くことを向こうは選んだのだ。
しばらくの間、周りを警戒し、更なる奇襲に備えたが、何もない。
敵の撤退を確認すると、モーフィアスは小さく息を吐いた。いきなり襲われるとは。ここは思った以上に、危険な場らしい。
「そうだな……」
今の交戦でこの場について、モーフィアスにはある仮説も思い浮かんでいた。
先ず、奴らのようなエグザイルが不慣れな武器に苦戦しているところを見るに、この場はメロビンジアンの一派によるものではない。
しかし、機械奴らをわざわざ修復するとも思えない。古くなり用済みとなったにも関わらずソースに還ることを拒否したプログラムがエグザイルだ。
そのような者を機械が修復するとも思えない。粛清の対象にしかならないだろう。
となると、この空間を形成しているのが機械らによる場とも思えない。
ならば、この空間はマトリックスの中でも機械たちも把握できていない部分か。
救世主のようなイレギュラー要素。それがこの空間だという説をモーフィアスは考えた。
無論、仮説に過ぎない。自分が機械の掌の上だという可能性もある。この点についてはまだ情報が足りないだろう。
そこまで考えて、モーフィアスは歩き出した。とにかく情報が足りない。この空間について知らねばならない。
時間がない以上、迅速に動くことが要求される。他の参加者との接触も図りたい。
同時に、ネオのことも考える。
自分の持つ仮説――この空間がマトリックスのイレギュラー部分であることが確かなら、この場にネオがいる可能性があった。
このようなイレギュラー空間に叩き込まれていたのなら、マトリックス内で意識がロストしていたことにも説明が付く。
オラクルが言うにはメロビンジアンの下にネオは囚われているとのことだったが、そのメロビンジアンの一派すら取り込まれているような状況だ。
ネオを捕えていたメロビンジアン本人もこの空間に取り込まれているのかもしれない。
何にせよ、時間がない。ウイルスのこともだが、ザイオンのことも気に掛かる。
人類最後の砦に、センチネルの総攻撃が迫っている最中、ネオは今や最後の希望と言ってもいい。
どうにかして見つけ出し、脱出しなくてはならない。人類の為にも。
【B-9/ウラインターネット/1日目・深夜】
【モーフィアス@マトリックスシリーズ】
[ステータス]:健康
[装備]:最後の裏切り@.hack//
[アイテム]:不明支給品0~2、基本支給品一式
[思考]
基本:この空間が何であるかを突き止める
1:(いるならば)ネオを探す
2:トリニティ、セラフを探す
3:ネオがいるのなら絶対に脱出させる
[備考]
※参戦時期はレヴォリューションズ、メロビンジアンのアジトに殴り込みを掛けた直後
【ツインズ@マトリックスシリーズ】
[ステータス]:健康
[装備A]:大鎌・棘裂@.hack//G.U.
[装備B]:なし
[アイテム]:不明支給品0~2、基本支給品一式
[思考]
1:生き延びる為、他者を殺す
[備考]
※消滅後より参戦
※二人一組の存在であるが故に、遠く離れて別行動などはできません。
支給品解説
【最後の裏切り@.hack//】
クリア後に参入する楚良が装備している双剣。Lv99。プレイヤーは入手不可だったりする。
パッシブスキルはクリティカル(一定確率でダメージ二倍)
使用可能スキルは以下の通り。
魔双邪哭斬
炎舞紅蓮
雷神独楽
【大鎌・棘裂@.hack//G.U.】
Lv101の大鎌、タメタイプ。
ブレグ・エポナの店で買うことができる。
最終更新:2013年06月05日 01:29