「どうなってんでガスか……?」
H-9、アメリカエリア高速道路。
工事中の看板が置かれ道路の一部が途切れているその道路上で、一人のネットナビが頭を悩ませていた。
黄色と赤を主体としたカラーリングにその太い腕っ節、安全ヘルメットを連想させる頭部の形状は、正に工事現場の作業員を思い起こさせる。
もし誰か他に人がいれば、彼―――ガッツマンをここの工事従事者と勘違いしてもおかしくなかっただろう。
「デカオとも連絡が取れないし、
ロックマン達も見当たらないなんて……」
自分はつい今まで、デザートマンに苦戦するロックマンを救うべく、サポートをしていた筈だった。
しかし、気がつけばあの広場にワープさせられており、そして殺し合いへの強制参加と来た。
いきなりすぎて本当に訳が分からない話だ。
WWWの仕掛けた悪質な罠だろうか?
しかも今の状況は、ナビゲーターであるデカオとも連絡が取れず、ロックマンもデザートマンも見当たらないという、完全な孤立無援である。
この様な形で頼れるモノが何一つとしてないというのは、ガッツマンにとっては初めて経験する事態だった。
故に今、何をどうすればいいのか、頭を悩ませているのである。
(兎に角、殺し合いなんて間違ってもしたくないでガッツ。
ここが何かは分からないけど、それだけは絶対でガスよ)
ただ、殺し合いに乗らないという方針だけははっきりと決めていた。
確かにあの榊という男の言うとおり、このまま何もせずにいれば自分はウィルスでデリートされてしまうだろう。
そうなればもう二度とデカオと会う事も、ライバルのロックマンと闘う事も出来なくなる。
それははっきり言って嫌なのだが……それでも。
それでも、他人を犠牲にしてまで生き延びたくはない。
これだけは、例えどんな事態になっても曲げるつもりのない、男としての意地であった。
(よし!
とりあえず、誰か他の人を探し出すでガスよ!)
ひとまずガッツマンは、他の参加者を探し出す事にした。
パワーならば誰にも負けない自信はあるが、難しい事を考えるのは何分苦手だ。
それに自分一人だけでこの事態を乗り切れるとも、はっきり言えば思っていない。
だから仲間を探すのだ。
きっと自分のように、このゲームをよく思わない者がいるに違いないのだから、協力すればいい。
そうすれば、今まで遭遇してきた事件の様にきっと乗り切れる。
そんな実に単純な、しかしある意味確信を突いている考えがガッツマンにはあったのだ。
(そういえば、地図があるって言ってたでガスね。
人が集まりそうな場所を探してそこに行けば、誰かいるかもしれないでガッツ)
仲間を集めるにあたり、それに適した場所へ向かう必要がある。
ガッツマンは自分に配布されているという地図を出し、その中身を確認した。
とりあえず今己が立っている場所だが、高速道路の上だということからして、アメリカエリアなのは間違いないだろう。
会場の端になる為、少々移動が面倒になりそうな場所だ。
では他には、どんな場所があるのか。
そう思い視線を彷徨わせてみて……ある、気になる文字を見つけた。
(ウラインターネット……?)
ウラインターネット。
ガッツマンもよく知る、ネットワーク犯罪者や無法者達の溜まり場だ。
危険な為に日常ではまず足を踏み入れる事のない場所だが……こと、この状況ではそうも言えない。
何せ名前からして、あからさまに怪しすぎる。
ここに何かありますよと、手招きして誘っているようなものなのだ。
(もしかしたら、皆ここを目指してるかもしれないでガッツ……!
これがWWWの罠なら、尚更……!)
そしてガッツマンは、単純にもその誘いに乗せられていた。
ウラインターネットは、犯罪者をはじめ危険人物の溜まり場となっている。
ならば、あの榊という男ももしかしたらいるかもしれない。
そう短絡的に考えてしまっていたのだ。
……もっとも、その単純な考えを持った参加者は他にもそれなりにいるわけではあるのだが。
(それとアイテムっていうのも、何があるのか見ておいた方がいいでガスね)
目的地を決めたところで、地図のついでにアイテムも確認しておく。
そう簡単に倒されないという自信はあるものの、やはり今は己一人の状況だ。
デカオからの支援がない以上、使えそうなものは素直に使う方がいい。
特に、日頃から扱っているチップの類があるなら嬉しいところだ。
ガッツマンは慣れないウィンドウ操作を進めつつ、期待しながらアイテム項目をクリックしてみる。
(……これって……武器、でガスよね?
でも、バトルチップっていうより寧ろ現実世界のものじゃ……)
そんな彼が真っ先に見たのは、巨大な一本のライフル銃だった。
名を、ウルティマラティオライフル・PGMへカートⅡ
フランスのPGM社が開発した、12.7mm口径の大型狙撃銃。
1800m以上離れた相手への狙撃を可能とする長距離射程に加え、その口径に見合った破壊力を持っている化け物ライフルだ。
このゲームに支給されている攻撃用の武器の中でも、威力を見れば間違いなく当たりの部類に入る。
しかし……ガッツマンは、当たりを引いたと喜ぶよりも、寧ろ困惑していた。
何せこのヘカートは、彼が本来なら決して触る事など出来ない、現実世界の重火器なのだ。
何故、電脳世界にこんなものがあるのか……そんな驚きの方が、彼には大きかったのである。
(それに……バスターやキャノン系は苦手ガッツ……)
加えて、ガッツマンはこの手の遠距離武器が不得手だった。
彼はその見た目からも分かるように、徹底したパワー・タフネス重視のナビだ。
本領は至近距離での闘いであり、どうしてもこの手の武器は敬遠しがちである。
それでもここは、無いよりかはマシと考えるべきなのだろう。
いざという時には使う、そう考え、ガッツマンは次の項目に目を滑らせた。
……しかしこのヘカートなのだが、実はガッツマンに支給されたのはまだ運が良い方だったりする。
何故ならこの銃は、そもそも参加者の誰しもが扱えるような易しい代物じゃない。
性能は上述した通りの相当なレベルがあるのだが、それに見合ったデメリットも二つほど存在している。
まず一つ目だが、何せ超大型狙撃銃というだけあってかなり重たいのだ。
これをアイテム欄からオブジェクト化させようものなら、持ち歩くのにはある程度の筋力がないと中々に苦労する。
そして二つ目は、その威力に見合うだけの反動がある事。
もし仮に、何の心得も無い一般人がこのライフルを撃った場合は、肩が外れるぐらいの衝撃に襲われるのだ。
よってヘカートを扱うには、まずはこの二つの欠点を克服しなければならない。
その点では、ガッツマンははっきり言ってラッキーだ。
彼の持ち前のパワーなら―――本来の持ち主である
シノンには及ばないかもしれないものの―――少なくともそのデメリットに左右されずにこのヘカートを扱う事はできる。
もっとも、扱う場面が果たしてくるかという話ではあるのだが。
(……これは……?)
続けてガッツマンの興味を引いたのは、またしても彼が見たことないアイテム。
しかし今度はへカートと違い、現実世界にも存在していない、明らかに電脳世界の産物と呼べるものだった。
それは、SAOの世界で数多くのプレイヤー達が愛用してきた、冒険の必需品と呼ぶに相応しいアイテム。
使用する事で、遠く離れたマップへも瞬時に移動する事が出来るクリスタル―――転移結晶である。
(エスケープチップみたいな……いや、これってエスケープより大分いいものじゃないんでガスか……!)
その効果と使用方法について書かれてある説明欄に目を通し、ガッツマンは驚きを隠せなかった。
この転移結晶だが、相当に便利な代物なのだ。
使用方法は簡単で、オブジェクト化されたそれを手に持った状態で『転移』のキーワードと共に、行き先を叫べばいいだけという。
例えば、マップのA-1に行きたいならば、「転移、A-1」と叫べば、そこにテレポート出来るのである。
勿論地図に無い場所を叫んだ所で意味は無いのだが、逆にいえば、マップ内であれば何処へでも行く事が可能となる……
そう、目的地であるウラインターネットにもだ。
(……でもこれ、ここで使っていいもんでガスか……?)
しかし。
ガッツマンは、この転移結晶を使うかどうかに頭を悩ませた。
何故なら……転移結晶は使い捨てのアイテムであり、たった一つしかない貴重品だからだ。
これを使えば、ウラインターネットにはあっという間に到着する事ができる。
だが、それだけの為に果たして使っていいものなのだろうか。
例えば、自分ではどうしようもない強敵と遭遇した時でも、これがあれば一度は完全に逃げ切る事ができる。
窮地に陥った仲間がいれば、これを託して何処か遠くへと逃すこともまた出来る。
はたまた、ウラインターネットよりも実は怪しい目的地が出てくるなんて可能性だってある。
そう考えると、この転移結晶は迂闊にここでは使えないのだ。
(……うん、まだこれは様子見でガッツ……)
考えた結果。
出した答えは、アイテムの保留であった。
ここで使ってしまうには、転移結晶は少々高価すぎる代物だ。
後々の事を考え、いざという時の為に取っておくほうが良いだろう。
(ウラインターネットまでは、頑張って歩くでガスよ。
もしかしたら、ロックマン達が見つかるかもしれないでガスし……!)
そうと決まれば、善は急げだ。
ガッツマンはへカートをオブジェクト化させて肩より担ぐと、高速道路を真っ直ぐに下り始める。
向かう先は真北、ウラインターネット。
恐らくは他のネットナビ達も集合しつつあるだろう、ネットワークの暗部だ。
WWWの野望を阻止すべく、力強くガッツマンは歩き始めたのだった。
……もっとも、これがWWWの仕業であるかどうかは、まだ全く分からないのだが。
対主催に向けて強い決心を固めている彼へとツッコミを入れるのも、ここは野暮というモノだろう。
【G-8/高速道路/1日目・深夜】
【ガッツマン@ロックマンエグゼ3】
[ステータス]:健康
[装備]:PGMへカートⅡ(7/7)@ソードアートオンライン
[アイテム]:基本支給品一式、転移結晶@ソードアートオンライン、12.7mm弾×100@現実、不明支給品1(本人確認済み)
[思考]
基本:殺し合いを止め、WWWの野望を阻止する。
1:ウラインターネットに一先ず向かう。
2:ロックマンを探しだして合流する。
3:転移結晶を使うタイミングについては、とりあえず保留。
[備考]
※参戦時期は、WWW本拠地でのデザートマン戦からです。
※この殺し合いが、WWWの仕掛けた罠だと思っています。
【PGMへカートⅡ@ソードアートオンライン】
フランスのPGM社が開発した、12.7mm口径の大型狙撃銃。
1800m以上離れた相手への狙撃を可能とする長距離射程を持っており、同時に大口径故の破壊力も備えている。
ただしそれに見合っただけの重量と反動もある為、取り扱いには高い筋力を要求される。
また、ボルトアクション式なので連射は出来ないという欠点もある。
GGOにおいてシノンが愛用している武器であり、ゲーム内でも屈指のレアアイテムとされている。
【転移結晶@ソードアートオンライン】
ソードアートオンラインにて使用されている、転移用アイテム。
ゲーム内ではダンジョンからの緊急離脱が主な用途であり、指定した街へと瞬時に転移する事が出来る。
このロワにおいては、指定したマップ上の座標へ転移するという効果に変更されている。
ただし、一度使用すれば消滅してしまう他、SAO同様に転移結晶無効化エリアの中では使用が不可能になる。
最終更新:2014年11月10日 15:48