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My Escape(第3回)

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 買って来たものをあらかた食べ尽くすと、彼女は空を仰いだ。複雑な軌跡を残す飛行物体。それが常軌を逸した足跡を残し、段々と近づいて来るのが理解できた。少なくともそれが、人間の手による飛行機などではない。あれほど直角的な軌道をする飛行制御技術は、まだ世界中見渡しても存在しない。しかも、それが肉眼で判別できるくらいに猛スピードで機動していたとしたら、それは目を疑ってしまう光景だが、疑いなき事実でもあった。
 三十秒ほどして、その物体がなにであるか呑み込めた。
 それは紛れもなくUFOだった。まるで子供が書いたような幼稚なUFOは、平べったい円錐状の屋根に円筒の胴体、そしてスカートのような円盤が腰の辺りに備わり、スカートが従える黄色い球体を回転させて、この上なくコミカルな動きでこちらに迫って来る。
 しかし、それを見たからといって、別段動揺する訳でもなかった。ただ、いつものように終焉の迎えに来ただけなのだ、あのUFOは。UFOのお迎えは慣れているが、一度びびったのが、なぜか絨毯爆撃を敢行しながら上空を通過する巨大爆撃機の襲来とか、建物を蹂躙しながら進撃して来る戦車の群れとか、果てには猫バスが襲来したりと、まあ色々な経験をしたのだ。今更UFOを見たところで、動じる道理がなかった。
 フヨヨヨヨヨヨ、となにやら漫画チックな擬音は、いかにも自分自身のイメージを踏襲しているようだった。そのUFOが彼女の真上に到達すると、円盤の中心が開いて、そこから目が眩むほどの投光が浴びせられる。
 彼女は特に感慨もなく、ただ為すがままに、不可視の力で持ち上げられ、UFOの中に吸い込まれた。ほんの一瞬の振動が体を襲い、そこからは黒い風景が広がって行った。

   エピローグ

 目蓋を開くと、そこは電車の中。
 寝ぼけ眼を擦り、半開きの目で外の風景を確認した。暗くて全容は分からないが、見た事のない場所である事は予想がついた。どうやら、駅を寝過ごしてしまったらしい。
 テニスでの集団行動もそうだし、なにかむしゃくしゃするような事があれば、千歳はいつも夢の中の住人になり、夢幻の世界を歩いている。それを周囲に咎められようが、彼女に止めるつもりはない。
 そして、止める術もない。
 全ての理想が具現化し、全ての嫌悪が取り除かれたシャングリラ。しかし、そうした理想だけの世界は、彼女にとって一時の間だけでよかった。嫌な事を我慢する事がなくて、毎日が楽しいだけの日常であれば、それは人を堕落させるだけだから。
 電車に揺られる日常。勉強という重圧。人と付き合う事の楽しさ、そして葛藤。
 不満という名の足枷を解消する為だけに、その世界はある。
 そして彼女は、これからもその夢を見続けるだろう。
 それがMy Escape。
 停車した電車から降り、引き返す為に反対方面の電車を待つ事にした。
 リン、と鳴る、バッグに繋がれた鈴。小学校のテニス部仲間と交換し合った思い出の品。そして……彼女の日常を支える原動力。
 スカートの裾を直し、ホームの屋根を支える鉄骨に持たれかかり、折り返しの電車を今か今かと待ち望んだ。

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