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My Escape(第2回)

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rock

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 電車に揺られて一時間ほど。
 千歳はいつもと同じ駅に降りた。
 その駅は、彼女の意識の中にだけ存在する場所。現実という戒めから解き放たれた、無限に広がる大海原に等しい。
 いつも同じ表情だけを見せる人工物とは違う。押し寄せる波は穏やかである事もあれば、獰猛な一面を見せる事もある。返す波が砂浜を撫で、その行為の繰り返しが、やがて風景のあり方を変質させる。
 ここはそんな場所だった。
 常識では考えられない事……即ち『非常識的』な事……も、ここでは全て当たり前に起こり得る現象になる。今すぐここだけを大地震が襲おうが、巨大なウルトラ怪獣が出て来ようが、ここではあくまで当然のごとく振舞われる。
 そんなこの場所が、千歳の好きな場所だった。今日はどんな風景が目の前にあるのだろうと、毎日訪れたとしても、そこはドキドキと色めき立ってしまう場所だった。
 いつもと違う風景……例えば、今までなかったものが突如、なぜかそこに現れていたり、逆に消失していたりする。全てが消え去りはしないが、そうした循環を繰り返す事により、気がついた頃には、過去に見慣れた風景はなくなっている。ついこの間まで駅の隣に店を開いていた駄菓子屋が、コンビニになっていたりもした。コンビニができたかと思えば、それがCDショップになり、果てはラーメン屋になったりと、その入れ代わりは目まぐるしかった。
 一度として馴染ませてくれないこの町を、彼女はとても気に入っていた。少々感覚の外れた人間として、こんなに自分を楽しませてくれるものはないのかもしれない。例えそれが、一瞬しか視界に入らないのかもしれない残影なのだとしても。
 当てもなく道を歩く。ちょっと小路に入りながら歩くのが、彼女がこの駅に降りた時の日課だった。
 やはりそこは、先週見た風景とは異なっていた。あの焼肉屋が焼鳥屋になっていたり、本屋がゲームショップになっていたり。
 でも、本屋がなくなっていた事は少々残念だった。本を立ち読みしてみたかったのに。ここの本は、他の場所にはないものを扱っていて、それが自分の趣味に合っていて面白いのだ。
 と、結構前から拝まなくなっていたものが、急に彼女の目に飛び込んで来た。意識もしていないのに、まるで運命付けられたかのように、その看板の文字が双眸に刺さる。
 駄菓子屋だった。ただ『駄菓子』とだけ銘打たれたシンプルな看板が、彼女の心を捉えて離さない。
 誘惑に負けて、彼女は奥に入って行った。昔懐かしの木製の扉を横にスライドさせると、中には誰もいない。駄菓子は沢山並べてあるのに、店主が見当たらない。しかし、この町ではよくある事だ。
 商品を眺め、その内興味のあるものいくつかを手に取り、その分の代金を店番用のお座敷に置いた。
 彼女の手の内にあるのは、ソーダやコーラの缶を模した小さな容器の中に、その味のラムネが詰まっている菓子や、ドロップ、ついでにこんぺいとうも買ってみた。
 外に出て、食べる場所を探していると、都合よく公園が見つかった。一般的な公園よりもかなり狭く、砂場と滑り台、ベンチが三つほどの簡素なものだった。この場所も、この前までなかったものである。
 ベンチに座り、ソーダ味のラムネから食べる事にした。プルトップの蓋を開けて、手の上でポンポンと振ると、数個のラムネが落ちて来た。
 それを口に含むと、いかにも駄菓子のソーダという味が、口内に広がった。懐かしい味と言うか、とにかくそんな感じである。そんなに長い年数を経ている訳ではないので、これがどの程度懐かしいのかは分からなかったが、子供の頃にこんなものをせがんだ覚えがある。ラムネに限った事ではないが、お菓子を買ってくれなくて、泣いてまで親にせがんだ事を思い出すと、彼女は少し苦笑を浮かべた。

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