同じような風景が通り過ぎる
校舎内の全力疾走に、ゼヒューゼヒューと呼吸が乱れる
足をもつれさせながらも、エネミーとは何とか距離をとっている
と、前方に、人影を見つけた
ダークグレーのスーツにミッドナイトブルーのネクタイ
その顔は、記憶に新しいものだった
「Fou、またお前か!」
昨日の白衣は着ていないものの、貼り付けたような笑みは変わっていない
「まあ落ち着いて、私はあなたを助けてあげようかと思っているのですから」
は?と、足を止めた瞬間に、Fouは俺の後ろにいた
「と言うことで、あなたは邪魔だから滅べ」
巨大なエネミーと相対し、つまらなそうに笑みを消す
おもむろに右手を前に突き出すと、手の平の上に、真っ黒な十センチほどの球体が現れた
俺は感覚的に理解する
アレは危険だ
並みのコントローラーでは決して見ることのできない力が、Fouの右手に集約している
「私の能力の基本形ですが、それなりに威力はあるはずですよ」
フ、黒い球体が立ち消え、エネミーの顔面にまた現れた
ボッ!
その球体がまた消えると、エネミーの顔面が、球形に切り取られていた
詳細に見ることの出来た断面から、一瞬で血が吹き出す
ボッ、ボッ、ボッ、ボッ、ボッ!
黒い球体が身体に重なっては、その部分が消滅する
十秒後には、エネミーの巨体が奇妙な赤いオブジェになっていた
「さて、交渉の開始ですよ、藤城君」
にやりと笑みを深くしたFouは、近くの教室を指差した
教室はがらんとしていた
それも当然、普段余り使われることのない空き教室だからだ
その空いているはずの教室に、俺のよく見知った顔があった
「……人質か」
深山奏が、縄で雁字搦めにされていた
薬か何かで眠らされているらしい、これでは襲われた時に対応できない
それなのに、何でこんなに冷静でいられるかは分からなかった
ただ、どうにかして教室にいた奏を助けようと思った
「ふむ、存外、冷静なようだ
では、取引をしようか
私は彼女を解放しよう、ついでに捕獲の際一緒にいたシンボルも」
そう言われて始めて、俺のシンボルが一緒に縛られていることに気付いた
これは危険か?
いや、チャンスだ
Fouが能力を行使する時、それは奏に向かって発動するだろう
俺のシンボルの能力は、【自分に悪意がないシンボルの能力を無効化する】
Fouが俺以外を狙う時、俺の能力は問答無用でFouの能力をかき消す
ならば、安心して交渉に臨める
「で、俺は何をすればいい?
何を差し出せばいい?」
「おや、話が早いですね
それでは、こちらのお願いです」
俺は、じっと身構えた
「屋上までの道を教えてくださいな」
ずっこけた
「……は?」
教室を出て、何度か曲がって階段を上ることを教えると、Fouは笑いながら去っていった
さっぱりわけが分からん
Fouのことだ、分からないから聞いたというわけではないだろう
道順による心理テストか?
人質を取られたときの反応?
そもそも、そんなことを調べて何になる?
知ると有効な『俺』に関する情報は?
そもそも、知ろうとしているのは俺の情報か?
絡まる思考にとらわれ、脳が混乱する
その混乱をどうにかしようと、俺は教室から出て行った
向かうは、Fouの行った先、屋上だ
教室に何か忘れ物をした気がしたが、かまわず近くの階段に足をかけた
ガッシャァァアアァアァアァァァァァアン!!!!!
今日はやたらとガラスの割れる音を聞くな
ここがそんなに不良が多い学校だとは思っていなかったんだが
振り返ると、大きな鳥のようなエネミーがいた
不良じゃないですよねー……はぁ
シンボルは行方不明、奏はFouにつかまったし、どうすれば……
あ、そういや二人とも解放済みだったな
確か、この階段降りたとこを直ぐ曲がった教室にいるはず
すっかり忘れてたな
しかし、今の状況では力を借りるのは難しいだろう
階段と廊下の間にエネミーがいる
教室に行くまでに必ず通らなければならないのだ
また、教室に入っても、奏を縛る縄を解くまでにエネミーに攻撃されるだろう
さらには、今の俺にエネミーを倒しうる力がない
この状態で鳥形エネミーを避けて教室にたどり着き、なおかつ敵を攻撃不能の状態にして奏を解放
んなこと出来ますか
まぁ、やるしかないッてんなら仕方がない
今日が俺の命日になるかもだけどな
最終更新:2006年09月10日 03:26