「…今回は少し厄介だな…」
水上は目の前に聳え立つ小さなビルほどもあるエネミーを見上げて言った。
単純に巨大で怪力ならば何ら問題は無い。
しかし、今回のエネミーはそれだけでは終わらなかった。
水上は他の隊員とともに駆けつけた時、真っ先に強力な
水の刃を打ち出してエネミーを一刀両断しようとした。
しかし、刃はエネミーに届く前に蒸発してしまった。
「どうやら今回のエネミーは体の周りに超高熱の壁みたいなものを
張れるようだな」
指揮官がそう呟く。
それを裏付けるように、エネミーの周りは陽炎のように揺らめいていた。
「少なくとも水上の能力で致命傷を与えるのは難しいだろうな。
せいぜい奴の力を利用して水蒸気の煙幕を張るぐらいか」
水上はぎゅっと手を握り締める。
悔しいが今回は確かにその通りだった。
たとえ奴を巨大な水溜りに放り込んで水蒸気爆発を引き起こそうとも
あのエネミー自身に目に見えるダメージは与えられないだろう。
「幸いにも奴は鈍足だ。
水上、お前は奴の目前に水を集めて水蒸気の煙幕を作れ。
そして堂前、今回はお前の力で奴を感電死させろ。
いいな」
「了解」
2人が同時に声を出す。
あとのメンバーはその補佐に回ることとなった。
エネミーは街へ向かってゆっくりと進んでいく。
それは絶大な防御力に裏打ちされた
余裕とも思えてしまうほどであった。
「来たぞ。
抜かるな」
指揮官が言葉を発すと同時に水上は
ありったけの水をエネミーの前に集める。
直後、凄まじい爆音とともに水蒸気爆発が起こり、
辺り一体は水蒸気に包まれてしまった。
「堂前、今だ!」
堂前と呼ばれる隊員は熱の壁のギリギリまで近づいて電撃を流そうとした。
すると白い靄の中から突如エネミーの咆哮が響き渡る。
それ同時に凄まじい熱波が辺り一帯に広がる。
隊員達は直ちに全身の力を防御に費やした。
熱波が隊員達を包むが、シンボルの力で守られた
隊員達はせいぜい軽い火傷程度で済んだ。
ただ1人を除いては。
「堂前!」
水上は熱波が過ぎた後、すぐさまそう叫んだ。
堂前は、熱の壁のすぐ傍で攻撃の為に
全力を使おうとしていた。
あの一瞬で堂前が防御に転じれたとは思えない。
水上は最悪の事態を予想した。
「堂前ー!返事をしろー!」
水上や他の隊員達はエネミーに気を配りつつも
堂前の姿を探した。
そして、水上の予想は当たってしまった。
水上の目に映ったのは、高熱で全身が膨らんでしまった
変わり果てた堂前の姿だった。
「…堂前!しっかりしろ!」
しかし、堂前が返事をすることは2度と無かった。
…かに思えたその時
「ねぇ、その人死んじゃったの?」
不意の声に水上は驚いて顔を上げる。
そこには見知らぬ男が一人。
「ねぇ、その人死んじゃった?
熱くて死んじゃった?」
子どものような無邪気なその言葉に
水上は怒りを爆発させる!
「ふざけるな!こいつはまだ生きている!
脈も息もしてないが…それでも、こいつは絶対生きてる!
もう俺の前で誰も死なせはしないんだ!
だから生きてる!
生きてるんだ!」
怒りと焦りと分かりたくもない悲しみで
水上は冷静さを失っていた。
目の前の男はニッと笑って言った。
「ねぇ、あの子僕にくれたら、その人助けてあげるよ?」
男の言葉を、水上はすぐには理解出来なかった。
「…何だって?」
「だからぁ、あの子を僕にくれたら、その人を助けてあげるよ。
早くしないと、その人本当に死んじゃうよー?」
「あの子って、何のことだ?」
「あの大きな子だよー」
「あの巨大なエネミーのことか?」
「そうそう」
水上は更に怒って喋った。
「あれは別に俺のものでもなんでもねぇ!」
「でも殺しちゃうんでしょう?
あの子を殺さないでくれるなら、僕がその人を助けてあげる」
男が何を言っているのか、水上には理解出来なかった。
ただ、一つだけ理解出来た事は
「…あいつを殺さなかったら、堂前を助けてくれるってのか?」
「だからそう言ってるじゃない」
状況が状況だけに、水上は藁にも縋る思いで言った。
「分かった。約束する。俺は奴を殺さない。
だから、だから堂前を助けてくれ」
「お兄さんだけじゃダメだよ。
他の人にも言ってくれなきゃー」
「分かった、俺の口から言っておく!だから…」
男は再びニッと笑って言った。
「交渉成立だね」
男は堂前の体に手を当てる。
すると、男の手から何やら細い紐のようなものが出てきて
堂前の体の中に入っていく。
「…死んでそーだけど確かに死んでないねー」
男はポツリと呟く。
そして数秒の後、堂前の体に変化が起きる。
あれだけ無残に腫れ上がった皮膚が徐々に収縮していき
もとの肌色に戻った。
すると、堂前が小さくウッと声を出す。
「堂前!」
水上は堂前の手を掴んで叫ぶ。
「…水上…か?俺は一体…」
水上は思わず男の顔を見た。
堂前から糸のようなものを引き抜いて、男は言った。
「さぁ、こっちはやることをやったよ。
次はあなた達の番だからね」
「…お前は、あいつをどうするんだ?」
水上は男に尋ねた。
「ん~、ちょっと形容し難いんだけど、敢えて言えば食べちゃう。
美味しいトコだけ」
男は笑顔でそう言う。
「さ、早く早く!
約束守らないと今度は僕がその人を殺しちゃうよ?」
水上は堂前を担ぎ、黙って部隊へ戻って行った。
「…さてと、久しぶりに頂いちゃおうかな♪」
男は未だ進撃を続けるエネミーを見上げて言った。
「水上!それに…堂前!?」
指揮官や他のメンバーは驚いた声を上げる。
「指揮官、少しお話があるのですが…」
水上は男との約束を守って指揮官に
エネミーへの攻撃の中止を進言した。
「…水上、お前ともあろう男がこのまま奴を
見逃すというのか?
奴を見逃せば、このまま街へ進撃し、住民を全て
焼き尽くすことになるくらいお前になら分かるだろう?
それに、もしここで私達が黙っていても、総隊長直属部隊が
奴を始末しにかかる」
水上は食い下がって言った。
「お願いします!今だけ、今だけは奴を見逃して下さい。
私とて、奴をこの手で切り裂いてやりたいです。
ですが奴は…おそらくですがこの場で死ぬはずです。
それに、万が一奴がこのまま街へ辿り着くようなことがあれば
その時は私が命に代えても奴を始末します」
「だがな…」
水上と指揮官が押し問答をしていたその時、
一つの人影がエネミーの頭の上に飛び上がる。
「あれは…!?」
全員がその影を目で追う。
すると、その影はまるで吸い込まれるように
エネミーの中へと消えた。
男の姿がエネミーの中に消えて数秒後、
エネミーが前とは違う苦しみに満ちた叫び声を上げる。
隊員達は思わず防御体制をとるが、熱波がやってくる気配はない。
すると、エネミーの脇腹あたりから何か得体の知れない
巨大な宝石とも内臓とも区別のつかないものを持って
先程の男が現れた。
エネミーの方は苦しそうにのたうち回って全身を振り回すが
それが男に当たってもまるでホログラムに触れるかのごとく
すっと通り抜けてしまう。
「やぁやぁ」
男は軽自動車ほどの何かを担いだまま笑顔で挨拶した。
隊員達は、何が起こっているのかさっぱり分からないといった顔で
男とエネミーを交互に見ている。
「…一体、何が起きてるんだ?」
水上が思わず口にしたその言葉に男は笑顔で答える。
「あぁ、僕がこれを取っちゃったから苦しがってるんだね。
エネミーにとってこれは重要な部位だから」
水上はその言葉を聞いて幼い頃に習った
エネミーに関する授業を思い出す。
「…エネミーの…核…」
「そうそう、それ!」
男は片手で大荷物を掲げたまま
もう片方の手でピッと水上を指差す。
男は巨大な核を空中へ放り投げる。
すると、男の体からシンボルが飛び出てそれを丸呑みにする。
丸呑みにしたシンボルの体は飲み込んだ核と同サイズになった。
そしてしばらくしてシンボルの体が元のサイズになった頃、
その男は再びリボルブする。
リボルブした男は、先程より少し若くなったように見えた。
「僕のシンボルはすごーく特別でさ、
時々こうやってエネミーの核を食べさせないと
僕がどんどんお爺さんになっちゃうんだ。
でも、エネミーが死んじゃったり核が傷ついてると
食べれなくってさー。
それでちょっとお願いしたの」
男はそれだけ言うと、すたすたと歩き出した。
「待て!」
水上は男を呼び止める。
「なぁに~?」
「…お前、一体誰なんだ?」
男はにっこりと笑って一言
「サンタクロース、だよ♪」
それだけ言うと、男の姿は一瞬の後に目の前から消え去ってしまった。
最終更新:2006年09月10日 15:23