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とある路地裏の湿った駐車場。
そこからは人を殴る鈍い音と嘔吐するような
人の声が聞こえる。
「だ~か~ら~、これじゃカラオケ代にもなんねーっての」
数人の柄の悪い高校生に
いかにもひ弱そうな高校生が囲まれている。
「で、でも、今月のバイト代はそれで全部…」
「アホかテメェ?バイト増やすなりなんなりして
稼いでこいよ」
「で…でもこれ以上増やすと学校に行く時間が…!」
長身の高校生がひ弱そうな高校生の腹に蹴りを入れる。
「あのなぁ、お前に断る権利なんてねぇの?
分かるか?
カースト制って言葉くらい、テメェだって知ってるだろ?
お前は奴隷なの、奴隷」
周りからは「奴隷じゃなくて歩くクズだろ?」といった声も出ている。
(あぁ…なんで、なんで僕がこんな目に…)
ひ弱そうな高校生はボロボロと泣き出した。
「キメェ、コイツ、女みてぇに泣いてやがんの」
「えーアタシだってそんなに泣いたりしないしー?」
「俺と寝た時はヒィヒィ啼いてたけどな」
ギャハハハという品の無い笑い声が
周囲を包む冷たい壁のように聞こえる。

(…殺してやりたい…!
いや、それが無理なら、いっそ死んでしまいたい…!)
ひ弱そうな高校生の目から涙が止まることは無かった。
「それじゃ、来週までに最低10万!
分かってるな?」
もう一発腹部に蹴りを入れて長身の高校生は
周囲の仲間と共にその場を去ろうとした。
その時である。
凄まじい突風とともに得体の知れない
大きな化け物がその場へ飛来した。
「ヤベェ!コイツ、エネミーじゃねぇのか!?」
「こんなデケェの見たことねぇよ!」
「オイ、そこのクズ囮にしてさっさと逃げっぞ!」
たった一人、幾度となくその場で暴行を受けて
這いずるようにしか動けないひ弱そうな
高校生を残して他の高校生達は逃げ出してしまった。
「あ…あああ…」
恐怖のあまり、ひ弱そうな高校生は声にならない声を出した。
「大丈夫、何も怖がらなくていい」
無から生み出されたばかりのような、
至極落ち着いた、それでいてどこか
砂糖菓子のような甘さを持つ声が聞こえる。
ひ弱そうな高校生は、その声を一度聞いただけで
全身の震えが止まり、寧ろ心が安らいでしまった。

真っ黒なローブで全身を覆った男が
巨大なエネミーの背から静かに飛び降りた。
「君、あの子たちが憎いかい?」
泣き喚く子どもをなだめるように優しく、優しく声をかける。
ひ弱そうな高校生はこくんと頷く。
「何も悪くない君を虐げる、こんな世界が憎いかい?」
再び頷く高校生。
彼の心はもう既にその甘い声の虜となっていた。
「君は何も悪くない。
君はとてもいい人間だ。
なのに、君はイジメられ、虐げられ、
奴隷のように扱われている。
こんな不条理なことがあるかい?
本当の悪は君を残して逃げた彼らだ。
彼らこそこの世界から排除すべき悪。
そうだろう?」
何度も何度もその言葉に頷く。
「でもね、君はこの不条理な世界の中で
孤立してしまったんだ。
君は今排他されようとしている。
無論、それは間違った行為だ。
でも、今の君に助けてくれる仲間は1人もいない。
だけどね…」

男がローブを翻すと
数対のエネミーがその場に現れる。
「この子達は君の味方だ。
仲間だ。親友だ。家族だ。
君がいかに孤立しようとも、この子達は
決して君を見捨てない。裏切らない」
男の言葉に高校生は涙が止まらなかった。
「さぁ、私達とともに行こう。
この不条理な世界、間違った世界を
私達の手で修正するんだ。
そして、この子達と
君のような『選ばれた』人間によって
新しい世界を、秩序を、正しく美しく清らかな明日を
創造するんだ」
高校生は立ち上がって男の傍に歩み寄った。
「さぁ、今こそ新しい一歩を踏み出す時だ。
我々は『シュヴァルツ』。
真に正しき世界を作りし者達の集い」
男が再びローブを翻した瞬間、
地を割くような雄たけびを上げて
巨大なエネミーは男と高校生と他のエネミー達を乗せ、
虚空へと飛び去った。

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最終更新:2006年09月11日 22:58