第2話 実験
ガタン!
「放せっ!邪魔だ」
ドアが開いた途端、狭い部屋に大きな声が響いた。
「早く手を放せ!ふざけるな。何をする気だ」
一人の男が2人の大男にガッチリと捕らえられている。
無理やり部屋に連れてこられたようだ。
「しぃーーーーーっ」
白衣の男が口元に人差し指を立ててやってきた。
「静かにしようね」
まるで子供をしかるときのような口調だった。
「誰だお前は」
「君が秋田君だね。君には協力してもらいたいことがある」
「だからお前は誰だって言ってるだろ」
白衣の男は質問を再び無視して話を続けた。
「君は自分が死刑囚だということを知っているね。助かりたくはないかい。
もし私の実験に協力してくれて、うまく行ったら釈放してあげるよ」
「ふざけるな。そんなことができるわけないだろ。そんなことよりこいつら何とかしろ。早く手を放せ」
白衣の男は左手で顎を撫でるような動作をしながら言った。
「実験に協力してくれるなら今すぐ放してもいいよ」
秋田も一瞬、躊躇した様子を見せたがすぐに切り替えした。
「隣で拘束されてる俺のシンボルも連れて来い。そうしたら協力してやる」
「O.K.連れてくるよ。あっ、ちなみに私の名前はFou。覚えなくてもいいよ」
Fouは大男のうちの1人に向き直って、軽くうなずくような動作を見せた。
するとその大男も軽くうなずいた。
「すぐ来るから君には実験について説明しておく。簡単だから安心していい。
君はほとんどあそこに入って立ってるだけでいい」
そう言って、ロッカーのような形をしたものを指差した。
ガタン!
再び部屋のドアが開いた音だ。
急に大きな音がした割には誰も驚かなかった。
来るのが分かっていたからだろう。
小さなシンボルが大きなシンボルに捕らわれて入ってきた。
秋田は自分のシンボルを一瞥するとこう言った。
「それだけで釈放なんておかしい過ぎる。本当は何をする気だ」
「あれ?珍しいねえ。普通はシンボルが来た途端に暴れだすものなんだけど・・・フフフ。
ま、君の能力じゃ仕方ないね。確か爆発させる能力だっけ?
こんな部屋でやったら自分も巻き添えになってしまうものね・・・フフフ」
Fouは微笑をうかべた。
「話をはぐらかすな。何をする気だと言ってるんだ」
秋田はFouを真剣に見つめている。騙されないようにと探っているようだ。
それに対し、Fouは面倒くさそうな表情を浮かべた。
「分かった分かった。真面目に話すよ。私の実験の目的は回帰を観測すること。
さっきは立ってるだけと言ったけど正確には回帰してもらいたいんだよ」
怒ったように早口に秋田は言った。
「嘘をつくな。それでもわざわざ釈放するという条件をつけるほどじゃないだろ。
給料を払えば死刑囚にしなくてもいくらでもできるだろ」
「無理だね。回帰を観測することは人体実験として扱われる。運悪く私は医者ではなく科学者なんだよ。
科学者には人体実験は許されていない。しかし、そんな理由はどうでもいい。
実験に協力するのか、しないでそのまま死刑になるのかどっちにするんだ。早く決めろ」
秋田はたじろいだ。確かにその通りなのだ。
実験に協力しなければ確実に死ぬ。協力すれば助かるかもしれない。
しかし、実験で何をされるか分かったものではない。怖い。
それでも秋田にとって選択の余地はなかった。
「わ、わかった。協力する」
「さて、準備完了」
部屋のスピーカーから声が聞こえた。
どうやら隣の部屋からマイクで話しているらしい。
何をされるか分かったものではない。
再びシンボルとも離され、体も拘束され身動きをとることもできない。
しかし、秋田は覚悟を決めていた。
たとえ死んだとしても可能性にかけてみる価値はあると。
再びFouの声が響いた。
「今から回帰してもらうんだけど、一つ言い忘れてたいたよ。
回帰は回帰でも強制回帰だから。その方が観測しやすいからね」
「えっ!」
秋田は驚いた様子を見せた。
「つまり、死なない程度に君のシンボルを刻むだけだから。
今まで9人やったけど全生きてるから大丈夫だよ」
驚いた表情がみるみるうちに恐怖へと変わっていった。
「いやっ、いやd・・」
プチン!
スピーカーが切られ、Fouの元に秋田の声は届かなくなった。
モニターには観測用の箱の中で暴れている秋田の姿が映っている。
「ま、9人とも精神崩壊しちゃってはいるけどね」
この実験の存在はもちろん公にはなっていない。
公的な記録では死刑囚は通常通り死刑になったことになっている。
知っているのは一部の人間だけ・・・
最終更新:2006年08月29日 00:39