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今も忘れられない強烈な記憶
浮かぶ光景は、まさに地獄絵図

水上は最も早くシンボルを持った人間の部類に入る
弱弱しくコントロールもままならなかったが
潜在的には有能だったのかもしれない
だが、今の水上はそのことを後悔している
自分に責任は全く無いのだが、それでも自分を
責めずにはいられなかった

その日、当時まだ幼かった水上は家族で
カレーを食べていた
カレーは幼い水上の大好物だったから
水上はにこにこしながらそれを頬張った
その光景を、水上の両親も笑顔で見守っていた
多くは望まない、だからせめてそんな家庭を
水上は保持していきたかった
しかしそれは突然壊された
あの忌々しい化物によって

「ごちそーさま!」
ハキハキした声で水上は言い
そのまま台所へ皿を運んだ
残念ながらシンクに皿を入れることが出来なかったので
母親が代わりにそれを入れてあげた
父親はとっくに食べ終わって新聞を開いている
水上は父親の傍へちょこんと座り
父親は新聞の写真を見せながら
ニュースを分かりやすく聞かせている

そろそろ瞼が重くなってきたので
水上はもう寝ることにした
その前にしっかりと歯を磨かなくてはいけない
水上は母親と一緒に洗面台に向かった

歯を磨き終わり、うがいもすませて寝室へ向かおうとした時である
突然凄まじい音が家中に鳴り響いた
どうやらそれは壁の崩れる音らしかったが
幼い水上には何がなんだか理解できなかった
そしてその音の直後「うわああ!」という
父親の叫び声が聞こえた
その声に思わず身を竦める水上
体が硬直してその場を動けずにいると
洗面台の戸が恐ろしく強く叩かれた

数回の尋常ではないノックの後、巨大な鎌のようなものが
戸を突き破って見えた
そしてその大鎌は戸をバラバラに破壊していまった
そこから見えたのは、巨大なカマキリのような生き物
いや、生き物と呼ぶにはどこかが違う異様な雰囲気
そのカマキリは躊躇無く水上に鋭い鎌を振り下ろす
水上はギュッと目を閉じた
しかし鎌は水上に当たることはなかった
代わりになにか液体のようなものが水上に降りかかる
おそるおそる目を開くと、そこには鎌の貫通した
母親の姿があった
血で真っ赤に染まったまま、水上はその光景を
ただ呆然と眺めていた
カマキリは母親をゴミのように放り投げ
再び水上を襲おうとした
すると今度は左肩から血を流した父親が
包丁を持ってカマキリに切りつけた
だが包丁はカマキリに髪の毛ほどの傷もつけられない
カマキリは父親の腕を振り払い
今度は右肩目掛けて鎌を振り下ろした
ゴトリ、という音とともに父親の腕が床に落ちる
だが父親は片腕のまま必死にカマキリを押さえ込もうとし
そのまま大声で叫んだ
「正悟!逃げろ、正悟!正悟!」

カマキリはしがみつく父親の頚動脈に噛り付く
瞬間、洗面所に赤い血が雨のように降り注ぐ
水上はそれでもなおそこから動けなかった
恐怖のあまり茫然自失となった水上に
父親は必死で逃げろと叫んだ
だが、水上は微動だにしない
カマキリは父親を振りほどき、今度こそといった様子で
水上に鎌を振り下ろす
水上はもう目を閉じることすら出来なかった
そしてそんな水上の目に飛び込んできたのは
胸から鎌を出して血まみれになりながら
我が子を庇った父親の姿であった
水上は、全く思考の追いつかない状況に
完全に混乱していた
ズルリと父親が床に倒れこんだ瞬間、水上は
有らん限りの声で泣き叫んだ

その後、何が起こったのかは水上自身、よく分からない
ただ、目を開けて見えた光景は
ピクリとも動かない父親と母親
そして部屋中に散らばる肉片と血液
それに破裂した水道管である
水道管から溢れ出る水は、水上にかかった血を洗い流していく
だが、水上の心にかかったドロリとしたものまでは
洗い流すことはできなかった

成長した水上が目を覚ますと、また寝ながら泣いていたことに気づいた
あの日の光景を夢で見る度、水上は寝ながら泣いた
そして今夜もそうだった
水上はルームライトをつけ、家族三人が一緒に写る
テーマパークの写真を眺めた
写真の中の父親と母親は、あの日の食卓と同じように
微笑んでいた
そして、両親と手を繋いでいる水上自身も
にっこりと笑っていた

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最終更新:2006年08月29日 02:10