オフィシャルメンバーの駆逐作業により
校庭に最早動きだすエネミーの姿は無かった。
後に残ったのは粉々に散らばった肉片、大量の灰など。
水上は校内及びその周辺に生き残ったエネミーはいないかと
探査作業をしていた。
水をロープのようにして素早く、器用に校舎の壁を
登っていき、2階にある転落防止用の張り出しに
飛び乗って校舎内に目をやる。
するとそこには見慣れた顔が
「…木村…さん?」
水上は少しばかり驚いた。
バラバラになったエネミーの残骸の中に
元オフィシャルメンバーの木村がいたからだ。
木村は、女子生徒らしき人影と校舎内に
入り込んだエネミーを駆逐している。
向こうはこちらに気付いていないらしい。
「…そうか、木村さんが言っていた辞令ってのは
こういうことだったのか…」
水上は何かを悟ったように再び上へと登りだす。
屋上まで上ると、見知らぬ男が双眼鏡片手に
サンドイッチを頬張っている。
生徒ではない。
かといって、教師という雰囲気もない。
「おや、ちょっと恥ずかしいところを見られちゃいましたね」
その男は残っていたサンドイッチを口に放り込み、
軽く会釈した。
…何か、凄く嫌な気分がする。
ちょうど、あの日両親がエネミーによって惨殺された
あの時を思い出している時の気分に近い。
「…アンタ、誰だ? …いや、『何』だ?」
男は双眼鏡を懐にしまうと笑顔で答える。
「『何』って…ただの人間ですよ。
そうですね、取り敢えず『Fou』とでも名乗っておきましょうか」
今日は2度も名乗ってしまいましたよと
Fouと名乗る人物は笑う。
不快だ。
こいつの笑顔も言動も不快でたまらない。
感覚的にエネミーでないことは分かる。
もしエネミーだったら、この場で微塵切りにしていたところだが。
「アンタ…シュバルツか?」
男はクスリと笑って答える。
「関係ないですね。私はただの一般市民です」
嘘もたいがいにしろ。
一般市民がそんな嫌な目をしているか。
俺の両親を殺したエネミーのような目を…。
俺は有無を言わさず水を打ち出した。
その水は奴の前で文字通り『霧散』する。
「危ないじゃないですか。オフィシャルメンバーが
一般市民にそんなことをしていいんですか?」
男は笑顔を崩さない。
「一般市民なら、なぜこんなところにいる?」
「好奇心ですよ。ただのね」
「リボルブしてまでエネミーの大量発生しているところへ
飛び込む…そんな無茶な好奇心だと?」
「その通り!」
男はピッと人差し指を俺に向けた。
思わず構えてしまう。
男はまたクスリと笑って喋る。
「やだなぁ、私はそういう無益なことはしませんから
安心してください」
「…それにしても、先程からあなたの戦闘を見学させて
もらってましたが、いやはや凄まじい光景でしたね。
よほどエネミーに恨みがあると見ますが、いかがです?」
男の笑みが増す。
「別に」
俺は無粋に答える。
「ビンゴ、ですか」
男は嬉しそうな顔をする。
「フフ、これ以上踏み込むな、そういう顔をしていますよ?
…いいでしょう、それならば話題を変えます。
あなた、総隊長直属の戦闘部隊の方ですね?」
「いいや、違うな」
初めて驚いたような顔をする。
「おや、これは本気で外れたようだ。
それだけの腕を持ちながら直属部隊にいない。
スカウトはこなかったのですか?」
「何度もきている。悉く断らせてもらってるが」
「何故です?直属部隊となればそれだけで素晴らしい
栄誉です。それに、給料なども今までとは比にならない。
…そんな些細なことは兎も角、あなたほどエネミーに
対して憎しみのある人ならば強力なエネミーを
片っ端から駆逐していく直属部隊は
魅力的なんじゃないですか?」
男の目がドス黒く輝いている。
何故かはわからないが、男のペースに
俺は完全に乗せられてしまっていた。
「一つは自分で戦う相手を選んでいるからだ。
1000人を殺すほど強力なエネミーを
選んで駆逐するのであれば
俺は1人を殺すエネミーを1000体駆逐する。
その方が実質的に重労働であり、
尚且つ強制的に駆り出されても、だ」
男はじっと俺の眼を見ている。
「…もう一つは、常に一般人が交錯する街中に
その身を置いておきたいからだ。
自分の手の届く範囲のエネミーは全て自分で駆逐する。
それだけだ」
男は満足げに言った。
「…なるほど、あなたにはあなたの強い信念があるようですね。
それが直接、シンボルの力へも影響している」
男はくるりと後ろを向く。
「ただ、本当に全てを聞かせてもらえなかったのは、少し残念ですが」
「どこへ行く?」
俺は両手に水を溜めて追撃の構えをとる。
「今日は色々と得るものがあり、自分としても満足できたので
帰宅するだけですよ」
男はそう言ってフッと屋上から飛び降りる。
「待て!」
俺はそう叫んで水を打ち出そうとする。
すると不意に化け物の生き残りが目の前に飛び出す。
「…毎回邪魔なタイミングで出てくるな」
俺は化け物を再生不可能なほど粉みじんに切り裂く。
不快な男は、もうどこにもいなかった。
最終更新:2006年09月02日 23:41