学校に大量のエネミーが襲撃してきた翌日は
流石に休校だった。
俺はその日、ケーキ屋に立ち寄って
マンゴーケーキやレアチーズケーキなどを買って
愛海の家へ向かった。
尤も、愛海の家は隣にあるから
かなりの遠回りをしてきたわけだが。
「あら、博くん。今日は
愛海のお見舞いかしら?」
「ええ、学校も休みですし、流石に容態が気になっちゃって…」
「本当にいつもありがとう。
あの子ったら『入院するほどじゃない。
家で休んでればそれでいい』って言って聞かないものだから…」
「仕方ないですよ。愛海は昔からそうじゃないですか」
「そうなんだけど…ホント、誰に似たんだか…」
愛海とは家族ぐるみの付き合いをしているから
愛海の両親についても俺はよくしっている。
物腰の柔らかい、おっとりした人たち。
猪突猛進型で思ったことはズバッと言う愛海とは
対照的である。
コンコンとノックする。
「俺だけど、入っていいか?」
「どうぞ~」
何となく気の抜けた愛海の返事が聞こえた。
ドアを開けて中へ入ると、パジャマのまま
漫画を読んでいる愛海の姿があった。
「お見舞いの品は何?」
「最初に言うことがそれか」
俺は箱に入ったケーキを愛海に渡した。
「取り敢えずストロベリータルト食べようかな。
あ、博はこれね」
そう言ってチョコショートを出す。
「…俺が買ってきたのになんか俺が奢られてるみたいだな…」
「どうでもいいからフォーク取ってきてよね」
「なんつーかさ、普通逆だよな。
幼馴染の女の方が男の方に
お見舞いに来るのがセオリーじゃないか?」
愛海は既に2つ目のケーキに取り掛かっている。
ケーキの名前は忘れた。
「そんなこと言っても、博はビビって危険な中に
飛び込むなんてことしないじゃん。
まずそこで怪我する要素がないわけでしょ」
正論だ。言い返せない。
「それにしたってさ、男が見舞いにくるんだから
少しは羞恥心が働いてパジャマから
私服に着替えたりとか…」
「何でそんなメンドイことしなくちゃいけないの?」
駄目だ。何を言っても駄目だ。
「で、怪我の具合はどうなのさ?」
「怪我って言っても、ちょっとした打撲と擦り傷だよ?
ぶっちゃけ今から外出しても全然問題ないんだけどねー」
「じゃぁなんで自宅療養してんの?」
「そんなの決まってるじゃない。
お父さんとお母さんが心配性で、どーしてもって言うからよ。
あの時は気絶こそしたけど、一撃が入ったのと
地面に叩きつけられたのはリボルブしてた時だから
モーマンタイなんだよ。
あ、残りのケーキ片付けておいて」
「…あいよ」
「そーいやさ、気絶してる私を助けたのって博らしいね」
「え、何で知ってんの?」
少し驚いた。
何となく気恥ずかしいから、愛海には隠しておいたのだが。
「気が付いた後、由里ちゃんに教えてもらったの」
「あぁ、それで…」
別に口止めしておくほどのことじゃないけど
やっぱり何となく気恥ずかしさがある。
「偶には役に立つじゃん。
まぁそーでなきゃ実際イイトコ0だもんねー」
グサリと愛海の言葉が刺さる。
「…十分元気なことは分かったから
そろそろ帰るわ。
じゃーな」
「あ、博…」
愛海が不意に呼び止める。
「何?」
「これ」
愛海がポンとCDケースを投げる。
「お見舞いにきてくれたお礼」
「…愛海」
「あ、遠慮なんかしなくていいよ?」
愛海が笑顔で手を振る。
「これはお前が半年前に俺の部屋から
勝手に持ち出したやつだ」
「あれ?そーだっけ?忘れちゃった~」
「………」
もう何も言う気がおきない…。
「あら、博くんもう帰っちゃうの?」
「はい、一応元気だってことは確認できましたから」
「そう。愛海もとっても喜んでたでしょうね」
「いえ、それほどでも…」
「そう?でも愛海ったら、家ではいつも博君の話ばかりするのよ?」
「え…?」
少しドキっとした。
「今日も組み手で派手に負けただの、
滝に打たれてる最中に運ばれただのって…」
「………そう、ですか………」
他にもっと話すことがあるだろーが。
愛海も、両親も!
「じゃ、俺はこれで」
「あ、またいつでも来てね~。
といってもお隣だし、愛海の方から
勝手に行っちゃうでしょうけど」
そして勝手に俺のものを持ち出すわけだ。
「それじゃ、今日は本当にありがとう~」
手を振る愛海の母親に向かって
俺は軽く会釈してから愛海の家を出た。
よく分からないが、どっと疲れた気がする。
それから、愛海から返してもらったCDには
大きな傷がついていた。
チクショウ…。
最終更新:2006年09月03日 00:30