今日はとあるコントローラーの専門育成校と
我々
オフィシャルとの交流会だ。
一応学校側としてはサプライズイベントとして
秘密裏に話を進めて、当日にその詳細を発表するという
無駄に手の込んだ計画ではあるが、
正直言ってそこまで喜びを顕にする生徒も極少数だろう。
警察や自衛隊が急に学校へ来るのと同じだ。
それの一体どこが面白いのだろうか。
まぁ、少なくとも俺は1人だけ、狂喜乱舞しかねない
生徒を知っているのだが。
「え、自分がまず行くのですか?」
指揮官が資料をパサリと俺の目の前に置いて言った。
「先遣隊として真っ先に突っ込んでいくのがお前だろう?」
指揮官がニヤリとする。
「しかしそれとこれとは…」
「まぁまぁ、お前ほどしっかりした人間だからこその命令だ。
それに、後で他のメンバーもちゃんと行くからな」
「ですが…」
「オフィシャルメンバーがつべこべ言うな。
これはあくまで『命令』だ」
「…承知しました」
承知するしかないだろう。
実戦とも訓練とも違うこんなイベントであろうと
命令ならば仕方ない。
「…それで、まずは組み手の授業にて
生徒と模擬戦闘をしてもらおうかと…
よろしいでしょうか?」
「構いません」
大勢の前で講演してくれと言われるよりは
よっぽどマシな話である。
「それで、自分はどの生徒と戦えばよろしいのでしょうか?」
道場らしき場所に入って教師に尋ねる。
中では、数名の生徒がリボルブして戦っている。
見学らしき生徒もちらほら。
この前学校が襲撃され、その時に俺と話していた生徒は
真っ先に俺の存在に気付き、ニッコリして手を振っている。
俺は軽く会釈した。
他に数名の生徒は見知らぬ男がいるなという風にチラチラ視線を向けてくる。
「えーっとですね、まず組み手を希望している生徒がこれだけいて…
その中でも戦闘に関する成績が上位の者がこれだけで…」
生徒の名前が書かれた名簿を見ていて、俺はあることに気付いた。
「…この西田という生徒、ズバ抜けて成績がいいのに
成績上位者の中では唯一希望していないのですね」
教師は少し顔を曇らせた。
「はぁ…おそらく今日のことを忘れているか、あるいは興味がないのでしょう。
それに、その子は模擬戦闘で何人も病院送りにしているほどの
問題児でして…」
「なるほど」
俺は少し考える。
「それで、実際に水上さんと組み手をするのは…」
「西田という生徒でお願いします」
「………は?」
教師は何を言っているのか理解できないといった
表情をしている。
「まずこの西田という子と戦ってみたいんです」
「しかし…」
「模擬戦闘とはいえ、何人も病院送りにしているような生徒なんでしょう?
それぐらいでなければ張り合いがありませんよ」
「ですが…」
「いいから、お願いします」
本当の理由は他にあった。
しかし俺は尤もらしいことを言って教師を説き伏せた。
教師が西田という子を呼び出す。
見学席の中から1人、女子生徒が出てきた。
おそらく、危険だからという理由で
組み手の授業を休まされているのだろう。
生徒の中には、以前の怪我をまだ引きずっている子も
いるようだから仕方ないと言えば仕方ない。
「西田 薫子です。よろしくお願いします」
女子生徒はていねいに挨拶をした。
おっとりとした、礼儀正しい子だ。
本当にこの子が幾人もの生徒を病院送りにした
ツワモノなのかと疑ってしまうほどだ。
「それでは、私はセッティングを…」
そう言って教師は他の生徒の組み手をやめさせて
周りに座らせた。
その間に俺は西田という女子生徒と少し話をする。
「西田さんだっけ、今まで幾人も病院送りにしてるとか」
女子生徒は少し顔を曇らせる。
「…確かにそうです」
「力のセーブが出来ないのかい?」
「というか、つい夢中になって我を忘れちゃう感じなんです。
気が付けばいつも、って感じで…」
「なるほど」
この子は典型的な戦うこと自体に生き甲斐を感じるタイプだと
直感した。
元々それが好きなのか、あるいは日頃の鬱憤を
すべてそこにぶつけているのかは分からないが
兎も角今のうちに力をセーブすることなども
しっかり身につけさせないといけないだろう。
…しかし、周りにはその域に引き込めるほどの
力ある生徒がいないとみえる。
となれば、全力でぶつかっても倒せない相手と
一度交えることが彼女には重要だろう。
こんな特別授業をするのもオフィシャルとして役目だろうか。
道場の真ん中で西田さんと対面する。
「そういえば、水上さんのシンボルはどこですか?」
「今朝からリボルブしている」
「…疲れないんですか?」
「どうして?」
「…いや、いいです…」
「それでは水上 正悟さん対西田 薫子!
…始めィッ!」
西田さんがリボルブすると
その手には氷でできた剣が握られていた。
「水上さんのシンボルの力はどんなのですか?」
そう言われて俺は2Lのペットボトルを開けて
ドボドボと床に水を落とす。
「空気中から集めてばかりじゃ周りの生徒に迷惑だからね」
「…水上さん、失礼ですが私と凄く相性悪いですよ?」
「それぐらいじゃないと張り合いがない」
俺はすぐさま両手に水を集め、すかさず打ち出す。
西田さんはそれを剣で受け止める。
すると水は一瞬にして氷となって床に落ちる。
「これじゃ、すぐ弾切れになっちゃいますよ?」
「構わない構わない」
瞬間、西田さんが間合いを一気に詰めて切りつける。
…なんていい動きをするんだろうか。
西田さんの攻撃はそこで終わらない。
相手に反撃の隙を与えないほどリズミカル且つ的確に
剣を振り回す。
先程のおっとり感が嘘のような攻撃的姿勢。
殺気すら漂っている。
西田さんはまるで滑り込むかのように
俺の足元へ切りつける。
バックステップでそれを交わすと一回転して
今度は胴体部へ切りつける。
誰の目から見ても確実に決まったと思える一撃。
しかし西田さんはそのままもう一回転した後
バックステップで後ろへ下がった。
西田さんの剣の先が半分以上無くなっている。
その無くなった刃は俺の手の中で
水となって渦巻いていた。
西田さんが、少しばかり目を丸くする。
「…こんなことは初めてかい?」
「…ハイ」
西田さんは、そこで光悦の表情をしてみせた。
氷の剣を元に戻し、西田さんは再び切りつけてきた。
西田さんの動きはますますよくなってきている。
多少鍛えられた人物でも目で追うことが
不可能なほどだ。
俺の方はというと、両手の水を断続的に打ち続けている。
互いが互いのリズムを把握するように、
手を取り合って踊るように戦う。
いつか誰かが「本当に強い者同士が戦う様は
ダンスのように華麗だ」と言っていたが
俺もその域に入ることが出来たのだろうか。
「でも残念だけど、そろそろ終わらせないとな。
後の生徒たちと戦う時間が無くなる」
俺はそう言って西田さんの剣を受け止める。
瞬間、剣は水に変わった。
西田さんがいくら剣に戻そうとしても駄目だった。
俺は集めた水を怪我しない程度にセーブして
一気に放出する。
西田さんは、水浸しになって壁に叩きつけられた。
道場が大きく揺れて軋む音がした。
「そこまで!勝負やめい!」
その合図とともに俺は西田さんの傍へ行って水浸しのジャージから
水分を抜き取る。
「どうだった?君が全力を出しても遠く及ばない相手との戦いは?」
西田さんは笑顔で答える。
「なんていうか、凄く気持ちよかったです。
こんなに思いっきり戦えたのは初めてです」
俺は西田さんの手をとって体を起こす。
西田さんは丁寧にお辞儀をしてもとの場所へ
帰っていった。
最終更新:2006年09月03日 22:40