重い鋼鉄製の扉が開いて一人の死刑囚が部屋に入ってくる。
拘束服を着、顔にはヘルメットのようなものを被せられた
その死刑囚は、4人もの大男に囲まれている。
「やぁようこそ。死刑囚番号25S1131番君」
眼鏡をかけた白衣の男が静かに語りかける。
「なかなか大人しいね。
ところで君、死刑を免れたくはないかい?」
死刑囚は何も言わない。
「私の実験に協力してくれたら、
君は自由の身になれるんだよ。
どうだい?」
死刑囚は相変わらず唇をピクリとも
動かさない。
「…ま、返事がなくともNOであっても
強制的にすすめちゃうんだけどね」
死刑囚のシンボルであろうか、がっちりと鎖で
全体を固定されたまま死刑囚と同じ部屋に入ってくる。
それでも死刑囚は身じろぎ一つしない。
「これから行う実験というのはね、
君のシンボルにダメージを与えて
強制回帰させ、それを観察するというものなんだ。
これに成功すれば君は晴れて自由の身だ。
…もっとも、今まで全員が精神崩壊しちゃってるんだけどね。
それじゃ、始めようか」
白衣の男は防弾ガラスで区切られた隣の部屋へ移る。
男と同じ白衣を着た人物が話しかける。
「岡崎…本当に大丈夫なのか。
アイツはただの死刑囚じゃない。
精神に異常が見つかったにも関わらず
死刑執行が決まったような男だ。
今回は流石に…」
岡崎と呼ばれた男はそれを遮って話す。
「九後…確かに奴には不確定要素による危険が伴うだろう。
だが、こんな貴重な素材、滅多に手に入るものじゃない。
折角の機会を逃す研究者などただのハリボテだよ」
岡崎はスピーカーを通して話かける。
「それじゃ、始めるよ」
すると、今まで一言も話さなかったその死刑囚が
初めて口を開いた。
「ねぇ~ねぇ~、ウソは言っちゃダメだよ~?
ウソ言っちゃうとママにお尻ペンペンされちゃうよ~?」
死刑囚はクスクスと笑う。
「嘘?何のことだい?」
岡崎は尋ねる。
「実験に成功しても自由はあげないんでしょ~?
分かるよ~、僕には。
そりゃそうだよね、今まで誰も耐えられなかった実験に
もしも耐えられたとしたら、そんな『オイシイモノ』を
手放したくはないもんねぇ~」
岡崎はフッと笑って答える。
「ご明察。確かにそんな貴重な素材を手放すつもりは
毛頭ありはしない。
私の実験に必要なものは、全て私の手元に
無くてはいけないからだ」
死刑囚はクスクスと笑って言う。
「いいよ~、それならさぁ~、とびっきりの
喜びと悔しさをプレゼントしてあげる~。
僕はね、クリスマスにはいっつもサンタさんから
プレゼントもらってるけど、今は僕が
サンタさんいなるんだ~」
大人と子どもが共存しているかのようなこの死刑囚。
決して多重人格などではない。
だからこそ岡崎はこの死刑囚に強い興味を持った。
「なら、そのプレゼントを受け取ろうかね」
岡崎は九後に合図をする。
そして、その合図とともに死刑囚のシンボルへ
凄まじい拷問的行為が行われる。
「さぁ、いつ強制回帰してくれるかな?」
岡崎は待ちきれないといった表情をしている。
そしてしばらく時間が経ち、不意にそれは起こった。
先程まで拷問を受けていたシンボルが突如として
消え去り、死刑囚はビクンと大きく体をのけぞらせた。
「どうだ?結果は」
岡崎の問いに九後は身震いして答える。
「やった…やったぞ岡崎!
ハハハ、見ろ!
この明確にして詳細なデータを!」
「フフ、そうか」
2人は満面の笑みで今手に入ったばかりのデータを眺める。
「さて、精神の方はどうなっているだろうか?
理論上、恐らく精神崩壊こそしてないだろうが
精神的に相当ダメージを受けているだろう」
岡崎は部下に合図をして
もう既に廃人寸前となっているであろう死刑囚を
運び出すよう指示する。
しかし、その時異変は起こった。
「あ゛っ…」
一瞬声を上げて、部下達が次々と倒れていく。
そして、床に転がるのは…未だ脈打つ心臓。
「な…何が起こった!?」
2人の研究者もこの事態には流石に慌てた。
拘束服とヘルメットを着せられていた死刑囚は、
その縛りを脱ぎ去った状態で立ち上がった。
「言ったでしょ~?
とびっきりの喜びと悔しさをプレゼントしてあげるって~。
サンタさんはウソつかないの~」
死刑囚はフラリと防弾ガラスに近づいていく。
そしてすっすっと、まるで空を切るように
防弾ガラスを切り取っていく。
「くっ、九後、回帰するんだ!」
「あ、ああ」
2人は瞬時にリボルブする。
死刑囚は微笑んで言う。
「安心して~。
僕はあなたたちを殺したりしないよ~。
だって…」
死刑囚はすっと手を動かして今取れたばかりのデータが入った
機械から中の基盤や記憶媒体だけを抜き出した。
機械自体は一切傷ついていない。
「殺しちゃったら、あなたたちの悔しそうな顔が見れないもん♪」
死刑囚は基盤と記憶媒体を地面へ投げつけて破壊した。
死刑囚は、折角取れたばかりの貴重なデータを
目の前で失った2人の研究者の顔を見て
けらけらを笑う。
「それじゃ、ばいばーい」
死刑囚は手を振って扉のほうへ歩き出す。
「ま、待て!」
2人は追いかけようとするが、死刑囚の姿は
扉に吸い込まれるように消えた。
この扉は異常に分厚いうえに外側からしか開けられない。
2人は別の生き残った部下に指示して
扉を開けさせた。
しかし、そこには誰もいはしなかった。
最終更新:2006年09月10日 15:21