2話：時は流れ、人は育つ - vipac @Wiki

「連戦連勝、アルティまたもや記録更新！帝王の独裁はまだまだ続く！」（ACタイムズ）
「ネオニアまさかの敗北、アルティ余裕の完勝」（FF世代）
「無敗記録を更新する帝王、Rリーグに戦線布告！？」（FBC）
「アルティ記録更新、ネオニアの敗因を検証する」（バトルエイジ）
「Rリーグ人気アーキテクト内藤ホライゾン、同棲中の愛人とVIPルームで試合観戦？」（フライデイ）

「…ほぼ一誌を除いて殆どの雑誌・専門誌がアルティ特集か…他のアーキテクトには目もくれずと、嫌な世の中になったもんだ」
ジールエリアのオフィス街にある高層ビル、その一階裏手の格納庫兼オフィスに雑誌を読み比べている男が居た。
「エンフィールド、閃鷹のセッティング完了したわよ」
「ありがとーございます。じゃあ調整を始めましょうか」
あの事件から十八年、少年は成長し一人前の社会人となっていた。
彼の名はエンフィールド＝フォーカス、今やBリーグを最短で突破した新進気鋭の若手アーキテクトである。
「なんかカラサワの照準がズレてたんですよね、何とか勝ちましたけど」
「Hi－LRには何の異常も無かったわよ？」
「そーなんですよね、つまりFCSの一部が衝撃で逝かれた可能性が大いに高いと」
彼の操るu-AC―無人駆動型AC―は中量級パーツで纏まった2脚に右カラサワ、左シールド、
格納庫にダガーを装備した十六年前のあのACと良く似た機体である。
「何時もの仕事みたいに手動で調整出来るならいいんですけど、FFの公式戦となりますと」
仕事、彼にとってそれはアーキテクトでは無く、レイヴンとしての仕事を指し示す。
「FCSを取り出してみましょう」
ミッションを幾度と無くこなして来たレイヴンなら分かると思うが、
FCSが故障しても手動で調整すれば何とかなる。
しかしFFではそうも行かない、
公式戦において無人機となるACは照準の全てをFCSに頼る事になる。
FCSが全損すれば機体はロックオンが出来ずに攻撃手段を失い、袋叩きにされるのだ。
「基盤の一部が焼け死んでるわね…」
「メーカー修理ですね…予備の同型を持って来て下さい」
後日、ACの修理は完了した。
そして公式戦の予定もまだ無いのでさらに数日。
「仕事よ」
「やっとですか」
「この前新興テロリストにクレストが６機の重量級MTをまんまと盗まれたって事件があったでしょ」
「あー、あれですか」
二週間ほど前にクレストの工場から出荷されたばかりのMTを積んだトラックが新興テロリスト集団に奪われるという事件が発生した
警察の追跡も空しく全四両の輸送トラックの内一両しか拿捕出来なかった。
「そのテロ屋共がミラージュの工場を襲って占領しちゃったのよ。で、今回のミッションは
その工場の周りを警備してる粗大ゴミの掃除らしいわよ」
「敵にACは？」
「評議会の決定でレイヴン組合はテロリストには手を貸さない事が義務付けられてるけど、
個人的に請け負ってる野良犬が居るかもしれないから気を付けてね」
「報酬は？」
「この前の公式戦の1.5倍よ」
「そーじゃなくてですねぇ…」
「何よ？」
「エマさんは鈍いなぁ…まぁいいや、行って来ますよ」
少年は愛機に乗り込むとブースターを噴かし、作戦遂行ポイントへと向かった。