アナトリアの傭兵 - (2007/05/20 (日) 04:59:55) の1つ前との変更点
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わたしは戦場にいた。
戦場。生死を掛けるところ。
わたしはその中にいた。いつも。
額から流れる血液が目に染みる。酷く咽喉が渇く。死ぬ。死ぬ?
わたしの番が来ただけ。次はわたしの。あいつらの様に。わたしが殺した。
目の前のモニタに映る光景がやけに綺麗。これが戦場?……悪くない。
ただいえる事は、
……ありがとう。
その一言だけ。
その言葉を聞いた相手は少しわたしを打ち抜くのを躊躇ったがすぐ殺した。
わたしは……死んでしまった。
物語の歯車は此処で一旦、停止した。
・・・
カツリ、カツリと靴底が硬い廊下の床を叩く。
それは二人の人間が鳴らす音。
当人は、背の高い男と瘠せ型の女。
「はい。彼女は目覚めました……がしかし!」
男に反論する女。彼女の名はフィオナ。
話しかけるはエミール=グスタフ。コロニーアナトリアの最高権力者。
「いや、やすやすとアレを返すわけにはいかない。アレは私の物だ」
彼は笑っている。眼を輝かせている。壊され未来。それは修復されるのだ。彼女を……レイヴンを使って。
「しかし……彼女は意識が在りません。それでは人形、傀儡です!!」
拾われたレイヴンは死にそうだった。いや死んだ。
意識だけ。体は生きている。
これが生きているのか?……解らない。
「AMS適正はあったのだろう?……それに彼女はレイヴンだ。そうだ、きっと……」
「……依頼、するのです……か?」
「ああ。私の為……このコロニーアナトリアの未来の為。彼女には 協 力 してもらう」
「卑劣な!!」
「これでアナトリアは、……世界は私の物だ。あっはっはっはっははははははは!!!」
そして物語の歯車は動き出す。ぎりぎりと音を高鳴らせ、操る者をひき潰しながらぐるぐると。
全てを愚図愚図にスルまで。其れは止まらない。
・・・
―――死ぬのは怖い。それが恐怖だからこそ、人は生きていける。
・・・
コンコン……柔らかなこぶしは硬い扉を叩く。
「入るわね?」
返事は聞こえない。フィオナは躊躇いがちに、閉ざされた扉を開ける。
鉄の音と吐息だけがそこを支配していた。
レイヴンはベッド仰向けに寝かされていた。医療器具は粗方取り外されていた。
反射なのだろうが、レイヴンは此方に首をぐるりと、捻った。開いた口から涎が零れる。
「ごめんなさいね……起こしちゃった?」
目は開けている。だが何も見てはいないだろう。
意識が無い、それが理由。
「テレビ、点ける?……それとも……」
彼女の目尻から、涙が流れる。何故何故何故故に。
「ごめんね。……ごめんね!!」
全ては……時の所為。 生まれた時代が悪かった。
意識の無いレイヴンにフィオナから依頼が伝えられる。
その始終、レイヴンの顔は微しも動かなかった。だが……
「……ということなの」
レイヴンは彼女の説明を聞いていたのかは分からないが急に立ち上がった。首は相変わらず捻れていた。
「……ぁ……。」
レイヴンの口は何か、言葉を紡ぎ出そうとしていた。言葉に成らず、空気が吐き出されるだけで終わった。
しかし、彼女の右手がフィオナの前に差し出された。それはパーからグーへ。グーから……
「……б。」
―――それが依頼承諾の合図だった。
・・・
音が鳴る。喧騒。それとは違う音。何か、機械が蠢く音。高い音。低い音。響く音。鈍い音。音音、・・…音!!
その全てがわたしに圧し掛かり、締め付け、わたしを・。・。、。」。::。、・
レイヴンの頭にノイズが走った。だがそれはすぐ消えた。それは生前の記憶の痕。だがレイヴンにはそれを感じ取れない。
ただ頭に”ワカラナイ”と文字が出るだけ。その文字の意味も分からずに消えていったが……。
だが唯一、彼女の頭にこびりついて離れないものが在った。それは意思ではなく、意地。
レイヴンであった彼女の根本の根本。
『 依頼・・・・ ヲ、、 完璧・・…に・・・スイコウ…・・・ス、スルッ!! 』
これだけは譲れない。消えない。消されない。唯一つ残された信念。
だからこそ、彼女は今日も空を駆けるのだ。
レイヴン
―――アナトリアの……傭兵として。――
【AC4に続く】
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