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MISSION:3 - (2011/03/06 (日) 18:53:11) の1つ前との変更点
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MISSION:3
ある男の話をしましょう。純粋で実直な男の話です。
男は幼い頃にアーマード・コアの姿を見て衝撃を受けました。
ああ、なんてかっこいいんだろう。
彼はアーマード・コアに憧れました。焦がれました。
ACに乗って颯爽と戦場を駆け抜ける自分の姿を夢見ました。
多くの少年が胸に抱き、成長と共にやがて忘れてしまう夢想。
男の子なら誰でも一度は同じ様な経験があるのではないでしょうか?
よくあることです。何も珍しいことではありません。
しかし彼は少年から青年に成長しても尚、ACへの憧れを忘れませんでした。
それどころかACとその操縦者であるレイヴンへの思いは募るばかり。
-レイヴン-
最強の人型兵器“アーマード・コア”を繰り
多額の報酬と引き換えに依頼を遂行する傭兵。
支配という名の権力が横行する世界において
何にも与することのない例外的な存在である。
この有名な一節は男の心を捉えて離しませんでした。
魅入られてしまったのです。
レイヴン――漆黒の翼で戦場を自由に飛び回るワタリガラス。
レイヴン――獲物を狩る孤高のハンター。
レイヴン――災厄を運ぶ凶兆のシンボル。
レイヴン。
その言葉を口にするだけで彼の胸は高鳴りました。
レイヴン。ああ、なんという甘美な響きなんだろう。
もう誰も男を止めることなど出来はしませんでした。
彼は周囲の反対を押し切って、当時レイヴンの派遣を一手に引き受けていた
グローバル・コーテックスの門を叩いたのです。
幾多の障害を乗り越え、最終試験という名の実戦を生き抜いて
男は無事レイヴンとなりました。
当初はレイヴンとしての資質を危ぶまれていましたが
実力をつけ、サポート役として傭兵仲間の間で信頼される存在にまでなりました。
大願成就。彼が幼い頃に思い描いた夢は叶った!
でも、そう思ったのは本人以外の人たちだけでした。
彼は満足していなかったのです。夢を叶えたとも思っていませんでした。
決して表には出しませんでしたが、理想と現実のギャップに苦しんでいたのです。
企業の駒でしかないレイヴン。
もっと自由な存在じゃなかったのか?
いつも主役にはなれない自分。
こんな脇役になりたかったんじゃない!
彼がこんな感情を持ってしまうのは仕方のないことなのです。
だって知っているのだから。
企業と真正面から戦える力を持ったレイヴンを。
常に事件の中心にいて主役であり続けるレイヴンを。
そんな眩し過ぎる存在を知っているのだから。
レイヴンとしての出発点は同じだった。
同じ輸送機に乗っていた。
一緒に投下された筈なのに……。
イレギュラーとの出会いが男にとって幸運だったのか
不幸だったのかは分かりません。
しかし、彼の人生を変える出会いだった事だけは間違いないでしょう。
彼は管理者崩壊の混乱に乗じて姿を消しました。
◇某山間部 偽装ガレージ 事務室
「またか……」
テーブルの上にずらりと並べられたインスタント麺の1つを手に取って
玲司は不満の声を漏らした。
「またカップラーメンかよ」
不満だらだら。目を細めて心底うんざりした顔を作っている。
「ラーメンが嫌なら他にも色々あるわよ。うどん、そば、パスタ。
え~っと、うまうま塩焼きそばなんていうのもあるけど、どれにする?」
クレアはダンボール箱から色々な種類のインスタント麺を次々取り出して
テーブルの上に並べていった。玲司が不満顔をしているのは完璧に無視して。
「そーじゃなくてさ、なにも晩飯までカップ麺にすることはないんじゃないか?
こうインスタントばっかりだと体にも良くないだろ」
クレアの手がぴたりと止まった。
「誰のせいでこうなったと思ってるわけ?」
「そりゃまあ……。ひょっとしたら俺かもしれない……」
「ひょっとしたら!? かも!? あたしの聞き間違いかしら?」
「すみませんでした……。俺のせいです……」
フリーランスと言うと聞こえはいいが現実は非情だった。
特定の企業や団体、組織に縛られない自由の代償はあまりにも大きい。
簡単に言うと暇。依頼が無い時は全く無いのである。
運よく舞い込んだ依頼の報酬を変てこなパーツに変えてしまう男が事業主である場合
生活に困らない方がおかしい。これは当然の帰結と言えるだろう。
非常用に買い溜めておいたインスタント麺が出てきたのは、むしろ幸運であった。
「食べないなら格納庫に転がってるパーツを売ってもいいのよ?
鉄クズ同然の値段でも、あれだけ沢山あればそこそこのお金になるんだから。
そのお金で豪勢な夕食に変更しましょうか?」
「そ、それだけはご容赦を……」
「食べられるだけありがたいと思いなさい」
「はい、ありがたいです……」
結局、玲司は土下座までしてインスタント麺に湯を注ぐ破目になってしまった。
(とほほ……)
わびしい夕食を黙って口に運びながら彼は自分の軽率な発言を反省したことだろう。
報酬を変てこなパーツに変えたことは多分これっぽっちも反省していない。
懲りない男なのである。
『プルルルル、プルルルル……』
不意に端末の呼び出し音が鳴った。
「あの、クレアさん? 鳴ってますけど……」
「…………出れば」
事務室に2人いる時はいつもクレアがさっと出てくれるのだが
只今はご機嫌斜めの真っ最中。仕方が無いので玲司は自分で動いた。
「はい、阿部です」
『クサナギだ。相変わらず景気の悪そうな声をしているな、玲司』
「なんだ、警備主任のおっさんか。実際に不景気なんだよ」
『おっさんは余計だぞ。それにしてもお前が応対に出るのは珍しいな。
嬢ちゃんはどうした? ついに愛想を尽かされたか?』
「今のところは何とか見捨てられずに済んでるよ」
『それはよかった。お前に仕事を頼みたい』
玲司はボディランゲージで「クサナギ、依頼キタ、機嫌ナオセ」と表現してから
通信を一緒に聞けるように予備のインターコムをクレアに投げてよこした。
『中央支社の襲撃が計画されているという情報が入ってな。
うちの警備部隊と共同で支社の防衛に当たってもらい』
「中小企業も大変だねぇ。敵さんの規模は?」
『一切不明だ。実は未確定情報でな』
「ふ~~ん」
今回と似たような依頼を玲司は過去に2度受けたことがあったが
1度目はクサナギの誇る高級MT<アマノ>で編成された警備部隊の活躍により
出番なし。2度目は襲撃自体が無いまま終わり、出動手当を貰って帰った。
労せずして報酬が手に入る――オイシイ仕事の臭いを嗅ぎ取って玲司はにやけた。
『情報の出所も胡散臭い。俺はデマなんじゃないかと思ってるんだが』
「念の為ってやつね」
『そういうことだ。襲撃がなかった場合も相応の報酬は支払わせてもらう。
そろそろ今期の予算を使い切らなきゃならんからな』
「おっさん、部外者にそんなこと言っちまっていいのか?」
『口が滑った。今のは忘れてくれ』
「しっかりしろよ」
『まあなんだ、お前を推してくれたトラブルダさんに感謝するんだな』
「ああ、あの人か」
ジョン・トラブルダ。クサナギ中央支社の社員。
彼は窮地を救ってくれた玲司に恩義を感じているらしく
根回しをしてオイシイ仕事を振ってくれたりする。
MTトライアル成功の功績で大きく出世したらしい。
暇を持て余している玲司たちにとって非常に有り難い存在となっていた。
「やっぱ、権力持ってる人に気に入られると得だよな~」
『フリーのレイヴンがサラリーマンみたいなこと言いやがって』
「売れてないフリーは大変なんだよ」
『相変わらず暇みたいでよかった。情報によると襲撃は明日らしい。
日付が変わる前にこっちに来て待機しておいてほしいんだが、いけそうか?』
「ちょっと待ってくれ」
玲司はインターコムを一旦保留にしてクレアの方に向き直った。
「これでやっとカップ麺生活からおさらばできる。受けよう」
「でも情報が全く無いのは怖くない?」
「そうか?」
「何もない可能性もあるけど、とんでもない相手が出てくる可能性だってあるのよ」
気が強い割に心配性なパートナーの性格を熟知している玲司は更に畳み掛ける。
「クサナギには2機いればACと互角以上に渡り合えるって謳い文句の<アマノ>が
2ダース以上配備されてるから大丈夫だろ。俺たちの出番はそうそうないさ」
「だといいんだけど……」
「<アマノ>の謳い文句は伊達じゃない。装甲と機動性を両立したバランスの良さ。
それに加えて豊富な重火器。一般的なMTの水準を確実に上回ってる」
「でも……」
「乗ったことのある俺が言うんだから間違いないさ」
自分の力量ではなく、共闘するMTの有用性を力説するレイヴンの姿が
そこにはあった。
※これでも一応主人公です。
クレアは胸の前で腕を組み、ひとしきり考えてから答えを出した。
人差し指をぴっと立てながら、
「ひとつだけ約束して」
「なんなりと」
「危ない思ったら任務を放棄して一目散に逃げること、いい?」
流石の玲司も「レイヴンとしてそれはどうなんだ?」という思いが一瞬過ぎったが
それでクレアが納得してくれるならと、二つ返事で肯定した。
「絶対よ?」
「ああ、無理はしない。それに逃げ足の速さには自信がある」
MISSION:3
ある男の話をしましょう。純粋で実直な男の話です。
男は幼い頃にアーマード・コアの姿を見て衝撃を受けました。
ああ、なんてかっこいいんだろう。
彼はアーマード・コアに憧れました。焦がれました。
ACに乗って颯爽と戦場を駆け抜ける自分の姿を夢見ました。
多くの少年が胸に抱き、成長と共にやがて忘れてしまう夢想。
男の子なら誰でも一度は同じ様な経験があるのではないでしょうか?
よくあることです。何も珍しいことではありません。
しかし彼は少年から青年に成長しても尚、ACへの憧れを忘れませんでした。
それどころかACとその操縦者であるレイヴンへの思いは募るばかり。
-レイヴン-
最強の人型兵器“アーマード・コア”を繰り
多額の報酬と引き換えに依頼を遂行する傭兵。
支配という名の権力が横行する世界において
何にも与することのない例外的な存在である。
この有名な一節は男の心を捉えて離しませんでした。
魅入られてしまったのです。
レイヴン――漆黒の翼で戦場を自由に飛び回るワタリガラス。
レイヴン――獲物を狩る孤高のハンター。
レイヴン――災厄を運ぶ凶兆のシンボル。
レイヴン。
その言葉を口にするだけで彼の胸は高鳴りました。
レイヴン。ああ、なんという甘美な響きなんだろう。
もう誰も男を止めることなど出来はしませんでした。
彼は周囲の反対を押し切って、当時レイヴンの派遣を一手に引き受けていた
グローバル・コーテックスの門を叩いたのです。
幾多の障害を乗り越え、最終試験という名の実戦を生き抜いて
男は無事レイヴンとなりました。
当初はレイヴンとしての資質を危ぶまれていましたが
実力をつけ、サポート役として傭兵仲間の間で信頼される存在にまでなりました。
大願成就。彼が幼い頃に思い描いた夢は叶った!
でも、そう思ったのは本人以外の人たちだけでした。
彼は満足していなかったのです。夢を叶えたとも思っていませんでした。
決して表には出しませんでしたが、理想と現実のギャップに苦しんでいたのです。
企業の駒でしかないレイヴン。
もっと自由な存在じゃなかったのか?
いつも主役にはなれない自分。
こんな脇役になりたかったんじゃない!
彼がこんな感情を持ってしまうのは仕方のないことなのです。
だって知っているのだから。
企業と真正面から戦える力を持ったレイヴンを。
常に事件の中心にいて主役であり続けるレイヴンを。
そんな眩し過ぎる存在を知っているのだから。
レイヴンとしての出発点は同じだった。
同じ輸送機に乗っていた。
一緒に投下された筈なのに……。
イレギュラーとの出会いが男にとって幸運だったのか
不幸だったのかは分かりません。
しかし、彼の人生を変える出会いだった事だけは間違いないでしょう。
彼は管理者崩壊の混乱に乗じて姿を消しました。
◇某山間部 偽装ガレージ 事務室
「またか……」
テーブルの上にずらりと並べられたインスタント麺の1つを手に取って
玲司は不満の声を漏らした。
「またカップラーメンかよ」
不満だらだら。目を細めて心底うんざりした顔を作っている。
「ラーメンが嫌なら他にも色々あるわよ。うどん、そば、パスタ。
え~っと、うまうま塩焼きそばなんていうのもあるけど、どれにする?」
クレアはダンボール箱から色々な種類のインスタント麺を次々取り出して
テーブルの上に並べていった。玲司が不満顔をしているのは完璧に無視して。
「そーじゃなくてさ、なにも晩飯までカップ麺にすることはないんじゃないか?
こうインスタントばっかりだと体にも良くないだろ」
クレアの手がぴたりと止まった。
「誰のせいでこうなったと思ってるわけ?」
「そりゃまあ……。ひょっとしたら俺かもしれない……」
「ひょっとしたら!? かも!? あたしの聞き間違いかしら?」
「すみませんでした……。俺のせいです……」
フリーランスと言うと聞こえはいいが現実は非情だった。
特定の企業や団体、組織に縛られない自由の代償はあまりにも大きい。
簡単に言うと暇。依頼が無い時は全く無いのである。
運よく舞い込んだ依頼の報酬を変てこなパーツに変えてしまう男が事業主である場合
生活に困らない方がおかしい。これは当然の帰結と言えるだろう。
非常用に買い溜めておいたインスタント麺が出てきたのは、むしろ幸運であった。
「食べないなら格納庫に転がってるパーツを売ってもいいのよ?
鉄クズ同然の値段でも、あれだけ沢山あればそこそこのお金になるんだから。
そのお金で豪勢な夕食に変更しましょうか?」
「そ、それだけはご容赦を……」
「食べられるだけありがたいと思いなさい」
「はい、ありがたいです……」
結局、玲司は土下座までしてインスタント麺に湯を注ぐ破目になってしまった。
(とほほ……)
わびしい夕食を黙って口に運びながら彼は自分の軽率な発言を反省したことだろう。
報酬を変てこなパーツに変えたことは多分これっぽっちも反省していない。
懲りない男なのである。
『プルルルル、プルルルル……』
不意に端末の呼び出し音が鳴った。
「あの、クレアさん? 鳴ってますけど……」
「…………出れば」
事務室に2人いる時はいつもクレアがさっと出てくれるのだが
只今はご機嫌斜めの真っ最中。仕方が無いので玲司は自分で動いた。
「はい、阿部です」
『クサナギだ。相変わらず景気の悪そうな声をしているな、玲司』
「なんだ、警備主任のおっさんか。実際に不景気なんだよ」
『おっさんは余計だぞ。それにしてもお前が応対に出るのは珍しいな。
嬢ちゃんはどうした? ついに愛想を尽かされたか?』
「今のところは何とか見捨てられずに済んでるよ」
『それはよかった。お前に仕事を頼みたい』
玲司はボディランゲージで「クサナギ、依頼キタ、機嫌ナオセ」と表現してから
通信を一緒に聞けるように予備のインターコムをクレアに投げてよこした。
『中央支社の襲撃が計画されているという情報が入ってな。
うちの警備部隊と共同で支社の防衛に当たってもらい』
「中小企業も大変だねぇ。敵さんの規模は?」
『一切不明だ。実は未確定情報でな』
「ふ~~ん」
今回と似たような依頼を玲司は過去に2度受けたことがあったが
1度目はクサナギの誇る高級MT<アマノ>で編成された警備部隊の活躍により
出番なし。2度目は襲撃自体が無いまま終わり、出動手当を貰って帰った。
労せずして報酬が手に入る――オイシイ仕事の臭いを嗅ぎ取って玲司はにやけた。
『情報の出所も胡散臭い。俺はデマなんじゃないかと思ってるんだが』
「念の為ってやつね」
『そういうことだ。襲撃がなかった場合も相応の報酬は支払わせてもらう。
そろそろ今期の予算を使い切らなきゃならんからな』
「おっさん、部外者にそんなこと言っちまっていいのか?」
『口が滑った。今のは忘れてくれ』
「しっかりしろよ」
『まあなんだ、お前を推してくれたトラブルダさんに感謝するんだな』
「ああ、あの人か」
ジョン・トラブルダ。クサナギ中央支社の社員。
彼は窮地を救ってくれた玲司に恩義を感じているらしく
根回しをしてオイシイ仕事を振ってくれたりする。
MTトライアル成功の功績で大きく出世したらしい。
暇を持て余している玲司たちにとって非常に有り難い存在となっていた。
「やっぱ、権力持ってる人に気に入られると得だよな~」
『フリーのレイヴンがサラリーマンみたいなこと言いやがって』
「売れてないフリーは大変なんだよ」
『相変わらず暇みたいでよかった。情報によると襲撃は明日らしい。
日付が変わる前にこっちに来て待機しておいてほしいんだが、いけそうか?』
「ちょっと待ってくれ」
玲司はインターコムを一旦保留にしてクレアの方に向き直った。
「これでやっとカップ麺生活からおさらばできる。受けよう」
「でも情報が全く無いのは怖くない?」
「そうか?」
「何もない可能性もあるけど、とんでもない相手が出てくる可能性だってあるのよ」
気が強い割に心配性なパートナーの性格を熟知している玲司は更に畳み掛ける。
「クサナギには2機いればACと互角以上に渡り合えるって謳い文句の<アマノ>が
2ダース以上配備されてるから大丈夫だろ。俺たちの出番はそうそうないさ」
「だといいんだけど……」
「<アマノ>の謳い文句は伊達じゃない。装甲と機動性を両立したバランスの良さ。
それに加えて豊富な重火器。一般的なMTの水準を確実に上回ってる」
「でも……」
「乗ったことのある俺が言うんだから間違いないさ」
自分の力量ではなく、共闘するMTの有用性を力説するレイヴンの姿が
そこにはあった。
※これでも一応主人公です。
クレアは胸の前で腕を組み、ひとしきり考えてから答えを出した。
人差し指をぴっと立てながら、
「ひとつだけ約束して」
「なんなりと」
「危ない思ったら任務を放棄して一目散に逃げること、いい?」
流石の玲司も「レイヴンとしてそれはどうなんだ?」という思いが一瞬過ぎったが
それでクレアが納得してくれるならと、二つ返事で肯定した。
「絶対よ?」
「ああ、無理はしない。それに逃げ足の速さには自信がある」
◇クサナギ中央支社 南東四十キロメートル地点
人の手の入っていない天然の岩場に2機のACが身を潜めている。
片膝を突き、頭を垂れるACの他に人工物はない。
あたりを支配するのは月明かりと夜の静寂ばかりだ。
2機のACの足下に一組の男女がいた。
男は落ち着いた雰囲気で、壮年かそれ以上の歳を重ねているかもしれない。
女は若く、いたるところにまだあどけなさが残っている。
少女と言っても差し支えないだろう。
いずれも黒いレイヴン用のパイロットスーツに身を包んでいた。
「手筈は分かっているな?」
壮年の男が少女に確認した。
「はい、雲さま! バッチリです!」
少女は手を挙げて自信満々に答えた。
「言ってみろ」
雲と呼ばれた壮年の男は少女の瞳を真っ直ぐ見据えながら再度確認した。
「はい! アタシと雲さまの2人で乗り込んで暴れ回ります。
なんでも潰せば潰すほど報酬が増えるんですよね?」
「ああ、稼がせてもらうつもりだ」
「テッテーテキにやっちゃいましょう」
「それで次はどうする?」
「キリのいいところでアタシが目標の確保に走ります。
雲さまに背中を守ってもらいながら。
えへへ、久しぶりの共同作業ですね!」
雲は少女の照れた笑顔を気にも留めずに頷いた。
「要点は抑えているな。及第点だ」
「えぇぇ~、もっと褒めてください。エリーアは褒められると伸びる子なんです!」
「最後までミスをしなければな」
「教え子をもっと信頼してくださいよ~」
「お前の操縦技術“だけ”は信用している」
「その他はダメなんですか?」
「駄目だな」
「そんなぁ~、酷いです」
「結果を出して見せろ」
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