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MISSION:5-2 - (2011/05/30 (月) 19:49:57) のソース
◇庵野塾拠点 デルタ要塞 防壁外周 近距離型の軽量二脚、1機。 武器腕中距離型の中量二脚、1機。 砲撃支援型の重量二脚、1機。 撹乱戦術型の逆脚、1機。 高機動型のフロート脚、1機。 白一色のカラーリングで統一された5機のACは ガイルの<デスペラード>が撃破された直後に ドゥガ渓谷とは真逆の方角からデルタ要塞を強襲した。 正体不明の白い5機は信頼性の低い安価なパーツやバランスの悪そうなパーツを 随所に用いており、どのACも基本性能はさほど高くない。 5機に乗っているレイヴンたちの操縦技術も凡庸。 しかし、迎撃に出た庵野 雲とエリーア・大葉の2人は苦戦を強いられていた。 デルタ要塞の防衛機構は既に25%が無効化されており じわりじわりと防衛ラインを下げざるを得ない状況にある。 『雲さま、こいつら弱いのに強いですっ!』 エリーアの乗るAC<ソードダンサー>からの通信は 言葉足らずではあるが、的を射ていた。 白いACはいずれも単機での戦闘力は高くない。 では、エリーアは敵の何が「強い」と言っているのか? 特筆すべきは各機の連携力。部隊として総合戦闘力が高いのだ。 5機は一進一退攻防の全てを補い合いながら行っており、まるで隙が無い。 標的を絞って各個撃破を狙おうとすると、即座に残りの全機が標的のカバーに回り 逆に雲たちに高い代償を支払わせようとする。 (まるで1人のレイヴンが全てのACを操っているかのようだ) 長年、戦場で戦い抜いてきた雲でさえ、ここまで連携して 力を発揮するレイヴンたちに出会うのは初めての事であった。 そもそもACが5機同時に戦場に現れること自体が稀である。 囮となって撃破されたタンク型を合わせれば6機。 ガイルの<デスペラード>を撃破したのも別のACであるならば、計7機となる。 これは明らかに常識外れの異常事態だ。 「面白い」 雲はコックピットの中で笑っていた。 <エスポワール>を操りながら笑っていた。 脳裏に蘇った数十年前の記憶。 管理者との大規模な戦いの記憶。 実働部隊との戦いの記憶。巨大機動兵器との戦いの記憶。 「あの時とは――違う」 ◇庵野塾拠点 デルタ要塞 地下ブロック 独房 警報。 少し時間を空けた後、急に鉄格子の外が騒がしくなった。 そして地下ブロックまで断続的に伝わってくる衝撃、震動。 間違いなくデルタ要塞に何かが起こっている。 クレアは床に耳を押し当てて意識を集中し、自身をパッシブ・ソナーとした。 (…………要塞が攻撃を受けてる……相手は…… やっぱりACだ……えっ? 1機じゃない!?) こんな事はあり得ない。玲司には多額の懸賞金がかけられている筈だ。 迂闊に他のレイヴンを雇うことはできない。そもそも雇うお金がない。 加えて玲司には同業者――レイヴンの友人がいない。 一匹狼を気取っている訳ではなく、単にそういった機会に恵まれなかったのだ。 斡旋組織に所属していないので、同期と呼べるようなレイヴンはいないし 場末の独立傭兵に大規模なミッションの僚機としてお声が掛かることもなかった。 アリーナでは毎回、相手が嫌がるアンチアセンを執拗にぶつけてきたので レイヴン同士の熱い友情が芽生えるなどという事も皆無だった。 損得抜きで玲司の味方になってくれるレイヴンなど存在しない。 「まさか!?」 ある。このあり得ない状況を可能にする方法が、ひとつだけ残されている。 それを確かめようと、クレアはもう一度床に耳を押し当てた。 今度は目を閉じて更に意識を集中――地上の様子を探った。 (……………………………………間違いないわ) 要塞を攻撃しているACは全て<ホワイトリンク>だ。 機体に身を任せる玲司独特の動き、息遣い、戦闘のリズムを感じる。 地上には間違いなく“複数の玲司”が同時に存在していた。 あり得ない。こんなデタラメなことは普通では考えられない。 このデタラメさ加減はシェリー・ゴールドスミス以外にはあり得ない。 (姉さん、完全脳機能複写でレージをコピーしたな) ガレージのパーツで一体何機の<ホワイトリンク>を組むことができるだろう。 武装は変てこなのが腐るほどある。問題はフレームと内装。 6機、無理をすれば7機のACを組めるかもしれない。 寄せ集めのACでも玲司ならある程度は乗りこなせるのだから。 まさに阿部 玲司とシェリー・ゴールドスミスの2人にしかできない芸当だ。 (7機……。7機で手段を選ばなければ……) 本隊5機、別働隊2機に振り分ける。 別働隊の1機を囮として使うのが得策だろう。 単機で庵野塾レイヴンと渡り合うのは難しい。 玲司の実力だと2対1でも少し厳しいかもしれない。 だから囮機で敵を誘い出して、もう1機で遠距離からの狙撃を行う。 相手の目論見通りに単機で現れたと思わせておいて、不意をつくのだ。 これが成功すれば最低でも別働隊2機中1機は丸々無傷で残せる。 1対1で庵野塾レイヴンを倒したのと変わらない結果を得ることができる。 そして間髪入れずに本隊の5機でデルタ要塞を強襲。 可能な限り防衛施設にダメージを与えつつ 別働隊が合流したら、一気に要塞内部への侵入を図る。 (――って、おい、あたし! 何をのんびりと考察している! このままレージが助けに来てくれるをここで待つつもり?) ◇庵野塾拠点 デルタ要塞 地上ブロック 防壁内部 『さ、3番砲台大破ッ!!』 『レーダー施設損傷、索敵機能低下しています』 『対空機関砲、8から11番まで使用不能になりました』 『中央ゲートの耐久力が大幅に落ちています、注意してくださいっ!』 オペレーターから雲の元に次々と上げられてくる損害報告。 その頻度は要塞敷地内に白い5機の侵入を許してしまった事により、加速した。 戦場は要塞の防壁外周から防壁内部へと押し込まれたのである。 5機の狙いは要塞中心にある中央ゲートからの地下ブロック突入。 雲とエリーアはゲートを護りながら戦わねばならず、著しく行動を制限されていた。 阿部 玲司を単機で来ざるを得ない状況に追い込み、誘い出して、こちらの土俵で 安全に利益を得ようとしたガイルの企ては、庵野塾側に枷をはめる結果となった。 予測不能だった白いAC部隊の登場によって、土台から崩されてしまったのだ。 『2時方向より新手のACです! 発見遅れました』 雲が新手の姿を認めたのはオペレーターからの通信とほぼ同時だった。 ドゥガ渓谷の方角の空からOBを使い高速で要塞に迫る四脚AC。 またも白一色のカラーリングを施されたACであった。 「ガイルを仕留めた機体か――」 そこまで口にしところで雲は己の迂闊さに気がついた。 連携の為にエリーアと常にオンラインにしてある通信―― 『あいつがガイルにぃを殺った、あいつがァァァァッッッッ!!!!』 絶叫と同時にエリーアの<ソードダンサー>はOBを起動し 新手の四脚に向かって突進した。 卓越したACの操縦技術とは裏腹に、エリーアの精神面はあまりにも未熟。 まだ成長途中の子供である。沸き立つ衝動を抑える術を持たない。 我を忘れて持ち場を離れる前に、釘を刺しておく必要があったのだ。 (まずい……) 新手の四脚は<ソードダンサー>が突進してくるを確認すると 即座に反転して、要塞から距離を離そうとした。 他の5機は四脚のカバーに向かわない。 これは<エスポワール>と<ソードダンサー>の2機で持ち堪えていた防衛線を 突破する絶好の機会。さすがの雲も単独で5機のACを同時に止める事は難しい。 5機のACは勝負に出る―― フロートと逆脚が<エスポワール>の前に厚い弾幕を張った。 その援護を受けて、5機の中で一番速い軽二がゲート正面にたどり着く。 軽二は左腕の大型レーザーブレードでゲートの隔壁を切り裂き フルブーストの体当たりで裂けた隔壁を吹き飛ばしながら地下ブロックに突入。 続こうとする中二の背中に<エスポワール>はライフルを放つが 装甲の厚い重二が盾となってその銃弾を防いだ。 『し、しまったぁ!!』 自らの失態に気づき、悲鳴を上げたエリーア。 四脚を追いかけるのを止めて機体を反転させるが、時既に遅し。 軽二と中二、2機の地下ブロック侵入を許してしまっていた。 「エリーアッ!」 『――うわああああああああっっ、ご、ごめんなさいぃぃぃ』 「構わん、お前があの2機を追え! 残りの4機は私が引き受ける」 ◇庵野塾拠点 デルタ要塞 地下ブロック 大型通路 中央ゲート付近 『ヴァイス6よりヴァイス1、ヴァイス2へ、赤い方がお前たちを追って 中に入っちまった。すまない、抑え切れなかった。後ろに気をつけてくれ』 「ヴァイス1、了解」 『ヴァイス2、了解』 《赤ということはデュアルブレード持ちの軽量二脚<ソードダンサー>の方ですね。 レイヴンのエリーア・大葉は常勝無敗のブレード使いですよ、どうするんです?》 「…………」 シェリーからの問いかけにヴァイス1――オリジナルの玲司は すぐ答えることができなかった。 恐らくデルタ要塞に他のレイヴンはもう残されていない。 地下ブロックに侵入される前に出してこないのがその証拠。 他に大した戦力も残っていないのではないだろうか。 ここまで被害が出ているのに戦力を温存しているというのは考えにくい。 問題は追ってくる<ソードダンサー>に2機だけで 対抗できるかどうか――まず無理だ。2機では足りない。 地上で庵野 雲の<エスポワール>と交戦している4機も精一杯だろう。 これ以上こちらに戦力を割くことはできない。 更に―― (この通路幅でACが並んで戦うのは難しそうだ……) 1対1の構図にされやすい。敵の背後に回れない。数の有利を活かせない。 (どうする……?) 『俺が時間を稼ごう。その隙にクレアを見つけ出して脱出しろ』 後ろを走る中量二脚を駆る2人目の玲司――ヴァイス2が提案した。 「単機でやれるのか?」 自分の完全なコピーであるヴァイス2に対してそれは愚問でしかなかった。 彼は“阿部 玲司そのもの”なのだから。 『やってみるさ』 ヴァイス2に迷いはない。 玲司はヴァイス2の意志を汲み取り、改めて肯定した。 「頼む……」 『頼まれた。その代わりに――』 中量二脚はブーストをカット。180度旋回してその場に止まった。 『――クレアのことは任せたぞ』 「ああ、任された」 《ヴァイス2、あなたに幸運を》 バケツ頭の軽量二脚は後ろを振り返ることなく更に奥へと進んでいった。