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MISSION:5-3 - (2011/06/02 (木) 18:08:02) のソース
◇庵野塾拠点 デルタ要塞 地下ブロック 小型通路 太ももがスースーする。動きやすいようにスカートの横を裂いたからだ。 足の裏が痛い。走りやすいようにパンプスを脱ぎ捨てて、裸足たからだ。 首筋が痛い。ンジャムジ君との根競べが長引いてしまったせいだ。 (あの子、大丈夫かな……) クレアは隙を突いて手加減無しにノックアウトしまったンジャムジ少年のことが 少し気がかりではあったが、今は先を急いだ。戦闘の音がする方へと。 独房を出て5分ほど走ったところで他の通路に出れた。 ACでも通れる高さと道幅を持つ大型の通路だ。 ここには戦闘の音だけではなく、大気の揺れまで伝わってくる。 (近いわ、この先にレージたちが……) そう確信したクレアは焦る気持ちを抑えて呼吸を整えた。 先程までの全力疾走とは違い、注意深く――慎重に歩みを進める。 戦闘の気配を辿って行くとドーム状の広い空間に行き当たった。 あちこちにコンクリートで作られたビルのフェイクや障害物の類。 市街地戦を想定した屋内演習場といったところだろう。 「いたっ!」 演習場の中央にバケツ頭の白い軽量二脚――<ホワイトリンク>を発見。 小型のガードメカや歩兵集団に包囲され、一方的に攻撃されていた。 (バケツ頭は間違いなく姉さん、あの<ホワイトリンク>にはレージが乗っってる!) 胸の鼓動が高鳴った。 全身に湧き上がる不思議な力。 何でもやれる気がする。 きっと上手くいく。 スリーカウントで行こう。 「3、2、1――」 クレアはスタートを切った。 銃弾が飛び交う中心地点、<ホワイトリンク>に向かって一直線。 恐怖など微塵も感じない。 「今のあたしならやれる」という確信だけが強くあった。 その確信に従ってひたすら全力で突っ走る。 「!?」 バケツ頭と目が合った。 (いけるっ!!) <ホワイトリンク>が動きを止めた。片膝をつき、腰を落とした。 差し出される右腕。その手の平にクレアは飛び込んだ。 次の瞬間、右腕は勢いよく振り上げられ――クレアは空を舞った。 半開きのコックピットハッチが右下に見える。このままでは駄目だ。 そう直感したクレアは空中で体勢を変えて落下地点を調整。 見事、コックピットの中に滑り込んだ。 ハッチを閉鎖しながら<ホワイトリンク>は全速力で後退。 そこいらじゅうの障害物にガシガシとぶつかりながら、手近なビルの陰に隠れた。 《なんて滅茶苦茶なことをするんです! クレア、怪我は?》 そんなことはどうでもいい。それよりも―― 「姉さん、レージはどこ!?」 コックピットの中は無人だった。 《この先はACが通れないので降りてあなたを探しに》 「入れ違いってこと!? 道理でぎこちない動きだと思った」 《ひどい、これでも精一杯頑張ってるんですよ!》 「話はあと、レージに連絡して! 機体コントロールはこっちにちょうだい」 《はいはい、了解です、あなたが元気そうで何よりです》 「今は口より手を動かしてよ」 《クレア……》 「?」 《あなたが無事で本当によかった》 「あ、ありがと……」 無性にジ~ンときた。 クレアは泣いてしまいそうになるのをどうにか我慢した。 まだだ。まだ早い。まだやるべき事が残っている。 (レージと合流して脱出してからよ!) シートを調節して身体を固定。 計器類を確認。ダメージチェック。各部機能正常。 機体スペックと武装の詳細を呼び出して、ポテンシャルを把握。 ペダルの感触を確かめる。大丈夫だ。 大きく深呼吸をしてスティックを握った。 何も問題は無い筈なのに違和感。何かがおかしい。そう―― 「静か……すぎない……?」 あれだけいた歩兵やガードメカの姿が見えなくなっていた。 『クレア・ゴールドスミス! そのACから降りろぉーー!』 共通回線からの怒声。 それと同時に姿を現した赤い軽量二脚がクレアの問いに対する答えだった。 ACの相手はACがする、という事らしい。 《ひぇぇぇぇぇぇ! あの赤いのには敵いません! に、逃げましょう!》 「逃げない……」 《レージの完コピを瞬殺した相手ですよ!? 正気ですか!?》 クレアは正気だった。それどころかシェリーよりも状況を的確に捉えていた。 一目見ただけで赤いAC――<ソードダンサー>の機動性の高さを看破して 鬼ごっこではこちらの勝ち目が薄いと、冷静に判断したのだ。 この<ホワイトリンク>も同じ軽量二脚ではあるが、向こうはもっと速い。 背中を見せれば十中八九、後ろから斬り伏せられて終わるだろう。 そもそもパイロットスーツ無しでACの高速機動は負担が大きすぎるのだ。 シートにあずけた身体は完全に安定していないし、身体能力を強化されている クレアといえどもG-LOC(Gによる意識喪失)の可能性がある。 それに―― 「レージを置いてはいけない」 《レージなら自力で脱出しますよ!》 「姉さん、お願い……後悔したくないの」 《……作戦はあるんですか?》 「どっしり構えてカウンターを狙う。付け入る隙も多分あるわ」 敵はクレア・ゴールドスミスが<ホワイトリンク>に乗っている事を知っている。 そして先天性強化人間を生け捕りにしたいという欲がある。これは大きな枷だ。 《ち、ちなみにクレアちゃん、ACでの戦闘経験はどれくらいなんです?》 「そんなのあるわけないでしょ」 《え゛え゛っ!?》 「ACは人が使いやすいように出来てるわ。余計な力を抜いて、後は手を添えるだけよ」