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 生まれついて、私は常に王たらんとすることを義務付けられていた。

 何も特別な話ではない。どこにでも類似例を見出すことができるだろう、ありふれた話だ。
 人は誰しも他者と関わり、ある時は責任を担う。この世にある全ての命は、他者に影響を及ぼす力を秘めている。質量を持っている。

 ひとり、想い合った相手と伴侶と結ばれた者が、互いの生を結びつけるように。
 ひとり、子を設けた親が、一つ多くの人生を背負うように。

 しかし、この力には大小が存在する。
 親が選択を過った末に、子は容易に腐るという。
 ならば、その子を何十と抱えて道理を説く教師は?教え方を誤ってしまえば、即座に外の世界に馴染む術を失った人間が出来上がる。

 私は、数十万の命を抱える者として生を受けた。
 日本を代表するインフラに製造業を営む大企業。この社員をグループ全体で数えれば、小さな都市の人口を満たす数に届くのだ。
 利用者を含めれば、何千万とも……一国にすら比肩する。

 ならばこそ、なればこそ。
 私が選択を過つ訳にはいかない。
 影響力には大小が存在する。私の持つそれは、生まれてから大きくなるばかりだ。
 教師が道を間違えれば、数十の生徒が生き方を見失うように。大企業の長が判断を失敗を犯せば、何十万もの社員が路頭に迷う。
 ────そう教えを説いた、他ならぬ父は判断を誤った。全球凍結を見越して、責任を投げ捨ててひとり逃げた彼は、結果として日本のインフラに多大な影響を与え、数え切れない人間を殺した。

 全球凍結を経て、なんとか社が遺した財産を遣り繰りし、”株主総会”を立ち上げた。
 終末が刻一刻と迫る世界で、一人でも多くの人間を救うべく組織された集団。
 しかし総統の私が死ねば、辛うじて保護することのできた数万の民たちは死に絶え、滅びを迎えるだろう。

 『なんだお前、気色の悪い────』

 総統という立場を確立した後のこと、ある男からかけられた言葉を思い返すことが多くなった。
 開口一番、私への嫌悪感を隠さずに発せられた詰り。

 かの東京は、滅び魔境と化した。
 年々勢いを増す冬の猛威。
 勢力を拡大する数々の危険な集団。

 これらの脅威に対抗し得るために。
 東京に残った、戦う力を持たぬ多くの命を救うためには必要なのだ。

 『────それは人間の在り方じゃねえよ』

 単独にてもっとも世界に影響を与える力をもつもの。
 人を超えたもの。……あの男が言うには、超人。

 私は超人に成る。
 たとえそれが、人間としての在り方を放棄することになったとしても。



 ぱちぱち、ごうごう、めらめら。
 火柱が上がり、空気を震わせるような重低音が響き渡る。太い薪が激しく音を立てて崩れ落ちるたび、強烈な熱気と煙の匂いが焚火の辺りを包み込んだ。
 深夜の凍土で炎を囲む二人は、互いに言葉を発することなく睨み合っている。
 両者を包み込むのは張りつめた空気。毛穴一つ一つが針で突かれたような鋭い殺気を、互いに放出させている。

 たったいま自らの神禍で”火炎放射器”を生成し、白亜の大地に一基の篝火を焚いたシルヴァリオ・ロックウェルは握られた拳銃を相手へ向け、鋭い視線を向けた。
 どこか濁った印象が見られる灰色の瞳は、眼前に座る青年の胸の中央を捉えており、彼の気分一つで心臓を打ち抜くことは容易いだろう。

 シルヴァリオ・ロックウェルは、相対している小鳥遊 宗厳の命を文字通り握っていた。

「…………妙な真似をしてみろ」
「即、殺すか?心得ている。ただ……意外だな。こうも話が通じるものとは思っていなかった」
「…………先ほどの発言がなければ、既にお前は死んでいた。不確定要素は排除するに限るからな」
「エンブリオ・ギャングスタ・ゴールドスミスとの交渉……か、何事も言ってみるものだな」
「…………”国交”に纏わる話は必ず奴へ通す。……あの男との約定だ」
「貴殿がそこまで義理堅い人物には見えん。私には殺しを愉しむ畜生の目に見える」
「…………俺は役割を違えない。それだけの話だ。我欲にまみれた劣等品どもと、一緒にするな」
「貴殿がここで私を撃たなかったことは、貴殿の主人にとっても、そして我ら”株主総会”にとっても、大いなる利益をもたらす英断だったと保証しよう」
「…………御託はいい。両手を見える位置に置いたまま、質問に応えろ。俺の気が変わらないうちにな」

 燃え盛る炎が、宗厳の顔に深い影を落としては揺らめいている。
 彼は余裕を崩していない。胸元に突きつけられた銃口の存在を忘れているかのように。

「それにしても役割、か。実に機械的で潔い。ともすれば、かつて”ホワイトハウス”を制圧したのも、主人の命令に依るものか?エンブリオ・ギャングスタ・ゴールドスミスがアメリカの中枢を乗っ取ったと報道された際、市井に流れた映像には”大量の戦車”が列を成していた。少なからず……いや、あの一派の武力の大部分は貴殿の神禍にあると見える」
「………ゴールドスミスと俺の二人を除いて、神禍を含めまともな戦力を有する人材はいなかった。結果として、ホワイトハウスに陣取っていた”前大統領”の勢力を打倒する役割も、俺一人が負う羽目になったものだ」


宗厳は薄く笑い、凍てつくような夜気の中で白く濁る息を吐き出した。

 シロックウェルの低い声が、ごうごうと爆ぜる炎の音に混じって響く。
 極寒の凍土にあって、彼が生成した火炎放射器の炎だけが異常な熱量を放ち、二人の周囲の雪をドロドロに溶かして黒い土を剥き出しにしていた。

「……あの男は人を魅力することには優れているが────導くことには、向いていない。大統領という役割が向いてはいないのだ。先日も一人、凍死している。……あの男が舵取りを謝らなければ、死ぬことはなかっただろうに」
「だろうな。あれだけ無軌道な行動を行う男に”大統領”は荷が重い。そのカリスマは認めるがな」 

 宗厳はゆっくりと、ロックウェルの警告を無視しないよう極めて緩慢な動作で、分厚い外套の懐へと右手を伸ばした。
 瞬間、ロックウェルから放たれる殺気が一段と鋭く膨れ上がる。撃鉄がカチリと鳴る音が、炎の爆ぜる音を縫って宗厳の鼓膜を打った。
 ……撃鉄の冷たい音が響いた直後であっても、宗厳の表情は微塵も揺らがなかった。むしろ、その銃口の先にある己の死の可能性すらも手駒の一つであるかのように、薄く整った唇の端を吊り上げる。

「案ずるな、武器の類ではない」

 極めて緩慢な動作のまま、宗厳が分厚い外套の懐から取り出したのは、鈍く光る金属製のシガーケースだった。彼はそれをゆっくりと開き、中から一本の葉巻を指に挟み出すと、残りをケースごとロックウェルの足元へ向けて無造作に放り投げた。
 葉巻を咥えた宗厳は、ロックウェルの背後で燃え盛る火炎放射器の炎へと視線を向け、軽く肩をすくめた。

 「あのエンブリオ・ギャングスタ・ゴールドスミスを制御しようなどと、そんな傲慢な考えは持っていない。あの手のカリスマや天才という生き物は、強引に手綱を握り締めようとすればするほど反発し、その輝きごと死に絶えるか、あるいは周囲を巻き込んで自爆する。……違うか?」

 銃口を向けられたままの宗厳は、凍てつく空気を切り裂くような静かな声で言葉を紡ぐ。

 「私がやるのは、彼が存分に踊れる環境の構築だ。彼が自らの意思で歩み、時に暴走したとしても、必ず我々に利益が還流するようあらかじめ幾重にもレールを敷いておく。それが我々のやり方であり……私の指揮だ」
「…………詭弁だな。不測の事態が起きれば、そのレールごと吹き飛ぶ。あの男は、組織を治める力こそないが……お前が考えているほど愚鈍な男ではない」
「だからこそ、貴殿にとって彼は目の上の瘤なのではないか?」

 ごうっ、と。
 宗厳の言葉を肯定するかのように、篝火の炎が一際高く舞い上がった。圧倒的な熱量が二人の間を吹き抜け、ロックウェルの濁った灰色の瞳に真紅の光を反射させる。



 「そうだな……手始めに、エンブリオ・ギャングスタ・ゴールドスミスをかの十二崩壊と衝突するよう、仕向けてみようか」



 張り詰めた沈黙が下りた。数十秒にも及ぶ濃密な静寂の中、ロックウェルは眼前の男の魂の底を測るように見つめ続けていたが、やがて、静かに親指を動かした。
 カチリ、と撃鉄が元の位置に戻される。

「…………立て。……学校へ移動する。恐らく、奴はそこを”臨時大統領府”として利用する可能性が高い」

 銃口を下げたロックウェルは、感情の読めない冷徹な声で告げた。

「…………命拾いしたな。」
「重々承知しているとも。有意義な『国交』の始まりに感謝しよう」


【F-2/1日目・深夜】
【小鳥遊 宗厳】
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:支給品一式、社章(5つ)
[思考・行動]
基本:生存優先。何が何でも生き残らなければならない。
1:”大統領”の陣営に潜り込み、生存確率を上げる。”大統領”と”SP”は強大な戦力として期待。
[備考]

【シルヴァリオ・ロックウェル】
[状態]:健康、拳銃(残弾数発)
[装備]:
[道具]:支給品一式
[思考・行動]
基本:”役割”を遂行する。それとは別に武器を使いたい欲求を満たす。
1:暫くはSPの役割に準ずる。現時点で”大統領”と敵対するのは得策ではない、が……
2:小鳥遊 宗厳を”大統領”の元へ連れていく(恐らく学校にいる/向かうと推測)。この二人を接触させたらどうなるのか興味。
[備考]


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最終更新:2026年06月14日 16:23