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わたしたちは此処にいます

直樹美紀が連れてこられた、見ず知らずの町――冬木市。

彼女はそこを少しでも知り、元の世界へと戻るヒントを探そうと、探索をしていた。
しかし不幸な事に、その際少し人気のない路地に入り――まだ土地勘が無いが故に、やってしまった失敗だ――、一匹の獣に襲われたのである。
獣の目に正気の色はない。
おそらく、何処ぞのキャスターが放った使い魔の一匹なのであろう。

丸腰の少女と、獰猛な獣。
どちらが強いかは、言うまでもあるまい。
人どころか生物の限界を超えたスピードとパワーを持っている分、それは美紀の知る「奴ら」よりも脅威だ。
突如現れた化物に驚いて尻餅をついた美紀はそれでもなんとか逃げようとしたのだが、人外の存在との鬼ごっこに勝てるわけがなく、ついに壁際まで追い詰められてしまう。

(何なんだこれは!? 何なんだこの状況は!? そもそも私は、どうしてこんな町に……!?)

捕食者の余裕を放ちながら近づいてくる獣を見て、美紀の頭の中に絶望の二文字が躍る。
牙だらけの口から滴り落ちている涎は、どんな劇薬よりも恐ろしく見えた。

「Grrrr……」

獣の牙が、あと一メートル足らずで美紀の柔肌に届く。
美紀は思わず両目を閉じた。

と、その時。
美紀と獣から少し離れた地点に、二人の男女が現れた。
熱風と閃光、そして轟音――ド派手な演出と共に現れた彼らに、一人と一匹は目を向ける。
そこに居たのは、槍を持ち、アロハシャツを着た銀髪の男と、フラドレスに身を包んだ黒い長髪の女。
両者ともに、日に焼けた褐色の肌をした美男美女であり、冬の冬木市にはあまりにも合わない格好だ。
熱風が、二人の衣装と頭髪をひらひらと躍らせている。

彼らのエントリーに驚き、興奮したのか、獣はまるで攻撃対象を美紀から男に変えた――否、【攻撃対象から美紀を外した】かのように、男の方へと向かい、地を滑るようにして駆けた。
一瞬にして、両者の距離は縮められる。
それに対し、男は槍で獣の牙をいとも容易く受け止めた。
キィン! という衝突音が路地に響く。

「……問おう。お前が余のマスターか?」

獣の動きを片手で持つ槍で封じながら、男は美紀に問う。
その声は、王様のような威厳に満ちたものであり、カリスマを感じさせた。
彼の言葉を聞いたと同時に、美紀の頭の中に膨大な量の「情報」が流れて来る。
聖杯のことや自分が聖杯戦争のマスターであること、目の前の男が自身のサーヴァント――ランサーであること(ならば女の方は何なのだろう)、その他諸々を一瞬にして理解した。
けれども、美紀はいくつも立て続けに起きた、己の常識を越える事態に戸惑い、口を開けたまま何も喋られずにいる。

「ちょっと、あんた! カッくんの質問にさっさと答えなさいよ!」

黒髪の女がそう叫んだ。
美紀は慌てて答える。

「は、はい!……それで合ってます!」
「よろしい。
ならばこのランサー――カメハメハ一世は、お前を守り、お前の為に戦うことを誓おう」

カメハメハ一世――ハワイの英雄であるにも関わらず、日本人の美紀でも知っているほどの有名人の名を名乗った男は、美紀からの返事に満足そうに頷き、槍を持つ手に力を込め、獣を払い飛ばした。
美紀と同じくらいの大きさである獣は軽々と飛んで行き、壁に衝突して盛大な破壊音を起こす。
なんたる怪力であろうか。
獣は甲高い悲鳴を短くあげると力尽き、消滅した。

▲▼▲▼▲▼▲

美紀は安堵の息を漏らす。
一先ず目の前の脅威は去った。
けれども、まだ完全に安心は出来ない。
何せ、彼女は「聖杯戦争」という殺し合いに巻き込まれたことを自覚してしまったのだから。
己のサーヴァントの力強さを今しがた目にしたとはいえ、やはり不安は拭えない。
とりあえず、今は目の前にいるカメハメハ一世(と、謎の女性)に助けてもらった礼を言わなくては。
そう考え、美紀は立ち上がろうとする。

「……いや、待て」

しかし、カメハメハ一世は槍を真横に突き出し、美紀の動きを制した。

「まだ立ち上がるのは早いぞマスター……もう少し座っておけ。
どうやら、不届き者(けもの)はまだ他にも居るらしい」
「!」

美紀は己の目を疑った。
彼女の視界の先――路地の彼方から、先ほどの獣が大挙してやって来ているではないか。
大自然特番でのアフリカやサバンナの映像でしか見られないような光景が、冬木の街中の一角に広がっていた。

「さっきのアイツ(獣)が死に際に放った悲鳴がマズかったよーね。
アレがヤツらを呼んじゃったんじゃないかしら?」
「…………」

何故か楽しそうな笑みを浮かべながら現状を分析する女と、黙したまま獣の群れを睨むカメハメハ一世。
美紀はそんな彼らを見て、ただゴクリと唾を飲み込むことしか出来ない。
彼のあの怪力ならば獣の一匹や二匹、どうってことはないだろう。
しかし、あれほどまでの数の暴力を相手に、彼が勝てるのだろうか?
美紀がそう疑問に思い、不安になっていると、黒髪の女は妙案を思いついたような表情をして、カメハメハ一世に話し掛けた。

「……ねえ、カッくん?」
「どうしましたか、ペレ様」
「せっかく敵が大勢いるんだからさー、『アレ』やろーよ!」
「え? ……それは……。
まだ今は聖杯戦争の序盤――どころか、本格的に始まってすらいません。
そんな時に『アレ』をやるとは……」

美紀に対して王様らしくカリスマ溢れる言動をしていたカメハメハ一世が弱々しい様子で、ペレという名の女が出した提案にやんわりと反対する。
余程、彼女が怖いのだろう。
言葉の端々に彼女を怒らせまいという努力が見られる。
しかし、ペレは熱湯を浴びせられたかのように顔を真っ赤にして怒り、「はぁ!?」と怒鳴った。

「何よ何よ何よ!
どーせ、あんたが集団相手にぶっ放せるのって『アレ』くらいしかないんでしょ!?
じゃあ、やるしかないじゃない!
それとも、ここで出し惜しみする気!?
そんなことして負けちゃったらどーするのよ!?
私が味方についた以上、そんなつまらない負け方だけは絶っ――――――――――――――対に許さないんだから!
どーせ戦争するんなら、常に私みたいに島一つ巻き込むくらいの全力を出しなさい! ……っていうか、そこまでやって、なんで私あの豚野郎に勝てなかったのかしら……。
……ともかく!
そもそも『アレ』はカッくんの宝具じゃあなくて、私の力みたいなもんなんだからね!?
断れると思ってるの!? ねえ!?」

怒涛の勢いで放たれる、怒りの言葉。
美紀は彼女の姿に、火山の噴火のイメージを見た。
どうやら、ペレはカメハメハに宝具を発動しろ、と言っているらしい。
本来、それを命令するのはマスターである美紀なのだが……ここで割って入り、その事を主張できるほど、彼女は怖いもの知らずではない。
それに、美紀も出来ることなら、カメハメハ一世に宝具を発動して、あの恐ろしい集団を一刻も早く倒して欲しいのだ。
故に、文句を言うことはない。

「……了解しました」

カメハメハ一世は渋々といった具合に、ペレの提案を受け入れる。
そんな彼の姿に、先輩に振り回されている自分の姿を重ね、美紀は彼に多少の親近感と哀れみを感じた。

▲▼▲▼▲▼▲

カメハメハ一世とペレがそうこうしている間も、獣たちの群勢は一切スピードを緩めずに接近してきている。
今では、彼らの足音がハッキリと聞こえるくらいの距離になっていた。

「……それでは行きますよ、ペレ様」
「ええ! この私にどーんと任せちゃいなさい!」

カメハメハ一世は美紀に背を向け、眼前に迫る獣たちへと槍を構える(ホースで消火活動を行っている消防士の姿をイメージして貰えればいい)。
ペレはカメハメハ一世の肩に両腕を回し、背中から抱きつくような姿勢を取った。
自身に武器を向けられても、獣の群勢は怯むことなく歩を進めている。
一度深く息を吸った後、カメハメハ一世は槍を更に強く握り締め、口を開く。
同様に、ペレも言葉を紡ぐ。

「悪しき軍勢の進行を、聖なる大地は許さず」
「悪しき軍勢の進行を、聖なる大地は許さず」

何らかの詠唱であろうか――二人の声が、重なる。
すると、ペレの肉体が綻び、溶け、不定形化し始め、炎のようなオーラと化した。

「故に、彼らは大地の怒りに触れ、身を滅ぼす運命(さだめ)にあり」
「故に、彼らは大地の怒りに触れ、身を滅ぼす運命(さだめ)にあり」

不思議なことに、炎となった後もペレの言葉は続いていた。
彼女は槍全体を覆うようにして纏わり付き、次第に発条のように螺旋を巻いた形状となる。
ここでようやく、美紀は自分がダラダラと汗を流していることに気がついた。
周囲の気温が真夏のそれを思わせるほどに暑くなっているのだ。
間違いなく、あの槍――炎が原因であろう。

「【大地の怒り――」
「イヘ――」

炎の発条が縮んで、一気に槍の先端に収束し、眩い光球へと変わる。
それはまるで、地球全てのエネルギーを集めたかのような、神々しく、煌々とした輝きであった。

「――加護受けし者の槍を此処に】!」
「――ペッレェェェェエエエエッイ!」

カメハメハ一世は力強く、ペレは「ペレ」と「行っけぇぇぇぇええええっい!」が混ざったような発音で宝具の名を叫ぶ。
瞬間。
槍の先端にあった光球から膨大な熱を孕んだ液体――溶岩が多量に吐き出された。
一瞬にして起こった体積の膨張は、最早爆発――噴火と形容すべきものである。
獣たちは次々と、赤い荒波に飲み込まれていく。
それを乗り越えてカメハメハ一世に牙を突き立てられるものは居ない。
地獄絵図めいたその光景に、美紀は腰を抜かし、ただただ呆然とするだけだった。

一分ほど経つと、道を覆い尽くしていた溶岩は消えてなくなった。
多少焦げたり溶けたりしたコンクリートやアスファルトが残っただけである。

「……いや、あの溶岩が通って、多少焦げたり溶けたりしただけっておかしいんじゃ……?」
「そこは私の細か〜〜っな調整と、カッくんのもう一つの宝具の『一般人に被害を及ぼさない』という性質が合わさった結果ね!
ご都合主義めいてるわ!」

溶岩の消失と共に再び姿を現したペレは、美紀の疑問にそう答え、「えっへん!」とでも言うように自慢気な顔をしていた。

▲▼▲▼▲▼▲

場所は変わって、美紀の自宅。
彼女が聖杯戦争の一参加者として与えられた役割(ロール)は、「一人暮らしの高校生」であった。
他に人の気配がない部屋――そこの机で、美紀とカメハメハ一世、ペレは一対二の形で向き合っている。

「――ふむ、なるほど。『元の平和な日常を取り戻したい』か……」

美紀が述べた、聖杯にかける願いを聞いて、カメハメハ一世はそう言った。

「えー? 何それつまんなーい!
もっとスケールがデカく、派手で面白い願いはないの?」

ペレは冷蔵庫の中から勝手に取り出した豚肉を食べながら、そのような文句を口にした。
自分の切なる願いが馬鹿にされて、美紀はムッとする。

「……いえ、ペレ様。
この者が言う『元の平和な日常を取り戻したい』は、『街中に蔓延る、人ならざる者たちの消失』と同義です。
派手で面白いかはさておき、スケールは十分大きいものかと」
「……ふーん、それもそうね」

納得したらしく、ペレは再び黙々と豚肉を咀嚼し始める。

《すまないな、マスター。
ペレ様は何かと派手好きなきらいがあるのだ。
それに、この方は女神であるが故に考え方が人間のお前とズレている時が多々ある。
どうか、気を悪くしないでくれ》

突然、頭の中にカメハメハ一世の声が流れて来て、美紀は驚く。
しかし、次の瞬間にはそれがサーヴァントとマスターの間でのみ行われるテレパシー――念話であると理解した。
視線を上げ、カメハメハ一世を見ると、申し訳なさそうな表情をしている。
美紀がコクリと頷き

《……分かりました》

と念話を送ると、頭の中に

《ありがとう》

と流れた。
女神であるペレには不安しかないが、サーヴァントである彼とは上手くやっていけそうだ――美紀はそう考えた。


【クラス】
ランサー

【真名】
カメハメハ一世

【属性】
秩序・善

【ステータス】
筋力B+ 耐久A+ 敏捷C+ 魔力B+ 幸運B+ 宝具EX

【クラススキル】
対魔力:B

【保有スキル】
カリスマ:B
軍団を指揮する天性の才能。
団体戦闘において、自軍の能力を向上させる。

交渉術:C
優れた交渉手腕。
Cランクにもなれば、国相手の外交を行うには十分である。
しかし、ハナから相手の言うことを聞く気がない者に対して、交渉は意味を持たない。

怪力:D
巨石ナハ・ストーンを持ち上げるほどの怪力。
一時的に筋力を増幅させる。
使用する事で筋力をワンランク向上させる。
魔性のみが有するスキルだが、女神の加護を受けているランサーは例外的にこれを所持する。

【宝具】
【剣取れぬ者たちに、恐怖と無縁な休息を(ママラホエ・カナヴィ)】
ランク:D 種別:対軍宝具 レンジ:50 最大捕捉:不明

カメハメハ一世によって直々に編纂され、非戦闘員の保護を明文化した法典――ママラホエ・カナヴィと、彼が持つ槍が平和の象徴であることが結びついて生じた宝具。
範囲内の人物の攻撃対象から(マスターを含めた)戦闘能力を有さない一般人を強制除外する効果を持つ。
カメハメハ一世が槍を持っている間、一定範囲内にこの効果は及ぶ。
平和や安寧のイメージが強い宝具であるため、この時の槍自体の攻撃力は然程でもない。
しかし、一般人から犠牲者を出させないこれは、神秘の秘匿を要する聖杯戦争に何よりも相応しい宝具であろう。

【せーなる大地の女神様のごとーじょー!(ペレ)】
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:-

大地の女神、ペレを召喚する。
っていうか、呼んでもいないのに勝手に現界してきた(「カッくんがサーヴァントとして聖杯戦争に参加する!? しょーがないわね! いっちょ助けてあげますか!」)。
神秘が高い、と言うよりも神そのものなので、この宝具のランクは規格外のEXである。
彼女の詳細については下記の【女神ペレ】を。

【大地の怒り、加護受けし者の槍を此処に(イヘ・ペレ)】
ランク:A+++ 種別:対軍宝具 レンジ:100 最大捕捉:100

敵であるケオウラ軍が、キラウエア火山の大噴火に巻き込まれて壊滅したというエピソードによって、カメハメハが女神ペレを味方に付けているという評判が広まった。
この宝具は、その際の噴火を再現するもの。
ペレの肉体が炎ような不定形のオーラになって槍に纏わりつき、その先端から溶岩を放つ。
当然、サーヴァントであってもこれを食らえばただでは済まず、たとえ無事に済んだとしても、その後永久的に敏捷ステータスが一ランク下降することとなる。
ママラホエ・カナヴィ? 非戦闘員の保護? 何ですかそれは? とでも言うくらいの大火力であるが、ある程度溶岩の流れを操ることは出来る(実際に操るのはペレだけれども)。
宝具の発動スイッチはカメハメハ一世が、操作スイッチはペレが握っている、という感じ。
女神ペレ曰く、「かめはめ波ならぬ、かめはめ流って感じかしら!?」とのこと。

【人物背景】
ハワイ王国の初代の王様。

【特徴】
短パンにアロハシャツを着た(寒そう)、銀髪褐色肌の男。
見た目の年齢は十代後半から二十代前半くらい。

【weapon】
  • 無銘・槍
赤と緑を基調としたカラーリングの槍

【サーヴァントとしての願い】
マスターを守り、戦う。

【女神ペレ】
炎、ダンス、暴力を司る美しい女神。
司るものから推測できる通り、性格はかなり情熱的で暴力的。
自分が一目惚れした男と、彼と惹かれ合った実の妹を焼き殺そうとするくらい情熱的で暴力的。
情熱的で暴力的すぎる。

ハワイアンなフラドレス(胸隠しとスカートが一体化してるものでなく、分かれているタイプ。ヘソが見える)を着ており、自身の暴力的なまでに豊かな肉体(出るとこ出てて、しまるべきとこはしまってるナイスバディ巨乳という意味)を惜しみなく晒け出している。
長いくせっ毛の黒髪に、いかにもハワイという感じの花を一輪挿している。
肌は褐色。
好物は豚と野苺。

カメハメハ一世を助けるべく、彼の宝具として無理矢理現界した。
しかし、その為宝具【大地の怒り、加護受けし槍を此処に(イヘ・ペレ)】発動時以外では使える力にいくつもの制限がかかっており、聖杯戦争において殆ど役に立たない。
普段はカメハメハ一世にテンション高く絡んでいるだけである。
文字通り、世話"焼き"なおねーさんなのだ。

夫である豚神カマプアアとの壮絶な夫婦喧嘩のエピソード、及びその後日談での彼女がめちゃんこ可愛いので、読者諸兄には是非一度それをご覧になってもらいたい。

【呼称一覧】
  • カメハメハ一世
一人称→余
二人称→お前
女神ペレ→ペレ様

  • 女神ペレ
一人称→私
二人称→あなた、あんた
カメハメハ一世→カッくん


【マスター】
直樹美紀

【出典】
がっこうぐらし!(漫画版)

【weapon】
なし

【マスターとしての願い】
元の平和な世界を取り戻す

【令呪】
位置は右手の甲。
ハイビスカスをベースにした形をしている。

【人物背景】
私立巡ヶ丘学院高等学校二年B組の女子。

時系列順


投下順


Character name Next→
直樹美紀 :WINter soldiers
ランサー(カメハメハ一世)

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最終更新:2016年11月27日 21:42