―――不幸に濡れた瞼は夢を見る。
自らの幸福を。
届かぬと諦めても尚手を伸ばした、栄光を。
ステージの上でシンデレラは舞う。
喝采が彼女を包み込む。
歓喜。興奮。快楽。
数多の観客の笑顔と己が一つになる。
己を何時でも支えた者が、背後で笑顔を向ける。
己をシンデレラにした者が、この姿を誇らしげに見つめている。
スズランのように儚き笑顔は、彼女と彼女の世界を幸福に彩り、導いた。
しかし、何物にも終わりはくる。
何者も何物の変わりにはならず、変えられぬ終わりは現実の尻尾に食らい付いた。
かち、かち、かち。
時計の秒針は、無慈悲にも時を刻む。
こんなにも夢は眩しいのに。
こんなにも夢が近いのに。
ああ。
時計の針が、十二時を示す。
―――醜悪な現実に呑まれる、時が来た。
○ ○ ○
締め切られたカーテンは、月の光さえ閉ざし暗闇で室内を包み込む。
可愛らしい雑貨に彩られた室内も、暗闇の中ではその淡い桃色を曇らせる。
開かれたクローゼットの中には黒を基調とした色合いの服が並べられており、比較的明るめの配色の服は少なく、あったとしても少しもまだ着古されていない新品さを醸し出す。
…その中に紛れ込むように、黒い帽子が掛けられている。
ああ、アレはあの人と牧場に行った時のものだっただろうか―――と。
過ぎ去った、楽しかった日々の残滓。
それが視界に入ると、酷く胸が締め付けられるような感覚がした。
すると、立て付けが悪かったのか、掛けられていた帽子がふわりと床に落ちる。
…ああ、ちゃんと元にあった場所に片付けないと。
部屋の隅で縮こまっていた身体を動かし、ゆるりと右手を伸ばす。
そして。
彼女の視界が―――自身の右手の甲に刻まれた、赤い痣のような紋様を捉える。
「ッ……!?」
まるで、熱いものでも触ったかのように。
反射的に手を引き戻し、左手でその痣を隠す。
しかし、手で隠したからと言って消えた訳ではない。
その痣の紋様は深く視界に入り込み、『見たくなかった現実』を思い出させる。
聖杯戦争。サーヴァント。マスター。
最後の一人になるまでの殺し合い。
血を血で洗い、殺し尽くした先にある万能の願望器。
―――ああ。それはなんて、恐ろしい。
彼女は再び小さな肩を抱くように縮こまり、その現実に怯えた。
死にたくない。
死にたくない。
死にたくない。
人の精神の、原初の階層に刻まれた恐怖が彼女を追いたてる。
無理もない。
彼女は、闘争などという世界とは無関係の立ち位置の人間だったのだから。
死にたくない。
だからと言って、殺す道を歩みたい訳でもない。
人を殺すのは悪いことだ。
それが彼女の中の常識であり、世界の常識だ。
…いや、それだけが理由ではない。
『彼女は人を殺せない』。
人の人生を奪うことを、幸福も不幸と一纏めにして奪ってしまうその重さに、彼女の精神は耐えられない。
だからこそ、彼女は今、このように自室の隅で縮こまっているのだ。
死にたくない。
だが、殺せない。
つまり、八方塞がり。
どうすることも出来ず、しかし何をする勇気もない。
…彼女がもう少し自分勝手な人間であったのなら、状況はもう少し違ったものになっただろう。
彼女は、優しすぎた。
己の不幸が他人に伝染するのを恐れるように―――彼女は、臆病な分、人に優しかった。
しかし。
そんな彼女でもプロデューサーという支えてくれた影がいたから、ステージに上がることができた。
無論、彼女自身の向上心があった故ではあるが、それでも一人では舞台に―――アイドルのステージには立てなかっただろう。
だが、それもここまでだ。
死んだらステージには立てない。
人を殺せば、ステージに立つ資格はない。
どの道、彼女の物語は此処で終わりだ。
アイドル、
白菊ほたる。
彼女のシンデレラストーリーは、此処で十二時を迎えたのだ。
「……見回りを終えました。ホタル、そこにいますか?」
光の粒子が、人の形を作り出す。
そして眩さを持ったまま―――金髪の騎士が、現れた。
少しカールした金髪の、女性。
目映いほどに白く透き通った手。
これが、サーヴァント。
確か名前はランサーと言っただろうか、と。
ほたるは茫然とその姿を見つめる。
「……また、泣いていたんですね。涙の跡が」
ランサーの白い指が、ほたるの頬を拭う。
言葉を聞くまでもない。
この跡を見るだけで、ほたるの慟哭と恐怖が伝わってくる。
「ランサー、さん」
「大丈夫です、大丈夫。
…貴女は優しすぎる。もう少し、他人の不幸に鈍感だったなら幸せだったでしょうに」
ふわり、と。
ランサーがゆっくりとほたるを抱き締める。
ランサーの体温は、少し暖かかった。
「…貴女がどのような道を歩むのであれ、わたしは貴女に付きましょう。
逃げるにせよ、修羅に堕ちるにせよ―――わたしは、貴女を選びます」
それは。
地獄にまで付き従おうという、槍兵の誓い。
誰を敵に回しても、貴女の槍になろうという誓い。
「貴女の望みを言ってください、ホタル。貴女の、叶えたい望みを」
その言葉は、ほたるの背中を後押しした。
感情が溢れる。
ぽろぽろと溢れる涙と共に、感情を吐露する。
「―――帰りたい」
「元の場所に、私、帰りたい」
「もっと、アイドルがしたい」
「どんなに怖くても―――戻って、トップアイドルになりたいんです」
それは、純粋な彼女の願い。
殺し合いの最中にあっても尚、光輝く少女の夢。
醜い現実に呑まれても、見失わない彼女の夢。
「ええ。わかりました。わかりましたとも」
その言葉に、ランサーは頷く。
一言一言紡ぎ出される、余りにも弱々しく消え入りそうな言葉を、一つづつ受け入れる。
抱き締めた、震える小さな身体から溢れる本音。
恐怖の中にあっても、揺るがないもの。
ああ。それはなんて、儚い―――
○ ○ ○
「この世界からブリテンのような美しさは消えてしまったのかとも思いましたが……思いの外、この景色もこれはこれで素晴らしい」
夜風が金の髪を撫でる。
屋上から眺めた夜景は、まるで星空のようだった。
マスター…白菊ほたるは、現在泣き疲れて眠っている。
仕方のないことだ、とランサーは思う。
つい先程まで戦士ですらなかったものが死に晒されるのだ。
恐怖は想像を絶するものだろう。
「…それでも、わたしは彼女の槍となろう。数多のサーヴァントを敵に回してでも、貴女を守り抜こう」
きっと。
誰よりも敬愛する、あの"湖の騎士"もそうしただろうから。
愛する女性を何としても幸せにする―――そのためなら、国だって切り捨てるのがフランス騎士の信条だ。
わたしは彼女を愛している訳ではない。
だが。
目の前で年端もいかない少女が死の恐怖に震えていたとしたら。
きっと―――我が敬愛のランスロット卿も、その手を取って戦っただろう。
ならば。
わたしも、そうあるべきだろうと思う。
最期の瞬間が、脳裏に甦る。
ランスロット卿に斬り伏せられた、その最期。
アレは、彼なりの矜持に乗っ取った結果なのだろう。
…わたしも、己の矜持に殉ずるときだ。
白い腕が、夜空に光る。
わたしこそが、彼の花のキャメロットの一つ。
華々しい円卓の席の一つに座る、騎士の一人。
我が名は―――
ガレス。
この槍が折れる時まで、この体は彼女の槍となる。
この誉れは彼の湖の騎士へ。
わたしは今、槍を取る。
【クラス】ランサー
【真名】ガレス
【出典】アーサー王物語
【性別】女
【属性】秩序・善
【ステータス】
筋力B 耐久C 敏捷A 魔力C 幸運D 宝具C
【クラススキル】
対魔力:C
魔術への耐性。二節以下の詠唱による魔術は無効化できるが、大魔術・儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。
【保有スキル】
騎乗:B
乗り物を乗りこなす能力。Bランクで魔獣・聖獣ランク以外を乗りこなすことが出来る。「乗り物」という概念に対して発揮されるスキルであるため、生物・非生物を問わない。
ライネット婦人の指輪:D
高度な変装魔術礼装。
様々な色、服装に変化する真名秘匿能力。
湖の騎士への敬愛:A
彼女は誰よりも湖の騎士ランスロットを敬愛し、尊敬していたという。
円卓の騎士最強と謳われるランスロットの技術を高いレベルで模倣する。
【宝具】
『清廉なる白銀の腕(ボーマン・オブ・ナイト)』
ランク:D 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:1人
まるで白魚のように美しいガレスの手。
その純白さは美しく、『常に騎士道の人であり、騎士道に背く行為の一切を行わなかった』という逸話が混ざり、彼女という概念が具現化した宝具となっている。
彼女の腕はどんな攻撃を持ってしても傷を付けることはできず、決して折れず、「正しいもの」として在り続ける。
腕・そして腕で持った武器を使う攻撃において有利な判定を得て、筋力で負けているとしても絶対に競り勝つ。
……しかし、これは「決して騎士道に背く行為を行わなかった」という概念が混ざったが故に生まれた宝具であるため、彼女の正当性が失われた時に効果を失う。
つまり。
彼女の心が折れた時、その腕の輝きは炭化したように消え、宝具の効果を失う。
『猛り狂う馬上の槍(ラウンズ・ナイト・ランス)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:3 最大捕捉:5人
数々の敵に勝利した、ガレスの馬上槍の技術。
アーサー王に「猛り狂うウルフ」との異名を与えられるほどの技術。
馬上槍の試合ではガウェイン卿と並ぶほどの腕前であり、その一突きはあらゆる防御を突き崩し、弱点を晒け出させる。
【weapon】
馬上槍:無銘
焦げ茶色の馬
【人物背景】
円卓の騎士の一人であり、太陽の騎士ガウェインの妹(型月時空では女性のよう)。
最初はガウェイン卿の妹であることを隠して城に入った故、ケイ卿に厨房役に回され「白い手(ボーマン)」という渾名を付けられる。
とある活躍により円卓の騎士入りしてからは騎士の象徴のような人物として、決して騎士道に背くような行為は行わなかったという。
ランスロット卿を誰よりも敬愛しており、尊敬している。
しかし。
彼女の最期は、敬愛したランスロット卿の不貞の露見による、他でもないランスロット卿からの斬殺であった。
【特徴】
ガウェイン卿と同じ金髪を持つ、緩いウェーブのかかった女性。
清廉潔白な騎士であるが、少々間の抜けた部分がある。
料理は質より量派。
大量の磨り潰したポテト&ビネガー&ブレッド。そしてエール。そして蒸した野菜。
…これを料理と呼ぶのも烏滸がましいレベルだが、なんとこの時代ではこれが普通だったようだ。
【マスター】
白菊ほたる@アイドルマスターシンデレラガールズ
【能力・技能】
アイドル
【人物背景】
不幸体質ありの、薄幸少女。
そのせいで気弱な発言が目立つが、しかしアイドルとして立派に成長することには前向きで、いつか幸せになるという意思もあり。
【マスターとしての願い】
死にたくない。
でも、殺したくない。
じゃあ、私はどうしたら―――
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最終更新:2018年08月10日 13:33