ヒロインがヤンデレのギャルゲみんなで作ろうぜ!

みずき3

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kawauson

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;;背景『廊下』。BGM『ある日のこと』
@fadeoutbgm time=2500
@cl
@bg2 file="rouka1.jpg" rule="縦ブラインド(左から右へ)" time=2500
@bgm file="aruhiA.ogg"

 結局、昨日はなんやかんやで先輩のところに行くのを忘れてしまっていた。[lr]
 弟が礼に行くのも変な話かもしれないが、姉さんが姉さんだ。俺がしっかりしないと。[lr]
;;背景『教室の扉』
;教室内で良さそう てか変更しなくて良いんじゃね
 ささっと慣れた動作で扉を引き開ける。と、ちょうど目の前に女生徒が立っていた。[lr]
「君って……」[lr]
 その三年生は考え込むようにしてから、[lr]
「確か、ひめっちの弟だっけ?」[lr]
「あ、はい、そうです。姉さんいます?」[lr]
 はきはきと答えたつもりだったが、返ってきた視線は訝しげだった。[pcm]
「本当に弟さん? ひめっちは休みなんだけどなー」[lr]
「……え?」[lr]
 姉さんが休み? どういうことだ。[lr]
 色をなくして廊下から教室を覗きこんだが、姉さんの席はやはり空だった。[lr]
「ね。まあクラスも半分は休んでるんだけど」[lr]
 他の席も同じように空いている。疑問があちこちから噴き出し、眼が回りそうだった。[lr]
「と、とにかく、先輩に会わせてください」[lr]
「先輩?」[lr]
「よ、蓬山先輩、です」[lr]
 動揺で舌が上手く回らない。言い直すのすら、もどかしかった。[pcm]
「そんなこと言われても。早紀も休みなんだけどなー」[lr]
 一拍置いてから、台詞は耳に飛びこんできた。[lr]
――なんだって?[lr]
「昨日から二人とも。先生も管理がなってないよね」[lr]
 肩をすくめて教卓を見やる三年生。ぱっと駆け出した。[lr]
 どういうことだ。携帯を掴みだそうとする手を、前後に振って自制する。教師に見つかれば没収だ、今、連絡手段を断たれるわけにはいかない。[pcm]
;;背景『トイレ』。BGM『兆候』
@bg file="wc_m.jpg" rule="縦ブラインド(左から右へ)"
 校内で教師の目が絶対に届かない場所といったら、ここくらいしか思いつかなかった。個室へと駆けこみ、片手で鍵をかけつつ、片手で携帯を引っ張り出す。[lr]
;;背景『携帯のズーム』
『休みってどういうこと?』[lr]
 狂ったような速度で打ちこんだソレを送信して、待った。いつもどおり、すぐに帰ってくるはずだ……。[pcm]
;;五秒くらい空白。
;;ウェイトより…はさんだ方が良いかなと思ったのでそっちで。
 ……。[lr]
 …………。[lr]
 ………………。[pcm]
 帰ってこなかった。[lr]
 十分の時点でおやっと思った。十五分の時点で胸騒ぎがし始めた。二十分の時点でメール送信が失敗したのではと、未送信メールのフォルダを何度も何度も見直した。[lr]
 カチカチ。小刻みに硬い音が響く。何の音だ。隣の個室に耳を澄ませてみるが、そちらではない。手元を見て、ようやく音源に気づいた。意味もなく指がボタンを連打していた。[lr]
;;SE『チャイム音』
@playse storage="se3.ogg"
 だが、無情にも予鈴の音が殴るように頭蓋の中で打ち響いた。[pcm]

;;背景『校門』。BGM『雨ノ/降ル/街』
@fadeoutbgm time=2000
@fadeoutse time=1000
@bg2 file="kyousitu.jpg" rule="縦ブラインド(左から右へ)" time=2000
@bgm file="amemati.ogg"
@bg file="rouka1.jpg" rule="左下から右上へ" time=500
@bg file="kaidan2.jpg" rule="左下から右上へ" time=500
@bg file="syoukouguti.jpg" rule="左下から右上へ" time=500
@bg file="gra.jpg" rule="左下から右上へ" time=500
@bg file="soto.jpg" rule="左下から右上へ" time=500

 SHR(ショートホームルーム)が終わると同時、寄ってくる毒男や長岡を振りきって廊下を馳せた。[r]
 無人の昇降口につくや否や、素早く靴を履き替えてグラウンドを走破。息を荒らげながらも、何とか校門までたどり着いた。一歩出た瞬間、携帯を握った手をポケットから出す。[lr]
 姉さんはメールの返事が早いので、これまで電話を使ったことは数えるほどしかなかった。それが裏目に出たのかもしれない。[pcm]
;;背景『道路(信号あり)』
@bg file="bg005.jpg" rule="縦ブラインド(左から右へ)"
 歩きながら電話番号を呼び出す。[lr]
;;SE『電話のトゥルルルー音』
@playse storage="tm2_phone006.ogg"
@wait time=1000
――頼む、出てくれ。[lr]
 掌の汗をズボンで拭いつつ、必死で耳を澄ます。一秒、二秒、三秒……。歩いているうちに横断歩道までたどり着き、赤信号に立ちどまった。[lr]
;;SE『電話に出るときの音』
@stopse
@playse storage="tm2_phone006.ogg"
@wait time=1000
@stopse
@playse storage="others_10_mikenoize.ogg"
@ws
「電話なんて珍しいね、稔くん」[lr]
 小さかったものの、確かに聞きなれた姉さんの声だった。ほっと息をつく。安堵のあまり、危うく携帯を落としそうになった。[lr]
「姉さん、メールは見た?」[lr]
 車の騒音が邪魔だった。声を逃さないよう携帯を両手で強く耳に押しあてる。信号が青になっていたが、歩き出す気にはなれなかった。[pcm]
「見た」[lr]
 素っ気ない返事。声のトーンが跳ね上がりかけた。[lr]
「休みってどういうこと?」[lr]
「どういうことって?」[lr]
 動揺もなければ、やましさを感じている様子もない。平静な声だった。ついにかっと血が上った。[lr]
「どうして休んでるのか訊いてるんだ! まさか学校サボって遊び呆けてるんじゃないだろうね!?」[lr]
「……あのねぇ、稔くん」[lr]
 キッと姉さんの声音が豹変した。氷刃めいた鋭いソプラノ。[r]
 あっと口を押さえるも、既に遅かった。風邪でも引いたのか、交通事故にでもあったのか。それを確かめたかったはずなのに。[pcm]
「どうしていちいち稔くんに許可貰わないといけないの? ひめはお姉ちゃんなんだよ? 稔くんは弟なのに、どうして保護者ぶるのかな? ひめは稔くんのドレイなの?」[lr]
「それは……」[lr]
 何か言わなければ。焦りが舌を動かすものの、紡ぐべき言葉が見つからない。[lr]
「お父さんとお母さんが帰ってくるまで、ひめも帰らないから」[pcm]
;;SE『ツーツー』
@playse storage="TelephoneA@08.ogg"
@wait time=3000
@fadeoutse time=1000
 いつの間にか止めていた息を吐くまで、携帯を耳から引き剥がせなかった。[lr]
 姉さんに、捨てられた……。[lr]
 ひたひたとしたつめたいものが胸中に広がる。刺すような如月の冷気がぞっと寒さを増したように感じられた。[lr]
 伊万里にも置いていかれてしまったのに、今度は姉さんにまで。[lr]
 そんな、そんな![lr]
 目元を拭いながら駆け出そうとする。しかし信号はもう赤。目の前を行き過ぎる無数の車を睨みつけ、地団駄を踏む。[lr]
 震える指で履歴を開き、一縷の望みを託して掛け直す。が、出てくれない。もう一度だ。出てくれない。もう一度、もう一度だけ……。[pcm]
 信号が青になっても俺は渡れなかった。[pcm]

;;BGM『13と1の誓い』
@fadeoutbgm time=2000
@bg2 file="wafuu_kositu00.jpg" rule="縦ブラインド(左から右へ)" time=2000
@bgm file="13_1.ogg"

;@playse storage="tm2_counter001.ogg"
;@ws
 カチカチ。昨日に引き続いて宛がわれた一室にこもり、ただその音を聞く。震える歯がこすれる音であり、携帯のボタンが沈む音だった。[lr]
『ごめんなさい』[lr]
 ダメだ、異常だ、送りすぎだ。そう考えるものの、うねるような焦燥に指は止まらなかった。[lr]
 ……やはり、返ってこない。[lr]
 なんなんだ、なんなんだ![lr]
 イヤな汗が掌に滲み始める。焦燥が心拍を暴れさせ、でたらめに震える指がボタンを連打していた。[lr]
 俺は必要ないのか。頼られてはいなかったのか。[lr]
 ……俺の居場所はないのか。[pcm]
;;SE『携帯が落ちる音』
@playse storage="tm2_put001.ogg"
@ws
 携帯が滑り落ちた。意外に大きな音が、虚ろな内面に響いた。[lr]
 姉さんにとっては俺なんてなんでもない、ただそれだけのこと。あれだけはっきり告げられたのに、なんて未練がましかったのだろうか。[lr]
 今までみずきのことが全く分からなかった。どうして進んで苦労を背負おうとするのか、と。[lr]
 今ようやく分かった。人に頼られない苦しみ。生まれて初めて、その虚しさに冒された。[lr]
 胸を締めつけられるようなせつなさ。血を流したくなる。流せば注意を浴びることができるだろうか。居場所を認めてくれるだろうか。[pcm]
 考えがまとまらない。考えられたのは、ひどく寒いというだけだった。[lr]
 暖房は効いている。寒さとは比喩だ。……『獣』が目覚めかけていた。[lr]
――みずきは。[lr]
 どこにいる、と考えかけて、激しく頭を振った。抗う理性。今度こそはこの獣欲を。[lr]
 けれど、求めてしまう。欲してしまう。[lr]
 気づくとマリオネットのように布団から起き上がっていた。ふらつきながら宛がわれた部屋を出た。幽体離脱したらこんな感じなのかもしれない。[lr]
 ああ、みずき、お前が悪いんだ。[lr]
 猛る衝動を叩きつけたい。恐ろしい思考が一閃、思考を切り裂く。[pcm]
;;背景『廊下』

@bg file="rouka1_mizu_y.jpg" rule="縦ブラインド(左から右へ)" time=700

 足音にびくっと物陰に隠れた。襖の隙間から廊下を覗く。[lr]
;;みずき(微病み)
[ld pos=c name="mizu" wear=u pose=3 b=7 e=7a m=9 y=b]
 みずきがひそやかに歩いていた。[lr]
 ああ。悲鳴を上げそうになる。どうしてこのタイミングで……。運命を呪う。[lr]
 いくら嘆こうと、今の俺は獣の意のまま。おぼつかない足取りで闇に歩を進めようとして、[lr]
;原文 おぼつかない足取りで病みに
;;みずき(病み泣き)
[ld pos=c name="mizu" wear=u pose=3 b=7 e=7a m=5 t=1 y=b]
 空気に圧し戻された。[lr]
 波打ったように、濃密な異臭が押し寄せてきた。金属のような匂いが鼻の粘膜を冒してゆく。[r]
 みずき自身、顔を蒼白にしていた。体が疲れているのだろうか、それとも精神的にくたびれているのだろうか。[r]
 ふらふらとした足取りで、時折り、吐き気をこらえるように掌を眺めては胸を押さえていた。[lr]
 そして……何よりその表情が俺を押しとどめた。[pcm]
[ld pos=c name="mizu" wear=u pose=3 b=5 e=5a m=1 t=2 y=b]
「…………」[lr]
;;みずき(怯えハイライト消し)
 泣いているのに、笑っている。何か売ってはならないものを悪魔に売り払ってしまったような。取り返しのつかないことをしてしまったような、その表情。[r]
 後悔してももう遅い。その大切なひとつを得るためにすべてをベットし、ダイスを放り投げてしまっていた。[lr]
 動けない俺のすぐ手前を、何かで汚れたツインテールがゆっくりと通り過ぎてゆく。[lr]
@cl
 そのまま、みずきはバスルームへと消えていった。[pcm]

;;背景『みずき宅の客人用部屋』。BGM『Lunatic Lovers~xxx』
@fadeoutbgm time=2000
@bg2 file="wafuu_kositu00.jpg" rule="縦ブラインド(左から右へ)" time=2000
@bgm file="llxxx.ogg"

 明日は――いや、今日は土曜日。学校は休みだ。[lr]
 次の日になったという実感がなかった。結局、一睡もしなかったのだから……。自室に戻った後も結局メールを送り続けてしまった。[lr]
 けれど、やはり返信は来なかった。ふと気づいて先輩の携帯にも送ってみたが、結果は同じだった。電話しても、繋がらない。電源を切られていたようだった。[lr]
 眼球が膨らんだような違和感があった。多分、隈ができているだろう。こんな顔で応対すれば、幽霊も逆にびっくりだ。[pcm]
 夜明けのことだ。とはいえ、締め切られた部屋は真っ暗。メールを送り続けていると、こちらへ近づいてくる足音が聞こえた。[r]
;↑原文 夜明けのことだ。とはいえ、カーテンで部屋は真っ暗。メールを送り続けていると、ノックの音が聞こえた。
 おっかなびっくり部屋に入ってこちらを見るなり、みずきはびくりと後退った。衝撃が行き過ぎた後は、哀しそうな表情を浮かべていた。[lr]
 驚かせて悪いことをしたな、と思う。電灯を消した暗闇の中、液晶の光だけを黙々とメールを送り続ける。異常だ。狂気だ。もちろん俺は狂ってなどいないけれども。[pcm]
 時計を見る。そろそろ行動すべき時間だった。[lr]
 電話したときのことを考えると、姉さんは先輩と遊びまわっているらしい。田舎と都会の中間とも言える夜見市。遊べそうなところは限られる。[lr]
 探してみよう、と考えていた。謝るしかない。俺は……姉さんに捨てられたくないから。[lr]
 もやもやした何かに手をかけるように、シャツの裾を掴んだ。悩みを脱ぎ捨てるような気持ちで着替えを始めた。[lr]
 ……あちこちから刺すような視線を感じた。[pcm]
;;伊万里(哀)を一瞬だけ表示
[imar f="悲しみ" pose=1 pos=c t=1]
@cl
 分かっている。罪悪感がつくりだした幻に過ぎないことくらい。[lr]
――すまない。[lr]
 手を止めるわけにはいかなかった。[lr]
 答えは出さなければならない。なるべく早く。こうしている間にも、伊万里は苦しんでいるだろうから。答えを告げて楽にしてやりたい。そうは思う。[lr]
 けれど、答えは出ない。いくら悩んでも。[lr]
 そして今したいことといえば、姉さんに謝ること。そしてすがること。俺は……独りでは立てないから。[lr]
 これは俺自身の問題だ。みずきにはバレないよう、こっそりと部屋を後にする。[pcm]
@playse storage="DoorOpenE@11.ogg"
@wait time=2500
@fadeoutse time=500
@wf

;;背景『廊下』、みずき(デフォルト)
@bg2 file="genkan_mizu.jpg" rule="縦ブラインド(左から右へ)"

[mizu f="真顔" pose=1 pos=c]
「じゃ、行こっか」[lr]
 が、玄関まで行くと待ち構えていたようにみずきと鉢合わせてしまった。[lr]
;↑が、廊下に出ると待ち構えていたようにみずきと鉢合わせてしまった
「ひめさん探しに行くんでしょ? あたしも行く」[lr]
 とっさに、断ろう、と思って口を開いた。[lr]
;;みずき(泣き)
[ld pos=c name="mizu" wear=u pose=3 b=5 e=3a m=10]
 その空気を察したのか、みずきが眉を哀しげにひそめる。[lr]
 喉が引きつった。脳裏を青白い冷光が掠めた。[lr]
 今となってしまっては最後の。俺が頼り頼られることができるのは、みずきだけ。[lr]
 伊万里も、姉さんも。俺は置いていかれてしまった。[lr]
「……行こう」[lr]
;;みずき(笑み)
[mizu f="笑顔" pose=3 pos=c m=8]
 ぽつりと言い、俺はみずきに手を差し出した。[pcm]

;;背景『街』。BGM『』
@fadeoutbgm time=1000
@cl
@bg2 file="mati.jpg" rule="縦ブラインド(左から右へ)"

;;みずき(笑み)
[mizu f="笑顔" pose=2 pos=c]
「二手に別れるっ! みのるはあっちね」[lr]
 手さえ繋ぎながら街につくや否や、みずきが地図を広げた。[lr]
 正直なところ、ほっとした。男女が二人だけで街に外出。傍から見ればデートにしゃれこんでいるようにも見えるだろう。[r]
 実を言えば、みずきが無用の気を利かせて、落ち込んでいた俺を励まそうと考えているのかと思っていた。[lr]
 しかし、地図のコピーを押しつけると、みずきは意外にもあっさりと背を向けた。見ると、コピーには既に蛍光ペンで姉さんの立ち回りそうなところがマークされていた。[pcm]
@cl
「……ありがとな」[lr]
 届きそうで、しかしきっと届かない距離で呟くと、みずきに倣って背を向けた。[lr]
 俺はもうみずきしか頼れない。[pcm]

;;背景『雑踏』。BGM『Lunatic Lovers~xxx』

@bg2 file="syoutenngai.jpg" rule="縦ブラインド(左から右へ)" time=1000
@bg2 file="game.jpg" rule="縦ブラインド(左から右へ)" time=1000
@bg2 file="eki.jpg" rule="縦ブラインド(左から右へ)" time=1000
@bg2 file="konbini2.jpg" rule="縦ブラインド(左から右へ)" time=1000
@bg2 file="mati02.jpg" rule="縦ブラインド(左から右へ)" time=1500
@bgm file="llxxx.ogg"

 かなりの数があったマーク箇所をすべて歩き回った。[lr]
 けれど、見つからない。酷使に酷使を重ねた脚は痛みさえ訴え始めていた。[lr]
 ふと気づくと肩を落とし、俯きながら歩いていた。けれど、直すのさえ億劫だった。[lr]
 気が進まないものの、疲労の息を吐いて顔を上げた。その一瞬、頬を撫ぜるすべらかなものがあった。[lr]
 そよ風かと思った。けれど違った。柔らかでしなやか、そしてさらさら。風になびいた誰かの髪が、肌を優しく愛撫する。甘いフレグランスが鼻腔をくすぐった。[pcm]
@fadeoutbgm time=1000
「――!?」[lr]
;;BGM『兆候』
@bgm file="choukou.ogg"
 疲労にぼうっとしていた意識が、冷水を浴びせられたように覚醒する。一気に血が落ちてゆくのが分かった。[lr]
 この鮮烈な香気。忘れもしない。姉さん愛用の逸品だ。[lr]
 慌てて視線を右へ左へ転じる。だが、人の壁が厚すぎた。そのうえ雑踏は香気を散らした。唯一の手がかりが台無しにされてゆく。[lr]
 無理やりに体をねじ込んで、段差へと上った。[lr]
;;ひめ(デフォルト)を一瞬だけ表示。
[hime f="真顔" pose=1 pos=c]
@cl
 姉さんは背が低い。見つかったのは、奇跡のようなものだった。段差からジャンプした一瞬、角を曲がろうとする一人の後ろ姿が、吸い込まれるように目に飛び込んできた。[lr]
 透き通るようなペールグリーンの後ろ髪。滅多に外さない愛用のリボン。[pcm]
「姉さんっ!」[lr]
 喉も破れよとばかりに絶叫した。一瞬、細い肩が震え、足が止まったように見えた。のも一瞬、人の壁がせり上がり、地に足がついた。[r]
 周囲からはうっとうしげな視線が向けられた。あからさまな舌打ちさえ聞こえる。[lr]
 かまうものか。腕を大きく振りつつ、無理やりに駆けた。ぶつかり、押しのけ、突き飛ばしながら人込みを抜ける。[pcm]
 時間こそかかったものの、角までたどり着いた。曲がると同時に視線を刃であるかのように一薙ぎする。[lr]
「…………」[lr]
 息さえ止めて視線をめぐらす。見つからない。けれど、諦めるわけにはいかない。[lr]
 疲労した脚を前へ突き出し突き出し、がむしゃらにフレグランスを探した。[pcm]

;;背景『夕暮れ』。BGM『13と1の誓い』
@fadeoutbgm time=1500
@bg2 file="sora_a.jpg" rule="縦ブラインド(左から右へ)" time=1500
@bgm file="13_1.ogg"

 陽はほとんど沈みかけている。藍色を帯び始めた空では、月が真っ白い光を放っていた。[lr]
;;みずき(落ち込み)
「ごめんね」[lr]
「……いや」[lr]
@bg file="mati_a.jpg" rule="下から上へ"
[ld pos=c name="mizu" wear=u pose=3 b=7 e=7a m=9]
 すまない、と言いかけて違和感を覚えた。場違いではないのだが、場違いであるような気がしてしまった。[r]
 言葉を切ったことでみずきは黙り、俺も言葉を失う。居心地の悪い沈黙が辺りを支配した。[lr]
 結局、あれから姉さんは見つからなかった。あの一度、後ろ姿を見ただけだった。[pcm]
 合流してからずっとツインテールは縮こまっている。無言は一番ひどい選択肢だ。みずきは悪くないのに、身勝手にも責めているのと同じ。けれど、言葉を返せなかった。[lr]
 沈黙に耐え切れなくなったように、みずきが再び口火を切った。[lr]
[ld pos=c name="mizu" wear=u pose=3 b=7 e=6a m=10]
「後ろ姿だけなんだよね。見間違いってことは――」[lr]
「姉さんの髪は珍しいし、それはない」[lr]
;;みずき(ショック)
[ld pos=c name="mizu" wear=u pose=4 b=5 e=6a m=5 s=1]
[ld pos=c name="mizu" wear=u pose=3 b=7 e=7a m=9 s=1]
 言葉をさえぎって断言する。――ああ、また。悔やむと同時、みずきがびくんと震えた。罪悪感にさいなまれているのが、目に見えて分かる。[lr]
 逆に疑問さえ浮かんできた。俺が悪いのに、どうしてみずきが苦しんでいるのだろう。[pcm]
[ld pos=c name="mizu" wear=u pose=3 b=7 e=6a m=11 s=1]
「みのるが大声で呼んだんだよね。なのに振り返ってくれなかったんなら――」[lr]
 言われずとも分かっている。認めたくないだけだ。[lr]
;;みずき(落ち込み)
[ld pos=c name="mizu" wear=u pose=3 b=7 e=6a m=10]
「やっぱりそっとしといた方がいいと思う」[lr]
「……だよ、な」[lr]
 結局はそこに行き着く。焦っているのに、選択肢は待機しかない。じれったすぎる。[lr]
;;演出で画面全体を一瞬白く発光。みずき(デフォルト)
@cl
@bg file="white.jpg" time=100
@bg file="mati_a.jpg" time=100
[ld pos=c name="mizu" wear=u pose=3 b=5 e=7a m=9]
 と、みずきのツインテールがちかっと瞬いた。[lr]
「そのままにしてろ。ゴミとってやるから」[lr]
[ld pos=c name="mizu" wear=u pose=3 b=6 e=1a m=10]
 糸くずがくっついていた。そっとマイルドな紅茶色の中で、その一本だけが白く光を放っている。[r]
 摘むとすぐに振り捨てようとしたが、冬の静電気が災いしてまたくっついてしまった。[pcm]
 もう一度摘み上げたとき、ふと違和感に気づいた。[lr]
 ただの糸ではない。しなやかで手触り滑らか。まるで同化するように肌になじむ。[lr]
 やはりそうだ。髪だ。それも白髪とは違う。白に近いが、色はあくまで翠緑。ペールグリーン。[lr]
@playse storage="wind.ogg"
@ws
 ハッとした瞬間、その髪は風にさらわれて飛んでいってしまった。[lr]
「……!」[lr]
 息さえ忘れて手を伸ばす。が、虚しく空気を掴むだけだった。[pcm]
 見間違えようもない。毎日毎日、目にしてきたのだから。クォーターの隔世遺伝の証し。[r]
 街を歩けば誰もの目を引き、ゴシック・ロリィタが生まれ持った衣装のように似合う。まさに中世の姫君のような。[lr]
 姉さんの髪に間違いない。直感だったが、確信だった。[lr]
;;みずき(青ざめ=動揺=照れから頬の赤らみを抜く?)
[ld pos=c name="mizu" wear=u pose=3 b=6 e=1a m=6 s=1]
「ど、どしたの?」[lr]
 みずきの髪の中から姉さんの髪? 混乱する思考。返事ができなかった。[lr]
 乱れた思考は手を離れ、ひとつの仮説を導き出した。[lr]
――まさか。[lr]
 俺は頭を振ってその考えを打ち消した。みずきを疑うなんてどうかしている。[pcm]
 今日もみずきは俺の自己満足に付き合ってくれた。今までもそうだ。そして、きっとこれからも。頼り頼られることのできる最後の希望。[lr]
 俺を孤独にしない、たった一人の人。[lr]
@playse storage="ClothE@16.ogg"
;;みずき(驚き)
[ld pos=c name="mizu" wear=u pose=3 b=6 e=9a m=11 s=1 size=L]
「み、みのるっ!?」[lr]
 とっさに振り払おうともされなかった。懐へ入ると、まるで予想していたように受け止められた。[lr]
 体温。凍えた体に火が灯る。[lr]
 パズルのピースのように互いが上手く噛み合う。やっぱりそうだ。みずきこそが、俺を受け止めてくれる唯一の――。[pcm]
;;伊万里(哀)を一瞬だけ表示。
[imar f="悲しみ" pose=1 pos=l t=1]
@cl pos=l
――え?[pcm]

;;背景『真っ黒』。BGM『Lunatic Lovers~xxx』
@fadeoutbgm time=2000
@cl
@bg file="black.jpg" rule="縦ブラインド(左から右へ)" time=2000
@bgm file="llxxx.ogg"

 流動する闇を漂っていた。粘ついた暗黒はひそやかに息づいている。それはゆっくりとうねり、蠢き、俺の体を地面から引き剥がしていった。[r]
 無重力状態。手足があるのかさえ分からなくなる。意識は深く沈んでゆき、眠りとの境界線を揺らめいていた。[lr]
;;白いもやもやを表示
@bg file="white.jpg" rule="右渦巻き"
 ふと暗黒に白いものが浮かんだ。黒に白の絵の具を流したように、どこからともなく白い靄が立ちこめて視界を覆ってゆく。次の瞬間、それはスクリーンと化した。[lr]
;;イベント絵『伊万里チョコ』表示。
[ld pos=c name="imar" wear=u pose=1 b=3 e=3a m=4 c=1]
 思い出さないようにすればするほど、思い出してしまう。けれど、まだ向き合うことすらできない。答えを聞かれたら、そんな恐怖に駆り立てられるだけだ。[pcm]
 息苦しかった。口に手を入れて喉を通し胸の奥を掻き回したかった。[lr]
 好きなのか。愛しているのか。問いが浮かぶ胸を、滅茶苦茶にしたかった。[lr]
 愛しては、いない。[lr]
 今までそんなこと考えたことがないから。柔らかなものを抱いてはいる。けれど、それが恋心なのかというと言い切れはしない。[lr]
 そもそも今まで生きてきて、女性と付き合ったことがない。だから分からない。この気持ちは恋なのかどうか。[r]
 どうなのだろう。顔を見るだけでどぎまぎする、それだけが恋なのではないと思う。だからといってこの気持ちが恋心だとも言えない。[pcm]
 分からないことが多すぎる。どうすればいいのだろう。どうすればすべてを丸く収めることができるのだろう。[lr]
――欺く。[lr]
 唐突すぎて、一瞬、意味が分からなかった。欺く。欺く。誰を……?[lr]
;;伊万里(哀)
[imar f="悲しみ" pose=1 pos=c t=1]
 アイツの笑顔を失わずに済む。[lr]
;;伊万里(笑み)
[imar f="笑顔" pose=1 pos=c]
 甘美な妄想だった。愛していると言えば、それですべて収まる。偽り騙し欺く。ただそれだけで俺はあの笑顔を失わずに済む。[pcm]
;;背景『携帯のズーム』
@cl
@bg file="black.jpg"
 憑かれたように手が携帯を開き、メールを打ちこんだ。[lr]
『大切な話がある。明日の放課後、学校の屋上で』[lr]
 屋上を選んだのは、自分を追い込むためだった。告白の返事をする場として、これ以上の場所はないだろう。呼び出せば逃げるわけにはいかなくなる。[lr]
 ためらうわけにはいかない。偽り騙し欺く。そう決めたのだから。――アイツの笑顔を失いたくないから。[lr]
 優柔不断に震える指が、ゆっくりとゆっくりとボタンへ近づいていった。触れた。沈めてゆく押しこんでゆく。[lr]
;;SE『ギシッ。床板が軋む音』。背景『ブラックアウト』
@fadeoutbgm time=2000
@playse storage="f11_5.ogg"
@ws
 弾かれたように布団へ潜りこんでいた。胸板の奥では、心臓が暴れていた。[lr]
 通り過ぎてくれ。切に願って、手を拳に固める。肩透かしを受けたようで、決意がうやむやになりかけていた。[pcm]
;;SE『ギシッ』『扉の開く音』。BGM『13と1の誓い』
@playse storage="f11_5.ogg"
@ws
@wait time=1000
@playse storage="DoorOpenE@11.ogg"
@ws
@bgm file="13_1.ogg"
 悪夢が歩き出したとしか思えない。このタイミングで、なぜ。喚きそうになる。みずきの足音が室内へと入ってきた。[lr]
 何か途轍もなくイヤな予感がした。ひたひたと胸の中に夜の海が満ちてゆく。底知れぬ深さ、一筋の黎明も射さない全き闇。決して明けない夜。[lr]
 だというのに、海鳴りはしない。耳の痛くなるような、むしろ静か過ぎる静かさ。まるで暴風の吹く一瞬前のような。[lr]
 寒々とした悪寒が、背筋を駆け抜ける。[pcm]
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;@wb
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[nowait][r][r][r][r]    [endnowait]
「好き」[lr]
;;SE『大海嘯(FFのリヴァイアサンではないです)』。とにかく激しく大きな波の音。
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[nowait][r][r]      [endnowait]
「好きなの。愛してる。だから――」[lr]
[nowait][r][r]         [endnowait]
「捨てないで。置いてかないで」[pcm]
 初めの言葉を受け入れるまでに時間を費やすと同時に次の言葉が耳に入り、凄まじい衝撃に体がばらばらになりそうで失禁しそうなほど震える自分に気づかされて闇悪寒闇闇闇![pcm]
;↑原文 初めの言葉を受け入れるまでに時間を費やすと次の言葉が同時に耳に入り凄まじい衝撃で体がばらばらになりそうで失禁しそうなほど震えている自分に気づかされて闇悪寒闇闇闇!
 ぷっつりと記憶が途切れた。[pcm]
;↑原文 ふっつり ふっつりであってるけど、ぷっつりの方がわかりやすいかなと。
;;三秒ほど空白。
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@fadeoutbgm time=2000
@wb
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 何があったのだろう。みずきは何をしでかしてしまったのだろう。[lr]
 追わなければ。だが体は震えるのみで、どんな命令も受けつけない。[lr]
;;BGM停止。SE『波の音』
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 夜が波のように打ち寄せてくる。沈黙の重圧を感じた。闇に潜む悪魔が俺を嗤っている、そんな妄想を打ち消せない。[r]
 意識がぼやけてゆくのがむしろ心地よかった。夜の波が高く高く打ち寄せてくる。[lr]
;;SE『激しい波の音』
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 荒波にもみくちゃにされながら、俺の意識は闇に閉ざされた。[pcm]
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@wf
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