ヒロインがヤンデレのギャルゲみんなで作ろうぜ!

プロローグ2

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;;@cl
@bg2 file="kyousitu.jpg" rule="縦ブラインド(左から右へ)"

 廊下を全力で走り、急いで教室に駆け込んだ。[lr]
 一時間目の始まりにはぎりぎり間に合ったが、出欠を取る時間には遅れてしまっている。[lr]
;;九暮 基本
「何だ。二人そろって遅刻か。いいご身分だな」[lr]
 担任のググレカスが、ギロリと睨んできた。[lr]
;↓1行追加
 本名は[ruby text="く"]九[ruby text="ぐれ"]暮[ruby text="かず"]和[ruby text="や"]也なのだが、生徒の間ではググレカスとあだ名されている。
 こいつは正直苦手な教師だ。[lr]
 日向先生はわけのわからないときはとことんわけからん感じだけど、普段は教育熱心で優しい先生だ。[lr]
 だから、あんな変な人でも、生徒たちから敬遠されることもない。[lr]
 でもググレカスは違う。[lr]
 教師というには教育意識ゼロ。[lr]
 教える気は無く、自分で調べろとしか言わない。[lr]
 おまけに嫌味が大好きときたものだ。[pcm]
「何か言いたそうだな、藤宮」[lr]
「俺たちは……」[lr]
「言い訳は見苦しいぞ」[lr]
 まだその言い訳もしてないのだが。[lr]
 ググレカスはいつもこうだ。[lr]
 遅刻した生徒が別の生徒だったら、あるいはこの男の対応も違ったのだろう。[lr]
 しかし、残念ながら自分はググレカスに目をつけられてしまっていた。[lr]
 ググレカスと呼んでいたのがばれたのが原因なので、自業自得と言えばそうなのだが。[pcm]
「ともかく、二人とも遅刻だ。まったく、冬休み明けから、どうしようもない連中だな」[lr]
 嘆かわしいと、大仰にググレカスは首を振った。[lr]
「委員長も災難だったな。真面目なお前のことだし、大方そのカスが起こした面倒に巻き込まれただけなんだろうが……まあ、遅刻は遅刻だからな」[lr]
;;@cl
;;九暮を画面左に表示
@ld pos=rc name="yuri" wear=u pose=1 b=1 e=1a m=6
「はあ……」[lr]
 委員長は何を言うでもなく、適当な返事を返すのみだ。[pcm]
「本当に、そんなカスに関わったばかりになあ。しかし、先生も委員長だからといって贔屓するわけにはいかないからな」[lr]
「はあ……」[lr]
「あれだ、これからは、付き合う人間は選んだ方がいいぞ、うん」[lr]
;↑原文 これからは、関わる人間は選んだ方が
@ld pos=rc name="yuri" wear=u pose=1 b=1 e=1a m=5
「……」[pcm]
;;九暮立ち絵消え
@cl
@ld pos=c name="yuri" wear=u pose=1 b=1 e=1a m=3
 一通り言いたいことを言って、ググレカスは教室を出て行った。[lr]
 入れ違いで一時間目の担当教諭が教室に入ってくる。[lr]
 慌てて自分たちの席に座った。[pcm]
「ごめん」[lr]
@ld pos=c name="yuri" wear=u pose=1 b=6 e=6a m=6
「え? 何がですか?」[lr]
「俺のせいで、遅刻になっちゃって」[lr]
@ld pos=c name="yuri" wear=u pose=1 b=1 e=1a m=3
「藤宮君のせいではないと思いますけど」[lr]
「いや、実験の手伝いで遅れたって言えば、普通は許してくれただろ。言い訳すら許されなかったのは、俺があいつに嫌われてるからで……」[lr]
;@ld pos=c name="yuri" wear=u pose=1 b=1 e=1a m=1
「そんな、藤宮君が嫌われてるなんてことはありませんよ」[lr]
 いや、嫌われてるんだ。[lr]
 委員長は、俺があいつをググレカスと呼んでるの知らないんだろうけど。[pcm]
「九暮先生があんな言い方をしたのは、藤宮君に立派な人物になって欲しいという、期待の表れだと思いますよ。本当に嫌いなら、もっと適当に済ますはずですから」[lr]
「……委員長……それも善意に解釈し過ぎだと思うよ」[lr]
 あの男は、絶対私怨で厳しくしてるだけだと思う。[lr]
 委員長は鈍いのだろうか。[lr]
 いや、やはり懐が広いというか、いい人なんだろう。[pcm]
@ld pos=c name="yuri" wear=u pose=1 b=4 e=3a m=3
「それに、遅刻そのものの原因は私ですから」[lr]
「え? 何をどう考えたらそうなるんだ?」[lr]
@ld pos=c name="yuri" wear=u pose=1 b=4 e=4a m=3
「私が、日向先生を不快な気持ちにさせなければ、もっと早くに実験の準備は終わっていたでしょうし」[lr]
「それをいうなら、そもそも俺が遅れなければ、委員長が日向先生に呼び出されることも無かっただろ? やっぱり俺が原因だよ」[lr]
;@ld pos=c name="yuri" wear=u pose=1 b=4 e=4a m=4
「そんなことはありませんよ。私がでしゃばったせいです」[lr]
「いや、絶対悪いのは俺だから」[lr]
@cl
[playse storage="se3.ogg"]
 よくわからない言い合いをしているうちに授業開始のチャイムが鳴る。[pcm]
「あ……教科書……」[lr]
 教科書を出そうとして、鞄の中に教科書が入っていないことに気がついた。[lr]
 どうやら忘れてしまったらしい。[lr]
「今朝は急いで出たからな……」[lr]
@ld pos=c name="yuri" wear=u pose=1 b=1 e=1a m=1
「はい、どうぞ」[lr]
「え?」[pcm]
@fadeoutse time=1000
 委員長が俺の机の上に教科書を置いた。[lr]
「委員長?」[lr]
「どうぞ使ってください」[lr]
「え、でも、俺が使うと、委員長が見られないと思うんだけど」[lr]
「このあたりの範囲は一通り覚えていますから。大丈夫ですよ」[lr]
「そうなの?」[lr]
@ld pos=c name="yuri" wear=u pose=1 b=1 e=2a m=1
「ええ。英語の勉強は、教科書を丸暗記することにしてるんですよ」[lr]
 いくら委員長が頭が良くても、そこまでしているものだろうか。[lr]
 俺に気を遣ってるとか……?[pcm]
 俺の視線を読んでか、委員長は眉の端を下げて笑いかけてきた。[lr]
@ld pos=c name="yuri" wear=u pose=1 b=1 e=1a m=1
「そうですね。遅刻させてしまったことへの罪滅ぼしもあります。でも本当に私は大丈夫ですから」[lr]
「でも……」[lr]
「遅刻したのは二人が悪いのかも知れませんけど……ほら、私のせいで、藤宮君には怪我までさせてしまいましたから。どうかこのあたりで収めてください」[lr]
 委員長は俺の頬を指差す。[lr]
 日向先生ともみ合ったときのかすり傷がついていた。[lr]
 委員長のせいというか、これは日向先生の方が悪いと思うのだが。[pcm]
「ん……まあ、それで委員長が気にしなくなってくれるなら、いいんだけどさ」[lr]
@ld pos=c name="yuri" wear=u pose=1 b=2 e=2a m=3
「ええ。これくらいさせてください」[lr]
「……それにしてもさ」[lr]
 授業を進める先生に見つからぬよう、小声で尋ねた。[lr]
@ld pos=c name="yuri" wear=u pose=1 b=1 e=1a m=3
「さっき実験室に入ったとき、どうして動かずにいたんだ? 日向先生じゃないけど、それこそ電波を受けてるみたいだったぞ」[lr]
@ld pos=c name="yuri" wear=u pose=1 b=6 e=6a m=6 c=1
「あ、あれは……その……」[lr]
「言いにくかったらいいんだけどさ」[lr]
@ld pos=c name="yuri" wear=u pose=1 b=4 e=4a m=4 c=1
「笑わないでくださいね」[lr]
 委員長は白い頬を赤く染めて、小さな声で言った。[pcm]
@ld pos=c name="yuri" wear=u pose=1 b=1 e=1a m=1 c=1
「あの……実験室に入ったら、暖かくて、眼鏡が曇ってしまいまして……」[lr]
「うん?」[lr]
「それで……前が見えなくなってしまって……眼鏡を外して拭こうと思ったんですが、でも眼鏡を外してしまったらそれはそれで見えなくなるじゃないですか。」[pcm]
「拭かなきゃ見えないし、拭こうとしても見えないしで、どうしようどうしようと板ばさみで悩んでいたら、そのうちわけがわからなくなってしまって……」[lr]
 話し終えた時には、委員長の顔は真っ赤だった。[lr]
@ld pos=c name="yuri" wear=u pose=1 b=4 e=3a m=3 c=1
「お恥ずかしい限りです……」[lr]
「い、いや、まあ……なるほどね」[lr]
@ld pos=c name="yuri" wear=u pose=1 b=4 e=4a m=3
「変ですよね。そんなどうでもいいことで悩むなんて」[lr]
「いや、変じゃないし、恥ずかしいことでも無いと思うよ、うん」[lr]
 ……確かにあまり無いことだが、そう、やはり委員長は真面目なのだろう。[lr]
 真面目だから、普通は悩まないことをとことん悩むのだろう。[pcm]
 笑わないでくれと言われたからには笑わない。[lr]
 笑わない。[lr]
 ……が、どうしても笑いが込み上げてくる。[lr]
@ld pos=c name="yuri" wear=u pose=1 b=4 e=4a m=4 c=1
「あの……藤宮君、笑いたければ、笑ってくださいね。その方が私も、自分の愚かさが身に染みてわかりますから……」[lr]
「い、いや、別におかしくなんかないし、笑わないよ」[lr]
;@ld pos=c name="yuri" wear=u pose=1 b=4 e=4a m=4 c=1 t=1
「では、怒ってるんですね……先ほどから頬を引きつらせて……」[lr]
「いや! それは違う! 怒ってるわけじゃない!」[lr]
「そうですよね。こんな馬鹿らしい理由で日向先生を不快にさせてしまった私を、怒らないわけが……」[lr]
「……笑わせていただきます。ごめん、正直面白かった。怒ってはいないんだ、本当に」[lr]
 悪いと思ったが、声を殺して笑う。[pcm]
;@ld pos=c name="yuri" wear=u pose=1 b=4 e=4a m=4
「うぅ……眼鏡じゃなければいいんですけど……」[lr]
 そんなことを言いながら、委員長はしょんぼりとした様子で授業を受けていた。[pcm]

@fadeoutbgm time=1000
@cl
@bg2 file="kyousitu.jpg" rule="縦ブラインド(左から右へ)"
@bgm file="theH.ogg"
@playse storage="se3.ogg"
;;SE ざわ……ざわ…… 1回
 午前の授業の終わりを告げるチャイムの音と共に、教室内がにわかにざわめき出す。[lr]
 日直の号令に合わせた終了の礼もそこそこに、素早い奴はまだ教師が教壇を降りるか降りないかくらいのところで既に廊下に飛び出している。[lr]
 昼休み。それは俺たち育ち盛りの高校生にとっては至福の時でもあり、また一方でそれは戦いの時でもあった。[pcm]
「あー……ねむ」[lr]
 しかし俺自身は言うと、そんな飢えた獣達を横目に見ながら一つ大あくびをしただけ。[lr]
 正直なところ、今の俺に必要なのは腹を満たす学食のランチよりも、心を満たす一時の睡眠時間だった。[pcm]
「うーん……こんなんだからまたみずきに怒られるんだよな」[lr]
『ちゃんと一日三食バランス良く取らなきゃダメでしょ!』と俺を叱る世話焼きの友人の顔を思い浮かべて苦笑する。[lr]
「いや、わかっちゃいるんだけど逆らえないんだよな」[lr]
 頭の中のみずきに脳内で手を合わせて、俺は手頃な昼寝場所を探して教室を出た。[pcm]
@fadeoutse time=1000
@bg file="rouka1.jpg" rule="縦ブラインド(左から右へ)"
;;SE ざわ……ざわ…… 1回
 とりあえず……図書室でも行ってみるか。[lr]
 これが春や秋なら屋上の日だまりの中でゆったり、というのが定番なんだが、この季節にそれは自殺行為になってしまう。[lr]
 そう言えば凍死は気持ちいいとか何かの本で読んだ気がする。冬の明け方の布団の中とどっちが気持ちいいのか体験してみたい気もするが、多分臨死体験どころじゃすまないだろうからやめておこう。[pcm]
 そんなどうでもいいことを考えながら歩いていると、突然目の前をダンボールが横切った。[lr]
「……へ?」[lr]
 確かに、今ダンボールが目の前を。[pcm]
@ld pos=c name="saki" wear=u pose=1 b=4 e=6a m=2
 驚いてそちらを見ると、両手でなんとか抱えられるくらいの大きさのダンボールを自分の背丈よりも高く積んだ女生徒が、よろよろと頼りなげな足取りで階段に向かって歩いていく。[lr]
 あれは……やばい。[lr]
 俺はほとんど直感的に危険を察知し、その女生徒に向かって叫んだ。[lr]
「危ない、前、階段!」[lr]
@ld pos=c name="saki" wear=u pose=1 b=3 e=7a m=4
「え? ……きゃぁっ!」[lr]
;;立ち絵 早紀 揺らした後画面下へフェードアウト(?)
 俺の声に驚いたのか、女生徒は振り向こうとしたところでバランスを崩して尻餅をつきそうになる。[pcm]
 俺はとっさに手を伸ばして彼女の肩を支えた。[lr]
「おっとっと」[lr]
 さらにもう片方の手で倒れかかってくるダンボールを支える。[lr]
 ふう、とりあえず事故は免れたらしい。[lr]
 ……いや、それとも俺のせいで事故りそうになったのか?[pcm]
@fadeoutbgm time=1000
;;立ち絵 早紀(笑顔) 画面下からイン(?)
@ld pos=c name="saki" wear=u pose=1 b=1 e=1a m=1
@bgm file="midorinogogo.ogg"
「驚いたあ……ありがとう、稔くん」[lr]
 女生徒はよいしょ、と一度荷物を床に下ろすとそう言って俺に微笑みかけてくれた。[pcm]
 綺麗なウェーブのかかった長い髪を腰まで伸ばし、最近の生徒では珍しい膝下丈のスカート、ハーフコートは前ボタンきちんと締めて、その笑顔はウチの学校の全女子の中でも多分トップクラスの可愛らしさだと思う。[lr]
 それに……コートの上からでもはっきりとわかるくらいの、とても豊かな……胸。[lr]
@ld pos=c name="saki" wear=u pose=1 b=3 e=7a m=4 size=L
「? どうしたの稔くん」[lr]
 俺が硬直して二の句を継げないでいると、彼女は不思議そうな顔で俺を真正面からのぞき込んできた。[lr]
「え、あ、いや、こちらこそ余計なことしちゃったみたいで」[lr]
@ld pos=c name="saki" wear=u pose=1 b=1 e=8a m=1 size=L
「ううん、あのままだと多分階段で転んでたと思うから。ありがとうね」[lr]
 今度はさっきよりも間近で微笑んでくれた、その姿に心臓の鼓動が明らかに早くなるのを感じる。[pcm]
@ld pos=c name="saki" wear=u pose=1 b=1 e=1a m=1
「さて、じゃ私はこれ運ばないといけないから」[lr]
 よいしょ、と再びダンボールを抱えようとする彼女に、[lr]
「あ、ちょっと待って……」[lr]
 と引き留めようとして、はた、と俺は気付いた。[lr]
「あ、あの、どうして俺の名前を?」[lr]
 そうだ、この人は最初から俺を「稔くん」と呼んでいた。[lr]
@ld pos=c name="saki" wear=u pose=1 b=4 e=8a m=1
「え? やだぁ、もう、何言ってるのよぉ」[lr]
 クスクス、と笑う彼女の顔をじっ、と見つめる。[lr]
 確かに、そう言えばこの人には見覚えがある気がする。[lr]
 これだけ可愛くて、胸……じゃなくスタイルがいい人なら、例え一瞬すれ違っただけでも間違いなく印象に残る。[lr]
 俺は必死で記憶を辿り。[lr]
「あー……あ、ああ、姉さんのクラスの!」[lr]
@ld pos=c name="saki" wear=u pose=1 b=1 e=8a m=1
「そう、ひめっちのお友達の[ruby text="よも"]蓬[ruby text="やま"]山[ruby text="さ"]早[ruby text="き"]紀よ」[lr]
 そうだ、確か姉さんの教室に忘れ物を届けに行った時とか、取り次いでもらった気がする。[pcm]
 姉さんからも何度か話を聞いたり、そう言えば校内で忙しそうにしてる姿を時々見かけていたような記憶もある。[lr]
「えっと、でもどうして俺のことを?」[lr]
 聞いてから、俺はすぐその質問は意味が無いなと思った。[lr]
 俺のことを知ってるとしたら、それは姉さん経由に決まってるよな。[lr]
@ld pos=c name="saki" wear=u pose=1 b=1 e=1a m=1
「それはもう、ひめっちからよく話を聞いてるから。それに、教室にも何度か来たでしょ?」[lr]
 果たして先輩からは、予想した通りの答えが返ってきた。[lr]
「けど、ほとんど会話もしてないですし……先輩、記憶力いいんですね」[lr]
@ld pos=c name="saki" wear=u pose=1 b=3 e=7a m=4
「えぇ、そんなことないわよぉ? ただあのひめっちの弟さんだもの。よく話も聞いていたしね」[lr]
 あのひめっち、という言葉に込められた意味を感じ取りつつ、そこは突っ込まないようにしておいた。何にしても、こんな可愛い……いや、年上にその表現は失礼なんだろうか……人に、自分が覚えられていたというのは嬉しい。[pcm]
「それ、運ぶの手伝いますよ。先輩は前で先導してください」[lr]
 俺は積み重なったダンボールをまとめて抱え上げた。中身はほとんど入っていないようで重さはほとんど感じなかったが、女子が一人で運ぶにはちょっとサイズが大きすぎる。[lr]
@ld pos=c name="saki" wear=u pose=1 b=4 e=6a m=5
「え、そんな、そこまでしてもらったら申し訳ないから」[lr]
 先輩は慌ててダンボールを俺から奪おうとする。[lr]
「おっと、先輩、危ないですって」[lr]
 言われて、あ、と手を引く先輩。だがその表情には申し訳無い感と、ほんのちょっとだけ不満そうな……? 様子が見て取れた。[lr]
@ld pos=c name="saki" wear=u pose=1 b=5 e=6a m=3
「と、とにかく、これは私が頼まれた仕事だし」[lr]
 もう一度、今度は反対側からしっかりダンボールを抱えて俺から引き離そうとする先輩。その真剣な表情に俺は思わず苦笑して、[lr]
「先輩、じゃ、せめて半分ずつにしませんか」[lr]
 と提案した。[pcm]
@ld pos=c name="saki" wear=u pose=1 b=3 e=7a m=4
「え?」[lr]
「俺に持って貰うのは申し訳無い先輩、ここで手伝わないのは男がすたる俺、ここは仲良く半分ずつ我慢ってことでどうでしょう」[lr]
 俺のその提案に、先輩はまたあの優しい微笑みで答えてくれた。[lr]
@ld pos=c name="saki" wear=u pose=1 b=4 e=8a m=1
「うん、じゃあ、仲良く半分ずつで行きましょうか」[lr]
 よいしょ、と上に乗っかっているダンボールを下ろして抱える。[lr]
「これをどこまで?」[lr]
@ld pos=c name="saki" wear=u pose=1 b=1 e=1a m=1
「職員室まで。先生に言われてね」[lr]
 こんな可愛い人にこんな大きなダンボール運びを頼むなんて、その教師はきっと先輩の優しさに日頃からつけこんであれこれと無茶を言っている極悪教師に違いない。[lr]
 俺は頭の中でその顔もわからない教師をボコボコにしながら、先輩と仲良く二人並んで歩き出した。[pcm]
「……あれ? そう言えば先輩、なんで学校に来てるんです?」[lr]
 この時期、三年生の姿を校内で見かけるのは珍しい。[lr]
 ほとんどの生徒は今は受験の真っ直中だし、進学以外の道を選択した人や推薦で既に進路が決まっている人達なんかも、わざわざ授業があるわけでもないのに学校まで来てその上先生の手伝いまでするなんてことはまずないと思う。[lr]
 姉さんは家に一人でいてもヒマだからと学校に[ruby text="・"]遊[ruby text="・"]びに来ているが、もうあの人は論外だし。[lr]
 ……しかし、どうやらこの人の良さそうな先輩は数少ない例外だったらしい。[pcm]
@ld pos=c name="saki" wear=u pose=1 b=1 e=8a m=1
「私、大学はもう推薦で決まってるからね。今はこれといってやることもないから、色々と学校のお手伝いしてるの」[lr]
 さも当然のことのように言う先輩に、ちょっとだけ自分が情けなくなってきたりもした。[lr]
 なんて真面目でいい人なんだ……。[lr]
 しかし、確かにそういう目で見てみると、この先輩は人に何か頼まれたら断れなさそうなタイプに見える。[lr]
 いや、それとも逆に意外と厳しかったりして。[lr]
 この先輩になら叱られても楽しそうだな……[pcm]
@ld pos=c name="saki" wear=u pose=1 b=2 e=2a m=1
「? なに、どうしたの私の顔なんてじっと見て」[lr]
「あ、いえいえ別に何でもないです」[lr]
 慌てて首を振る。どうやら自分でも気付かない内に見つめてしまっていたらしい。[pcm]

@cl
@bg2 file="rouka.jpg" rule="縦ブラインド(左から右へ)"

 そうこうしている内に、気付けばあっという間に職員室まできてしまった。[lr]
 ああ、先輩を見かけるのがせめてもうちょっと早かったら、もっと楽しく会話できたのに。[lr]
「あ、先生?」[lr]
 先輩が職員室の中に声をかけると、奥から出てきたのは先輩と姉さんのクラスの担任だった。名前は……よく覚えていない。[lr]
「おお蓬山、なんだ彼氏に手伝ってもらったのか?」[lr]
 横に立つ俺をみて豪快に笑う先生。[lr]
@ld pos=c name="saki" wear=u pose=1 b=5 e=8a m=3
「もぉ、ひめっちの弟さんですよぉ」[lr]
「ほう、藤宮の?」[lr]
 そうか、担任なんだから姉さんのことも知ってて当たり前だよな。[pcm]
@cl
「はい、二年の藤宮稔です」[lr]
「おお、そうかそうか。それはわざわざすまなかったな」[lr]
 俺の肩を大きな手で一つ叩いて、また声を上げて笑う。[lr]
「荷物はそこに置いておいていいぞ。後は俺の方でやるから」[lr]
@ld pos=c name="saki" wear=u pose=1 b=1 e=1a m=1
「はい、それじゃ失礼しますね」[lr]
 ぺこり、と頭を下げる先輩につられて、俺も軽く会釈をする。[pcm]
@ld pos=c name="saki" wear=u pose=1 b=1 e=8a m=1
「さて、稔君はこれからお昼ご飯?」[lr]
「いえそれが、あんまり腹空いてないんですよ。むしろ眠たいんで、どこかで昼寝でもしようかと思ってたとこで」[lr]
 と言いつつも、今は先輩のおかげですっかり眠気も吹き飛んでしまったけど。[lr]
@ld pos=c name="saki" wear=u pose=1 b=3 e=7a m=4
「そうなんだ、男子でお昼休みにお腹が空かないなんて珍しいね」[lr]
「ええ、俺もそう思います」[lr]
 実際腹が減るときはもう三時間目で我慢できないくらいに減ることもあるが、どういうわけかまるで食欲がわかない日もある。[lr]
 もっともそういう日は大概、食欲より睡眠欲の方が勝っている場合だ。でなければ風邪。[lr]
@ld pos=c name="saki" wear=u pose=1 b=1 e=5a m=1
「お昼寝ね……」[lr]
 ふむ、と先輩は顎に手をあてて何か考えていたが、[lr]
@ld pos=c name="saki" wear=u pose=1 b=1 e=1a m=1
「じゃあ、いいところ行こうか?」[lr]
 と不意に俺の手を取って、とんでもないことを言ってきた。[pcm]
「え、え、いいところって何ですか?」[lr]
 いきなり心臓がバクバク言い出してしどろもどろになった俺を、[lr]
@ld pos=c name="saki" wear=u pose=1 b=2 e=2a m=1
「それを聞くなら『どこですか』じゃないの?」[lr]
@ld pos=c name="saki" wear=u pose=1 b=1 e=1a m=1
 おかしな稔くんね、と言って笑う先輩。[lr]
@ld pos=c name="saki" wear=u pose=1 b=1 e=8a m=1
「こっち、ついてきて」[lr]
 と先輩が手を引っ張って歩き出したので、俺も慌てて後を追う。[lr]
「大丈夫、すぐそこだから」[pcm]

@cl
@bg2 file="kaidan2.jpg" rule="縦ブラインド(左から右へ)"

 職員室脇の階段を登る。この上は各教科の準備室なんかがある階で、生徒が立ち入ることはほとんど無い。[lr]
 かく言う俺も高校生活ほぼ二年になるが、この階に来たという記憶が無い。来るとすれば先生の手伝いだが、日向先生なんかはだいたい物理実験室にいるしなあ。[lr]
「ほら、ここよ」[lr]
 先輩はポケットからカギを取り出して、目の前のドアをガチャリと開ける。[pcm]

@bg2 file="kaigi.jpg" rule="縦ブラインド(左から右へ)"

「ここって……」[lr]
 ドアの表示板に書かれているのは、『生徒会室』の文字。[lr]
 そう言えば、この部屋は確かにこのあたりだったような気もする。いかんせん来ることが無いので全く覚えていなかったが。[pcm]
@ld pos=c name="saki" wear=u pose=1 b=1 e=8a m=1
「今なら誰もこないし、ここは長椅子があってお昼寝には丁度いいよ」[lr]
 その口ぶりだと、何度かここで昼寝したことがあるんだろうか?[lr]
 先輩は長椅子の端に腰を下ろして、ぱんぱん、と自分の隣のシートを叩いた。[lr]
 ここに座って、という意味なんだろうと思い、言われた通りにする。[lr]
 と、先輩はくいっと俺の肩をつかんで自分の方へ引っ張った。[pcm]
@ld pos=c name="saki" wear=u pose=1 b=1 e=8a m=1 size=L
「おっと」[lr]
 先輩にもたれかかる体勢になった俺の頭を抱えて、自分の膝の上に乗せる。[lr]
「え、え、ええ!?」[lr]
@ld pos=c name="saki" wear=u pose=1 b=1 e=1a m=1 size=L
;;BGM 良い雰囲気(?)
「手伝ってくれたお礼だよ」[lr]
 ……これは、膝枕というやつだ。[lr]
 しかも女子の。今まで母さん、姉さん、みずきの三人にしかしてもらったことがない男子の本懐の一つ。待てよ、伊万里もしてくれたような気もしないでもないが、まあいいか。[pcm]
 見上げれば、目の前には大きな二つの山がそびえ立ち、その谷間から見えるのは先輩の笑顔。[lr]
「い、いや、そんなことしてもらうわけには」[lr]
 口ではそう言っているが、俺は起こそうと思えば簡単に起こせる筈の自分の身体を、どうしても制御できなかった。[lr]
「いいからいいから。私もちょっと休憩しようかと思ってたのよ」[lr]
 先輩の手が俺の髪を梳いてくれる。[pcm]
「は、はあ……じ、じゃあ、お言葉に甘えます」[lr]
 ちょっとダンボール運びを手伝っただけで何故ここまでしてくれるのかとか、そもそも先輩が何故生徒会室に自由に出入りできるのかとか、見上げた拍子にシャツのボタンの隙間から一瞬だけブラのピンク色が覗いたとか、頭の中では色々なことが渦巻いていたが、今は黙って目を閉じることにした。[pcm]

@cl
@bg file="black.jpg" rule="縦ブラインド(左から右へ)"

 先輩の体温、息づかいを感じる。[lr]
 このまま寝てしまうなんてもったいなさ過ぎる。[lr]
 頭ではそう考えていたが、いかんせんもともと眠かったのは確かなので、一時目がさえていたとは言え横になって目を閉じてしまうとまた急に眠気が襲ってきたのも事実だった。[lr]
「ん……」[lr]
 かすかに聞こえる先輩の呼吸が規則正しくなる。[lr]
 その音に合わせ、[l]自分も、[l]いつの間にか、[l]眠って、[l]しまって、[l][fadeoutbgm time=1000]いた……[pcm]

 ……[pcm]

 …………[pcm]

 ………………[pcm]

「稔くん、そろそろ時間だよ」[lr]
「ん……あ、すいません」[lr]

@bg file="kaigi.jpg" rule="縦ブラインド(左から右へ)"
@bgm file="midorinogogo.ogg"

 ちら、と時計を見る。五限開始五分前。二十分ほど寝た計算か。[lr]
 よいしょ、と身体を起こす。至福の時というのは、どうしてこんなにも短いのだろうか。[lr]
@ld pos=c name="saki" wear=u pose=1 b=2 e=2a m=1
「髪の毛がちょっと乱れてるね」[lr]
 先輩が手櫛で俺の髪を整えてくれた。[lr]
「あの……、先輩すいません、なんか色々してもらっちゃって」[lr]
@ld pos=c name="saki" wear=u pose=1 b=1 e=1a m=1
「ううん、こちらこそ、手伝ってくれてありがとう」[lr]
 二人して、向かい合って頭を下げる。[lr]
 その姿が面白くて、俺も先輩も思わず笑ってしまった。[pcm]
@ld pos=c name="saki" wear=u pose=1 b=3 e=7a m=4
「あ、ほら、私はいいけど、稔君はもう戻らなくちゃ」[lr]
 先輩が時計を指差す。たしかにもう始業のチャイムギリギリだ。[lr]
「あ、はい、先輩、また!」[lr]
@ld pos=c name="saki" wear=u pose=1 b=1 e=8a m=1
「うん、またね」[lr]
 手を振る先輩の、今日何度も見せてくれたその優しい笑顔をしっかりと目に焼き付けつつ、俺は教室へ向かった。[lr]
 頬の辺りには、まだ先輩の太股の暖かい感触が残っていた。[pcm]



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@cl
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