連結による内部衝突問題 検討の余地あり
Yahoo!知恵袋より。2球を連結したことによって系内部にエネルギー散逸を生じる運動。

【問題】

図のような(陸上競技のトラックのような)半円と直線でできたレールにそって小球を滑らせる。摩擦や抵抗が無視できれば小球は初速度を保って滑り続ける。

次に2個の小球を軽い棒で連結し同じ実験をすると小球は減速し停止する。なぜか?
最初のエネルギーは何に変換されたか?


他の回答者とのやりとりは極力のぞいて,ほぼそのまま転載させていただく。

棒による束縛によって2つの小球の距離が拘束されています。束縛がなければ,小球はレールに沿った等速を保ちますが,束縛があることで等速を保てなくなります。

2つの小球をつながないで滑らせた場合,2球は曲線部分でもレールにそった長さにおいて等間隔を保ちますが,これは棒でつながれたときに保たれる「等距離」にならないことはおわかりでしょう?

棒でつながれている場合には,先に曲線部分に入った球は前に押され,後ろの球は後ろに押されることになります。また,曲線部分を抜け出すときにはこの逆のことが起こります。棒でつながれている場合,2球にある種の「非弾性衝突」が起こっているわけです。

連結した2小球の運動エネルギーは,この「非弾性衝突」によって熱となって散逸することになります。

図はAlgodooによるシミュレーションで,右回りに数周した後の様子です。棒でつながれた右の方が周回が遅れています。

※若干の補足

やや混乱が見られるようですのでコメントします。他の回答に
「直線から曲線に入る時に線路から重心に対して仕事が為されます。」
とあります。もちろんこのように見ることは可能です。
しかし,その仕事が熱となって散逸している点が見逃されています。

バトン(今回の系を仮にこう呼びます)が半円に入ったときにすでに減速して運動エネルギーを減じているのに,それが半円からの脱出で復活するわけはどこにもありません。
ここですでに時間反転に対して対称でない不可逆仮定が起こっています。つまり,先端球が半円に入ったその瞬間から後端球が入るまでの間に2球は棒を介して「非弾性衝突」を起こしており,運動エネルギーの一部が熱となって散逸してしまうのです。この散逸はバトンが半円を脱出するときにも起こります。

熱の散逸を棒に求めないのであれば,レール壁の一時的変形や摩擦に置き換えてもいいのです。いずれにせよ,2球間の距離が一定という束縛が,非弾性衝突を余儀なくしていることになります。小球もレールも理想的で無摩擦・無変形と設定したら,熱の散逸は棒に求めざるをえません。

念のために申し添えますが,バトンが半円に入ったとき運動エネルギーの行き先をバトンの回転に求めることはできません。バトンの運動エネルギーは小球の運動エネルギーのみ(これをバトンの重心運動エネルギーと回転エネルギーに分けることは可能)であり,「軽い」=質量が無視できる棒が回転のエネルギーを担うことはできないからです。

(上の部分は誤りである。速度に不連続はないことに注意)

※補足について

「非弾性衝突」は広義の意味で使っているのでご留意ください。
棒の質量ゼロと非弾性衝突は無関係です。

うーん。私は理論計算はおろか,数値計算もしてはいませんので,四面楚歌で自信がなくなってきました。
でも…
前球が半円に入ったときに前球は加速し,後球は減速しますよね?
そして後球が半円に入った後は両者は等しい速さをもたねばなりません。
いずれにせよ,速さが突然変わることになりませんか?
これは,小球が撃力を受けているからではないのですか?
あっそうか,完全弾性撃力を受けると考えればいいのですね?

私が棒を介した「衝突」と表現したのはこの部分の現象ですが,弾性的であっても仮想上はおかしくないですね。しかし,この部分が「実験」では起こりそうにないことなのだろうと私には思われました。

私はこのときの撃力が理論上も完全弾性的なものではありえないという先入観にとらわれていたかもしれません。そのためにヘタな口出しをして混乱させてしまったかもしれませんね。その点はおわびします。m_ _ m

運動方程式はこれから検討させていただきます。 もちろん,力学的エネルギー保存と運動の減衰は両立するはずもありませんね。


※さらなる補足

出題者の意図をくみとりたいと考えます。

はじめから力学的エネルギーの損失を問題にしており,損失のない相互作用を前提とした運動方程式やホロノミックな束縛のみを仮定したラグランジアンの方向に答えがないことは明らかです。そうした単純化において見落とされていることは何かを問うているのではありませんか?応用物理学上,工学上重要な現実的視点を求めているのだと思います。

ポイントはバトンが半円に出入りするときに生じる2球の不連続的な運動量交換にあります。摩擦や抵抗を無視している以上,系内部の力学的構造すなわち棒そのものや連結における力学的性質に目を向けざるをえません。2球の速さが不連続に変化するとき2球は棒との連結において撃力を及ぼし合います。これが「完全弾性的」であれば損失はないわけです。しかし,完全弾性的でなおかつ剛体としての一体性を保持するという単純化はそれ自体に矛盾を内包しており,技術的には摩擦や抵抗とはさらに1ランク上の難物です。そこに目を向けさせるのが題意であり,単純化に慣れきっているとイジワルにしか見えない悪問に感じられますが,私はむしろ現実に横たわる問題を意識させてくれる良問であると思いました。

あらためて解答を提案します。シンプルでイジワルな問題をもう一度熟読してみて下さい。

「2球が半円内に入りきった瞬間および半円から脱出する瞬間において,2球は不連続な速度変化を強制される。つまり棒による連結を介して運動量を瞬間的に交換する撃力を及ぼし合う。このとき無限小の時間に無限大の力が作用し,有限の力積を及ぼし合うことになるが,そのためには棒および連結は完全弾性的かつ剛体としての一体性を保持しなければならない。これは現実にはありえず,『実験』ではこの『衝突』は非弾性的に起こり,力学的エネルギーの散逸を生じる。その行き先は系の内部エネルギー(熱としての散逸)に他ならない」

モデルとして連結を直線を保つ強いばねに置き換えてみます。前球が半円に入った後からばねは縮んでいきます。そして後球が半円に入りきったとき瞬間的にばねは解放されて振動をはじめます。これが「内部エネルギー」のよいマクロモデルとなります。しかし,2球は距離を保つ(ここですでに矛盾が生じていますが)ために振動は減衰し,バトンが半球を出ていくときに逆の過程で同様の現象が起こるわけです。もちろん,このモデルでは力学的エネルギー散逸の原因はばねの振動の減衰に求められます。

最後に【補足】にきちんと応えていないことに気づきました。

現実に起こるエネルギー散逸の場合,事情は単一の棒でも同じです。エネルギー散逸を考える以上,内部のミクロな力学的性質に目を向けざるをえません。棒を微小部分に分けて考えると多数の質点とそれを連結する「軽い」棒(または強いばね)に置き換えることができます。このとき棒が質量をもち,したがってまた慣性モーメント(回転の慣性)をもつにいたったことは,力学的エネルギー散逸の直接の原因にはなりえません。その原因はやはり連結を介して起こる微小部分どうしの「非弾性衝突」に求められます。マクロな観点ではこれは棒の「非弾性的な(一時的)変形」または棒内部を伝わる弾性波とその減衰に求めることができます。

(上の部分に誤りがある。非弾性衝突は実験的可能性であって,理論的には速度と運動量変化に不連続はない。)


最終更新:2013年01月29日 18:11