最近、唯先輩がおかしい。
何がおかしいって、全く抱きついて来なくなった。
元々抱きついてくる方がおかしいんだけど、
何だかそれが日常になってしまったので抱きつかれないと何だか落ち着かない。
これが普通だし、別に特に困るとか、そう言う訳じゃない。
そう言う訳じゃないけど。
いや、それより今の問題は、私の手の中にあるコレについて。
何と言うか、まあ直接的に言えば
ラブレターと言う物だ
今日登校して下駄箱を開けたら入っていた。
差出人は知らない名前、学年とクラスも書いてある。
唯先輩と同じ学年で違うクラスだ。
私を好きだと言う事と今日の
放課後屋上に来て欲しいと書いてある。
好意を持ってもらえる事は嬉しいけど顔も知らない人から言われても、
正直どうすれば良いのかわからない。ましてや先輩だし。
屋上で何を言われるかもさすがに想像がつく。
「うーん…」
結局何も良い考えが浮かばないまま放課後になってしまった。
律先輩へ部活に遅れる事をメールして私は屋上に向かう。
手紙の差出人と思わしき人はすでに屋上に来ていた。
ショートカットでかわいい感じの人だ。
雰囲気が少しだけ唯先輩に似てるかもしれない。
「あの…」
「来てくれてありがとう」
「あ、いえ」
「突然で驚いたでしょ。ごめんね」
「あの、ええ少し」
「どうして呼びだしたかはわかってると思うけど直接顔を見て話したかったの」
「はい」
「話をした事もない人からこんな事を言われて困らせちゃうかな」
当然かもしれないけど、その人はとても真剣な顔をしていた。
そう言えば、最後に唯先輩の真剣な顔を見たのはいつだったっけ
何となくそんな事が頭に浮かぶ。
「学園祭で演奏してる姿を見てすごく素敵だと思って」
普段はだらしないくせに、ステージで演奏してる姿はかっこよくて
「それであなたの事が気になって仕方がなくなって」
変なあだ名をつけていつも過剰にスキンシップをして来て
「自分の気持ちを伝えたいと思ったから」
いつも、
あずにゃん大好きだよとか言って抱きついてくるけど
「…あなたの事が好きなの」
こんな風に真剣な顔で、声で、伝えてくれる事は、たぶんない
気がつくと私はその人を前にして唯先輩の事ばかり考えていた。
彼女に対して失礼極まりない話だけど、でもどうしても止められなかった。
もしもこれが唯先輩なら、私はどう答えるんだろう。
「中野さん?」
「あ、は、はい」
「ごめんなさい。やっぱり迷惑だったわよね」
「いえ、そんな、迷惑なんて事はありません。ただ…」
「ただ…?」
「すいません。私、好きな人がいるんです」
気が付いたらそんな言葉が口から出ていた。
「そっか、そうなんだ」
そうなんだろうか?本当に?
「…今日はここに来て、話を聞いてくれて本当にありがとう。
またあなたの演奏を聴けるのを楽しみにしてるから、時間とらせてごめんね」
その人は無理に作った笑顔でそう言うと小走りで屋上から立ち去った。
途端に緊張が解けて壁に寄り掛かる。
「好きな人?」
好きではない人から告白されて断るには一番無難な理由だ。
だからとっさに口から出てしまったんだろう。
私はそう思う事にした。
そしてそれ以上考えるのはやめて私は部室に向かった。
部室のドアの前に立つと先輩たちの話し声が聞こえてくる。
やっといつもの気持ちに戻れそうだ。
そう思ってドアを開けようとした時、律先輩の声が聞こえてきた。
「唯、最近梓と喧嘩でもしてるのか?」
「へ?何で?」
あいかわらず気の抜けた声
「いや、最近スキンシップしてないじゃん」
「そう言えばそうね~」
「何かあったのか?」
先輩達が口ぐちに質問する。
「うーん。迷惑かなって」
え?いまさらですか?
「今まで散々抱きついといてずいぶん突然なんだな」
澪先輩が声に笑いをにじませながら問いかける。
「私だってあずにゃんの事考えてるんだよ」
だから、突然私の気持ちを考え始めた事が謎なんですよ。
「唯…、もしかしてこの間の話気にしてるのか?」
「気にしてるって言うか、りっちゃんの話を聞いて私も考えた」
何の話?律先輩は何を言った?
「律、この間の話って何だ?また余計な事言ったんじゃないだろうな」
「違う違う。ただ、梓って結構もてるんだよって言う話」
はい?
「そうなのか?」
「まあ、澪みたいにファンクラブはないけどなー」
「うるさい!」
「梓ちゃんも澪ちゃんもかわいいから~」
「まあ、冗談抜きにファンクラブができないような人気があるんだよ」
「何だそれは」
私も意味がわからない。
「みんな本気なんだよ。澪の場合は割と澪を愛でる会みたいだろ」
「だから一々私を引き合いに出すな」
「澪ちゃんの場合はアイドルみたいなものだから誰かが抜け駆けしたりはしなそうよね~」
「けど、梓の場合はみんな本気で梓の事を好きだからなー」
「……だから、私が抱きつくと迷惑かなって思ったの」
何が、だから、なの?
「もしあずにゃんの事好きな子が、私が抱きついてる所見たらすごくイヤだと思うんだよね」
「いや自分で言っといてなんだけど、そんな事気にしなくてもいいんじゃない?」
「駄目だよ。それでイヤな思いをさせたら悪いよ」
何それ。
「でも唯ちゃんはそれでいいの?」
「別に喧嘩してる訳じゃないし、普通に喋ってるよ」
「いや、そうじゃなくて」
「今まで通り接してる。ただ抱きつくのをやめただけだよ」
珍しく不機嫌そうな声
「おい、唯」
「もうこの話はいいよ。そろそろ練習しようよ」
「唯」
「唯ちゃん」
少しするとそれぞれの楽器の音が響き始める。
私は元々どこかの誰かさんみたいにいつも笑顔な訳じゃない。
だからただ自分が泣いてないかどうかだけ確認してドアを開けた。
「遅れてすいませんでした」
「あずにゃんが来たー」
「梓ちゃん、こんにちは~」
「梓、先に練習始めてるぞ」
「どうだすごいだろ!練習してるんだぞ!」
「律、それは威張る事じゃない。普通だ」
私は苦笑しながら鞄を置きギターを肩にかける
「私もすぐ始めます」
さっきまでの気まずい雰囲気は全く感じられない。
先輩達はいつもの笑顔で私を迎えてくれる。
なるほど1つ年が上だとこう言う事ができるのか。
勉強になりますよ、先輩方
…いや、あんな話を聞いて普通な顔をしてる私もか。
先輩たちの好意さえ素直に受け取れない自分がイヤになってくる。
けれどもそんな私の気持ちとは関係なく時間は過ぎる。
「さーて、そろそろ終了するかー」
「今日はギー太が饒舌だったよ!」
「みんな順調だったな。いつもこうだと良いんだが」
「たまにだから良いんじゃないかしら~」
「ムギ…、冗談なのか判別に困る事を言わないでくれ」
今日私は特に失敗していない、
でも決して良い演奏じゃなかった。
自分でそれは良くわかる。
家に帰り自分の部屋で今日の事を思い返してみる。
知らない上級生に告白された事
どう考えてもそれが一番メインイベントだ。
でも気がつくと私は先輩たちの会話を何度も思い返していた。
私の事を好きな子の事を考える?
それで抱きつくのをやめる?
何それ、それじゃあ私の気持ちはどうなるの?
あれ、私の気持ちって何?
どうして私はこんなに怒ってるの?
ここから先は考えない方がいい。屋上ではそう思った。
けれど一度考え始めてしまったから、だからもう目をそらす事ができない。
そう、ただ認めたくなかっただけで本当はずいぶん前からわかっていた。
私は唯先輩の事が、好きなんだ。
次の日の放課後、部室のドアを開けると、
唯先輩がテーブルに突っ伏して眠っていた。
他の先輩達はまだ来ていない。
2人きりになるのは久しぶりだから少し緊張する。
まあ、寝てるけど。
しかし本当に無防備な顔をして眠っている。
私の緊張を分けてあげたい。
そもそもいくら学校とは言え、気を抜き過ぎだ。
ここは自宅じゃないんですよ。
警戒心とかないんですかねこの人は。
何だかのん気に寝てる姿を見ていたら腹が立ってきた。
八つ当たりだけど。
どうせ寝てるんだし少しぐらい話しかけても良いかな。
それが聞こえた訳じゃないだろうけど
なんだかすごく苦しそうな顔をし始めた。
そうですよ。少しくらい辛い思いをして下さい。
私の100分の1で良いですから。
「うーん。…あ、あずにゃん…」
前言撤回
少しじゃなくてすごくイヤな思いをして下さい。
私の夢を見ながら苦しむなんて嫌がらせにも程があります。
「…あ、あずにゃん分が足りない…」
この人は…
あずにゃん分の補給とか言って今まで自分で勝手に抱きついてきた癖に
急に気を使って抱きつかなくなったのは自分じゃないですか。
「あれ?あずにゃん?」
「やっと目が覚めましたか」
まだ不機嫌そうな顔をしながら
唯先輩が体を起こす。
「うーん」
「なんですか」
「何だかイヤな夢を見た」
「そうですか。まあ目が覚めたんだから良いじゃないですか」
「…でも、起きてもあんまり変わらないや」
「それはすごく私に失礼ですね」
どうもすいませんね。生意気な後輩が夢に出てきちゃって。
その上目が覚めたら私がいてそりゃイヤですよね。
自分で思ってすごく傷つく。
「どんな夢だったんですか」
「うーんそれは…、覚えてないや」
本当にわかりやすい人ですね。
目が泳いでますよ。
「じゃあ起きても不愉快なままなのは私のせいですか」
こんな事言っても仕方ないのに、
ちょっと絡んでみたくなる。
「ち、違うよ!ただちょっと、自分の事がイヤになる夢だったの」
「はぁ、良く分かりませんが」
自分の事がイヤになる夢?
私が出て来たのに?
どんな夢ですかそれは。
「唯先輩がそんな事言うの珍しいですね」
「そうかな」
「あまり何も考えてなさそうなので」
「あずにゃん、ひどい」
ひどいのは唯先輩です。
何も考えてない振りをして、人に気を使って、でも結局私の気持ちは考えないで。
そう思えば思うほど腹が立ってくる。
「まあ自分のせいじゃないですか」
「何が?」
「イヤな夢を見るのも、その気分が続くのも」
「どうして?」
「唯先輩が勝手に私に気をまわして、
1人でイヤな気持ちになってるだけでしょう」
まずい。
余計な事を言い過ぎた。
「あずにゃん…、もしかして昨日の話聞いてた?」
やっぱり変な所で勘の鋭い人だ。
失敗した。
もうごまかせない。
「…立ち聞きするつもりはなかったんですが」
「そっか、ごめんね」
「それは何の謝罪ですか」
ここで謝られる意味がわからない。
私のいない所で噂話をしてた事?
「今まであずにゃんの迷惑を考えなくて」
「私の迷惑?違うでしょう。
唯先輩が考えてるのは、私の事を好きな人の事、ですよね」
私の事なんて考えてない癖に。
考えてるのは私の事を好きな人の事
そんな人に気を使ってどうするつもりなんですか?
「私はあずにゃんの事を考えてない?」
「考えてると思ってたんですか?」
ああ、思ってたんですよね。
駄目だ。この人は本当にわかってない。
「あずにゃん、ごめん」
「もういいです。唯先輩は優しいですよ。
でも唯先輩のしてる事はただの自己満足です。
大体、自分で勝手に気をまわしておいて、
どうしてそんな辛そうな顔するんですか!」
さっきから私は余計な事ばかり言っている。
でも言わずにはいられなかった。
「あのね、あずにゃん」
「はぁ…、言い過ぎました。すいません。
気を使って頂いてありがとうございます」
無理やり唯先輩の言葉を遮ってそう言った。
もうそれでいい。何も聞きたくない。
「私の話を聞いて欲しい」
「なんですか」
今度は何を言い出すつもりですか。
何を言っても、何を言われても傷つく気がする。
「確かに私は自分の事しか考えてなかった。
私が今してる事は、あずにゃんの事を好きな子のためでもないし
あずにゃんの迷惑を考えてでもない」
さっきまでは何も聞きたくないと思っていた
だけど聞かずにはいられない。
それぐらい唯先輩は真剣だった。
「あずにゃんの事を好きな人がいるって聞いて
それだけですごく辛い気持ちになった。
それはどうしてなのかわからなかったけど
もしあずにゃんが私から離れて行ったらたぶん耐えられない。
それだったら自分の方から離れてしまえば良いと思った。
だんだん離れて行けば自分が傷つかなくて済むから」
どうしてそんなに辛い気持ちになるんですか。
どうして唯先輩が傷つくんですか。
「こんな気持ちになる理由がやっとわかった」
「私は、あずにゃんの事が好きなの」
真剣な顔、真剣な声
こういう顔をして、こんな風に言ってもらいたかった。
唯先輩はずるい。
そんな事を言われたら私は自分の気持ちに素直になってしまう。
「私だって、私だって唯先輩の事が好きです。
急に抱きつかれなくなって、嫌われたのかと思って、
私がどれだけ寂しかったと思ってるんですか。
唯先輩は勝手過ぎます。少しは私の気持ちを考えてください」
「ごめん。あずにゃん。泣かないで」
そう言われて気付いた。
私は泣いていた。
「本当にごめんね、あずにゃん」
「もう離れたりしないって約束してくれますか」
「うん、
ずっと一緒にいるよ」
「絶対ですよ」
「うん。絶対だよ。絶対にずっと一緒にいるよ」
「こんな事して許すのは今回だけですからね」
「うん。わかってる。もう勝手に一人で考えたりしない」
でももしまたこの人がこんな
勘違いをしても私は許してしまう。
喧嘩してもすれ違ってもずっと一緒にいたいから。
「大好きだよ、あずにゃん」
「私の方が唯先輩を好きです」
さっきの怒りがあっと言う間に消えて押さえていた気持ちが溢れだす。
どうせ唯先輩しか聞いてないんだ。
少しくらい素直になったって良いだろう。
「えへへ、ありがとう」
「だから唯先輩は私の事をもっと好きになってください」
けれど急に恥ずかしくなって訳のわからない逆切れをしてしまった。
余計に恥ずかしい。
「うん!
これからもっと好きになるよ。もちろん今も大好きだよ!」
唯先輩はすごく嬉しそうな顔でそんな事を言う。
まあ、私の方が嬉しいですけどね。
「おぉー!めでたいな!」
「バカ、律、声が大きい。聞こえるぞ」
「2人とも良かったわね~」
「いや、ホント良かったよー」
「まあ確かに幸せそうで何よりだ」
「今日は部活は中止ね~」
「よしお祝いにどっか寄って行こーう」
「そうだな」
「今日は楽しくお茶が飲めそうね~」
……えーっと、わざわざ部室の外待機して頂いて
その上祝福してくれるのは非常にありがたいんですが、
会話が全部中に聞こえてますから。
「あれ、みんな外にいたんだー」
いや、そんなのんびりした声出してる場合じゃないですよ。
大体いつからいたんですかあの人たちは。
もしかしてさっきの全部聞かれてたって事ですか。
恥ずかしすぎる。
「今日は部活休みになっちゃったみたいだねー」
「そこですか。今、気にする所はそこなんですか」
「だってみんなには悪いけどあずにゃんと2人きりでいられるから」
「部活が中止なら私たちも帰ればいいじゃないですか」
もう素直じゃない私に戻ってる。
どうしていつもこうなるんだろう。
「あずにゃんは帰りたい?」
「別にどっちでもいいです」
愚問ですね。そして私は素直じゃない。
帰りたくないに決まってるじゃないですか。
もっと2人でいたいです。
「そっか、私は帰りたくない。あずにゃんと一緒にいたいよ」
「そうですか。ならもう少しいますか」
自分でもイヤになるくらい素っ気ない口調
唯先輩ほどじゃないにしろもう少しどうにかならないのか私
「あずにゃーん」
「ちょ、ちょっと急に抱きつかないで下さい」
「だってずっと抱きついてなかったからあずにゃん分が枯渇してるんだよー」
「それは自分のせいじゃないですか」
「禁断症状が出そうだった!」
「ごまかしてますね…、それに人を違法薬物みたいに言わないで下さい」
柔らかい体、温かい体温、背中にまわされる腕
すごく声が近い。
抱きしめられると安心する。
もっとずっとこうしていて欲しい。
「あずにゃん分が補給されていくのを感じるよ!」
「電池みたいですね。充電完了までどれくらいかかるんですか」
そしてすぐに満足して離れちゃうんですか。
私はまだまだ足りないです。
「うーん。ずいぶんあずにゃんに抱きついてなかったからなー」
「まさか、今まで抱きつかなかった時間分を取り戻すつもりですか」
こんな事を言っておきながら何ですけど、
私はそれでも満足しないと思います。
「でもそんな事したら、これからのあずにゃん分の補給が先延ばしになっちゃうから」
「何だか良くわからない理屈ですが、そうなんですか」
何でも良いですからまだ離れないで下さい。
お願いだからもう少し。
「だから違う方法で補給するよ」
「何ですか、違う方法って」
ふざけた口調だけど、顔を見ると真剣だった。
さっきと同じぐらい、いやもっと。
「あずにゃん」
顔が近付いてくる
目を閉じると、すぐに柔らかい感触が唇に触れた。
ただ抱きしめられてるよりもずっと温かい。
体から力が抜ける。
「…いや、だったかな?」
私を見つめながら心配そうに聞いてくるけれど
何を言えばいいのかわからない。
「ごめんね」
謝らないで下さい。
ただ力が入らないだけなんです。
頭の中も真っ白で何も考えられないんです。
唯先輩が体を離そうとする。
いやだ。離れないで欲しい。
「唯先輩」
「ん?」
「足りないです」
また抱きしめられて、今度はさっきより強く唇が押し付けられる。
困った。これからはもう抱きつかれるだけじゃ満足できない。
さっきよりもずいぶん長い時間が経って顔が離れた。
「あずにゃん大好き!」
嬉しそうな顔、嬉しそうな声
さっき言ったじゃないですか、私の方が好きですよって。
本当はもう1度、そう思ったけれどキリがないので口に出すのはやめておく。
これからまたそういう機会もある…と思うので。
とりあえず次回への期待と念のための注意を込めて言っておこう。
「唯先輩、わかってるとは思いますが
今…した事は2人きりの時だけにして下さいね」
「うーん。2人だけの時かー」
いや、そこは考える所じゃないですから。
やっぱり言っておいて良かった。
「そこで悩まないで下さい」
「我慢できるかなー」
「子供じゃないんですから我慢して下さい」
私が我慢できるか自信がないんですよ。
だから唯先輩が我慢して下さい。
年上なんだし。
「前向きに検討するよ!」
「いや検討じゃなくて、絶対しないで下さい!」
「もうしたくない?」
「…2人きりの時にして下さいと」
どうしてこんな恥ずかしい事を言わせるのか。
わざとじゃなくて本気で聞いてるのがタチが悪い。
「うーん。あ、そうだ。あずにゃん今度の日曜日、うちに遊びに来る?」
「このタイミングで言われると、ものすごい下心を感じますね」
「そんな事はないよ!」
「目が泳いでますから」
あまりにも分かりやすい誘いで思わず吹き出しそうになる。
まあ、もちろん行きますけど。
「じゃあ、ギターの練習しますからそのつもりでいて下さいね」
「えー練習するのー」
「私たちは軽音部ですから」
ただ家に行ったんじゃそのまますぎる。
たとえ使わなかったとしても私はギターを持っていきます。
恥ずかしいんですよ、察して下さい。無理だと思うけど。
「わかったよー。じゃあ日曜日待ってるねー」
「はいはい、じゃあそろそろ帰りましょうか」
「うん!」
嬉しそうな顔、嬉しそうな声
私はこの人が好きだ。
ずっと一緒にいたい。
いてくれますよね?
そんな事を思いながら、私たちは部室を後にした。
- すばらしい -- (名無しさん) 2011-10-24 08:01:56
最終更新:2010年12月08日 09:41