「明日は唯先輩とお出かけか」
私にとって、唯先輩って何なんだろう。澪先輩みたいにしっかりしているわけじゃないし、
ムギ先輩みたいに上品というわけでもないし、律先輩みたいに誰かを引っ張っていく
タイプというわけでもない。でも、なぜか気になってしまう。まあ、やる時はやる先輩で
はあるんだけどね・・・・・・・。むこうは私のことをとても好きでいてくれている、って自分で
言うのはおこがましいかな、でも嫌われてはいないはずだ。
「ぐだぐだ、考えていても仕方がないかな。もう寝よう」
トゥルルル、トゥルルル
「うるさいな」
こんな朝早くから電話なんて、まったく誰だろう、と思って、携帯を見ると律先輩からだ。
もう少し、考えてほしいですね、と時間を見ると10時半だ。・・・・・・・・や、やばいです。
たしか、唯先輩との約束は11時半だったはず。急がないと遅刻だっと、その前に電話に
出ないと・・・・・・。
「もしもし、何ですか律先輩」
「やっと出で、「何ですか律先輩」じゃないよ。いつまで待たせるんだ。もう10時半だぞ」
「はい?今日約束なんてありましたっけ?」
今日は、唯先輩との約束があったはずだけど。
「寝ぼけてんのか?まあ、いいから、早く駅前に来いよ」
「あ、ちょっと待って下さい。・・・・・・・・切れちゃった」
仕方がない。なんだか分からないけど、行こうかな。
「その前に、唯先輩にも連絡をっと」
私は念のために、遅れるかもしれないってメールをしておいた。まあ、律先輩達と会うなら、唯
先輩もいるだろうから、意味ないとは思うけど。
「ごめんなさい。遅れました」
「まったく、遅いぞ」
「まあまあ、りっちゃん。今日の主賓でもあるんだから遅く来てもいいじゃない」
「いや、それは駄目だろ。まあ、今度から気をつけるんだぞ」
遅れてくると、律先輩にムギ先輩、澪先輩が待っていた。唯先輩はまだ来ていないのかな?
「す、すいません」
「まあ、いいよ。とりあえず、ファミレスにでも入るか、律」
「そうだな。もうお昼だし」
その後、私たちはファミレスに入って昼食をとることに。
「で、今日は何のために集まったんでしたっけ?」
今日集まる覚えがあるんだけど、何でかは思い出せないから聞いてみた。
「何を言ってるんだ。やっとけいおん部ができたお祝いだろ?」
「はい?けいおん部ができたお祝い?私が入った時にはけいおん部だったじゃないですか」
「おいおい、まだ寝ぼけてんのかよ。梓が今年入部するまで私達は3人でやってて、今年、
梓が入部して4人になって、ようやく部になったんだろ」
「まあ、なんとか名前だけ借りて、部としては、あったんだけどな。でも、幽霊部員抜きに4人に
なったのは梓のおかげだよ」
「ありがとう、梓ちゃん」
- ちょっと待ってください。まったく意味が分かりません。だって、私がけいおん部の
ライブを見た時だって、唯先輩、澪先輩、律先輩にムギ先輩の4人でしてたはず。
「ちょ、ちょっと待って下さい。唯先輩は?唯先輩はどうしたんです?」
「唯先輩?誰だっけ?」
「誰だっけ?じゃないですよ。唯先輩、平沢唯先輩ですよ。けいおん部の部員じゃないですか」
「平沢唯?しってるか、澪、ムギ」
「いいや、私は知らない」
「あ、そういえば、私達のクラスに平沢唯って子がいたような。りっちゃんも同じクラスじゃない」
「そういえば、そうだったな。でも、その子がどうしたんだ?」
「なにを言ってるんですか!同じけいおん部じゃないですか」
「大丈夫か、梓。さっきも言ったけど、けいおん部は一人名前を借りてるけど、実質この3人
だし、名前を借りてる奴だって、その平沢唯じゃないぞ」
「そ、そんなはずないです。それに今年私が入部したからって言っても、今、私は2年生ですよ」
「なにを言ってるんだ。梓は1年生だろ。2年生だったら、私達と同じ学年じゃないか」
ちょっと待って下さい。冷静に考えてみましょう。。まず、私の名前は中野梓だ。
これは間違いないはず。さっきから、そう言われてますし。年齢は15歳のようだ。昨日までは
17歳で2年生だった気がするけど。そして、どうやら、唯先輩はいないことになっているらしい。
でも、おかしい。今日は唯先輩と出かける約束していたはずだ。私の記憶では間違いない。
私の記憶がおかしいのかな?そんなはずはないと思いたい。だって、私の記憶には、唯先輩
との楽しい
思い出があるのだから。
「どうしたんだ、梓?やっぱり具合が悪いのか。だから、遅れてきたんじゃないのか」
「い、いえ。澪先輩も記憶にありませんか?」
「・・・・・・・・・ごめんな、さっきも言ったけど、その平沢唯って子には心当たりがないんだ」
「・・・・・・・・・・そうですか」
私がおかしいのかな?それとも、夢なのかな。頬をつねってみる。・・・・・・痛い。
どうやらこれは夢じゃない。
「大丈夫か、梓。急に頬をつねって」
「やっぱり、どこか悪いんじゃないかしら」
「あ、いえ、本当に大丈夫ですから」
「でも、顔色が悪いぞ。今日はもう解散して、また、後日にしよう」
「・・・・・・・・はあ」
結局、澪先輩の提案でけいおん部の部昇格のお祝いとやらは延期になりました。
それにしても、考えれば、考えるほど、頭が混乱してきます。私は昨日まで2年生と思ったのに
1年生になってるし、今日は唯先輩とお出かけなのに、律先輩達とけいおん部の部昇格の
お祝い。昨日まで、けいおん部は5人だったのに、今日には4人になっている。もう、分けが
分からない。
「はあ、
これからどうしよう」
うじうじ、考えていても仕方がない。唯先輩の家に行ってみよう。唯先輩に会えば、何か分かる
かもしれない。そうと決まれば、早く行こう。
「あれ、中野さん?」
「ん?」
呼ばれて振り向くと、そこには見知った顔が、いました。その人は・・・・・。
「憂!」
「こんなところで、何をしてるの?」
「憂は私のこと知ってるの?」
「それは同じクラスで席も近いし・・・・・・。っていうかなんかいつも呼び方が違うね」
「え?」
「だって、いつもは平沢さんって呼んでるから」
やっぱり、この世界はおかしい。
「ご、ごめんなさい。嫌だった?」
「ううん。別にいいよ。前の呼び方は他人行儀みたいな感じだったし。そっちの方がより、距離が
縮まった気がするよ」
「あ、ああ、うん。ありがとう」
なんか、調子狂うな。
「え、えーと、憂、聞いていい?」
「うん、いいよ」
「憂の家にさ、唯先ぱ・・・・・・、平沢唯っていう人いる?」
「うん、いるよ。というより、私のお姉ちゃんだし」
それは知ってるよ。
「でも、どうして、お姉ちゃんのこと知ってるの?」
「そ、それはいろいろあって。で、その唯先輩はどこか部活に入ってなかった?例えば、
けいおん部とか」
「え、入ってないよ。そもそも、中野さんはけいおん部にはいってるんだよね?なら知ってる
と思うけど・・・・・」
やっぱり、唯先輩はけいおん部に入ってないらしい。
「そ、そうだよね。えーと、唯先輩は、今、何処にいるか分かる?」
「家にいるけど。さっきから、お姉ちゃんのことばっかり聞くね。お姉ちゃんと何かあったの?」
「え、そ、それは・・・・・・・・・」
正直話すべきなのかな。でも、話したところで信じてもらえなさそうだし。
「・・・・・・・・・・・分かった。きっと、何か事情があるんだね。うん、いいよ。お姉ちゃんの
ところに連れて行ってあげる」
そう言うと、憂は私の手を取って走り出した。
「ちょ、ちょっと」
「何かあるんだよね?それも、お姉ちゃんに関係することで。早く会った方がいいよ」
私は、憂に引っ張られ、憂の家に着いた。そこで、リビングに通された。
「ちょっと待ってて。今、お姉ちゃん連れてくるから」
ようやく、唯先輩に会える。そう思うと、胸がドキドキする。今、走ってきたこともあるかもしれない
けど。でも早く会いたい。この気持ちは嘘じゃない。
「も~う。せっかく寝てたのに」
「休みだからって、ゴロゴロしてちゃ駄目だよ。ほら、お客さんが来てるよ」
「お客さん?」
そう言って、憂と唯先輩が入ってきた。
「唯先輩!!」
私はギュっと抱きついた。普段の私なら、こんなことはしないんだけど。今日はいろいろあって
混乱しているから仕方がないのだ。
「わっ、な、なに?あなたは誰?」
「・・・・・・・・えっ!?」
やっぱり、覚えていないのか。予想してたことだけど・・・・・・・・・。
「わ、私ですよ。中野梓ですよ。覚えてませんか?」
「な、中野梓?・・・・・・・・・・ごめんね、あなたのことは知らないんだ」
「・・・・・・・・・・そうですか。ごめんなさい、急に抱きついたりして」
「気にしなくていいよ。ちょっと、驚いただけだから。それに君みたいな可愛い子ならいつでも
歓迎だよ~。それで、梓ちゃんは私に何か用かな?」
梓ちゃん。いつもみたいに
あずにゃんって、唯先輩特有のあだ名で呼んでほしいなあ、
なんて、考えるのはおかしいのかな。
「ん?どうしたの、梓ちゃん?」
いっそのこと、話してみようかな。でも、どうせ、信じてくれないだろう。唯先輩に会えたのは
嬉しいけど、梓ちゃんって言われるのが辛い。まあ、今までのあだ名が変だから、こっちの
方が自然なんだろうけどね。
「な、なんでもありません」
「なんでもなくないよ。なにか、悩みがあるなら、話してみてよ、梓ちゃん。そりゃあ、私じゃ
頼りにならないかもしれないけどさ」
相変わらず、優しい人だな。抜けてそうでちゃんと気にかけてくれている。
「ほ、本当に大丈夫ですから。ご迷惑かけて、申し訳ないです」
私は席を立ち、一刻も早く帰ろうとする。でも、ギュッと手を捕まれる。
「は、離してください」
「嫌だよ。何か、悩みがあるなら、話してよ」
「いいですから、ほっといてください」
「ほっとけないよ。なんか、このまま、梓ちゃんを帰しちゃ一生後悔しそうなんだもん」
「・・・・・・・・・・・・・・梓ちゃんって言うのをやめて下さい」
「えっ?」
「梓ちゃんって言うのをやめて下さい。前みたいにあずにゃんって呼んでください」
もう、耐えられなくって、唯先輩の胸に顔をうずめて泣いた。
どれくらいたったのかは分からないけど、何とか落ち着いてきた。
「大丈夫?落ち着いた?」
「す、すいません。取り乱してしまって」
「いいよ。きっと辛いことがあったんだよね」
あったというより今が一番辛い。
「すいません。私はもう大丈夫ですから」
「そっか」
唯先輩はそれだけ言って玄関まで送ってくれた。
「ご迷惑おかけして申し訳ありません。おじゃましました」
「待ってよ、あずにゃん」
「えっ!?」
思い出してくれたの!?
「嫌だったかな、この呼び方」
「そ、そんなことないです」
むしろ、ずっとそのあだ名でいわれてたし。
「さっき、そう呼んでほしいって言ってたから」
「すいません、さっきは取り乱してしまって」
「気にしなくていいってば。そうだ、一つ、お願いがあるんだけど、いいかな?」
「何ですか?」
「友達になってくれないかな?」
「え?」
「そりゃあさ、私達は部活の
先輩後輩とか中学の知り合いでもないし、ただ、同級生の姉って
いう遠い関係だけどね。友達にくらいにはなれると思うんだよ。どうかな?」
「え、えーと」
「いきなりじゃ困るよね。そうだ、たしか、憂と同じクラスだよね。明日、一緒にお昼を食べよう」
「で、でも」
「明日、迎えに行くからね。じゃあ、また、明日ね」
「また、明日です」
「はあ」
どうしたものでしょうか。今、私は唯先輩とゆいあずとして練習した河原に来ている。
「ずいぶん、落ち込んでるね」
どこかで聞いたことのある女の人の声がした。正直、今はほっといてほしい。
「ほっといてください」
「そうもいかないよ。そんなに落ち込んでるあずにゃんをほっとけないもん」
まったく、誰だか知らないけど、おせっかいな人だ。私のことをなれなれしくあずにゃんだ
なんて・・・・・・・・・・えっ!?
私が顔を上げるとさっきまで見ていた顔。だけど、ちょと大人びている。
「あ、あなたは一体・・・・・・!?」
「ん?ああ、私の名前ね。私の名前は平沢唯だよ。一応、あの世界のあなたとは初めまして
かな?」
「あの世界?あなたは何を言ってるんですか。それよりも、あなたは何か知ってるんですか?」
「まあまあ、落ち着いてよ」
「これが落ち着いていられますか!!」
「まあ、そのとおりなんだけどね。仕方がないか、じゃあ、わけを話してあげよう。まずは目を
つぶって」
「そんなことをしてなにか意味があるんですか?」
「まあ、騙されたと思ってさ。減るもんじゃないし」
仕方がないので、目をつぶる。
「じゃあ、開けて」
「まったく、これにどんな意味が・・・・・・・・・ってあれ!?」
私が目を開けてみると、そこは真っ暗な空間でその中に光の道みたいなものがある。
「これは一体何なんですか」
「この光の道はあなたの可能性であり、世界なんだよ」
「可能性?世界?」
「そう。今、あずにゃんがいた世界は私がけいおん部に入らなくて、あずにゃんが入ってる世界。
この世界は無限に存在するんだよ」
「無限?まったく意味が分からないんですけど。あなたは一体何なんですか」
「だから、私は平沢唯だよ。そうだね、付け加えるなら、悲しい世界の平沢唯だよ」
「悲しい世界?」
「そうだよ。その世界ではね、私があずにゃんを大事にしすぎたというか、束縛しすぎて嫌われ
ちゃってね。それだけなら良かったんだけどね。その結果として、放課後ティータイムの皆も
バラバラになっちゃてね。それらのことが重なって、死んじゃおうって、思ってね。それでね、
最後にお願いしたんだ」
「そのお願いって?」
「・・・・・・・・・・生まれ変わることがあるのなら、その世界で、もう一度、あずにゃん達と出会って、
幸せになりたいって。そしたらね、何がどう作用しているのか分かんないけど、いろんな世界に
いけるようになったんだよ」
「・・・・・・はあ?」
まったくわけが分かりません。
「わけが分からない?」
「あ、いえ、そんなことは」
「まあ、わけが分からないのも仕方がないよね。私も急に言われても、きっと、わけが分からないもの」
目の前の唯先輩はあっけらかんと言う。
「まあ、百歩譲って今の話を信じたとして、どうしてこんなことをしたんです?」
「こんなことって?」
「私がこの世界に来た理由です。その、あなたがやったんですよね?」
「理由か。 私は嫌な世界が一つでも減ってくれればって思うんだよ。私みたいに嫌な思いをする私が減ってくれればってね」
「そ、それが私をこの世界に送ったのと何が関係あるんですか?」
「嫌な思いをする私が減ってくれればっていうのと、同時に幸せな私が増えてくれればって
思うんだよ」
「それが何の関係が・・・・・・」
「今、あずにゃんがいた世界はね。今日のあずにゃんのやったことで、この世界の私は憂の教室
に行くようになって、あずにゃんとお友達になっていくんだよ」
「だから、それが何の関係が・・・・・・・」
「私はね、あずにゃんに会えて、とっても幸せだと思うんだ」
「えっ」
「だから、多くの世界で、私とあずにゃんが出会えればって思うんだ。だからね、謝らなきゃね、
ごめんね、あずにゃんのことを利用して」
「利用って」
「この後ね、次の日のあずにゃんの記憶は当初のとおり、 けいおん部ができたお祝いって
ことで、澪ちゃん達とお出かけした記憶なんだよ。でも、他の皆は、今、あずにゃんが行動して
きたことが記憶になっててね。朝に澪ちゃんや憂に会って、その違いに初めはなんかおかしい
って、あずにゃんも思ったんだけど、
勘違いってことで気にしなかったんだ。それで、お昼に
この世界の私が来てね、まあ、ちょっと無理やりだけど、一緒にお昼ご飯を食べるようになって
仲良くなっていくんだよ。本当は世界の私をこの世界に送るのがいいのかもしれないけどね。
記憶がなくなっちゃうしね。そしたら、あずにゃんが行動しなきゃいけないんだけど、してくれる
かもわからないし。まあ、こういうことは私の方が行動力あるしね。だから、あずにゃんには
悪いんだけどね」
それは分かる気がする。前に、唯先輩を迎えにいったけど、やっぱり、他の先輩がいるとは
いえ、なかなか、上級生の教室にはいきづらいだろう。ましてや、入学したばかりなら
なおさらだ。
「それで、えーと」
「ごめんね。もう時間だよ。最後に一つだけ、聞きたいことに答えるよ」
いろいろと聞きたいことはある。例えば、あの世界の私の結末とか私がこれからどうなるのか
とか。そもそも、これは夢なのかとか。本当に唯先輩なのとか。でも私が知りたいことは・・・・。
「これで幸せですか?」
「何が?」
「あなたのいた世界って、とっても不幸なんですよね?こんなことを繰り返して、幸せになれる
んですか?」
「それが聞きたいことか。でも、それには答えられないよ」
「どうしてですか?」
「だって、分かんないんだもん。でも、ひとりでも多くの私が幸せになるなら嬉しいよ」
「そうですか」
「じゃあ、もう時間だよ。じゃあね、あずにゃん」
「もう、会えないんですか?」
「うん。最後に私とお約束。出来たらでいいんだけど、その世界の私と幸せになってね」
「・・・・・・・・・・・はい」
起きてみると私はベットにいた。ピピピピピピピピピピって目覚ましも鳴ってるし。
「・・・・・・・・・今のは、夢?」
そうだろうな。今日の日付を確認すると、唯先輩とお出かけする日だ。カレンダーにも書いて
あるし。
「梓、もう出かけるの?」
「うん、ちょっと用事あるし」
「そう。じゃあ、いってらっしゃい」
「いってきます」
本当は用事なんてない。ただ、早く唯先輩に会って安心したかっただけだ。夢を真に受ける
なんて子供みたいだけど、それほどリアルだったから仕方がない。
「でも、早く着きすぎたかな」
一時間も前に着いちゃった。どうせ、唯先輩のことだから、ぎりぎりで来るだろう。夏フェス
のときには早く来てたけど。まあ、いいや。のんびり待つかな。
30分後
「おまたせ~、あずにゃ~ん」
「早いですね、唯先輩。まだ、30分前なのに」
「そういうあずにゃんだって。私より早いってことは30分以上前には来てたってことだよね」
「わ、私は後輩としてですね。先輩を待たせないようにしなきゃって」
「テレッちゃって。あずにゃんは可愛いね~」
「も、もう!行きますよ、唯先輩」
「そうだね、行こうか、あずにゃん」
なんか、いつもの調子だ。この人は私と出会わなかった世界に行ったら、寂しがってくれる
かな?ふと、そんなことを考えていると、唯先輩がギュッと手を握ってくる。まるで、大切なもの
を離したくないという感じに。
「あ、あの手を離してくれませんか」
「えっ!?ご、ごめん。嫌だったかな」
唯先輩が手を離す。自分で離してって言っておいてなんだけど少し寂しい。
「別に嫌とかじゃなくて、ちょっと強く握りすぎて痛かっただけで・・・・・・。そんなに悲しそうに
しないで下さい。・・・・・・・・ハイッ」
「ど、どうしたの。手なんか出して。ハッ、そ、そんなにお金ないよ」
「もうっ!変な冗談言わないで下さい。手をつなごうってことですよ。・・・・・・・・・・嫌ならいいです
けど」
「冗談だよ~。そんなに怒んないでよ」
再び、唯先輩が手を握ってくる。何か考えてるみたいだけど、また、ギュッと手を握ってくる。
「だから、痛いですよ、唯先輩」
「あう~、ごめんね~、あずにゃん」
大切なものって、きっと失ってから気づくんだ。今回の夢でそれに気づいた。きっと唯先輩は
私にとって、大切な存在なんだろう。出来たら、唯先輩と
ずっと一緒にいたい。そのために
頑張ろう。夢に出たあの人とも約束したし。でも、唯先輩はどう思ってるんだろうか。もしかたら、
私の決意は迷惑かもしれない。だから、恥ずかしいけど、聞いてみよう。
「唯先輩、聞いてもいいですか?」
「ん?な~に?」
「私に会えて幸せですか?」
私のいきなりの質問に面食らったようだったけど、すぐに笑顔でこう言ってくれた
「うん!とっても、幸せだよ~」
- このSSの唯編があった筈なんだけど見つからない…… -- (名無しさん) 2012-11-13 01:02:52
- 確認したらリンクが抜けていました、すみません。訂正済みです。ちなみに「約束」というタイトルになります。 -- (管理人) 2012-11-13 02:08:55
- 管理人さんへ。お手間お掛けしてすみません。迅速な対応ありがとうございました! -- ((名無しさん) 2012-11-13 01:02:52) 2012-11-15 01:13:57
最終更新:2011年05月10日 23:09