Side Yui

言われなければ気付かない事がある。気付かないからこそ、指摘されるまで無意識な自分がここに居た。
そして無意識だったからこそ、自分の本心に気付いた時、どうすれば良いのかわからなかった。

「そういえば、皆って恋した事あるか?」

修学旅行の夜、明日の予定で盛り上がっていた時、不意にりっちゃんが聞いてきた。

「私は・・・そういうのは無いな・・・」
「まぁ、澪は恋愛には奥手っぽいからなぁ・・・ムギはどう?」
「私も無いかな・・・。女の子同士、ワイワイしてるのが楽しいし♪」
「なんだ、ムギはモテそうなのにな・・・。唯は?」
「え、えーっと・・・私は・・・」

今までの人生を少し振り返ってみたけど、誰かを好きっていう感情になった事は無いなぁ。
いや、皆好きなんだけど、他の人とは違う『好き』っていう感情を持った事は無かった。

「う~ん・・・無いかな」
「なんだなんだ、4人も居るのに、色恋の話の1つも無いのかい」
「という事は、律もそういうの無いんだな?」
「その通りでございます」

恋・・・かぁ。女子高生の間では、そういう話をしない方が珍しいのかもしれない。
恋バナがあれば、ガールズトークも一層盛り上がるもの・・・かもしれない。
でも、私達は女子高に通っているから、出会いが無いんだよなぁ。
経験した事ないからこそ思うんだけど・・・恋ってどんな物なんだろう?

「でもさぁ・・・恋って何だろう?」
「「「えーっと・・・」」」

あれ、3人とも唸っちゃった。皆も経験した事ないから、説明するとなると難しいのかな。

「ある人の事を考えるとドキドキするとか、その人の事ばかり考えてるとか・・・」(澪)
「その人と一緒に居たいとか、もっとその人を知りたいとか・・・」(紬)
「あの人の事を、独り占めにしたい!っていう気持ちも恋なのかもな」(律)

なるほどね・・・。改めて考えてみるけど・・・やっぱり、今までそういう気持ちになった事は無いなぁ。
でも、そういう気持ちを持ってみたいな。恋に憧れというか・・・毎日がドキドキなんて、凄く楽しそう・・・。
そういえば、あずにゃんは恋ってした事あるのかな?今日は憂や純ちゃんと、お泊まり会をしているみたいだし・・・メールで聞いてみようかな。

『あずにゃんは恋した事ある?』

よし、あずにゃんに送信っと・・・。すると、さわちゃんが見回りに来て、いつまで起きてるんだと怒られてしまった。
まだ夜の10時前だったけど、仕方ないので皆で大人しく寝る事にする。だけど、明日が楽しみで・・・私はなかなか寝付けなかった。
明日はどんな思い出ができるかな・・・あずにゃんへのお土産は何にしたら喜んでもらえるかな・・・。
あれこれと思いを巡らせていたが、ケータイを片手に、私はいつの間にか眠りに就いていた。


「はぁ、もう修学旅行も終わりかぁ」

新幹線に乗る前の点呼で、私は大きく溜息をついた。楽しい時間は過ぎていくのはとても早いと実感している。

「梓にもちゃんとお土産買ったし・・・後は帰るだけだな」
「でも、これって京都らしいお土産って言うのかね?」
「ま、まぁ京都らしいかと聞かれれば・・・『はい』とは言えないかもしれないけど・・・」
「まーったく、澪のセンスはお土産でも独特だよなー」
「って、これは皆で考えたお土産だろっ!」

見事にりっちゃんの頭にたんこぶができた。澪ちゃんとりっちゃんの漫才みたいなやりとりは、いつ見ても面白いなぁ。
『け』『い』『お』『ん』『ぶ』・・・一文字ずつデザインされた5個のキーホルダー。これが、私達5人のお揃いのお土産だ。
軽音部に入部した順に、1人1つのキーホルダーを持つ事にした。だから、私は『ん』で、あずにゃんは『ぶ』だ。
私達5人の結束力を深めるようなアイテムだけど・・・あずにゃん、喜んでくれるかな?

「あずにゃん・・・そういえば・・・」
「えっ?梓ちゃんがどうかしたの?」
「あ、いや・・・夜に恋の話をした時、あずにゃんに『恋した事ある?』ってメール送ったんだけど、返事無かったなぁって・・・」
「そうなんだ・・・。今度、機会があれば直接聞いてみると良いんじゃないかな?」
「うん・・・そうだね・・・」

ニコッと笑うムギちゃんに、私も小さく微笑んだ。
でも、何だろう、この寂しい気持ち・・・あずにゃんから返事が無かったから、それ以降はメールを送れなかったけど・・・。
それと、何か満たされない心の充実感・・・。修学旅行は楽しかったはずなのに、この気持ちは何だろう?
2泊3日の修学旅行・・・楽しかったけど、その分疲れちゃったって事なのかな。
      • まぁ、明日は振替休日でお休みだし、家でゆっくりしようかな。

―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―

「今日からまた学校だ!・・・お土産も持ったし、ギー太も持ったし・・・準備OK♪ 憂、早く行くよ~」
「待って~・・・お姉ちゃんの方が早いって何か珍しいね」
「いやぁ・・・何か、今日は早く学校に行きたい気分でね♪」

自分で言うのもなんだけど、こんなに学校に早く行きたい気分になるなんて珍しい。軽音部で朝練があるわけでもない。
いつもなら、もう少し寝ていたい~なんて気分になると思う。だけど、何かに引かれるように、私は家を出た。
憂と歩くいつもの通学路・・・だけど、一緒に歩くとなると、随分久しぶりな気がする。

「その袋に入ってるの、梓ちゃんへのお土産?」
「これはねぇ・・・純ちゃんへのお土産だよ♪ あずにゃんと一緒に泊まりに来てくれたんでしょ? だから、そのお礼に♪」
「そうなんだぁ。お姉ちゃん、優しいね!」
「えへへ~・・・これ、純ちゃんに渡しておいてね」
「うんっ!・・・でも、梓ちゃんへのお土産は・・・?」
「ちゃんと別に用意してあるよ♪」

自然と早足になる私・・・。頭の中では、あずにゃんの喜ぶ顔が思い浮かんでいた。


昼休みになり、私は2年1組に向かった。目的は勿論、あずにゃんを部室に連れて行く為だ。
廊下を歩いていると、憂や純ちゃんとお話をしているあずにゃんを発見!相変わらず小さくて可愛いなぁ。

「あ~ずにゃん♪」
「にゃん///」
「久し振りぶり♪」
「止めてくださいよぉ、廊下ですよ?」

私は、あずにゃんの後から思い切り抱きついた。止めてと言われても・・・そんなに簡単に止められないよ。
だって、随分とあずにゃん分を補給してなかったから・・・これくらいは許してほしいな♪あずにゃん分を補給していると、何だか心が温かくなれるんだ。
私は、あずにゃんに抱きつくと・・・充実感で心が満たされていくのがわかった。とてもホッとできる瞬間だ。

「唯先輩、お土産ありがとうございます!・・・私、生八つ橋大好きなんで嬉しいです!」
「・・・純は甘い物なら何でも好きでしょ!?」

おーっと、何か急に口調が厳しくなった。・・・何だか、いつも私にツッコむ時とは、また違った感じだなぁ。
普段のあずにゃんは、純ちゃんに対してこんな感じなのかな?でも、純ちゃん・・・ビックリして固まっちゃってるよ。

「あ、すみません・・・純もゴメン・・・」
「う、うん・・・」

あれ?何か気まずい感じだ・・・。こんな重い空気は好きにはなれないよ。だから・・・私が何とかしなきゃ・・・!

「私も甘い物好きだよ。それ以上に、あずにゃんの事も純ちゃんの事も・・・勿論、憂の事も好き~♪」
「えっ・・・唯先輩・・・?」
「・・・そうだ、あずにゃんにお土産買ってきたから、部室に行こう!」

そう言うと、私は遠慮するあずにゃんの手を取り、半ば強引に部室に向かった。
後ろからクスクスッと笑う声が聞こえたから、重い空気はもうどっかに行っちゃったよね!


「ぶ・・・?」

あずにゃんは、机に置かれたキーホルダーを不思議そうに見つめていた。

「・・・これがお土産ですか?」

キョトンとした表情のあずにゃん・・・さすがにこのキーホルダーを見ただけでは、本当の意味はわからないかぁ。

「そうだよ・・・私がこれっ!」

私が机にキーホルダーを置くと、それを合図にりっちゃんが『け』 澪ちゃんが『い』 ムギちゃんが『お』のキーホルダーを置いた。
これで意味がわかったのか、あずにゃんはキーホルダーを手に取って微笑んだ。

「5人で『けいおんぶ』・・・これ、皆さんで選んでくださったんですよね。ありがとうございます!」


帰り道・・・私は修学旅行の事を、あずにゃんはお泊まり会の事を話していた。
こうやって、あずにゃんと一緒に帰るのも凄く久し振りだなぁ。

「あのキーホルダー・・・軽音部の5人が結束しているみたいで、凄く良いですよね!」
「だよね~・・・気に入ってもらえたかな?」
「はいっ!大事にします!・・・だけど・・・」
「ほぇ?」

何かを言おうとしたけれど、あずにゃんは俯いてしまった。何か、少し不満そうな顔をしているような・・・。
昼休みの時から、あずにゃん少し様子がおかしいんだよなぁ。笑顔を見せたと思ったら、今みたいにちょっと不満そうになったり・・・。
でも、口調は普段のあずにゃんと同じなんだよなぁ。

「あずにゃん・・・?」
「・・・じ、純にもお土産買ってきたんですよね・・・!純、喜んでましたよ・・・」
「うん、純ちゃんも憂の為に泊まりに来てくれたからね・・・そのお礼に♪」
「そ、そうですか・・・私も、このキーホルダー・・・嬉しかったです・・・けど・・・その・・・」
「ん?」
「私も・・・唯先輩から・・・個人的なお土産が欲しかったです・・・」

あー、そういう事かぁ。私が純ちゃんだけにお土産をあげたから、嫉妬してるのね・・・可愛いなぁ。
      • あれ、でも何で嫉妬なの?それとも、私の思い過ごし?・・・でも、あずにゃん用のお土産もちゃんとあるんだよね。

「後で渡そうと思ってたんだけど・・・はい♪」
「えっ・・・?」

ラッピングされた小さな袋を、あずにゃんの手の平に置く。すると、予想外だったのか、あずにゃんは驚いた表情をしていた。

「唯先輩・・・これは?」
「あずにゃんの為に買ってきたお土産だよ♪ 『A.N』のイニシャル入りのピック・・・見つけた瞬間、これだって思ったの!」
「あっ・・・ありがとうございます、唯先輩!大切にしますね!」

ドキッ・・・。あずにゃんは、部室でも見せなかった笑顔を私だけに見せてくれた。
りっちゃんも澪ちゃんも、ムギちゃんも見せた事ないような・・・素敵な笑顔を・・・。
あずにゃんのこんなに嬉しそうで、可愛い笑顔・・・私も初めて見た・・・かな。
初めて抱いた・・・このドキドキって・・・な、何なんだろう、この気持ち・・・。

―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―

時は過ぎ、ジメジメした梅雨の季節がやってきた。毎日毎日雨が降り、憂鬱な気分になってしまう。
こんな季節でも、部室でのティータイムは止められない。憂鬱な気分を忘れさせてくれる、貴重な時間だから・・・。

「キミを見てるといつもハートDOKI☆DOKI・・・」
「・・・唯ってさ、最近そのフレーズをよく口にするよね」
「え?・・・そ、そう・・・?」

ふと、澪ちゃんから指摘されてしまった。・・・確かに最近、私はこのフレーズを口にしている事が多くなった気がする。
言わずもがな、『ふわふわ時間』の最初のフレーズだけれど、ボーカルとしてこの部分の歌い出しを気にしているわけではない。
まぁ、私のお気に入りの曲の一つだからかもしれないけど・・・気付いたら自然と口にしてしまう事が多い・・・。

「唯ちゃん、そのフレーズを口にする時、何か考えてる?」

おぉっと・・・ムギちゃんの鋭い質問にドキッとしてしまった。
と、言うのも・・・無意識にこのフレーズを口にする事があるが、その時・・・自然と思い浮かべてしまう事があるから・・・。
そう・・・あの時の、あの子の笑顔が忘れられなくて・・・。あれから1ヵ月以上も経つのに、自然と、あの笑顔が脳裏に浮かんでくる。
それほど、あの笑顔は印象深かったんだと思う。ずっと忘れられないくらいに・・・。
あの時以来、私はあずにゃんの笑顔を見る度にドキッとするようになってしまった。今まで、こんな事無かったのに・・・。

「いやぁ・・・私って『ふわふわ時間』をよく歌ってるから、気付いたら口ずさんでいる事があるんだよね。ほら、職業病ってやつ?」
「いや、これ職業じゃないから・・・」

りっちゃんから冷静なツッコミをいただきました。・・・本当の事を言うと恥ずかしいから誤魔化しちゃったよ。
あずにゃんの笑顔を見ると、ドキドキしてしまう自分が居る・・・。この気持ちって何なんだろう・・・。
澪ちゃんやりっちゃん、ムギちゃん達の笑顔を見ても、同じような気持ちにはならないのに・・・

「あ~、あずにゃん分が足りないよぉ・・・あずにゃん、まだ来ないのかなぁ?」
「今日は梓ちゃん、掃除当番だから遅れるって昨日言ってたよ?」

      • そういえば、昨日の帰りにそんな事言ってたっけ。掃除、早く終わらないかなぁ・・・。
早く・・・あずにゃんに会いたいなぁ・・・。

「なぁ、唯・・・前から気になってたんだけどさぁ、何で唯って、いっつも梓に抱きついてんの?」

机に突っ伏している私は、りっちゃんから想定外の質問を受けてしまった。・・・そう言えば、私はいつもあずにゃんに抱きついているなぁ。
初めは、あずにゃんの事が可愛くて仕方なかったから抱きついてたんだと思う。私、昔から人や物に関係なく、可愛いものが好きだったから。
それに・・・もう一つ理由がある。今まで、部活をした事が無かったから故の理由だけど・・・。

「私、昔は部活やった事なくてさ・・・。高校に入って初めて部活に入ったんだけど、初めてできた後輩があずにゃんだったの。
 今年は新入部員が入らなかったから、今でも後輩はあずにゃん一人だけでさ・・・。最初、後輩にどう接すれば良いのかわからなくて・・・。
 でも、あずにゃんの事は大切に思ってるよっていう先輩としての態度を示したくて・・・それで、とりあえずスキンシップを・・・」
「唯・・・わからなくはないけれど・・・。まぁ、それが唯っぽい所なのかもな」

澪ちゃんはクスッと笑った。それにつられて、私も微笑み返した。

「でも、それだけなのか?」

表情が緩んだ私に、りっちゃんが再び疑問をぶつけてきた。今日のりっちゃんは、何か手強そうな予感だ・・・。

「実は・・・私、あずにゃんに抱きつくと、何か心が落ち着くんだよね・・・。ホッとするっていうのかな・・・」
「ふ~ん・・・」
「こんにちは・・・遅くなりました!」

りっちゃんの相槌と同時に、あずにゃんが部室に入ってきた。これで、今日のあずにゃん分が補給でき・・・!?

「あ~ずさ♪ ギュッ・・・」
「り、律先輩!?」
「お、おい、何やってるんだよ、律!」
「・・・さっき、唯が梓に抱きつくと、心が落ち着くって言ってたから、本当かなーって・・・ほら、ムギもやってみてみな!」
「う、うん・・・ギュッ・・・」
「ムギ先輩もですか・・・!?」
「本当だぁ、梓ちゃんを抱き締めると、何か心が温かくなる感じがする♪」
「ほ、ほら・・・ムギもその辺にしておかないと・・・」

何だろう・・・。何か・・・イヤだ。あずにゃんが、皆に抱きつかれてる所を見ると・・・何かイヤだな。
私も毎日のようにしている事なのに・・・。それなのに、他の人が同じ事をしているのを見ると、何でこんなに気持ちが落ち着かないんだろう・・・。
凄く・・・寂しいというか、他の人に・・・あずにゃんを取られたくない・・・。
と、取られたくないって・・・何考えてるんだろう・・・。あずにゃんは、私のものじゃないのに・・・。ダメだ、頭が混乱してきちゃったよ・・・。

「ゴメン、私ちょっとトイレ行ってくる・・・」

今、とりあえずこの場を一旦離れたい・・・。少し頭を冷やさないと、皆と一緒に居られなくなっちゃう。
後ろから呼び止められる声が聞こえた・・・気がしたけど、私は今・・・何も考えられない状態だった。

部室を出て階段を下りると、私は俯いたまま動けなくなってしまった。気付けば、涙が頬を伝っていた。
周りには誰も居ない・・・いや、居なくて良かったと思う。こんな姿、誰にも見られたくないから・・・。
私はどうすれば良いのかわからなかった。涙の理由もわからず、頭の中もぐちゃぐちゃしたまま・・・。誰か・・・助けてほしいよ・・・。

「唯先輩・・・」

奈落の底を彷徨いそうになっていた私を・・・引き止めてくれる声が聞こえた。
だけど・・・そんな救いの声の方を見る事ができなかった。涙で顔がぐしゃぐしゃだから・・・。
こんな顔、とても人には見せられないから・・・。だから、私は声の主に背を向けたまま答えた。

「あずにゃん・・・」
「唯先輩・・・ギュッ・・・」

あずにゃんは、優しく包み込むように・・・私の背中から抱き締めてきた。その瞬間・・・私に穏やかな気持ちが戻ってくるのを感じた。

「どうしたんですか・・・唯先輩らしくないですよ・・・。いつも笑顔で、私の事を元気にしてくれる唯先輩はどこに行っちゃったんですか?
 唯先輩の笑顔は、私の事をたまにドキッとさせちゃったり、私に活力を与えてくれたりするんです。だから、唯先輩の笑顔・・・私は大好きなんです。
 だから・・・早く帰ってきてくださいね。いつもの唯先輩が戻ってくるまで・・・私、ここで一緒に待っていますから・・・」

本当に・・・本当に、私は救われた気がした。あずにゃんの言葉があるから、私はここに居る事ができる。
もし、あずにゃんから声をかけられずに、1人だけだったら・・・出口の見えない暗闇を彷徨い続けていたかもしれない・・・。
今ここで・・・背中にあずにゃんのぬくもりを感じられる事が・・・あずにゃんと一緒に居られる事が嬉しかった。


「ありがとう、あずにゃん・・・もう大丈夫だよ♪」

どれくらい時間が経ったかな・・・。すっかり元気になった私は、クルリと体を反転させ、あずにゃんを優しく抱き寄せた。

「心配かけさせちゃってゴメンね。もう・・・あずにゃんを心配させるような事はしないからさ・・・」
「・・・約束・・・ですよ?」

あずにゃんはコクンと頷いた。私の腕の中に収まっているあずにゃん・・・たっぷりの愛情を注ぐように、私は彼女の頭を撫でていた。


「・・・部室、戻ろうか♪」
「はいっ!」

私は・・・今、あずにゃんと2人きりになってわかった事がある。・・・私、あずにゃんの事・・・好きなんだ。
勿論、他の人の事も好きなんだけど、あずにゃんに対しては特別というか・・・。
あずにゃんの笑顔を見てドキッとしたり、あずにゃんに心配をかけさせたくないって思ったり、あずにゃんと一緒に居て心が落ち着いたり・・・。
こんな気持ち、今まで抱いた事なかった。1人の女の子に対して、こんな気持ちを抱いた事なんて・・・。

「復活だよー!みんな・・・心配かけてゴメンなさい!」
「お帰り、唯」
「やっぱ・・・唯は笑顔の方が似合ってるな!」
「ちょうどお茶を入れ直したところだったの・・・唯ちゃん、梓ちゃん、一緒にどうかしら♪」

いつものメンバーでいつもの時間を過ごす、いつもと変わらない風景。机にはムギちゃんが用意してくれたお茶とお菓子・・・。
変わったのは・・・1人の子に対して、今までには無かった、ちょっと違う特別な想いも持つようになった事・・・かな。

―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―

あずにゃんに対して、皆とは違う感情を抱くようになって、早2ヵ月・・・。今は学校は夏休みだ。
私達は受験生だから、こうやって学校に来る時間は去年に比べると大幅に減ってしまった。
それでも高校最後の学園祭でのライブを成功させる為に、私達は学校に来れる時は、時間を惜しまずに練習に励んだ。

「ふぅ・・・こうも暑いと、ドラムはやっぱ死ねる・・・」
「あちゅい・・・」
「律と唯がグッタリしかけてるから、少し休憩にするか・・・」

澪ちゃんの一言で、私達は久々に部室でのティータイムを楽しむ事になった。ティータイムとは言っても、今日のオヤツはゼリーのみだけどね♪
部室にはクーラーが設置されたけど、私がクーラーが苦手という事で、風量は最小、設定温度も30度という、ちょっぴりエコ環境だ。
まぁ、この環境だとドラマーのりっちゃんは辛いみたいだけど、正直私も辛かった。・・・ダメじゃん!

「今日はジャズ研も練習しているみたいなので、私、差し入れ持って行きます!」
「梓ちゃん、偉いわね♪ 他の人たちの気配りもできるなんて」
「い、いえ、そんな・・・あっ、先輩達はゆっくり休んでいてくださいね!」

そう言うと、あずにゃんは差し入れが入っているであろう袋をクーラーボックスから取り出し、部室を出て行った。
ちなみにこのクーラーボックス、ムギちゃんが今日のおやつのゼリーを冷やす為に、わざわざ持ってきた物らしい。
私は、ボーっとした表情であずにゃんの動きをずっと追っていたみたい・・・。
それを気付かせてくれたのは、部室に残っている他の3人だった。

「おーい、唯~?・・・大丈夫かぁ?」
「唯・・・視点が1点に集中してるぞ・・・」
「唯ちゃ~ん、戻ってきて~」

皆が一様に私の目の前で手を振っていたので、私はフッと我に返った。いけないいけない・・・あずにゃんの後ろ姿に見惚れてしまっていたよ。
      • でも、あずにゃんは今居ない。これは・・・私の今の気持ちを皆に相談できる良い機会かもしれない。
こんな事、あずにゃんの前では言いにくいしね・・・。

「あのね、みんな・・・相談というか、ちょっと聞いてほしい事があるの・・・」
「お、急にどうした?」
「私ね、あずにゃんとお話ししたり、あずにゃんに抱きついたりすると、凄くドキドキするの・・・今まで、こんな気持ちになった事なんて
 なかったのに・・・。私、初めての事だからよくわからないんだけど、この気持ちって何なのかな・・・?」
「それは、唯が梓の事好きなんだろ?」

りっちゃんが間髪入れずに答えてきた。悩む事でもないだろうと言わんばかりの反応で、何か悔しいなぁ。
あずにゃんの事を好きなのは自分でもわかってる・・・。だけど、他の人に対する好きとは違う、この気持ちが何なのかを知りたかったんだ・・・。

「あずにゃんの事は勿論好きだよ!皆の事も好き!・・・だけど、同じ『好き』でも、あずにゃんに対しては、心が温かくなったり、
 胸がキュンとなったりするんだよね・・・。この気持ちがわからなくて・・・ねぇ、何だと思う・・・?」

すると、3人は揃って大きい溜息をついた。りっちゃんは呆れ顔、澪ちゃんは苦笑い・・・でも、ムギちゃんはちょっと嬉しそうにウズウズしている。

「私達は、唯のその気持ちが何なのか、十中八九わかってる。だけど、唯自身が気付くように、今から少し質問をするから、正直に答えてな」
「う、うん!」

何だか、りっちゃんがカウンセラーみたいでカッコいいなぁ。ちゃんと答えますので、私の悩みを解決してください!

「梓と一緒に居ると楽しい?」
「うん!」
「受験勉強が忙しいけど、その間、部活で梓と会えなくて寂しかった?」
「うん・・・だから、今日は凄く楽しみだったの!」
「ふと気付いたら、梓の事を考えている事がある?」
「あるある!・・・いつも、笑顔のあずにゃんが思い浮かんでる事が・・・」
「最後の質問な・・・。私が梓に抱きついた事あったけど、覚えてる?その時の正直な気持ちを教えてくれ」
「・・・正直に言うと、イヤだったよ・・・。早くあずにゃんから離れてって・・・。怒りたい気持ちと泣きたい気持ちがごちゃ混ぜになってて、
 私、どうすれば良いのかわからなかったの・・・。誰が悪いわけじゃないのに、気持ちが落ち着かなくて・・・」
「・・・嫉妬」
「えっ・・・?」

りっちゃんがサラッと言った言葉。嫉妬・・・つまり、私はあの時・・・りっちゃんに焼きもちを妬いていたって事・・・?

「嫉妬、私も経験あるんだよ・・・」
(去年だよなぁ・・・澪が和と仲良くお茶しに行ったり、2人で弁当を仲良く食べたりしてるのが、凄く妬ましかったんだ・・・。
 まぁ、和は凄い良い人で、今はそんな気持ちは持たないけど・・・。それに、澪は、私のこの気持ちを知らないだろうし・・・)

「律・・・どうした?」
「いや、何でもない・・・。とりあえず、嫉妬するって事は、気になる相手に自分以外の人と仲良さそうにしているのを見ると、良い気持ちがしないって事」
「う、うん・・・」
「つまり、唯ちゃんがりっちゃんに嫉妬をしちゃうほど、梓ちゃんの事を気にしているって事は・・・唯ちゃんが梓ちゃんに抱いている気持ちは・・・」

ムギちゃんは、チラッと澪ちゃんとりっちゃんに視線を合わせた。すると、2人はその合図に応えるように身を乗り出し、3人揃って口を開けた。

「「「恋!」」」

ドキッ・・・!
その瞬間、体中が急に熱くなって、心臓の鼓動が急に速くなっていくのがわかった。
この3人に聞こえてしまうのではないか・・・それくらいに、私はドキドキしていた。

「こっ・・・こ、こ、こ・・・こここ・・・!」
「唯、落ち着け」
「こ、恋・・・これが恋なの・・・?澪ちゃん・・・」
「いや、私もまだ恋は経験した事ないからわからないけど・・・でも、私達から見たら、唯が梓の事が凄く好きで、それが恋してるという感じには見えてたよ」

私は未だに思考回路が狂ってしまったままだった。私、平沢唯は17歳ですが・・・は、初めて恋をしたみたいです・・・。


「ど、どうすれば良いのかな、私・・・」

恋をしたという事実がすぐには受け入れられなくて・・・暫く黙ったままだったけれど、私はようやく言葉を発する事ができた。

「それは唯ちゃん次第じゃないかな。梓ちゃんとどういう関係になりたいか、よね・・・」
「あずにゃんとの関係・・・」
「梓ちゃんともっと仲良くなりたい!とか、もっと一緒に居たい!とか思うのならば、気持ちを告白するのも良いと思うの」
「告白・・・それはつまり、あずにゃんの恋人になる事・・・かぁ」
「勿論、梓ちゃんが唯ちゃんの想いに応えてくれる事が条件だけどね♪」
「う~ん・・・私、あずにゃんに気持ちが届くように頑張るよ!・・・でも、どうすれば気持ちが届くかなぁ?」

素直に好きです、と伝えるべきかな・・・。でも、あずにゃんが女の子同士の恋愛をどう思ってるかわからないし・・・。
ゴメンなさい、なんて言われた時には、私は立ち直れないかもしれない・・・。受験勉強も手が付かないかも・・・。
でも・・・あずにゃんに気持ちを伝えたいし、もっともっとあずにゃんと仲良くなりたい・・・なぁ。

「そういえば明日、近所で夏祭りがあるみたいだぜ!そこに、梓を誘ってみればどうだ?」
「つまり・・・デートって事ね♪」

りっちゃんの提案に、ムギちゃんが嬉しそうに話に乗ってきた。・・・あずにゃんとデートかぁ。
デートなんてした事ないから、どうすれば良いかわからないや。それに・・・。

「デート・・・私、あずにゃんと上手く喋れるかなぁ?」
「唯・・・梓と2人で出かけた事くらいあるだろう? デートって意識しないで、2人でちょっと出かけるって考えると良いんじゃないか?」
「出かけた事はあるけど、その時は恋なんて意識してなかったし・・・。今はあずにゃんの事、凄く意識しちゃうよぉ・・・」
「まぁ、今の唯の状態で、梓の事を意識するなと言うのは無理な話かもしれないけど・・・」
「それに、変な態度を取って、あずにゃんに嫌われたらどうしよう・・・」

私は、考えがどんどんネガティブになっていくのがわかった。いつものポジティブな自分はどこに行っちゃったのかな・・・。
せっかく、澪ちゃんが色々とアドバイスしてくれているのに・・・恋愛にちょっと臆病になってきちゃってるのかもしれない。
だけど・・・そんな私の考えを、りっちゃんの一言が変えてくれた。

「唯!さっき言った事を思い出せ!梓と一緒に居ると楽しいんだろ?久々に梓と会えて嬉しかったんだろ?相手に嫌われたらどうしようって
 ビクビクする事が恋愛じゃない!相手と楽しい時間を過ごしたいって思える事が恋愛なんだよ!だから・・・」
「わかったよ、りっちゃん!こんな事でビクビクするなんて、私らしくないよね!・・・私、あずにゃんと一緒に楽しんでくるよ!」
「あぁ!」

ネガティブな私よ、さようなら・・・。私は、いつもの自分に戻っていくのがわかった。そんな私の顔を見て、周りの3人の表情も笑顔になった。
そこに、ジャズ研へ差し入れを持って行ったあずにゃんが戻ってきた。こちらに歩み寄ってくるものの、あずにゃんは何故か俯いていた。

「どうしたの、あずにゃん・・・」
「ふぇ!?・・・な、何でもないです・・・!」
「梓・・・顔赤いぞ?」
「そ、そそ、そんな事ないですよっ!何言っちゃってるんですか、律先輩!」

慌てて反論するあずにゃん・・・。その時、あずにゃんがチラッとこちらを見た。
せっかく目と目が合ったものの、あずにゃんはすぐに視線を反らしてしまった。
確かに、りっちゃんの言うとおり、あずにゃんは少し顔が赤かった。・・・あれ、もしかして・・・さっきの私達の話、聞かれちゃったのかな!?

「あ、あずにゃん・・・あのね・・・」
「れ、練習しましょう!そろそろ休憩時間は終了です!学園祭はまだ先ですけど、少しずつ練習をやっていきましょう!」
「う、うん・・・」

その後の練習では、普通に会話はするものの、あずにゃんから視線を合わせてくれる事はなかった。
何だろう、私・・・何かしたのかなぁ・・・。それとも、やっぱりさっきの会話を聞かれちゃったのかなぁ。
せっかくポジティブな自分に戻れたというのに、またちょっとネガティブな自分が戻ってきそうだよぉ・・・。


「それでは失礼します」
「澪ちゃん、りっちゃん、ムギちゃん、またねー!」

3人と別れた後、私とあずにゃんは同じ帰り道を歩いていた。歩く速さは2人とも乱れる事なく、ゆっくりとしていた。
2人で一緒に並んで歩いている・・・こんなシチュエーションも、デートみたいなものかもしれない。
2人の間に流れる沈黙・・・。私は、この沈黙を打ち破るべく、あずにゃんに話しかけようとした・・・が。

「あ、あずにゃ・・・」
「唯先輩!」
「は、はい」
「あの・・・その・・・」

何かを言いたそうなあずにゃん・・・。ま、まさか、あずにゃんからデートのお誘いが・・・!?

「・・・受験勉強、頑張ってくださいっ! 私、今日はこっちから帰りますので、失礼します・・・」

私の期待はあっけなく崩れ去った。私は何も言えず、小走りに走って行くあずにゃんの後ろ姿だけを見ていた。
あずにゃんからのデートのお誘いを受けなかったどころか、自分からデートに誘う事もできないなんて・・・!
せっかくのチャンスなのに・・・何か情けないなぁ。


「ただいまぁ~」
「お姉ちゃん、お帰り♪」

家に帰ると、いつものように憂が明るく迎え入れてくれた。エプロン姿を見ると、夕飯の準備をしていたみたいだ。
私は背負っていたギー太を下ろし、リビングのソファーに腰かけた。そして、無意識のうちに深い溜息をついていた。

「どうしたの?お姉ちゃん・・・」
「ん~・・・ちょっとねぇ・・・」

人前ではあまり落ち込んだりする姿を見せない私・・・。そんな私を見て驚いたのか、憂は私の元に歩み寄ってきた。

「元気が無いなんて、お姉ちゃんらしくないよ? 何かあったの?」
「・・・何か、自分の事、情けないなぁって思っちゃってさ・・・」
「えっ・・・そ、そんな事ないよ!お姉ちゃん、毎日受験勉強頑張ってるし、ギターの練習も頑張ってるし・・・!」

憂の言葉が凄く嬉しかった。いつも、私が困った時には私の味方をしてくれる。悩んだ時には相談に乗ってくれる。
今も励ましてくれる憂・・・何だか愛おしくなっちゃった。私は、隣に座っていた憂をそっと抱き締めた。

「ありがとう、憂・・・」
「うん・・・私、お姉ちゃんの味方だもん・・・」

ドキドキ・・・しなかった。あずにゃんの時には、こうしただけでもドキドキするのになぁ・・・。
まぁ、姉妹だからって言うのもあるかもしれないけど、これだけでもわかる・・・やっぱり私は、あずにゃんに恋をしたんだと・・・。

「ねぇ、憂・・・相談に乗ってもらっても良い?」
「うん・・・」

私は体勢を直し、憂に私の悩みを話し始めた。憂はいつも以上に、真面目な表情で聞いてくれている。

「私ね・・・生まれて初めて恋をしたの。最初は全然そういうつもりじゃなかったっていうか、自分では気付かなかったんだけど、その子に
 抱きついたり、その子の事を考えると凄くドキドキするようになったの。この気持ちって何だろうって、今日、りっちゃん達に相談したの・・・。
 そうしたら、その気持ちは恋だって言われて・・・それで、初めて私も恋をしているんだってわかったの・・・」
「・・・その場に、梓ちゃん居た?」

ドキッ・・・いきなり核心をつく質問だ・・・。憂の鋭い質問に、思わず後ずさりしてしまいそうになった。

「いや、居なかったよ・・・」
「梓ちゃんが居たら、できない相談って事だったのかな?」
「いや・・・そういうわけじゃあ・・・」
「お姉ちゃんの恋の相手って梓ちゃん?」
「うっ・・・」

何で・・・こんなにいとも簡単に見抜かれてしまったんだろう・・・。私がわかりやすいのか、憂が鋭いのか・・・。

「何で・・・わかったの?」
「お姉ちゃんの言葉で、そうかなって♪お姉ちゃん『その子に抱きついたりするとドキドキする』って・・・私の知ってる限りだと、
 お姉ちゃんが抱きつくのって、梓ちゃんしか居ないもん♪」
「そ、そうだよね・・・。そこを聞き逃さないとは、さすが憂だね」
「えへへ♪それで相談って・・・?女の子同士の恋愛なら、私は良いと思うよ!自分には無い魅力があるから恋をするんだし、昨日も・・・」
「昨日・・・?」
「あっ・・・ううん、何でもないよ!」

はっとした表情で、何かを否定する憂・・・。昨日、何があったんだろう?
私が相談に乗ってもらいたい事はそういうわけではなかったので、深く詮索する事はしなかったけど・・・。

「実はね・・・あずにゃんを明日の夏祭りに誘おうと思ったんだけど、勇気が出なくて誘えなかったの・・・。
 せっかく一緒に帰ってきたのに、夏祭りの話題にも触れられなくて・・・それで、情けないなぁって思っちゃったんだ・・・」
「そうだったんだ・・・でも好きな子を誘うのって、ドキドキしちゃうとなかなかできないよね・・・」
「うん・・・」
「・・・あっ! 言葉に出来なくても、メールでなら誘えるんじゃないかな!」
「・・・おぉ、そうだね!」

これは盲点だった!・・・って私、毎日あずにゃんとメールしてるんだけどね・・・。何で気付かなかったんだろう。
憂の言葉に感謝しつつ、私はケータイを開いた。デートに誘うには、わかりやすくシンプルに伝える事が大切・・・だと何かで見た気がする。
私はその言葉を思い出し、あずにゃんにメールを送った。

『明日、近所の夏祭りに一緒に行きませんか♪』

普段のメールの雰囲気とはちょっと違うけど・・・まぁ、こんな感じで良いかな。
あずにゃんから返事が来ると良いなぁと思いつつ、ケータイを閉じた・・・と、その瞬間・・・着信音が鳴った。

「「早っ!?」」

私と憂が、思わず声を出してしまうほどの、高速の返事・・・かと思いきや、そうではなかった。
確かにあずにゃんからのメールなんだけど、その内容を見た私と憂は、思わず笑ってしまった。

『明日、夏祭りがあるのですが、良かったら一緒に行きませんか?』

「あずにゃんも・・・同じ気持ちだったのかな?」
「クスッ・・・そうだと良いね♪私ね、お姉ちゃんの恋・・・応援するよ!」
「憂・・・ありがと♪」

悩んだり、元気になったり、凹んだり・・・でもやっぱり嬉しくなったり・・・。今日は色々な事があったなぁ。
あずにゃんと一緒に楽しむ姿を想像すると・・・明日の夏祭りが凄く楽しみになってきた。
今日相談に乗ってくれた、りっちゃん、澪ちゃん、ムギちゃん、そして憂・・・みんな、私を後押ししてくれる・・・。
みんなの応援に応えたい・・・そう思った私は、ある事を考えるようになった。

『あずにゃんの心に残るように・・・思いっきった方法で告白してみようかな。そうすれば、あずにゃんに想いが届くはずだから・・・!』

―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―

翌日――――――――――

私は、今日もみんなと図書館に勉強に来ている。毎日勉強、勉強で気が滅入りそうになるけど、今日は頑張れる! だって今日は…。

「唯、今日のデートには浴衣着ていくのか?」
「えっ…いやぁ、そういう予定は無いけど…」
「えぇー?唯ちゃん、浴衣似合いそうそうなのに…」
「そ、そんな事無いよぉ…」
「お、唯が照れてるぞー♪」
「唯ちゃん、可愛い♪」
「いやぁ…///」
「みんな、図書館では静かに勉強しような…」

あずにゃんとの約束は、午後6時に神社の前に待ち合わせという事になっている。約束の時間までは、まだ6時間もある。
あずにゃんと会うのが楽しみで仕方ない…のに、今日は時間の経過がとっても遅く感じてしまう。図書館に来て、まだ2時間しか経っていない…。
普段よりも一生懸命勉強も頑張っているのになぁ。時間が早く経過するアイテムなんてあれば良いのになぁ。


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最終更新:2010年08月30日 19:22