「何か、3人とも集中力無さそうだから、そろそろ昼食に行こうか」

澪ちゃんの一言で、みんな荷物を片付け始めた。もう一度言うけど、普段よりも一生懸命勉強も頑張っていたんだよ…?
頑張っていたんだけど…澪ちゃんから見たら、集中力無いように見えたんだ…。もっと頑張らないとなぁ。


私達は、図書館の近くのファストフードで昼食を取る事にした。図書館で勉強するようになって、このファストフードに通う機会も多くなった。
今日はこの後、夏祭りや花火大会もある為か、普段よりもお店が混んでいるような気がした。

「それにしても、今日の唯はずっと笑顔だな…。余程、今日の夏祭りが楽しみなんだな…」
「澪、それはちょっと違うぞ。唯は夏祭りが楽しみなんじゃなくて、梓とのデートが楽しみなんだよ」
「いや、そうかもしれないけど…」
「この後、私達も唯と梓のデートをそっと見に行かないか?」
「バカ!そっとしておいてやれよ…」
「部員が健全なお付き合いをするのを確認する義務が部長にはある!」
「勝手な部長権限を作るな!」
「何だか尾行するみたいで楽しそう♪」
「おい、ムギまで何言って…」
「何?みんなで何の話してるの~?」

私がハンバーガーやジュースが乗ったトレーを持って席に戻ると、3人とも慌てた素振りで何でもないと強調していた。

「それにしても、今日はカップルが多いね~」

辺りを見回すと、5~6組のカップルが楽しそうにお喋りをしている。その様子を見ていると、つい私とあずにゃんの姿を重ねてしまう。
お互い、話す事は他愛の無い事だけれど、それでも一緒に居るだけで幸せと思える時間…そんな時間が、私にも来るのかな…。

「唯先輩♪」
「えっ…あずにゃん!?」

ドキッ…!!不意に呼ばれた私の名前…。急いで振り返ると、そこには…あずにゃんは居なかった。
キョトンとした表情の澪ちゃんとムギちゃん。そして、してやったりな表情のりっちゃん…あっ!

「まさか、私の声真似で唯を騙せるとは思わんかった」
「うぅ、りっちゃん酷いよぉ…」

私のドキッ!!を返してよぉ。あずにゃんの呼びかけで、ドキッとしたかったのに…。

「唯はさ…梓に告白するの?」

ドキッ…!また、りっちゃんにドキッとさせられた。むぅ、りっちゃんは私に意地悪するんだね、そういう事なんだね。

「今日はしないよ…でも、あずにゃんの心に響くような、思い切った告白はしようと思うんだ…」
「へぇ…」
「その為にも…みんなにも協力してほしいんだ!…特にムギちゃんに!」
「私?…うん、唯ちゃんの為なら何でも協力するよっ!」
「あのね…」

私はあずにゃんに告白するシチュエーションだけは既に考えていた。その事について、みんなに話す事にした。
来たるべきその日まで…私とあずにゃんの関係がどんな感じになっていくかわからない…。
でも…私は私自身でしっかりと、あずにゃんに想いを伝えようと考えていた。あずにゃんの心に残ってくれるように…。


「じゃあ、みんな…また明日ね!」
「唯ちゃん、楽しんできてね♪」
「うん、ありがとう!」

昼食を取った後、再び図書館に戻り…食後の眠気と闘いながらも、私は4時間勉強を頑張った。
そして、今は午後5時…。約束の時間まで1時間もあるけれど、私は神社に向かって自然と駆け出していた。


「…で、律はどうするんだ?唯と梓のデートを部長権限を使って見に行くのか?」
「…やめとくよ。唯に、あんな大胆な告白方法聞いたら、唯の本気さが伝わってきてさ…。澪の言うとおり、2人の事はそっと見守る事にするよ」
「そうだな…2人の関係、上手く行くと良いな」
「ふふっ、そうね♪」


「はぁ…はぁ…何とか着いたぁ…」

神社に着いた時には、私は息があがっていた。今は約束の30分前…。夏祭り会場は既に多くの人で賑わっている。
時間には余裕があったのだが、少しでも早くあずにゃんに会いたい一心で、私はずっと走ってきたのだった。

「30分前かぁ…ちょっと早く着きすぎちゃったかな」

さすがに、あずにゃんよりも早く着いちゃったよね。あとは、あずにゃんが来るのを待つだけ…だと思っていたんだけど…。

「ゆ、唯先輩…」
「えっ…あずにゃん!?」

名前を呼ばれ、振り向くと…そこには夕陽に照らされ、頬を染めたあずにゃんが立っていた。

「も、もしかして待たせちゃった!?」
「いえ…私も今来たところです…」

照れながら答えるあずにゃん…。今日のあずにゃんは、今までに見てきた、どのあずにゃんよりも可愛い…。
あずにゃんは、藍色の生地に白椿がデザインされた浴衣を着ている。浴衣は夏祭りには持って来いの格好だ。
そんなあずにゃんの姿を見て、りっちゃんの言葉をふと思い出す。…私は、自分自身の格好に悔やんでしまった。

「うぅ…私…あずにゃんと不釣り合いだぁ…」
「な、何でですか!?」
「あずにゃんは可愛い浴衣姿なのに…私…パーカー…」
「ゆ、唯先輩は今まで、皆さんと勉強していたんですよね!だったら、普段着なのは仕方ないですよ。気にしないでください!」
「あずにゃん…」
「それに…私、今日は唯先輩と夏祭りを楽しめると思うと、嬉しくて仕方ないんです!唯先輩が傍に居てくれるだけで嬉しいんです!」
「…私も、あずにゃんと一緒で嬉しいよ!こんな私だけど…今日は宜しくね!」
「はい…こちらこそ、宜しくお願いします!」

デートの前に宜しくと言い合うのは…何か変かな。とりあえず、私達は一緒に夏祭りの会場に入って行った。
慣れない浴衣姿で、少し歩き辛そうなあずにゃんだったけど、私はゆっくりとその歩調に合わせながら前に進んで行く。
会場には、多くの出店で賑わっている。金魚すくい、ヨーヨー釣り、射的…。夏祭りには定番の物ばかりだ。
食べ物の出店も豊富で、綿あめ、かき氷、イカ焼き…やはり夏祭りには定番の物が色々と並んでいた。
そんな数多くの出店の中で、あずにゃんの気を引く物も現れた。

「あっ…」
「あずにゃん、どうしたの?」
「いえ…こ、これ、食べて良いですか…?」
「…良いよ♪あずにゃん、好きだもんね!」
「ありがとうございます///」

あずにゃんは、嬉しそうな表情でたい焼きを買っていた。だけど、既にかき氷とヨーヨーを持っていた為、あずにゃんの両手は塞がっている。
そこで、私はあずにゃんにたい焼きを食べさせてあげる事にした。

「はい、あずにゃん…あ~ん♪」
「ふぇ…///あ、あ…あ~ん…」
「美味しい?」
「はい…美味しいです…」

あずにゃんは照れながらも、私の差し出したたい焼きを食べてくれた。何だかカップルみたいな感じで…私も少し体が温かくなってきた。
今までも、何度かあずにゃんに『あ~ん』とした事はあったけど、デートと意識している中でやると、やっぱり照れくさいものがあるなぁ。

「こうやって、唯先輩と一緒に居ると、凄く楽しいです!」
「私も、あずにゃんと一緒だと楽しいよ♪ 時間が経つのが忘れちゃうくらいに!」

あずにゃんとのデートの前は、上手く話せなかったらどうしようとか悩んでしまった事もあった。
だけど、いざ夏祭りに来てみると、そんな悩みはどこへやら…。私達はお互いに楽しく話し、笑い合っていた。
好きな人と一緒に居ると、やっぱり楽しいな…。恋って…やっぱり良い物なんだなぁ。

『ヒュルルルル……ドーン!!』

私の恋心を表すような綺麗な花火が打ち上がった。その最初の花火を皮切りに、次々と花火が上がっていく。
そして、夏祭りに来ていた多くの人達が、その花火に釣られるように花火大会の会場に向かって行った。

「あずにゃん、私達も花火大会の会場に行こう!」
「はいっ!あ、でも…」

あずにゃんは少しよろけながら、私の背中にしがみついてきた。

「すみません、歩き辛くて…」

そうだった、あずにゃんは浴衣を着ているから、足元も下駄で歩きにくいんだ…。という事は、走る事はできない。
しかも、多くの人が移動しているから、もしかすると2人はぐれてしまうかもしれない…。となると、私が取るべき行動は一つだ。

「大丈夫だよ、あずにゃん…私があずにゃんを花火大会の場所までしっかり連れて行くから!」
「はいっ…」

私は、あずにゃんの手を取り、ゆっくり歩き出した。あずにゃんとはぐれないように…あずにゃんが転ばないように…。
こうやって手を繋ぐと、手の平や指先から、あずにゃんの体温を感じてくる…。
あずにゃんは今、どんな顔をしているのかな…。私は恥ずかしくて、あずにゃんの方を向けないよ。だって、顔が凄く赤いんだもん…。

「花火、綺麗だね…」
「そうですね…」

私達の目の前で、どんどん打ち上がっていく花火…。私はその花火に心を奪われていた。
でも、花火に心を奪われている時でも、私はあずにゃんの手を離さなかった。
今この瞬間…いや、これから先もずっと一緒に居たいという想いがあったから…。
あずにゃんの方に目を向けると、あずにゃんの顔や瞳が花火の色で輝いている。そんなあずにゃんの表情に、私は吸い込まれてしまいそうだった。

「何か…流れ星みたい…」

打ち上がった後、ゆっくりとキラキラ散っていく花火を見て、私はふと呟いていた。それに対し、あずにゃんも呼応してくれた。

「これだけ流れ星があったら…1つくらい願い事が叶うかもしれませんね…」
「…お願いしてみようか♪」
「はいっ!」

ここで初めて、あずにゃんから手を離した。そして、花火が打ち上がり、消えていきそうになった時…手を合わせてお願い事をした。

『あずにゃんと、これから先も…ずっと一緒に居られますように…私があずにゃんの事を、ずっと守ってあげられますように』


「唯先輩、さっきは何お願いしてたんですか?」

花火大会の帰り道、あずにゃんは嬉しそうな表情で、花火への願い事の内容を聞いてきた。

「ひ・み・つ♪話しちゃったら、効果無くなっちゃうもん♪」
「え~…唯先輩が教えてくれたら…私のお願い事も話してあげますよ?」
「それはダメだよ…。そのお願い事は、あずにゃんの心の中にしまっておいて、ね♪」

あずにゃんは不満そうな顔をしている。だけど、ゴメンね…あずにゃんのお願い事、多分わかっちゃったよ。
花火への願い事をした後、照れながらも、あずにゃんはすぐに私の手を握ってくれたよね。そして、今でもまだ手を繋いでくれている…。
手を繋ぐ理由が私と同じだったら…私と同じ想いだったら…あずにゃんの気持ちもきっと…。

「もうすぐ夏休みも終わりだね…夏休みが終わったら、学園際に向けて本格的に練習しなきゃね!」
「そうですね…先輩達の最後の学園際ですものね!必ず成功させましょうね!」
「うん!」

手を繋ぎ…離れないように歩いている私達を、夜空に輝く沢山の星と満月が照らしていた。

「来年も…夏祭り、一緒に行きたいね」
「そうですね…」
「そうしたら、来年は私も浴衣着てくるね!」
「クスッ、楽しみにしてますね!」
「あっ…あずにゃん!…遅くなっちゃったけど、今日の浴衣、凄く可愛かったよ!」
「ありがとうございます♪…でも、最初に言ってもらえたら、もっと嬉しかったです♪」
「あぅ、あずにゃんゴメン…」

久し振りに、あずにゃんから鋭いツッコミを言われた気がした。だけど、こういうやりとりも日常の幸せなんだなと思う。
あずにゃんと一緒に、沢山の幸せを感じる事ができた…今日の出来事は忘れる事ができないんだろうなぁ。

―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―

「澪ちゃん、りっちゃん、主役お疲れ様!」
「唯もお疲れ~。立派に木を演じてたな」
「私…もう絶対ロミオなんてやらないんだから…」
「安心しろ、澪…ロミオ役に限定するなら、残りの人生で考えても役は回ってこないから」

あの楽しかった夏祭りから1ヵ月ほど経った。今は学園祭の真っ只中だ。私達のクラスでは『ロミオとジュリエット』の演劇を行った。
ロミオ役の澪ちゃんと、ジュリエット役のりっちゃんの練習の成果も発揮できたようで、演劇は無事に終わる事ができた。
無論、私も練習の成果は発揮できた。木という役で…ただジッと動かない練習だけど…。
でも、私にとっての本番は明日だ。明日は軽音部でのライブがある。私達にとっては、最後の学園祭のライブだから…。

「明日は…文化祭での最後のライブだね」
「そうだな…。唯は…準備OKか?」
「うん!…ムギちゃんが協力してくれたから…」
「唯ちゃん、凄く頑張ってたから、唯ちゃんの力になれてると良いけど…」
「うん、ムギちゃんのおかげで良い曲になったよ!…澪ちゃんとりっちゃんも協力してくれてありがとう!」
「まぁ、あくまで本番は明日だけどな…。唯、歌詞を間違えたり、忘れたりしないでくれよな…私は明日はフォローできないから…」
「これは唯しか歌えないからな…」
「大丈夫!必ず成功させるよ!」

私達が明日演奏する曲は既に決まっている。今までに何度も演奏してきた曲や、今回初披露の新曲もある。
でも、その中の1曲が私にとって凄く重要な曲なんだ。

「とりあえず、部室に行くか…梓がきっと寂しそうな顔をして唯を待ってるぞ」
「私達、演劇の練習を重点的にやってたから、最近部室に行けなかったもんな…ゴメンな、唯…」
「澪ちゃん、それは私じゃなくて、あずにゃんに言ってあげて…。私は一応、あずにゃんとは毎日メールもしてるし…」
「あら、もうラブラブなのね♪」
「そうなれるかは…明日のライブ次第だよ、ムギちゃん♪」

半ば、軽音部では公認のカップル扱いだけれど…私はまだ、あずにゃんにちゃんと告白をしたわけではない。
夏祭りの時には、それとなく色々と態度で示してみたけれど、もしかしたら、スキンシップの一部と思われてるかもしれない。
だから私は、明日ちゃんとした形で…みんなの前で告白しようって決めている。その為に、3人にも色々協力してもらった。
あとは自分次第だけれど…協力してくれた3人の為にも、告白は絶対に成功させたいと思っていた。


久し振りに部室に来てみると、あずにゃんが1人でギターの練習をしていた。私が演劇の感想を聞くと、良かったと答えてくれた。
だけれどその言葉の裏には、あずにゃんの本音も隠れていて…。あずにゃんは申し訳なさそうな表情で、その本音を話してくれた。

「皆さんあんまり部室に来てなかったから…ライブの事あんまり大切に思ってないのかなって心配になっちゃって…」

私達はクラスが同じだから、いつも4人揃っている。クラスとしての出し物だから、どうしてもそちらを優先して練習する日々が続いてしまった。
それが結果的に、あずにゃんに寂しい思いをさせてしまった事は悪かったと思うけど、決してライブを忘れていたわけではないんだ…。
あずにゃんには内緒だけれど…私達は4人だけでも特訓してきたんだ。あずにゃんの為に特訓してきたんだ…。

「よーし、明日に向けて今日は泊まり込みで練習だー!」

あずにゃんの寂しかった気持ちを汲み取ったのか、最初から計画していたのか…りっちゃんは泊まり込んで練習する事を提案してきた。
でも、その後にさわちゃんが寝袋を持ってきたという事は…最初から泊まり込む気満々だったんだね、りっちゃん…。

…泊まり込む事を聞いた憂が夜食を持ってきてくれたり、ムギちゃんがデザートを用意してくれたり、色々なお菓子があったり…。
学校でのお泊まりって、美味しい事が沢山あるんだぁ…。あれ、泊まり込みの目的が何だかわからなくなってきちゃったよ。
結局練習もしたものの、夜の学園祭を回ったり、色々お喋りもして、何だか気分は修学旅行みたいになっちゃったなぁ。

「電気消しますよー」

時間も夜中の3時くらいになっており、私達は眠りに就く事にした。
みんなとお泊まり…あの時はあずにゃんは居なかったけれど、気分はやっぱり修学旅行だなぁ。
あの時は、みんなで恋についても話したっけ…。経験のなかった私は、恋って何だろうって聞いてたっけ…。
そんな私も、今はあずにゃんに恋をしている。あずにゃん…そういえば、あの時もあずにゃんにメールを送ったんだっけ…。

「あずにゃん…」

みんなの寝息が聞こえてくる。もしかしたら、あずにゃんも既に寝ちゃってるかもしれない…。寝ていたら寝ていたで構わないけれど…。
だけど、あずにゃんと少しお話しがしたくて…とりあえず名前を呼んでみた。

「はい…」
「あっ、まだ起きてた?…少し、お話ししても良い?」
「良いですよ。私も、唯先輩とお話しをしたいなぁって思ってたんです」
「そっか…。なんかみんなでお泊まりしてると、修学旅行を思い出しちゃった。あの時は、あずにゃん居なかったけど…
 あずにゃんも一緒だったら、もっと面白かったんじゃないかなって思ってたんだ」
「そうですね…私も憂の家でお泊まりしてましたけど…一緒に旅行に行けたら良かったのにって思ってました…」
「そっかぁ…。ねぇ、あずにゃん…その日の夜に送ったメール覚えてる?」
「…覚えてます…」

あの時は、恋バナからの流れで何となく聞いたけれど…。今は、あずにゃんの確かな気持ちを知りたいと思っている。

「あずにゃんは恋した事ある?」

前にメールで送った時は、返事が無かったけれど…今はしっかりと答えを聞けるチャンスだ。
あずにゃんの答えを待ってる間、鼓動が早くなっていくのを感じた。そして、暫く続いた沈黙を、あずにゃんが静かに破った。

「…今まで、恋をした事ってなかったんです。修学旅行に行っていた唯先輩からメールを貰った時も、恋はしていないって思ってました。
 だけど、今ではある先輩の事を考えるとドキドキしちゃったり、ギュッと抱き締められると心が温かくなったりするんです…。
 だから…今でははっきりと言えるんです。私は…大好きな先輩に恋してるって…。これが…私の初恋なんです」
「そっか…」
「それに…最近は毎日メールを貰っていても、やっぱり会えないと凄く寂しかったんです…。少しだけでもお話しがしたくて…
 一目でも良いから会いたくて…何度もその先輩の教室の前まで行ったんです。だけど、頑張って練習している姿を見ると…
 邪魔しちゃ悪いと思って…何度も我慢して、部室に戻ってきていました」
「ちょっとでも我儘言ってくれれば…その先輩も、あずにゃんに会いに来てくれたんじゃないかな?その人の練習は、
 きっとどこでもできる練習だったと思うし…。それこそ、部室でも、あずにゃんの家でも…」
「そうだったかも…しれませんね。…唯先輩は恋した事はあるんですか?」

こちらにも振られると予想はしていたけれど、あずにゃん自身の恋について具体的に答えてくれたので、逆に戸惑ってしまった。
私も同じように、具体的に答えてみようかな…。一呼吸おいて、あずにゃんの言葉を整理しながら、私は口を開いた。

「あずにゃんと同じだよ…。私も恋はした事なかったし、修学旅行の時も、まだ恋はしてなかったと思う。だけど、今は恋してるよ…。
 その子は、とっても真面目な子で、私よりもギターが上手なの…。だから、もしかすると下手な先輩に愛想を尽かしているかもしれない…。
 でも、修学旅行のお土産を渡した時に見せてくれた笑顔が忘れられなくて…その子の事を考えると胸がキュンってなったりするの…」
「唯先輩…その子はきっと、愛想を尽かしてなんかいないと思いますよ。頑張る先輩の背中を見て、愛想を尽かすなんて子はいないですよ。
 それどころか、憧れの存在になってると思いますよ。いつか、あんな先輩のようになりたいって思っているかもしれません」
「そっかぁ。…私ね、その子に振り向いてもらいたくて…最近、ずっとボーカルとギターを頑張って練習してきたんだ。
 明日はライブの本番だけど…私の大好きな子に、私の事を見ていてほしいなって思ってるんだ…」
「きっと、その子も唯先輩の事…しっかり見ていてくれると思いますよ。きっと、誰よりも近い所から見ていてくれると思います」

私は、あずにゃんの言葉を聞いて表情が緩んだ。その様子を見たのか、あずにゃんも優しい表情で私を見てくれた。
私達は、間違いなくお互いの気持ちを確信している。少なくても私はそうだ。でも、今はあえて気持ちを伝えなかった。
例え、あずにゃんの気持ちが100%わかっていたとしても、私なりの告白の方法を考えていたから…。
ジッと私を見ていてくれるあずにゃん…。だけど、もう少しだけ待っててね。明日、必ず想いを伝えるから…。

「恋って…良いよね♪」
「そうですね♪」

お互いにクスッと笑い、静かに目を閉じる。静寂に包まれ、月明かりに照らされている私達…。
声を掛け合ったわけではないけれど、私達は寄り添いながら眠りに就いた。


翌日…いよいよ、私達軽音部のライブの日がやってきた。学園祭の最終日も天気がよく、沢山の人達が来てくれている。
講堂に移動する前、さわちゃんが作ってくれたHTT特製のTシャツに着替え、私達は部室で最後の打ち合わせをしていた。

「手の平に人を3回書いて…飲む!」
「澪も、そのおまじないをやっておけば大丈夫だな!」

いつもは恥ずかしがり屋の澪ちゃんだけど…昨日のロミオ役もしっかりできてたし、今日のステージも大丈夫だよね!

「唯、MCちゃんと考えてきたか?」
「ばっちりだよ、りっちゃん!」

ライブをやる時には、私がいつもMCを担当している。上手くまとまる事もあれば、ついだらだらと話しちゃう事もある。
そんな時は、りっちゃんからドラムで突っ込まれる事もあるんだけど、あれはあれで面白いなって思う。

「特に、今日は3曲目と4曲目の間のMCが重要だからな。唯、失敗しないように頑張れ!」
「えっ?澪先輩、何で3曲目と4曲目の間のMCが重要なんですか?3曲目は『わたしの恋はホッチキス』で、4曲目は『ふわふわ時間』ですよね…」
「その時になったら…わかるから♪」

澪ちゃんは、あずにゃんの頭を撫でながら私にアイコンタクトを送ってきた。大丈夫…必ず成功させるよ!
私は澪ちゃんに向かって大きく頷いた。その様子を見ていたムギちゃんが、嬉しそうに手の甲を差し出した。

「私の手に、みんなの手を重ねて!私、こうやって…みんなと一致団結するぞ、みたいな事をするのが夢だったの♪」

ムギちゃんの言葉に、みんなの顔から笑みがこぼれた。そして、ムギちゃんの手にりっちゃんの手が重なり、その上に澪ちゃんの手が重なった。
さらにあずにゃんが手を重ね、最後に私が手を重ねた。ムギちゃんの言葉をそのまま使うけど、こうするだけで本当に一致団結している気分だ。

「私達のライブ、必ず成功させようね!」(紬)
「「「「オー!」」」」
「私達のライブ、みんなに感動を与えようぜ!」(律)
「「「「オー!」」」」
「私達のライブ、良い思い出にしような!」(澪)
「「「「オー!」」」」
「私達のライブ、最高のものにしましょう!」(梓)
「「「「オー!」」」」
「私達のライブ、終わったらケーキ食べよう!」(唯)
「「「「オー!…オォォ?」」」」

あっ…何か素が出ちゃったよぉ…。今日、まだお茶してなかったしなぁ…。
それに、ライブって結構体力の消耗が激しいから、終わった後ってお腹空いちゃうんだよね。
でも…部室に響くみんなの笑い声を聞くと…余計な力も抜けて、リラックスできたんじゃないかな♪


講堂に移ると、ライブが始まる前から席はほとんど埋まっている状態だった。舞台そでから客席を見ると、クラスメートの子もみんな見に来てくれていた。
前の席の方には…憂と純ちゃんも見に来てくれている。そして驚いた事に…皆、私達が着用しているHTT特製のTシャツを着ている!
皆、楽しみにしてくれているんだ…。その期待に応えられるように頑張ろうと心に決め、私達はいつものポジションに就いた。
私はあずにゃん、りっちゃん、ムギちゃん、澪ちゃんの順にアイコンタクトを送った。言葉は無かったけれど、みんな微笑みで返してくれた。
そして15時…開演のブザーと共に、幕が上がった。大きな拍手に迎えられ、私はMCを務めた。

「皆さん、こんにちはー!放課後ティータイム、ギター兼ボーカル担当の平沢唯です!ベース兼ボーカル担当は秋山澪ちゃん!ドラム担当は部長の田井中律ちゃん!
 キーボード担当は琴吹紬ちゃん!そして、もう一人のギター担当は私達の後輩、中野梓ちゃん!」

…メンバーの紹介も終わり、曲目も無事に演奏していく事ができた。曲が始まる前、そして終わった後…みんなが大きな拍手と声援を送ってくれた。
みんなの期待に応えながら演奏できるって…凄く気持ち良かったし、幸せな気持ちだった。ライブって…楽しいなぁ。
曲と曲の間にも、毎回MCを入れていたけれど、笑ってくれたり、同感してくれたり…私の話す事に、皆が反応してくれたのが嬉しかった。
そして、3曲目の『わたしの恋はホッチキス』も無事に演奏が終わり…再び私がMCとして喋り出す時が来た。

「今の曲は『わたしの恋はホッチキス』という曲目だったんですが、皆さんは恋…してますか?…私は、今凄く素敵な恋をしています♪
 ドキドキしたり、心が温かくなったり、胸がキュンとなったり…その子の事を考えるだけで、毎日が楽しくなってくるんです!
 恋って…良いですよね!恋って、毎日が生き生きするし、自然と笑顔にもなれちゃう、素敵な魔法だと思ってます!」

客席からは、おぉーっという歓声や、同じ女子高生として共感してもらえたのか、うんうんと頷いてくれている人達も居た。
そんなリアクションを確かめながら、私はさらに言葉を続けた。

「私は、今日…そんな素敵な魔法をかけてくれた子に、私の気持ちを伝えようと思っています。恥ずかしいんですけど、これが私の初恋なんです。
 その子は、私にとっての初めての後輩で、凄く真面目な子なんです。それでもって凄く可愛くて、私が困った時や、他のメンバーが困った時には、
 すぐに手を差し伸べてくれる、とっても優しい子なんです。…私は、そんな素敵な後輩…中野梓ちゃんに恋をしています」

ここで私は、体を客席からあずにゃんの方に向けた。そして、そのままジッとあずにゃんの事を見つめた。
あずにゃんはどんな想いで私のMCを聞いてくれていたのだろう…。そして、今はどんな想いで私の事を見てくれているのだろう…。

「今から、私は1曲歌います。それは…私の大好きな…中野梓ちゃんの為に歌う曲です」

客席は、きっとこんな事になるとは思いもよらなかっただろう。講堂内には、大きな歓声とどよめきに包まれている。
しかし、私が一呼吸おくと…その歓声もどよめきも次第に静かになってきた。あずにゃんは何も言わずに…ただジッとこちらを見てくれている。

「…梓、聴いていてね…『Y to A~キミへの想い~』」

私は視線をりっちゃんに送った。りっちゃんのスティックの音を合図に、私と澪ちゃん、りっちゃん、ムギちゃんの演奏が始まった。
…今から、私の本気をあずにゃんに見せるよ。あずにゃんを梓って呼んだのも、本気の証拠…だから、聴いててね…。



ひらり舞う桜の季節 キミに出会えた
Like だった私の心を…キミは
さらって Love に変えてしまった
私をドキドキさせるキミへの想い
夢の中でもキミと会えますように
いつでもキミと一緒(とも)に居たいから…

はにかむキミの笑顔に…私はドキドキしちゃったの


夏祭りで上がった花火 キミと見ていた
輝いているキミの瞳に…私は
のめり込んでいってしまった
あの花火に願ったキミへの想い
ずっとキミと一緒(とも)に居られますように
最愛のキミを守りたいから…

頑張るキミの横顔に…私はキュンとしちゃったの


抱きつくのはキミのぬくもりを感じたいから…
イヤと言われると凹んじゃうけど…
好きだからやっぱり甘えちゃうの…
キミといるだけで心が温かくなるよ…キミと
出会えて本当に良かった…だから伝えたいの
好きだよ 世界一大好きだよ…!


演奏が終わり、一瞬の静寂に包まれた後…客席からは割れんばかりの歓声が聞こえてきた。
と、とりあえず…みんなからは受け入れられたみたいで良かったと思う…。
でも、私が本当に知りたいのは、あずにゃんの気持ち…。私、本気だったから…あずにゃんも遠慮とか無しで、本気の答えを聞きたいな…。
客席からはマイクを使わないと、至近距離に居るあずにゃんとも会話ができないほどの歓声が上がっていた。
私は、自分自身の声が歓声にかき消されないようにマイクを手に取り、あずにゃんに話しかけた。

「これが…私の気持ちです。だから…私と付き合っ…」

まだ告白の途中だったけど…もう、言葉は要らなかったみたい…。これが…あずにゃんの本気の答えなんだ。
あずにゃんは、大粒の涙を流しながら私に飛びついてきた。震えながらも、しっかりと私を抱き締めてくれるあずにゃん…。
そんなあずにゃんを、私も優しく抱き締めた。無事に歌い終えた安堵感もあり、私はこの告白に協力してくれた3人に向けて、にっこりと微笑んだ。
涙で声も震えていて…とても小さな声にしかならなかったけれど…大歓声の中、あずにゃんの答えは私にはしっかり聞こえた

「私も…大好きです…」

講堂に響き渡る、私達の名前…。唯コールと梓コールが鳴りやまなかった。りっちゃん達には申し訳ないと思いつつ、私はあずにゃんから離れた。
目には、まだ光る物が残っていたけれど…あずにゃんはとても晴れやかな表情をしていた。
本当は、ここでキスとかしちゃったら、みんなはさらにヒートアップするかもしれないけど、私にはそこまでできる余裕がなかった。

「みんなぁ、ありがとぉー!!みんなには感謝の気持ちでいっぱいですっ!まだまだみんなの前で沢山演奏したいけど、次が最後の曲になってしまいました!
 今日、この瞬間を…みんなと一緒に過ごせた事を心から感謝して…精一杯歌います!!聴いてくださいっ!『ふわふわ時間』!!」

こうして…時間にして僅か30分だけだったけれど…私達の最後の学園祭のライブは大盛況のうちに幕を閉じたのだった。


ライブが終わった30分後…私はあずにゃんから体育館の裏に来てほしいと呼び出されていた。
何かあるのかなと思い、私はいそいそと指定の場所に向かった。体育館の裏は、盛り上がっている学園祭の中で、唯一と言って良いほど人気が無い所だった。
その為、私がその場所に着いた時も、あずにゃん以外に人の気配は無かった。つまり、ここには私とあずにゃんの2人きりという事だ。

「お待たせ、あずにゃん…どうしたの、こんな所に呼んで…」

私が来るのを確認すると、あずにゃんはクルリと私に背を向けた。あ、あれ…何か怒ってる…?
告白も成功したし、あずにゃんから好きという言葉も聞けたから、私達は晴れてカップルになれたと思ったんだけど…。
も、もしかして…冷静に考え直して、あんな多くの人の前での告白なんて何考えてるんですか!?って怒られるのかな…。
私の気持ちを本気で伝える事ばっかり考えてたからなぁ…。あずにゃん、怒ってるのかなぁ…。

「今日のライブ、お疲れ様でした」
「うん、お疲れ様ぁ…」

うぅ、何か素っ気無いよぉ…。さっきの件、全て無かった事にしてください…とか言われたらどうしよう…。
私、絶対…立ち直れない…。多分…いや絶対、残りの高校生活は生きた屍みたいな状態になってそうだよ…。

「あずにゃん…?」
「あんな大勢の人の前で、あんな告白するなんて…何考えてるんですか。私の気持ちも考えてくださいよ…」

あ、やっぱり怒ってらっしゃる…。でも…恋人関係は解消しますとか、私の事嫌いになったとか…それだけは、ご、ご勘弁を…。

「まったく…あんな告白するなんて、唯先輩はズルいです」
「ゴメン…」
「…まぁ良いですけど。何で私が体育館の裏に唯先輩を呼び出したかわかりますか?」

人が誰も居ない…大切な話をする場所に適してる…誰にも聞かれたくない事…つまり…やっぱり別れ話!?

「ゴメン…わからないや…」

今の私には、そう言って誤魔化すのが精一杯だった。告白も上手く行ったと思ったけど、私の勝手な思い込みだったのかな…。

「小学校の時に聞いた話なんですけど…女の子が好きな人に告白をするのは、体育館の裏が一番良いみたいなんです。滅多に人が来ないし、
 他の人に話を聞かれる心配も無いから…。たとえフラれたとしても、1人でこっそりと涙を流す事ができるから…。
 昨日も唯先輩には話しましたけど、今、私がしている恋が初恋なんです。だから私は今日、初恋の相手に告白をしようと考えてました。
 1ヵ月前から、今日、この場で告白しようって考えてたんです…。それなのに…その相手から、一生忘れられない告白をされました。
 あんな告白、私からできるわけないじゃないですか…。だから、唯先輩はズルいんです。私よりも一歩二歩…いや、全然追いつけない所に
 進んでいるんですから。あんなカッコいい姿見せられたら…あんな感動的な告白されたら…もっともっと大好きになっちゃうじゃないですか!」

そっか…そういう事だったんだ…。別れ話とかじゃなかったんだ…。ホッとしたというか…何か嬉しいな…。

「私の考えてた事、何か小学生そのものみたいで、凄くカッコ悪いです…。告白も唯先輩からされて、計画も全部台無しですよ…」
「ゴメンね、あずにゃん…」

私は、そっとあずにゃんを後ろから抱き締めようとした。ずっと背を向けたままなのは、今の表情を私に見られたくないからなんじゃないかなって…。
そう思った私は、あずにゃんの気持ちを落ち着かせようとしたんだけれど…あずにゃんは、私の腕を解いてしまった。

「だから…」
「…」

突然の事で、私は何が起きたのかわからなかった。だけど、フワリと…私の口元から全身にあずにゃんのぬくもりを感じていくのがわかった。
…そっか、だから体育館の裏なんだ。思考が交錯していたけれど、私はようやくあずにゃんがここに呼び出した理由がわかった。
あずにゃんが話していた体育館の裏の話…人が全然来ない事もそうだけど、フラれて泣いている姿を見られない為もそうだけど…。
告白をして、OKを貰えた時に…その証を交わす瞬間を誰にも邪魔されず…自分達だけの時間を味わう事もできるから、ここなんだ…。

「だから…キスは私からしちゃいました///…別に良いですよ…ね?」
「勿論だよ…梓からのキス、とっても良かったよ」
「唯先輩…」

私は、あずにゃん…いや、梓の頭にポンと手を乗せ、優しく撫でながら伝えた。

「先輩、は要らないよ、梓…」
「うん…ゆ、唯…」

照れながら、上目遣いで私の名前を呼んでくれる梓…。そんな姿がとても愛おしくて…今度は私から梓に口を重ねた。

「大好きだよ、梓…」
「私も…好きだよ、唯…」

少し…並行していたお互いの気持ち…だけど、今日…みんなの前で交わる事ができた。
初恋は、実る事よりも儚く散ってしまう事が多いらしい…だからこそ、こうやって想いが通じた事が嬉しかった。

「そうだ…唯がさっき歌ってくれた曲…あの歌詞って、唯が考えたんだよね?」
「うん、そうだよ。作曲はムギちゃんがしてくれたんだ。だから、ムギちゃんはこの告白には一番力になってもらった人なんだよ」
「そっか…。ねぇ、その歌詞って今見る事できるかな?」
「できるよ~。私、ちゃんと歌詞カード持ってるから♪」

歌詞カードを渡すと、梓はまじまじと歌詞を見つめ始めた。時折、ライブの事を思い出したのか…笑みをこぼす事もあった。
この歌詞には、梓へのメッセージが隠されているんだけど…気付いてくれるかな…?

「この歌詞、梓への想いをたっぷり込めて作ったんだよ…三日三晩寝ずに♪」
「えぇ!?」

この歌詞を考えている時は、常に梓の事が頭から離れなかったなぁ。寝不足になったけど、梓が喜んでくれる事を考えるだけで頑張れた。
梓に早く伝えたくて、聴いてほしくて…。4人で近所の貸しスタジオで練習している事も内緒にして…頑張ったんだよ。

「あっ…」
「どうしたの?」

何かに気付いたように声を発した梓…。その視線は、ある1行を追うように上下していた。
何度も何度も視線を上下させ…そして、フッと顔がほころんでいくのがわかった。

「唯ったら…こんなメッセージを…///」

歌詞の中に隠したメッセージ…どうやら、梓も見つけてくれたみたいだね…。梓の言葉が、それを証明してくれた。

「中野梓も平沢唯が大好きです…」


それにしても…私達はライブの余韻と、2人きりの世界にどっぷり浸っていたんだろうなぁ…。
少し冷静になった私達は、お互いを名前で呼び合っていた事を思い出し、顔を赤らめていた。2人とも、湯気が出るくらいに体が熱くなっていたと思う。
それでも、私は梓のぬくもりを感じていたくて…ギュッと手を繋いでいた。

「唯…」
「な~に?梓…」
「よ、呼んだだけ…///」
「もう…梓!」
「ふぇ!?…な、何、唯…」
「…呼んだだけ///」

こんなやり取りをするのは、初恋が実った喜びをしっかり感じていたいから…。
私は、梓の名前を呼んで、梓を見つめて、梓とキスをして…余韻に浸って、冷静になって赤面して…また梓の名前を呼んで…を繰り返していた。
本当に…幸せな気持ちだった。


翌日…私達は校内認定のカップルになっていた。まぁ、大勢の前で告白をして…その告白を受け入れてもらったのだから、当然なのかもしれない。
だけど、ライブ終了後にできたと言われるファンクラブの存在が、私達を校内認定カップルにする決め手になったようだ。

「唯×梓ファンクラブ…?」
「な、なんですか、これはー!?」

新たなファンクラブのポスターを目の前にして、呆然としている私の横で…梓がりっちゃんに説明を求めていた。

「唯×梓ファンクラブ…これで、『ゆいあずファンクラブ』って読むらしいぜ♪」
「そんな事聞いてるんじゃないんです!律先輩、こんなファンクラブを勝手に作らないでください!気持ちは凄く嬉しいですが!」
「私じゃないし!…って、嬉しいのかよ!?」

話を聞いていくと、このファンクラブを作ったのはムギちゃんでも無いし、勿論澪ちゃんでも無い…。
他にこんなファンクラブを作りそうな人は…まさか、さわちゃん!?

「私は衣装しか作らないわよ…最近徹夜続きで疲れてるのに、ファンクラブなんて作ってる余裕無いわよ…」

ごもっともで…じゃあ、誰がファンクラブを作ったんだろう…。
思ったよりも、このファンクラブの創始者を探し出すのは大変かもしれないと思っていたけど…張本人は私達の身近に居た。

「私、一応2人の恋の相談に乗ってあげたわけだし…これくらい良いでしょ♪私、2人の恋を応援するって決めたんだから!
 …お姉ちゃんと梓ちゃんには、もっとラブラブになってもらわないとね♪」

ファンクラブの会長は、まさかの憂だった…。どうやら憂は、私が梓へのデートの件で相談した前日に、梓から恋の相談に乗っていたようだ。
自分の事のように考え、色々とアドバイスをしてくれた憂には、私も梓も頭が上がらないので、ファンクラブの設立を正式に許可しちゃったよ…。

現在では、私達の噂は校内に止まらず、町中にも広まっていた。校内認定カップルを飛び越え、私達は町内認定カップルにまでなっていた。
ファンクラブ会員数も1000人を超え、町内にゆいあずフィーバーが巻き起こるまでになってしまった。おかげで、ゆっくりデートもできない…。

「私の告白って…そんなに凄かったのかなぁ」
「破壊力ありすぎだよ…」

でも…この気持ちは確かに梓に届いてくれた。だから、今こうして一緒に手を繋ぎながら歩いていく事ができるんだ。
町を歩けば、色々な人に声をかけられるけれど…それはみんな、私達を祝福してくれているから…。そう考えると、とても幸せな気持ちになれた。
勿論、幸せで居られる一番の理由は、梓が横に居てくれるから、なんだけどね。

「どんな事があっても…これからも、ずっと一緒に居てね。私が梓の事…守ってあげるから…」
「はい…宜しくお願いします///」

交わった私達の気持ちは固く結ばれている。どんな事があっても、この気持ちが揺らぐ事は無いよね、梓♪
今、2人で歩いているまっすぐな道…この先に、私達の幸せな未来が繋がっていると良いなぁ。

END

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最終更新:2010年08月30日 19:21