選んだ理由
「いらっしゃいませー」
「わー、
ゆっくりがいっぱ~い。どれにしようかな」
目の前にある扉が開く音とともに、自分の後ろのほうから幾度とも聞いた人間の声が店内に響く。
それはれいむたちの、開戦の合図だ。
もうれいむが何日も閉じ込められているこの小さな箱から脱出するための、戦いの始まりだ。
「わぁ、ゆっくりがいっぱい!どれにしようかな、どれにしようかな」
「ゆっくりしていってね!!!れいむとゆっくりといっしょにゆっくりしていってね!!!」
「まりさもゆっくりしたいよ!!!おねえさんといっしょにゆっくりしたい!!!」
「なかよくいっしょにゆっくりしようね!!!」
「うふふ、みんなかわいいなぁ。どの子にしようか迷っちゃう」
ゆっくりたちは、自分たちをこんなところに閉じ込めた人間への恨みをすべて捨てているように少女に猫なで声で話しかけていた。
しかし、そのゆっくりたちは人間への恨みを捨てたわけではない。それどころではないだけだ。
このままこんなところで死んでなるものか。どんな手段を使おうとも、生き残らなければならないのだ。
だから今することは、恥も外聞もなく、ただただ乞食のように目の前の少女に懇願するのみ。
「まりさかわいいよ!だからいっしょにゆっくりしようね!!」
「ふ、ふん!わたしのかわいさにみほれたのね!!!しかたないからいっしょにゆっくりしてあげないこともないわよ!」
「おねえさんもかわいいよ!れいむうらやましいな!」
わざとらしく作られたその笑みは、いやらしいことこの上なかったが、心が純粋な少女はそれに気づかない。
ケージの前で不自然なまでに飛び跳ねるゆっくりを見て、無邪気に笑うだけである。
れいむは、彼女はあたりだと思った。あのお姉さんにつれてもらえたら、とてもゆっくりできそうだ。
「そのこはゆっくりできないこだぜ!!!まりさといっしょにゆっくりしていってね!!!」
「え、そうなの?見た感じほかの子と変わらないように見えるんだけど……」
これだけ集まればバカも出る。れいむは笑顔はそのままに、ほかのゆっくりを貶めて自分の評価を高めようとしたゆっくりまりさを内心で嘲った。
まりさにいちゃもんをつけられたゆっくりは比較的優秀なゆっくりで、以前店長に褒められたゆっくりだった。
こいつさえなんとかしてしまえば、とてもゆっくりしている自分が助けられるはず。
まりさの頭の中には、そんな考えが渦巻いているに違いない。
馬鹿やつだ、とれいむは小さな声で呟いた。
「そ、そんなことないよ!!あのまりさはうそつきだよ!!れいむはとてもゆっくりしてるこだよ!!」
「うーん、そうなるとあのまりさが嘘をついてるの?」
「そんなことないんだぜ!!まりさはしんじてほしいんだぜ!!」
「おねえさん、あのまりさはいっつもうそをつくわるいゆっくりだよ!!
あんなうそしんじないで、とてもゆっくりできるれいむとゆっくりしていってね!!」
二匹は少女の前で言い争いを始める。飛び散った唾がゲージにこびりついて、ひどく汚らしい。
どちらの言い分が正しいのかわからなかったので、少女は止めることができなかった。
それを見かねて少女は、興味を失ったようにそこから離れていく。
「二匹ともかわいくないから、ほかのにし~よおっと」
「「どぼじでぞんなごどいうのぉぉぉぉぉぉぉ!!」」
そうらみろ、やっぱり二匹とも少女に見限られてしまった。
ほかのゆっくりの陰口をするものがかわいいものであるはずがない。
少し考えればわかることだろうに。
しかし、この事態はれいむにとっては好都合だ。一気に二人のライバルが勝手に脱落していったんだから。
「ゆ~!れいむはいいゆっくりだよ!だからいっしょにゆっくりしようね!!」
「まりさだってまけてないんだぜ!!ものすごくゆっくりしてるゆっくりなんだぜ!!」
ほかのゆっくりたちも好機と取ったのか、一斉に少女に自分の存在をアピールする。
れいむは対照的に、黙したままじっと少女のほうを見ていた。
少女は一匹だけ押し黙るゆっくりを見て興味がわいたのか、そのゆっくりれいむのほうに近寄って行った。
「なんかこの子、ほかのゆっくりとは雰囲気が違うなぁ~。なんか理知的っていうか、か~わいい!」
「そう?ほめられるとてれるね!!」
食いついた、とれいむは心の中でほくそ笑む。
だいたい人間の、しかも子供というのは、ほかの個体とは違うものを珍しがる。
この場合ならば、周りのゆっくりのようにがっつかず、静かに見守るのがいいのだ。
それに気付かなかったほかのバカゆっくりどもが人間の興味を勝ち得た自分のことをうらやましげに見ているが、
そんなことは知ったこっちゃない。
「うん!じゃあこの子にしよう!」
少女はそのまま、そのゆっくりれいむが入ったケージをもってレジに向かった。
後ろのほうで未練がましくぎゃあぎゃあとわめくゆっくりたちを見て、れいむは幸せを感じた。
お前ら愚鈍なゆっくりはそこでさっさと死んでしまえ。私は賢いからここから出てゆっくりするんだ。
れいむの顔に浮かぶ笑みが、より一層深く、醜くなっていく。
「あの、このこがいいんですけど」
「ゆっくりれいむですね。―――円になります。……はい、確かに受け取りました。ありがとうございましたー」
少女は金を財布から取り出し、店員に渡した。
手人はそれをレジの中にそれを入れ、慣れた手つきで処理をする。
そしてレシートを少女に渡し、少女は店員にお辞儀すると、満面の笑みで店から出て行った。
少女の手に連れられたゆっくりれいむは、少女以上にケージの中で歓喜していた。
「これでゆっくりできるよ!!おねえさんありがとね!!」
れいむはそれから外に止めてあった車に入れられ、どこかに持ってかれて行った。
れいむは自分の飼い主になる少女と、その親の会話を車の中で聞いていたが、どちらも優しそうで安心した。
せっかくあそこから出てこれたのに、また虐められたら元も子もない。
幸い自分は自分に甘そうな、愛護派と呼ばれる人間に飼われたのだろう。
これでようやくゆっくりできる。
これからの、幸せでゆっくりとした生活を想像して、れいむの顔は自然と緩んでいった。
「そういえば、なんであの子を選んだの?決め手とかあった?」
「うん!だってかわいかったんだもん!」
それにほら、自分をこんなにもかわいいと言ってくれる飼い主なのだ。
これかられいむに尽くしてくれるにきまっている。もう自分は安泰だ。
「ゆ~、あんしんしたらねむくなてきたよ……。すーやすーや♪」
緊張の糸が切れたれいむは、そのまま夢の中に入って行ってしまった。
その夢はとても暖かくて、輝いていた。これからの未来のことを暗示する夢なんだ、とれいむは夢の中でそう確信した。
「……あそこはゆっくりのペットショップじゃなくて、ゆっくりを生け作りしてた場所よ?
かわいいのじゃなくておいしそうなの持ってきなさいよ。あんたがゆっくり食べたいっていうから、新鮮なゆっくりを買ったのに」
「なにいってるの、おかあさん。
どうせ食べるならかわいいほうがいいにきまってるでしょ?それに、かわいいゆっくりはおいしいんだよ!」
人間たちが何かを言っている気がしたが、意識がぼんやりとしていてよく聞こえない。
でも、今はそんなことどうでもいいじゃないか。
次に目覚めた時から、自分のバラ色の生活がはじまるのだから。
それまでは、夢の中でゆっくりとしていよう。
「………確かに、ちょっとおいしそうね」
「でしょでしょ?わたしのつれてきたゆっくりがまずいはずないもん!」
ケージの中で幸せそうに眠るゆっくりれいむを見て、二人はよだれを垂らした。
その日の夕方、一組の親子が二人で仲良くゆっくりでおやつを作っていた。
そのゆっくりは生きたまま解体され、新鮮な悲鳴と、もちっとしたあんこを食卓に提供したという。
おしまい
by味覚障害の人
とある親子の台所風景~ゆっくり調理編~
「すーや、すーや♪」
「じゃあ寝てるうちに捌いちゃいましょうか」
「はーい!」
「むにゃ……れいむはねむいんだから、しずかにしてね……」
「まず、動けなくするために足から切り取ります。リンゴの皮むきのようにうすーく切れるように頑張りましょう」
「らじゃー!」
「ゆ……?おねえさんたち、なにじでるびょぉ!?いだっ、ぎ、ぎらないでぇぇぇぇぇぇ!!いだいぃぃぃぃぃぃぃ!!」
「そうそう上手上手。で、次は髪の毛ね。思いっきり抜いちゃいましょう。ぶじぶじ、っとね」
「ぶじぶじぃぃぃぃ」
「やべでね!!れいむのぎれいながみぬがないでね!!」
「あー、けっこうたのしい!えいっ、えーいっ!」
「ぎぃぃぃぃぃ!!れいむのかみがぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「適当に抜いたら、あとがきれいになるように頭の皮を薄く切り取ってはがします。これはお母さんがやるね?」
「い、いだいlきらないで、おねがいぃぃぃぃぃ!!」
「うーん、こんなものかしら。最後に、目と舌をくりぬいて完成。
目はまず、端から切っ先を目玉に沿うように入れていって、ある程度入った後に、一気にくりぬくの」
「……こ、こう?おかあさん」
「れいむのおめめがぁぁぁぁぁぁぁぁ!!やべで、やべでぇぇぇぇぇ!!!」
「その調子その調子。そこで、そう、いっきに……。やった、できたじゃない!」
「うわーい!できたできた、じょうずにできたー!」
「くらいよぉぉぉぉ!!いだいよぉぉぉぉぉ!!もういやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「じゃあ仕上げに舌を抜きましょうか」
「うん!」
「どうじでごんなごどになっでるのぉぉぉぉ!れいむはじあわぜになるのにぃぃぃぃ!こんなのへんだよぉぉぉぉ!!」
「舌を思いっきり引っ張って、閻魔さまの如く一気に切る!」
「切る!」
「ゆべっ!!……………!!……………!!!」
「はい、これで調理終わり~。あとは最初にあけた脚の穴からスプーンとかであんこをほじくりだすだけ。
あと、一週間くらいなら、あんこが減ったら口からオレンジジュース入れればあんこが増えるから。
じゃ、あんこをとって、それでおはぎでも作りましょうか」
「やった!私、お母さんの作るおはぎだ~いすき!」
少女いわく、今まで食べたお母さんのおはぎの中で、一番おいしかったらしい。
この家族は、今後もまたゆっくりの生簀に足を運ぶに違いない。
最終更新:2008年09月14日 09:02