それは
ゆっくりが今のように有名になる以前の話。
一匹のゆっくりまりさが森をのんびり飛び跳ねていました。
「ゆっくり~♪ゆっくりできるよたのしいよ~♪」
歌いながらとても楽しそうに跳ねていると向こう側から人間がやってきました。
まりさは人間が怖いものだと知っていたのでとっさに草むらに隠れます。
「あれぇ?おかしいなぁ・・・確かこの辺にゆっくりまりさがいたような・・・?」
けれど人間はよほど確信があるのかなかなかその場から離れようとしません。
その緊張感に耐えかねたまりさは一計を案じて、こんな言葉を口走りました。
「やあ、ぼくはぎゃくたいおにいさんだよ!」
それは以前森に迷い込んできた人間がまりさの両親を虐待する前に発した言葉です。
まりさはそれを人間流の挨拶と勘違いしていたのでこんなことを言ったのですが、かえって人間の機を引くだけ。
「ん、誰かいるのか?」
「だれもいないよ!ゆっくりかえってね!」
「ふ~ん・・・なんだ、やっぱりいるんじゃないか・・・」
何と言う失策。
ついゆっくりと口走ってしまったまりさは餡子脳をフル回転させて軌道修正を図ろうとします。
「ちがうよ!ゆっくりのふりをしてるとゆっくりがあつまってくるんだよ!」
「・・・本当かよ・・・・・・ゆっくりしていってね!」
「「「ゆっくりしていってね!」」」
疑いつつも、人間がまりさの適当な言葉を実践すると草むらから2匹のゆっくりが飛び出してきました。
勿論、かなり頭のいい個体であるまりさは返事こそすれど迂闊に飛び出すことは無いので、どちらもまりさ以外のゆっくりです。
「・・・すげぇ、マジで集まってきた」
「「ゆゆっ!おにーさんはゆっくりできるひと?」」
「あ、ああ・・・そうだよ。だからお兄さんの家でゆっくりしようね」
「「ゆっくりりかいしたよ!」」
こうして人間は2匹のゆっくりを連れて去っていきました。
そして翌日。
「ゆゆっ、これなあに?」
昨日のまりさは人間に見つからなさそうな場所を目指して逃げている最中に、人間が捨てていった水槽を見つけました。
何か良くわからないので取りあえず突っついてみたりしていますが、やっぱりこれがなんなのかさっぱり理解できません。
そうこうしていると何故か昨日の人間がまたやってきました。
「くっそー・・・虐待に夢中になってたらもう一匹を逃しちまった・・・」
そんなことを呟きながら人間は辺りを見回しています。
またしてもこの緊張感に耐えられなくなったまりさはあの言葉を口にしました。
「やあ、ぼくはぎゃくたいおにいさん!ゆっくりしていってね!」
「おお、アンタは昨日の人!おかげで昨日は良い虐待が出来ましたよ!」
と言いながらも浮かない顔をしている人間はまりさの返事を待つことも無く話を続ける。
「でも、2匹のうち1匹を逃してしまったんですよ・・・どうにかなりませんかねぇ?」
などとぼやく人間から少しでも距離をとろうと草の陰を移動するまりさ。
人間はまりさの気配に気づいていない。気づいていなかったのだが・・・
ガタッ!
不運にもまりさはさっきまで遊んでいた水槽にぶつかってしまいました。
「ん・・・・・・あっ!!?」
その音を聞いた人間は一目散にまりさのそばへ駆け寄ると・・・
傍に落ちていた水槽を抱え上げ、子どものようにはしゃぎ始めます。
「そうか!こんな簡単なことだったんだ!これなら虐待の光景も見せられるし、幽閉自体が虐待になる・・・」
そんなことを叫びながら、人間は全速力で森を出て行きました。
更に翌日。
「あー・・・参ったなぁ・・・」
まりさが今日は人間が落としていったマッチなるものと格闘していると、またしても人間がやってきました。
そしていつも通りまりさは草陰に隠れ、いつも通りの台詞を口にします。
「やあ、ぼくはぎゃくたいおにいさん!ゆっくりしていってね!」
「はぁ・・・ちょっと話を聞いてくれませんか?」
「な、なあに?ゆっくりはなしてね!」
そう言うと人間は手近な場所に腰を下ろして話し始めました。
昨日の水槽はなかなか重宝したもののコストパフォーマンスの問題が発生したことを。
更には彼が今までに行ってきた
ゆっくり虐待の数々を。
他にもゆっくりがいかに目障りな存在なのかなどを懇々と説き続けます。
その言葉を聞いているうちにまりさは怒りが頂点に達し、近くにあったマッチを人間に投げつけました。
「あだっ・・・こ、これはっ!?」
その人間はマッチを見た瞬簡に目を見開き、またしても森から出て行ってしまいました。
それから人間とまりさの奇妙な関係は1ヶ月近く続き、その関係が終るころにはまりさのいた森のゆっくりは全滅してしまいました。
最終更新:2008年10月15日 23:10