ある国同士では、長い間戦争が行われていた。後先考えずに弾薬を使った結果、どちらの物資も底を尽きかけていた。
A国の湯栗虐太郎参謀は、必死になって作戦を考えていた。
「…あと少し…あと少しでもいいから物資があれば勝てるのに…ダメだ…!」
どちらの物資も底を尽きかけている。戦意ももはや喪失気味だ。どちらの国も、あと一押しすれば倒れてしまう。しかしその一押しができないのだ。
「くそっ…!」
他の国からの支援は期待できない。湯栗参謀は、悔しさのあまり枕代わりにしていた
ゆっくりのぬいぐるみ(妻から「ストレス解消に」として贈られたプレゼントである)を殴り飛ばしていた。
「っがぁ!このクソ饅頭がぁ!お前ら相手に戦争させろ!殲滅してやるからよぉ!」
「参謀!」
「何事だ」
加口丈。研究員として大尉の位置まで上り詰めた、若き天才肌のバイオテクノロジー学者である。
「報告いたします。ゆっくりの餡の解析が終わりました。結果、ゆっくり爆弾が理論的に可能だということが明らかになりました。
ゆっくり爆弾は安価で作れます。資金難の問題はこれで解決したと言っても過言ではありません」
「来た!武器供給来た!メイン武器来た!これで勝つる!」
湯栗参謀は大喜びで加口の肩を掴んで前後に揺らす。
「しかし問題があります。飛行機から投下する場合、投下時の興奮で爆発する可能性があるのです。大砲発射は言わずもがな。手榴弾にしようにも、ゆっくり自身が無駄に音を立てるのでこれでは役に立ちません」
「なぁに…問題はない。ゆっくりは自分で動くことができる。ゆっくり爆弾を陽動させ、敵軍に突っ込ませればいい。敵兵もゆっくりごときに貴重な弾薬を使おうとは考えまいさ」
湯栗参謀はそう言いながら、殴っていたゆっくりのぬいぐるみを放り投げる。
実際、どちらの国もゆっくりのような脆弱な野生生物に貴重な弾薬を使おうとはまったく考えていない。湯栗参謀はそういう意味では非常に優秀な洞察力を持っていた。
しかし窮地に立たされた将というのは、得てして奇策に走りやすい。
「我々にはゆっくり調教のスペシャリスト、鬼意がいる。奴にやらせよう」
「はっ!」
鬼意山、という名の伍長がいる。彼は
ゆっくり虐待のスペシャリストであり、この地方に多く住むゆっくり種を虐待することでストレス解消を図っていた。
鬼意という名前でありながら万人に優しく、戦場で傷ついて死に掛けている鳥を連れて帰って手当てをしたという逸話も残るほど温かみのある男である。
捕虜や部下、衛生兵、果ては上司にまでゆっくり虐待によるストレス解消を教え、その結果兵士たちの戦意喪失率は大幅に減った。
しかし鬼意は、ゆっくりを動物どころか生ゴミとしてすら扱わなかった。尊厳など与えず、ただ虐めて虐めて虐め殺す。それだけである。
そんな彼が受けた任務は次の通りだ。
「ゆっくり爆弾が完成した。ゆっくりを自主的に敵陣に向かわせるように調教しろ」
鬼意は気合を入れて、このクソ饅頭どもを調教した。死ぬ寸前までいたぶり、人工オレンジジュース(バイオテクノロジー研究班が作り上げた甘味料。生ゴミから安価で生産できるが、ゆっくりの治療程度にしか使えない)をぶっかける。その繰り返しだ。
歴戦の虐待兵士である彼は、総勢1000匹ものゆっくりを、わずか1日半で「逃げ出したい」という衝動に駆り立てさせた。
そして早朝、リーダー格のまりさが目を覚ましたことを確認すると、鬼意は気づかない振りをして、わざとらしく言った。
「ああ、この先の茶色の陣地にはとっても美味しいご飯や、綺麗なお花が咲いており、美しいゆっくりたちがいる『理想郷』があるらしい…
俺はこのクソゆっくりどもがそこに行ったら、追いかけることはできないだろうなぁ…」
「ゆゆっ!?」
リーダー格まりさは驚く。他の起きていたゆっくりも、ひそひそ声(笑)で「ゆっくりぷれいすがちゃいろいばしょにあるよ!」「ばかなじじいだね!れいむたちはゆっくりにげるよ!」などと言って話し始める。
リーダーまりさは考えた。
「(ゆゆっ!こんなゆっくりできないじじいからにげて『りそうきょう』にいって、にんげんをやっつけてそこをゆっくりぷれいすにするんだぜ!ばかなじじいだぜ!
みんなをあのじんちにつれていって、まりさはそこのおうさまになるんだぜ!ゆっへっへ!)」
鬼意はにんまりと下品な笑顔を浮かべる饅頭どもを見て、作戦の成功を確信した。
「参謀。調教が終わりました」
「ご苦労。加口、ゆっくり爆弾への加工は?」
「この餌を食わせるだけです。鬼意さん、任せましたよ」
「餌を与える際に注意するべきことは?」
「その餌には火薬が含まれております。ぞんざいに扱うとすべてふいになりますので…まぁ爆発はネズミ花火程度ですがね。
餌を食べさせてから30分ほどで、ゆっくりは『ゆっくり爆弾』になります。餡子がすべて、衝撃に反応する爆薬になるのです。
その威力は手榴弾の2倍程度。ゆっくりが大人しい生物なら投擲武器として使えたのですが…」
「なるほど、あのクズ饅頭が騒ぐからまるで使い物にならないと」
「まぁ野生生物の大移動と見せかければ何とかなるだろう。餌を与えてたら即座に報告しろ。その30分後に出撃させる」
鬼意はゆっくりたちにひとつずつ、『あまあま』と偽った苦い粉をくれてやる。ゆっくりは辛味こそ猛毒になるが、適度に苦いものは「ゆっくりできない」だけで毒にはならないのだ。お茶のほのかな苦味が饅頭の餡子の甘味とよく合うのと同じである。
「ゆべぇぇぇ!ゆっぐりでぎないよおおおお!!!」
「うげぇぇ!!」
「あばあばじゃないよおおおお!!!」
「おがあじゃああああんん!!!にがいいいいい!!!」
阿鼻叫喚を見つめながら、鬼意は立ち去った。
そして30分後。鬼意はゆっくり監禁室にやってきて、わざと陣地の方向への扉と窓を開放し、陣地を見せ付けるようにしてからこう言った。
「ああ、この先の茶色の陣地にはとっても美味しいご飯や、綺麗なお花が咲いており、美しいゆっくりたちがいる『理想郷』があるらしい…
俺はこのクソゆっくりどもがそこに行ったら、追いかけることはできないだろうなぁ…
うわぁ!すべってころんじゃった!足を折っちゃったみたいだ!」
そして鬼意は、誰が見ても分かるような演技ですっ転ぶ。それを見るや否やゆっくりたちは、一目散に茶色い敵陣へ向かって跳ね始めた。
「ゆっくり逃げるんだぜぇー!」
「ゆーっ!」
総勢千匹のゆっくりは、鬼意に見向きもせずに陣地へと向かっていった。
「さて、ひとまずこの作戦は成功した。参謀に報告せねば…その後は野生ゆっくりの捕獲と交流虐待パーティだ」
鬼意はそう言いながら、敵陣に向かってぼよんぼよんと跳ねるゆっくりを見つめた。
敵は弾薬を使わない。何らかの殺傷は絶対に与えるはずだ。鬼意も、湯栗も、加口も、それ以外のA国の関係者も皆そう思っていた。
しかし彼らは知らなかった。否、甘く見すぎていた。
どれだけ調教しても、ゆっくりは所詮ゆっくりでしかないということを。
ゆっくりは、人間どころか、犬猫や昆虫ですら想像を絶するほど愚かしいナマモノであるということを。
変わってこちらはB国の最前線。4人の兵士がお茶を飲みながら、偵察任務に当たっている。
物資が末期的に乏しくなった今、無闇に戦闘を仕掛けることはない。ゆえにお茶を飲んで安らぎながら偵察をしていても、動きがあればすぐにわかるのだ。
「…ん?せ、先輩!生首が、生首がこっちに向かって!」
「あんだと!?」
兵の一人が焦燥を見せる。もう一人が双眼鏡を奪って敵陣を見ると、確かに生首らしいものが猛烈な勢い(時速5キロくらい)でこちらに突撃してきていた。どれもこれも生にしがみついた醜い顔をしている。
「ああ、ありゃゆっくりだよ」
「ゆっくり!?」
「そういう名前の動物さね」
朴訥とした顔の兵士が、茶をずずっと啜ってから応じる。
「ゆっくりしていってね!!!って言うからそんな名がついたんだ。オラの村じゃあ、ゆっくりは畑荒らすわ家荒らすわでな。
しかも頭は悪いし生意気だし、人間様のことをからかってくるんだべ」
「弱い。脆い。遅い。三拍子揃った史上最低最悪な生物だ。よく増える、よく食べる、よく荒らす…人間にとって最大の害獣だ。
いいかげんな生物だからな、ずっと東の方の町なんかだとこいつらを愛玩動物としてかわいがったりしているらしい。
なんでもこのわけのわからなさがかわいらしいんだとか…やっぱ奴らは違うねェ、俺ら貧乏人には理解できないよ」
嫌味っぽい男がそのあとを受けて言う。
「オラの村じゃあ、このゆっくりをな。じっくり煮るんだ。すると甘い汁がたっぷりでてな、これがほんにうまいんだ!」
「俺の村じゃあ、妊娠中のこいつらを捕まえて、中の子供をひりださせて戦わせるのが流行ってたな…あっちの捕虜は、噂なんだがゆっくり虐待でA国の連中と交流しているらしいぞ」
「そ、そうですか…」
新兵らしき最初の偵察兵は、3人の平然とした表情に驚いていた。生首を見ても個々まで平然とできるとは。
「だがこのまま茶を飲んでいるわけにはいかんな」
「そうだか?ゆっくりの大移動なんてよくある話だべさ。あいつら馬鹿だから飯を後先考えずに食い荒らしちまう」
「あのな。ここはつい最近まで、鉄の雨が降っていたんだぞ?いたるところにゆっくりのぼろぼろになった帽子があるだろう。
そんなところを忌避せぬほど、ゆっくりも愚かじゃないさ。それに高低差で言えばこちらの方が少し高い。
じゃあ何故こちらに移動してきているか?あんなに必死な表情で、何故ゆっくりにしては速いスピードで動いているか?」
「向こう側で何かされたんだろうね」
「その通り。奴らの見え透いた作戦だろう。大方ゆっくりに毒薬でも仕込んであるんだろう。末期の上層部はこういう頓珍漢作戦をよく考えるものだ」
男はそう言いながら大きくあくびをする。人が歩くような速度でこちらに向かってきている。奴らがここまで到達するのに、あと軽く1時間はかかるだろう。
「おいイヤミ、お前のラジコンを使うぞ」
「合点承知」
「イナカとビビリは穴を掘れ。俺は退却準備をする。ここは捨てる」
「え!?この陣地捨てちゃうんですか!?」
「多少の犠牲は仕方がないさ」
男はそう言いながら、ティーセットを片付け始めた。
十分に掘った穴の中に、ビビリとイヤミがよく食べているチョコレートを3枚ほど入れる。貴重な食料だが、これが作戦に重要になる。
そして男は、そこにゆっくりの形をしたラジコンを置く。ゆっくり釣りというエンターテイメントをする際に使うものだ。
そして男たちはそそくさと退散し、遠くに行って様子を見る。
「ゆっ、ゆっ…もうすぐだよ!もうすぐまりさのゆっくりぷれいすにつくよぉ!」
リーダーまりさは息も絶え絶えに言った。もう少しだ。もう少しで理想郷にたどりつく。
「ユックリシテイッテネ!」
すると、隣から聞きなれない声が聞こえてきた。
「ゆゆっ、ゆっくりしていってね!!!ゆゆーっ!?」
まりさは驚く。こんな艶やかな顔をしたゆっくりは見たことがない。
「ユックリシテイッテネ!ココニオカシガタクサンアルヨ!アマイニオイモスルヨ!」
そのゆっくりは少し変てこな声を出す。確かにあの美しいゆっくりの近くからは、甘い匂いがする。
「ここがあのじじいのいっていた『りそうきょう』だね!まりさがいちばんのりだよ!」
まりさはそう言いながらぴょんぴょんと跳ね、
「ゆっくりして…ゆーっ!!!」
穴へと落ちていった。
「まりさがはいったよ!ここがきっとゆっくりぷれいすだよ!」
「ユックリシテイッテネ!ココニオカシガタクサンアルヨ!アマイニオイモスルヨ!」
「ゆゆゆーっ!と、とってもゆっくりしたゆっくりだね!れいむはれいむっていうんだよ!いっしょにすりすり…」
「オカシタベナイノ?」
「おかし!れいむたべるよー!」
「ま、まりさもたべるんだぜ!」
穴へ次々とダイブしていくゆっくり。そして穴の中で何度も繰り返される爆発。
そのたびに餡子の甘い匂いがたちこめ、ゆっくりはその匂いにつられて穴へと落ちていく。
「…アホですね」
「予想以上にアホだな」
「この世で一番のバカだべ」
「ありえんな、こりゃ。上に連絡してくるわ」
4人の偵察兵はその様子を見ながら、笑いを通り越して呆れた。まさかここまでバカな動物だとは思わなかったのだろう。
食欲に任せて、後先を考えずにみんながみんな同じ行動をする。そして爆発。命の無駄遣いとはまさにこのことだ。
たった3枚のチョコレートと、ちょっとした舞台装置。たったこれだけで、何百というゆっくりが死んでいく。愚かしい。実に愚かしい。
「ま、毒ガスじゃなかっただけよかったと思うか…」
男はそう言って、双眼鏡をビビリから奪った。
「ホントアホだな」
「そうですねぇ…俺もこの戦争が終わったら、ゆっくりってのに接してみようと思います」
一方、A国。
「あんのバカどもがぁぁぁぁぁ!」
鬼意は憤怒の表情を見せていた。ゆっくりが穴に飛び込んで自殺していくのである。
レミングだってこんなことはしない。鬼意は手に持っていた赤まりさを床に叩きつけた。
「ゆびゅっ」
ただの餡片に化けた赤まりさを軍靴で散々踏みつけたあと、鬼意は叫んだ。
「ヒャッハァ!敗北主義者どもを虐待だァァァァァァ!」
このままでは確実に1000匹全員が自殺する。それだけは避けなければならない。さらに鬼意の虐待精神が、「奴らを殺せ」ととどろき叫んでいる。
鬼意は人間をはるかに凌駕する速度で走り始めた。しかし…
「ゆびぇぇぇん!おねーじゃああああんん!!!れいむをおいでいがないでよおおおお!!!」
その途中に、石を踏んづけて底面から餡子が漏れ出し、死に掛けているゆっくり爆弾に会ってしまった。
「ゆっくりでぎないよおおおおお!!!」
「邪魔だどけぇぇぇぇ!」
「ゆべっ(カチッ)」
鬼意は勢い余ってれいむを蹴り殺す。しかし「カチッ」という音を聞いた瞬間、はっとした。
そうだ。こいつら…手榴弾化しているじゃん。
そう思った瞬間、子れいむは爆発した。
鬼意の肉片は四散し、魂はこの世から消えた。
戦争とは、得てしてむなしいものである。
その後、戦争は終結した。兵士たちは喜び、ゆっくりを手土産に交流を開始。
ゆっくり虐待により、国境を越えた深い友情を育むことになった。
奇策の犠牲となった鬼意は、最初こそ世界一のマヌケとして扱われていたが、その後大量の虐待ノートを残していたことが判明。両国から崇められることになる。
彼の一見乱暴に見えて繊細な虐待術は「鬼意山流虐待術」として広まり、ゆっくりを生かさず殺さずというそのスタンスは国の垣根を越え、C国、D国と広まることになる。
かつての4人組も、いまや虐待にしのぎを削るライバルだ。
「ほらほら、見てくんろ。オラのまりさはぼうしが100個あるんだべ。全部偽物だけど」
「どれがほんもののおぼうしさんなのおおおおおおおお!!!」
「目玉をえぐって、自分の子供と饅頭をランダムに食わせるゲームをしているんだ。なかなか面白いぜ」
「おきゃーしゃんやめちぇにぇ…ゆびゃっ!ゆべぇ…」
「あがじゃんがああああああ!!!」
「底面を半分焼いて…ほら、びっこゆっくりだ。虐待しちゃうぞー!」
「れいむはゆっくりにげるよ!…ゆゆっ!?どぼじでまっずぐどべないどおおおおお!!!」
「ほらほら、見てください!ゆっくりマトリョーシカです!こうやって殴ると…」
「ゆびゃあ!」
「中の子供にも振動が伝わって、母れいむ、子れいむ、赤れいむって感じで口の中のれいむが見えるって仕組みです!」
「おおー!すごいぞビビリ!」
そして鬼意の魂は、地獄に行った。
「じぶんでばくだんにさせたれいむをふんづけてしぬなんて、おにいさんばかなの!?しぬの!?しんでたね!!!ゲラゲラ…ぐばべびゅ!!」
「血の池、針山、凍結地獄…虐待道具には事欠かねぇな」
鬼意は生前の優しさが功を奏したのか、鬼意にとっての天国へいけることになった。
ゆっくり地獄でゆっくりの監視をする。それが閻魔の言い渡した、彼に対する罰だったのだ。そこには虐待しがいのあるドスまりさやはくれいむ、アストロンれいむのようなレア個体がたっぷりいる。
閻魔は鬼意のスタンスを見て、これこそ最も理想的な人間だと判断したらしい。毎日自滅しては死んでいき、説教すらまともに聞かないゆっくりを地獄に落とすのも大変なのだろう。いわゆる一種の温情であり、閻魔なりのゆっくり虐待方法でもあった。
「わらわのこうけつなたましいにさわるでない…ゆびゃあああああああ!!!やべでええええええ!!!」
「アストロ…ぶぐぶぐ…ぢはいやだああああああ!!!ぢのいげはやだあああああ!!!」
「だずげでどずううううう!!!」
「ゆっ?たすけないよ!ゆっくりくるしんでね!おにいさん、ありがとう!どすにとってゆっくりできないゆっくりがくるしんでるよ!…ゆびゃあああああ!!!どずのぶりぢぃなおがおがああああ!!!」
「心が落ち着くなぁ…」
針山がゆ山に化けるのに、そう時間はかからなかった。
最終更新:2008年10月27日 01:44