れいむは朝早く目が覚めた。
今日が来るのを待ち切れず、興奮のあまり、目を覚ましてしまったのだ。
遠足前の子供のようである。
お腹がすいたので、もうこれも食べることも無くなるのだなと、感慨深げにドッグフードに口をつける。
「む〜しゃむ〜しゃ、しあわせ〜〜♪♪」
ここにきて、初めての「しあわせ〜〜」である。
どんなに美味しくても、虐待の後に食べたり、負い目を感じながら食べても、全然幸せになれなかった。
やっぱり「しあわせ〜〜」が出来ると、一日の気分がいい。
その後、れいむは嬉しさを堪え切れず、部屋の中を行ったり来たりしていた。
早くお兄さんが来ないかな? まだかなあ?
いつもなら男が来なければ良いのにと思うのに、解放されると分かった途端、現金なものである。
しかし、男は中々やってきてくれない。
無理はない。まだ早朝、夜が明けたばかりなのだから。
試しにまりさとありすに声をかけてみる。
しかし、二匹とも寝ているのか、ちっとも返事を返してくれなかった。
話し相手が居ないのは残念だが、無理やり起こすのは可哀そうだ。
それに、ゆっくりにとって、ゆっくりしすぎることは悪いことではない。むしろステータスだ。
そんなゆっくり出来てるまりさと、これから一生ゆっくり出来ると考えるだけで、体が熱くなってくる。
れいむは無意識のうちに壁に寄り添い、上下に体を擦りつける。
次第に興奮が高まってくるれいむ。
もしかしたら、今日にでもまりさといっしょにスッキリを……と、ここにきて、れいむは火照る体を無理やり押さえつけた。
気分が高まってしまい、うっかりと一匹スッキリをしてしまうところだった。
そんなことをしなくても、これからはいつでもまりさと一緒にスッキリをすることが出来る。
こんなところで一匹で寂しくしていることはない。
れいむは、高まる興奮を無理やり押さえつけるため、毛布に包まり目を閉じた。
一匹で起きているから、抑えきれないのだ。
男が来るまで、二度寝するに限る。
初めは興奮してなかなか寝付けないれいむだったが、元々昨夜は十分な睡眠が取れていなかったのだ。
れいむは、すぐに夢の中へと吸い込まれていった。
「おきろ、れいむ」
誰かのれいむを呼ぶ声によって、れいむは目を覚ました。
毛布からモゾモゾ出てきて、声の主を確認する。
それは、今まで虐待を繰り返し、今日ここから出してくれるといった男であった。
男は部屋を開けて、れいむの部屋に入っていた。
「ゆっ!! ゆっくりおはよう!! おにいさん!!」
「ゆっくりおはよう。呑気だな、敵である俺に挨拶をするなんざ……」
「ゆゆっ!! そうだったよ!! れいむ、ゆっくりまちがえたよ!! ゆっくりおはようしないでね!! おにいさん!!」
「はいはい、ゆっくりゆっくり」
男は、れいむを適当にあしらう。
「さてと、れいむ。今日は何の日か覚えているな?」
「ゆっ!! おぼえてるよ!! れいむたちが、おそとにでられるひだよ!!」
「そうだな。今日はお前をここから解放してやる日だ。ただし、出る前にやってもらうことがある」
「ゆゆっ!!」
れいむは焦った。
すんなり出してもらえると思っていたのだ。
もしかしたら、出るために条件でも出されるのだろうか?
それとも、出る前に虐待をさせるのだろうか?
しかし、そんなれいむの不安そうな表情にピンと来たのか、男は「安心しろ」と言葉をかける。
「今日お前を虐待する気はない。ただ、外に出る前にやってもらうことはあるがな」
「やってもらうこと?」
「ああ。まあ、それは後で教えよう。問い合えずこの箱の中に入れ?」
そう言って男は、いつも虐待部屋とこの部屋を渡るときに使っていた木箱を、れいむの前に置いてくる。
「ゆぅぅ……」
木箱を見せられて怖気づくれいむ。
虐待はしないと言っていたが、やはりこれを見せつけられると、不安が押し寄せてくる。
しかし、男に逆らいでもしたら、折角出られるチャンスを不意にしてしまうだろう。
れいむは仕方なく木箱の中に入った。
男は木箱の蓋を閉めると、「どっこらせ」と掛け声をかけて、れいむを持ち上げ運び出した。
そして、目的の部屋に連れて来ると、れいむを木箱から出してやった。
部屋を見渡し、青ざめるれいむ。
そこかしこに散らばている虐待道具。
あの悪夢のような動く絵を見せる箱。
そこは、もう二度と来たくないと思っていた虐待部屋であった。
「な、なんでここにくるのおおおぉぉぉぉ―――――――!!!! もうぎゃくだいはじないっでいっでだのにいいいぃぃぃぃ――――――――――!!!」
れいむは男に向かって叫ぶ。
男は、そんなれいむを宥めるように、淡々と説明を告げてくる。
「落ち着け、れいむ。さっきも言ったが、今日は虐待はしない。ここに連れてきたのは、まりさとありすに会わせるためだ」
「ゆゆっ!!」
そう言えば、まりさとありすにまだ会っていなかった。すっかりと失念していた。
「ゆっくりはやく、まりさとありすにあわせてね!!」
「今連れてくる。ここで待ってろ」
男はれいむを置いて、部屋を出ていった。
早くまりさに会いたい。早くありすの顔を見たい。
れいむは、落ち着かなかった。
数分後、男は両脇に何かを抱えて、部屋に戻ってきた。
何かと言うのは、男が抱えているのが、真っ黒な布を被せてあり、四角い形をしているので分からなかったのだ。
しかし、れいむにはピンときた。
形からして、男が持っているのは箱。その中に、まりさとありすが入っているに違いない。
箱が布を被っている理由は分からないが、れいむは気にしなかった。
男がれいむの目の前に、二つの箱を置く。
そして、れいむに目を向けた。
「れいむ。この中に、まりさとありす入っている」
「ゆっくりしっていたよ!!」
「今から会わせてやろう。お前が待ちに待った瞬間だ」
男はそう言って、両箱の布に手をかけた。
「この布を取れば、お前は二匹に会うことが出来る。心の準備はいいか?」
「ゆっ!! ゆっくりはやくあわせてね!!」
「準備はいいようだな。それじゃあ、2か月半ぶりにご対面だ。ごかいちょう――――――――――――!!!!」
男は勢いよく布を持ち上げた。
れいむは初めて会って以来、久しぶりに二匹の顔を見ることが出来た。
待ちに待った瞬間だった。
だったのだが……
「…………ゆっ!? ゆゆっ!? ゆ……ゆゆ………ゆぎゃあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――――――――――!!!!」
そこにいたのは、確かにまりさとありすだった。
しかし、透明な箱の中に入っていた二匹は、れいむの記憶にあった面影がほとんど残っていないほど凄惨なものだった。
これが本当に、あのまりさとありすなのか?
二匹の髪は、無理やりむしり取られたような跡がたくさんあり、所々禿げあがっていた。
まりさなど、毛より地肌の部分が多いくらいであった。
もっちりと張りのあった皮は見る影もなく、皺々でかさかさ。
余りに乾燥しすぎていて、所々ヒビ割れを起こしている。
両者とも片目が抉り取られており、その部分はポッカリと空洞が出来ていた。
歯も無理やり抜き取られたようなところが、たくさん見える。
足に当たる底辺は、焼かれてしまったのだろうか? 真っ黒になって、もう使い物になりそうもない。
もはやまりさとありすの面影など、殆ど残っていなかった。
美ゆっくりであったまりさも形無しである。
それでいて、れいむがすぐに二匹だと気づいた理由。
それは、帽子とカチューシャのおかげであった。
体は凄惨な状態でありながら、二匹の帽子とカチューシャは、れいむが初めて会った時の状態そのままであった。
ゆっくりは、飾りで相手を特定する。
一切無駄な皺のない帽子、光沢を放つカチューシャ。
それは、間違いなく二匹の付けていた物であった。
れいむは、二匹のあまりの状態に、アングリと口を開けたまま放心した。
その様子を見た男が、面白そうに声をかけてくる。
「どうだ、れいむ。久しぶりに会った感想は?」
「な、な、な、な、なんでえええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ―――――――――――――!!!!!」
「なんでって何がだ?」
「なんでまりざがごんなめにあっでるのおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ――――――――――――――――!!!!!」
「こんな目にと言われてもなあ……二か月半ずっと繰り返してきたことだし」
二か月半繰り返してきた?
あり得ない。あり得るわけがない!!
確かに虐待は受けてきた。しかし、三匹とも同じ虐待を受けてきたのだ。
それなのに、れいむは殆ど傷がなく、まりさとありすはこうもボロボロになっているのだ?
「どうやら、訳が分からないことだらけのようだな。ま、取り敢えず、まりさとありすを起こしてやろう」
男は透明な箱の蓋をあけて、まりさとありすを思いっきり拳を叩きつける。
辛そうな表情で寝ていた二匹は、それによっていきなり目を覚ます。
「ひぎいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ――――――――――――!!!!!」
「ゆぎゃああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああぁぁぁぁぁぁぁ―――――――――――――!!!!!」
断末魔の様な悲鳴を上げながら、無理やり覚醒させられる二匹。
しかし、男は起きたにもかかわらず、面白そうに二匹を殴り続けた。
「やめでえええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ――――――――――!!!!!」
「ごめんなざい!! ごめんなざい!! ごめんなざい!! ごめんなざい!! ごめんなざい!! ごめんなざい!! ごめんなざい!! ごめんなざい!!!!」
二匹の必死の懇願に、男はようやく暴力を働くのを止めてくれた。
そして、二匹に向かって、口を開く。
「お前たち、目の前を見てみろ。お前たちが会いたがっていたれいむが、すぐ目の前にいるぞ」
男はそう言って、れいむを指差した。
二匹はびっくりしたような表情で、男の指す方に目を向ける。
「遠慮なく語り合え。俺は一切手を出さん」
れいむは、変わりに変わってしまった二匹のことを見てるのが辛く、つい目を背けてしまいそうになった。
しかし、それでも何とか勇気を振り絞って、二匹から目を離さなかった。
例え、姿は変わってしまっても、まりさはれいむの婚約者である。
どんなに変わってしまっても、れいむはまりさを愛していた。
そして、ありすは親友である。
自分を恨むどころか逆に祝福して貰い、その後も親友でいてくれると誓ったありすである。
二匹がいなければ、れいむはここまで生きていられなかっただろう。
心が折れていただろう。
目を背けられす筈がなかった。
「まりざっ!! ありずっ!! じっがりじでええぇぇぇぇぇぇぇ―――――――――!!!!」
れいむは、心の底から呼びかけた。
しかし、れいむに帰ってきたのは、思いもよらない罵声であった。
「れいむ―――――――――!!!! きざまのぜいでえええぇぇぇぇぇ――――――――!!!! きざまのぜいでええぇぇぇぇぇぇ――――――――!!!!」
「じねええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ―――――――――――!!!!! れいむうううううううううぅぅぅぅぅ―――――――――――!!!!」
「ばりざざまが、ごんなめにあうのは、きざまのせいだああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ―――――――――――!!!!」
「どがいはのびぼうをがえぜえええええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇ――――――――――――――!!!!」
「ゆっ!! ま、まりさ!? ありす!?」
なぜ自分が罵声を受けるのか分からないれいむは、二匹のあまりの様子に困惑した。
自分はまりさの妻なのだ。なのに、なぜ罵倒される?
ありすは親友のはずだ。なのに、ありすもれいむを責めてくる。
しかも、れいむのせいとはどういう意味だ?
都会派の美貌を奪ったのは、れいむだというのか?
訳が分からなった。
「ま、まりさ!! ゆっくりちゃんとみてね!! れいむだよ!! まりさのおよめさんのれいむだよ!!
ありす!! ゆっくりれいむのこえをきいてね!! ありすのだいしんゆうのれいむだよ!!」
考えに考えた末、二匹は勘違いをしているという結論に至った。
れいむと出会ったのは、初日だけだ。
もしかしたら顔を忘れてしまったのかもしれない。
片目では、うまく見えないのかもしれない。
でも、れいむの声を聞けば、ゆっくり理解してくれる。何しろ、毎日のように壁越しに語り合ったのだから。
しかし、れいむの希望はまたしても打ち砕かれた。
「だれがおよめざんだああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ―――――――――!!!!!
きざまのようなきだないゆっぐりが、まりざざまのおよめざんなわげ、ないだろおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ――――――――――!!!!」
「どかいはのありずが、おまえのじんゆうなわげないでじょおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ――――――――――――――!!!!!
いながものはじねえええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ―――――――――――――――!!!!!
ずっきりざぜろおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ―――――――――――――――――!!!!!!」
れいむは耳を疑った。
一体二匹とも何を言っているのだ。
れいむはまりさのお嫁さんではないか!! れいむのプロポーズを受けてくれたではないか!!
ありすはれいむの親友でしょ!! 田舎者なんて、一度も言われたことないよ!! それに、スッキリさせろって、そんなレイパーみたいなこと言わないでよ!!
れいむの知っている二匹は、決してこんなことを言うゆっくりではなかった。
男に無理やり言わされているのだろうか?
いや、れいむがこの身に受ける呪詛にも似た言葉は、間違いなく真実であると語っている。
二匹は心の底から、れいむを憎んでいる。
となると、二匹はもしかしたら偽物……!!
「おにいさん!! このまりさとありすはにせものだね!! ゆっくりほんとうの、まりさとありすをかえしてね!!」
れいむは男に振り向き叫んだ。
こいつ等が偽物であると確信した理由。それは帽子である。
前述の通り、ゆっくりは飾りで個体識別を図る。
二匹はこれでもかというほどボロボロにされているのに、何故か飾りだけは新品同様である。
最初から不自然だと思ったが、偽物なら納得が出来る。
大方、男がボコボコにした偽物に、本当のまりさとありすの飾りを付けたのだろう。
だから、目の前にいるのは二匹だと感じても、その正体は偽物なのだ。
「なぜ、偽物だと思う?」
「かんたんだよ!! ぼうしだけきれいだよ!! きっとにせものに、まりさのぼうしとありすのかちゅーしゃをつけたんでしょ!!」
「ほう、そこに気付くか。やはり、お前は頭がいいな」
男は感心したような表情を見せる。
れいむは確信した。やはり、自分の考えは正しかったと。
「ゆっくりはやく、ほんとうのまりさたちをつれてきてね!!」
れいむを男を急かす。
こんな偽物に合わせていったい何を企んでいたのかは知らないが、もう種はお見通しだ。
しかし、男はれいむの言葉を聞かなかった。
未だにギャアギャアとれいむを罵倒している二匹の顔面に、思いっきりパンチを叩きこむ。
静かになった二匹を見て満足した男は、部屋の隅にある虐待道具置き場に近づいていく。
そして、ある道具を引っ張り出してきた。
「ゆうううぅぅぅ!!!!! きょうはぎゃくたいしないっていったでしょおおおおぉぉぉぉぉぉぉ―――――――――――!!!!」
「安心しろ。虐待の為に出したわけじゃない」
れいむを怯えさせた物。
それは、かつて幾度となくゆっくりの凄惨な虐待風景を見せつけた悪魔の箱、“てれびじょん”と“べーた”であった。
男はそれに一本のテープを挿入し、れいむに見ろと命令をしてくる。
拒むれいむだが、「虐待されたいのか?」という男の一言に、聞かざるを得なかった。
仕方なく、映像に目を向けるれいむ。
「ゆゆっ!! まりさ!!」
そこに映っているのは、虐待風景ではなかった。
しかも、れいむが愛した本当のまりさが映っている。
映像は男がまりさを抱えて知らない部屋に入ってくるところからスタートする。
まりさは男に抱えられたまま、泣き続けている。
見ている方が気の毒なほどの泣きっぷりだ。
しかし、次の瞬間、「まりさ、もういいぞ」と男が声をかけると、いきなりまりさは泣きやんだ。
『ゆゆっ!! まったく、なきつかれたんだぜ!!』
『みごとな演技だったぞ、まりさ』
『あたりまえなんだぜ!! まりさはめいじょゆうなんだぜ!! なきまねくらいかんたんなんだぜ!!』
『おお、怖い怖い』
『それにしても、あのれいむのかおったらなかったんだぜ!! かんぜんに、まりささまにほれていたんだぜ!! みのほどをしれなんだぜ!!
このまりささまが、あんなきたないゆっくりをあいてにするわけないんだぜ!! ばかなゆっくりはこれだからこまるんだぜ!!』
『まったくその通りだな。ははは!!』
『ゆっへっへっへっへっへ!!』
『取り敢えずありすがくるまで、菓子でも食ってろ』
『ゆっ!! わかったんだぜ!! むーしゃむーしゃ、しあわせ〜〜〜♪♪』
……自分はいったい何を見ているのだろう?
箱に映されているのは、見間違いようのないまりさその物であった。
美ゆっくりであるのは間違いない。その美しさは、紛れもなく本物だ。
しかし、れいむの知っているまりさとは、明らかに別物であった。
まりさはあんな嫌な目をしていない。
まりさは、決して「だぜ」なんて、不良言葉を使わない。
まりさは、あんな汚らしい笑い方をしない。
まりさなわけが……まりさなわけがない………
その後、映像に砂嵐が出た後、場面が切り替わった。
そして、男がありすを抱えて、部屋に入ってくるシーンが映される。
ありすもまりさ同様泣いていた。
しかし、男が言葉をかけると、これまたまりさ同様、ピタッと泣きやんでしまった。
『ゆう!! なきすぎて、かおがめちゃくちゃになってしまったわ!!』
『済まなかったな、ありす』
『まったくよ!! とかいはのありすに、こんなえんぎをさせておいて、やすくすむとはおもわないことね!!』
『へいへい、分かってるよ。報酬はしっかりと払ってやる』
『ちゃんと、そこのまりさのように、きれいにしてくれるんでしょうね!!』
『してやるとも。安心しろ』
『おい、じじい!! まりささまのほうしゅうも、わすれるんじゃないんだぜ!!』
『分かってる。お前は、美ゆっくり100匹だったな。しかし、そんなにゆっくりを集めてどうするんだ?』
『ゆっへっへ!! きれいでかわいいまりささまの、すっきりよういんにしてやるんだぜ!! えらばれたゆっくりも、こうえいなんだぜ!!』
『まりさばっかりずるいわ!! ありすにもゆっくりをいっぱいよこしなさい!!』
『はあ? お前の報酬は、美ゆっくりに整形することじゃなかったのか?』
『とかいはのありすに、あれだけのえんぎをさせておいて、それだけですむとおもわないことね!! それだけじゃ、だいじょゆうのありすにはすくなすぎるわ!!』
『お前もゆっくり100匹かよ。そんなに集めてどうする……って、聞くまでもなかったな。お前レイパーだもんな』
『そんなねもはもないことをいわないでちょうだい!!』
『いや、根も葉もあるだろ』
『とかいはのありすがあいしてあげてるのよ!! あいては、ゆっくりかんどうするにきまってるわ!!』
『正しくレイパーの言葉だな……』
『それにしても、あのへやにいたれいむ、いなかくさいったらなかったわ!!』
『ゆっへっへ!! あのれいむ、このまりささまに、ほれてたんだぜ!! まったくばかなれいむなんだぜ!!』
『だいたいいなかれいむのくせになまいきなのよ!! このとかいはのありすに、がっかりしたようなかおをしたのよ!! いなかもののれいむのくせに!!』
『ほんとうのこというなだぜ!! あんまりいってやったら、かわいそうなんだぜ!! ゆっひっひ!!』
『ゆっくりはやく、いなかもののれいむが、がっかりするところをみたいわ!! だまされてるともしらないで、どんなかおをするのかしら!!』
『おい、じじい!! まりささまにも、れいむのはずかしいすがたをみせるんだぜ!! おもいっきりばかにしてやるんだぜ!!』
『ああ、見せてやるとも。お前らには、重要な役割が残っているんだからな』
またもや映し出されるのは、あり得ない映像。
そこの出てきたのは、れいむの親友であるはずのありすであった。
しかし、ありすでは無かった。
ありすは優しく、他者を思いやるゆっくりであった。
なのに画面の中のありすには、そんな姿は微塵も見られなかった。
田舎者と何度も口にしたことも引っ掛かる。ありすは、田舎者などと滅多に他者を馬鹿にしたりはしなかった。
何よりもおかしいのは、レイパーの件。
ありすはレイパーを憎んでいるはずだ。
なのに、そのありすが率先してレイパーの発言をしているとは、いったいどういうことなのだろう?
まりさの顔をした誰かと、ありすの顔をした誰かが、画面の中でれいむを馬鹿にしている。
れいむにはそう感じられた。
次に、画面の中の男の顔が大きくなった。アップ撮影に切り替わったらしい。
男は画面の中で『コホン』と一度咳払いをすると、カメラ目線で、淡々と事の次第を説明してきた。
『ああ、れいむに告げる。あ、いや、その前に、まだ家の出来ていないれいむにと言わないとな。自分のことだと分からないと困るしな。
家の出来ていないれいむの為に、この映像を用意する。れいむ、初めに言っておこう。この映像は、すべて真実である。
俺の虐待が成功したなら、お前はきっとこの映像が信じられないだろう。しかし、くどいようだが、映像は真実である。
これを撮ったのは、森からお前を連れてきたその日である。おそらくその時のことは、よく覚えているだろう。
お前の前に、まりさとありすが違う部屋に連れていかれたはずだ。最初の映像は、連れていかれた後の光景である。
実はまりさもありすも、その日は虐待されなかったのだ。虐待されたのは、おまえだけだ。と言っても、お前を虐待するのは今からだがな。その証拠がこれである』
そう言って、男が映像の中から消えると、突然、画面が揺らぎだした。
男がカメラを抱えて、まりさとありすにレンズを向ける。
そこには、口元にお菓子のカスをベタベタ付けた二匹が、ふてぶてしい表情で写っていた。
『お前たち、れいむに一言何かコメントしろ』
『ゆっへっへ!! ばかなれいむにおしえてやるぜ!! さっきのはぜんぶえんぎなんだぜ!! ばかなれいむは、ゆっくりだまされたんだぜ!!
それから、れいむはきもちわるいんだぜ!! まりささまがかわいいからって、もうそうはたいがいにするんだぜ!!
それじゃあ、れいむ!! じじいにいじめられて、ゆっくりしぬんだぜ!!』
『れいむ!! あなたってほんとうにいなかものね!! からだには、つちがいっぱいついているし、とってもくさかったわ!!
とかいはのありすとは、ぜんぜんつりあわないわね!! あなたなんて、すっきりさせてあげるのもごめんよ!! ゆっくりしんでちょうだいね!!」
『と、こう言う訳だ』
再び男が画面に映る。
『初日、お前が虐待されている間、こいつらは見ての通り、とてもゆっくりしていたのだよ。残念だったねえ、れいむ。
でも、がっかりする必要はないよ。何しろ、君にとっては、三匹全員が虐待されているのと変わりないのだから。
君はこれから、俺によって三匹全員が虐待されたと思い込むはずなのだから。あ、でも、この映像を見ている時は、それを知っちゃうんだよね。ご愁傷様、れいむ!!』
男は、そこで映像を止めた。
そして、れいむに振り向き、一言呟いた。
「という訳だ、れいむ」
「……」
れいむには、訳が分からなかった。
一体、何がどういうことなのだ?
れいむの婚約者のまりさが、あのゲスまりさ?
れいむの親友のありすが、あのレイパーありす?
それじゃあ、そこでボロボロにされている二匹は、本物のまりさとありすってこと?
れいむはずっと騙されていたってこと? 最初から騙されていたってこと?
でも、それじゃあ毎日れいむとお喋りしていたのは、いったい誰?
それに、なんでまりさとありすが、ボロボロにされているの?
何もかもが、れいむの理解の範疇を超えていた。
「ふむ、だいぶ状況が分かってきたようだな。いや、逆か。情報が整理しきれなくて、混乱しているか。なら、そろそろ種をお見せしよう」
男はれいむの前に行くと、れいむに手を伸ばし、自分の脇に抱え込んだ。
「ゆ、ゆっくりやめてね!! れいむをゆっくりおろしてね!!」
「安心しろ、今日は苛めないって言ったろ。お前にすべて教えてやるよ。すべてな」
男はそう言って、部屋の扉を出た。
最終更新:2008年12月11日 00:23